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刑 務 作 業 の 報 酬 に つ い て

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(1)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  三九五    目 次    一 問題の所在    二 作業賞与金    三 賃金制    四 恩恵説と賃金制の対立    五 現行制度  作業報奨金    六 求められる報酬制度

   七 結語

刑務作業の報酬について

青  柳  尚 

(2)

  三九六    

一  問題の所在

  受刑者が刑法第一二条第二項に基づき懲役刑の内容として課されている所定の作業﹂︵以下刑務作業とい

︒︶に対する報酬の支給についてはよく知られているように恩恵説と賃金制の対立があるそして賃金制

は立法論であり実際の運用は困難だと恩恵説の立場から非難されるのが常である

  だが賃金制を採用する国もあり必ずしも賃金制に立った制度の構築と運用がなしえないわけではない

懲役刑の執行方法は刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律﹂︵平成一七年法律第五〇号以下

刑事収容施設法という︒︶により具体的に定められているがこの法律及びその改正前の法律である監獄法

明治四一年法律第二八号は恩恵説に立つもののそれより以前の定めである監獄則では賃金制に立脚した

規定があり我が国においても賃金制を採用していた時代がある

  ところで刑事収容施設法では刑務作業に関わる報酬として作業報奨金という制度を設けたがこれは監

獄法における作業賞与金とは名称だけではなく制度的にも異なっているところがあるこれまでの議論は作

業賞与金を前提としたものであり改めて現行の作業報奨金と賃金制とを比較検討すべきもののように思われる

また余り関心を持たれることがないが刑事施設では刑務作業を行うことによって収入を得ているこれを刑務

所作業収入という賃金説はこの刑務所作業収入を国ではなく作業に従事した受刑者に属するものとして分配す

るという考え方であるがこの刑務所作業収入が激減しているという現状があるこの状況を無視して議論するの

は政策の議論としてはいかがなものかとも思われる

(3)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  三九七   本稿では現行制度と刑務作業を取り巻く現状を踏まえて刑務作業の報酬について考えることとしたい   なお以下に述べる見解は全て私見である    

二  作業賞与金

  刑事収容施設法の採用する作業報奨金監獄法の作業賞与金と本質的には変わらないものとされる

刑務作業に対する報酬制度に関する恩恵説と賃金制の対立は作業賞与金制度を前提にして述べられたものばかりで

あることから先に作業賞与金制度とはいかなる制度であったのか確認した上で論稿を進めたい

  作業賞与金は監獄法第二七条に規定されていた   監獄法第二七条第一項は作業ノ収入ハ総テ国庫ノ所得トス︒﹂と定めていたこれは刑務所作業収入の国庫帰 属主義を定めたものであるが同時に賃金制ではなく恩恵説を採用した趣旨であるとされた

監獄法の起草 1

者である小河滋次郎博士は国庫帰属主義のもとでは賃金という観念は一切否定されるとするそして国家が

刑の執行に関わる費用を全て負担する代償として刑務作業による収入全てを国庫に帰属させることは当然であり

受刑者は法律の結果として刑の執行を受けている間は作業義務がありまた契約関係がない以上報酬を求める

権利はないとする

旧監獄則が採用しいていた工銭という用語を採用しなかったのは賃金制を否定した結果 2

であり作業賞与金という名称を用いたことは適当だという

3

  監獄法以前に刑事施設の運営方法について定めていた監獄則では︑﹁工銭を受刑者に支給するものとしてい

たが

この工銭は作業収入を国庫と就業者の所得に分けて取り分とするもので賃金制を取り入れたものであった 4

(4)

