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これは翻訳ではない 『砂の子ども』誤訳の分析

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(1)

これは翻訳ではない

『砂の子ども』誤訳の分析

(1)

神田 大吾

誤訳は,他山の石として,価値がある。

ターハル・ベン・ジェルーンの小説『砂の子ども』の日本語訳1)出版の直後,その翻訳の内 容をめぐって,書評を書いた堀江敏幸氏と翻訳者の菊池有子氏によって,論争が交わされ た。2)正確に言えば,それは論争ではなかった。「高度な議論に至る前の,基礎的な不備」を多 数指摘した堀江敏幸氏に対して,菊池有子氏は,この小説で描かれた「不思議な物語世界」

が「まぎれもなく現代社会」であるとか,「驚嘆すべきは,彼が語る物語の内容なのである。」

等,高尚な議論で大半の紙幅を費やしたあげく,これらを読めばもっと作品の理解が深まり ますよとばかり,参考図書を何冊か挙げて一文を締めくくった。かくして二人の議論はすれ 違いに終わったのであるが,それも無理はない。この翻訳における「基礎的な不備」はあま

りにもおびただしく,議論の余地がないからである。

それが日本語の文章である以上,およそどの翻訳も,日本語そのものを問われることがあ る。『砂の子ども』においても,例えば男性を主語にして「不妊」とか,「情熱の裏をかく」

等,「奇妙な負荷のかかった訳語」に対して堀江氏は疑問を投げかけている。いずれも妥当な 指摘ばかりだが,しかしこのような「高度な議論」には,本稿では敢えて踏み込まない。

また,翻訳の完成度の高低を論じるつもりもない。例えば,原文においてla troisiさme 塑3)al 塑de r adolescence(41−13), cette麺匹dans notre histoire(41−20)と同じ単語が 繰り返されていれば,これが何らかのキーワードであることは明らかだが,それをなぜ翻訳 では「三つ目の場所」(37ページ1行目。以下,37−1,と略す),「思春期に対応している」

(37−7),「物語のこの章を」(37−10)と別々に訳し分けなければならないのだろうか。あるい はまた,第5章以下に現れる手紙のやり取りにおいて,一方を「です・ます調」,その返事を

「だ・である調」で訳し分けると,社会的地位の格差などの上下関係がにじみ出てしまうが,

しかし原文は対等に丁寧なvouvoyerで書かれているから,これもあまり良い翻訳とは言えな いが,その当否をここでは敢えて論じない。原文には《》もティレもないのに,「いったいそ の男は何者なんだね」(9−3)と鍵括弧でくくってしまえば,そこが台詞であることがはっきり

してしまう。それが誰の言葉なのか,聴衆の内の誰かが口にした言葉なのか,講釈師の問わ ず語りなのか,それとも単なる独り言,はたまた小説の語り手の声なのか。原文にはあった そのような揺れ動きが,日本語では捨象されてしまうから,これも決して良い翻訳ではない

『人文学科論集』32,pp.103−131.      ◎2000茨城大学人文学部(人文学部紀要)

(2)

が,今は敢えて問わない。あくまでも「基礎的な不備」だけ,欠陥と呼べる箇所だけをここ では問題にしよう。

先ず,技術上の欠陥。単語レベルのミスと,文章レベルのミス。

人間,誰しも間違いはあるものだ。うっかり「ようこそ,昼と夜よ,」(22−1)と訳してし まったが原文では「ようこそ!お前は昼であり,太陽だ!Bienvenue!6toi,1e jour et le soleil!

(25−11)」という文だったとすれば,それ自体は些細なミスだ。《Tu as mon ame et mon coeur》(76−3)という文を,うっかりTu es mon ame.一と見間違えて「あなたは私の魂,そし て私の心。」(72−1)と訳してしまったが実際は「私の魂,私の心はあなたのものよ。」だった

としても,それだけならば,いちいち目くじら立てるのは大人げない。だが,「私が泣きなが ら家に帰ると,父が私を平手打ちにした。そのときの父の言葉は,今でも覚えている。」(35一 11〜12)という文章が,実は「私は泣きながら家に帰った。父は私を平手打ちにしたが,そ

のことを今でも私は覚えている。父はこう言った。Je rentrai a la maison en pleurant. Mon p6re me donna une gifle dont je me souviens encore et me dit:(39−13〜15)」という文だった。

原著の二っの文を一っに合成した上,関係代名詞の先行詞を改変して訳す,このようないい 加減な仕事ぶりがあちこちに露呈しているのならぼ,鷹揚に黙認するわけにはいかない。

確かに,フランス語を日本語に訳すとき,一文一文を杓子定規に訳さねばならないことは なく,彼我の言語の構造の違いから,フランス語の一つの文を,日本語に訳す際には幾つか に分割して訳さねばならないことはあるだろう。だが逆に,フランス語の二つの文を,一つ に合体させて日本語に訳さねばならない,いかなる理由も存在しない。「光は彼を裸にした。

物音は彼を混乱させた。La lumi6re le d6shabillait. Le bruit le perturbait.(8−3)」という二っ の文を,「光は彼を裸にし,物音は彼の神経を逆撫でにした。」(5−3)と合成して訳したのは,

単に翻訳者の恣意的な判断に過ぎない。

このような,一個人の恣意的な判断に基づいて生じた翻訳上の欠陥は,翻訳技術以前の,

倫理上の欠陥と言ってもよいだろう。原著にない改行を施したり,原著の改行を無視して一 段落につなげたり,翻訳ではなく要約してしまう等,原著に対する敬意を著しく欠いた行為

もまた,倫理上の欠陥である。

あるいは,記号。確かに感嘆符!は日本語の文章にはなじまない面もあるので,省いてもよ

い。だが,原文「...qui sait si tu feras le bien... Bienvenue.。. Bienvenue!(25−12〜13)」を,「お       一

まえが善行をなすかどうか,だれが知ろうか...ようこそ...ようこそ...」(22−1〜2)と,なぜ感      一

嘆符を中断符号に差し替えねばならないのだろうか。翻訳49ページのアフマドと母親の会話

「そのとおり_」

「おまえは怪物だよ」

が,実際は 一Justement!

