凌 廷 輝 編 『人生 地 理 学 』 に関 す る0考 察(高 橋)79
凌 廷 輝 編 『 人 生 地 理 学 』 に関 す る一 考 察
高 橋 強
1.は じ め に
2.凌 廷 輝 編 『人 生 地 理 学 』 出 版 の 背 景 2‑1.「 奥 付 」
2‑2.「 総 論
3.凌 廷 輝 編 『人 生 地 理 学 』 の 内 容 概 観 3‑1.『 最 新 人 生 地 理 学 』 と の 比 較
3‑2.「 漸 江 潮 」 『江 蘇 師 範 講 義 ・地 理 』 との 関 係 4.む す び に
1.は じ め に
2007年10月 「多 元 文 化 と世 界 の調 和 」 池 田大 作 思 想 国 際 学 術 シ ン ポジ ウ ム にて 、 アモ イ大 学 の黄 順 力 教 授 が 「『江 蘇 師範 講 義 ・地 理 』 と 『人 生 地 理 学 』 の 比 較 研 究 」 と題 し研 究 発 表 を行 っ た。 この 時 、1909年 『人 生 地 理 学 』(凌 廷 輝 編)の 実物 の 存 在 が 再確 認 され た 。
『人 生 地 理 学 』 は1903年 に牧 口常 三 郎 に よ っ て著 され た書 籍 で あ るが、 新 鮮 な書 名 の 故 に、 また1000余 ペ ー一ジ に もわ た る大 著 の故 に、 出版 され るや い なや 大 きな 注 目 を集 めた 。 それ は 日本 人 ば か りで な く、 当時 日本 に留 学 して
い た 中 国人 学 生 か ら も注 目 を集 め た。 今 日、 中 国 の研 究 者 に よって 、 牧 口著 の 『人 生 地 理 学 』 が 中国 人 留 学 生 に よっ て 中 国語 に翻 訳 され て 、 しか も四 種 類 出版 され て い た こ とが 明 らか に な っ て い る。
一 種 類 目は、1903年 発 刊 の 月 刊 誌 「漸 江 潮 」(第9期)(第10期)で あ る。
これ は 『人 生 地 理 学 』 の 「植 物 」 「海 洋 」 の 部 分 訳 で 印刷 は 日本 で あ る。 中 国 の 多 くの 地 で 販 売 され た。 二種 類 目 は、1906年 出版 の 『江 蘇 師範 講i義 ・地 理 』 で あ る。 牧 口は1904年 か ら1907年 にか けて 、 嘉 納 治 五 郎 が創 設 した 中 国 人 留 学 生 の た め の 弘 文 学 院(1902年 一1909年)で 人 生 地 理 学 を講義 して い た 。 同書 は牧 口 の講義 を受 けた江 蘇 師範 学 生 が 受 講 記 録 を編 集 して 出版 した もの で 、 印 刷 はや は り日本 で あ る。江 蘇 省 の多 くの師 範 学 堂 で教 科 書 と して 使 用 され た 。 三種 類 目は、1907年 出版 の 『最 新 人 生 地 理 学 』 で あ る。 世 界 語 言 文 字 研 究会 編集 部 に よ り翻 訳 され た全 訳 の 学 術 書 で あ る(挿 絵 、 添 付 の地 図 も全 く同 じで あ る)。 印 刷 は 日本 で、 中 国 各 地 の 大 書 房 で 販 売 され た 。 同 書 は大 変 に好 評 を博 し、 出版 同年 に再 版(初 版 は7月 、 再 版 は10月)が 出版
され て い る。
四 種 類 目 は、1909年 出版 の 凌 廷 輝 編 『人 生 地 理 学 』 で あ る。 同書 の 存 在 は、0人 の 中国 人 研 究 者(郭 双林 『西潮 激 蕩 下 的 晩 清 地 理 学 』 北 京 大 学 出版 社2000年)に よっ て確 認 され た が 、 そ の後 しば ら く実 物 の存 在 が不 明 で あ っ
た 。1909年 出 版 の 『人 生 地 理 学 』 は、 その2年 前 に全 訳 本 が 出版 され て い る だ け に、 大 変 に興 味 が もた れ て来 た 。全 訳 本 を基 に、 そ の後 の 留学 生 また研 究 者 が 、 人 生 地 理 学 を どの よ うに と らえ、 どの よ うに発 展 させ て い った の か
を考 察 す るの に、 一 つ の資 料 を与 えて くれ るか らで あ る。
本 稿 にお いて は、 凌 廷 輝 編 『人 生地 理 学 』 の 出版 の背 景 を分 析 し、其 の 他 三種 類 の 中国 語 訳 「人 生 地 理 学 」 との 関連 を検 討 しなが ら本 書 の 内容 を概 観 し、 四種 類 の 中国 語 訳 「人 生 地 理 学 」 の 中 で の 位 置 づ け につ い て考 察 を試 み る。
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2.凌 廷 輝 編 『人 生 地 理 学 』 出版 の 背 景
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2‑1.「 奥 付 」
「奥 付 」 に は 次 の よ うな 記 載 が あ る
。
宣統元年四月初版印行 定価大洋三角半
編集者 帰安凌廷輝 寧波 日昇街 発行者 新学会社 寧波江北岸
印刷所 釣和印刷公司 北京琉璃廠漢 口黄陵街 発行所 新学会社 広東双門底
分発行所 新学会社 上海棋盤街 総発行所 新学会社
宣 統 元 年 とは1909年 の こ とで 、本 書 は1909年4月 に凌 廷 輝 に よ り編 集 さ れ 、 新 学会 社 に よって 発 行 さ れ た こ とが分 か る。
編 者 の凌 廷 輝 につ いて は そ の詳 細 は不 明 で あ るが 、 現 在 判 明 して い るの は 以 下 の 内容 で あ る。漸 江 省 帰 安(旧 名 、現 在 の地 名 は呉 興)出 身 で、 日本 に 留 学 し1903年 に弘 文 学 院 を卒 業 して い る。 留 学 中 に は漸 江 出 身 者 を 中心 と し て 組 織 され た漸 江 同 郷 会 の会 員 と して活 動 した 。 同 会 は1903年1月 よ り月刊 誌 「漸 江 潮 」(全 部 で12期 発 刊)を 発 刊 して い る。 同雑 誌 の特 色 は、一・つ は、
