著者 居城 弘
雑誌名 静岡大学経済研究
巻 6
号 2
ページ 1‑22
発行年 2001‑10‑25
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00005828
論 説
ユニバーサル・バンク・システムをめぐって
居 城 弘
(― )
近年、我が国の金融機関の間で、巨大銀行間の統合、いわゆるメガバ ンクの形成が相次いでいる。
日本版金融 ビッグバ ンの進行により、金融機関の業務分野規制の緩和・ 自由化が進行 し、 さらに外 国の巨大金融 グループによる我が国金融機関の買収0提携や資本参加が活発化する中で、国際的な 競争力の立 ち後れを挽回することを目指 した方策 として、巨大銀行の合併 とそれによる大規模な経 営再編が進行 しつつある。 これを機に、 この間我が国の金融機関を圧迫 し続けてきた不良債権処理 を加速化 させるとともに、合併による重複店舗の統廃合や大量の人員整理の計画が打ち出されてい る。
いわゆるメガバ ンクの各 グループそれぞれに共通 した方向として、合併統合後の全体を統括する 位置に「金融持株会社」をおき、その持株保有 による傘下の もとに、 リテール、ホールセール業務 に特化 した銀行部門や投資銀行部門、信託、証券、その他金融サービス部門などが、それぞれ業態 別にグループ内金融機関 として構成 されることとなっている。 こうした「金融持株会社」を頂点 と す る総合金融機関グループの形成をどのように理解するべきであろうか。銀行業のあり方 という観 点か らこの問題にアプローチ しようとする場合、ユニバーサル・ バ ンク 0シ ステムの一形態 と解す ることが適当なのか、あるいはそれ とは異なる現代的な金融機関のあり方 としてとらえるべきなの かが問題 となろう。現代のこうした巨大金融機関の成立をめぐって、その機能 と構造や、現代の経 済 システムにおいて果たす役割の解明は、重要な課題 となろう。先進資本主義諸国において共通す る趨勢・ 傾向を示 しているとお もわれる、銀行業のあり方 としてのユニバーサル
̀バ ンク化を取 り 上げ、その概念・ 内容の明確化を試み、現代の金融 システム分析に向けて考察を進めたいと考える6
我が国においては、ユニバーサル・ バ ンクについて明確な問題意識の もとで論議の対象 とされた のは、金融の自由化 とりわけ金融機関の業務分野に関する規制緩和をどのように進めるべきかとい
111J̲
弓う、金融制度改革論議の うね りの中においてであった。わが国の金融制度改革をめ ぐる論議 は金融 制度調査会を中心に1980年代後半以降精力的に積み重ね られ、報告や答申が行われて きた。本稿 は それ らを手がか りとして、わが国の議論においては、ユニバーサル・ バ ンクについてどのように理 解 され、位置づけられてきたのかについて整理を行い、今後の検討 に向けた論点の明確化を試みる
こととしたい。
金融制度調査会の検討 は、わが国の制度改革の方向 として、いわゆる「業態別子会社方式」によ る相互参入を提言 したことで知 られる。ユニバーサル・ バ ンク方式や持株会社方式は検討対象 とさ れたが、わが国の改革方式 としては不適当とされた。その結論を受 けて、金融制度改革がひとたび は「業態別子会社方式」によつて進め られたのであった。 しか し1990年代の後半にいた り、不良債 権の重圧 と金融 システムの劣化の進行 は、金融不安 と金融危機を進化 させ、国際的にも日本の金融 システムの早急な改革が焦眉 とされ、 ここに「 日本型金融 ビッグ・ バ ン」による金融改革に取 り組 まざるを得な くさせた。 これを契機 として、独禁法の改正、 さらには金融持株会社 による金融制度 改革の方向が強 く打 ち出されることとなった。い この間の経過はめまぐるしいものがあった。いわ ゆるメガバ ンクの誕生がこうした流れの中か らもたらされたものであることも周知のところである。
この間の経緯を整理することはそれ自体重要であ り、単なる現実的要請・ 対応 として捉えるのでは な く、わが国金融 システムの再編の基本的性格を明 らかにするという視覚か ら捉えなお してみたい。
その場合、ユニバーサル・ バ ンク論か らのアプローチがどこまで可能なのか、あるいはそれ とは概 念的に区別 されるべ きものであるのかについて も検討す る必要があろう。
さきに筆者 は、銀行業のあ り方 としての「英国型・ 商業銀行主義」 とは対照的な、「大陸 ドイツ 型・ 兼営銀行主義」 について、その歴史的な形成0確立過程を追跡するとともに、兼営銀行制の間 題点の指摘をふまえて、金融構造の中心的構成部分をなす銀行が兼営制を採 ることによつて、金融 システムにいかなる特質を刻印・ 規定す ることになったか、 さらには、中央銀行の行動 と政策にど のような影響をもた らしたかを検討 したところである。その際、指摘 したとお り、 ドイツ型・ 兼営 銀行制 は、現在、世界的な潮流 となっているユニバーサル・ バ ンク・ システムの歴史的な原型をな す ものと位置づけ得 るのであるが、 そこか ら直ちに、ユニバーサル・ バ ンク論の展開を行 うことは で きないこと、兼営銀行制を成立させた背景なり論理 と、ユニバーサル・ バ ンクのそれとの、歴史 的な位相の違 いを強調 したのである。我が国においてはユニバーサル・ バ ンクについて必ず しも明 確な共通認識があるわけではないが、 しか しその ことは、銀行業のあり方 に関す る基本認識 として、
ユニバーサル 0バ ンクに関するより明確な把握が不必要であることを意味するものではない。逆に、
現段階の銀行のあり方を問 う際に、避 けることのできない課題であると考え られる。
ユニバーサル・ バ ンクの特質を把握する際に、なによりも重要なことは、銀行業の本質 との関連 を明確にすることであろう。商業銀行主義 と兼営銀行主義の性格を規定する場合にも同様であるが、