一Tu es un monstre...(52−18〜19)

(3)

「これは翻訳ではない(1)」      105

「だからなのさ!」

「おまえは怪物だよ...」

であった。このように,原文には中断符号がない場所に「_」をつけたり,原文には「...」が あるのに訳文では削除する。これらもまた,翻訳技術を云々する以前の問題ではなかろうカ㌔

『砂の子ども』における翻訳上のこのような欠陥を

A.改行の新設または削除B.文の脱落C.単語の脱落 D.二文の合成,E文意の誤訳E単語の誤訳G記号の改変

の七種類に分けて,各ページごとに何カ所あるかを図示したのが次の表である。

A

B C

D

E F

G

1 改行の新設/削除

文の脱落 単語の脱落 二文の合成 文意の誤解 単語の誤解 記号の改変

2

3

4 × ××× ×

5

× ×

6 ×××

7 X××× ×

8

×

××

× ×

9 × × × ×X

10

ll

12 ××× ×

××

13

××

14 × ×

15 × ×

16

××

X ×××

17 × X

18 ××××

××

×

19 × × ×××

××

20

××

××× ×

21 X

22 × × ×

23 ×

24 × ×

25 ×××

26 × X

27 ×

(4)

A

B C D E F

G

28

××××××××

×××

29 × ×

30 ×X×× × ×

31 ×××

××

×

32

××

×××× ×

33

××

×

34

××

35 ××× × ×

36

××

37 ×X×

××

×

38

××

× ××××

39

××

×

×× ××

40 ×××× ×

××

41 × X ×

42 ××××××

43 ×××× × ×

44

×× ×× ××

×

45 × × X××

46 ×××

47

×× ×× ××

48 ×××

××

49

×× ××

× ××× ××××××

50 × ××××

51 × × ×

52 × × ×

53 ×・ ×××××× × ×

××

54 ×××

××

×

55 ××× ×

××

56

××

××× ×

57 ××× ×

58 ×××× ×

×× ××

59 ×××× × ×

60 × × ××××

以下,これを具体的に見ていこう。翻訳のページ,原文とそのページ,改良試訳の三っ一 組で示す。紙幅の都合上,今回は『砂の子ども』前半の5章だけにとどめ,後半の調査結果

(5)

「これは翻訳ではない(1)」      107

については別の機会に譲りたい。

第1章

4−1:縦搬が刻まれ,やっれた顔があった。

Il y avait d abord ce visage allong(≦par quelques rides verticales,(7−1〜2)・

先ずはじめに,その顔ありき。幾筋かの縦織を寄せて浮かぬ顔,

4−5:(原文にはない改行)

4−5:彼の心に深い傷があることは,だれの目にも明らかだった。

On pouvait y lire ou deviner une profonde blessure(7−6)

深い傷をそこに読みとるとか,傷があるのではないかと推測できた。

4−5〜7:人々がぎこちない態度を示したり,意味ありげに見たり,悪意のこもった好奇の目 を向けただけで,その傷はまた開くだろうと,容易に想像できた。

(une profonde blessure)qu un geste maladroit de la main ou un regard appuyざ, un oeil scrutateur

ou malintentionn6 suffisaient a rouvrir.(7−7〜8)

手でうっかり触ったり,じっと見つめたり,探るような,あるいは悪意のこもった目を 向けたりするだけで,再び口を開ける傷だった。

4−9:自分と人との距離を保つ

maintenait entre lui et les autres la distance n6cessaire.(7−15〜16)

自分と人との間に必要な距離を保つ

5−3:光は彼を裸にし,物音は彼の神経を逆撫でにした。

La lumi6re le d6shabillait. Le bruit le perturbait.(8−3)

光は彼を裸にした。物音は彼を混乱させた。

5−17〜6−1:寝苦しくなるか,まったく眠れなくなった。

rendre le sommeil tr6s difficile, sinon impossible.(8−27〜28)

まったく眠れないわけではないが,とても寝付きが悪くなった。

6−2〜3:感覚は,人生に翻弄され,運命の手で念入りに変形された彼の肉体を,隅々まで占 領していた。

Ils s (5taient d6velo  (≦s et avaient pris toute la place dans ce corps que la vie avait renvers6

et le destin soigneusement d6tourn6.(8−31〜9−2)      、

感覚は研ぎすまされ,この肉体,人生がひっくり返し運命がうまく方向を変えてしまっ たこの肉体の中で,我が物顔にのさばるのだった。

6−5〜6:彼には,目の見えない者の嗅覚と,_予言者の視覚とが備わっていた。

Il disait u il avait le nez d un aveugle,_et la vue d un prophξ}te。(9−5〜6)

(6)

彼が言うには,目の見えない者の嗅覚と,...予言者の視覚とを身につけているそうだ。

6−9〜10:周囲の人々が彼に抱いている

son entourage s 6tait faite de lui ces derniers tem s,(9−13)

ここのところ周囲の人々が彼に抱いている 7−8:大家族の長

maitre incontest6 de la grande maison(10−9〜10)

誰もが認める大家族の長

7−10〜lI:肩は不格好に落ちて,狭く柔らかくなった。その肩が友人の顔や手を受けとめる ことはなかった。

ses 6paules 6taient tomb6es en disgrace;devenues 6troites et molles, elles n avaient 1遮i la pr6tention de recevoir une tete aimante ou la main de quelque ami.(10−12〜15)

両の肩は不格好に落ちた。狭く,ぶよぶよになってしまったから,その肩に恋人の頭が もたれかかったり,誰か友だちの手が置かれるだろうなどとは,もうとても思えなくなっ

た。

7−11:彼は,肩になんとも言えない重みを感じていた。

Il sentait un poids difficile a d6terminer peser sur la artie su 6rieure de son dos,(10−15〜16)

彼は,肩の上の部分に,よくはわからない重みがのしかかるのを感じ,

7−15〜16:彼の顔が老け込み,体を引きずるようになったのは,彼と肉体とのあいだに,断 絶,言わば亀裂ができてからだった,ママ

Mais, depuis qu entre lui et son corps il y avait eu rupture, une esp6ce de fracture, son visage

avait vieilli et sa d6marche 6tait devenue celle d un handicap6(10−24〜27)

だが,彼と彼の肉体との間に断絶,一種の断層ができてからというもの,彼の顔は老け 込み,彼の足取りは体が不自由な人の足取りとなったのである。

8−1:(原文の改行を無視)

8−4〜7:彼の死は,彼の人生とともに至高の域に達するにちがいない。ただ4)死によっての み,彼の仮面は焼き捨てられ,彼は生まれたままの姿に戻ることができるだろう。大地が しだいに彼の四肢を蝕み,やっと彼は永遠の重荷だった真実の中で,自分を取り戻すこと ができるのだ。

