子宮頸管および咽頭擦過検体,尿検体に対する SDA 法を原理と する新しい核酸増幅法を用いた Chlamydia trachomatis
および Neisseria gonorrhoeae の検出
1)愛知医科大学産婦人科学教室,2)長野赤十字病院産婦人科,3)松下記念病院産婦人科,
4)川崎医科大学附属川崎病院産婦人科,5)蒲郡市民病院産婦人科,6)保科医院
野口 靖之
1)完山 秋子
1)藤田 将
1)本藤 徹
2)菅生 元康
2)保田 仁介
3)藤原 道久
4)保條 説彦
5)保科 眞二
6)野口 昌良
1)(平成 18 年 2 月 9 日受付)
(平成 18 年 3 月 8 日受理)
Key words : Chlamydia trachomatis , Neisseria gonorrhoeae, nucleic acid amplification system, strand displacement amplification
要 旨
新しく開発された核酸増幅法である Strand Displacement Amplification(SDA 法)
1)を原理とし Chlamy- dia trachomatis および Neisseria gonorrhoeae を検出する BD プローブテック ET CT! GC(プローブテック;
日本ベクトン・ディッキンソン)の有用性について産婦人科外来または入院患者を対象とし検討した.
子宮頸管擦過検体 364 検体について,アンプリコア STD−1(アンプリコア;ロシュ・ダイアグノスティッ クス)と比較した結果,クラミジアの陽性一致率は 98.2%(55 ! 56),陰性一致率は 99.4%(306 ! 308),淋菌 の陽性一致率は 100%(10! 10),陰性一致率は 99.4%(352! 354)であった.また,同時に採取した尿 363 検体における陽性数はクラミジアで 50 検体,淋菌で 11 検体であった.咽頭擦過検体 247 検体において,ク ラミジア陽性例がプローブテックで 21 検体,DNA プローブ「RG」クラミジア(DNA プローブ法;レビ オ・ジェン)で 2 検体に認められた.不一致の 19 検体の内 16 検体でアンプリコアが陽性であった.一方,
淋菌は,プローブテックで 21 検体,DNA プローブ「RG」ゴノレア(DNA プローブ法;レビオ・ジェン)
で 6 検体が陽性であった.しかし,結果が一致しなかった 15 検体は,全て淋菌の cppB 領域の nested PCR 法が陽性であった.プローブテックは子宮頸管擦過検体において現在最も汎用されているアンプリコアと非 常に良い相関を示し,診断法として有用であると考えられた.また,Neisseria 属の口腔内常在菌との交叉の 問題から適切な核酸増幅法による検出手段がなかった咽頭検体においてもプローブテックの高い特異性が確 認され適用の可能性が証明された.
〔感染症誌 80:251〜256,2006〕
序 文
性感染症(STD)は,若年層を中心とする無防備 な性行動や初交年齢の低下により 10〜20 歳代で罹患 者が全世界で急速に増加しつつある.また,先進国の 中で日本だけが未だに新規 HIV 感染者数の発生が増 加傾向にあり
2)3),厚生労働省は,平成 12 年より「性 感染症に関する特定感染症予防指針」を出し対策を
行っている.現在,流行している STD は,感染して も無症候のことが多く治療せず放置されることが多 い.特に,性器 Chlamydia trachomatis (クラミジア),
Neisseria gonorrhoeae(淋菌)感染症は男女共に不顕性 感染者が多数存在し新たな感染源になっている.この ためクラミジアおよび淋菌は,日本だけでなく世界的 に STD の原因菌として最も頻度が高い.さらに,口 腔性交(オーラルセックス)をコンドームなしで提供 する性風俗店の大衆化や若年者においてオーラルセッ クスが一般化したことから生殖器から咽頭が新たな
原 著別刷請求先:(〒107―0052)東京都港区赤坂8―5―26 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社ダイア
グノスティックシステムズ 手塚 隆善
STD の感染経路として問題視されている.クラミジ アや淋菌は,病原体の特徴から培養法による菌体の検 出が困難である.このため,臨床的には,核酸増幅法 や DNA プローブ法,抗原・抗体法が診断に用いられ ている.しかし,DNA ブローブ法,抗原・抗体法は,
感受性が低く骨盤内に感染した微量なクラミジアや淋 菌を子宮頸管分泌物より検出することは困難である.
また,核酸増幅法を用いたアンプリコアは,クラミジ アの検出では感度,特異性ともに優れているが,淋菌 においては口腔内常在菌である Neisseria subflava ,
Neisseria cinerea の一部と交差反応を起こし咽頭検体
の測定はできない
4).さらに,オーラルセックスによ り口腔内常在菌が女性性器に存在している可能性も示 唆されており,淋菌に対しより特異性の高い診断薬の 開発が求められていた.
