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夜間中学の拡充政策過程からみる公教育制度の変容

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夜間中学の拡充政策過程からみる公教育制度の変容

―「全国夜間中学校研究会」構成員の政策への関わりを中心にして―

福島賢二 埼玉大学教育学部教育学講座

キーワード:夜間中学、夜間中学校研究会、公教育制度、教育行政=制度論、教育機会確保法

1. 問題意識と課題設定

本稿では、 「全国夜間中学校研究会」構成員の夜間中学拡充政策への関わりを手がかりにして、

夜間中学が公教育制度へと組み込まれていく過程を明らかにすることを目的とする。

夜間中学は設立当初より文部省や行政管理庁から廃止するよう指導されてきた、学校教育法に 規定されていない学びの空間である

1)

。しかし学齢超過者など、既存の学校制度では受け入れて もらえない人を受け入れる唯一の「学校」として、これまで生徒たちの実情を優先した良心的な 教師とそうした取り組みに理解を示した市町村教育委員会の尽力によって設立・維持されてきた。

1955年に89校を頂点として減少し、1966年行政管理庁による「夜間中学早期廃止勧 告」が出され、1969年に設置数は底をつく。その後、勧告への反対運動もあり1982年ま で若干増加に転じるが、2018年まで減り続け31校となる。しかし2019年には、千葉(松 戸)と埼玉(川口)に夜間中学が設置され33校となっている。2022年に北海道(札幌)で は、夜間中学を設置予定であり、他の自治体でも設置に向けた動きが活発化している。

このように夜間中学は近年増設と拡充傾向にある。留意すべきはこの増設ないし拡充を支援し ているのが、 夜間中学に対し歴史的に認可しない立場をとってきた文科省であるという点である。

これをどう理解すればよいのだろうか。公教育として認可されてこなかったものを、増設と拡充 するよう文科省が支援することは、公教育として夜間中学を認可するということとなろう

2)

。し かしこのことはそれ以上の含意がある。それは、夜間中学の設置そして減少から増設へと至る歴 史的過程は、公教育という制度が変容するものであることを示唆しているということである。本 稿では、公教育制度が変容するということについて、その動態を捉えることで明瞭化していく。

しかしながら公教育という制度が変容するものだと捉えるこうした理解は、教育学界では通説 的なものではない。というのも公教育における民間企業の参入や政治アクターによる関与という 事象はわが国では公教育を崩壊させるものであるとする言説が多く、公教育そのものの変容とし てそれらを捉えようという研究は極めて少ないからである

3)

。この背景には、公教育制度や制度 そのものに対する普遍的な想定と規範がある。だが社会学的にいえば「制度」

4)

とは、 「意味づけ られた秩序(意味的秩序) 」 (盛山

1999)であり、想定や規範ではなく、構成されるものである。

こうした理解に近い問題意識を教育行政学の分野で逸早く提起したのが、黒崎勲である。黒崎 は「旧来の教育行政=制度論が問題検討の視野を専ら教育政策と教育行政=制度の規範および理 念に限定してきた方法論的態度について厳しい目を向け」た(黒崎

1999:p.4)

。そのうえで教育 法という「規範的な解釈の論理からはなれて、現実の生きた教育制度の事実を分析する教育の科 学」 (黒崎

1992

p.52)として、新たに「教育行政=制度論」を提唱した(黒崎1999

pp.15-16)

埼玉大学紀要 教育学部, 69(2) : 41大66  (2020)

(2)

この「教育行政=制度論」とは、 「制度の理念を、その制度がおかれる現実の社会的関係から切り 離して語る」 (黒崎

1999:p.15)のではなく、

「現実の機能と役割の具体的な分析にもとづいて、

その社会的意義や性質が判断」 (黒崎

1999:p.16)しようとするものであり、端的にいえば「現実

の生きた教育行政=制度の事実と動態を分析する」 (黒崎

1999:p.16)ものである。こうした黒

崎の主張は、社会学に引き付けて言えば、事象に対する意味的秩序をめぐる異議申し立てであり

5)

