刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 三九五 目 次 一 問題の所在 二 作業賞与金 三 賃金制 四 恩恵説と賃金制の対立 五 現行制度 〜作業報奨金〜 六 求められる報酬制度
七 結語
刑務作業の報酬について
青 柳 尚 志
三九六
一 問題の所在
受刑者が刑法第一二条第二項に基づき懲役刑の内容として課されている﹁所定の作業﹂︵以下﹁刑務作業﹂とい
う︒︶に対する報酬の支給については︑よく知られているように︑恩恵説と賃金制の対立がある︒そして︑賃金制
は立法論であり︑実際の運用は困難だと恩恵説の立場から非難されるのが常である︒
だが︑賃金制を採用する国もあり︑必ずしも賃金制に立った制度の構築と運用がなしえないわけではない︒ま
た︑懲役刑の執行方法は﹁刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律﹂︵平成一七年法律第五〇号︒以下
﹁刑事収容施設法﹂という︒︶により具体的に定められているが︑この法律及びその改正前の法律である﹁監獄法﹂
︵明治四一年法律第二八号︶は恩恵説に立つものの︑それより以前の定めである﹁監獄則﹂では賃金制に立脚した
規定があり︑我が国においても賃金制を採用していた時代がある︒
ところで︑刑事収容施設法では︑刑務作業に関わる報酬として﹁作業報奨金﹂という制度を設けたが︑これは監
獄法における﹁作業賞与金﹂とは名称だけではなく︑制度的にも異なっているところがある︒これまでの議論は作
業賞与金を前提としたものであり︑改めて現行の作業報奨金と賃金制とを比較検討すべきもののように思われる︒
また︑余り関心を持たれることがないが︑刑事施設では刑務作業を行うことによって収入を得ている︒これを刑務
所作業収入という︒賃金説はこの刑務所作業収入を国ではなく︑作業に従事した受刑者に属するものとして分配す
るという考え方であるが︑この刑務所作業収入が激減しているという現状がある︒この状況を無視して議論するの
は政策の議論としてはいかがなものかとも思われる︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 三九七 本稿では︑現行制度と刑務作業を取り巻く現状を踏まえて︑刑務作業の報酬について考えることとしたい︒ なお︑以下に述べる見解は全て私見である︒
二 作業賞与金
刑事収容施設法の採用する﹁作業報奨金﹂は︑監獄法の﹁作業賞与金﹂と本質的には変わらないものとされる︒
刑務作業に対する報酬制度に関する恩恵説と賃金制の対立は作業賞与金制度を前提にして述べられたものばかりで
あることから︑先に作業賞与金制度とはいかなる制度であったのか確認した上で︑論稿を進めたい︒
作業賞与金は︑監獄法第二七条に規定されていた︒ 監獄法第二七条第一項は﹁作業ノ収入ハ総テ国庫ノ所得トス︒﹂と定めていた︒これは刑務所作業収入の国庫帰 属主義を定めたものであるが︑同時に︑賃金制ではなく︑恩恵説を採用した趣旨であるとされた ︵
︒監獄法の起草 1︶
者である小河滋次郎博士は︑国庫帰属主義のもとでは︑賃金という観念は一切否定されるとする︒そして︑国家が
刑の執行に関わる費用を全て負担する代償として刑務作業による収入全てを国庫に帰属させることは当然であり︑
受刑者は法律の結果として刑の執行を受けている間は作業義務があり︑また︑契約関係がない以上︑報酬を求める
権利はないとする ︵
︒旧監獄則が採用しいていた﹁工銭﹂という用語を採用しなかったのは賃金制を否定した結果 2︶
であり︑作業賞与金という名称を用いたことは適当だ︑という ︵
︒ 3︶
監獄法以前に刑事施設の運営方法について定めていた監獄則では︑﹁工銭﹂を受刑者に支給するものとしてい
たが ︵
︑この工銭は作業収入を国庫と就業者の所得に分けて取り分とするもので賃金制を取り入れたものであった︒ 4︶
三九八
しかし︑監獄法は国庫帰属主義を明らかにすることにより︑賃金制を排したのである︒
監獄法第二七条第二項には﹁在監者ニシテ作業ニ就クモノニハ命令ノ定ムル所ニ依リ作業賞与金ヲ給スルコトヲ
得︒﹂と定められ︑作業賞与金の支給方法を施行規則に委任すること及び支給を監獄の長の裁量に委ねることを規
定していた︒この規定も恩恵説に立つ規定である ︵
︒ 5︶
同条第三項には︑﹁作業賞与金ハ行状︑作業ノ成績等ヲ斟酌シテ其額ヲ定ム︒﹂と定められていた︒支給額の決定
に当たっては︑作業の成績に加え︑一般的な行状をも考慮に入れるということは︑作業賞与金が単に作業に対する
報酬的な性格を持つものではないことを示す ︵
︒ 6︶
監獄法第二七条第二項に基づき︑監獄法施行規則第六七条から第七八条までに︑作業賞与金の計算方法︑支給方
法及び支給時期に関する一二か条の規定が設けられていた︒
作業賞与金の支給が恩恵説に基づいたものであることは︑監獄法施行規則に当然︑現れていた︒とりわけ︑第七
〇条の﹁作業ニ就キタル者ト雖モ行状不良ニシテ作業成績劣等ナルモノニハ作業賞与金ノ計算ヲ為サザルコトヲ