帝 国主 義 的侵 略 や それ に起 因 す る重 大 な危 機 につ い て の 文 章 が 多 い とい う こ と、 二 っ 目 は、 民族 主 義 を提 唱 し清 朝 打 倒 を呼 び か けて い る とい う こ と、 三 つ 目 は、 進 歩 的 な科 学 文 化 の学 説 を多 く紹 介 して い る とい う こ とで あ る。 特 筆 す べ き は、 同 雑 誌 に お い て 牧 口常 三 郎 著 『人 生 地 理 学 』(1903年10月)の 部 分 訳 が 掲 載 され た こ とで あ る。 「漸 江 潮 」 第9期(1903年ll月)に 「植 物
與 人 生 之 関 係 」 と題 し、 「漸 江 潮 」 第10期(1903年12月)に は 「植 物 與 人 生 之 関係 」(続)、 「地 人 学 」 と題 し発 表 され た。 実 は漸 江(紹 興)出 身 の 魯 迅 も、 い くっ か の ペ ンネ ー ム を使 って 、 愛 国 主 義 を鼓 舞 した翻 訳 小説 「ス パ ル タ の魂 」(第5期 、 第9期)、 亡 国 の危機 感 や 産 業 救 国 の心 情 に溢 れ た 地 質 論
「中 国 地 質 略 論 」(第8期) 、 科 学 へ の興 味 を喚 起 し よ う と した翻 訳 小 説 「地
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底 旅 行 」(第10期)等 、 多 数 の 文 章 を同 雑 誌 上 で 発 表 して い る。 魯 迅 は1902 年 か ら1904年 にか けて 弘文 学 院 に留 学 して い る。
凌 廷輝 が いつ 帰 国 した か は定 か で は な いが 、 資 料 に よ る と1908年7月 か ら は漸 江 官 立 法 政 学 堂(1907年 創 立)で 、 大 清 会 典 、 歴 史 、 地 理 、倫 理 学 を講
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義 して い る。 ま た1910年 の 統 計 に よ る と、 漸 江 両 級 師 範 学 堂(1980年 春 創
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立)で も地 理 学 を講 義 して い る こ とが 分 か る。 実 は魯 迅 も1909年 秋 に帰 国 し、 漸 江 両 級 師範 学 堂 で1910年 夏 まで 生 理衛 生 を講 義 して い る。
発 行 者 の新 学 会 社 は、1903年 に寧 波 で 創 設 され 、 清 末 に寧 波 か ら上 海 に移 り、 山 東 中路 と河 南 中路 の 間 の 交 通 路 に置 か れ た。 創 立 者 は庄 景 仲(1860 年 一1939年)で あ る。 早 い 時 期 に は農 業研 究 に従 事 し、 農 業 書 籍 を編 集 印刷
し、 著 書 に 『農 業 新 書 』、 『娯 虫 防 治 法 』 が あ る。 そ の後 林 業公 司 を余杭 に創 設 し、 山林 事 業 に も取 り組 ん だ 。1908年 同盟 会 に入 り、漸 江 一 帯 で 革 命 活 動 に参 加 した。 辛 亥 革命 後 、杭 州 の軍 政 府 財 政 部 長 を、 その後 漸 江塩 政 局 長 を
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歴 任 した。 新 学 会 社 は上海 で 長 期 間存 続 し、 出版 事 業 に携 わ った 。
な お 本 書 に は、 本 書 を所 蔵 して い た 「河 南 大 學 圖 書 館 」、 また本 書 を使 用 した と思 わ れ る 「河 南 留學 欧 美 預 備 學 校 」 とい う印 が 押 され て い た。
2‑2.「 総 論 」
(g}
本 書 は合 計82頁 に お よん で い る。本 書 編 集 の 目的 につ い て述 べ た 「総 論 」 が 目次 の次 に置 か れ て い るの で 紹 介 す る。
凌廷輝編 『人生地理 学』 に関す る一考察(高 橋)83
人 生 地 理 学 は、 地 理 と人 生 の関 係 を研 究 す る学 科 で あ る。 古 よ り地 理 を語 る者 は、 た だ幾 つ か の地 名 や 言 葉 を覚 え、 あ るい は古書 を参 考 に し、 そ の歴 史 を考 証 し、 そ の現 状 を推 測 す るだ けで 、 これ は た だ そ の 表 面 の 現 象 を考 証 す るだ けで 、 そ の 中 の真 実 の原 理 が 分 か って い な い。 従 って 、 そ の原 理 を深 く理 解 した い な らば、 地 理 と人 生 の関 係 を必 ず 理 解 しな けれ ば な らず 、 そ の 上 多 少 な り とも発 見 が あ った な ら、 過 去 の観 点 に決 して拘 泥 して は な らず 、 空 論 を交 わ した り、 また 実用 を求 め な い こ とが あ って はな らな い。 人 類 が こ の地 球 上 に生 存 して 、 この よ うに生 存 競 争 を して い るが 、 大 地 と結 局 は如 何 な る関 係 を持 っ て い るの で あ ろ うか 。 私 は た だ大 地 の 一・部 分 を 占 め て い る に す ぎ な く、 閉 関 自守(関 所 を閉 じて外 界 との往 来 を絶 つ こ と)が 出来 な い 以 上 、 そ の他 の所 と必 ず 各 種 の 関 係 を 持 つ べ き で 、 関 係 を持 て ば、 気 候 、 物 産 、 地 勢 、宗 教 、社 会 、 交 通 お よび 国家 興 亡 の 変 遷 の原 則 を比 較 す る こ とが 出来 る。 人 類 発 展 の 緩 慢 現 象 は、 一 つ一 つ の詳 細 な比較 が な けれ ば、 決 して そ の重 要 性 を認 識 で きな い観 点 で あ る。従 って 、 地 理 学 とい う学 科 は、 表 面 か ら見 る とた だ 普 通 の学 科 の 中 の一 つ で あ るが 、 実 際 に は関 係 す る範 囲 は広 く、 多 くの学 科 と密接 な関 係 を持 っ て い る。 今 日の 人 々 の 分 類 法 に従 う と、