、それは公教育制度を普遍的な想定と規範で意味づける従来の研究への批判として引き取るこ とができる。本稿ではこの視角を制度論の観点から引継ぎ、夜間中学の拡充政策過程を分析する ことで、公教育制度が変容するものであるという意味づけをすることを目指す。

夜間中学の先行研究には、戦前から戦後の夜間中学の成立を歴史的アプローチによって検証す る研究(三上敦)や、夜間中学にかかわるアクターを対象にそのポリティクスをみようとする研 究(横関)があるが、先行研究そのものが多くはない。そうしたなかで江口怜の研究は「全国夜 間中学校研究会」の大会資料を丹念に紐解きながら、夜間中学の歴史をその実践を含めて意義づ けようとしている点で重要な研究といえる。このなかで江口は、近代国家成立において「義務教 育」は国民統合の装置として機能(久冨

p.25)してきたことを踏まえた場合、近年の夜間中学に

対する文科省の支援的対応をどう評価すればよいのかという点に次のようにこたえている。「夜 間中学政策の転換は、 純粋に義務教育未修了者の学習権保障に対する意識が高まっただけでなく、

現在の国家統治政策の転換の中で役割を与えられることによって動き出したところがあることは 否めない。しかし、夜間中学がそうした政策意図に基づいて拡充されようとしていることが、そ のまま夜間中学の性格を規定する訳ではない」 (江口

p.44)と。この理由として江口は、国民統

合と「対抗的な言説や実践がいかに対置されてきたか」という点に加え、夜間中学の教育内容に

「社会と批判的に対峙していく力」が獲得されてきたことを根拠として挙げている(江口

p.44)

。 しかしながら夜間中学の拡充政策という現在進行している政策を過去の教育内容、とりわけ実 践の成果から評価しても、それは診断したことにならない。診断するのであれば、現在進行して いる政策が、過去の実践を担保するものになっているかという観点から診断することが必要とな る。本研究ではこの視点、すなわち現在進行している政策が、過去の実践を担保するものになっ ているかを、江口の提起する実践ではなく、夜間中学の拡充過程の文脈において明らかにする。

こうした点を究明することは、これまで批判的に論じられることが多かった公教育への政治ア クターによる関与について相対化することに寄与する。また表層アクターだけをみていては政策 評価ができないことを示唆するという点でも意義がある。政策過程分析は「現実の生きた教育行 政=制度の事実と動態を分析する」 (黒崎

1999:p.16)際に有効と思われ、先行研究の蓄積もあ

る(荻原、青木) 。こうした政策過程分析を通して、公教育制度の変容の動態を可視化していく。

以下本稿では、夜間中学の条件整備及び拡充の過程を三つの視点から確認していく。ひとつは 教育条件整備要求の組織化という視点。いまひとつは「全国夜間中学校研究会」の機能という視 点。三つ目は「全国夜間中学校研究会」の戦略という視点。三つの視点からみることで、 「全国夜 間中学校研究会」 構成員の政策への関わりと夜間中学の拡充過程の重なり明瞭になると思われる。

2. 教育条件整備要求の組織化

夜間中学教員による組織化は、 「全国中学校夜間部教育研究協議会(以下、協議会) 」設立(1

954年11月19日・20日 京都市立洛東中学校にて大会開催)にはじまる。協議会会則に

(3)

よればその目的を、 「全国中学校夜間部相互の連携をはかり、あわせて中学校夜間部教育の実態と 方法とを研究協議し、 これが改善を促進して、 日本教育の新生面の開拓に寄与すること」 (第二条)

としている。構成は「夜間部設置の中学校を以って構成し、各校校長と教員とを会員」 (第五条)