  三九八

しかし監獄法は国庫帰属主義を明らかにすることにより賃金制を排したのである

  監獄法第二七条第二項には在監者ニシテ作業ニ就クモノニハ命令ノ定ムル所ニ依リ作業賞与金ヲ給スルコトヲ

︒﹂と定められ作業賞与金の支給方法を施行規則に委任すること及び支給を監獄の長の裁量に委ねることを規

定していたこの規定も恩恵説に立つ規定である

5

  同条第三項には︑﹁作業賞与金ハ行状作業ノ成績等ヲ斟酌シテ其額ヲ定ム︒﹂と定められていた支給額の決定

に当たっては作業の成績に加え一般的な行状をも考慮に入れるということは作業賞与金が単に作業に対する

報酬的な性格を持つものではないことを示す

6

  監獄法第二七条第二項に基づき監獄法施行規則第六七条から第七八条までに作業賞与金の計算方法支給方

法及び支給時期に関する一二か条の規定が設けられていた

  作業賞与金の支給が恩恵説に基づいたものであることは監獄法施行規則に当然現れていたとりわけ第七

〇条の作業ニ就キタル者ト雖モ行状不良ニシテ作業成績劣等ナルモノニハ作業賞与金ノ計算ヲ為サザルコトヲ

︒﹂という規定及び第七一条の作業賞与金ハ行状性向作業の種類成績科程ノ了否ヲ斟酌シ法務大臣ノ

定ル所ニ依リ計算ス可シ︒﹂との規定は恩恵説に立脚しているからこその規定であるように思われる作業とは

無関係の行状も考慮されて作業賞与金が計算されるということは作業賞与金を労働の対価と見る限り難し

いものと考えられるまた作業賞与金の支給時期について定めた第七五条が︑﹁作業賞与金ハ釈放ノ際ニ之ヲ支

給ス︒﹂としつつ同条第三項には︑﹁作業賞与金ヲ給与スル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ条件ヲ指定スルコトヲ

︒﹂釈放時に支給する作業賞与金に条件を付け得る余地を設けていたことは恩恵説に立ちつつ更に刑事

政策的考慮を含んだものと考えられるただし実際にこの規定に基づいて条件が付けられることはなかった

(5)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  三九九   なお作業賞与金の支給に当たっての公平性の確保と技術的問題解決のため監獄法と同施行規則の規定を

補うものとして訓令及び通達が発出されていた

   

三  賃金制

  賃金制とは受刑者は刑務作業に従事した対価として国に対して賃金の支払いを請求することができる制度

をいうドイツにおいて作業賞与金制度に対する批判として主張され作業賞与金制度を採用した我が国におい

ても主張されている監獄法の規定が恩恵説に立つものであるとする点について争いはなく賃金制の主張は

法政策として賃金制を採用すべきだというものであった

  賃金制の主張はワールベルヒらによって提唱されたとされ

我が国でも賛同者が少なくないワールベルヒの 7

主張は①懲役受刑者は本質的に自由を剥奪され刑法典刑務所規則等により制限を受けるが権利主体である

ことを否定されてはいない②受刑者に加えられるべき制限は宣告された刑罰のみに限定されるべきであり附加

刑である財産刑的要素は排除されなければならない③受刑者に対する刑罰性は強制作業のみに限定されるべきで

あり刑務作業を通じて社会復帰手段とするならば刑務作業そのものが外界と可能な限り異質なものであってはな

らずそのためには賃金制が確立されていなければならないというものであった

8

  実務家として行刑累進処遇令の立案に関わるなどした一方で戦後弁護士として活躍した正木亮博士は①労

働は各個人の財産であり自由刑は財産刑ではないから刑務作業において労働が強制されるからといって賃金

を支払わないことは許されないこと

②作業を矯正のための手段であるとするなら就業している受刑者の希望 9

(6)

