[資料] 建造物の内装に現れた幾何学錯視の事例 : 大阪市営地下鉄淀屋橋駅構内床面に描かれたパタン の場合
その他のタイトル [Material] An optical illusion observed on tiling on a subway station platform
著者 池田 進
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 9
号 2
ページ 105‑107
発行年 1978‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00022919
資 料
建造物の内装に現れた幾何学錯視の事例
—大阪市営地下鉄淀屋橋駅構内床面に描かれたパクンの場合—
池 田
進
大阪市営地下鉄の淀屋橋駅を利用された方のなかで,上り線でも下り線でもよい,いずれか一 方の線を背にして反対側フォームをみたときに,床のタイルの目地の線が異様にちらちらして不 安定な見え方をするのに気づかれたことがあろうか。
ここに記載する事例は,大阪市営地下鉄淀屋橋駅構内の床面のタイル貼り模様にみられるツェ ルナー錯視についてのものである。このような公共建造物の内装において,極めて基本的な幾何 学錯視図形が典型的に, しかも意図せずに組み込まれている事例は稀であると思われるので記録 にとどめておきたい。
周知のとおり,大阪市営地下鉄各駅の構内の床面はすべて同一規格のクイルを貼り合わせたパ タンで統一されている。
クイルの形状の概要は,たてよこそれぞれ20cmのぞうげ色(慣用色名)で,化粧面には幅約1 cmの縞模様の溝が図1に示すような形に刻まれている。 この溝は, クイルの貼り合せの目地と
ともに,クイルの化粧面に対して相対的に黒っぽくみえる。
クイルの貼り合わせ方は淀屋橋駅を除く各駅では図 2aのようになっている。ところが,淀屋 橋駅の場合のみが図 2bのようにタイルのむきが一列
ごとに交互に逆むきになっている。淀屋橋駅だけがこ のようになっているのは,おそらく施工時の何らかの 麒甑によるものであろう。しかも同駅のクイル貼りは 部分的には他の駅と同様になっているのである。
ツェルナー錯視は, 1本の主線分に,何本かの短い 線分がそれぞれ一定の角度をなして交叉するとき,主 線分の見かけの方向が物理的に固有の方向からずれて みえる現象で,図 3のような配置では,乎行にひかれ
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図1 大阪市営地下鉄各駅の床張りに 用いられているタイルの形状
関西大学『社会学部紀要』第9巻第2号
図2a 大阪市営地下鉄淀屋橋駅を除く 各駅の床のクイル貼り合わせ方
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図3 ツェルナー錯視図形 平行にえがかれた主線分は,
, みかけでは平行にはみえない。
図2b 大阪市営地下鉄淀屋橋駅の床の タイルの貼り合わせ方
図4 大阪市営地下鉄淀屋橋駅の床面のクイル 貼り模様—ツェルナー錯視図形(図 3) と共通の構造をなしている。平行である はずの目地が平行にはみえない。
た主線分は,明らかに斜線の影響をこうむって,乎行にはみえなくなる。
ところで, 図
2b
に示したような貼り合せ方によって描かれた淀屋橋駅の床面のクイルの模様 は期せずして図3のツェルナー錯視図形と同一のパクンをなしている。すなわち,フォームの縁 に乎行な目地の線を主線分として,クイルのジグザグ模様の線が一定の角度をなしてよこぎる配 置になっている(図4)。 この条件が同駅の床面の幾何学模様に錯視をひきおこさせる原因にな っているし,また当然のことながら,同一規格のクイルを使ってはいても他の駅の床模様にはこ の錯視は現れない。なおいっそう,ここで興味をひくのは,床面の目地が単に平行でなく感じられるだけでなくて,
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建造物の内装に現れた幾何学錯視の事例(池田)
非常にめまぐるしく交叉するような印象がある点である。床面が足場としての確たる乎面を構成 するのでく,むしろ空間的に不確定な浮き上ってくるような印象でもある。この印象はあるいは 眼が床面を斜に見おろしているという状況に関係があるのではなかろうか。
ふつう,錯視図形は前額面に平行か,あるいはそれに近い状態で観察するのが通常である。た とえばこの紙面に描かれた図3のパタンは視線が垂直に交るように紙面をもってきて観察するの が通常の実験事態である。
しかるに駅の床面は,ちょうど紙面をむこうに倒してバタンをななめにすかしみるような角度 からしか観察できない。そしてこのとき,乎行に描かれている目地が床面に拘束された二次元乎 面上において非平行的に現象するだけではなくて,同時に目地が床面の位置から起き上っている
ような印象をともなっている。
これが,同駅のフォームに立ったとき, 目地が異様にちらちらして眼の焦点が定まらないよう なおちつかない感じをおこさせる理由ではなかろうか。
この点に関しては, ツェルナー錯視図形を斜方向から観察する条件での実験的検討を経ること によって,はたしてそのような三次元的な効果が生ずるものなのかどうかを検証しておかねばな らない。
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