核酸増幅検査法として新たに開発されたプローブ テックは,米国および EU 諸国において広く使用され ており,クラミジア,淋菌の検出において感受性と特 異性が極めて高いとされている
5)〜7).今回,我々は子 宮頸管擦過検体を用いて現在最も汎用されているアン プリコアとの比較によりその性能を確認すると共に,
初尿における検出率,プローブテックの咽頭擦過検体 に対する適用拡大の可能性について検討した.
対象および方法
1.対象および検体
2004 年 3 月から 10 月にかけて参加医療機関産婦人 科を受診した妊婦 19 症例,一般外来患者 116 症例お よび性感染の検査を目的として来院した性風俗店に従 事する女性 172 症例,合計 307 症例(平均年齢 26.9±
5.8 歳)から,子宮頸管擦過検体(364 検体),尿検体
(363 検体)および咽頭擦過検体(247 検体)を採取 した.なお,検体の採取に先立ち試験の趣旨を説明し,
文書による同意を取得した.
2.方法および解析
子宮頸管擦過検体については,子宮頸管入口を洗浄 用スワブにて拭った後,プローブテック用スワブ,ア ンプリコア用スワブおよび予備用スワブの合計 3 本を 用いて,擦過検体を採取した.なお,検体採取に際し,
プローブテック,アンプリコアについては検体採取の 順番による影響を避けるため,検体毎に交互に採取を 行ない,予備スワブは常に 3 番目の採取とした.プロー ブテック用スワブは採取後,専用の希釈液入り輸送 チューブに差し込み,スワブの軸を所定の位置で折 り,栓をして冷蔵保存した.アンプリコア用および予 備用にはドライスワブを使用し,採取後冷蔵保存し た.測定後,両検査結果の比較し一致率を求めた.ま た,結果が一致しなかった検体については,残検体ま たは予備検体を用いた再検,淋菌の不一致については
既報に基づいた nested PCR を構築し確認試験を実施 した.
尿検体については,子宮頸管擦過検体採取を行った 同一患者から初尿の採取を行った.採取した尿にプ ローブテック専用の Urine Processing Pouch(UPP)
を添加し冷蔵保存した.プローブテックにて測定を実 施し,子宮頸管擦過物検体の結果と比較を行った.
咽頭擦過検体については,咽頭後壁および!桃をプ ローブテック用スワブおよび DNA プローブ法用の 2 本のスワブにて同時に擦過検体を採取した.採取後,
各々専用の希釈液入り輸送チューブに差し込み,スワ ブの軸を所定の位置で折り,栓をして冷蔵保存した.
測定後,両検査結果の比較を行い,一致率を求めた.
また,結果が一致しなかった検体については,クラミ ジアについてはアンプリコアを,淋菌については既報 に基づいた nested PCR を構築し確認試験を実施し た.
検体は冷蔵輸送し,プローブテック,アンプリコア および DNA プローブ法はエスアールエル(東京)に て,淋菌の cppB 領域の nested PCR についてはゲノ ムサイエンス研究所(福島)にて測定を実施した.
3.プローブテック
プローブテックは等温で核酸増幅を行う SDA 法と 二つの蛍光物質を用いた検出系により,リアルタイム に増幅と検出を行う試薬と機器を組み合わせた測定シ ステムである
8)9).測定までのワークフローは以下のと おりである.
子宮頸管擦過または咽頭擦過検体を採取したスワブ の入ったチューブを 114℃ で 30 分,専用ライシング ヒーターにて加熱する.15 分室温にて冷却し,チュー ブ内のスワブを廃棄後,各検体の抽出液をプライミン グウエルに 150µLずつ専用の 8 連電動式ピペッターに て分注し,室温で 20 分間インキュベートする.更に 72.5℃ に設定された専用プライミングヒーターで 10 分間インキュベート後,予め専用ウォーミングヒー ターで 54℃ に加温した増幅ウエルに 100µLずつ専用 の 8 連電動式ピペッターにて分注する.専用シールに てウエルをカバーした後,測定器本体へ装填する.こ こからは測定機器による自動測定となり,52.5℃ の一 定温度下で増幅と検出が同時に行われ,60 分後に測 定結果が自動的に印刷される.尿検体の場合は,採取 尿4mLを 2,000g×30 分で遠心後,上清尿を捨て専用 の検体抽出用の希釈液 2mLを加えた後は,ライシン グヒーターにて加熱するところからスワブ検体と同じ 処理となる.試薬としては,プライミングウエル,増 幅ウエルおよび検体抽出用の希釈液だけであり,全て 室温保存可能である.
