民事再生手続における包括的禁止命令
著者 山本 研
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 26
ページ 117‑132
発行年 2010‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2230
民事再生手続における包括的禁止命令
山 本 研 1.はじめに
1)民事再生手続における包括的禁止命令導入の意義
・倒産手続における保全処分の必要性
・民事再生手続における包括的禁止命令の導入(民再27条〜29条)
・倒産法改正作業と民事再生法における保全処分制度の整備
2)本研究の対象と目的
→ 立法段階における法制審議会における議論を精査した上で、包括的禁止命令の制度につ き、解釈論的、立法論的に検討することを目的
2.包括的禁止命令導入の経緯−法制審議会における議論を中心として−
1)民事再生法の立法過程と保全処分に関する議論
① 民事再生法の立法過程1)
平成8年10月 法制審議会倒産法部会設置
平成9年12月 「倒産法制に関する改正検討事項」とりまとめ →各界への意見照会
平成10年7月 意見照会の結果を踏まえて、部会における実質審議再開
平成10年9月 中小企業等を対象とする再建型手続について、倒産法制全体の見直しか ら切り離して、前倒しで集中的に審議することが決定
平成11年7月 倒産法部会全体会議において、「民事再生手続に関する要綱案」決定 平成11年8月 法制審議会総会において要綱案採択→答申
平成11年12月14日 民事再生法成立
② 包括的禁止命令の導入に関する議論状況 〈「倒産法制に関する検討事項」2)〉
・ 第1部 第1章 第1−5:破産手続との関係で、個別的権利行使の禁止につき、⎧
包括的保全処分型と自動停止型を併記
・ 第1部 第2章 第1−3⑵:新再建型手続との関係で、個別的権利行使の禁止に つき、包括的保全処分型と自動停止型を併記
・ 第2部 第1−2:個人の倒産手続との関係で、個別的権利行使の禁止につき、包 括的保全処分型と自動停止型を併記
〈法制審議会における包括的禁止命令に関する審議状況3)〉 ・平成10年9月18日―第一分科会第2回会議
・平成10年9月25日―第二分科会第2回会議 ・平成10年10月30日―倒産法部会第6回会議 ・平成10年11月20日―第二分科会第5回会議 ・平成11年3月19日―倒産法部会第7回会議
―*―*―〈この時点まで、包括的保全処分型v.s.自動停止型を中心に議論〉―*―*―
・平成11年4月16日 ―倒産法部会第8回会議
→包括的保全処分型の方向性明示 ・平成11年4月23日―倒産法部会第9回会議
・平成11年6月18日―倒産法部会第12回会議
2)「倒産法制に関する改正検討事項」と各界の意見
① 破産手続との関係
〈検討事項〉
第1部 法人に対する倒産処理手続 第1章 清算型の倒産処理手続 第1 破産手続
5 債権者の個別的権利行使の禁止
⑵ 例えば、個別的権利行使の禁止の効力が生ずる時期について、次のような考え方が あるがどうか
ア 債権者の個別的権利行使を一般的に禁止する旨の保全処分を認めるものとした上 で、その処分又は破産宣告がされることにより、個別的権利行使の禁止の効力が 生ずるものとするとの考え方
イ 債権者自身の申立てにより、当然に、債権者の個別的権利行使を禁止する効力が 生ずるものとする(いわゆる自動停止)との考え方を採り、申立ての濫用防止の ための方策(申立ての取下げ制限、自動停止の解除の申立ての制度等)を設ける ものとするとの考え方
↓
⎩⎩⎧
〈各界意見の概要〉4)
個別的権利行使の禁止の効力が生ずる時期については、アの包括的保全処分の導入の考え方 に賛成する意見とイの自動停止制度の導入の考え方に賛成する意見とに大きく二分
※法人破産についてはアに賛成、個人についてはイに賛成との意見も相当数存在
〈日弁連意見書〉
個人については、アに反対、イに賛成が多数意見であるが、法人についてはアに賛成、イに 反対の意見も半数ほどあり、意見が分かれた