とし、 「毎年一回大会を開いて重要事項を研究協議する」 (第十条)こととしている。

この時期の協議題をみるとその本旨は「現行関係法不備の是正と追項」となっている。この背 景をうかがわせるものが次の文章である。

二部学級という既成事実から生ずる難問題、例えば、定員の確保、予算の獲得、施設・

設備の充実、就学の奨励等について、各都道府県市教育委員会の実施を更に助成し、これ が我々運営に支障なからしめるためには、自ら関係現行法の不備を是正したり、或いは新 しく法制の裏付けを確立することが専決となる。

当時の「現行関係法不備の是正と追項」とは、学校教育法第25条(経済的就学困難への援助 義務〔現第19条〕 )と学校教育法第75条(特別支援学級〔現第81条〕 )を修正することであ った。具体的には、学校教育法第25条においては、 「経済的理由によって、就学困難と認められ る学齢児童並びにその保護者に対しては、市町村は必要な援助を与えなければならない」と修正 し、学校教育法第75条においては「経済的理由による就学困難並びに嫌学等を原因として著し く進学の遅滞をみるおそれのあるも者」を追記することを目指した。このねらいは、第25条に おいては「保護者と切り分けて学齢児童を援助主体と見なすことで教育扶助費の学校支給を可能

にする」 (江口

p.36)ことにあり、75条においては「経済的理由による就学困難並びに嫌学等

を原因として著しく進学の遅滞をみるおそれのあるも者」 が現に入学していたからだと思われる。

こうした内容は「陳情書(中学校夜間学級の法的措置に関する陳情書) 」として文部省等へ提出 されている。そこには次のように書かれている。

全国に不就学の不幸な青少年が現在156,563人の多きに達しているにはまことに 遺憾であります。われらはこの現状を見るにしのびず夜間学級を設けて主として経済的事 由による不就学生徒を収容し中学校義務教育の完逐に努力して今日まで相当の成果を挙 げ得たものと確信しております。今般全国中学校夜間学級設置校関係者約八十名京都市に 相会し各方面に亘って慎重に研究討議したる結果中学校夜間部教育の法制化の問題につ き総意を結集して之が実を切望する次第であります。ついては教育の機会均等を実現し一 人も不幸な不就学中学生をなからしむるため貴下の格別なる御高配を賜わるよう陳情申 し上げる次第であります。

協議会はこの後1961年より「全国夜間中学校研究会(以下「全夜中研」 ) 」と名称を変え、

「全国夜間中学校研究会連絡協議会」を別におき、今日に至っている。その取り組みをみると、

どの年代においても、行政へ要望する議題が協議されていることが特徴といえる。

例えば1973年の全国大会からは文部省、厚生省、労働省の三省に対する各校の要望と質問 が、一覧となって大会資料に掲載されるようになった(下記プログラム参照) 。

以上のように協議会(以下「全夜中研」と表記を統一)は、夜間学級という特別な「学級(学

校) 」から生じる諸問題、具体的には生徒数の確保、予算の獲得、施設・設備の充実、就学の奨励

(4)

等に関する規定改正や財政援助を含めた教育条件整備を、行政機関へ要求する目的で組織された 団体として位置づけられるのである。

3. 「全国夜間中学校研究会(全夜中研) 」の機能

さて全夜中研は設立当初は、教育条件整備に関する各学校の要求を集約し、文部省等の行政機 関に陳情や要望という形で要求と交渉していくことが中心的な活動であった。しかし1969年 からはその機能が増えていった。その証拠に全夜中研大会においては、各地域の夜間中学の歴史 的変遷や現在の状況、 そして課題についての報告がなされるようになったことが記載されている。

1970年には「生徒の訴え」という項目が入り、生徒の生の声を聴く内容が入っている。1 971年には作文集を用いての生徒の訴えが入るようになる。1973年からは「各地域の現況 報告」 「研究発表」 「分科会」というプログラムがつくられるようになる。 「各地域の現況報告」で は、広島、京都、兵庫、大阪、神奈川、東京というように夜間中学がある地域からの報告がなさ れた。 「研究発表」では、各学校での生徒の実態について報告がなされた。 「分科会」では、学級 経営、生活指導、国語部会、数学部会というようなテーマや部会に基づいて内容が話し合われた。