得︒﹂という規定及び第七一条の﹁作業賞与金ハ行状︑性向︑作業の種類︑成績︑科程ノ了否ヲ斟酌シ法務大臣ノ
定ル所ニ依リ計算ス可シ︒﹂との規定は︑恩恵説に立脚しているからこその規定であるように思われる︒作業とは
無関係の﹁行状﹂も考慮されて作業賞与金が計算されるということは︑作業賞与金を労働の対価と見る限り︑難し
いものと考えられる︒また︑作業賞与金の支給時期について定めた第七五条が︑﹁作業賞与金ハ釈放ノ際ニ之ヲ支
給ス︒﹂としつつ︑同条第三項には︑﹁作業賞与金ヲ給与スル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ条件ヲ指定スルコトヲ
得︒﹂と︑釈放時に支給する作業賞与金に条件を付け得る余地を設けていたことは︑恩恵説に立ちつつ︑更に刑事
政策的考慮を含んだものと考えられる︒ただし︑実際にこの規定に基づいて条件が付けられることはなかった︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 三九九 なお︑作業賞与金の支給に当たっての公平性の確保と技術的問題解決のため︑監獄法と同施行規則の規定を
補うものとして︑訓令及び通達が発出されていた︒
三 賃金制
賃金制とは︑受刑者は︑刑務作業に従事した対価として︑国に対して賃金の支払いを請求することができる制度
をいう︒ドイツにおいて︑作業賞与金制度に対する批判として主張され︑作業賞与金制度を採用した我が国におい
ても主張されている︒監獄法の規定が恩恵説に立つものであるとする点について争いはなく︑賃金制の主張は︑立
法政策として賃金制を採用すべきだというものであった︒
賃金制の主張はワールベルヒらによって提唱されたとされ ︵
︑我が国でも賛同者が少なくない︒ワールベルヒの 7︶
主張は︑①懲役受刑者は本質的に自由を剥奪され︑刑法典︑刑務所規則等により制限を受けるが︑権利主体である
ことを否定されてはいない︑②受刑者に加えられるべき制限は宣告された刑罰のみに限定されるべきであり︑附加
刑である財産刑的要素は排除されなければならない︑③受刑者に対する刑罰性は強制作業のみに限定されるべきで
あり︑刑務作業を通じて社会復帰手段とするならば刑務作業そのものが外界と可能な限り異質なものであってはな
らず︑そのためには賃金制が確立されていなければならない︑というものであった ︵
︒ 8︶
実務家として行刑累進処遇令の立案に関わるなどした一方で︑戦後︑弁護士として活躍した正木亮博士は︑①労
働は各個人の財産であり︑自由刑は財産刑ではないから︑刑務作業において労働が強制されるからといって︑賃金
を支払わないことは許されないこと ︵
︑②作業を矯正のための手段であるとするなら︑就業している受刑者の希望 9︶
四〇〇
を増大させるために賃金を認める必要があり︑また︑その賃金の中から被害弁済や家族の生活費︑自己の収容中の
生活費を賄うことができるようにする必要があること ︵
︑③刑務作業が奴隷的使役ではなく︑人としての労働であ 10︶
ることによって囚人の改善という使命が果たされるのであり︑刑務作業の目的は囚人に労働の尊厳︑自力独行又は
他人に対する責任を教えることであり︑その手段は彼らに報酬を与えることであることを理由として ︵
︑賃金制で 11︶
あるべきだとする︒これらの主張についても︑賛同者は多い ︵
︒ 12︶
賃金制を採用した場合︑刑務作業に関する報酬としての支払金額が増えることを理由として︑賃金制を主張する ものも少なくない ︵
︒そもそも︑賃金制とは︑基本的に就業者に就業と等価的な請求権を認めることにあり︑一定 13︶
金額の保証を要求するのだという考え方もある ︵
︒ 14︶
賃金制を採用することによって刑務作業に従事した受刑者の報酬金額が増加することを利用して︑被害弁償をさ
せるべきだという主張もある︒被害弁償のために︑賃金制を採用すべしということである︒受刑者が処遇を受ける
という受動的な客体から被害者への被害弁償の主体として能動的な地位に立つことが再社会化のため必要であり︑
刑務作業から得られた報酬を被害弁償に当てることによって刑務作業に意味を与え︑被害者の犯罪者に対する復讐
的な感情を沈静させる効果等が期待され︑受刑者がそれなりの報酬を得ていなければこうした被害弁償を実現する
ことはできないので︑賃金制が望ましいという ︵
︒ラテン・アメリカ諸国では賃金制を採用し︑その一部を被害者 15︶
への弁済に充てる方策がとられている︑ともいう ︵
︒ 16︶
さらに︑賃金制を採用しない作業報酬制度は︑憲法に違反するという考え方もある︒一つは︑憲法第一三条の
﹁個人の尊厳﹂を理由とするもので︑懲役刑・禁錮刑の枠内においても受刑者各人の労働能力と実績に応じて︑拘
禁中も賃金として正当な報酬を受けることが要請される︒つまり︑憲法は賃金制を要請している︑というもので
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四〇一 ある ︵