地 理 学 は天 文 地 理 、地 文 地 理 、 人 文 地 理 に分 け る こ とが 出 来 、 また人 文 地 理 を政 治 地 理 、経 済 地 理 等 に分 け る こ とが 出来 る。 従 って 、 地 理 学 は た だ0つ の学 科 に属 す る に もか か わ らず 、 も しそ の他 の各 種学 科 の 知 識 を深 く理 解 せ ず 、 そ の上 演 繹 と帰 納 を加 え な けれ ば、 地 理 学 を本 当 に理 解 す る こ とは 出来 な い。 ゆ え に、 も し地 理 学 の 思 想 や 知 識 を拡 充 した い と思 うな らば、 地 理 と 人 生 の相 互 関係 を研 究 す る必 要 が あ り、 ど う して 安 閑 と して いれ よ うか 。
地 理 と人 生 の 関 係 は、 この よ うに偉 大 な の で 、 それ を研 究 し よ う と思 う と、 ど こか ら研 究 を開始 す れ ば い い の だ ろ うか。 理想 は実 践 の 母 で 、 理 想 の 豊 か な人 は、 必 ず実 践 に助 け を求 め る もので 、 所 謂 実 践 とい うの は、反 復 し た 考 察 と推 測 を必 要 とす るが 、 これ は各 種 の学 問 の共 通 点 で あ るが 、 地 理 学
は さ らに そ うで あ る。 守 株 待 兎(偏 狭 な経 験 に しが み つ きそれ ぞ れ の状 況 に 応 じて 融通 を きか せ な い)の 人 は、足 跡 を百 里 か ら出 ず 、 古 人 の経 験 に固執
し、誤 った情 報 を用 い る。 某 山、 某 水 、 某都 、 某 村 は、 陳 腐 で 全 然 新 味 が な く、 広 くた くさん の書 を読 ん だ と思 って い て も、 実 際 は間 違 っ た情 報 が伝 播 され て い るの で あ る。0旦 門 を出 て道 を歩 き、 道 に迷 わ な いで 帰 っ て来 て 、 しか る後 初 め て 世 界 の知 識 が 分 か り、 実 地 で の視 察 で な けれ ぼ、 理 解 す る こ とが 出 来 な い。 欧 米 の 探 検 家 は、 よ く一一人 で 万 里 を行 き、 山 を登 り川 を 渡 り、 苦 労 して旅 を し、 死 んで も後 悔 しな い よ うだ が 、 結局 は何 の た め で あ ろ うか 。 目的 は、 地 理 を視 察 し認 識 す るた め で あ る。 また 古 を好 む人 は、 自由 に考 え を巡 らせ て 、 遠 い昔 の前 に有 機 体 はあ った のか 、 人 類 は いつ 出現 した のか 、 社 会 は いつ か ら形 成 され 始 め た の か を探 求 して い る。 魂 は天 国 に あ る 或 い は地 獄 に あ る とい う言 い方 は、 実 に不 可 思議 で あ る。0体 、 何 が 原 因 な ので あ ろ うか 。 これ らは、 地 理 を しっか り学 習 す る必 要 が あ るが 、 地 理 の人 類 に対 す る利 点 は遥 か に これ らに 限定 され て い な い。
地 球 上 の種 族 間 の 競 争 は、 優 勝 劣 汰(優 れ た者 が勝 ち、 劣 っ た者 が淘 汰 さ れ る)、 弱 肉 強 食 で 、今 日世 界 の所 謂 民 族 帝 国 主 義 は、 そ の 目的 は ど こ に あ るの か 。 それ は勢 力 範 囲 の拡 張 にほ か な らな い。 勢 力 範 囲 を拡 充 出来 るか 否 か は、 その鍵 は世 界 観 念 が あ るか な い か で あ る。 世 界 観 念 が あ るか な い か の 鍵 は、豊 か な地 理 知 識 が あ るか な い か で あ る。従 って 、 今 日所 謂 強 国 は、 彼 らの普 通 の 民 は、 豊 富 な地 理 知 識 を必 ず持 って い る。 所 謂 弱 国 は、 彼 らの 普 通 の 民 は、 地 理 知 識 が 欠 乏 して い るはず で あ る。 あ あ、 我 が 中華 の大 地 よ、
山 河 の 美 しさ よ、 天 下 に名 が 聞 こえて い るが 、 ど う して我 が大 地 に お い て 帝 国主 義 者 に ほ しい ま まに させ て お こ うか 。 そ の上 、 我 々 が 依 存 して い る土 地 は、祖 先 が 遺 して くれ た もの で 、 それ を利用 す るの は、 我 々子 孫 が 当然 行 う べ き こ とで あ る。 欧 米 列 強 の狡 猜 な 陰謀 に勝 ち た い と思 うな らぼ、 民衆 の 眠
りを覚 ます こ とだ 。 地 理 を理 解 しな い で 、 何 に頼 るの か 。 我 が 国 国 民 の 国 家
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につ いて の思 想 を向上 させ た い と思 うな らば、 もち ろん 我 が 国 国 民 の地 理 知 識 を 向上 させ る必 要 が あ り、 これ は地 理 学 の人 類 に対 す る有 益 な 最 も主 要 な 一 面 で あ る。 も し細 部 か ら述 べ る と、 さ らに計 り難 くな り、 一・人 で居 る と、
容 易 に心 を閉 じ込 め て しま う。従 って 、 気 分 転 換 を しよ う。 我 々 の 美観 を最 も よ く転 換 して くれ る もの は、 山 河 の明 媚 と草 花 が 美 しさ を競 う情 景 で 、 の び の び と心 地 よ くさせ 、 心 を輝 か せ 目 を 楽 し ませ る。 高 き に登 り遠 くを望 む、 まさ に文 人 や 学 士 が 心 を和 ませ て い るの で はな い か 。 古 人 は次 の よ うに 言 っ た。 大 地 は我 が文 章 を書 くの を任 せ たが 、 これ は道 理 で あ る。 これ は地 理 学 は人 生 に有 益 で あ って 、 入 々 の審 美 と興 味 を引 き起 こす こ とが 出来 る と