銀行業 は社会のペイメント・ 支払決済 システムの担い手であること、預金を受 け入れ、それに基づ いて貸出を行 うこと、その貸出において預金創造・ 信用創造を行 うこと、 したが って支払決済機能 は銀行の預金の振替によって果たされること、銀行の こうした基本的な機能をベースとして、それ ぞれの銀行 タイプの特質が とらえ られる。② その場合、ユニバーサル・ バ ンク・ システムを成立 さ せた契機、背景・ 要因は何かを明確 にす る必要があるであろう。ユニバーサル・ バ ンクをどのよう に規定するかにもかかわるが、現在、世界的な潮流 となっている銀行業務の多角化・総合化の動 き を、ユニバーサル・ バ ンクの論理 (およびその延長上)でとらえようとすればよリー層、今 日、銀 行をユニバーサル・ バ ンクの方向に駆 り立てている契機や要因を、現代の金融・ 信用構造の現実の 中か ら浮 き彫 りにすることが不可欠であろう。°
さらに、ユニバーサル・ バ ンクと金融 システムの相互の関連についての考察が重要 となる。通例、
ユニバーサル・ バ ンクは ドイツに典型的なものであって、アメ リカやイギ リスなどのいわゆるアン グロ・ サクソン系の金融 システムとは対照的なものと理解 される。ユニバーサル 0バ ンクが、狭義 の銀行業務 とともに、証券業務や投資銀行業務、 さらにはより広範囲な金融関連業務を営むように なると、金融 システムにどのような影響を及ぼす ことになるのであろうか。金融 システムの中でも、
直接金融 と間接金融の問題 とユニバーサル ンクとはどのような関連があるのであろうか。ユニバー サル・ バ ンクの もとでは、金融市場の取引の一定部分が内部化されることによって、市場の機能が 後退ない し弱体化する傾向が指摘 されるが、その傾向はユニバーサルバ ンクにとって必然的なもの であるのかについて も、検討する必要がある。
くわえてさらに、銀行業のあ り方を規定する要因 としての金融 システム・ 金融構造 自体の変化 と いう問題がある。つまり、現代資本主義に特有な金融資産の累積や金融媒介機関の成長 という動 き が、伝統的な銀行業務の領域を縮小 させ、商業銀行の地位・ 比重の低下をもたらしたこと、 この要 因が銀行業の側に与えた影響 という視角か ら、銀行業務の多角化 さらにはユニバーサル化の問題に つなが る要素 も浮かび上がって くるであろう。 このようにユニバーサル・ バ ンクそのものに限定 し て論点を挙げてい くだけで、実に多様な検討課題があることに気づ くのである。ユニバーサル・ バ
ンクの概念 についての整理において、たとえば、金融機関本体での銀行業務 と証券業務の兼営 と捉 えるのであれば、兼営銀行 との差 はないということになる。金融機関の業務の多角化 という現象は、
銀行業のあり方 とどのようにかかわ っているのであろうか。 そのような角度か らユニバーサル・ バ ンクを捉える必要があるのではないだろうか。検討課題 として指摘 しておこう。
注(1)先述のように、我が国の金融制度改革 は、業態別子会社方式での参入 (それ も段階的な進 行)を採用 したが、90年代後半、金融持株会社解禁の動 きがクローズアップする。その経過 をどのように理解すべきか。制度改革論議の際に指摘 された、強大な産業支配の弊害や利益
相反等の、持株会社方式の問題点 は払拭 されたのであろうか。金融持株会社 によるメガバ ン クの実態分析 とともに、理論的にも十分な検討が必要であろう。
注121 銀行業のあり方を規定す る条件 としては、以下の点 に留意することが必要である。
① 産業・ 企業 と銀行の関係 とくに産業・ 企業の金融的課題、金融取引をどのような内容におい て媒介するのか、貨幣取扱業務・ 支払決済取引において及び預金・ 貸付取引、 とくに銀行信用 の媒介する経済的内容 (流動資本、運転資金、商取引・ 商業金融、設備・ 投資、経営規模の拡 張、固定資本信用)、 その ことが銀行の機能 と性格を規定す るものとなる。
② 企業金融 も含めて金融構造や金融市場、 さらには通貨制度や為替 システムなどの、銀行を取 り巻 く金融的環境の変化が銀行業のあり方を大 きく変化 させることとなった。私見 は、 さしあ たり、 この両側面か ら、銀行のユニバーサル・ バ ンク化がどこまで解 きうるかを考えてみたい というのが狙いである。
注ほ)金融機関の業務分野の多様化 と、「 相互参入」 の問題 とは同一ではない。後者 は分業制、
縦割 りの業務規制を前提 として、それをどのような方式で規制緩和す るかの問題である。その 際、既存の競争構造を大 きく変えない参入方式を考えるのか、そうではな くて競争構造の転換 を模索するのか、市J度改革論での論議の内容が問題である。
(二)
【日本の金融制度改革論議におけるユニバーサルバンク論】
我が国でユニバーサルバ ンク・ システムについて関心が寄せ られたのは、 ごく最近では、金融制 度改革の論議の中においてである。°
注
(a
我が国において英国型商業銀行主義 に基礎をおいた銀行制度整備が進め られたが、銀行業 務 と証券業務を兼営す る ドイツ型兼営銀行主義 に対す る関心が繰 り返 し現れて きた点 について は、拙著、『 ドイツ金融史研究』 ミネルヴァ書房、2001年を参照そこで、我が国においてユニバーサルバ ンクについてのとらえ方がどのように行われてきたであ ろうか、 とりわけ改革論議 において、ユニバーサルバ ンクの考え方が退 けられたことは周知のとこ ろであるが、その際の根拠・ 論拠 とされたことがどのような内容であったのかを確かめておきたい。
とくに小稿では金融制度改革のその後の進展の中で、金融持株会社の解禁が行われ、それが今 日の いわゆるメガバ ンクの実現に結びついていったことを、制度改革の理念 にて らしていかに考えるべ きかに関心を寄せる立場か ら、 この問題 について確かめてお くこととしたい。
それにはいる前に、ユニバーサル・ バ ンクについてのわが国での標準的な説明 として、 日本銀行 金融研究所の見解を見てお くこととしよう
a)日