︒ 17︶
憲法第二五条を理由とする考え方もある︒日本国憲法はその二五条で生存権に関する規定を設けたが︑生存権を
維持するための手段として︑財産権と労働が認められる︒労働によって生存権を維持することは国民の基本的人権
の一つである︒労働に対して対価として賃金が支払われなければならないことは一般社会においては当然の権利で
あり︑労働が生存権を維持するための基本権として認められている以上︑労働に対して賃金が支払われなければな
らないことも基本権として認められなければならない︒これは受刑者についても同じであるというのである ︵
︒ 18︶
憲法第二七条に定める勤労の権利を根拠とする主張もある ︵
︒受刑者には労働権があり︑自由刑を科されたとし 19︶
ても労働権は剥奪されていない︒刑務作業はその受刑者の労働権を保障するものであり︑刑務所と契約する企業と
受刑者の間には被雇用者と雇用者の契約関係を持たせるべきであり︑労使関係の法律を適用すべきであり︑受刑者
は雇用者から労働に値する賃金を貰う権利を享有するとして︑賃金制を主張する ︵
︒また︑いわゆる自由刑純化論 20︶
に立脚しつつ︑労働権の保障とその対価として賃金制の採用も主張されている ︵
︒ 21︶
四 恩恵説 と 賃金制の対立
1 恩恵説から賃金制に対する批判 ワールベルヒがドイツにおいて賃金制を主張したときから︑当時の作業賞与金制度を支持する側から賃金制に対
する批判がなされていた︒批判するアプローチは理論的問題点を指摘するものと︑事実上の問題点を指摘するもの
四〇二
の二つに分かれる︒
理論的な問題点としては︑刑務作業が刑法第一二条第二項に定める強制的に従事すべき労働であり︑それゆえに 報酬を求める権利がないとするものである ︵
︒次いで︑刑事施設と受刑者の間には私法的契約関係はないので︑報 22︶
酬請求権がないとするものである ︵
︒ 23︶
事実上の問題点としては︑賃金ということになれば︑一般の賃金支給の原則に従い︑受刑者は専らその就業によ
り刑務所作業収入に寄与した程度に応じて報酬を受けることになるが︑受刑者自身の技能等の程度により顕著な賃
金額の差異を生じること︑刑事施設の立地︑刑事施設特有の就業条件から刑務所作業収入はどうしても低いものに
なりがちであること︑職業訓練を受けている受刑者に対して︑現行制度では作業賞与金を支払っているが賃金制の
下では支払い得ないこと︑拘禁費用の償還を考える必要があることなど︑実際上の運用の困難さから賃金制の採用
は難しいとの主張である ︵
︒ 24︶
刑務所作業製品の質が悪いため︑多くの受刑者は民間企業と同様の賃金を獲得し得ないし︑職業訓練は賃金制に
親しまない︒この状況で受刑者に相当の賃金を給付しようとすれば︑国庫から多額の援助を得ざるを得ず︑それで
は︑受刑者を一般の労働者以上に優遇することになって︑国民感情上︑容認されない︒現時点において賃金制を採
用することができるのは︑熟練技術を刑務所内で生かすことのできる受刑者︑外部通勤者などごく一部になるもの
と思われるが︑一部の受刑者にだけ賃金制を採用することは︑他の一般受刑者との違いから大きな混乱が避け得
ない ︵
︑との見解がある︒また︑生産性の低い刑務作業においては同一労働・同一賃金の原則を適用することがで 25︶
きず︑生活費分の賃金を貰えない低格労働に従事する者︑未熟練者︑虚弱者などの存在が問題になる︑という見解
もある ︵
︒さらに︑刑の執行を実行しつつ︑各受刑者に賃金を支払うことのできるような効率的な刑務作業の運営 26︶
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四〇三 を生み出すことは︑刑務作業の多くの負因を考えるとき︑ほとんど不可能なことであり︑このような状態で名目的
に賃金制を採ったとしても︑受刑者の衣食住の経費を引いたら残るものは少なく︑現在の賞与金程度以下になりか
ねない ︵
︑として賃金制の難しさを指摘する見解もある︒ 27︶
これらの批判に対して︑賃金制を主張する立場から︑刑務作業に伴う独自の状況というものは刑罰としての強制
労働そのものの状況であって︑賃金制を採用しない根拠とはいえず︑労働そのものに﹁賃金﹂が伴うことは他のい
かなる諸条件が加えられようとも権利能力として不動のものであり︑就業した業種の収益性︑作業の遂行量︑技能
の程度いかんにより報酬額が異なることは当然で︑その差が顕著になることをおそれて賃金制を採用しないという
のは理由にならず︑職業訓練に賃金を支給し得ないことをもって一般的刑務作業すべてに賃金制を採用できない根
拠として普遍化することはできず︑また︑職業訓練従事者に対しては︑たとえば失業保険受給者対策としての配慮
そのものも考えられる ︵
︑との反論がある 28︶︵
︒ 29︶
2 作業賞与金の問題点 恩恵説の立場から賃金制へ批判がなされる一方で︑作業賞与金制度の問題点も明らかになってきた︒その一番の
問題点は︑作業賞与金として支給される金額の低さである︒