さらに1973年からは、 「三省に対する各校の要望と質問事項」も掲載されるようなる(全国中 学校夜間部教育研究協議会、全国夜間中学校研究会

1961

年、

1969~1973

年、参照) 。概ね197 3年にプログラムの骨格が固まったといえる。参考までに1973年と近年(2015年)の大 会のプログラムと大会資料の目次を記しておく(資料1、資料2、資料3、資料4) 。

資料1

【第20回(1973年) 全国夜間中学校研究大会 プログラム】

【1日目】

1、開会式 2、総会

3、各地域の現況報告 4、研究発表・特別報告 5、分科会

【2日目】

6、各分科会報告 7、生徒の意見発表 8、全大会

9、閉会式

資料2

【第20回(1973年) 全国夜間中学校研究大会 資料】

1、三省(文部省、厚生省、労働省)に対する各校との要望と質問事項 2、大会スローガン

3、全大会で討論したい協議題

(5)

4、自校の抱える問題点

5、夜間中学校瀬一致校現況一覧

※全国夜間中学校研究会『第二十回 全国夜間中学校研究会』1973年より筆者が作成

資料3

【第61回(2015年) 全国夜間中学校研究大会 プログラム】

【1日目】

1、全大会

A

(1)開式行事

(2)全国夜間中学校研究会についての計画及び報告等

(3)主題提起・特別報告 2、教科別部会

日本語教育(入門) 、日本語(国語科) 、数学科、社会科、理科、外国語科(英語科)

健康教育 3、領域別分科会

第1分科会 教育内容・カリキュラム 第2分科会 学校行事・生徒活動・特別活動 第3分科会 在日朝鮮人教育

第4分科会 引揚帰国者教育・新渡日者教育 第5分科会 増設・教育条件・啓発活動 4、学校見学・授業参観

5、委員会

【2日目】

6、全大会

B 60

周年全国交流会1

(1)生徒体験発表

(2)京都・洛友からの発信

(3)特別報告/法制化についての報告と意見交流 7、全大会

C 60

周年全国交流会2

(1)各地の取り組み報告 自主夜間中学校(北海道、福島、千葉、埼玉、和歌山、

福岡)

(2)各地の取り組み報告 夜間中学校(広島、関東、近畿)

8、全大会

D

(1)領域別分科会報告

(2)委員会からの報告

(3)閉会行事 9、理事会

資料4

【第61回(2015年) 全国夜間中学校研究大会 資料】

1、大会日程

(6)

2、地区報告

3、関係諸グループからの報告 ※全国の自主夜間中学校の報告(計28校)

4、文部科学省との話し合いの記録 5、厚生労働省との話し合いの記録 6、総務省との話し合いの記録

7、全夜中研の要望書に対する回答 ※各地方自治体分 8、新聞記事等資料

9、全国夜間中学校の現況

※全国夜間中学校研究会『第六一回 全国夜間中学校研究会』2015年より筆者が作成

こうした大会内容の充実化が行われることは何を意味するのか。

ひとつは、情報共有を図る機能をもったということである。全国に散らばる各地域・各学校の 情報は、全国大会時に集約され、共有できる場となった。例えばある中学校では、 「最近では自閉 症、精薄のような精神異常のような生徒が増えて来ている。従って一斉授業よりも個別指導が主 になり、内容も小学校の基礎学力をつけることが主になってきている」 (全夜中研

1969、p.30)

。 またある中学校では「年齢層が大分高くなってきたことと、韓国からの引き揚げ者が特に増加し てきたこと。とくに引き揚げ者については今後も益々増える模様…

中略…引き揚げ者に対して週

10時間の特別時間割を組み日本語の早期習得に努めさせている。 」 (全夜中研

1969,p32)という

ように、各地域・各学校の実情と課題を情報として共有しているのである。行政からの支援も得 られず、個別的に格闘している各学校と教員にとって、全国の学校の情報を共有し、対応方法を 検討できる機会になっているという点で、各学校と教員に大きな力になったと考えられる。