本銀行『 わが国の金融制度・ 新版』1993年4月 か らの金融制度改革の実施、94年10月の預金金利 自由化の完了などの金融環境の変化 を受 けて「新版」改訂 された日本銀行金融研究所編『 わが国の金融制度』では、ユニバーサル・ バ ンクについて次のように捉えている。「19世紀後半か ら産業革命を開始 した ドイツでは、銀行 は当 初か ら産業金融あるいは長期金融の分野 に進出せざるをえなか った。銀行 は、重工業化の進展過程 でその信用を利用 して発起業務 (企業設立のための株式引受)に参画 し、証券の発行・ 引受 も行 う など、運転資金のみな らず、企業設立資金、設備投資資金供給の役割 も担 っていたのである。 こう した銀行業務のあ り方、すなわち銀行 は短期金融業務だけでな く、証券業務や長期金融等あらゆる 金融業務を行 うべ きであるという考え方を『 ユニバーサル・ バ ンキ ング』(兼営銀行主義 または総 合銀行主義)という。そ してまた、ユニバーサルバ ンキ ングの下では、銀行が取引先企業の資金調 達にかかわる意志決定に大 きく関与 してお り、 こうした側面 は一般に『銀行による企業支配 と称 さ れることが多い。」(同書7頁)ここに明 らかなように、 ユニバーサル・ バ ンキ ングが ドイツで成立
した背景 とともに、「短期金融業務だけでな く、証券業務や長期金融等あ らゆる金融業務を行 う」
ものであることが明確 にされる。それだけでな くここでは兼営銀行主義 と総合銀行主義についてほ ぼ同義においてユニバーサル・ バ ンクと捉えていることが特徴である。
さ らに同書では、「 ドイツのユニバーサル・ バ ンクは、英国やアメ リカのような分業主義の下で の銀行 に比べて、業務の多角化 に伴 う利益 (いわゆる範囲の経済性)、 リスクの分散化、顧客サー ビスの向上等のメ リットを享受 しやすい反面、利益相反問題や企業支配力の過度の集中等の問題を 内包 しやすいとされている」(同書30頁)と して、 とりわけ利益相反 と銀行の企業支配の集中がユ ニバーサル・ バ ンクの問題点であるとの見地か らまとめられている。 もっとも同書は、イギ リスに おいて も1970年代以降、商業銀行側か らの国際金融業務や証券業務への進出を積極的に進める必要 が高 まり、1971年の金利 自由化に伴 う、諸規制の廃止等を背景 として、商業銀行の業務の多様化が 進展 し、それまで支配的であった商業銀行主義考え方が「漸次修正を迫 られている」 とし、 しか し、
イギ リスの銀行 は業務の多様化を進める際に、「銀行業務 と取引慣行が大 きく異なるとともに相対 的に リスクが大 きいと考え られる」国際金融業務や証券業務へは、 日本 と同様、子会社を通 じて参 入 とい う方式が とられている、 としている。
さらにアメ リカについては、「 銀行 と証券の分離原則 に大 きな特色がある」が、 このよ うな原則 が確立 したのは以下のような経緯 によってであった。 もともとアメ リカでは、銀行は証券の引き受 け・ 売買などの業務 に携わ ってきてお り、 とくに第一次大戦後 には、「証券市場が急速に拡大・ 発 展するなかで、銀行 は次第に証券業務のウエイ トを高め、1920年代後半には証券市場の最大の担い 手 となった」が、1929年の大恐慌によって「証券業務に過度に傾斜 した銀行の多数が破綻するに至 っ
た」 ことを契機 に調査委員会が設置 された。委員会 は銀行破綻の原因 として、「証券子会社が引 き 受 けた証券を銀行が買 い取 った こと」、 いわゆる利益相反問題 については「①銀行が、証券子会社
を引受業者 として、経営悪化の著 しい取引企業に証券を発行 させ、その発行代わ り金によりどう企 業への貸付を返済 させ るといった行為が見 られたこと、および、②そうした行為 は、投資家の利益 を犠牲 に して銀行や預金者の利益を優先 させる行為であり、問題視 されるべきである」 という指摘 がなされた。 これに基づいて実施 された金融制度改革 において、《1933年銀行法》が制定 され、商 業銀行業務 と投資銀行業務 (証券業務)を原則分離す る条項を含み、いわゆる 《グラス・ ステイー ガル法》 と呼ばれていることは周知のところである。
しか し、1980年代 に至 り、「連邦準備制度をは じめとす る銀行監督当局が、同法の趣 旨に反 しな いとの判断にたって銀行子会社 による証券業務の拡大、銀行持株会社 による証券会社の買収、同証 券子会社 による証券業務の範囲拡大、証券会社のノンバ ンク・ バ ンク設立等を逐次認可 し、司法当 局 もこれを追認す るといったかたちで、銀行・ 証券間の垣根の実質的な低下が進行 しつつある」 と ともに、米系銀行の国際競争力強化を図るためとして、「① 《1986年競争力平衡銀行法》 によって、
議会が金融制度に関する包括的見直 しを行 う旨規定 されたこと、② このような議会の動 きとあわせ て、民間団体、監督当局か らも金融制度改革を求める声が高 まり、各種提言がなされるようになっ たことなどを背景 として現在、 グラス・ ステイーガル法の見直 しを含む金融制度改革に関する議論 が活発化 している」 と述べている。
以上が、 日本銀行『 わが国の金融制度』・ 新版での説明である。同書のユニバーサル・ バ ンクに ついての規定 は、見 られるように、「短期金融業務だけでな く、証券業務や長期金融等あ らゆる金 融業務を行 う」 ものと捉え られてお り、 しか も兼営銀行主義 と総合銀行主義 についての段階的ない しは内容的な相違点 については間わずに両者を含めて、ユニバーサル・ バ ンクとしていることに特 徴がある。 さらに、7080年代以降の英国やアメ リカで見 られる商業銀行の業務の多様化や他の金 融業務への子会社や銀行持株会社を通 じた参入、多角化現象については、金融制度改革 という点で、
共通の潮流 と捕 らえつつ も、ユニバーサル・ バ ンクとの形態的相違 を明示的にではないが認めてい るかのようである。 このことは同書 自体 にとって も、残 されている一つの論点 といえよう。
欧米諸国のこうした動 きが、わが国の議論 にも大 きな影響を与えていることは明 らかであろう。
そのような現状をめ ぐる論点整理 とあわせて、欧米 とくに英米 におけるこうした動 きを金融 システ ム、銀行のあり方 という点か らどのように整理するかということが問題点である。
け
)わ
が国における金融制度見直 し・ 金融制度改革論議の本格化【背景】 ;戦 後のわが国金融制度の特徴 は、分業制 と専門制を基礎 とするもの として、都市銀行を 中心 とす る普通銀行を核 として、 さらに銀行・ 証券・ 信託等の各業態 ごとに業務分野が規制 され、