賃金制の主張する受刑者に支払われるべき﹁賃金﹂がいかなる額となるのかははっきりしないが︑作業賞与金に
対する批判として賃金制が主張され始めたときには︑先例があった︒監獄法が作業収入の国庫帰属主義を明文で定
めたのは︑それ以前は分属主義︑作業収入を国家と就業した受刑者に分属させる制度であったからであるが︑これ
四〇四
は刑務所作業収入を国と就業した受刑者で分けるということであり︑賃金額はその分け方で決まるということに
なる ︵
︒我が国の監獄則における﹁工銭﹂の場合︑一〇分の二から六の間であった︒今日もし賃金制を採用した場 30︶
合も同様に解されているようである ︵
が︑先に見た賃金制採用の根拠によっては︑最低賃金法の定める最低賃金を 31︶
もって﹁賃金﹂とすることになるように思われる ︵
︒ 32︶
賃金制によれば刑務作業に関する報酬の支払金額が増えるという主張に対して︑作業賞与金制度における金額の 低さを問題視し︑金額の増大に努めるべきだとする見解は多い ︵
︒受刑者の労働意欲を喚起し︑家族の生活費や被 33︶
害弁償に充て︑あるいは釈放後の更生資金とするには甚だ不十分なものであるとか ︵
︑労働の意欲と興味の育成︑ 34︶
受刑者に経済生活への関心を持たせ︑購入を通じて生活に変化を与えることができるという所内生活での効果が与
えられない ︵
︑という︒ 35︶
作業賞与金が低額であることが裁判で争われたことがある︒刑務所を出所した元受刑者が作業賞与金の金額が低
すぎるとし︑憲法第二五条第一項︑憲法第三六条及び監獄法第二七条第二項を根拠に︑刑務作業に従事した対価と
して社会一般並みの賃金を求めて訴訟を提起した︒これに対して札幌高裁昭和五二年七月二八日判決 ︵
は︑刑務作 36︶
業に対する報酬として賃金を支払う必要はないとしつつ︑作業賞与金は単なる恩恵的︑便宜的なものと解すべきで
はなく︑受刑者の作業に対して与えられるものである以上︑一定の基準に従って過不足なくその額が定められるべ
きものであり︑報償的なものではあるが︑どのような金額を決定するかは立法政策の問題であり︑行政上の裁量に
属する事項であるとし︑作業賞与金の金額は違憲ではないとし︑訴えも認めなかった︒
ドイツでは︑監獄法における作業賞与金と本質的には変わらない行刑法第四三条第二項に基づいて支給される作 業報酬︵Arbeitsentgeld︶の低さについて︑基本法違反であるとして裁判が起こされ︑違憲判決が出された︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四〇五 ドイツ行刑法第四三条第二項は︑﹁受刑者が指定された作業︑その他の労作又は第四一条第一項第二切による補
助活動︵いわゆる我が国でいう経理作業︶を行うときには︑その者は︑作業報酬を受ける︒作業報酬の算定は︑社
会福祉法第四編第一八条による受給額の第二〇〇条に定める基準額に基礎を置かなければならない︵標準報酬︶︒
日額は︑基準報酬の二五〇分の一とするが︑作業報酬は︑時給額によっても算定することができる︒﹂と定めて
いた ︵
︒ 37︶
この規定に基づく作業報酬は基本法違反であるという訴えに対して︑ドイツ連邦憲法裁判所第二法廷一九九八年
七月一日判決は︑このような低額な作業報酬は︑基本法一条一項及び二〇条一項と結びついた二条一項による社会
復帰の要請に反し︑基本法違反であるとした︒刑務作業は適切な評価がなされた場合のみ社会復帰の手段として効
果的であり︑その評価は必ずしも金銭的なものでなければならないわけではないが︑受刑者に労働の価値を正しく
認識させるものでなければならないという︒当時の作業報酬は余りに低額であり︑労働により賃金を得ることの意
義を受刑者に実感させられないので︑基本法が要請する社会復帰に役立たない ︵
︑とする︒ 38︶
作業賞与金の金額の低さの理由を自給自足原則と結びつける考え方もある︒昭和二一年に﹁監獄法運用ノ基本方
針ニ関スル件﹂という司法省通達が発せられたが︑その中で﹁自給自足の原則﹂が掲げられ︑刑事施設の運営に非
常に影響力を持った ︵
︒自給自足の原則は正木博士も主張されていたところである 39︶︵
︒この自給自足原則は自由刑の 40︶
執行費用を刑務所作業収入により賄い︑国民の税金を使用しないとする考え方であるが︑刑務所作業収入を原資と
して刑務作業に従事した受刑者へ作業報酬を支給しようとする場合︑この原則を貫くと金額は低くなることとな
る︒この点を捉えて︑自給自足原則こそが作業賞与金の低さの原因ではないかとするのである ︵
︒ 41︶
国際準則違反であるとする見解もある︒被拘禁者処遇最低基準規則第七六条は﹁受刑者の作業については︑適切
四〇六 な報酬制度︵equitable remuneration︶がなければならない﹂としている︒この﹁適切な報酬制度﹂を作業賞与金 は満たしていないという ︵
︒しかし︑最低基準規則が賃金制の採用を義務づけていると見ることは無理があり︑第 42︶