Sa mort sera a hauteur du sublime que fut sa vie, avec cette diff6rence qu il aura brOl6 ses masques,

qu il sera nu, absolument nu, sans linceul, a meme la terre qui rongera peu a peu ses membres jusqu ale rendre a lui−meme, dans la v6rit6 qui fut pour lui un fardeau perp6tue1.(11−7〜12)

生と同様,彼の死も至高の域に達するだろうが,ただ違う点は,死んだ時には彼は自分 の仮面を既に焼き捨てているだろうし,裸も裸の丸裸で経帷子もなく,地面にじかに横た わることだろう。少しずつ,大地が彼の四肢を蝕み,ついには彼自身,彼にとっては永遠 の重荷だった真実を,彼は取り戻すことだろう。

(7)

「これは翻訳ではない(1)」      109

8−13〜14:それは天からやってきて,恐ろしい蜘蛛をつかみ,彼が仕残したことを終える時 間を奪うだろう。

(des mains fortes)_qui viendraient d en haut et s empareraient de l araign6e redoutable;

elles l 6teraient de son espace le temps pour lui de finir ses travaux.(11−21〜24)

その手は天からやってきて,恐ろしい蜘蛛をつかむ。彼が自分の仕事を終えるまでの間,

彼の部屋から蜘蛛を取り除いてくれる。

9−1〜2:彼の運命は,まさにそれだった。

Son desseinさtait exactement cela:(12−1)

彼の意図する所は,まさにそれだった。

9−6〜8:その男は今わの際に,おれにこのノートを渡して,自分が死んでから四十日のあい だは開けないでほしいと言った。それは,彼が完全に死ぬまでの時間だ。

Il me l avait confi6 juste avant de mourir. Il m avait fait jurer de ne l ouvrir que quarante

jours apr6s sa mort, le temps de mourir enti6rement,(12−9〜11)

その男は今わの際に,おれにこのノートを渡した。ノートを開けるのは死んでから四十 日後にすると,おれに誓わせた。完全に死ぬまでの時間だ。

9−12:驚愕の涙が,頬をったって流れた。

Les larmes de l 6tonnement coulaient toutes seules sur mes joues,(12−18〜19)

驚きの涙が,頬をつたってひとりでに流れた。

9−16:純粋な精神の持ち主だけが,読めるのだ。

Il ne peut etre lu par des esprits innocents.(12−25〜26)

無垢な人々は,この本を読むことができない。

第2章

12−1:環になった道の端に

dans une rue circulaire(15−2)

環になった道に

12−3:この物語は,闇と豊かなイメージに彩られた夜のようだ。

Cette histoire a quelque chose de la nuit;elle est obscure et pourtant riche en images;(15一

4〜5)

この物語は,どこか夜に似ている。暗くて,しかしイメージに彩られている。

12−3〜4:やがて物語は,ほのかな光の中で結末を迎えるだろう。

elle devrait d6boucher sur une lumi6re, faible et douce;(15−5〜6)

物語は,ほのかな柔らかい光に行き着くだろう。

(8)

12−5:記憶はひとつの家であり,

notre maison a souvenirs(15−10)

記憶が詰まった私たちの家 12−7:忘却への誘惑は大きい。

Je sais, la tentation sera grande pour l oubli:(15−13〜14)

そりゃ,まあ,忘却への誘惑は大きいだろう。

12−9:なぜなら,この物語は砂漠なのだ。

Car cette histoire est aussi un d(≦sert.(15−16)

なぜなら,この物語は砂漠でもあるからだ。

13−1〜2:この足は,物語について考える以上に,われわれをはるかかなたへ運んでいくだろ

う。

Ils nous m6neront aussi loin ue nos esprits croiront a cette histoire.(16−3〜4)

われわれの心がこの物語を信じれば,それだけ遠くにわれわれを連れていってくれるだ

ろう。

13−7:詰め込みすぎた物語を解き放ち,

pour lib(≦rer des cases trop charg6es(16−14)

詰め込みすぎた仕切りをあけるため

14−9〜10:父親は,娘は一・人で十分だというのに七人とは多すぎる,悲劇的だとさえ思った。

Le p6re pensait qu une fille aurait pu suffire. Sept, c 6tait trop, c 6tait meme tragique.(17−19

〜20)

父親は,娘は一人で十分,と思っていた。七人だなんて,ひどい,ほとんど悲劇だ。

14−ll〜12:だが,娘を厄介払いすることはできなかった。彼は娘たちを憎むよりは,むしろ 無関心になっていった。

Comme il ne pouvait s en d6barrasser, il cultivait a leurεgard non pas de la haine, mais de 1 indiff〕6rence.(17−22〜24)

娘たちを厄介払いすることはできなかったから,憎しみよりもむしろ無関心を強くして

いった。

15−6:(原文にはない改行)

15−14:体は弱り,顔には搬ができた。

Son corps s usait. Son visage se ridait・(18−30)

体は弱くなった。顔には搬が寄った。

16−5〜6:だが,子どもが生まれるたびに,その期待は裏切られた。

Mais a chaque naissance toute la joie里tombait brutalement・(19−16〜17)

だが,子どもが生まれるたびに,喜びは再びがくっと地に落ちた。

16−7〜8:夫は,呪い師が指定した晩に妻と交わったが,なんの役にも立たなかった。       一

(9)

「これは翻訳ではない(1)」      111

Le mari copulait avec elle en des nuits choisies par la sorci6re. Mais cela ne servait a rien.

(19−19〜21)

夫は,呪い師が選んだあの夜,この夜,妻と交わった。だが,何の役にも立たなかった。

16−9〜10:娘が生まれるたびに,怒りの叫びが上がり,なす術もなく涙が流された。

Chacune des naissances fut accueillie, comme vous le devinez, par des cris de col6re, des larmes d impuissance.(19−22〜24)

娘が生まれるたび,みなさんお察しのとおり,怒りの叫びと無力を嘆く涙とで迎えられ

た。

16−12〜13:痩せた山羊を買ってきて,メッカの方向に急いで血を注ぎ,だれにも聞かれない ように子どもの名前を口の中でっぶやいた。

1 homme achetait une ch6vre maigre et faisait verser le sang en direction de La Mecque avec

rapidit6, balbutiait le nom entre ses l6vres au point que personne ne r entendait, puis_(19−28〜

31)

痩せた山羊を買い,メッカの方向にそそくさと血を注がせ,子どもの名前は口の中でぶ っぶつとつぶやいたので誰の耳にも届かず,そして,

17−11:日は長い。われわれは物語の細道を通って行くだろう。

La joum6e sera longue et nous aurons a passer par des ruelles tr6s 6troites.(20−29〜31)