  四〇〇

を増大させるために賃金を認める必要がありまたその賃金の中から被害弁済や家族の生活費自己の収容中の

生活費を賄うことができるようにする必要があること

③刑務作業が奴隷的使役ではなく人としての労働であ 10

ることによって囚人の改善という使命が果たされるのであり刑務作業の目的は囚人に労働の尊厳自力独行又は

他人に対する責任を教えることでありその手段は彼らに報酬を与えることであることを理由として

賃金制で 11

あるべきだとするこれらの主張についても賛同者は多い

12

  賃金制を採用した場合刑務作業に関する報酬としての支払金額が増えることを理由として賃金制を主張する ものも少なくない

そもそも賃金制とは基本的に就業者に就業と等価的な請求権を認めることにあり一定 13

金額の保証を要求するのだという考え方もある

14

  賃金制を採用することによって刑務作業に従事した受刑者の報酬金額が増加することを利用して被害弁償をさ

せるべきだという主張もある被害弁償のために賃金制を採用すべしということである受刑者が処遇を受ける

という受動的な客体から被害者への被害弁償の主体として能動的な地位に立つことが再社会化のため必要であり

刑務作業から得られた報酬を被害弁償に当てることによって刑務作業に意味を与え被害者の犯罪者に対する復讐

的な感情を沈静させる効果等が期待され受刑者がそれなりの報酬を得ていなければこうした被害弁償を実現する

ことはできないので賃金制が望ましいという

ラテンアメリカ諸国では賃金制を採用しその一部を被害者 15

への弁済に充てる方策がとられているともいう

16

  さらに賃金制を採用しない作業報酬制度は憲法に違反するという考え方もある一つは憲法第一三条の

個人の尊厳を理由とするもので懲役刑禁錮刑の枠内においても受刑者各人の労働能力と実績に応じて

禁中も賃金として正当な報酬を受けることが要請されるつまり憲法は賃金制を要請しているというもので

(7)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四〇一 ある

17

  憲法第二五条を理由とする考え方もある日本国憲法はその二五条で生存権に関する規定を設けたが生存権を

維持するための手段として財産権と労働が認められる労働によって生存権を維持することは国民の基本的人権

の一つである労働に対して対価として賃金が支払われなければならないことは一般社会においては当然の権利で

あり労働が生存権を維持するための基本権として認められている以上労働に対して賃金が支払われなければな

らないことも基本権として認められなければならないこれは受刑者についても同じであるというのである

18

  憲法第二七条に定める勤労の権利を根拠とする主張もある

受刑者には労働権があり自由刑を科されたとし 19

ても労働権は剥奪されていない刑務作業はその受刑者の労働権を保障するものであり刑務所と契約する企業と

受刑者の間には被雇用者と雇用者の契約関係を持たせるべきであり労使関係の法律を適用すべきであり受刑者

は雇用者から労働に値する賃金を貰う権利を享有するとして賃金制を主張する

またいわゆる自由刑純化論 20

に立脚しつつ労働権の保障とその対価として賃金制の採用も主張されている

21

   

四  恩恵説 賃金制の対立

   1 恩恵説から賃金制に対する批判   ワールベルヒがドイツにおいて賃金制を主張したときから当時の作業賞与金制度を支持する側から賃金制に対

する批判がなされていた批判するアプローチは理論的問題点を指摘するものと事実上の問題点を指摘するもの

(8)

  四〇二

の二つに分かれる

  理論的な問題点としては刑務作業が刑法第一二条第二項に定める強制的に従事すべき労働でありそれゆえに 報酬を求める権利がないとするものである

次いで刑事施設と受刑者の間には私法的契約関係はないので22

酬請求権がないとするものである

23

  事実上の問題点としては賃金ということになれば一般の賃金支給の原則に従い受刑者は専らその就業によ

り刑務所作業収入に寄与した程度に応じて報酬を受けることになるが受刑者自身の技能等の程度により顕著な賃

金額の差異を生じること刑事施設の立地刑事施設特有の就業条件から刑務所作業収入はどうしても低いものに

なりがちであること職業訓練を受けている受刑者に対して現行制度では作業賞与金を支払っているが賃金制の

下では支払い得ないこと拘禁費用の償還を考える必要があることなど実際上の運用の困難さから賃金制の採用

は難しいとの主張である

24

  刑務所作業製品の質が悪いため多くの受刑者は民間企業と同様の賃金を獲得し得ないし職業訓練は賃金制に

親しまないこの状況で受刑者に相当の賃金を給付しようとすれば国庫から多額の援助を得ざるを得ずそれで

受刑者を一般の労働者以上に優遇することになって国民感情上容認されない現時点において賃金制を採

用することができるのは熟練技術を刑務所内で生かすことのできる受刑者外部通勤者などごく一部になるもの

と思われるが一部の受刑者にだけ賃金制を採用することは他の一般受刑者との違いから大きな混乱が避け得

ない

との見解があるまた生産性の低い刑務作業においては同一労働同一賃金の原則を適用することがで 25

きず生活費分の賃金を貰えない低格労働に従事する者未熟練者虚弱者などの存在が問題になるという見解

もある

さらに刑の執行を実行しつつ各受刑者に賃金を支払うことのできるような効率的な刑務作業の運営 26

(9)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四〇三 を生み出すことは刑務作業の多くの負因を考えるときほとんど不可能なことでありこのような状態で名目的

に賃金制を採ったとしても受刑者の衣食住の経費を引いたら残るものは少なく現在の賞与金程度以下になりか

ねない

として賃金制の難しさを指摘する見解もある 27

  これらの批判に対して賃金制を主張する立場から刑務作業に伴う独自の状況というものは刑罰としての強制

労働そのものの状況であって賃金制を採用しない根拠とはいえず労働そのものに賃金が伴うことは他のい

かなる諸条件が加えられようとも権利能力として不動のものであり就業した業種の収益性作業の遂行量技能

の程度いかんにより報酬額が異なることは当然でその差が顕著になることをおそれて賃金制を採用しないという

のは理由にならず職業訓練に賃金を支給し得ないことをもって一般的刑務作業すべてに賃金制を採用できない根

拠として普遍化することはできずまた職業訓練従事者に対してはたとえば失業保険受給者対策としての配慮

そのものも考えられる

との反論がある 28

29

   2 作業賞与金の問題点   恩恵説の立場から賃金制へ批判がなされる一方で作業賞与金制度の問題点も明らかになってきたその一番の

問題点は作業賞与金として支給される金額の低さである

  賃金制の主張する受刑者に支払われるべき賃金がいかなる額となるのかははっきりしないが作業賞与金に

対する批判として賃金制が主張され始めたときには先例があった監獄法が作業収入の国庫帰属主義を明文で定

めたのはそれ以前は分属主義作業収入を国家と就業した受刑者に分属させる制度であったからであるがこれ

(10)