いまひとつは、各地域・各学校の実情を含めた課題・困難を一元的に集約し、情報共有するこ とで、行政への教育条件整備要求の内容を具体化することができるという点である。例えばある 中学校では「生徒一人一人の学力差が大きいため、現在、教員の奉仕によって2学級編成で授業 を行っている。しかしそれは法的にみて違法であるということ。…

中略…生徒の年齢差が大きく、

また家庭事情、職業的地位からみて、法に相当する3ヵ年間の在学が困難な場合、その前途に立 ちはだかる法解釈を一律にあてはめるべきか否か」 (全夜中研

1969,p.38)という状況が報告され

ている。 こうした実情から行政に教育条件整備として何を要求するのかが抽出されることとなる。

3つ目は、各地域や各学校での対応方法について、全国大会時に他の地域や他の学校の構成員 から意見を得ることができるという点にある。 実際1973年から全大会で 「討論したい協議題」

という内容が入り、そこに内容を書き込み協議できるようになった。こうした内容の新設は各校 が対応方法のあり方に苦慮し、 大会時に他の構成員からの意見を切望していたことがうかがえる。

さいごは、意見や体験という生徒の生の声を大会の構成員全員で聴くことを通じて、法的に不 安定で行政からの支援も得られない夜間中学という存在の意義や正当性を共有し、夜間中学の活 動や実践を励まし合っていることである。参考までに大会時に読まれた生徒の作文を掲載してお く。

父が死に、

中略…母が死んだ。そのとき、5才の私は、母の死顔を見ながら、2,3度

呼んだ。この日から私の長い苦しみがはじまった。身よりもなく、見知らぬ人に私はひろ

(7)

われた。でも、ずいぶんひどい目にあった。人は

1

日3度食事をする。私は1日1度の食 事もさせてもらえずやけ火ばしでしばかれた日も何日かあった。

毎日がつらくて、たまら

なくなり、そこからにげだし、のら犬のようにさまよいはじめた。9才の頃、孤児院の先 生にひろわれて、11才になるまでそこにいた。その後、先生のせわでお手伝いになった。

朝は5時に起き、夜12時まで休む間もなく、必死にはたらく毎日がつづいた。夜になっ て本を見ようとあけてみた何だかわからない。人に聞くと見向きもしてくれない。家の人 に聞くと、こう言った。 「お前は何も知らんかてええのや。仕事さえ、一生けんめいしてれ ばいいのや」と。その時の私はその人の言うことが正しく、それでいいのだと思った。私 だって、バスにものりたいし、電車にものりたい。だが、 「どこそこに行く」と書いてある のも読めないし、人に聞くとへんな顔をする。目があいているのに何も読めない。あきめ くら同然だった。そんな苦しみが私の心を一時ゆがめたが、それに必死になって、たたか った。夜になると、1 人で考える。勉強したい。本を見る。エンピツをもち、ノートを開 く。読めない。書きじゅんもわからん。なんとかせんと、私はそう思うと頭がいたくなり、

とめどなくなみだが出る。そんなとき、テレビの放送を見た。…

中略…夜間中学の放送を

見た。生徒が話していた。一文字も読めなかった人が読めるようになった。私には信じら れないことだった。夜があけるのがまちどおしかった。電話をかけた。先生が出た。とて も親切に、学校への道じゅんを教えてくれた。急いで学校へ行った。校門の前に立ち、私 は自分のほほをひねってみた。いたかった。 「ほんまや」と思うと、うれしくてたまらなか った。急いで階段をのぼった。足がふるえて止めようがなかった。私のように読み書きの できない人が、かず知れないほど、たくさんいる。私は、今、少しでも読めるようになっ た。この幸せを知らないみんなに大きな声で知らせたい。学校に行けなかったみんなのた めに夜間中学をもっとたくさんふやしてほしい(全夜中研