〈第一東京弁護士会意見書〉
アの包括的保全処分型に賛成
② 新再建型手続(後の民事再生手続)との関係
〈検討事項〉
第1部 法人に対する倒産処理手続 第2章 再建型の倒産処理手続 第1 新再建型手続
3 新再建型手続の概要 ⑵ 手続の開始等
カ 手続の開始決定の効果等
c)弁済等の禁止の効力が生ずる時期
bの効力が生ずる時期について、前記第1章の第1の5⑵のア又はイと同様の 考え方を採るものとするとの考え方
↓
〈各界意見の概要〉5)
弁済禁止の効力が生ずる時期については、破産手続とは異なり、ア(包括的保全処分による との考え方)に賛成する意見が多数であったが、イ(自動停止を導入するとの考え方)に賛成 する意見も複数あり
〈日弁連意見書〉
自動停止には積極的には賛成しない。
保全処分又は開始決定がなされることにより弁済等の禁止の効力が生ずるものとするとの考 え方に賛成
〈第一東京弁護士会意見書〉
ア(保全処分形式)に賛成
③ 個人債務者更生手続との関係
〈検討事項〉
第2部 個人(自然人)に対する倒産処理手続 第1 個人を対象とする新しい倒産処理手続
2 個人債務者更生手続(仮称)を設ける場合の手続の概要 ⑷ 手続の効力
ア 手続開始前の原因に基づく債権に関して、債務者はこの手続によらなければ弁済 をすることができないことのほか、債権者の権利行使との関係で
c )a(強制執行、仮差押え及び仮処分を禁止する効力)のほか、債務の履行を請 求する行為を禁止する効力が生ずるものとするとの考え方
イ 手続の効力が発生する時期について、
a 当該効力を一般的に生じさせる旨の保全処分を認めるものとした上で、その保 全処分又は手続開始決定がされることにより、ア(手続の効力)が生ずるもの とするとの考え方
b 申立てにより、当然に、アの効力が生ずるものとする(いわゆる自動停止)と の考え方を採った上で、申立ての濫用防止のための方策(申立ての取下げの制 限、自動停止の解除の申立ての制度等)を設けるものとするとの考え方
↓
〈各界意見の概要〉6)
aに賛成する意見とbに賛成する意見とに大きく二分
〈日弁連意見書〉
b(自動停止型)に賛成
〈第一東京弁護士会〉
b(自動停止型)に賛成
3)法制審議会における議論
① 平成10年9月18日―第一分科会第2回会議
→ 改正検討事項第1部の第1章(破産手続)の第1の5⑵において示された、手続開始 の場合に生ずる効力と同様の効力を、ア)包括的な保全処分により生じさせる考え方 と、イ)申立てにより当然にそうした禁止効が生ずるという自動停止型の考え方につ き、改正検討事項に対する意見を踏まえて議論
日弁連:自動停止という理念を主張しつつ、担保権については保全処分に委ねる 全銀協:自動停止の導入に強く反対
裁判所:自動停止に消極的(?)⎩⎧
② 平成10年9月25日―第二分科会第2回会議
→ 開始前の段階で個別的権利行使を禁止しておくことが以後の手続のために必要不可欠 であることにはおおむね異論なく、包括的保全処分型によるか自動停止型によるか、
および、権利行使の一部解除の在り方につき議論 通産省:自動停止を導入すべき
弁護士会:法人については意見が分かれるが、個人については、自動停止は不可欠 裁判所:自動停止に反対意見が大半
全銀協:自動停止に強く反対
→法人の倒産事件と個人の倒産事件とを分けて検討すべきとの意見も提唱 ↓
〈幹事〉
自動停止に関しては積極、消極の意見が述べられ、どちらにするかは難しい
直ちにどちらの方向と結論づけるわけにも行かず、意見を踏まえ、新再建型、個人の 議論の進行状況を踏まえて最終的に決断
③ 平成10年10月30日―倒産法部会第6回会議
→ おもに破産手続において自動停止を導入するかを中心に、両分科会の議論を踏まえ検 討
↓
自動停止導入論/反対論が拮抗 ↓
〈幹事〉
・ 自動停止が必要な事件が多いという実態は認めつつ、解除の制度や実際の運用がう まくできるのか十分に詰め切れない段階で、自動停止を導入するすることは難しい 経団連:当初消極的であったが、導入に積極的な見解が増えている