  四〇四

は刑務所作業収入を国と就業した受刑者で分けるということであり賃金額はその分け方で決まるということに

なる

我が国の監獄則における工銭の場合一〇分の二から六の間であった今日もし賃金制を採用した場 30

合も同様に解されているようである

先に見た賃金制採用の根拠によっては最低賃金法の定める最低賃金を 31

もって賃金とすることになるように思われる

32

  賃金制によれば刑務作業に関する報酬の支払金額が増えるという主張に対して作業賞与金制度における金額の 低さを問題視し金額の増大に努めるべきだとする見解は多い

受刑者の労働意欲を喚起し家族の生活費や被 33

害弁償に充てあるいは釈放後の更生資金とするには甚だ不十分なものであるとか

労働の意欲と興味の育成 34

受刑者に経済生活への関心を持たせ購入を通じて生活に変化を与えることができるという所内生活での効果が与

えられない

という 35

  作業賞与金が低額であることが裁判で争われたことがある刑務所を出所した元受刑者が作業賞与金の金額が低

すぎるとし憲法第二五条第一項憲法第三六条及び監獄法第二七条第二項を根拠に刑務作業に従事した対価と

して社会一般並みの賃金を求めて訴訟を提起したこれに対して札幌高裁昭和五二年七月二八日判決

刑務作 36

業に対する報酬として賃金を支払う必要はないとしつつ作業賞与金は単なる恩恵的便宜的なものと解すべきで

はなく受刑者の作業に対して与えられるものである以上一定の基準に従って過不足なくその額が定められるべ

きものであり報償的なものではあるがどのような金額を決定するかは立法政策の問題であり行政上の裁量に

属する事項であるとし作業賞与金の金額は違憲ではないとし訴えも認めなかった

  ドイツでは監獄法における作業賞与金と本質的には変わらない行刑法第四三条第二項に基づいて支給される作 業報酬Arbeitsentgeldの低さについて基本法違反であるとして裁判が起こされ違憲判決が出された

(11)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四〇五   ドイツ行刑法第四三条第二項は︑﹁受刑者が指定された作業その他の労作又は第四一条第一項第二切による補

助活動いわゆる我が国でいう経理作業を行うときにはその者は作業報酬を受ける作業報酬の算定は

会福祉法第四編第一八条による受給額の第二〇〇条に定める基準額に基礎を置かなければならない標準報酬︶︒

日額は基準報酬の二五〇分の一とするが作業報酬は時給額によっても算定することができる︒﹂と定めて

いた

37

  この規定に基づく作業報酬は基本法違反であるという訴えに対してドイツ連邦憲法裁判所第二法廷一九九八年

七月一日判決はこのような低額な作業報酬は基本法一条一項及び二〇条一項と結びついた二条一項による社会

復帰の要請に反し基本法違反であるとした刑務作業は適切な評価がなされた場合のみ社会復帰の手段として効

果的でありその評価は必ずしも金銭的なものでなければならないわけではないが受刑者に労働の価値を正しく

認識させるものでなければならないという当時の作業報酬は余りに低額であり労働により賃金を得ることの意

義を受刑者に実感させられないので基本法が要請する社会復帰に役立たない

とする 38

  作業賞与金の金額の低さの理由を自給自足原則と結びつける考え方もある昭和二一年に監獄法運用ノ基本方

針ニ関スル件という司法省通達が発せられたがその中で自給自足の原則が掲げられ刑事施設の運営に非

常に影響力を持った

自給自足の原則は正木博士も主張されていたところである 39

この自給自足原則は自由刑の 40

執行費用を刑務所作業収入により賄い国民の税金を使用しないとする考え方であるが刑務所作業収入を原資と

して刑務作業に従事した受刑者へ作業報酬を支給しようとする場合この原則を貫くと金額は低くなることとな

この点を捉えて自給自足原則こそが作業賞与金の低さの原因ではないかとするのである

41

  国際準則違反であるとする見解もある被拘禁者処遇最低基準規則第七六条は受刑者の作業については適切

(12)