二回国連犯罪防止会議は究極目標として賃金制の主張を盛り込み︑そこには国連規則七六条が引用されているが︑
しかし︑国連規則自体は﹁賃金﹂︵wages︶という表現を避けており︑第一回国連犯罪防止会議における刑務作業 に関する決議において︑remunerationという文言は必ずしも賃金に限らないことを前提として用いられている ︵
︑ 43︶
とされ︑最低基準規則には抵触しないという見方が一般的である ︵
︒ 44︶
作業賞与金の問題点として︑賃金制に比べて刑務作業に従事したことに基づいて支給されるという権利性が弱い
ことも挙げられる︒刑務作業が強制労働であるとしても︑監獄法第二七条第二項の﹁作業賞与金ヲ給スルコトヲ
得︒﹂を支給することもしないこともできると解し︑﹁恩恵﹂というほどに作業に従事した受刑者の権利保護がなさ
れないことは︑立法時はともかく︑いつの時代からか︑躊躇を憶えるようになっていたように思われる︒前述した
札幌高裁昭和五二年七月二八日判決も︑作業賞与金は単なる恩恵的︑便宜的なものと解すべきではなく︑受刑者の
作業に対して与えられるものである以上︑一定の基準に従って過不足なくその額が定められるべきものであるとし
ている︒
この点︑正木博士はかなり早期から︑この点を問題視されていた︒正木博士は賃金制を採用すべしとしていた
が︑監獄法二七条と刑法一二条を前提に︑現行制度は作業賞与金制度で在ることを認めていた︒そこで︑作業賞与
金制度を採用しつつ︑行政官庁の自由裁量︵主観的方法︶をなくし︑客観的方法︵覊束行為︶とすれば︑受刑者に
も請求権が発生する ︵
︑としていた︒つまり︑行政規則によって︑作業賞与金の作業報酬としての性質を高めよう 45︶
という考え方である︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四〇七 平野博士も︑作業賞与金は支払わないこともできる点からして﹁権利﹂ではないが︑しかし︑合理的な範囲では 国家は給与を与えなければならないという意味では︑受刑者の権利といっても良いのである ︵
︑としている 46︶︵
︒ 47︶
実際︑作業賞与金の支給は︑法務大臣訓令である﹁作業賞与金計算規程﹂及びその依命通達︵通牒︶﹁作業賞与 金計算規程の施行について﹂に基づいて︑機械的に計算され︑確実に支払われてきた ︵
︒刑務作業に従事した受刑 48︶
者に作業賞与金が支払われない場面はなく︑決して﹁恩恵﹂などではなかった ︵
︒作業賞与金は︑刑事政策的考慮 49︶
に基づいて制度設計され︑行政規則により一定の条件の下︑決まった方法で支給されてきた︒恩恵説という名称は
適当ではなく︑刑事政策説とでも呼ぶべき考え方に立脚しているように思われる︒
五 現行制度 〜 作業報奨金 〜
明治四一年に施行された監獄法は︑平成一七年に全面的に改正されて﹁刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法
律﹂となり︑翌平成一八年から施行された︒その後︑未決拘禁者の処遇に関する規定を追加し︑平成一九年から刑
事収容施設法として施行されている ︵
︒これに伴い︑従来︑刑務作業に就業した受刑者に支給される﹁作業賞与金﹂ 50︶
は︑﹁作業報奨金﹂という名称に変更されるとともに︑支給に当たって考慮される事項が変更された︒以下では︑
この現行制度を明らかとしたい︒
四〇八 1 国庫帰属主義
刑事収容施設法第九七条には︑﹁作業の実施による収入は︑国庫に帰属する︒﹂と定められている︒いわゆる国庫 帰属主義を採用していることを明らかにしたものであるとされる ︵
︒国庫帰属主義を採用するということは監獄法 51︶
を引き継いだものであるが︑監獄法において国庫帰属主義を採用したということは︑賃金説を採用しないという意
味を持っていた ︵
︒よって︑現行法も賃金説に立たないことは明らかである︒ 52︶
2 作業報奨金の支給時期︑対価性及び支給の目的 刑事収容施設法第九八条第一項には︑﹁刑事施設の長は︑作業を行った受刑者に対しては︑釈放の際︵その者が
受刑者以外の被収容者となったときは︑その際︶に︑その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を
支給するものとする︒﹂と︑作業を行った受刑者には作業報奨金が支給されること︑支給の金額及び支給の時期が
定められており︑同条第二項には支給金額の算出方法について︑同条第三項にはその算出方法の基準について︑同
条第四項には例外的な措置としての釈放前支給について︑同条第五項では作業報奨金が失われる場合について︑定
められている︒
監獄法下の﹁作業賞与金﹂は︑その支給は監獄の長の裁量に委ねられていた︒その額の算出に当たっては︑作業
の成績の他︑被収容者の一般的な行状も斟酌することとされていた︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四〇九 この法律では︑作業を行った受刑者に対しては︑作業報奨金を必ず支給するものとして権利性を認め︑また︑そ