長期信用銀行や中小企業金融などの専門金融機関、公的̀政府系金融機関による補完の体制を もっ て構築 されていた。戦後の復興・ 成長のための膨大な資金需要にたい して、低い国民の所得水準 と 蓄積の低位に規定 されて、慢性的な資金不足状態の下 にあつた。そのような状況で、限 られた資金 を国民経済の各分野に円滑に供給するため、専門金融機関を通 じて配分、それによって経済の復興 と成長を促進する「資金供給 メカニズム」が定着する。 これによって、間接金融優位の金融構造が、
オーバーロー ンやメイ ンバ ンク 0シ ステムの形成、 日銀信用への恒常的依存の もとで強化されてい き、高度経済成長の成長通貨供給が展開 してい く。 こうした「資金集中・ 融資集中メカニズム」が、
「人為的低金利政策」や「護送船団行政」 に支え られて高度成長期の金融 システムは進展す ること とならた。
1970年代の石油危機の発生 とその深刻な影響の拡大 とともに、 さらに国際通貨体制の不安定化戸 と為替相場 システムの動揺が広が る中で、わが国経済 は高度経済成長の終焉 と低成長経済への移行 を余儀な くされる。資源・ エネルギー構造の転換に促迫 された経済・ 産業構造の転換が不可避 となっ た。輸出競争力再建を目指 したコス ト削減・ 減量経営化の合理化が国民経済規模で進行する。企業 金融や資金需給にも大 きな転換・ 構造変化が進行 した。法人企業部門の資金不足の解消 と自己金融 比率の上昇、代わって政府部門が財政危機 と景気対策か らの国債発行 によって資金不足を増大させ、
高度成長期までのマネー・ フロー構造に対 して基調変化が進行する。「資金不足」か ら「資金余剰」
への移行がそれである。国債の大量発行に導かれた金融の証券化は、多様な金融資産の累積と、各 種の金融媒介機関の成長を促す要因 となった。
それとともに金利規制や金融業務分野に関する規制に対する緩和を求める動 きが強まることとなっ た。国債の大量発行が市場隔離型の国債管理政策を破綻に追 い込み、自由金利市場を創出・ 拡大さ せたか らである。 こうして金利の自由化 と業務分野の規制緩和の流れが大 きく進行する。金融の自 由化・ 規制の緩和 は、わが国の場合、国際面か らの自由化の進展によっても強 く促 されることとなっ た。輸出依存・ 貿易黒字の累積 と、経常収支の黒字拡大が金融の国際化 と自由化を加速 させたか ら である。金融の自由化 は世界的な低成長経済への移行 とともに、国際的な潮流 となっていたが、わ が国の場合、 こうした流れに遅れなが らも、次第 に金融の規制緩和が金融機関の各業態間の利害関 係の変化を伴いつつ進行 し、分業制・ 専門制を基調 としてきたわが国金融制度の改革・ 見直 しの動 きが強まってきた。金融規制 (内外規制・ 為替管理、金利規制、業務分野規制)の緩和の中で も金 融機関の業務分野規制の見直 しと参入のあり方 は、いわゆる「制度問題」の検討 は、金融制度調査 会を中心 に以下のような経過で審議が進め られ、報告及び答申が出されてきた。。 この中で、制度 問題 と制度改革に関 して重要な指摘がなされた①、③、⑥、⑦を中心に委員会による報告ないし答 申内容そのものに即 して検討を進めることとする。
注151 資料としては、金融制度研究会編『金融制度調査会中間報告・新 しい金融制度について下、
協同組織形態の金融機関のあ り方 について一』平成元年、金融財政事情研究会、同編、『新 しい金融制度について二金融制度調査会答申―』平成3年、金融財政事情研究会。以下では、
報告、答申か らの引用についてはページの記載を省略する6
1985年 9月26日 専門金融機関制度をめ ぐる諸問題研究のための専門委員会 (「制度問題研究会」)
設置
1987年12月 4日 制度問題研究会報告「専門金融機関制度のあり方 について」¨………。① 金融制度第1委員会・ 第2委員会設置
1989年 5月 26日 第1委員会中間報告「協同組合組織の金融機関のあり方 について」………。② 第2委員会中間報告「新 しい金融制度について」………。③ 1990年 7月13日 第1委員会中間報告「地域金融のあり方について」………。④ 第2委員会第2次中間報告「新 しい金融制度について」………・⑤ 制度問題専門委員会設置
1991年6月25日 制度問題専門委員会報告「新 しい金融制度について」………。⑥ 金融制度調査会答申「新 しい金融制度について」………・⑦
①「専門金融機関制度のあり方について」
制度問題研究会 は1987年12月 に報告『専門金融機関制度 について』を公表 した。その第1編にお いて、「 近年 の世界的な金融の潮流変化の中で、特 に重要 と考え られる論点を個別 に取 り上 げてそ れぞれ整理す る」 として、「専門制・ 分業制J以下、18の論点を取 り上 げている。委員会のユニバー サル・ バ ンクについての認識をかたちづ くる上で基礎 となったと思われるこの報告 は、金融機関の 専門制、分業制 について取 り上 げ、縦割 りの分業主義を将来 にわたって これを維持 してい くことが 適当であるかどうかを検討 したものである。
検討の論点 は、海外金融市場 との関係、金融の証券化、スワップ、金融機械化、各種の リスク、
直接金融・ 間接金融の視点、 自己資本比率規制、短期金融市場、ホールセールとリテールとともに、
ユニバーサル・ バ ンクの問題が、経営多角化の利益や利益相反の問題 とともに取 り上げられている。
以下では同委員会のそれぞれの論点についての見解をみることとし、必要な箇所で コメントを行 う という形ですすめる。
a)ユ
ニバーサル・ バ ンキ ング報告 は、 まず「 ユニバーサル・ バ ンキ ングとは、金融機関の取扱業務を銀行業務に限定す るこ とな く、証券業務や証券投資信託業務等を併せ営む ことを認める制度である」 とし、西 ドイツ (当 時)、 フランス、 スイス等 はユニバーサル・ バ ンク制度を採 っているが、 日本°やアメ リカは、「金
融機関が原則 として証券業務を行 うことを認めないいわゆる銀行・ 証券分離制度を採用」 している。
注
(0