プローブテックにおいてクラミジアでは cryptic
Table 1 Comparison between the results of the BDProbeTec ET and the Amplicor assays for C.trachomatisin endocervicalswabs
Total Amplicor PCR
Negative Positive
57 2
55 Positive
BDProbeTec ET
307 306
1 Negative
364 308
56 Total
Positive agreement rate:98.2% (55/56) Negative agreement rate:99.4% (306/308)
Table 2 Comparison between the results of the BDProbeTec ET and the Amplicor assays for N.gonorrhoeaein endocervicalswabs
Total Amplicor PCR
Negative Positive
12 2a
10 Positive
BDProbeTec ET
352 352
0 Negative
364 354
10 Total
aTwo samples were positive by nested PCR.
Positive agreement rate:100% (10/10) Negative agreement rate:99.4% (352/354)
Table 3 Correlation between the results ofendocervical and urine specimens from the same individuals on the BDProbeTec ET
N.gonorrhoeae C.trachomatis
Urine Endocervical
Swab
11 50
Positive Positive
1 7
Negative Positive
0 3
Positive Negative
351 303
Negative Negative
Positive agreement rate (Urine/Swab):C.trachomatis,87.7%;
N.gonorrhoeae,91.7%
plasmid 上の特異配列
10)を,淋菌では淋菌 DNA 上の piv
Ng11)を増幅および検出のターゲットとしている.
4.淋菌の nested PCR
Farrel の報告
12)に基づき,淋菌の cppB gene 領域を ターゲットとし,1
stプライマーに HO1:5 -GCT ACG CAT ACC CGC GTT GC-3 および HO3:5 -CGA AGA CCT TCG AGC AGA CA-3 (antisense se- quence)を,2
ndプライマーに cppBN1:5 -GCT GTT TCA AGT CGT CCA GC-3 および cppBN2:5 -CGA AGC CGC CAG CAT AGA GC−3(antisense se- quence)を用い nested PCR にて特異的配列を増幅 し,電気泳動にて増幅産物を確認した.
なお,臨床由来の Neisseria subflava , N. sicca , N.
mucosa , N. lactamica を用いて特異性の確認を行い使 用した.
成 績
子宮頸管擦過検体のクラミジアにおける陽性一致率 は 98.2%(55 ! 56),陰性一致率は 99.4%(306 ! 308),
不一致を 3 検体認めた(Table 1).淋菌において陽性 一致率は 100%(10! 10),陰性一致率は 99.4%(352!
354),不一致が 2 検体存在した(Table 2).この 2 検 体につきプローブテック用の抽出検体の残液を用いて nested PCR を実施したところ,2 検体ともに淋菌 DNA が陽性であった.
尿検体は,採尿が出来なかった 1 例を除き 363 例で 採取し得た.子宮頸管擦過検体陽性,尿検体陰性がク ラミジアで 7 検体,淋菌で 1 検体認められ,子宮頸管 擦過検体と尿検体との陽性一致率はクラミジアで 87.7%,淋菌で 91.7% であった.逆に尿検体が陽性で,
子宮頸管擦過検体陰性をクラミジアで 3 検体認めた
(Table 3).
咽頭擦過検体のクラミジアにおいてプローブテック
で 21 検体が陽性となり,その内 2 検体がプローブ法
で陽性であった(Table 4).不一致 19 検体につきプ
ローブテック用検体またはプローブ法用検体を用いて
希釈法により増幅阻害を抑制しアンプリコアを実施し
たところ,16 検体が陽性であった.淋菌においてプ
ローブテックで 21 検体陽性となり,その内 6 検体が
DNA プローブ法で陽性であった(Table 5).アンプ
リコアによる咽頭擦過検体を対象とした淋菌の検索
は,口腔内常在菌に交差反応を示すため不可であるこ
とから,不一致 15 検体につきプローブテック用検体
Table 4 Comparison between the results of the BDProbeTec ET and the DNA probe for Chlamydia trachomatis in the pharyngealswabs
Total DNA probe
Negative Positive
21 19a
2 Positive
BDProbeTec ET
226 226
0 Negative
247 245
2 Total
a Sixteen out of19 samples were positive by the Amplicor PCR.
Positive agreement rate:100% (2/2) Negative agreement rate:92.2% (226/245)
Table 5 Comparison between the results of the BDProbeTec ET and the DNA probe for N.gonorrhoeaein the pharyngealswabs
Total DNA probe
Negative Positive
21 15a
6 Positive
BDProbeTec ET
226 226
0 Negative
247 241
6 Total
a Allsamples were positive by nested PCR.
Positive agreement rate:100% (6/6) Negative agreement rate:93.8% (226/241)
を用いて cppB 領域の nested PCR を実施した結果,
全て陽性であった.