の額の算出に当たっては︑被収容者の一般的な行状は考慮せず︑作業の成績その他就業に関する事項のみを考慮す
ることとするなど︑作業に対する報酬的な性格を強めているとされ︑そのため︑﹁作業報奨金﹂という名称とされ
たとされる︒ただし︑受刑者に行わせる作業は︑改善更生及び円滑な社会復帰を目的とする矯正処遇の一方策であ
り︑また︑懲役受刑者にとっては作業が刑の内容にほかならないなどの点において一般社会における自由な労働と
は本質的に異なるのであり︑作業報奨金は︑労働の対価としての賃金とは明らかに異なる性質を有し︑作業︵労
働︶に対する純粋な対価ではないともされる︒作業報奨金の支給目的には︑釈放後の当座の生活資金を確保し︑所
持金がないがために再犯に及ぶという事態を防止するということもある︒そのため︑原則として釈放時支給とさ
れ︑収容中の支給には一定の制約が課されている ︵
︒ 53︶
3 作業報奨金の支給金額の算出方法と支給の現状 刑事収容施設法第九八条第二項によれば︑作業報奨金の支給額の算出方法は法務省令で定めるとされ︑同条第三
項によれば︑その基準は作業の種類及び内容︑作業に要する知識及び技能の程度等を考慮して定めるとされてい
る︒刑事収容施設法の施行規則である﹁刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則﹂︵平成一八年法務省令第五七
号︒以下﹁刑事施設規則﹂という︒︶には︑毎月の加算を一五日までに行う等の簡素な定めしかなく︑実際上の支
給金額の計算は︑﹁作業報奨金に関する訓令﹂︵平成一八年矯成訓第三三四三号法務大臣訓令︶及び平成一八年五月
二三日付け法務省矯成第三三四四号矯正局長依命通達﹁作業報奨金に関する訓令の運用について﹂に基づいて行わ
四一〇
れている ︵
︒ 54︶
これらによると︑刑務作業に従事する受刑者には︑作業の種類及び内容︑作業を行っている期間︑当該作業に要
する知識及び技能の程度︑作業成績及び就業態度を考慮して︑作業等工というものを指定される︒作業等工は一か
ら一〇等工までの一〇段階に区分されており︑等工毎に一時間刑務作業に従事した場合の作業報奨金の毎月の加算
額の計算の基準となる額が決められている︒これを﹁作業報奨金基準額﹂という︒いわば時給のようなものであ
る︒刑の執行後初めて作業につく受刑者の等工は一〇等工とされ︑毎月審査をされ︑それよりも上位の等工に指定
することが適当と認められた場合︑上位の等工に昇等する︒その逆もある︒平成二六年度における作業報奨金基準
額は別表のとおりである︒
受刑者が刑務作業に従事した時間は毎日記録されており︑これを一月毎に集計し︑各受刑者の指定されている作
業等工の基準額と集計した就業時間との積に︑作業の種類︑一日八時間を超える作業をした場合の時間外作業︑休
日に作業をしたこと︑作業成績︑就業態度及び創意工夫による加算を行って︑その月の作業報奨金への加算額が計
算される︒この方法により毎月計算された額が累積されたものが︑原則として釈放時にまとめて︑支給されること
になる︒
平成二六年度当初予算によると︑作業報奨金支給のための予算は一九億三四一二万五千円であった ︵
︒これを作 55︶
業報奨金が支給される受刑者及び労役場留置者の平成二六年末在所人員五三︑五三一人で割ると︑一人当たり月額
三︑〇一一円となる︒平成二六年版犯罪白書によれば︑作業報奨金に充てられる金額︵予算額︶は︑平成二五年度
には︑一人一か月当たり平均で四︑八一六円であった
支給の状況の詳細については︑矯正統計年報を参照願いたい︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四一一
六 求められる報酬制度
1 作業報奨金の問題点 作業賞与金の問題点については前述したが︑賃金制との根本的な対立点である刑務作業は強制労働であり本来的
には報酬を支払う必要がないという点を除けば︑その支給金額の低さと権利性の弱さが主な問題点であった︒しか
し︑権利性の弱さについては︑行政規則の制定と運用により補われていたことも前述した︒
作業報奨金は︑刑事収容施設法第九八条二項及び第三項によれば︑刑事施設の長は︑法務省令で定めるところに
より︑毎月︑その月の前月において受刑者が行った作業に対応する金額として︑法務大臣が作業の種類及び内容︑
作業に要する知識及び技能の程度等を考慮して定める基準に従い︑その作業の成績その他就業に関する事項を考慮
して算出した金額を報奨金計算額に加算するものとされている︒就業に関しない事項でありながら作業賞与金の計
算に当たっては考慮されていた﹁行状﹂︑つまり就業時の態度以外の施設内の生活態度等の一般的行状は考慮する 別表 作業報奨金基準額表
等工基準額
1等工
47円
70銭 2等工
37円
60銭 3等工
30円
40銭 4等工
25円
00銭 5等工
20円
20銭 6等工
17円
90銭 7等工
14円
00銭 8等工
11円
10銭 9等工
8円
50銭 10等工
6円