  四〇六 な報酬制度equitable remunerationがなければならないとしているこの適切な報酬制度を作業賞与金 は満たしていないという

しかし最低基準規則が賃金制の採用を義務づけていると見ることは無理があり42

二回国連犯罪防止会議は究極目標として賃金制の主張を盛り込みそこには国連規則七六条が引用されているが

しかし国連規則自体は賃金﹂︵wagesという表現を避けており第一回国連犯罪防止会議における刑務作業 に関する決議においてremunerationという文言は必ずしも賃金に限らないことを前提として用いられている

43

とされ最低基準規則には抵触しないという見方が一般的である

44

  作業賞与金の問題点として賃金制に比べて刑務作業に従事したことに基づいて支給されるという権利性が弱い

ことも挙げられる刑務作業が強制労働であるとしても監獄法第二七条第二項の作業賞与金ヲ給スルコトヲ

︒﹂を支給することもしないこともできると解し︑﹁恩恵というほどに作業に従事した受刑者の権利保護がなさ

れないことは立法時はともかくいつの時代からか躊躇を憶えるようになっていたように思われる前述した

札幌高裁昭和五二年七月二八日判決も作業賞与金は単なる恩恵的便宜的なものと解すべきではなく受刑者の

作業に対して与えられるものである以上一定の基準に従って過不足なくその額が定められるべきものであるとし

ている

  この点正木博士はかなり早期からこの点を問題視されていた正木博士は賃金制を採用すべしとしていた

監獄法二七条と刑法一二条を前提に現行制度は作業賞与金制度で在ることを認めていたそこで作業賞与

金制度を採用しつつ行政官庁の自由裁量主観的方法をなくし客観的方法覊束行為とすれば受刑者に

も請求権が発生する

としていたつまり行政規則によって作業賞与金の作業報酬としての性質を高めよう 45

という考え方である

(13)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四〇七   平野博士も作業賞与金は支払わないこともできる点からして権利ではないがしかし合理的な範囲では 国家は給与を与えなければならないという意味では受刑者の権利といっても良いのである

としている 46

47

  実際作業賞与金の支給は法務大臣訓令である作業賞与金計算規程及びその依命通達通牒︶﹁作業賞与 金計算規程の施行についてに基づいて機械的に計算され確実に支払われてきた

刑務作業に従事した受刑 48

者に作業賞与金が支払われない場面はなく決して恩恵などではなかった

作業賞与金は刑事政策的考慮 49

に基づいて制度設計され行政規則により一定の条件の下決まった方法で支給されてきた恩恵説という名称は

適当ではなく刑事政策説とでも呼ぶべき考え方に立脚しているように思われる

   

五  現行制度 作業報奨金

  明治四一年に施行された監獄法は平成一七年に全面的に改正されて刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法

となり翌平成一八年から施行されたその後未決拘禁者の処遇に関する規定を追加し平成一九年から刑

事収容施設法として施行されている

これに伴い従来刑務作業に就業した受刑者に支給される作業賞与金 50

︑﹁作業報奨金という名称に変更されるとともに支給に当たって考慮される事項が変更された以下では

この現行制度を明らかとしたい

(14)

  四〇八    1 国庫帰属主義

  刑事収容施設法第九七条には︑﹁作業の実施による収入は国庫に帰属する︒﹂と定められているいわゆる国庫 帰属主義を採用していることを明らかにしたものであるとされる

国庫帰属主義を採用するということは監獄法 51

を引き継いだものであるが監獄法において国庫帰属主義を採用したということは賃金説を採用しないという意

味を持っていた

よって現行法も賃金説に立たないことは明らかである 52

   2 作業報奨金の支給時期︑対価性及び支給の目的   刑事収容施設法第九八条第一項には︑﹁刑事施設の長は作業を行った受刑者に対しては釈放の際その者が

受刑者以外の被収容者となったときはその際その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を

支給するものとする︒﹂作業を行った受刑者には作業報奨金が支給されること支給の金額及び支給の時期が

定められており同条第二項には支給金額の算出方法について同条第三項にはその算出方法の基準について

条第四項には例外的な措置としての釈放前支給について同条第五項では作業報奨金が失われる場合について

められている

  監獄法下の作業賞与金その支給は監獄の長の裁量に委ねられていたその額の算出に当たっては作業

の成績の他被収容者の一般的な行状も斟酌することとされていた

(15)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四〇九   この法律では作業を行った受刑者に対しては作業報奨金を必ず支給するものとして権利性を認めまた