1971、pp.176-177)

夜間中学との出会いを通じて壮絶な人生を送ってきた生徒が、人生に希望を見出していくこう した作文は、夜間中学の必要性や社会的意義を証明するエビデンスにもなる。その意味で生徒の 存在は、教育条件整備要求を行う全夜中研という組織を存立させる基盤になったと考えられる。

4. 教育条件整備交渉における「戦略的活動」

4-1. 教育条件整備交渉の難航と変化

全夜中研は1954年から毎年1回全国大会を開き、そこで協議し決定した事項を文部省など の行政機関へ要望してきた。しかしながら、その要望はことごとく裏切られてきた。その背景に は、 文部省の夜間中学に対する認識があった。 文部省は夜間学級が開室されて以降 「 (夜間中学を)

黙認すれば全国的に広がるうえ、現在の昼間の学校へ通学しているものも、昼間働いて夜学へ通 うものは激増し、6・3制は崩壊する恐れがある」として一貫して認めない立場をとってきた。

文部省と教育条件整備交渉しても、 何も実現しないという状態が実に半世紀以上続いたのである。

事態に変化が現れるのは2014年である。この時期の前後の大会資料を確認すると(全夜中 研

2007

年~2015 年参照) 、文部科学省(以下「文科省」と略記)の対応の変化は明瞭である。ま ず全夜中研との話し合いにおいて、対応する文科省の人数が増えたということが確認できる。2 014年の文科省側の対応者は9人である。前年度(2013年)は4人であり、2008年~

2012年は記録がない。おそらくこの期間は文部省からの出席者がおらず話し合いが開けなか

(8)

ったと考えられる。 2007年には話し合いは行われているが、 文科省側の対応者は2人である。

このように過去の対応者数と比較しても2014年から飛躍的に多くなっていることがわかる。

しかも対応者の役職をみても、 初等中等教育局企画課教育制度改革室の室長を筆頭に、 室長補佐、

係長5人、専門官あるいは専門職2人という構成となっている。ちなみに2007年に文科省と して対応した役職は初等中等教育局企画課教育制度改革室の室長補佐と専門職の2人であり、2 013年は初等中等教育局企画課教育制度改革室の室長補佐、係長、係員、研修生の4人である。

こうしてみても2014年からは単に人数が多くなっただけではなく、役職も高いメンバーで占 められているのである。なお、2015年は2014年と同様の9人の対応者数で、役職構成も ほぼ同様のものになっている。

さらに興味深いのは、教育条件整備の話し合いの時に、全夜中研が要望したこと(要望1、要 望2、要望3、要望4、要望5)に対する文科省の回答の変化である(2007 年回答、

2013

年回答、

2014

年回答、2015 年回答) 。この変化も2014年から明瞭となる。この点を確認するために、

以下、変化が現れる前後を含めた、文科省の回答の変遷を要望内容ごとに掲載しておく(資料5、

資料6、資料7、資料8、資料9) 。

資料5

要望1【義務教育不就学者数などについて】

2007年 回答

国勢調査における調査項目については総務省の方で様々な事情を勘案している状況があ る。調査事項について多くの方が回答しづらいというところも一方ではあって、かなりデリ ケートな問題であると認識している。国勢調査において小学校・中学校を別に区分して調査 するということについて今の段階ではかなり厳しく困難な状況である。

2013年 回答

卒業等教育の状況の項目を設けるよう当初から要望しているところでございます。

小学校と中学校を別区分とするように総務省に要望していただきたいという点でござい ますけれども、…

中略…在学卒業等教育の状況に関する調査項目につきましては、記入に際

して国民の抵抗感が大きいということから当該調査項目の選択肢を、たとえば小学校・中学 校にわけて細分化することになりますと、正しい記入を確保することができるかどうか懸念 されるところでございまして、そういった事情を踏まえると、総務省としては調査項目の細 分化は困難であると考えているということでございます。