60銭
四一二
事項から除かれており︑かつ︑作業に従事したら必ず報奨金計算額への加算を行うとしている点で︑権利性は強ま
っている︒そして︑権利性を強く認めた現行制度の下では︑賃金制との根本的な対立点である強制労働であるから
報酬を支払う必要がないという主張は無意味であり︑賃金制との根本的な対立点は解消しているように思われるの
である︒
残る問題は︑支給される金額の低さである︒ 2 作業報酬の意義と金額
刑務作業に従事したことによって支給される作業報酬は︑賃金説に立つならば当然支給されるべき報酬というこ
とになるが︑作業賞与金及び作業報奨金においては刑事政策的考慮に基づいて支給されるという考え方に立脚して
いる︒
ここで︑刑事政策的考慮とは︑釈放後の更生資金を得させるということに加え︑作業報酬の支給を通じて勤労の
意味を受刑者に理解させるというものがあった︒前述した作業報酬の低さを基本法違反としたドイツ憲法裁判所判
決がそれである︒そして︑このような考えは︑実は我が国でも昔から主張されているのである︒
市川秀雄博士は︑労働意欲の推進力となっているのは︑一般には︑自己の労働が賃金という形式の媒介を通じて
評価されるところに在り︑そこに人は自己満足を見いだし︑更にその向上に努力する︒これは人間に共通するとこ
ろの普遍的原理で︑一般人と受刑者と異なるところはない︒賃金を支払うことにより︑刑務作業は受刑者をして労
働の尊厳︑自力独行︑他人に対する責任を習得させる︒受刑者に人としての労働をさせることにより︑受刑者を改
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四一三 善︑矯正し︑再社会化せしめるという刑務所の目的が達成されうる ︵
︑という︒ 56︶
また︑正木博士︑大塚博士も同様の主張をされている ︵
︒賃金制の導入を主張する理由として︑刑務作業のもた 57︶
らす勤労に意義を持たせるために賃金制であるべきだとする考えは多い ︵
︒ 58︶
このように考えたとき︑作業報奨金の金額の低さは非常に問題となる︒作業に従事したことによってもたらされ
る利益が余りに少ないと︑作業をすることに対する評価が低くなるからである︒現行制度において︑作業を行った
ことに対する利益は金銭だけではなく︑優遇措置という形で別にもたらされてはいる ︵
︒だが︑受刑者に労働の価 59︶
値を一番実感させるのは︑金銭であろう︒
作業報酬の金額を増加させることを考えたとき︑いかなる金額とするかは考え方の分かれるところだと思われ
る︒賃金制の主張する﹁賃金﹂がいかなる額となるのかが不明であることは前述した︒かつて我が国においても採
用されていた賃金制は分属主義であり︑刑務所作業収入を原資とする考え方であった︒他方︑最低賃金制度が存在
する現在︑最低賃金をもって刑務作業の報酬金額とすることも十分考えられよう︒
ここで︑政策論として考える場合︑作業報酬の支給は国の予算で賄われる以上︑それぞれの制度を採用した場合
にどの程度の支出がなされるのか︑検討すべきもののようにおもわれる︒
まず︑最低賃金をベースに作業報酬を考えることとする︒ なお︑使用する数字は手に入れることのできるもののうちできるだけ新しい数字を使用することとするので年度が異なることになるが︑大きな違いはないものと考えるので︑御容赦いただきたい︒
平成二六年度の最低賃金は︑全国平均で七八〇円である︒平成二五年度における刑務作業の一日平均就業人員
は︑五万四八二〇人であった︒法令の定めに基づき土曜日︑日曜日︑国民の祝日︑矯正指導を行う日︵大半の刑事
四一四
施設における月二日を採用する︒︶を除いた平成二六年度の刑事施設における作業実施日数を二一七日︑就業時間
を六・三時間として計算すると ︵
︑一人当たり一年間の支給額は一〇六万六三三八円となり︑受刑者への総支給額 60︶
は約五八四億五七〇〇万円となる︒平成二五年度の刑務所作業収入は︑四二億四一一九万八〇〇〇円でしかなく ︵
︑ 61︶
平成二六年度における作業報奨金予算は一九億三四一二万五〇〇〇円でしかない︒実に現在の刑務所作業収入の約
一四倍︑作業報奨金予算の約三〇倍である︒
作業報酬から受刑者の生活費に当たる収容費を差し引く場合︑被収容者一人一日当たりの収容費は平成二六年度 予算では一七三三円であるので ︵
︑一年間に六三万二五四五円差し引くことになる︒差引後︑受刑者一人当たり一 62︶
年で四三万三七九三円の作業報酬が手元に残るが︑これでも作業報酬支払いのために現在の予算額の一二倍強であ
る約二三八億円の予算が必要となる︒とても国民の理解を得ることができないであろう ︵
︒ 63︶
また︑刑務所作業収入は年々減少している︒かつては一年間の刑務所作業収入が一〇〇億円をはるかに超えてい た時代もあったが︑この数年は四〇億円台であり︑回復の見込みは厳しいものといわざるを得ない ︵
︒ 64︶
このような状況では最低賃金をベースに刑務作業報酬を考えることは無理があり︑実際の刑務所作業収入をベー スに︑就業者で分配するしか方法はないであろう ︵