報告 は、わが国は「戦前は銀行 も証券業務を行 っていたが、戦後、米国のグラス・ ステイー ガル法の考え方がほぼそのまま持ち込 まれ」たこと、つまり分業制が採用 されて今 日に至 っ ているとする。1981年か らの金融機関の公共債の窓販、デイー リング認可が行われたが、基 本的には銀行・ 証券分離主義が とられている、 としている。さらに報告 は、ユニバーサル・ バ ンキ ングの長所、短所を以下のようにまとめている。まず、ユ ニバーサル・ バ ンキ ングの長所 としては、
1)企
業など金融機関の相手方 は運転資金か ら長期の設 備資金に至 る各種各様の資金を、考え られる全ての方式 によりひとつの銀行 または同一銀行 グルー プの手によって調達することが可能である。2)預
金者および投資家は、貯蓄預金か ら投資信託、証券型商品への振替をひとつの組織の下で行 うことがで きる。
3)銀
行間の資金移動に係 る手数料 など業務サービスのためのコス トが少な くてすむ。4)金
融機関にとって、分離主義の下での銀行 が有する以上の知識を備えることが可能である。5)金
融機関にとって多様な業務の遂行によってリスクが分散、回避 される。」
【コメ ント】 ここで長所 とされている点 について、その根拠が明確でない箇所がある。それ と、 こ こで長所 とされていることは、同時に短所 ともなりうる (たとえば 4)での情報の確保 は、その 利用の仕方によっては利益相反を引き起 こす ことともなりうる)わけであるか ら、単に長所 として 整理するだけでは十分ではない。 またここで指摘 されていることが、ユニバーサル・ バ ンキ ングに とって固有のことであるのか、あるいは他の方式 (たとえば金融持株会社等)において も指摘でき ることではないのか といった疑問など、多 くの問題点を指摘できよう。む しろこうした論点整理で はな く、ユニバーサル・ バ ンキ ングにおいては、産業 と銀行 との関係がどのように形成 され、その もとで これ らの「長所」がどのように位置づけられ、機能するのか という観点か らまとめ られる必 要があるのではないだろうか。
さらに、ユニバーサル・ バ ンキ ングの短所 として以下の点を挙げている。
1)銀
行 は、貸付業務 か ら得た情報を自ら利用す ることにより、証券取引のある顧客の犠牲のうえに利益を図る危険性が ある (銀行業務 と証券業務 との利益相反)。2)貸
付資金の主 たる調達源が預金なので、銀行 は預 金業務に専念 し、顧客 に有価証券の購入を勧めることに大 きな関心をもたない。その結果、証券市 場 とりわけ株式市場の育成・ 発展 という視点が軽視 されがちになる。3)銀
行 は多様なサー ビスの 提供 により、企業の財務全般に深 く関わるため、大銀行の産業支配を招 く誘引 となり、 自由な産業 活動や市場競争が阻害 される可能性がある。4)証
券業務 は、銀行業務 に比べ価格変動 リスクや金 利 リスク等の面でより危険度が大 きい。銀行が証券業務を兼営す ると金融機関の健全経営 (サウンド・ バ ンキ ング
)が
損 なわれ、預金者保護 に支障 を きたす おそれが あ る。」【コメント】先のコメントと同様の指摘をせざるを得ないが、
1)の
ように貸付業務か らの情報取 得が、証券取引顧客の犠牲の上 に銀行が利益を図 る危険性が指摘 されているが、逆 に、証券取引顧 客に対 してより適切な対応が図 られることもあ りうるわけで、 このような危険性を一方的に指摘す ることには疑間がある。む しろユニバーサル・ バ ンクの特徴 として長所 と短所を総合的に指摘する ことのほうが明確なのではなかろうか。 さらに、2)の
ような指摘 もあまりに短絡的である。今 日 の金融環境の中で、 このような指摘が妥当するものと考えているのであろうか。あるいはどのよう な事実なり根拠にもとづいての指摘なのであろうか。ユニバーサル・ バ ンクが貸付業務を重視する に して も、そこか らなぜ証券業務を軽視するという論理が導 き出されるのであろうか。 さらに、産 業支配の論理については、そのような傾向・ 特徴が指摘で きるとして も、 このような指摘 は分業主 義の銀行 との比較では言いえて も、たとえば、金融持株会社 との比較ではどうなのか とい う検討が 当然行われる必要があるが、その点では著 しく不十分 といわざるを得ない。 この点 は後に改めて指 摘することとなろう。b)・ 次いで報告 は、銀行・ 証券分離主義を基軸 とす るグラス・ ステイーガル法が制定 された当時 の事情や状況が、今 日もなお意味を持つかどうかを問 うている。 これは報告が、現在の金融環境の 変化をどのように捉えているか とかかわっている。 そ して各国の株価の乱高下などに見 られるよう に、「 当時の歴史的教訓 は今 日もなおかなりの重みを持 って受 け止め られるべ き」であるがく たと えばデイスクロージャーの規定の整備や、預金保険制度の拡充、準備率制度、統一経理基準、各種 の国際的なセーフテイ・ ネットの存在など、「銀行の健全性を追求す る行政上の措置 も当時に比べ れば整備 されている」 こと、銀行の産業支配 に関 しては、「大企業 を中心 に企業 と銀行のバ ランス も変化」してきているなどの、環境変化を考慮 して、「銀行・ 証券分離制度 について も改めて検討を 行 うことが必要」 としている。
また報告は、「 ユニバーサル・ バ ンキ ングの国では現象面 として少数の銀行が大 きなシェアを持 っ ているという事実」を指摘 しつつ も、銀行の寡 占現象がユニバーサル・ バ ンキ ングとなん らかの関 係があるのかについては、[安易に結論づ けることはで きない]と している。
銀行の産業支配 については、銀行 による企業の株式保有 はじめ、企業の資金調達全般 (短期資金 繰 り、貸付、株式0社債の引受 け、分売 まで
)を
行 うことになれば、「銀行 と企業 との個別の結 び つ きは一層強まることは避 けがたい」 とし、 このことは「企業にとつて利便性が高い反面、銀行の 影響 を陰に陽に受 けざるを得ないこと」 となるとい う。資本市場 との関連 も、ユニバーサル・ バ ンキ ングについて検討すべ き論点のひとつである。報告 は「銀行が本来の業務である貸出の他に引受業務を行 うことになれば、どうして も引受業務、ブロ
=
カー業務等の証券業務 は本来の業務 に対 して補足的業務 として取 り扱われることになりやすい」。