い う こ とで あ る。 た だ地 理 とい う学 科 で あれ ば、 各 種 の予 測 を検 証 す るに足 り、 古 代 の歴 史 を考 証 す る に足 り、 列 強 の陰 謀 を伺 い 知 る に足 り、 愛 国 精 神 を振 るい起 こす に足 り、 美術 へ の興 味 を強 くす る に足 るの で あ る。 これ 以 外 に、 そ の他 の利 点 は多 くを論 述 しな い。 従 っ て、 地 理 を研 究 す るに は、 即 ち 地 理 と人 生 の 関 係 を研 究 す る こ とが 必 要 で 、 ど う して 安 閑 と して いれ よ う か 。
編 者 は 「総 論 」 の 中で 、"地 理 と人 生 の 関 係 を理 解 す る こ と"を 強 調 して い る。 そ して そ の 目的 と して 二 点 あ げ て い る。 一 つ は、"真 実 の原 理"を 知 るた めで あ る。 この原 理 を理 解 で きれ ば、 生 存 競 争 を繰 り返 して い る人 類 と 大 地 の 関 係 を理 解 す る こ とに繋 が り、 人 類 発 展 の緩 慢現 象 理 解 に も繋 が る。
その た め に は世 界 との例 えば気 候 、 宗 教 、社 会 、 交 通 、 国家 興 亡 等 の比較 研 究 が 必 要 で あ り、 また実 地 で の視 察 も必 要 で あ る。
も う一 つ は、 世 界 観 念 を国 民 の 中 に構 築 す るた め で あ る。 但 し世界 観 念 が あ るか な いか の 鍵 は、 豊 か な地 理 知 識 が あ るか な い かで あ るの で 、 国 民 の 地 理 知識 向 上 を強 く訴 え て い る。 強 国 の 国 民 に比 べ て 、 弱 国 中 国 の 国 民 の地 理 知 識 欠 乏 の 現 状 に憂 いて い る。 帝 国主 義 の.:.一 に喘 いで い る祖 国 に対 す る憂
いで あ る。 民 衆 の 眠 りを覚 ます た め に も、 また 民衆 の 国家 に対 す る意 識 を 向 上 させ るた め に も、地 理 を理 解 させ よ う と主 張 して い る。
た だ地 理 学 で あれ ば 、"各 種 の予 測 を検 証 す るに足 り、 歴 史 を考 証 す る に 足 り、 列 強 の 陰謀 を察 知 す る に足 り、 愛 国 精 神 を振 るい起 こす に足 り、 美 術 へ の興 味 を強 くす る に足 るの で あ る"と い う部 分 に は、"人 生 地 理 学"に 対 す る高 い評 価 と、 大 きな 期 待 が 現 れ て い る。"人 生 地 理 学"を 、0種 の 中国
を救 済 す る啓 蒙 の学 問 と捉 えて い るよ うに も思 え る。
3.凌 廷 輝 編 『人 生地 理 学 』 の 内容 概 観
3‑1.『 最 新 人 生 地 理 学 』 との 比 較
『人 生 地 理 学 』 の 目次 は以 下 の通 りで あ る。
総論
第1章 日月及星 第2章 地球之成立 第3章 地形
第4章 地面諸帯(本 文中で は地面諸線) 第5章 五帯
第6章 地勢 第7章 五洲 第8章 島懊 第9章 半 島 第10章 地峡 第II章 山嶽 第12章 火 山
凌廷 輝 編r人 生 地 理 学 』 に 関 す る一 考 察(高 橋)87
第13章 平 原 第14章 高原 第15章 砂 漠 第16章 江 河 第17章 湖 第18章 海 第19章 洋 第20章 潮 汐 第21章 波 浪 第22章 洋流
第23章 風 第24章 雨 第25章 気 候 第26章 有 生 物 第27章 無 生 物 第28章 人 口 第29章 人 種 第30章 性 情 第31章 社 会 第32章 言 語 第33章 文 字 第34章 宗 教 第35章 国 家 第36章 交 通
『最 新 人 生地 理 学 』 の 目次 は以 下 の通 りで あ る。
緒論
第1章 地人 関係之概観 第2章 為観察 基点之郷土 第3章 観察周 囲之方法如何 第4章 日月及星
第5章 地 球 第6章 島喚
第7章 半 島及 岬角 第8章 地峡
第9章 山嶽及 難谷 第10章 平原
第ll章 河川 第12章 湖沼 第13章 海洋
第14章 内海及 海峡 第15章 港湾
第16章 海岸 第17章 無生物 第18章 大気 第19章 気候 第20章 植物 第21章 動物 第22章 人類 第23章 社会
第24章 社会 之分業生活地論 第25章 産業地論(上)
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第26章 産 業地 論(中) 第27章 産 業地論(下) 第28章 国家地論
第29章 都会及村落地論 第30章 生存競 争地 論 第31章 文明地 論
第32章 地理学之研究法 第33章 地理学意義及範 囲 第34章 地理学可得豫期 之効 果
両 者 の 目 次 を 比 較 す る と次 の よ う に 概 観 で き る 。
前 者 は 、 後 者 の 「緒 論 」 と第1章 「地 人 関 係 之 概 観 」 か ら第3章 「観 察 周 囲 之 方 法 如 何 」 を 省 き、 第1章 「日 月 及 星 」 か ら開 始 し、 第2章 「地 球 之 成 立 」 か ら第7章 「五 洲 」 を 除 く と、 第22章 「洋 流 」 ま で は、 目次 の 順 序 は後 者 の そ れ とほ ぼ 同 じで あ る 。 前 者 の 第23章 「風 」 以 降 は、 前 者 は 後 者 を 模 範 とす る が 、 第23章 「風 」、 第24章 「雨 」、 第25章 「気 候 」 を 連 続 させ 一・ま とめ に し、 第26章 「有 生 物 」、 第27章 「無 生 物 」 を 続 け て 一 ま とめ に し、 後 者 の 第22章 「人 類 」 を 第28章 「人 口」 と第29章 「人 種 」 と第30章 「性 情 」 と に分 け 、 ま た 後 者 の 第24章 「社 会 之 分 業 生 活 地 論 」 を 第31章 「社 会 」 と第32章
「言 語 」 と第33章 「文 字 」 と第34章 「宗 教 」 と に 分 け て い る 。 前 者 は ま た 、 後 者 の 第25章 「産 業 地 論(上)」 以 降 は 、 「交 通 」 と 「国 家 」 だ け を取 り上 げ
て 、 そ れ 以 外 は 省 い て い る。
次 に 前 者 の 視 点 か ら 、 後 者 の 内 容 と の 比 較 を 試 み る 。