長い一・日となるだろうし,われわれは狭苦しい細道を通らねばならないだろう。

17−13〜14:亡霊にとり葱かれたのだ。

J ai 6t6 poursuivi et pers6cut6 par des fant6mes.(21−4〜5)

亡霊に追い回され,ひどい目に遭わされた。

18−6〜7:それが,彼の決意したことだった。断固とした決意だった。

C 6tait cela sa d6cision, une d6termination in6branlable, une fixation sans recours.(21−18〜

19)

それが,彼の決意だった。断固とした決意,万策尽きた末の決意だった。

18−11〜12:体に欠陥があって,男子を産めず,いつまでも女を産み続けるだろうということ は察しがつく。

_j ai compris que tu portes en toi une infirmit6:ton ventre ne peut concevoir d enfant male;

il est fait de telle sorte qu il ne donnera−a perp6tuit6−que des femelles.(21−27〜22−2)

お前が体の中に欠陥を抱えていることが,わしには分かった。お前の腹は,男の子を宿 すことができない。そのように出来ているから,この先  永遠に  女の子だけ産み落

とすことじゃろう。

18−12〜13:男子を身ごもるかもしれないとき,おまえの体は,知らず知らずのうちにそれを 排除してしまうのだろう。

Ca doit etre une malformation, un man ue d hos italit6 qui se manifeste naturellement et a

(10)

ton insu a chaque fois que la graine que tu portes en toi risque de donner un gargon.(22−2〜5)

それはさだめし,奇形というか,もてなしの欠如というもので,お前の体の中に入れた 種が男の子をもたらしそうになると,そのたびに自然に,お前も知らない間に姿を現すの

だ。

18−13〜14:わしは善良な男だ,ママ離縁して,再婚するつもりはない。

Je suis un homme de bien. Je ne te r6pudierai pas et je ne prendrai pas une deuxi6me femme.

(22−6〜8)

わしは善良な男だ。お前を離縁したりはしないし,第二夫人を迎えるつもりもない。

18−14〜15:それを治すことで,今までの習慣と論理を覆したい。

Je veux etre celui ui le gu(5rit, celui qui bouleverse sa logique et ses habitudes.(22−8〜10)

それを治す男,その論理と習慣を覆す男になりたいのだ。

18−15:男子が産まれるように挑戦するのだ。

Je lui ai lanc6 un d6fi:il me donnera un gargon.(22−10〜11)

わしはそいつに,挑戦状を叩きつけてやった。わしに男の子を与えよ,とな。

19−4:(原文にはない改行)

19−5〜6:わしは娘に自分の名前を与えたが,愛情まで与えるわけにはいかない。娘など望ま なかった。

Je leur ai donn6 mon nom. Je ne peux leur donner mon affection p塑…je ne les ai jamais

d(5sir6es.(22−20〜21)

あの子らにわしは自分の名前を与えた。わしの愛情を与えることはできんぞ。産まれる ことを望んだことなど,一度だって,なかったからな。

19−8:娘たちは,父親などいないか,父親は深手を負った亡霊にすぎないと思っているだろ

う。

Savent−elles au moins qu elles n ont pas de p6re?Ou que leur p6re n est qu un fant6me bless6,

rofond6ment contrari6?(22−25〜27)

あの子らは,自分らには父親がいないことぐらいは分かっておるのかな。それとも,父 親は傷ついた亡霊,心の底から不満を抱いた亡霊にすぎないのだ,と。

19−10〜11:男子を産めば,おまえはほんとうの母親になり,尊敬されるだろう。

Tu seras une m6re, une vraie m6re, tu seras une rincesse, car tu aura accouch6 d un gargon.

(22−30〜23−1)

お前は母親,一人前の母親となるだろう。お姫様となるんじゃ。男の子を産んだのじゃ

からな。

20−2:(原文にはない改行)

20−3〜4:先に逝くだろう。

...et que de toute fa on je m en irai avant toi.(23−17〜18)

(11)

「これは翻訳ではない(1)」       113

どのみち先に逝くだろう。

20−9:だがこれは,二人の共同の行為だった。妻はやっと夫と行動をともにできるのだ。

…mais se sentit cette飴is−ci concemεe p訂une action co㎜une. Elle 6tait en且n伽s une complicit6

avec son 6poux.(23−27〜29)

だが,今度という今度は共同の行為に関わるのだと,妻は自覚した。とうとう,夫の共 犯者になったのだ。

20−12:そしていよいよ,出産の日がやってきた。

Et le grand jour, le jour de la naissance vint.(24−1)

そして晴れの日,出産の日がやってきた。

20−14〜15:ラッラー・ラディーアは,月曜日から家に来て,とくに念入りに準備をした。

Lalla Radhia 6tait a la maison depuis le lundi. Elle pr6parait avec beaucoup de soins cet

accouchement.(24−5〜6)

ラッラー・ラディーアは,月曜日から家にいた。念には念を入れて,この出産の準備を

した。

20−17:(原文にはない改行)

21−9〜10:小川は曲がりくねり,やがて大河となって,

Un ruisseau sera d6tourn6, il rossira et deviendra un且euve qui...(24−27〜28)

小川は流れる方向を変え,太くなり,大河となって,

22−1:ようこそ,昼と夜よ,

Bienvenue!6toi, le jour et le soleil!(25−11)

ようこそ!お前は昼であり,太陽だ!

22−2:ようこそ...」(原文は感嘆符)

22−9〜10:弟たちは,居間の隅で,何か小声で話していた。

Ses fr6res tenaient un conseil de uerre. Ils se parlaient a voix basse dans un coin du salon.