︒ 65︶
平成二五年度の刑務所作業収入四二億四一一九万八〇〇〇円を平成二五年度における刑務作業の一日平均就業人
員五万四八二〇人で割ると︑一人当たり七万七三六五円となる︒平成二六年版犯罪白書によれば︑平成二五年度予
算による作業報奨金は一人一月当たり平均で四八一六円︑年額は五万七七九二円であり︑予算総額は一九億八七三
八万一〇〇〇円であった︒こうしてみると︑刑務所作業収入全額を作業報奨金に充てた場合︑一人当たりの作業報
奨金の金額は現在の倍の一二万円くらいにはなりそうである︒
刑務作業の報酬について︵都法五十六‑一︶ 四一五 問題は︑刑務所作業収入全てを受刑者に対する作業報酬の原資とすることの是非である︒この点︑刑事施設にお
ける自給自足原則は既に主張されることはなくなり︑再犯防止のためにかつては考えられなかった政策がドラステ
ィックに進められている現在︑十分に国民に支持されうるのではないかと考える ︵
︒ 66︶
現在の二倍の額を作業報酬として支給するとしても時給に換算すれば数十円であり︑最低賃金には遠く及ばず︑
決して高い金額でもない︒だが︑刑務作業の生産性は低く︑実際にその程度の収入しかないのであるから︑止むを
得ないであろう︒
結局︑刑務作業の報酬としては現状の二倍程度の︑最低賃金には遠く及ばない金額しか支給できない︒このよう
なものは賃金と言いがたく︑一般的な労働とは異なる刑務作業に従事した結果として支給される特殊なものと考え
ざるを得ない︒しかし︑現に刑務作業を行ったことによる国の収入を全て受刑者に支給しており︑これ以上の金額
を支給することは国民の理解を得られないのではないかと考える︒
七 結 語
本稿では︑現行制度である﹁作業報奨金﹂は作業に従事すれば必ず支給されるもので権利性に配慮された制度で
あり︑恩恵説と賃金制の対立は解消していることを確認する一方︑刑務所作業収入を全て作業報奨金予算に充当す
ることを提案しつつ︑現状を前提にするとそのようにしても作業報奨金は低い額にとどまることを確認した︒
刑務作業の報酬については︑外部通勤作業の場合も同様でいいのか︑高齢者や精神疾患者の割合が増加し︑これ
らの者に実施させている作業は他の生産的な作業とは大きく異なることから︑これらの作業に従事した者に対する
四一六
作業報酬とその他の者への作業報酬が同額でいいのか︑作業報酬を引き上げた場合に収容中及び収容後の使用につ
いて制限する必要はないのかなど︑考えるべき点はまだまだ多いものと思われる︒今後の検討課題である︒
︵1︶ 小河滋次郎﹃監獄法講義﹄︵一九六七︶二四四頁︒なお︑本書は︑一九一二年に出版されたものの復刻版である︒︵
︵ 2︶小川・前掲︵注1︶二四二頁︒
︵ という考え方と強い権力主義があったのではないか︑という︒ 七巻︵一九七六︶第六号一一頁は︑監獄法以前の﹁工銭﹂という考え方から作業賞与金に変わったのは︑奴隷思想を脱する 浩也﹃現代刑罰法大系第七巻 犯罪者の社会復帰﹄︵一九八二︶一〇三頁︒なお︑小川太郎﹁作業賞与金の問題﹂刑政第八 3︶小川・前掲︵注1︶二四四頁︒また︑宮本惠生﹁行刑における刑務作業の意義﹂石原一彦・佐々木史郎・西原春夫・松尾
︵ ―設現代監獄法への史的アプローチ﹄︵一九七九︶二二五頁︶︒ 定役に服する囚徒は就役一〇〇日を経過した場合︑工銭の一〇分の一を支給されていた︵重松一義﹃近代監獄則の推移と開 幸一﹁刑務作業における賃金制﹂﹃刑事政策の問題状況﹄︵一九九〇︶二四一頁︶︒また︑明治一四年在監人雇銭規則では︑ 4︶明治五年監獄則︑明治一四年監獄則︑明治二二年監獄則において規定されていた﹁工銭﹂は賃金制を採用していた︵菊田
︵ 5︶小川・前掲︵注1︶二四五頁︒
︵ 6︶小川・前掲︵注1︶二五一頁はこれを当然であるとする︒
︵ 法学論叢八八巻一・二・三号︵一九七〇︶︶︒ 7︶吉岡一男﹁受刑者の作業報酬に関する賃金制の主張について﹂﹃刑事制度の理念を求めて﹄︵一九八四︶五頁以下︵初出・
︵ öffentliche Recht der Gegenwalt, Bd.11(1884)S.349ff. Das Recht der arbeitspflichtigen Sträfinge auf einen Anteil an dem Arbeitsertrage, Grünhut: Zeitschrift für das Privat-und 8︶
︵ 9︶正木亮﹃新監獄学﹄︵一九四一︶一六〇頁︒
︵ 10 ︶正木亮﹃増訂改版刑事政策汎論﹄︵一九四九︶三九七頁︒
︵ ︵一九六九︶︶一三七頁︵初出・刑政第三七巻︵一九二三︶第一二号︶︒ 11 ︶正木亮﹃行刑法上の諸問題︵増補版︶﹄︵一九五八︶一四八頁︑同﹁受刑者に労働賃金の請求権はあるか﹂﹃犯罪と矯正﹄
―一側面﹂団藤重光・長島敦・八木国之・朝倉京一・森下忠﹃小川太郎博士古希祝賀 刑事政策の現代的課題﹄︵一九七七︶ 12 ―︶①ついて︑菊田・前掲︵注4︶二四三頁︒②について︑森本益之﹁受刑者による犯罪被害の賠償刑務作業賃金制導入の