全銀協:個人/法人とも導入に絶対反対
研究者: 自動停止の副作用を考慮しなければならず、かえって、裁判所の保全処分 による対応の方が問題が少ない
↓
〈幹事〉:自動停止に代わるものとして包括的保全処分を導入することの是非 → 「自動停止がだめということになると、これが浮かび上がってくることに
なるが、何となく自動停止をめぐり攻防戦が展開されており、余り議論さ れていない」
裁判所:包括的停止については積極説
弁護士会: 個人破産においては、包括的保全処分の申立てが必要なケースはほとんど 想定されない
⎩⎧ ⎩⎧⎩⎧
④ 平成10年11月20日―第二分科会第5回会議
→新再建型手続における自動停止の導入の当否を中心に議論 〈賛成意見〉
・営業譲渡を含めて考えると、申立て段階で自動停止を導入することは不可欠 ・保全処分によった場合、裁判所の裁量に任せっきりになることへの懸念 〈反対意見:裁判所・全銀協〉
・自動停止を認めると、裁判所の手続との関係で困難な問題を生ずる ・正常な取引に対するダメージ甚大
⑤ 平成11年3月19日―倒産法部会第7回会議
1)新再建型手続において自動停止を導入するか
→ 破産手続における導入の可否をめぐる議論を踏まえ、新再建型手続についてもあ らためて自動停止の導入を議論
2)自動停止を導入しない場合の包括的保全処分の導入につき、手続の構想 ↓
1)について
→導入につき、賛成/反対両論が表明 〈幹事〉
「包括的保全処分の方が意見としてはまとまりやすいのかなという感じを持ってお りますが、そのように考えてよろしいでしょうか」
2)について
→包括的保全処分を導入する場合、どの範囲の権利行使を対象とするかにつき議論 ↓
以上の議論を踏まえ、「債務調整手続(仮称)に関する要綱案(担当者素案)」策定
→包括的な禁止命令を設けることとし、自動停止の制度は採用していない
⑥ 平成11年4月16日―倒産法部会第8回会議
→強制執行等の包括的禁止命令に関し、要綱案についての説明
⑦ 平成11年4月23日―倒産法部会第9回会議 →担当者素案説明&審議(意見)
[担当者素案説明]
・包括的禁止命令の必要性 ・包括的禁止命令の発令要件 ・包括的禁止命令の効力 ・包括的禁止命令の公告・通知
⎩⎧⎩⎧⎩⎧⎧
・効力発生時期
・包括的禁止命令の変更・取消についての規定
・包括的禁止命令発令後の手続開始申立ての取下げ制限 〈意見〉
・包括的禁止命令の対象について
→包括的禁止命令の対象として、一般の優先権ある債権まで含むことはできないか → 労働債権(一般の優先権)を包括的禁止命令の対象とすることには問題があり、
一般の優先権を対象外とすることに賛成
→動産売買の先取特権に基づく債権差押え等について ・包括的禁止命令の効力発生時期について
→ 包括的禁止命令の名宛人は債権者であるにもかかわらず、名宛人である債権者で はなく、債務者への送達時を効力発生時期とする理論的根拠
⑧ 平成11年6月18日―倒産法部会第12回会議 ※要綱案の修正部分についての担当者説明 ・包括的禁止命令の発令要件
・包括的禁止命令の個別解除 ↓
平成11年7月23日―倒産法部会第15回会議
→「民事再生手続(仮称)に関する要綱案」決定
4)小括
・立法段階における議論は、自動停止型v.s.保全処分型が中心
→平成11年3月19日―倒産法部会第7回会議で、おおむねの方向性が決定 →自動停止型についても、立法論としてはなお検討の余地
・ 包括的禁止命令の制度構想については、必ずしも十分な議論はなされておらず、おおむね、
担当者素案が要綱案となり、立法に至る
3.包括的禁止命令の位置づけ−理論と実務−
1)包括的禁止命令の概要と特色
① 包括的禁止命令の概要
再生手続の開始の申立後その決定があるまでの間、すべての再生債権者に対し、再生 債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等の禁止を命ずる制度(民再27条)
→ 個別的な中止命令によっては再生手続の目的を十分に達成することができないおそれ
