レーダ散乱量を用いた散乱体の形状認識について II
研究代表者 研究員 白井 宏(中央大学理工学部電気電子情報通信工学科)
共同研究者 研究員 趙 晋輝(中央大学理工学部電気電子情報通信工学科)
共同研究者 研究員 牧野 光則(中央大学理工学部情報工学科)
1
はじめに高周波電磁波散乱は,物体の局所的形状がその散乱パ ターンに大きく影響を及ぼす。したがって高周波電磁波を 用いた物体の散乱現象を調べるには,その散乱体の局所的 な形状をよく知る必要がある。逆に局所的な形状からの散 乱現象をある程度把握しておけば,その散乱データを基に 散乱体の形状の推定が可能となる。本研究は,こうした高 周波電磁波散乱解析に基づいて散乱体の形状認識を試みて いる。
筆者らは既に,導体多角形状をモデルにした高周波電磁 波散乱解析を行い,波長に比べ十分大きな散乱体の場合,
幾何光学的回折理論
(Geometrical Theory of Diffraction:
GTD[1])
に代表される高周波散乱解析手法は,解析に十分有効であること,また後方散乱については,主反射方向 をもつ平板の両端のエッジで励振されるエッジ回折波が重 要な役割を果たすことを示してきた
[2], [3]
。さらに凸型柱 状散乱体に平面電磁波が入射した場合の散乱現象をGTD
を用いて解析し,主反射方向となる反射境界における回折 波の表現を基にして,後方散乱波の性質を調べた。そして モノスタティックレーダ散乱断面積(Radar Cross Section:
RCS)
の角度依存性から,その散乱体を構成している各平 板の大きさを簡単に推定する方法を示した。また提案した アルゴリズムの有効性を調べるために,アルミ平板を用い て作られた導体散乱体モデルを使ってRCS
値を実測し,そ れらのデータに対し本アルゴリズムの適用を試みた。その 結果,本手法は凸型柱状の散乱体に対し,構成要素である 各平板の寸法を精度よく推定できることが示された。さら に各平板を接続して元の散乱体の形状を再構成し,可視化 する方法についても調べて報告した[4],[5]
。昨年の研究
[5]
に引き続き,さらに高い精度で散乱体の 形状を認識するためのアルゴリズムの開発を行った。推定 アルゴリズムに基づいて得られた散乱体の形状を用いて,ESM (Equivalent Source Method: ESM)
によってレー ダ散乱断面積を計算し,最初に与えられたデータと比較す ることにより,形状推定の精度を上げる方法について検討 している。-50 -45 -40 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10
-180-165-150-135-120-105 -90 -75 -60 -45 -30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 135 150 165 180
RCS[dBsm]
angle[deg.]
Measured peak1 peak2
図
1
実測値からのピーク抽出アルゴリズム(モデル 1)
error distance
図
2
再構成図における誤差距離の検出(モデル 1)
2
問題の定式化本研究は,ターゲットの形状が不明な場合に周波数領域
RCS
の角度変化の様子からその全体形状を推定すること を目的としている。昨年,文献[4],[5]
で提案した形状認 識方法に基づいて,図1
に示すような周波数領域におけ るRCS
値の角度変化から,散乱体の構成要素に対応する ピークの抽出を行う。始めにRCS
の主なピークを抽出し,peak1
とおく。しかし,RCS
の角度変化において,面の主反射方向におけるピークの左右には,面の端部からのエッ ジ回折波の干渉により細かい振動が現れる。これらのピー
クも含む
peak1
中から主反射面に対応するピークを選別して抽出するために
peak1
同士を接続した波形を作成し,その中から再度ピークの抽出を行い
peak2
とする。このpeak2
を構成要素からの主反射と考え,RCS
値の降順に認識に使用する構成平板の個数を増やしながらターゲット の再構成を行う。
本方法を用いた形状認識方法では,ピークを持つ角度順 に端面を接続していくため,推定した形状の始点と終点の 間に誤差が集中し,図
2
のように誤差距離が現れる。そこ―
25
―106
164 154
116
o o
o o
O
図
3
モデル1
表1
誤差距離(モデル 1)
faces error distance faces error distance
3 3.01 [cm] 4 0.89 [cm]
5 2.76 [cm] 6 0.95 [cm]
7 10.36 [cm] 8 11.53 [cm]