(25−25〜27)

弟たちは,作戦会議を開いた。居間の隅で,小声で話していた。

22−11:彼女は湯を沸かし,

Elle chauffait des bassines d eau et(25−30)

彼女はたらいの湯を沸かし,

22−11〜13:バッジと助産婦と二人の弟を除いて,皆が眠っていた。何人かの人影が,夢遊病 者のように立ち上がり,祈りを唱えた。

Tout le monde do㎜ait sauf le Ha雨, la sage一飴mme et les deux廿6res. A l aube, on entendit 1 a el a la ri6re. Quelques silhouettes se lev合rent, tels des somnambules et pri色rent.(26−1〜

S) 皆が眠っていたが,バッジと助産婦と二人の弟は別だった。明け方,祈りを呼びかける

(12)

声が聞こえた。何人かの人影が,夢遊病者のように立ち上がり,祈りを唱えた。

23−13:(原文にはない改行)

24−1〜2:喉をからからに乾かしている。

ass6che ma langue.(27−14)

舌をからからに乾かしている。

24−5:それは動かぬ太陽の顔と,人の命を奪う月の顔だ。

Visage du soleil immobile. Visage de la lune meurtri6re.(27−19〜20)

動かぬ太陽の顔。人の命を奪う月の顔。

第3章

25−4〜6:金曜の門は_ようやく母として認められた女の上に開かれる。

La porte du vendredi_s ouvre sur_une femme reconnue enfin comme m6re.(29−6〜11)

金曜の門は_ようやく母として認められた女の方に向かって開く。

25−7〜8:その門が夜の上に開かれ,

cette porte s ouvrir sur ses nuits(29−14)

その門が夜に向かって開かれ,

25−8〜9:移動して,運命の方へ進んでいく唯一の門だ。

C est la seule porte qui se d6place et avance au pas du destin.(29−16〜17)

移動し,運命の足取りで進む唯一の門だ。

26−4:二十ものテーブル

des vingt tables basses(30−6)

二十もの低いテーブル

26−14〜15:男児が  どうぞ神の御加護と長寿が与えられますように  木曜の十時に誕生 し,ムハンマド・アフマドと命名いたしました。

Un gargon−que Dieu le prot6ge et lui donne longue vie−est n6 jeudi a lOh. Nous l avons nomm6 Mohamed Ahmed.(30−22〜24)

男児が  どうぞ神の御加護と長寿が与えられますように  木曜の十時に生まれまし た。わたしどもはその子をムハンマド・アフマドと命名いたしました。

27−9:家族の中では,一年じゅう,笑いや祝いが絶えなかった。

La maison connut, durant toute l ann6e,墜le rire et la fete.(31−7〜8)

一年じゅう,家の中では喜びや笑いや祝いが絶えなかった。

28−2〜3:皆さん,悪魔でさえこれほどの悩みは知らぬほど,彼の悩みは深かった。

AOmes amis, il est des folies que meme le diable ignore!(31−26〜27)(=il y a)

(13)

「これは翻訳ではない(1)」      115

ああ,皆さん,悪魔でさえご存じない悩みというものがあるもんだ。

28−3〜4:どうしたらこの難局を切り抜け,計画したことをやってのける力が出るのだろう

か。

Comment allait−il contoumer la difficult6 et donner塾de force et de cr6dibilit6註 son plan?(31−27〜29)

この難局を切り抜け,計画に更なる力と信用を与えるには,どうしたらいいのだろうか。

28−6〜7:彼は,息子を床屋兼割礼師のところに連れていった。息子の脚を開き,何かが切ら れ,血が子どもの腿と床屋の顔に飛び散った。

Fi urez−vous u il a pr6sent6 au coiffeur−circonciseur son fils, les jambes 6cart6es, et que qulque chose a 6t6 ef∬ectivement coup6, que le sang a coul6,6claboussant les cuisses de l enfant et le visage du coiffeur.(32−1〜4)

実際は,こうだ。彼は,息子を床屋兼割礼師の前に差し出して両脚を開かせ,何かが本 当に切られ,血が流れ,子どもの腿と床屋の顔に飛び散った。

28−13:_できなかっただろう。

ils ne se risqu〜うrent(32−14)

_やろうとはしなかった。

28−14:アフマドは父親のもとで成長した。

Ahmed grandissait selon la loi du p6re(32−17)

アフマドは父親のきまりに従って成長した。

28−14〜15:今となっては,この子どもを一人前の男にしなければならなかった。

Il fallait a pr6sent faire de cet enfant un homme, un vrai.(32−19〜20)

今やこの子を一人の男,一人前の男にしなければならなかった。

28−15:毎月,床屋が彼の髪を切りに来た。

Le coiffeur venait r6 uli6rement tous les mois lui couper les cheveux.(32−20〜21)

毎月,床屋が定期的に彼の髪を切りに来た。

28−17:その年齢の子どもはたいていそうだが,

Comme tous les enfants de son age,(32−23〜24)

その年齢の子どもは誰でもそうだが,

29−14〜15:私は死ぬほど退屈で,胃が痛くなった。もうもうと立ち込める湯気に包まれて,

息苦しかった。

Moi,je mourais d ennui. J avais des crampes a r estomac,j 6touffais dans cette vapeur 6paisse

et moite qui m enveloppait.(33−16〜19)

私は,死ぬほど退屈だった。胃がひくひくと痙攣し,もうもうと立ち込めるこのじっと りとした湯気に包まれて,息苦しかった。

30−3〜5:いたるところで言葉が飛びかった。薄暗く閉ざされた浴場の中で,女たちの発した

(14)

言葉は,蒸気に支えられて,

Les mots et phrase fusaient de pa丘out et, comme la pi6ce 6tait飴㎜6e et sombre, ce qu elles disaient 6tait comme retenu par la vapeur et...(33−24〜27)

単語が,文が,あちこちから飛び出した。そして,部屋が閉め切られて薄暗いために,

女たちの発した言葉は,まるで湯気に押さえつけられ,

30−14〜15:ある言葉は,頻繁に発っせられ,早く落ちてきた。

Il y avait des mots qui tombaient souvent et plus vite ue d autres,(34−15〜17)

ある言葉は,頻繁に,そして他の言葉よりも早く落ちてきた。

30−15〜16:私にはそれらをどうすることもできなかったので,脇に置いておき,他の言葉や イメージを待った。

Je ne savais d ailleurs quoi en faire. En tout cas je les mettais de c6tさ, attendant d etre aliment6

par d autres mots et d autres images.(34−19〜22)

もっとも,それをどうしたらいいものか,私には分からなかった。ともかく脇に置いて おき,他の言葉やイメージが加わるのを待った。

30−17:私のところに落ちてくる雫は汚れていた。(×sales)

les gouttes d eau qui tombaient sur moi 6taient sal6es.(34−22〜23)

私のところに落ちてくる雫は塩辛かった。

30−17〜31−1:だから,言葉には人生の味わいがあると,私は思った。

Je me disais alors que les士nots avaient le goOt et la saveur de la vie.(34−23〜25)

それで私は,言葉には人生の味と香りがあるなと思うのだった。

31−1:女たちの生活は,限られたものだった。

Et, pour toutes ces fbmmes, la vie 6tait p堕r6duite.(34−25〜26)