の額の算出に当たっては被収容者の一般的な行状は考慮せず作業の成績その他就業に関する事項のみを考慮す

ることとするなど作業に対する報酬的な性格を強めているとされそのため︑﹁作業報奨金という名称とされ

たとされるただし受刑者に行わせる作業は改善更生及び円滑な社会復帰を目的とする矯正処遇の一方策であ

また懲役受刑者にとっては作業が刑の内容にほかならないなどの点において一般社会における自由な労働と

は本質的に異なるのであり作業報奨金は労働の対価としての賃金とは明らかに異なる性質を有し作業

に対する純粋な対価ではないともされる作業報奨金の支給目的には釈放後の当座の生活資金を確保し

持金がないがために再犯に及ぶという事態を防止するということもあるそのため原則として釈放時支給とさ

収容中の支給には一定の制約が課されている

53

   3 作業報奨金の支給金額の算出方法支給の現状   刑事収容施設法第九八条第二項によれば作業報奨金の支給額の算出方法は法務省令で定めるとされ同条第三

項によればその基準は作業の種類及び内容作業に要する知識及び技能の程度等を考慮して定めるとされてい

刑事収容施設法の施行規則である刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則﹂︵平成一八年法務省令第五七

以下刑事施設規則という︒︶には毎月の加算を一五日までに行う等の簡素な定めしかなく実際上の支

給金額の計算は︑﹁作業報奨金に関する訓令﹂︵平成一八年矯成訓第三三四三号法務大臣訓令及び平成一八年五月

二三日付け法務省矯成第三三四四号矯正局長依命通達作業報奨金に関する訓令の運用についてに基づいて行わ

(16)

  四一〇

れている

54

  これらによると刑務作業に従事する受刑者には作業の種類及び内容作業を行っている期間当該作業に要

する知識及び技能の程度作業成績及び就業態度を考慮して作業等工というものを指定される作業等工は一か

ら一〇等工までの一〇段階に区分されており等工毎に一時間刑務作業に従事した場合の作業報奨金の毎月の加算

額の計算の基準となる額が決められているこれを作業報奨金基準額といういわば時給のようなものであ

刑の執行後初めて作業につく受刑者の等工は一〇等工とされ毎月審査をされそれよりも上位の等工に指定

することが適当と認められた場合上位の等工に昇等するその逆もある平成二六年度における作業報奨金基準

額は別表のとおりである

  受刑者が刑務作業に従事した時間は毎日記録されておりこれを一月毎に集計し各受刑者の指定されている作

業等工の基準額と集計した就業時間との積に作業の種類一日八時間を超える作業をした場合の時間外作業

日に作業をしたこと作業成績就業態度及び創意工夫による加算を行ってその月の作業報奨金への加算額が計

算されるこの方法により毎月計算された額が累積されたものが原則として釈放時にまとめて支給されること

になる

  平成二六年度当初予算によると作業報奨金支給のための予算は一九億三四一二万五千円であった

これを作 55

業報奨金が支給される受刑者及び労役場留置者の平成二六年末在所人員五三五三一人で割ると一人当たり月額

〇一一円となる平成二六年版犯罪白書によれば作業報奨金に充てられる金額予算額平成二五年度

には一人一か月当たり平均で四八一六円であった

  支給の状況の詳細については矯正統計年報を参照願いたい

(17)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四一一    

六  求められる報酬制度

   1 作業報奨金の問題点   作業賞与金の問題点については前述したが賃金制との根本的な対立点である刑務作業は強制労働であり本来的

には報酬を支払う必要がないという点を除けばその支給金額の低さと権利性の弱さが主な問題点であったしか

権利性の弱さについては行政規則の制定と運用により補われていたことも前述した

  作業報奨金は刑事収容施設法第九八条二項及び第三項によれば刑事施設の長は法務省令で定めるところに

より毎月その月の前月において受刑者が行った作業に対応する金額として法務大臣が作業の種類及び内容

作業に要する知識及び技能の程度等を考慮して定める基準に従いその作業の成績その他就業に関する事項を考慮

して算出した金額を報奨金計算額に加算するものとされている就業に関しない事項でありながら作業賞与金の計

算に当たっては考慮されていた行状﹂︑つまり就業時の態度以外の施設内の生活態度等の一般的行状は考慮する 別表 作業報奨金基準額表

等工基準額

1等工

47円

70銭 2等工

37円

60銭 3等工

30円

40銭 4等工

25円

00銭 5等工

20円

20銭 6等工

17円

90銭 7等工

14円

00銭 8等工

11円

10銭 9等工

8円

50銭 10等工

6円

60銭

(18)