前 者 の 第2章 「地 球 之 成 立 」 か ら第7章 「五 洲 」 ま で の 内 容 を 詳 細 に 見 て い く と、 前 者 の 第3章 「地 形 」 と第4章 「地 面 諸 線 」 と第5章 「五 帯 」 は 、 後 者 の 第5章 「地 球 」 の 第1節 「地 球 之 形 状 與 人 生 」 と第2節 「地 球 之 面 積
與 人 生 」 と第3節 「地 球 之 運 動 與 人 生 」 を参 照 し要 約 して い る こ とが 分 か る。
第8章 「島 懊 」:島 懊 と人 生 の特 殊 な 関 係 につ い て、 後 者 の第6章 「島 嗅 」 を参 照 し要 約 を して い る。 そ の 上 で、 新 た に ア ジ ア、 北 南 米 、 欧 州 、 オ ー ス トラ リア、 ア フ リカ の 島嘆 に分 け て、 そ れ ぞれ 詳 細 に言及 して い る。
ま た新 に 中 国 に関 す る記 述 も見 られ る。 「杭 州 湾 の南 に舟 山群 島が あ り、 瑳
くの
州 海 峡 の 南 に海 南 島が あ る」 と。
第9章 「半 島」:文 明 の発 祥 の起 点 は、 半 島 に あ る との視 点 は後 者 の 第 7章 「半 島及 岬 角 」 を参 照 して い る。 そ の上 で新 た に、 半 島 の働 き の動 向 に 言 及 して い る。
第10章 「地 峡 」:"地 頸"と い う名 称 を用 い、 ス エ ズ運 河 や パ ナ マ 運 河 を 取 り上 げ なが ら、 後 者 の第8章 「地 峡 」 を参 照 して い る。
第ll章 「山嶽 」:山 の 各 種 の名 称 紹 介 や 、 山嶽 と人生 の 関 係 につ いて は、
後 者 の 第9章 「山嶽 及 難 谷 」 を参 照 して い る。 その 上 で 新 た に、 ア ジ ア、 欧 州 、 ア フ リカ 、 北 南 米 、 オ ー ス トラ リア に分 けて 、 それ ぞれ を詳 細 に言 及 し
て い る。
第12章 「火 山 」:火 山 の 名 称 、例 え ば 活 火 山、 休 火 山、 死 火 山 や 、 ま た 火 山 と宗 教 や 迷 信 との 関係 は、後 者 の第9章 「山嶽 及 難 谷 」 に は その 記 載 が な い。 後 者 以 外 の資 料 を参 照 した もの と考 え られ る。 な お 火 山 と宗 教 との 関 係 に まで 言 及 して い るの は、 編 者 が 本書 の テ ー マ 「地 理 と人 生 との 関係 」 の 影 響 を受 けて 、 新 た に展 開 した もの と考 え られ る。 なお 迷 信 と して紹 介 して い る内 容 は興 味 深 い。 即 ち、 伊 豆 半 島 の 火 山 の横 穴 は、 仁 明 文 徳 天 皇 の 時、
火 山 の 従 五 等 の 爵 を 以 っ て 封 ぜ られ 、 ま た 進 ん で 正 五 位 に な っ た 、 と言 う も の で あ る。
第13章 「平 原 」:平 原 と人 生 の 関 係 に っ い て は 、 後 者 の 第10章 「平 原 」 を 参 照 して い る。 そ の 上 で 新 た に 、 中 国 、 欧 州 、 北 南 米 に 言 及 して い る 。
凌 廷 輝 編 『人 生 地 理 学 』 に関 す る一 考 察(高 橋)91
第14章 「高原 」:高 原 の定 義 や 高 原 の 人 民 と平 原 の 人 民 の 関 係 に つ い て は、後 者 の 第10章 第3節 「高 原 與 人生 」 を参 照 して い る。 そ の上 で新 た に、
高 原 とは大 河 流 の 源 で あ る とい っ た 視 点 を付 け加 え、 ア ジ ア、 欧 州 、 北 南 米 、 ア フ リカ に も言 及 して い る。
第15章 「砂 漠 」:砂 漠 の定 義 や砂 漠 と文 明 発 生 地 との関 係 、 ま た科 学 の 発 明 に よ る砂 漠 の利 用 等 につ い て 、後 者 の第10章 第3節 「高 原 與 人 生 」 を参
照 して い る。
な に ゆ え に、 「高 原 」 と 「砂 漠 」 とを単 独 で 言 及 した の か 、 今 後 の 検 討 課 題 で あ る。
第16章 「江 河 」:後 者 の 第11章 第1節 「概 観 」、 第4節 「河 之 方 向 與 人 生 」、 第5節 「河 之 部 分 與 人 生 」 一 上 流 、 二 中 流 、 三 下 流 を参 照 して い る。
な お最 後 に、 陸 路 交 通 と河流 交 通 とを比 較 して い るが興 味深 い 。 即 ち 「百 年 来 自動 車 が盛 ん にな り、 陸 路 交 通 時 代 に な っ た。 しか し河 流 交 通 を語 らな い とい うわ けで は な い。 自動 車 に よ る貨 物 輸 送 は迅 速 で便 利 で あ るが、 河 流 に よ る貨 物 輸 送 は、 そ の コス トは三 分 の 一 に も及 ぼ な い。 そ の上 小 さな蒸 気 船 は、貨 物 船 六 っ 七 つ を 引 く。 大 きい もの(蒸 気 船)に な る と、 それ だ け に止 ま らな い。 引 くもの が 多 けれ ば多 い ほ ど、 積 載 も重 くな る。 自動 車 の 長所 は 早 い とい うだ けで あ る。 比較 す る と、 今 日交 通 に果 た す 河流 の役 割 は有 益 で
(s)
あ る」 と。 後 者 にお い て は、 河 流 交 通 や 蒸 気 船 とい った 記 述 は あ る。 当時 、 中 国 にお け る自動 車 の 普 及 状 況 は如 何 な る もの で あ った の か よ くわか らな い が、 編 者 の 時代 考 察 はか な り鋭 敏 で あ る。
第17章 「湖 」:後 者 の 第12章 「湖 沼 」 の第1節 「湖 之特 質 與 人 」、 第2節
「湖 沼 之 成 因 及 所 在 與 人 」、 第3節 「湖 與 人 之 物 質 的 方面 」、 第4節 「湖 沼 與 人 生 之 精 神 的方 面 」 を参 照 して い る。 なお 後 者 には 中 国 の湖 沼 につ い て の記 述 は な い が、 前 者 にお い て は その 紹 介 が あ る。 即 ち 「中 国本 土 の 洞庭 湖 ・鄙 陽 湖 ・洪 澤 湖 ・太 湖 ・昆 明 湖 ・新 彊 の霊 布 泊 ・チ ベ ッ トの 謄 格 里 海 ・青 海 の