2014年 回答

義務教育の未修了者の数を正確に把握するということは私どもがその的確な政策をやっ ていくうえで、大変重要だと考えておりまして、文部科学省といたしましても総務省に対し まして、次回の国政調査、これは平成32年度だと承知しておりますが、その項目に義務教 育未修了者を追加するよう、常々これまでも要望を行っているところでございます。…

中略

…こうしたなか、総務省の大臣政務官より、平成26年5月21日の衆議院におきます文部

科学委員会で、 「期待に応えられるよう検討してまいりたい」というような答弁をいただいて

いるところでございまして、これは今までになかったことでございますので、引き続き検討

状況を考慮してまいりたいと考えております。

(9)

2015年 回答

義務教育未修了者の数を正確に把握することは、大変重要だと考えておりまして、当省と いたしましては総務省に対して、次回の国政調査の項目に義務教育未修了者を追加するよう 度々要望を行っております。こうした中、総務省の大臣政務官より、平成26年5月21日 の衆議院におきます文部科学委員会で、期待に応えられるよう検討したい旨の答弁をいただ いておりまして、引き続きその検討状況を考慮してまいりたいと考えております。

※全国夜間中学校研究会『第五三回 全国夜間中学校研究会』2007 年、『第五九回 全国夜間中学校研究会』

2013年、『第六十回 全国夜間中学校研究会』2014年、全国夜間中学校研究会『第六一回 全国夜間中学校 研究会』2015年をより、筆者が作成。

資料6

要望2【義務教育の完全保障などについて】

2007年 回答

中学の夜間学級の果たしてきた役割は十分に評価されなければならないと考えている。現 在中学校の夜間学級には義務教育を未修了のまま学齢を超過したものがかなり多く在籍し ている。現実に義務教育を修了しておらず勉学の意志を有する者がいる以上、これらの方に 対し何らかの学習機会を提供をすることは文部科学省としては必要なことだと考えている。

2013年 回答

中学校夜間学級は、…

中略…そのはたしてきた役割は重く評価されなければならないと考

えております。

中略…義務教育を修了しておらず、明確な意志を有する人たちである以上、

何らかの学習機会を提供することは大変重要なことであると考えています。

2014年 回答

義務教育の完全保障ということで、全ての人々に対して義務教育を完全に保障するという ことが行政の責務であることを確認するということ、それからそのいちやくを担っている各 自治体に対して義務教育未修了者対策を担う係を位置づけるようにというご要望でござい ますが、これにつきましては…

中略…各組織の行政体制の問題になってきまして、それはそ

の各自治体が地域の実情などに応じまして、勘案して、判断するものだというふうに考えて おります。

2015年 回答

義務教育未修了のまま学齢を超過した方々の学習ニーズに対応し、教育の機会を提供する ことは大変重要なことだと考えております。行政として取り組んでいく課題であると認識し ているところでございます。現在議員立法で検討されております「多様な教育機会確保法(仮 称) 」ということでございますが、この法案におきましては各都道府県、市町村に対して義務 教育未修了者への就学機会への確保等に必要な措置を講ずるよう義務づける趣旨が盛り込 まれると、承知しておりますが、このような動きを踏まえながら各自治体の積極的な取り組 みを促すと共にその支援に努めて参りたいと考えているところでございます。

※全国夜間中学校研究会『第五三回 全国夜間中学校研究会』2007 年、『第五九回 全国夜間中学校研究会』

2013年、『第六十回 全国夜間中学校研究会』2014年、全国夜間中学校研究会『第六一回 全国夜間中学校 研究会』2015年をより、筆者が作成。

(10)

資料7

要望3【各都道府県での夜間中学の設置などについて】

2007年 回答

夜間中学を実施しているのは市町村教育委員会で、地域や学校の実情、諸般な事情を考慮、

勘案のうえ、判断すべきものであると文部科学省としては判断している。

2013年 回答

夜中の設置につきましては…

中略…市町村教育委員会が判断することが適当であると考え

ておりまして、その際、中学校夜間学級を設置するかどうかにつきましても市町村教育委員 会が地域や学校の実情等諸般の事情を勘案しながら判断するものであると考えております。

