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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

層状化合物が一層または数層からなる物質を原子層物質という.例えば,グラファイトの 層の一層で形成されるグラフェンは,2004年にGeimらにより発見され,massless Dirac フ ェルミオンの物理現象が現れる場として,これまで活発に研究がなされている.半導体的 性質を示す原子層物質は,光物性の観点からも注目されている.例えば,遷移金属(M)と カルコゲン(X)からなる遷移金属ダイカルコゲナイド(MX2)の一つである二硫化モリブデン

(MoS2)においては,バルクでは間接遷移型半導体であるのに対し,単層化により直接遷 移型半導体となり,その結果,顕著な発光(Aピーク発光)が生じる.Less is differentの 言葉が表すように,バルクとは異なる新たな物性が単層状態において見られることから,

原子層の光物性研究は基礎・応用の両面で極めて活発に研究されている.

特に原子層物質の光物性において,欠陥・グレインバウンダリ・ヘテロ界面など対称性 の崩れた特殊なサイトは,大きな光学非線形や束縛励起子など,特異な光物性が生じるこ とが知られている.これら新奇な光物性の背景は,電場に対する応答を調べることにより,

詳細に理解することができる。特に,原子層物質では,複数の層が重なったバルク材料と 異なり,ある特定のサイトの構造とそのサイトの光物性を1対1で議論することが原理的 には可能である.しかし,既存の一般的な手法を用いた分光測定法では,回折限界やデバ イス構造に由来する不均一性などの技術的制限から,局所サイトの構造とそのサイトで生 じる光物性とを関連させて議論することが困難な状況であった.原子層物質が示す様々な 光物性を用いて,バレートロニクスといった新たな応用も検討されているが,そのために も,まず原子層物質の光物性とその局所構造との相間を正確に理解することが必要不可欠 となっている.

論文著者は,この問題に取り組む為,近接場測定手法に加えて,局所的に電場を印可す る機構を設けることにより,回折限界を超えた空間分解能で,局所的な光学特性の電場効 果を解明する測定手法(Electric Field Assisted -Scanning Near field Optical Microscopy,

EF-SNOM法とここでは略称する)を新たに開発することを行った.EF-SNOM法により,

局所サイトの構造と光物性との相間をより深く理解することが目的である.また同手法を 発展させることにより,局所的なレーザー光照射と直流電場の印可により,構造相転移を 引き起こさせることが可能とも予想され,原子層の局所構造制御という将来の研究課題の 観点ももちつつ,EF-SNOM法の技術開発の研究を行った.

2 研究の方法と結果

論文著者は,近接場測定装置のベースとして市販の装置(WITec 社製)を用いた.これは,

60nm~120nm の開口を持つカンチレバの先端にレーザー光を照射することにより,近接

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場を発生させ,同光を用いて局所分光を行う装置である.論文著者は,そのカンチレバに,

外部から電圧を印加する機構を独自に設け,その結果,カンチレバの先端に存在するアル ミ酸化膜を通して,局所的に直流バイアス電場を印可させつつ近接場分光測定が可能とな る装置開発を行った.EF-SNOM を実現する為,論文著者はまず,測定系の動作確認を慎 重に行った.アルミ酸化膜の膜厚の評価,及び,金属試料を用いたリーク電流の状態チェ ックなどを行い,期待通りに局所的に電場を印可しつつ近接場分光測定が可能であること を確認した.そこで,半導体原子層物質である単層MoS2試料に対して,EF-SNOM法を用 いて,局所電場を印可した状況での近接場測定を行った.論文著者自らが化学気相法(CVD 法)を用いて試料作製を行い,局所バイアスがかかるデバイス作製を行った.その結果,同 手法を用いて,電場効果を用いた局所キャリア注入が可能であることを実験的に確かめ,

局所的な発光変調を観測した.

MoS2試料は,バイアス電場をかけない状況において,多くの場合は一様な発光はせず,

サイト毎に発光強度の違いがある.その背景には,酸素分子吸着などによる局所的なキャ リア密度の違い,または欠陥量に依存した局所的発光効率の違い,を反映した二つの異な る機構が考えられる.この機構の違いは,発光のバイアス電場依存性を解き明かすことに より区別することが可能であると考えられた.そこで,局所電場を印加して発光のサイト 依存性を調べたところ,CVD法で転写した試料では,上記機構からは解釈できない振る舞 いが見られた.これは,転写時に生じる残留ポリマーにより,サイト毎に一定の電場が印 可できていないことが原因であると考え,結晶試料から 劈開 した試料を用いて,サイト依 存性を調べたところ,明確に,初期ドーピング量の違いによる不均一発光のサイトと発光 効率の違いよる不均一発光のサイトを区別することに成功した.

また,劈開試料を用いることにより,2層サイトの EF-SNOM分光が可能となり,2層 サイトにおいては,単層サイトとは異なり,電場印可によりA ピーク強度の増大が起こる ことを見出した.この背景を調べる為,第一原理計算を用いたバンド構造計算を行い,電 場印可によるバンド構造変化で説明できることを示した.

論文著者は更に,単層MoS2において,EF-SNOMの実験を行っていたところ,ある強度 の直流電場を印加した状態でレーザー照射を行うことにより,ナノスケールの局所的なエ ッチングが可能であることを明らかにした.同手法を発展させ,単層MoS2のナノリボン構 造を形成することに成功した.エッチングの機構としては,光電気化学的な機構がが主要 因であることを検証した.

3 審査の結果

論文著者が示した局所的に電場を印可しながら近接場分光を行う測定手法は,世界的に見

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てもはじめての分光測定手法と言える.研究当初においては,カンチレバ先端に生じるア ルミ酸化膜が十分にゲート絶縁層として働くかどうかも不明であった.しかし,論文著者 は,この新たな測定手法開発を,アルミ酸化膜厚の検証,およびリークチェック等などの 条件検討を一つ一つ進め,最終的に動作可能であることを実証した.局所電場印可と近接 場分光を組み合わせたEF-SNOM法という手法を世の中に新たに提示したのは非常に価値 のある成果と考えられる.また,半導体原子層物質の発光は,多くの場合において,サイ ト毎に発光強度が異なる.この背景は,酸素吸着や欠陥といった局所構造の違いを反映し ていると考えられるが,通常の分光手法では,強度の違いという一つの量でしか議論でき ない為、その背景を特定することができない.しかし論文著者は,EF-SNOM 法の特徴を 生かし,その発光強度のバイアス電圧依存性のパターン形状から,単層MoS2のサイト毎の 発光強度の違いを,初期ドーピング量の違いと発光強度の違いの二つに類別可能であるこ とを実験的に検証した.この成果は,原子層の構造と光物性の相間の基礎的理解に大きく 貢献したといえる.また,EF-SNOM 法を用いて,局所的な構造制御が可能であることを 示し,それは将来的には微細な構造制御による原子層半導体デバイス作製の観点からも重 要な実験的知見と言える.

上述の幅広い研究の殆どを論文著者自身が行っており,先端分光測定技術や光物性研究 で必要となる実験技術を充分に習得していると判断できる.さらに,全ての成果は,論文 著者の地道な努力と,習得した高い実験技術を裏付けている.論文著者による研究を通し て示した新たな知見と技術は,高く評価できる.以上の結果,本論文は博士(理学)の学 位に十分に値するものと判定した.

4 最終試験の結果

本学の学位規定にしたがって,最終試験を行った.公開の席上で論文内容の発表を行い,

物理学専攻教員による質疑応答を行った.また,論文審査委員による本論文および関連分 野の試問を行った.これらの結果を総合的に審査した結果,合格と判定した.

参照

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