また,ここにいる女たち誰にとっても,人生はかなり限られたものだった。

3L6:日常的な会話が現れる。

une phrase sens(≦e:(35−3)

意味のある言葉。

31−6〜7:そういう言葉は,天井まで昇っていく時間がなかった。

Ces phrases n avaient pas le temps d etre soulevεes vers le haut ar la va eur.(35−4〜6)

そういう言葉は,湯気に押し上げられて天井まで昇っていく時間がなかった。

31−7〜9:ぞんざいな口調で,おしゃべりとはいえず,聞き流しても,どうということはな かった。そうした言葉は空虚で,上昇することも,夢想をかきたてることもない。

Ellesざtaient dites sur un ton banal et exp6ditif;elles ne f且isaient pas partie du bavardage. En fait, elles m 6chapPaient et cela ne me genait pas du tout. Que pouvais−je faire avec des phrases vides, creuses, incapables de s 61ever et de me faire rever.(35−6〜11)

それは,ごく普通に早口で言われた。おしゃべりではなかった。実際にはそういう言葉

(15)

「これは翻訳ではない(1)」      117

を私は聞き逃したけれど,だからどうということはなかった。空っぽで,穴があいていて,

上昇することも私に夢を見させることもできない言葉を聞いたところで,どうなるもので

もなかった。

32−5:それから,私は女たちの脚の間をせわしなく歩き回った。

Apr6s j avais tout le temps pour me promener comme un diable entre les cuisses de toutes les femmes.(36−4〜6)

それから私は,いたずらっ子さながら,そこらじゅうの女たちの脚の間を歩き回っては,

たっぷり時間をつぶした。

32−5〜6:すべって,転びそうになって,

J avais peur de glisser et de tomber.(36−6〜7)

すべって転ぶのが恐かった。

32−6〜7:美しいどころか,むしろ,ぞっとするような眺めだった。

Ce n 6tait pas beau. C 6tait meme d6goOtant.(36−9〜10)

美しくはなかった。気持ち悪いくらいだった。

32−8〜9:私は,太って油ママぎった女たちなど見たくなかったと言いながら,鞭を持って待っ ていた。

j attendais, muni d un fouet, n admettant pas de les voir si 6paisses et si grasses.(36−12〜13)

あんなにも太って脂ぎった姿を見るのは我慢できなかったから,私は鞭を手にして待っ

ていた。

32−13:当時,母はよく私の体を調べたが,やはり何も見つからなかった。

Al 6poque ma m6re m examinait souvent. Elle non plus n y trouvait rien!(36−20〜21)

当時,母はよく私の体を調べた。母だって,何一つ見つからなかったのだ!

32−16〜33−1:この運命があるからこそ,人とは違う存在になり,大きな危険を冒すことに なったが,私はそれが気に入っていた。

Ce destin−la avait l avantage d etre original et plein de risquesJe l

aimais bien.(36−26〜28)

この運命のおかげで,私は人とは違う存在になり,危険でいっぱいなのだった。私はこ の運命が気に入った。

33−5〜6:その夜,母は得意げにそのことを父に話し,これからは父が私を連れていくように と言った。

Elle en parla fi6rement le soir a mon p6re qui d6cida de me prendre avec lui dor6navant au hammam.(37−5〜7)

その夜,母は得意げにそのことを父に話し,父は,これからは自分があの子をハマムに 連れていく,と決心した。

33−7〜8:彼らは立ち込める湯気の中で,手早く仕事をすませているといった雰囲気だった。

_;ils se laissaient enveloPPer par la vapeur et se lavaient assez rapidement. C 6tait une ambiance

(16)

de travail.(37−10〜12)

彼らは湯気に包まれ,体をささっと洗った。仕事しているみたいだった。

33−9〜10:私はぶらぶらしながら,濡れた石を読み取ろうとしたが,何もなかった。

Moi je tra↑nais et je dεchiffrais les pierres humides, Il n y avait rien dessus.(37−15〜16)

私はといえば,ぶらぶら歩き回り,濡れた石を解読した。石の上には,何も書かれてい

なかった。

34−3〜4:情熱の裏をかくのは,楽しかった。

Je trouvais un gl型plaisir a d(≦jouer cette ferveur.(38−4〜5)

こんな情熱をコケにするのが,とても楽しかった。

34−6:そこには文章が書かれていた。

Les phrases y 6taient calligraphiεes.(38−10〜ll)

そこには文章がみごとな書体で書かれていた。

35−11〜12:私が泣きながら家に帰ると,父が私を平手打ちにした。そのときの父の言葉は,

今でも覚えている。

Je renrai a la maison en pleurant. Mon pさre me donna une gifle dont je me souviens encore

et me dit:(39−13〜15)

私は泣きながら家に帰った。父は私を平手打ちにしたが,そのことを今でも私は覚えて いる。父はこう言った。

35−13:涙というものは女のものだ。

_les larmes, c est tr6s f6minin(39−17〜18)

涙というものは,いかにも女のものだ。

35−13〜14:泥棒を探しに外に出た。

_sortis a la recherche des voyous our me battre.(39−18〜19)

ならず者どもを探し出して戦うため,私は外に出た。

35−16:おれは,ここで本を閉じよう。

Je referme ici le livre.(39−22)

おれは,ここでまた本を閉じよう。

36−2:おれの胸を焦がすのは

_qui brαle ma p皇型en ce moment.(39−29〜30)

その瞬間,おれの肌をじりじり焼くのは

第4章

37−8:だが,薄暗くて主人公の姿は見えない。

(17)

「これは翻訳ではない」       ll9

Or, c est une 6riode bien obscure. Nous avons perdu de vue壁notre personnage.

(41−13〜15)

だが,これがなんともよく分からない時期なのだ。私たちは,主人公の足取りを見失っ てしまった。

37−8:彼は父親の手に捉えられ

Pris en main par le p6re,(41−15)5)

父親に育てられることになった彼は

37−11〜12:この本には何も書いていない。白紙のままだ。読み手の想像次第,皆さんに任さ      一

れているということだ。

Dans le livre, c est un espace blanc, des pages nues laiss6es ainsi en sus ens, of∬ertes a la libert6 du lecteur. A vous!(41−21〜42−2)

本の中でそれは余白であり,むきだしのページがそんなふうに中断したまま,読み手の 自由に任されているのだ。お前さんたちのな!