⎩ ⎩⎧⎩⎧
があると認めるべき特別の事情があるときに、利害関係人の申立て又は職権により発 令
② 包括的禁止命令の特色 ・包括的な保全処分 1)目的財産の包括性 2)債権者の包括性 3)対象手続の包括性
4)(手続申立ての)時期の包括性
・一定の枠をはめることにより、濫用防止に留意 →発令要件の加重(「特別の事情」を要求)
→対象を再生債権に基づく権利行使に限定 →発令後の手続開始申立ての取下げを制限
2)民事再生手続における包括的禁止命令の位置づけ
① 民事再生手続における保全処分
・ 再生債務者についての破産手続等の倒産手続、再生債権に基づく強制執行等の手続に ついての中止命令(民再26条)
・再生債権に基づく強制執行等の包括的禁止命令(民再27条〜29条)
・ 再生債務者の業務及び財産に関する、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(民 再30条)
・担保権の実行としての競売手続等を一時的に中止する命令(民再31条)
② 個別的中止命令(民再26条)と包括的禁止命令 ⑴ 個別的中止命令
→ 再生手続の申立てから開始決定までの間、一定の要件を充足した場合に、破産手続 や個別的な強制執行などの中止を認める制度(民再26条)
※取消命令(民再26条3項)
〈中止命令発令の要件〉
⒜ 発令の必要性
⒝ 再生債権者に不当な損害を及ぼすおそれがないこと
⑵ 包括的禁止命令の補充的・例外的位置づけ
→ 包括的禁止命令が認められるためには、個々の強制執行等について個別の中止命令 によって対応していたのでは、債務者の事業等の再生という目的を十分に達成でき ないと言える具体的な事情が必要
⎩⎧⎩⎧⎩⎧
※ 発令要件として、他の手続の中止命令によっては再生手続の目的を十分に達成す ることができないおそれがあると認めるべき「特別の事情」の存在を要求 〈立法担当者〉
「もともとの前提が非常に限られた特殊なケースを念頭に置いたもので、この制 度に限って言えば、中小企業というよりは、非常に多くの資産を持った大企業など で使われることがあり得るという前提で作られたもの」7)
「法制審議会においても、誰もこの制度がしばしば利用されるとは考えていなく て、極めてレアケースだけれども、必要な場合に、こういう強力な武器を用意して おかないと、対処不能な事態が生じうるということで作った制度」8)
3)実務における包括的禁止命令の運用状況
① 実務的位置づけ
〈包括的禁止命令に対する評価・実務的位置づけ〉
a)例外的措置であることを強調する見解9)
・包括的禁止命令が必要とされた案件は少ない
・実務上は、個別の中止命令で対応可能な場合がほとんど b)一定の有用性を認める見解10)
・転付命令との関係では有力な武器
・個別債権者の執行についての意欲を止める効果
② 運用状況
a)東京地裁・大阪地裁の運用状況
〈東京地裁の発令状況:平成12年〜16年〉11)
年 度 件 数 詳 細
平成12年 0件
平成13年 0件
平成14年 4件 ゴルフ場3件 その他1件
平成15年 12件 ゴルフ場9件 その他3件
平成16年 6件
→全民事再生事件(1468件)の1.4%
〈大阪地裁の発令状況:平成12年〜16年〉12)
→申立件数2件(平成12年・平成14年):発令件数0件 b)実例13)
・ゴルフ場運営会社の再生手続 ・医師(個人)の再生手続
⎩⎧
・貸衣装業の再生手続
4.包括的禁止命令に関する諸問題
1)自動停止型か保全処分型か
① 自動停止制度(automatic stay)の概要14)
→ 倒産手続の開始申立ての当然の効果として、裁判所の判断を介在させずに、担保権の 実行や相殺権の行使、さらには事実上の取り立て行為を含む全ての個別的権利行使を 停止する制度(see 11U.S.C.§362)
② 自動停止と包括的禁止命令の異同 〈類似点〉
・債権者の先陣争いを回避し、債務者を事業再建に専念させるという制度目的・機能 ・対象となる債権者の包括性&対象財産の包括性