これに対 して分離主義の下では、「証券会社が独立の存在 として、企業に対 し株式の上場を励 まし 増資を誘引 し、社債発行を勧め、 また他方で投資家層を開拓 してい くことになる」。つまり分離主 義の もとでの証券会社の役割を資本市場の発展 と証券分野の拡大 にとって大 きいものがあると評価
している。
【コメ ント】報告が、 グラ不・ ステイーガル法制定当時 と今 日の状況を比較 して、銀行・ 証券分離 主義の今 日的必要性を吟味 していることは重要である。その上で、預金・ 貸付業務 と証券業務の基 本的な相違を確認 しつつ、 しか し、その後の制度的・ 政策的な整備の進展を踏 まえて、今 日的状況 の下で金融機関の業務範囲の拡大を検討 していることは適切である。 しか し先のコメントを繰 り返 すことになるが、たとえば銀行の産業支配 について言えば、基幹・ 主要産業の株式所有構造 と現代 の会社支配構造の分析を踏まえて議論すべ き内容であって、単に銀行の業態だけか らそのような結 論を導 くことは不十分 といわざるを得ない。銀行の寡 占化について も同様であって、 これは産業側 の競争・ 市場構造 と相互 に深 くかかわっていることであり、銀行のあり方だけで もたらされている ことではないであろう。そのような視点か らの検討 とあわせて、証券業の寡占体制の実態について も同時に分析のメスが加え られる必要があるのは明 らかであろう。 さらには、 ここでの検討は、金 融持株会社の もとでの寡 占体制の分析 との比較検討、総合的判断が求め られるものであろう。
c)【利益相反について】
(1)銀行業務の多様化を図る際に、いかに して利益相反を回避す るかは最大の問題点のひとつ とさ れ、かなりのウエイ トが この論点 に当て られている。報告では、 この問題について、以下のように 検討が行われた。 まず、その規定 0内 容を明確 に している。「利益相反」 とは、ある顧客の利益の 犠牲 において、 自己または他の顧客の利益を図 ることをいう。「 この場合往々にして犠牲 にされる 利益 は一般大衆ない し力の弱い顧客であ り利益が図 られるのは仲介者ないし仲介者 と密接な関係が ある特定、少数の力のある顧客であることが多 い」 として、「利益相反問題はいわば銀行がどこま で業務を拡大 してよいかという問題の原点に位置する問題のひとつである。」
ところで「利益相反」 はなぜまたどのように して生 じるのであろうか。報告はこれを以下のよう に説明する。「金融機関は、多様な業務を行 う際に内部情報を利用することにより、 自己または一 部の特定の顧客の利益を図 り、一般の顧客または一般の預金者・ 投資家の利益を害する可能性があ る。」金融機関における利益相反 は、金融機関が証券業務や信託業務 にまで業務を広げた場合に生 じやすいことについての指摘は多い。 とりわけ、金融機関が取引を通 じて入手する情報量が増大す ることにより、利益相反が生 じやすい。1932年の米国ペコラ委員会や1979年の西 ドイツのゲスラ‐
委員会が挙げる個別・ 具体の事例に即 して、報告 は説明する。
a)例
えば、「 ある企業が銀行 に借入れを申 し入れた ものとする。銀行 はその借入金の使途 はもと より、現在及び将来の経営計画などについて説明を受 ける機会を持つ こともあろう。問題 はその 過程で知 りえた情報である。 この情報を自行の利益のために使い株式の売買等をすることになると、顧客や一般投資家の利益 はいとも容易に害 されて しまう。」
b)ま
た、銀行が「貸付業務を行 うに際 して貸出先企業の経営不振を知 ったときに、当該企業に社 債を発行 させて投資家に売 り捌 き、その代わ り金で潜在的に回収不能 となるおそれのある自らの 貸付金をいち早 く回収す る」 とい うことが起 こりうる。c)さ らに、 自行が保有する銘柄の株式 に関 し、顧客である投資家に対 して資金を貸 し付 けること により株式投資を助長 し、その値上が りなどにより自らを利す る」 ことがある。
こうした事例は現在で も起 こりうるし、金融機関だけでな く経済活動を行 うに際 して、程度の差 こそあれ、「利益相反 はあ らゆる企業活動 につ きものの現象」 なのである、 とす る。
け
)利
益相反の回避それでは利益相反を回避する方法 としてはどのようなことが考え られるであろうか。そのひとつ の方法 は、「各組織体の活動範囲をできるだけ限定す ること」であるが、反面そのような縦割 り的 な業務規制 は、「組織体の自由な業務活動を制限 し、各業務分野への参入 を制限す る結果、業務範 囲が既得権化 し、停滞をもたらす という弊害」が指摘 される。利益相反を回避 しつつ、業務分野の 拡大 という要請 にこたえてい くには、基本的には、「 内部情報が利益相反を引 き起 こす ことのない よう、一つの組織体の中で各関係部門間を遮断する内部隔壁 (いわゆるチ ャイニーズ・ ウォール、
またはチャイナ 。ウォール、万里の長城)を設 けて、利益相反を排除す るためのルールを確立 し、
情報へのアクセスの制限、人事交流の抑制などの措置を講 じることが必要 とされる。 しか しこのこ とを実効あるものとすることは極めて難 しい問題である。
専門委員会の考え方 は利益相反問題 について、競争原理の重視 (競争原理を信頼 し利益相反問題 を企業間の競争の中で解決す るという考え方。つまり企業間に競争が存在する限 り、顧客の信用を 失墜するような利益相反行為を行 うことはで きないとする考え方をさしている)によつてすべてが 解決 されるという考え方には疑間を抱かざるを得ないとしている。だが しか し業務分野の拡大の要 請を当初か ら否定す るべきでないこと、 さらに、組織内に業務隔壁を設定す るだけで利益相反の回 避に向けて、有効 に機能するとは考え られないく というものであった。°
コメントすれば、「利益相反回避の問題 は、金融機関の業務範囲を検討する際には避 けて通 るこ とはで きない重要な問題点」であるが、 この時点ですでに、専門委員会では、「別会社方式」 に傾 斜 した考え方を打ち出 していることが明 らかに読み取れる。委員会は利益相反が どのような方式の 下で も起 こりうることとして、その回避の可能性が相対的に高い方式 は何か という点か らの、選択