考 察
女性性器クラミジア感染症の多くは,無治療のまま 放置されると上行性感染し卵管通過障害や卵管閉塞の 原因になる.これらは,難治性卵管性不妊症の原因と なり産婦人科領域では大きな問題になっている.さら に,骨盤内に波及したクラミジアは,上行性に波及し 肝周囲炎,Fitz-Hugh-Curtis 症候群を引き起こす.一 方,男性における性器クラミジア感染症の多くは無症 候であるが,時に尿道炎や精巣上体炎を引き起こす.
また,男性の性器淋菌感染症は,尿道炎など明らかな 自覚症状を伴うこともあるが,女性では,それほど激 しい症状を呈さず無症候性感染が多いと言われてい る.クラミジア,淋菌は,他の一般細菌と異なり外来 診療において培養法により菌体を検出することが困難 である.このため,本邦では PCR 法を用いた核酸増 幅法であるアンプリコアが診断に広く用いられてい る.
今回,子宮頸管擦過検体に対するアンプリコアとプ ローブテックの比較では,クラミジア,淋菌共に非常 に高い陽性一致率を認めた.クラミジアに関する検討 において 3 検体の不一致を認めたが,プローブテック 陽性,アンプリコア陰性の 2 検体では,尿検体がアン プリコアで陽性を示した.プローブテック陰性,アン プリコア陽性となった 1 検体については,プローブ
テックの増幅コントロールが充分増幅しなかったこと から増幅阻害による偽陰性と考えられた.淋菌に関す る検討では,プローブテック陽性,アンプリコア陰性 の不一致を 2 検体で認めたが,2 検体ともに淋菌 DNA が確認され,アンプリコアの偽陰性と考えられた.
プローブテックにより子宮頸管擦過検体と尿検体の 陽性一致率をクラミジアと淋菌に対し検討したとこ ろ,他のクラミジア,淋菌の検出キットを用いた報告
13)と同様に子宮頸管擦過検体の陽性率が高値となった.
以上より女性クラミジア・淋菌性器感染症の診断にお いて尿検体は,スクリーニングとして有用であるが,
正確な診断を行うためには子宮頸管擦過検体を用いる 必要があると考えられた.
咽頭擦過検体に対する検討では,プローブテックで クラミジア陽性を示した検体が DNA プローブ法で陰 性を示したが,アンプリコアに よ る 検 査 結 果 か ら DNA プローブ法と核酸増幅法における検出感度の差 によるものと考えられた.淋菌の検討においてもプ ローブテックで陽性を示し DNA プローブ法で陰性を 示した検体があった,nested PCR 法によりプローブ テックの偽陽性ではなく,DNA プローブ法と核酸増 幅法における検出感度の差によるものと確認された.
現在,性産業従事者だけでなく若年者や一般女性に おいてもオーラルセックスが行われるようになり,ク ラミジアや淋菌の咽頭感染の増加が懸念されている.
このためクラミジアや淋菌による咽頭感染に対する鋭
敏で正確な診断試薬の必要性が高まっている.プロー ブテックは,アンプリコアと共に交差反応がなく口腔 内クラミジアの有用な検出方法と考えられた.一方 で,淋菌の検出は,口腔内にナイセリア属の常在菌が 存在するため,これまで市販された核酸増幅法による 診断試薬が使用できなかった.今回検討したプローブ テ ッ ク は 米 国 お よ び EU 諸 国 で 使 用 実 績 が あ り,
Schater らの咽頭検体を用いた検討においても,プ ローブテックの特異性は 99.5%(1! 190)と,アンプ リコアの特異性 79.5%(39! 190)に比べ優れていると 報告されている
14).
プローブテックは子宮頸管擦過検体において本邦で 最も汎用されているアンプリコアと非常に良い相関を 示し,その感度および特異性は高いと考えられた.ま た,ナイセリア属の口腔内常在菌との交叉反応がほと んどなく淋菌検出の特異性は極めて高いと考えられ た.以上よりプローブテックは,女性性器だけでなく 咽頭におけるクラミジアおよび淋菌検出試薬として有 用であることが確認された.
文 献
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Evaluation of the New Nucleic Acid Amplification System for Direct Detection of Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae in Women
Yasuyuki NOGUCHI
1), Akiko KANYAMA
1), Masaru FUJITA
1), Toru HONDO
2), Motoyasu SUGASE
2), Jinsuke YASUDA
3), Michihisa FUJIWARA
4), Tatsuhiko HOJO
5), Shinji HOSHINA
6)& Masayoshi NOGUCHI
1)1)Department of obstetrics and gynecology, Aichi Medical University, School of Medicine,2)Department of obstetrics and gynecology, Nagano Red Cross Hospital,3)Department of obstetrics and gynecology, Matsushita Memorial Hospi- tal,4)Department of obstetrics and gynecology, Kawasaki Hospital,5)Department of obstetrics and gynecology, Gama-
gori City Hospital,6)Hoshina Clinic