・ 債権者の権利行使を包括的に停止した上で、その後個別的にその停止を解除していく 構造
〈相違点〉
・包括的禁止命令は一般債権に基づく個別執行のみを対象 ※他の倒産手続や訴訟手続等は禁止の対象外
・自動停止は、裁判所侮辱罪によりその実効性を担保 ・裁判所の判断の関与時期の差異
→自動停止:自動停止の個別解除の場面ではじめて裁判所の関与 包括的禁止命令:発令の場面で裁判所の判断を介在
・ 自動停止は倒産手続の開始申立ての当然の効力として認められるのに対し、包括的禁 止命令は例外的措置としての位置づけ
③ 自動停止導入に対する賛成論・反対論 a)賛成論
b)反対論
④ 検討
・ 現状:申立て〜開始決定まで迅速になされている運用のもと、個別の中止命令や包括 的禁止命令により対応可能
→ あえて、一定の副作用も想定されるドラスティックな制度を現段階において導入す る必要性なし
・ 将来的には、濫用防止策や自動停止の解除等の債権者保護策を講じた上で、改めて検
⎩⎧⎩⎧⎧
討の俎上に載せる余地あり
・ 全件を対象に個別的権利行使を禁止する自動停止型と、例外的に個別的権利行使を禁 止する包括的禁止命令型という両極端の二者択一ではなく、柔軟に包括的禁止命令を 発令することもありうる
2)包括的禁止命令の対象
① 包括的禁止命令の対象
→ 再生債権に基づく強制執行、仮差押え、若くは仮処分又は再生債権を被担保債権と する民事留置権による競売を対象(民再27条1項)
② 破産手続・会社更生手続における包括手禁止命令の対象 a)破産手続における包括的禁止命令(破25条)
b)会社更生手続における包括的禁止命令(会更25条)
③ 民事再生における他の手続の中止命令の対象
・ 再生債権に基づく強制執行、仮差押え、若くは仮処分又は再生債権を被担保債権とす る民事留置権による競売(民再26条1項2号)
・再生債務者の財産関係の訴訟手続(民再26条1項3号)
・行政庁に係属している、再生債務者の財産関係にかかる手続(民再26条1項4号)
・既存の破産手続・特別清算手続(民再26条1項1号)
④ 検討
⑴ 財産関係の訴訟手続を対象とすることの要否 →立法論としても不要と解する
⑵ 特定の債権者を対象とする禁止命令の許否
→ 特定の債権者のみを対象とする禁止命令は、逆に債権者間の公平を害することにな り、そのような場合は、他の全債権者も対象として包括的禁止命令を発令すれば足 りることから、許されないと解する
⑶ 特定の債権者のみをあらかじめ除外した包括的禁止命令の許否 →許容されると解する
R: ・包括的禁止命令の個別解除制度(民再29条1項)の存在 ・法制審議会における議論
・ 会社更生手続と破産手続における取扱い(会更25 条2項、破25条2項)か らの類推
⑷ 一定の範囲に属する債権等に基づく強制執行等を除外した包括的禁止命令の許否 →許容されると解する
⎩⎩⎧ ⎩⎧
・ 再生計画における平等原則の例外や再生債権の弁済禁止の例外に該当するような 場合については、債権者平等を害することにならない
・ 会社更生手続と破産手続における取扱い(会更25 条2項、破25条2項)からの 類推
⑸ 特定の財産に対する包括的禁止命令・特定の手続のみを禁止する包括的禁止命令 →許容されると解する
R: ・包括的禁止命令の変更(27条3項)や一部解除(29条)の規定の存在 ・ 特定財産についての禁止をする必要はあるが、全財産に対するそれは必要な
いという場合もあり、そのような場合にまで全財産を対象とする禁止をする ことは妥当ではない
・ 条文の解釈論としても、民再27条は、対象となる財産・手続については、包 括性を要求していない
⑹ 包括的中止命令(すでに行われている強制執行等のみを包括的に中止)の許否 →許されない(不要)と解する
R: ・ 必要性に乏しいとともに、すでに行われている強制執行を禁止しつつ、将来 の強制執行は許容することに合理性は認められない
⑺ 将来の強制執行等のみを包括的に禁止する包括的禁止命令の許否 →不要と解するが、許されないとまでする必要があるか?