38−1:「アフマドは自分の運命に気がつき,

Ahmed prend conscience de ce qui lui arrive(42−3〜4)

アフマドは自分の身に何が起きているかに気がつき

38−4:アフマドは,父親の思いどおりに作られていったのだろう。

Je pense qu Ahmed aεt6 fabriqu6 et u il 6volue selon la strat6gie du p6re.(42−8〜10)

私が思うに,アフマドは父親の戦略に沿って作られ,成長していくだろう。

38−5:挑戦したいと思っている。

Il veut[_]relever le d(≦fi.(42−10〜11)

挑戦を受けて立とうと思っている。

38−5〜6:頭のいい子だから,この社会が_すぐに悟ったのだ。

C est un enfant[_]intelligent. Il a vite compris que cette soci6t6[...](42−11〜12)

頭のいい子だ。この社会が_すぐに悟ったのだ。

38−10:アフマドは父親のもとを離れなかった。

Ahmed ne quittait幽son pさre。(42−19)

アフマドは,一度だって父親のもとを離れなかった。

38−11〜12:学校で,アフマドは戦うことを覚えたが,よく負かされた。

Ar6cole, il a appris a se battre;et il s est battu souvent.(42−20〜21)

学校で,アフマドはケンカを覚えた。そして,よくケンカした。

38−16:そんなことを言っても,話は先に進まない。年長の方よ。

一Cela ne nous avance pas, cher doyen 1(42−27)6)

そんなこと,何の役にも立たないよ,おじいちゃん。

39−3〜4:もしアフマドが実在するなら,精神病院に行ったにちがいない。(原文の中断符号

(18)

が脱落)

Si Ahmed a vraiment exist6, il doit etre dans un asile d ali6n6s...(42−31〜43−1)

アフマドという人間は本当にいたけれど,今では精神病院に入っているはずだ...。

39−5:(原文の中断符号が脱落)

39−5〜6:この話は事実なのか,それともおまえさんの作り話で,われわれの時間と忍耐を弄

ぼうというのか...」

Nous verrons bien si cette histoire correspond a la v6rit60u si tu as tout invent6 pour te jouer de notre temps et de notre patience!...(43−3〜5)

今にわかるだろう。この話が事実と一致してるのか,それとも丸ごとお前さんの作り話 で,おれたちの時間と忍耐を弄んだかが,なっ!_。」

39−9:この物語のために皆さんが集い,

en vous associant h ce r(5cit(43−9)7)

お前さんたちに,この物語に参加してもらったのは,

39−9:関心を高めてほしかったのだ。(*6voluer?)

[...]je voulais juste{≦valuer votre int〔≦ret.(43−9)

関心がどれくらいのものか,知りたかっただけだ。

40−3〜4:一匹の蜂が...死の運命を背負い,首をしめられ,息の根を止められていくようだ。

une abeille[_]condamn6e a mourir,6trangl6e,εtouff6e p壁(43−30〜44−1)

一匹の蜂が...死刑を宣告され,首をしめられ,人生によって窒息させられるようなもの

だ。

40−5:深い悲しみなしに,鏡に映った自分の姿を見ることができない。

je ne peux me regarder sans etre troubl6 par une profonde tristesse(44−2〜4)

自分の姿を見る時はいつも,深い悲しみで心が乱れる。

40−8:忘れ物が置かれた棚

un placard工工塑d objets trouv(ls,(44−8〜9)

役場の遺失物の棚 40−10:草の根が

les racines vives(44−14〜15)

草の根が生き物のように

40−ll〜12:巨大な悲しみ(...)人々は,この闇を知るどころか,闇の形や重さを想像すること さえ稀だろう。

cetteεnorme tristesse dont peu de gens ont le privil6ge non pas de conna↑tre, mais simplement de deviner les formes, le poids et les t6nさbres.(44−16〜19)

この大いなる悲しみがどんな形をしていて,どれくらい重く,どれほど闇が深いか,

知っているどころか,推し測ることができる人だってほとんどいない。

(19)

「これは翻訳ではない」       121

40−13:私にはまだ,自分を裏切る勇気はない。(*encore?)

Je n ai pas toujours Ie courage de me trahir,(44−19〜20)

私は,勇気を出していつも自分を裏切れるわけではない。

40−16〜17:仕立てられた性のまわりを回るのだ。

pour f田re une ronde autour d un sexe(≦rig6,(44−27〜28)

勃起した性器の回りを輪になって踊る(堀江)

41−13:私は声のリズムや調子を制御し,

je dois en m㎡triser le rythme, le timbre et le chant,(45−20〜21)

私は声のリズムや音色や旋律を制御し 41−15:(一文脱落)私が真実を語るだけで,

》La v6rit6 s exile;il suffit que je parle pour que(45−23)

真実は引きこもる。私が口にするだけで,

42−8:どんなことも

Aucun d6tail ne devrait venir(46−5〜6)

どんな些細なことも

42−8:外部から,あるいはこの深淵から

ni de l ext6rieur ni du fond de la fosse,(46−6〜7)

この墓穴の外からも,また墓穴の底からも 42−13〜14:湿った大地から引き出されて

塑retir6 de la terre humide.(46−17〜18)

湿った土の中から引き出されたばかりの 42−15:体の抵抗を示すものだった。

r6sistance du corps au nom;(46−19)

名前に対する体の抵抗。

42−16:埋もれた記憶,体験してもいない仮定の人生の記憶が蘇ったのだ。

C 6tait un rapPel, une grimace d un souvenir enfoui, le souvenir d une vie que je n avais pas connue et qui aurait pu etre la mienne.(46−20〜22)

それは過去の呼び声,埋もれた記憶のしかめ面だった。私が体験はしなかったが,私の 人生になったかもしれない人生の記憶。

42−17:記憶とは,奇妙なものだった。

Etrange d etre ainsi orteur d une m6moire(46−23)

こんなふうに記憶の持ち主となるのは,奇妙なものだ。

43−1:どちら側に落ちるかわからなかった。

je ne savais pas巫…quel c6t6 je risquais de tomber.(46−26〜27)

どちら側から下に落ちそうなのか,わからなかった。

(20)

43−1〜2:私は赤く血に染まったシーツの中で,体を揺らした。

Je me balangais dans un drap rouge oh le sang s 6tait fondu dans la teinte de ce voile.(46−27

〜29)

私は赤いシーツの上で,体を揺らした。血が,シーッの生地の色と混じり合っていた。

43−3:打ち捨てられた人々の叫びと嘆き

1es plaintes et les cris d une horde abandonn(≦e,(47−1)

打ち捨てられた遊牧の民の叫びや嘆き 43−4:彼らの血を捧げる

offrir旦旦」⊇⊆塾leur sang・(47−3〜4)