(10)
青 海 は み な 巨大 で あ る」 と。 や は り中 国人 の読 者 を考 慮 した もの で あ る。
第18章 「海 」:後 者 の 第13章 「海 洋 」 の第3節 「開 明 人 與 海 洋 」、 第4節
「海 国 與 島 国」 を参 照 して い るが
、 特 に海 上 権 につ い て の 記 述 が 多 く、 また 地 中海 、 欧 州 各 国 の それ に関 す る記 述 が詳 細 で あ る。本 書 は全 般 的 に欧 州 に 関 す る記 述 が 多 い し、 その 上 詳 細 で あ る。
第19章 「洋 」:後 者 の 第13章 「海 洋 」 の 第5節 「海 流 與 人 生 」、 第6節
「海 洋 與 気 候 」 を参 照 して い るが
、太 平 洋、 大 西 洋 、 イ ン ド洋 、 北 氷 洋 、 南 氷 洋 を詳細 に解 説 して い る。 や や 教 科 書 的 な側 面 を感 じ る。 な お 「大 西 洋 時 代 か ら南太 平 洋 時代 に進 み 、 も し南 太 平 洋 時 代 か ら北 太 平 洋 時 代 に進 んだ と
(11)
す るな らば、 そ れ は この 十余 年 間 の事 で あ ろ う」 と述 べ 、 その 理 由 と して 日 清 戦 争 、 日露 戦 争 で の 日本 の勝 利 や 西 洋 列 強 の北 太 平 洋 に お け る勢 力 拡 大 を 取 り上 げて い るが 、 編 者 の 当 時 の 中 国 をめ ぐ る国 際 関係 へ の懸 念 が十 分 に表 れ て い る。 最 後 の 一 文 が それ を物 語 っ て い る。 即 ち 「北太 平 洋 即 ち 中 国全 土 は、 実 際 は 列 強 の注 視 の 的 とな っ て い る。 変 遷 の速 度 は考 え も及 ば な か っ た 。 今 後 こ の 問 題 は 、 如 何 に解 釈 す れ ば よ い か わ か ら な い 」 と。(12)
第20章 「潮 汐 」:後 者 の 第13章 の 第9節 「波 浪 及 潮 汐 與 人 生 」 を 参 照 し て い る。 こ こで も まず 「潮 汐 」 の 定 義 か ら始 ま る。 これ は 全 般 的 に そ うで 、 や は り教 科 書 的 な ま た 辞 典 的 な 機能 も考 慮 して い た の で は な か ろ う か 。
第21章 「波 浪 」:後 者 の 第13章 の 第9節 「波 浪 及 潮 汐 與 人 生 」 を 参 照 し て い る。 こ こ で も ま ず 「波 浪 」 の 定 義 か ら始 ま る 。
第22章 「洋 流 」:後 者 の 第13章 の 第5節 「海 流 與 人 生 」 を 参 照 して い る 。 第23章 「風 」:後 者 の 第18章 「太 気 」 の 第4節 「空 気 」、 第19章 「気 候 」 の 第3節 「気 温 之 分 布 」、 第6節 「風 之 種 類 與 人 生 」 を 参 照 して い る。
第24章 「雨 」:後 者 の 第19章 「気 候 」 の 第7節 「湿 気 與 人 生 」、 第8節
「雲 與 人 生 」、 第9節 「雨 與 人 生 」 を 参 照 して い る が 、 特 に"五 帯"熱 帯 、 南 北 温 帯 、 南 北 寒 帯 に お い て 説 明 が な され て い る点 に特 色 が あ る 。 この こ と は
凌廷輝編 『人生地理学 』 に関す る一考察(高 橋)93
全 般 的 に な され て い る。
第25章 「気候 」:後 者 の 第19章 「気 候 」 の第1節 「気 候 與 人 生 」、 第2節
「気 温 與 人 生 」、 第3節 「気 温 之 分 布 」 を参 照 して い るが 、 特 に文 明 と"五 帯"の 関 係 に言 及 した点 に特 色 が あ る。 即 ち 「一 国 の文 明 は、 教 育 や政 治 に 依 存 す る。 しか し教 育 ・政 治 の発 達 は、 温帯 の地 に限 られ て い る。何 ゆ えで あ ろ うか 。 寒 熱 の 二 帯 の 人 民 は、奮 起 の 仕 方 を知 らな い か らで あ る。(略) 寒 熱 の人 の その精 神 ・そ の思 想 ・そ の体 格 は温 帯 に劣 る。温 帯 の 人 は天 然 の
ロ ヨ
束 縛 を受 け な い」 と。 な お この論 調 は、後 者 の 第30章 「生 存 競 争 地 論 」 の第 4節 「生 存 競 争 適 度 與 地 」 の影 響 を受 けて い る。 即 ち 「温 帯 地 方 は他 の両 帯 (寒 熱 帯)の 地 方 に比 す れ ば人 体 に対 す る適 度 に お い て優 れ り、 熱帯 地 方 は 生 活 資 料 に於 い て他 の両 帯(寒 温帯)に 卓越 す れ ども人 体 に対 して の適 度 に
(14)
於 い て温 帯 に比 して劣 れ り」 と。
第26章 「有 生 物 」:植 物 に 関 して は、 後 者 の 第20章 「植 物 」 の 第1節
「植 物 対 於 人 生 実 用 上 関 係 」、 第2節 「栽 培 植 物 與 人 生 及 地 」、 第3節 「森 林 與 人 生 及 地 」、 第7節 「陸生 植 物 之 分 布 」 を 参 照 して い る。 な お 後 者 の 第4 節 「海 藻 類 」 に関 す る部 分 の記 述 が な いの は、 興 味 深 い。 海 洋 国 で は な い編 者 に は あ ま り関 心 が なか っ た の で あ ろ う。
動 物 に関 して は、 後 者 の第21章 「動 物 」 の 第1節 「動 物 與 人 生 」、 第2節
「獣 類 與 人生 及 地 」、 第3節 「鳥類 與 人 生 」、 第4節 「魚類 與 人 生 及 地 」、 第5 節 「軟 体 類 及 棘 皮 類 與 人 生及 地 」 を参 照 して い る。
第27章 「無 生 物 」:後 者 の 第17章 「無 生 物 」 の 第1節 「無 生 物 與 物 質 的 人 生 」、 第2節 「無 生 物 與 精 神 的 人 生 」、 第3節 「無 生 物 與 文 明 」、 第4節