3)発令要件
① 包括的禁止命令の発令要件(民再27条1項)
⑴ 個別的な手続の中止命令では再生手続の目的を達成できないような「特別の事情」
⑵ 事前または同時に債務者の主要な財産に関する保全処分、監督命令、保全管理命令の いずれかの処分がなされていること
② 検討
⑴ 手続開始の蓋然性との関係
→ 保全処分の目的に照らし、手続開始の可能性がない場合には、発令する必要はなく、
手続開始の蓋然性は当然の前提要件と解されるが、「手続開始の蓋然性が存在する こと」を積極的要件とするのでは、迅速な発令は困難となるため、「手続開始の可 能性が存在しないこと」を発令の消極的要件と解すべき
⑵ 再生債権者に対する「不当な損害」のおそれ
→ 一般的には、発令段階においては、個別的な権利行使を禁止する結果として不当な 損害が再生債権者側に生ずるかどうかという個別的な事情の考慮は一切行われない とされるが、不当な損害が生ずることが明らかな場合には、あらかじめ除外して発 令すべきであり、不当な損害が生ずる恐れがあることを消極的要件として位置づけ
⎩⎧ ⎩⎧⎩⎧
るべき
4)包括的禁止命令の効力
① 包括的禁止命令の効力の法的性質
効力: すべての再生債権者に対し、再生手続開始の申立についての決定があるまでの間、
再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等の個別的権利行使が禁止 され、また、すでに行われている強制執行等は中止(27条1項・2項)
↓
⑴ すでに行われている強制執行手続との関係 ⑵ 将来の強制執行手続との関係
a)執行禁止財産説15)
→ 将来なされる強制執行との関係では、包括的禁止命令が発令されると、債務者の総 財産は一種の執行禁止財産(民執131条、152条)としての性質を持つことになると の見解
b)執行障碍事由説16)
→ 包括的禁止命令が発令されることによって、民再39条の手続開始の効力が前倒しで 発生し、それと矛盾する個別執行が排除されると理解し、包括的禁止命令を執行障 碍事由と位置づける見解
私見:執行障碍事由と解すべき
② 包括的禁止命令の効力発生時
→ 再生債務者に対する裁判書の送達がなされたときから効力を生ずる(28条2項)
※ 禁止命令の名宛人である再生債権者ではなく、債務者への送達時を効力発生時とす る理論的根拠が問題
↓
債務者を情報のキーステーションとして、債務者に問い合わせれば、包括的禁止 命令が発令されているということがわかるということを担保として、効力発生時と したものであり、やむを得ない選択
5)包括的禁止命令の(一部)解除
① 包括的禁止命令の解除制度
→ 包括的禁止命令が個別の債権者に対して不当な損害を及ぼすおそれがあるとき包括的 禁止命令自体の効力は維持しつつも、当該再生債権者との関係では、相対的に、包括 的禁止命令を解除する制度(民再29条)
⑴ 特定の財産との関係での解除の可否
⎩⎧
ある債権者が、再生債務者の複数の財産に対する強制執行を行っており、それらの 手続が包括的禁止命令により全て停止している場合、再生債権者を基準に禁止命令の 解除につき判断することになると、「不当な損害を及ぼすおそれ」の要件についても、
強制執行全体を中止することによって再生債務者が受ける利益と当該再生債権者が被 る損害を対比することにより判断されるため、特定財産について執行は停止する必要 があるが、全財産に対する必要まではないという場合であっても、当該再生債権者と の関係で強制執行全てにつき解除を認めるか否かというオールオアナッシングの結論 になってしまい、執行を停止・禁止する必要のない財産との関係でも解除が認められ ないことになってしまう。
かかる場合には、個々の再生債権者との関係で、強制執行等の対象となる特定の財 産単位、あるいは、個別の手続単位で、「不当な損害を及ぼすおそれ」の要件を満た すことを前提に、個別的解除を認めるべきと解する。
これに対し、特定の再生債権者との関係を度外視し、特定の財産との関係で一般的 に解除することは、「不当な損害を及ぼすおそれ」の要件の判断に窮し、29条の解釈 論としては困難
⑵ 個別の強制執行等との関係での解除の可否
上記⑴と同様の理由により、個々の再生債権者との関係で、個別の手続単位で禁止 命令を解除することも、「不当な損害を及ぼすおそれ」の要件を満たす限りは許され ると解する
⑶ 特定の手続との関係での解除の可否