  四一二

事項から除かれておりかつ作業に従事したら必ず報奨金計算額への加算を行うとしている点で権利性は強ま

っているそして権利性を強く認めた現行制度の下では賃金制との根本的な対立点である強制労働であるから

報酬を支払う必要がないという主張は無意味であり賃金制との根本的な対立点は解消しているように思われるの

である

  残る問題は支給される金額の低さである    2 作業報酬の意義金額

  刑務作業に従事したことによって支給される作業報酬は賃金説に立つならば当然支給されるべき報酬というこ

とになるが作業賞与金及び作業報奨金においては刑事政策的考慮に基づいて支給されるという考え方に立脚して

いる

  ここで刑事政策的考慮とは釈放後の更生資金を得させるということに加え作業報酬の支給を通じて勤労の

意味を受刑者に理解させるというものがあった前述した作業報酬の低さを基本法違反としたドイツ憲法裁判所判

決がそれであるそしてこのような考えは実は我が国でも昔から主張されているのである

  市川秀雄博士は労働意欲の推進力となっているのは一般には自己の労働が賃金という形式の媒介を通じて

評価されるところに在りそこに人は自己満足を見いだし更にその向上に努力するこれは人間に共通するとこ

ろの普遍的原理で一般人と受刑者と異なるところはない賃金を支払うことにより刑務作業は受刑者をして労

働の尊厳自力独行他人に対する責任を習得させる受刑者に人としての労働をさせることにより受刑者を改

(19)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四一三 善矯正し再社会化せしめるという刑務所の目的が達成されうる

という 56

  また正木博士大塚博士も同様の主張をされている

賃金制の導入を主張する理由として刑務作業のもた 57

らす勤労に意義を持たせるために賃金制であるべきだとする考えは多い

58

  このように考えたとき作業報奨金の金額の低さは非常に問題となる作業に従事したことによってもたらされ

る利益が余りに少ないと作業をすることに対する評価が低くなるからである現行制度において作業を行った

ことに対する利益は金銭だけではなく優遇措置という形で別にもたらされてはいる

だが受刑者に労働の価 59

値を一番実感させるのは金銭であろう

  作業報酬の金額を増加させることを考えたときいかなる金額とするかは考え方の分かれるところだと思われ

賃金制の主張する賃金がいかなる額となるのかが不明であることは前述したかつて我が国においても採

用されていた賃金制は分属主義であり刑務所作業収入を原資とする考え方であった他方最低賃金制度が存在

する現在最低賃金をもって刑務作業の報酬金額とすることも十分考えられよう

  ここで政策論として考える場合作業報酬の支給は国の予算で賄われる以上それぞれの制度を採用した場合

にどの程度の支出がなされるのか検討すべきもののようにおもわれる

  まず最低賃金をベースに作業報酬を考えることとする   なお使用する数字は手に入れることのできるもののうちできるだけ新しい数字を使用することとするので年度が異なることになるが大きな違いはないものと考えるので御容赦いただきたい

  平成二六年度の最低賃金は全国平均で七八〇円である平成二五年度における刑務作業の一日平均就業人員

五万四八二〇人であった法令の定めに基づき土曜日日曜日国民の祝日矯正指導を行う日大半の刑事

(20)

  四一四

施設における月二日を採用する︒︶を除いた平成二六年度の刑事施設における作業実施日数を二一七日就業時間

を六三時間として計算すると

一人当たり一年間の支給額は一〇六万六三三八円となり受刑者への総支給額 60

は約五八四億五七〇〇万円となる平成二五年度の刑務所作業収入は四二億四一一九万八〇〇〇円でしかなく

61

平成二六年度における作業報奨金予算は一九億三四一二万五〇〇〇円でしかない実に現在の刑務所作業収入の約

一四倍作業報奨金予算の約三〇倍である

  作業報酬から受刑者の生活費に当たる収容費を差し引く場合被収容者一人一日当たりの収容費は平成二六年度 予算では一七三三円であるので

一年間に六三万二五四五円差し引くことになる差引後受刑者一人当たり一 62

年で四三万三七九三円の作業報酬が手元に残るがこれでも作業報酬支払いのために現在の予算額の一二倍強であ

る約二三八億円の予算が必要となるとても国民の理解を得ることができないであろう

63

  また刑務所作業収入は年々減少しているかつては一年間の刑務所作業収入が一〇〇億円をはるかに超えてい た時代もあったがこの数年は四〇億円台であり回復の見込みは厳しいものといわざるを得ない

64

  このような状況では最低賃金をベースに刑務作業報酬を考えることは無理があり実際の刑務所作業収入をベー スに就業者で分配するしか方法はないであろう

65

  平成二五年度の刑務所作業収入四二億四一一九万八〇〇〇円を平成二五年度における刑務作業の一日平均就業人

員五万四八二〇人で割ると一人当たり七万七三六五円となる平成二六年版犯罪白書によれば平成二五年度予

算による作業報奨金は一人一月当たり平均で四八一六円年額は五万七七九二円であり予算総額は一九億八七三

八万一〇〇〇円であったこうしてみると刑務所作業収入全額を作業報奨金に充てた場合一人当たりの作業報

奨金の金額は現在の倍の一二万円くらいにはなりそうである

(21)