「岩 石 種 類 及 成 因 」、第5節 「鉱 物 産 出 状 態 」、 第6節 「有 用 鉱 物 之分 布 」 を 参 照 して い るが 、特 に金 銀 銅 鉄 お よび石 炭 や 石 油 の 分布 を世 界 的 に紹 介 して
い る点 に特 色 が あ る。
第28章 「人 口」:後 者 の 第22章 「人 類 」 の 第6節 「人 類 之 数 量 的 分 布 」
と挿版 の 「世 界 人 口疎 密 」 を参 照 して い るが 、 具 体 的 な数 量 につ い て は何 か 他 の 資 料 を参 考 に して い る。
第29章 「人種 」:後 者 の 第22章 「人 類 」 の第3節 「人 類 及 其 分 布 」、 第5 節 「各 人種 之優 劣與 其 将 来 」 を参 照 して い る。
第30章 「性 情 」:後 者 の第22章 「人 類 」 の 第4節 「人 類 之 階級 與 其 分 布 」 を 参 照 して い る が 、 第6章 「島 撰 」 の 第2節 「島 之 種 類 與 人 生 」、 第10章
「平 原 」 の第1節 「平 原與 人 生 」、 第3節 「高 原 與 人 生 」 等 も参 考 に しな が ら 人 民 の性 質 に言及 して い る。
第31章 「社 会 」:後 者 の第23章 「社 会 」 の 第1節 「何 謂 社 会 」 を参 照 し て い るが 、編 者 は"野 蛮 社 会"、"族 制 社 会"、"軍 国社 会"に 分 けて 言 及 して い る。 こ こ にお い て も何 か他 の資 料 を参 考 に して い る と思 わ れ る。
第32章 「言 語」:本 章 の 内 容 は、 後 者 の 内容 とあ ま り関 係 が な い。 言 語 を"独 音 類"、"連 音 不 変 類"、"変 音類"に 分 け、 さ ら に言 語 の発 達 と国 勢 の 関係 に まで 言 及 して い る。
第33章 「文 字 」:本 章 の 内 容 は、 後 者 の 内 容 とあ ま り関 係 が な い。 文 字 の起 こ りか ら始 ま り、 中 国文 字 、 イ ン ド文 字 、 ラテ ン文 字 へ の発 展 過 程 お よ び文 字 の 難 易 さ と人 民 の進 化 に まで言 及 して い る。
第34章 「宗 教 」:後 者 の 第24章 「社 会 之 分 業 生 活 地 論 」 の 第3節 「宗 教 及 其 他 」、第5節 「道 徳 教 育及 其 他 」 を参 照 して い るが 、 編 者 は 「教 育 の 目 的 は道 徳 を重 視 す る ところ に あ り、 また宗 教 の 目的 も道 徳 の重 視 で 、 理 に お いて は 同 じで あ る」 と述 べ 、6頁(15) 半 に わ た っ て仏 教 、バ ラモ ン教 、 回 教 、 ユ ダヤ 経 、 キ リス ト経 を詳 細 に言及 して お り、 極 め て重 視 して い る こ とが 分 か
る。
第35章 「国 家 」:後 者 の 第28章 「国 家 地 論 」 の 第3節 「国 家 之 種 類 」 を 参 照 して い るが 、本 章 の 内容 の大 半 は、他 の 資 料 を参 考 に して い る と思 わ れ る。 編 者 は、 国 家 の領 土 や 主権 に関 して、 国 際 法 との 関係 に言 及 して い る。
凌廷輝 編 『人生地理学 』 に関す る一 考察(高 橋)95
本 章 も4頁 にわ た って お り、 重 要 視 の程 度 が 分 か る。
第36章 「交 通 」:後 者 の 第27章 「産 業 地 論 下 」 の 第1節 「商 業 地 理 及 其 原 則 如 何 」、 第2節 「交 通 機 関 之種 類 及 要 素 」、 第3節 「交 通機 関 之 発 達 及 其 各 種 之長 短 」 を参 照 して い るが 、 鉄 道 輸 送 網 、 船 舶 輸 送 網 につ い て は、 中 国 を 中 心 と して か な り詳 細 に紹 介 して い る。本 章 も7頁 に わ た って お り、 そ の 重 要 度 が 分 か る。
本 書 の 「総 論 」 に も記 述 され て い た よ うに、 国 民 に対 す る地 理 の知 識 向上 に配 慮 が な され て い る。 各 章 の項 目 につ い て、 まず 言 葉 の定 義 を し、 そ の 上 で 極 力"五 帯"、"五 洲"に お け る現 状 を紹 介 して い る。 西 洋 列 強 の圧 力 を受 けて い る 中国 につ い て も、 言 及 した箇 所 が 少 な くな い。 また 欧 州 の地 理 歴 史 に関 す る記 述 が豊 富 な の で 、 「河 南 留 學 欧 美 預 備 學 校 」 で使 用 され た とい う こ とが 想 像 で き る。
3‑2.「 漸 江 潮 」 『江 蘇 師 範 講 義 ・地 理 』 との 関 係
① 「漸 江 潮 」 との 関 係
本 書 の第18章 「海 」 の 中の"ベ ネ チ アの通 商 は欧 州 商 業者 の祖 とな っ た"、
"ア テ ネ は全 ギ リシ ャの 中で 最 強 とな り
、 また 海 の 故 に ギ リシ ャの 栄 光 時 代
(16)
の 覇 者 に も な っ た"は 、 「漸 江 潮 」 の 「地 人 学 」 の"ベ ネ チ ア は 海 に 頼 り、
そ の 通 商 貿 易 は 地 中 海 を 巻 き込 ん だ"、"ア テ ネ は 海 の 故 に 、 小 国 で は あ る が
(17)
ギ リシ ャ文 化 を牛 耳 っ た"に 類 似 して い る。 この よ うな話 題 は、 『最 新 人 生 地 理 学 』 に は記 述 が な い。
本 書 の 第26章 「有 生 物 」 の 中 の"地 球 の初 め は空 気 の圧 力 が 甚 だ 大 き く、
樹 木 は そ の圧 力 に遭 遇 し、次 第 に地 底 に埋 没 し、 長 い年 月 の 後 に石 質(石 炭)と な っ た"、"人 々 が 言 う所 の 石 炭 と鉄 の二 種 類 は、 文 明競 争 の利 器 で あ
(18)
る"は 、 「漸 江 潮 」 の 「植 物 与 人 生 之 関係 」(続)の"太 古 の森 林 は大 気 の圧