特定の類型の手続についてのみ解除を要する場面は通常想定できず、解釈論的にも 個々の再生債権者との関係を度外視して、特定の手続との関係で解除を認めることは 困難
⑷ 一定の範囲に属する債権等に基づく強制執行等の解除の可否
不当な損害を受ける債権者が類型的に存在する場合には、解除の必要性が認められ、
29条の解釈論としても、解除が認められると解する
② 解除の要件
・再生債権に基づく強制執行等の申立人である再生債権者の申立てがあること ・ 包括的禁止命令により再生債権者に不当な損害を及ぼすおそれがあると認められる
こと
※ 強制執行等を行う場合には、個別解除の申立権者が「再生債権にもとづく強制執行 等の申立人である再生債権者」とされていることから、再生債権者はまずその強制 執行等を申し立てた上で、個別解除決定を得てこれに基づいて強制執行等を行うこ とになると解さざるを得ないが、立法論としては、債権者の権利保護の観点から、
解除を申立て、これが認められた後に、強制執行等を行うことも認めるべき
⎩⎧
6)包括的禁止命令に基づく取消命令
→ 再生債務者の事業継続のために特に必要があると認めるときは、再生債務者(保全管理人 が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより、担保を立てさせ、中止 した再生債権に基づく強制執行等の手続の取消を命ずることができる(民再27条4項)
〈発令要件〉
①事業の継続のために特に必要があると認められること
②再生債務者(保全管理人が選任されている場合は保全管理人)の申立てがあること ③担保の提供があること
④裁判所の命令によって手続が中止していること
※個別的中止命令に基づく取消命令(民再26条3項)と同様の要件 ↓
⑴ 個別的取消命令・包括的取消命令の許否
→ 中止した強制執行等の手続の一部についての取消しも、中止した手続を包括的に取り 消すことも、要件を満たす限り許されると解する
⑵ 包括的禁止命令と取消命令の同時申立ての許否
→包括的禁止命令と取消命令の同時申立ても許容すべきと解する
5.おわりに
・保全処分に関する規定整備の評価 ・包括的禁止命令の柔軟な運用 ・立法論としての自動停止型の制度
1) 民事再生法の立法過程については、深山卓也ほか『一問一答民事再生法』3頁以下(商事法務研究会、
平12)参照。
2) 「倒産法制に関する改正検討事項」については、別冊NBL46号参照。
3) 法制審議会倒産法部会・同第一分科会・同第二分科会の議事録については、法務省ホームページ
(http://www.moj.go.jp/SHINGI/index̲old01.html)より入手したものを参照した。
4) 深山卓也ほか「『倒産法制に関する検討事項』に対する各界意見の概要⑴」NBL647号11頁(平10)。
5) 深山卓也ほか「『倒産法制に関する検討事項』に対する各界意見の概要⑵」NBL648号33頁(平10)。
6) 深山卓也ほか「『倒産法制に関する検討事項』に対する各界意見の概要⑶」NBL649号41頁(平10)。
7) 伊藤眞ほか編『民事再生法逐条研究−解釈と運用』44頁〈深山卓也〉(有斐閣、2002)。
8) 伊藤眞ほか編・前掲注⑺46頁〈深山卓也〉。
9) 須藤英章編『民事再生の実務』99頁(新日本法規、平17)、小海隆則「再生債務者の財産の保全」才 口千春ほか編『民事再生法の理論と実務(上)』199頁(ぎょうせい、平12)など。
10) 伊藤ほか編・前掲注⑺45頁[田原睦夫]、同46頁[山本和彦]など。
11) 須藤編・前掲注⑼100頁、大竹たかし「東京地裁における民事再生手続の現状と課題」事業再生と債
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権管理105号58頁(2004)。
12) 林圭介「大阪地裁の実務に見る民再再生手続4年の特長と総括的諸問題」事業再生と債権管理105号 61頁(2004)。
13) 小菅和宏=堤智恵子「民事再生事件―施行後一年の概況を振り返って」NBL715号17頁(平13)、および、
大竹・前掲注⑾58頁。
14) 自動停止制度の概要については、さしあたり、高木新二郎『アメリカ連邦倒産法』59頁以下(商事 法務研究会、平8)、福岡真之介『アメリカ連邦倒産法概説』41頁(商事法務、平20)など参照。
15) 須藤編・前掲注⑼102頁、園尾隆司=小林秀之編『条解民事再生法』105頁(弘文堂、平15)。
16) 伊藤ほか編・前掲注⑺46頁以下。