彼らの血のいくばくかを捧げる

43−11:細い血の流れは,傷にすらならない。

Ce mince filet de sang ne pouvait etre qu une blessure.(47−14〜15)

あの細い血の筋は,ひとつの傷以外の何物でもなかった。

43−13〜14:指のあいだから,庭と立木の梢で縁取られた空が見えた。

Atravers je voyais le jardin, les arbres immobiles, et le ciel entrecoup6 par des branches trさs

hautes.(47−17〜19)

その向こうに見えるのは庭であり,そよとも動かぬ立ち木であり,そして,高く伸びる 枝で切り取られた空だった。

44−1〜2:夜のあいだ出血の様子を見て,それから

Je surveillerais la nuit l 6coulement. J examinerais ensuite...(47−30〜31)

夜のあいだ,血が流れる様子を私は見守るだろう。それから 44−5:(原文の中断符号が脱落)

44−5〜6:それが,少なくとも一つの問題だった。

C 6tait un problさme en moins.(48−6)

それで,問題が一つ減った。

44−8:土曜の門は,沈黙のうちに閉じる。

La porte du samedi se ferme sur un grand silence.(48−11)

土曜の門は閉まり,長い沈黙がやって来る。

44−8:アフマドはこの門を出て安堵した。

Avec soulagement Ahmed sortit par cette porte.(48−12)

肩の荷がおりたアフマドは,この門を通って外に出た。

44−8〜9:今のところ,彼の生活は,表向き成り立っていた。

Il comprit que sa vie tenait a pr6sent au maintien de l apparence.(48−12〜14)

いまや彼は,自分の人生が,[男としての]外見を保っことにかかっているのだと理解し

た。(堀江)

(21)

「これは翻訳ではない」       123

44−9〜10:だが,彼はもう父親の意のままにはならず,彼自身の意志を持つようになってい

た。

Il n est plus une volont(≦du pξ}re, Il va devenir sa propre volont6.(48−14〜15)

彼はもはや父親の意志ではない。やがて,自分の意志となるだろう。

第5章

45−3〜4:つまり,すべては,人がどちらから来たかで決まるのだ。皆さん,どの物語にも,

入り口圭出口の門があることを知っておくといい。

Tout d6pend d oU on vient;c est commode de savoir que dans toute histoire il existe des

portes d entr6e ou de sortie.(49−4〜6)

すべては,人がどちらから来たかで決まる。どんな物語にも,入り口かまたは出口の門 があることを知っていると便利だ。

45−4〜5:アフマドはこの二つの門を行き来していた。

Justement Ahmed塑souvent des vas−et−vient entre les deux portes.(49−7〜8)

まさしくアフマドも,この二つの門をしばしば行き来することになるだろう。

45−5〜6:彼は二十歳にな豊⊥教養のある青年になった。父親は彼の将来を案じていた。

Il a vingt ans・C est un jeune homme cultiv6 et son p6re pense avec inqui6tude a son avenir.

(49−8〜9)

彼は二十歳になった。教養のある青年となり,父親は彼の将来を案じる。

46−4:(原文の中断符号が脱落)

46−11:(原文の中断符号が脱落)

46−13:(原文の中断符号が脱落)

47−4:ぼくは自分の境遇に甘んじて生きているというより,好んでこうしている。

Ma condition, non seulement je r accepte et je la vis, mais je l aime.(50−22〜24)

ぼくは,自分の境遇に甘んじて生きているだけでなく,それが気に入っているんですよ。

47−5〜6:扉は開かれた。たとえその後でガラスの濫に閉じこめられようとも,ぼくは自らそ うしているのだ。

Elle m ouvre des portes et j aime cela, meme si elle m enferme ensuite dans une cage de vitres.(50−25〜27)

それはぼくにいくつも扉を開いてくれて,私は気に入っています。たとえ後になってそ れがぼくをガラスの濫に閉じこめるとしてもね。

47−7〜8:自分の唾液に溺並揺れる大地にしがみつき,こうして虚無に近づくのだ。       一

∫eme noie dans ma proprβsaliveJe me cramponne a la terre mobile. J approche ainsi du

(22)

n6ant.(50−28〜30)

ぼくは自分の唾液に溺れます。揺れる大地にしがみつきます。ぼくはこうして無に近づ いていくのです。

47−8:だが,目覚めたときには,自分に心から満足している。

Mais, quand je r6veille, je suis mal rεtout heureux d etre ce que je suis・(50−30〜31)

でも目が覚めたとき,ぼくがぼくであることで,ともかくまあ嬉しいですよ。

47−11:行き着く所まで行ってみたい。

Et je voudrais aller jusqu au bout de cette histoire・(51−5〜6)

そしてぼくは,この物語の最後まで行ってみたいんです。

47−15:父親は当惑した。

Le pξうre 6tait dans un g遮l d6sarroi.(51−12)

父親はひどく当惑した。

48−1:家では,姉たちに昼食と夕食を用意させ,彼は二階の部屋に籠もっていた。

Ala maison il se faisait servir par ses soeurs ses d司euners et ses dlners.11 se cloitrait dans

la chambre du haut.(51−16〜18)

家では,姉たちに昼食と夕食を給仕させた。二階の部屋に籠もった。

48−2〜3:彼は,工房で,すでに仕事を始めていた。

Al atelier il avait d6ja commenc6 a prendre les affaires en main.(51−20〜21)

工房では,彼は既に,経営に手を出し始めていた。

48−3〜4:父親は追い越され,息子に任せていた。

Son p6re 6tait d6pass6. Il laissait faire・(51−22〜23)

父親は追い越された。なるように任せた。

48−12〜13:母親は,息子は頭がおかしいと思ったが,怪物になったとまでは思わなかった。

Elle se disait que la folie lui arrivait au cerveau. Elle n osa pas penser qu il〔≦tait devenu un

monstre.(52−4〜6)

母は,息子は頭がおかしくなった,と思った。怪物になったとは思いたくなかった。

49−1:「ファーテイマだって」(原文の中断符号が脱落)

一Fatima qui?_(52−12)

「どこのファーティマだい?_」

49−2〜3:「父さんの弟の娘だ」(原文の中断符号が脱落)

le fr6re cadet de mon p色re,(_)de tes filles_(52−13〜15)

「父さんの一番下の弟の娘だ_」

49−4:(原文の中断符号が脱落)

49−5〜6:「そのとおり_」「おまえは怪物だよ」

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