肢の絞込みという姿勢 と受 け取 られかねない論点整理である。 さらに、金融機関の業務範囲の拡大 は、利益相反問題の可能性を増大 させるという認識の下で、 これに対するさまざまな対応措置が考 え られなければな らないと思われるが、 この段階では議論はそこまでの進展を見ていない。 これに 関する諸外国の経験を含めた検討が必要であろう。°
注(η 利益相反への組織面か らの対応 として ①競争原理重視、②同∵企業内での業務隔壁チャ イニーズ・ ウォールの構築、③別会社による、④利益相反を生 じるおそれのある業務を一切 認 めるべ きではないとするもの、などがある。
注
(0
たとえば、英国では、「①不公平 な慣行の禁止、健全な市場慣行 による取引、 ほか、「最良 条件執行の原則 (運用 に当たって選択の余地がある場合 には、顧客の利益が最大 になるよう に執行すること)、 及 び利益優先の原則 (顧客の利益 と自己の利益が相反す る場合 には顧客 の利益が優先す る)などの規定が定め られているという。【関連会社、 いわゆる子会社方式】
金融機関が本来の金融業務のほかに付随業務や関連・ 周辺業務を拡大することについては、各国 毎 に対応の違 いがあるが、そこには一定の制約がある。° そこで分野の拡大を図 るには本体での兼 営の範囲を拡大するか、関連・ 子会社で営むかの方法がある。前者 は、ユニバーサル・ バ ンクであ
り、先述 したところである。そこで子会社方式が ここでの問題である。
注0)金融機関の行 うことのできる業務が限定 されているのは、「銀行が他業 (たとえば不動産 業、物品販売業等)へと無限に業務を拡げていけば、銀行 とは何か という問題に逢着するし、
銀行経営の健全性、預金者保護等を危 うくし、 また、銀行が産業支配を行 うなどの懸念」が あるためである。
報告 は、わが国 と同 じく、銀行・ 証券分離主義を採 るアメ リカについて検討 している。銀行持株 会社 と、二つの形態での銀行による子会社についてである。
1)銀
行持株会社 ;銀 行持株会社 とは以下のいずれかをさす。「持株会社が銀行の議決権付株式の25%以上を直接、間接 に所有するか、持株会社が銀行の取締役あるいは理事の過半数の選任をコ ントロールできるか、または、連邦制度理事会が持株会社が直接間接に銀行の経営または政策に 対 し支配力を及ぼ していると認定 (ただ し、持株会社の保有する議決権付株式が
5%未
満の場合 を除 く)した場合、銀行持株会社 とみなされる。銀行持株会社 またはその関連会社が行 うことの できる業務 は、FRB・
レギュレーションYにより列挙 された業務 に限定 される。それは米国における銀行業務の範囲 と概ね同 じである。(つま り持株会社の子会社であって も、証券業務など 他業ができるわけではない。)
2)国
法銀行 自身が子会社を保有する場合 (銀行業務及び付随業務 に限 り子会社の設立が認め られ ている。 しか しこの場合で も、銀行 にとって他業 となる業務、たとえば証券業務を営む ことはで きない。3)連
邦準備制度非加盟州法銀行の子会社の場合。連邦準備制度非加盟州法銀行 はそれ自身で証券 業務を行 うことはで きないが、子会社を持ちそれに証券業務を行わせ ることはできるとされてい る。このような形態で、銀行の周辺業務が子会社の形態で行われ うるとして も、 これ ら業務 による リ スクの発生や、銀行子会社の経営危機に対 しての親会社の関係 と「責任」問題 は現実の ものとして あることに留意 しなければならないであろう。アメ リカにおいて も、近年の金融環境の急激な変化 の中で、銀行 と証券の関係をは じめとして、 グラス・ ステイーガル法等の包括的な見直 しと金融制 度の再構築の機運が高 まってきた⑩こと、それとの関連で金融持株会社の業務範囲問題の見直 しが 大 きな問題 になってきたのである。 これ らは、わが国の金融制度改革 にも強い影響を与えるものと なった。 しか し報告 はこの段階では以下のような見地を明確に していた。「 わが国の法制 は、独 占 禁止法第9条により、すべての業務に対 し、持株会社の設立が禁止 されている。」「銀行が持株会社 を保有 し、その傘下 に証券会社を持つ方式 は、現行の独 占禁止法が持株会社制度そのものを否定 し ている以上、マクロ的な視野か ら一般産業界を含めた持株会社のあ り方全体の一環 として論 じられ
るべ き性質のものであろう。金融機関だけを他の業態か ら切 り離 して持株会社制度に関す る独禁法 上の解決を急 ぐことは適当ではない。」
注u0 80年代後半 この領域での改革案の提起が活発化 してきた。1986年のコ リガ ン (ニューヨー ク連銀総裁
)報
告がその一例である。 そこで、今 日の金融 システムにおけるグローバル化や 業態間の垣根が急速に崩れてきたこと、 リスクの多様化 と拡大に対する対応の遅れを指摘 し、決済機能の問題 とあわせて、金融機関組織のあり方 として、銀行本体での証券業務等への進 出ではな く、子会社を経由 して行 う方式を提唱 した。
③ 中間報告「新 しい金融制度について」
金融制度第二委員会 は1989年 5月中間報告『 新 しい金融制度について』を公表 した。制度問題研 究会 による報告を踏 まえ、およそ1年余の審議検討を経てまとめ られた。報告 は金融制度見直 しの 背景 として、安定成長の定着後のわが国経済の構造変化が、金融資産の大幅な増大や資金余剰の顕 在化など、金融の基調 も顕著な変化を しめ したこと、 こうした背景の下では、金融機関の業務範囲 を縦割 りに厳 しく区分 けす ることの意義 は薄れ、金融分野での相互参入 と競争の促進のため、制度
の見直 しが求め られているとした。 さらに、国民の金融ニーズの多様化や、金融技術革新、金融 リ スクの増大、最近 における金融 自由化措置、各国の金融改革の動 きや、金融制度見直 しに関する視 点を踏 まえて、金融機関の業務分野の見直 し、相互参入 について審議を重ねまとめたものである。
そ して、わが国の金融制度の見直 しを行 うにあたって考え られる仕組みとして以下の五つの方式を 挙げ、それぞれについて検討審議 した。