で,複数の再構成図の中から始点と終点の距離が極小とな る面数を最適な再構成図の候補として採用する。しかしな がら始点と終点の距離からだけでは最適な推定形状の決定 まで行うことは不可能である。そこで推定形状の妥当性の 評価を行うために再構成したモデルの
RCS
の角度変化をESM
を用いてシミュレーションし,認識したい元のター ゲットのRCS
値と比較する。そして推定に用いたRCS
と そのシミュレーション値の誤差を評価し,推定形状の妥当 性の検討を行う。ESM
を用いてRCS
のシミュレーション 値を求めるとき,誤差により空いた隙間を補うことが必要 になる。ここでは再構成図形が開いている場合は新たな面 を,また推定形状の最初の面と最後の面が交差する場合は 交線において両者を接続する方法を用いた。本法では散乱体を構成する各平板の大きさについて構成 要素の平板毎に推定を行う。このため推定した形状は,構 成要素の各平板の奥行き長さ
L
についてそれぞれ異なった 値をとる。ESM
を用いて2次元推定形状のRCS
値を計算 するためには,L
は一致している必要があるが,本方法で はこのL
に再構成図の全構成要素平板の中央値を用いる こととした。3
結果及び検討考察本方法のアルゴリズムの妥当性を評価するためにアルミ ニウム平板を接続して作られた,柱状散乱体の
3
次元モノ スタティックRCS
値を電波暗室内にて測定し,そのRCS
値からターゲットの形状認識を行った。測定データは0.5 ◦
ごとの1024
回の平均データであり,ピーク値とそのビー
ム幅を決定するために測定値を2
次のB
スプライン関数
[6]
で補間している。
図
1
は,凸型6
角柱(
図3)
のモノスタティックRCS
の 実測値である。推定形状は表1
,図4
から面数4
と面数6
(4faces) (5faces) (6faces)
(7faces)
図
4
再構成断面図(モデル 1),(4, 5, 6, 7
面)-50 -45 -40 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10
-180-165-150-135-120-105 -90 -75 -60 -45 -30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 135 150 165 180
RCS[dBsm]
angle[deg.]
Measured ESM simulation 4 faces ESM simulation 6 faces
図
5 ESM
シミュレーション値(モデル 1)
の場合で誤差距離が
0.89
,0.95[cm]
と極小値をとる。こ の情報だけでは両者のどちらが妥当であるかは判定できな い。そこでこの2
つを推定形状の候補と考えてESM
シミュ レーションを行う。図5
はモデル1
の実測値,ターゲット を4
角柱,6
角柱と仮定した場合のESM
シミュレーショ ン値である。図5
より0 ◦ , ± 180 ◦において4
角柱推定形状
のESM
シミュレーション値はピークが無く実測値と比較
して大きな誤差が出ている。また,6
角柱推定形状のESM
シミュレーション値は実測値とよく一致している。このこ
とからターゲットは6
角柱であることが推定できる。6
角
柱として推定を行った再構成図は図2
となり,使用したモ
デル形状に近い推定を行うことができている。
次に一部凹型部を含む散乱体について検討する。ただし 本方法では現在,面の入れ換えによる凹型部の認識につい ては全ての場合に対して行うことが困難であり,まずは凸 型形状として認識する。面の入れ換えを行い,凹型部の認 識を行うには有効な方法として時間領域の情報を利用する ことが考えられている。ここでは,理論形状との比較のた めに面の入れ換えを行った再構成図を示すほか,
ESM
シ ミュレーション値と実測値の誤差からおおよそ凹型部の存 在の有無について検討を行う。図6
の凹型部を含む8
角柱 を,図7
のRCS
実測値を基にターゲットの形状認識を行 う。表2
,図8
からモデル2
は8
角柱であると推定するこ とができる。そこでターゲットを8
角柱であると仮定し,ESM
法を用いてシミュレーションを行ったRCS
値が図9
の細い破線である。―
26
―O 95.5o
225.8o 128.7o 121.4o
200.7o 127.9o
図
6
モデル2
-50 -45 -40 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10
-180-165-150-135-120-105 -90 -75 -60 -45 -30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 135 150 165
RCS[dBsm]
angle[deg.]