力 に逢 い 、 年 久 し く して 、 地 底 深 く埋 没 し石 炭 の 原 形 とな る"、"人 々 が 誇 る
く
十 九 世 紀 の 文 明 の 利 器 は鉄 と石 炭 で あ る' も 『最 新 人 生 地 理 学 』 に は記 述 が な い。
に類 似 して い る。 この よ うな話 題
② 『江 蘇 師 範 講 義 ・地 理 』 との 関 係
本 書 の総 論 の 中 に、 「古 よ り地 理 を語 る者 は、 た だ 幾 つ か の地 名 や 言 葉 を 覚 え、 あ る い は古 書 を参 考 に し、 その歴 史 を考 証 し、 そ の現 状 を推 測 す るだ けで、 これ はた だ そ の表 面 の現 象 を考 証 す るだ けで 、 そ の 中 の真 実 の原 理 が 分 か っ て い な い 。従 って 、 そ の原 理 を深 く理 解 した い な らば、 地 理 と人 生 の 関 係 を必 ず 理 解 しな けれ ば な らず 、 そ の上 多少 な り とも発 見 が あ っ た な ら、
過 去 の観 点 に決 して拘 泥 して は な らず 、 空 論 を交 わ した り、 実用 を求 め な い
(20>
こ とが あ っ て は な ら な い」 とい う部 分 が あ るが 、 この部 分 は、 『江 蘇 師範 講 義 ・地 理 』 の緒 論 の 中 の次 の 部分 に極 めて 類 似 す る。
即 ち 「地 理 学 を研 究 す る者 が 、 た だ 古籍 を調 べ 、 地 名 の沿 革 を少 し知 るに す ぎ な い。(略)そ の論 述 が0切 で あ っ て 、 採用 す る こ とが 出 来 る所 は 少 し は あ っ た と して も、 しか し地 と人 の相 関 の 理 が 発 見 され て い な い の は、 考 証 の た めの地 理 学 で あ る。 それ は今 口の所 謂 地 理 学 者 とは異 な る。 今 日の所 謂
(21)
地 理 学 は、実 用 の一 種 の 科 学 で あ る」 と。
また本 書 の 総論 の 中 の 「今 日世 界 の所 謂 民族 帝 国 主 義 は、 そ の 目的 は ど こ に あ るの か 。 それ は勢 力 範 囲 の拡 張 に ほ か な らな い。 勢 力 範 囲 を拡 充 出来 る か 否 か は、 そ の鍵 は世 界 観 念 が あ るか な い か で あ る。 世 界 観 念 が あ るか な い
{22)
か の鍵 は、 豊 か な地 理 知 識 が あ るか な いか で あ る」 との 発 想 は、 『江 蘇 師 範 講義 ・地 理 』 の緒 論 の 中の 「個 人 と世 界 の 関係 は、 か くの 如 く重 要 な の で、
(23)
世 界 に対 す る 自己 の位 置 を注 意 しな けれ ば な らな い」 に起 因 す る よ うに思 わ れ る。
以 上 の よ うに本 書 の総 論 の 中 に は 『江 蘇 師 範 講 義 ・地 理 』 の緒 論 の痕 跡 を
凌廷輝編 『人生地理学』 に関す る0考 察(高 橋)97
見 出 す こ とが で き る。
4.む す び に
本 稿 の考 察 を通 して 、 以下 の 三 点 を提 示 して む す び と した い 。
ま ず第 一 点 で あ るが 、編 者 の凌 廷 輝 は本 書 出 版 に 当 り、 「漸 江 潮 」、 『江 蘇 師範 講義 ・地 理 』、 『最 新 人生 地 理 学 』 を参 照 して い た と言 う こ とで あ る。 漸 江 同 郷 会 の 会 員 と して 活 動 して い た こ とか ら、 同 同郷 会 が 発 刊 した 「漸 江 潮 」 を読 む機 会 は十 分 あ った と思 われ る し、 また 弘 文学 院 出身 者 で あ る こ と か ら、 同学 院 出 身者 で か っ 隣 の省 出身 で あ る江 蘇 師範 生 の 編 集 した 『江 蘇 師 範 講 義 ・地 理 』 出版 の 情 報 入 手 お よび実 際 の書 籍 入 手 も比 較 的容 易 で あ っ た と思 わ れ る。 『最 新 人 生 地 理 学 』 に関 して は、 発 行 所 が 上 海 の 「群 益 書 房 」 で あ る こ とか ら、 比 較 的 入 手 が 容 易 で あ っ た こ とが想 像 で き る。 凌 廷 輝 は 1903年 以来 、 「人 生 地 理 学 」 に対 し注 目 し続 けて い た の で はな か ろ うか 。
第 二 点 目 は、編 者 の 凌 廷 輝 は 自身 の 問 題 意 識 に基 づ い て、 「人 生地 理 学 」 を再 度構 築 した と言 う こ とで あ る。 本 書 の 「総 論 」 に は執 筆 の 目的 が幾 つ か 記 述 され て い るが 、 中 国 を強 国 に す るた めの 国 民 に対 す る"啓 蒙書"と い う 趣 旨が 強 く表 れ て い る。 そ の 重 要 な基 礎 を提 供 した の は 『最 新 人 生 地 理 学 』 で あ る と言 って も過 言 で は な い と思 わ れ る。
第 三 点 目 は、 当 時 の 留 学 生 や 知 識 人 が、 牧 口著 『人 生 地 理 学 』 の 全 訳 本
『最 新 人 生 地 理 学 』 に対 して 、 どの よ うな態 度 で 接 して い た のか の 一 つ の例 を示 した と言 う こ とで あ る。 本 書 で は前述 の 如 く"中 国 を強 国 にす るた めの 国 民 に 対 す る 「啓 蒙 書 」"と い っ た 態 度 が 見 られ る。 そ の後 中 国 で は、 多 く の 「人 生 地 理 学 」 書 が 出版 され た こ とが分 か って い る。 これ ら と 『最 新 人 生 地 理 学 』 との 関 係 を考 察 す る際 に、本 書 は貴 重 な"橋 渡 し"の 役 割 を果 た す もの と も思 われ る。 本 書 は 『最 新 人 生 地理 学 』 を基 礎 と して執 筆 され た 第1
号 の"人 生 地 理 学"書 と して重 要 で あ る。 以後 出版 され る"人 生 地 理 学"書 へ の影 響 が興 味 深 い ところで あ る。