A:相
互乗入れ方式、B:業
態別子会社方式、C:特
例法方式、D:持
株会社方式、E:ユ
ニバー サル・ バ ンク方式がそれである。中間報告では、 これ らの方式について、①利用者の立場、②国際性、③金融秩序の維持 (金融制 度の安定性、公平性)の視点等か ら検討を加え、「 中間段階 として次のように委員会意見を集約 し た。」 ここでは、われわれの問題関心 に引 き寄せて、業態別子会社方式、持株会社方式、ユニバー サル・ バ ンク方式のそれぞれについての委員会による検討の要点をおさえてお くこととしたい。
1)まず、ユニバーサル・ バ ンクについてである。「 中間報告」 はユニバーサル・ バ ンクについて つ ぎのようにとらえる。「 ユニバーサル・ バ ンク制度 は金融機関が自由に広い範囲で事業展開を行 うものであるが、そのうちもっとも特徴的なことは金融機関が銀行業務 と証券業務をあわせて行 う ことにある。」「制度 として極めて簡明であり、寡 占、利益相反等の問題を別にすれば、 この方式が 最 も効率的なものであると言 うことができる。金融業務の自由化 は世界の流れであり、業務範囲が 最 も広いユニバーサル・ バ ンク制度 は外国金融機関にとって も便利である」 としている。
報告 はこのように捉えた上でユニバーサル・ バ ンク制度の長所 と短所を指摘する。 これは前回報 告 と共通の視点であるが、 より詳 しい検討が行われている。
まずユニバーサル・ バ ンクの長所 としては以下の七点が挙 げられている。①「金融機関は広範な 商品・ サー ビスを提供することができるため、家計や企業等の利用者 は、収入、支出、資産、負債 の状況に応 じた、 きめ細かい広い範囲のサービスを同一の金融機関で受けることができる。また資 金移動等 に要する手間や手数料負担が減少す る。」②「金融機関の経営者にとって経営の自主性を 発揮できる幅が広 く、 自己の得意な分野ない し商品に特化 してい くことができる。そこに市場原理 が働 き自然な棲み分 けが行われる。③新規参入が容易 となり競争が促進 される。すべての金融機関 がすべてのサービス分野において競争を行 うことができる。(預金金利、各種の手数料
)④
ユニバーサル・ バ ンク制度 において、金融機関は「業務多角化の経済 (ecOnomies of scOpe)」 を享受する ことができる。複数の財貨やサー ビスを同時に生産すれば、それぞれの商品を別々に生産する場合 に比ベ コス トを引き下げることがで きる現象を称 して「業務多角化の経済」 と言 う。金融機関はこ れにより経費の節減やそれを利用者 に還元 し利用者利便をもたらす。⑤金融機関は一元的な資金調 達 と運用が可能 となり、経営の効率化が もた らされる。⑥金融機関は、多様な業務の遂行によって
金融 リスクの分散、回避が可能。⑦「 金融業務 の 自由化 は世界的な流れであ り、 ユニバ ーサル・ バ ンク制度 はその流れ に沿 うものである。 また制度 と して非常 にわか りやす く、 わが国の金融制度 を 外 に開かれ た体制 にす るよ う働 く。」
それに対 して、ユニバーサル・ バ ンク制度の短所 として挙げられているのは、以下の点である。
①「金融機関が証券業務を行 う場合、価格変動の大 きい商品である株式や長期の債券を保有する割 合が増えるので、 これ らの価格変動の影響を受 けることになれば、金融機関の経営の安定性が揺 ら
ぐことにもなりかねない。 これは、ひいては預金者 にとって自己の預金が保全 されないおそれが増 し、預金者保護の上か ら問題を生ず る。」②「金融機関は、多様な業務を行 う際に、内部情報 に接 する機会が他の法人に比べ格段 に多 く、 こうした内部情報を自らの特定の顧客の利益のために使え ば、一般の顧客の利益が容易に害 される可能性がある。すなわち、金融機関は資金取引の仲介機能 を営むことか ら、利害の対立する顧客を大量に抱えており、それ ら顧客に比べてはるかに多 くの情 報量を持つため利益相反 に陥 るおそれがある。」③金融機関による企業に対す る影響力の過大化、
株式保有、役員派遣、 メイ ンバ ンク制、大手の金融機関による企業支配、産業支配を招 き、企業の 自主性や経済社会の活性化を損 なう可能性。④金融機関が幅広 い業務を行 うことになれば、規模の 利益 (economies of scale)が 働 きやす くな り、大規模金融機関 による寡 占体制の強化 によって利 用者利便や公平が損なわれるおそれがあること。⑤銀行の主たる収入源が貸付であること、それゆ え顧客に有価証券の購入を勧めることに大 きな関心を持たない可能性がある。その結果、有価証券 市場 とりわけ株式市場の発展が損なわれるおそれがある。⑥銀行 は中央銀行か らの借入れ、預金保 険などを利用できる。競争上、証券 よりも有利 になるのではとの指摘 もある。
ユニバーサル・ バ ンクの長所 と短所については、前回報告の見地を基本的に踏襲・継承 している。
したが ってそ こで述べたことはここで も当てはまるが、再説 は省略する。前回よりも詳 しくなって いる点があるが、基本的には長所が同時に短所 になるという論法 になっていること、ユニバーサル バ ンクの特徴 としてほぼ論点をおさえているとは思われるが、委員会の基本的なスタンスは、抽象 的・ 理念的なユニバーサルバ ンク像 に基づいて議論が組み立て られてお り、実証的分析 なり、具体 的根拠 によって立論 されているわけではないことは、確認 しておきたい。 とくに短所 として挙 げ ら れている点の中には明 らかに事実認識において問題があるのではないか という項 目や、根拠の説明 が不十分な項 目が散見 される点 も指摘 しておこう。ただ し、委員会の結論的な認識 はそれとして明 快である。
ユニバ ーサル・ バ ンク制度で最 も強調 される短所 は、「広い意味での利益相反」の防止がかな り 難 しいのではということである。前回報告 と同様、以下のように、利益相反の事例を挙 げている。
①経営不振の貸付先企業 に社債を発行 させ、一般投資家に売 りさばき貸出金を回収。②証券取次 業務 と自己売買業務の併営 による利益相反 (顧客 に対する証券取引資金供与 による証券取引勧誘 に