Measured
図
7 RCS
実測値(モデル 2)
表
2
誤差距離(モデル 2)
faces error distance faces error distance
[cm] [cm]
3 7.93 (7.93) 4 6.65 (6.65)
5 6.58 (6.58) 6 5.58 (5.58)
7 3.97 (2.15) 8 2.26 (0.47)
9 24.97 (23.22) – –
(カッコ内は 93.6 ◦ピーク使用を表す.)
(6faces) (7faces) (8faces)
(9faces)
図
8
再構成断面図(モデル 2),(6, 7, 8, 9
面)-50 -45 -40 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10
-180-165-150-135-120-105 -90 -75 -60 -45 -30 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 135 150 165 180
RCS[dBsm]
angle[deg.]
Measured using 113.8 peak usnig 93.6 peak
図
9 ESM
シミュレーション値(モデル 2)
表
3 RCS
ピーク値の比較(モデル 2) Estimated Original RCS Estimated angle [deg.] peak [dBsm] RCS peak [dBsm]
-90.1 5.8921 3.8973 (5.5368) -1.6 -8.4633 -7.7485 (-7.5174) 34.2 -7.0259 -7.7746 (-7.8600) 49.8 -8.4664 -8.0100 (-8.9620) 88.9 1.2108 -3.7202 (1.4345)
(93.6) (-1.0695) **
113.8 -10.3207 -7.3476
146.6 -8.5583 -7.2524 (-6.8630) 180.0 -6.8671 -9.1650 (-6.8371)
(
カッコ内は93.6 ◦ピーク使用を表す)
次に表
3
に示すように推定形状の主反射方向にあたるRCS
値のピークを実測値とシミュレーション値で比較を 行った。大きな誤差が
− 90.1 ◦に現れているが,推定形状は最初
の面と最後の面を交差線で接続し,余分に長い分を切り離
しているために± 180 ◦ , − 90 ◦方向の平板は面積が小さく
なりRCS
もシミュレーション値が実測値よりも小さくなっ
たと考えられる。次に88.9 ◦ , 113.8 ◦についても誤差が現れ
ている。これは88.9 ◦に隣接する93.6 ◦のピークは,88.9 ◦
平板の二次的な振動ピークと考えたために起きた誤差であ
る。これらの情報を基に113.8 ◦に主反射面をもつ平板の
かわりに93.6 ◦方向に主反射する平板があるとして,ESM
法を用いてシミュレーションした結果が図9
の太い破線で
ある。平板の主反射方向が113.8 ◦であると想定した場合
の結果(
図9
の細い破線)
と比較して88.9 ◦付近において
実測値とシミュレーション値の誤差が小さくなっているが,
RCS
もシミュレーション値が実測値よりも小さくなっ たと考えられる。次に88.9 ◦ , 113.8 ◦についても誤差が現れ
ている。これは88.9 ◦に隣接する93.6 ◦のピークは,88.9 ◦
平板の二次的な振動ピークと考えたために起きた誤差であ
る。これらの情報を基に113.8 ◦に主反射面をもつ平板の
かわりに93.6 ◦方向に主反射する平板があるとして,ESM
法を用いてシミュレーションした結果が図9
の太い破線で
ある。平板の主反射方向が113.8 ◦であると想定した場合
の結果(
図9
の細い破線)
と比較して88.9 ◦付近において
実測値とシミュレーション値の誤差が小さくなっているが,
93.6 ◦のピークは,88.9 ◦