刑務作業の報酬について︵都法五十六一︶  四一五   問題は刑務所作業収入全てを受刑者に対する作業報酬の原資とすることの是非であるこの点刑事施設にお

ける自給自足原則は既に主張されることはなくなり再犯防止のためにかつては考えられなかった政策がドラステ

ィックに進められている現在十分に国民に支持されうるのではないかと考える

66

  現在の二倍の額を作業報酬として支給するとしても時給に換算すれば数十円であり最低賃金には遠く及ばず

決して高い金額でもないだが刑務作業の生産性は低く実際にその程度の収入しかないのであるから止むを

得ないであろう

  結局刑務作業の報酬としては現状の二倍程度の最低賃金には遠く及ばない金額しか支給できないこのよう

なものは賃金と言いがたく一般的な労働とは異なる刑務作業に従事した結果として支給される特殊なものと考え

ざるを得ないしかし現に刑務作業を行ったことによる国の収入を全て受刑者に支給しておりこれ以上の金額

を支給することは国民の理解を得られないのではないかと考える

   

七  結 

  本稿では現行制度である作業報奨金は作業に従事すれば必ず支給されるもので権利性に配慮された制度で

あり恩恵説と賃金制の対立は解消していることを確認する一方刑務所作業収入を全て作業報奨金予算に充当す

ることを提案しつつ現状を前提にするとそのようにしても作業報奨金は低い額にとどまることを確認した

  刑務作業の報酬については外部通勤作業の場合も同様でいいのか高齢者や精神疾患者の割合が増加しこれ

らの者に実施させている作業は他の生産的な作業とは大きく異なることからこれらの作業に従事した者に対する

(22)

  四一六

作業報酬とその他の者への作業報酬が同額でいいのか作業報酬を引き上げた場合に収容中及び収容後の使用につ

いて制限する必要はないのかなど考えるべき点はまだまだ多いものと思われる今後の検討課題である

  小河滋次郎監獄法講義﹄︵一九六七二四四頁なお本書は一九一二年に出版されたものの復刻版である

2小川前掲二四二頁

という考え方と強い権力主義があったのではないかという 七巻一九七六第六号一一頁は監獄法以前の工銭という考え方から作業賞与金に変わったのは奴隷思想を脱する 浩也現代刑罰法大系第七巻 犯罪者の社会復帰﹄︵一九八二三頁なお小川太郎作業賞与金の問題刑政第八   3小川前掲二四四頁また宮本惠生行刑における刑務作業の意義石原一彦佐々木史郎西原春夫松尾

設現代監獄法への史的アプローチ﹄︵一九七九二二五頁︶︒ 定役に服する囚徒は就役一日を経過した場合工銭の一分の一を支給されていた重松一義近代監獄則の推移と開 幸一刑務作業における賃金制﹂﹃刑事政策の問題状況﹄︵一九九二四一頁︶︒また明治一四年在監人雇銭規則では 4明治五年監獄則明治一四年監獄則明治二二年監獄則において規定されていた工銭は賃金制を採用していた菊田

5小川前掲二四五頁

6小川前掲二五一頁はこれを当然であるとする

法学論叢八八巻一三号一九七︶︶ 7吉岡一男受刑者の作業報酬に関する賃金制の主張について﹂﹃刑事制度の理念を求めて﹄︵一九八四五頁以下初出

öffentliche Recht der Gegenwalt, Bd.11(1884)S.349ff. Das Recht der arbeitspflichtigen Sträfinge auf einen Anteil an dem Arbeitsertrage, Grünhut: Zeitschriftr das Privat-und 8

9正木亮新監獄学﹄︵一九四一一六

10 正木亮増訂改版刑事政策汎論﹄︵一九四九三九七頁

一九六九︶︶一三七頁初出刑政第三七巻一九二三第一二号︶︒ 11 正木亮行刑法上の諸問題増補版︶﹄一九五八一四八頁受刑者に労働賃金の請求権はあるか﹂﹃犯罪と矯正

一側面団藤重光長島敦八木国之朝倉京一森下忠小川太郎博士古希祝賀 刑事政策の現代的課題﹄︵一九七七 12 ①ついて菊田前掲二四三頁②について森本益之受刑者による犯罪被害の賠償刑務作業賃金制導入の

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