平成
30
年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))『小児期遺伝性不整脈疾患の睡眠中突然死予防に関する研究』
分担研究報告書
左室緻密化障害を伴う X 染色体劣性の非症候性家族性心臓伝導障害
「心筋エメリノパチー」に関する研究
研究分担者 蒔田 直昌 研究協力者 石川 泰輔
所 属 長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科
研究要旨
【目的】X染色体劣性遺伝形式の家族性心臓伝導障害の原因遺伝子を解明し、その臨床的特徴を明 らかにすること。【対象と方法】家族性洞不全症候群 (87人) と家族性房室ブロック (36人) のゲノ ム
DNA
を次世代シークエンサーで解析した。【結果】X染色体劣性遺伝形式を示す3
家系に、Emery-Dreifuss
筋ジストロフィーの原因遺伝子エメリン (EMD) の変異を同定した。3家系には神経・骨格筋の障害はなく、進行性心房静止と左室緻密化障害 (LVNC) という共通の臨床像を持って いた。日本人小児
LVNC (102
人) を遺伝子解析したところ、LVNCと心房静止の合併を示す1
家系 にEMD
変異を同定した。4家系中2
家系に脳血栓症の合併が見られた。【結論】Q心筋エメリノパ チーは、X
染色体劣性の遺伝形式を示しLVNC
を合併する非症候性の新規の進行性心房伝導障害で、LVNC
と心房静止の相乗効果によって高い血栓症のリスクを示す新規の家族性心臓伝導障害である。A.
研究目的家族性心臓伝導障害は、洞結節・房室結節・
His-Purkinje
系などの刺激伝導系の遺伝性障害で、これまでに心筋
Na
チャネル (SCN5A)・核膜タン パクラミン (LMNA)・ペースメーカチャネル(HCN4)
などの原因遺伝子が知られている。これらの遺伝子変異キャリアは、時に様々な心筋症を 合併することが知られている。SCN5Aや
LMNA
には拡張型心筋症 (DCM) の合併が、HCN4
には 左室緻密化障害 (LVNC) の合併が知られている。最近明らかになったコネキシン
45 (GJC1)
変異 は、心房心筋症と歯骨の形成異常を合併する症候 性心房伝導障害である (Seki, Makita et al. JACC2017)。また一部の心臓伝導障害には神経・骨格
筋の異常を合併する症例も少なくない。本研究の目的は、最近同定した
X
染色体劣性遺 伝形式を示す家族性心臓伝導障害の原因遺伝子 を解明し、その臨床的特徴を明らかにすることで ある。B.
研究方法家族性洞不全症候群 (SSS; 87人) と家族性房室 ブロック (AVB; 36人) のゲノム
DNA
を用いて457
個または90
個の心疾患関連遺伝子のエクソ ンキャプチャーパネルを作成し、次世代シークエ ンサーでシークエンスした。ヒトレファレンスゲ ノム (GRCh37) にマッピングし、バリアントコ ール後、公共多型データーベースでマイナーアリ ル頻度 (MAF)>0.1%のバリアントを除外した。ま た、EMD変異とLVNC
の関連を調べるために、小児
LVNC (102
人) に対してLVNC
関連73
遺伝 子のシークエンス解析を行った。(倫理面への配慮)
本研究は、ヘルシンキ宣言(世界医師会)・ヒト ゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成
25
年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示 第1
号)、人を対象とする医学系研究に関する倫 理指針(平成26
年文部科学省・厚生労働省告示 第3
号)に準拠して実施した。78
C.
研究結果心臓伝導障害発端者
87
人のパネル解析から、3 家系にX
染色体のEMD
遺伝子に変異 (Start-loss 変異: p.M1V、スプライシング変異: c.226-2A>C、ミスセンス変異: p.S8L) を同定した。LVNC症例
(102
人) のシークエンス解析から、心房静止とLVNC
を示す少年にフレームシフトをきたすEMD
の1
塩基欠損 (p.L139fsX98) が同定された。今回
EMD
変異が同定された4
家族の発端者はい ずれも伝導障害の他にLVNC
を合併しており、そ のうち3
人は心房静止を示していた。発端者2
人 は脳梗塞を合併し、家系内には脳卒中の既往歴を 持つもの多かった。罹患者はいずれも男性で、女 性のヘテロキャリア2
名は無症状で軽微な心電 図異常のみだけであった。家系内には神経筋の異 常や高CK
値を示すものはなかった。D.
考察家族性心臓伝導障害と
LVNC
は多くの遺伝子が 関与する複雑な心疾患だが、これまで両者のオー バーラップは報告されていない。今回我々は初め て、LVNCを有する心臓伝導障害4
家系にEMD
変異を同定した。EMDとLMNA
はともに核膜タ ンパクの遺伝子である。EMDは進行性筋力低 下・関節拘縮有・心疾患という三つの兆候を特徴 とするEmery-Dreifuss
筋ジストロフィー(EDMD)
の原因遺伝子だが、我々の4家系には神経筋症状や
CK
値異常などは見られず、「心筋エ メリノパチー」はLVNC
を合併するX
染色体劣 性の非症候性遺伝性心臓伝導障害という新しい 疾患範疇だと考えられる。同様の所見はLMNA
でも見られ、一部のLMNA
変異は多くの組織の異 常を巻き込む症候性の常染色体優性EDMD・肢
体筋ジストロフィーをきたすが、一部の変異は非症候性の
DCM+伝導障害という臨床像を示す。
我々は今回
LVNC
を合併する伝導障害4家系にEMD
変異を同定したが、LNVC 328
例のパネル解 析ではEMD
変異は同定されなかったという報告 もある(van Waning et al. JACC 2018)。LVNC患者 の選択バイアスがある可能性も含めて、今後さら なる解析が必要である。E.
結論心筋エメリノパチーは核膜タンパク遺伝子
EMD
の変異によるX
染色体劣性遺伝形式の遺伝性心 臓伝導障害だが、神経・骨格筋の異常を伴わない。進行性の心房静止と