平板の二次的な振動ピークと考えたために起きた誤差であ
る。これらの情報を基に113.8 ◦に主反射面をもつ平板の
かわりに93.6 ◦方向に主反射する平板があるとして,ESM
法を用いてシミュレーションした結果が図9
の太い破線で
ある。平板の主反射方向が113.8 ◦であると想定した場合
の結果(
図9
の細い破線)
と比較して88.9 ◦付近において
実測値とシミュレーション値の誤差が小さくなっているが,
113.8 ◦に主反射面をもつ平板の
かわりに93.6 ◦方向に主反射する平板があるとして,ESM
法を用いてシミュレーションした結果が図9
の太い破線で
ある。平板の主反射方向が113.8 ◦であると想定した場合
の結果(
図9
の細い破線)
と比較して88.9 ◦付近において
実測値とシミュレーション値の誤差が小さくなっているが,
ESM
法を用いてシミュレーションした結果が図9
の太い破線で ある。平板の主反射方向が113.8 ◦であると想定した場合
の結果(
図9
の細い破線)
と比較して88.9 ◦付近において
実測値とシミュレーション値の誤差が小さくなっているが,
シミュレーション値では
93.6 ◦の平板に対応するピークが
失われている。これは,実際のモデルでは主反射角90.0 ◦
, 95.5 ◦の二平板は互いに散乱波が干渉して合成波が激し
く振動するのに対し,図
10
の推定形状では88.9 ◦ , 93.6 ◦
の二平板が凸型に接続されたことでエッジの位置が変化し
て主反射角の近い二平板の計3
つのエッジ回折波が互いに
干渉し,一つのピークとなったためであると考えられる。
また,理論形状との比較のために面の入れ換えを行った再 構成図は図
11
となる。4
結論本報告では周波数領域におけるモノスタティック
RCS
値の角度変化を用いて柱状散乱体の形状認識を行い,ESM
を用いて推定形状を評価する方法を考案した。その結果本 方法は柱状散乱体の各平板の大きさを推定するのに有効で あり,元データと推定形状のESM
シミュレーション値と を推定形状における主反射角のRCS
値ピークについて比―
27
―Model Estimated
図
10
モデル2
の再構成図Model Estimated
図
11
モデル2
の再構成図(面入れ換え後)
較することで推定形状の妥当性を確認する方法が有効であ ることがわかった。また,一部凹型部が含まれる場合や同 一主反射角に複数の平板が存在する場合について,元デー タと推定形状のシミュレーション値との間に起きる誤差の 問題を明らかにした。今後は凹型部の有無による
RCS
シュ ミレーション値と元データの誤差を評価し凹型部の認識を 可能にすること,また時間領域のRCS
値の情報を組み合 わせることで凹型部,同一主反射角の複数の平板の認識に ついて検討を進める方針である。謝辞
本研究は,中央大学 理工学研究所
2000
年度,2001
年 度共同研究の援助を受けて行われた。ここに記し,謝意を 表する。参 考 文 献
[1] J. B. Keller: “Geometrical theory of diffraction,”
J. Opt. Soc. Am., 52(2), pp.116-130, 1962.
[2]
林,白井,関口: “
多角柱による平面電磁波の散乱解 析,”
電学会電磁界理論研資, EMT-97-36, pp.61-66, 1997.
[3]
白井,林: “
自動車モデルに対する電磁波の散乱,”
電 学会電磁界理論研資, EMT-99-78, pp.47-52, 1999.
[4]
小野,白井,有竹,牧野,趙: “RCS
値を用いた凸型 柱状散乱体の形状認識について,”
電気学会電磁界理 論研資, EMT-01-96, 2001.
[5]
白井,趙,牧野: “
レーダ散乱量を用いた散乱体の形 状認識について,”
中央大学 理工学研究所 年報, 8
号,
pp.12-15, 2001.
[6]
桜井,菅野,吉村,高山: “C
によるスプライン関数,”
東京電機大学出版
, 1993.
―