2014年 回答

文部科学省といたしましても中学校夜間学級の実態について…

中略…調査を行いたいと考

えております。その結果を踏まえまして、各自治体への指導・助言・援助も含めまして、中 学校の夜間学級の設置促進策をはじめとします義務教育を受ける機会の確保のために、どう いう政策、どういう対策が考えられるか、ということを検討して参りたいと考えております。

2015年 回答

この点につきまして、現在議員立法で検討されております「多様な教育機会確保法(仮称)

」ということでございますが、この法案におきましては各都道府県、市町村に対して義務教 育未修了者への就学機会への確保等に必要な措置を講ずるよう義務づける趣旨が盛り込ま れると、承知しております。このような動きを踏まえつつ文部科学省としましては都道府県 教育委員会が集まる会議などを通じまして、各自治体における自主夜間中学の取り組みに関 する情報を提供するなどを通じて、各自治体の取り組みを促して参りたいと考えておりま す。また、文部科学省としては昨年度予算におきまして、夜間中学未設置道県における設置 検討に係る調査研究経費を計上しているところでございます。この事業を活用しつつ議員立 法の動きを踏まえながら、各地方自治体への指導・助言・援助を行うことを含め、夜間中学 の設置促進に努めていきたいと考えているところでございます。

※全国夜間中学校研究会『第五三回 全国夜間中学校研究会』2007 年、『第五九回 全国夜間中学校研究会』

2013年、『第六十回 全国夜間中学校研究会』2014年、全国夜間中学校研究会『第六一回 全国夜間中学校 研究会』2015年をより、筆者が作成。

資料8

要望4【夜間中学校内の基礎学級設置などについて】

2007年 回答

中学校夜間学級は昼間の学校と同様に学校教育法第1条の中学校に設置された一つの学 級であるということで、中学校の学習指導要領に基づく教育課程が実施されているものと認 識している。また、教育が実施される過程においては、その現場で、それぞれの生徒に対応 した教育が先生方によって行われていると思っている。

2013年 回答

中学校夜間学級は昼間の学校と同様に学校教育法第1条の中学校に設置された一学級で

(11)

ございますので、中学校学習指導要領に基づく教育課程を実施していただく必要がございま す。

2014年 回答

中学校の夜間学級というものが、制度上のお話でございますけれども、学校教育法第1条 の中学校ということで設置された、その一学級ということでございますので、制度的には中 学校学習指導要領に基づく教育課程を実施していただく必要がございます。ただ、文科省と いたしましては…

中略…今、夜間学級でどういう実態になっているかというようなそういっ

た調査を行うことで、まずその調査の結果をよく分析いたしまして、今後、どういったこと が必要かを検討させていただきたいと、この点についても含めて考えております。

2015年 回答

中学校夜間学級は学校教育第1条の中学校に設置された一学級であるということでござ いますので、中学校学習指導要領に基づく教育課程を実施していただく必要がございます が、今般実施しました夜間中学等に関する実施調査におきましては、夜間中学おいては生徒 の特別なニーズと対応した教育課程の編成や指導方法の工夫が行われているという実態が 明らかとなっております。そのような取り組みがより円滑に行うことができるような施策を 検討していきたいと考えているところでございます。また、中学校夜間学級につきましては、

中学校の学習指導要領等に則って教育課程を編成していただく必要がございますため、小学 校の教科書を主たる教材として使用することはできないのですが、副教材として使用するこ とは可能でございます。

夜間学級における教育上の必要があるということでございましたら、例えば「中学校夜間 学級の充実・改善等の取り組み事情」の経費として計上していただくことも可能でございま すので、その活用をしていただけたらと考えておるところでもございます。

※全国夜間中学校研究会『第五三回 全国夜間中学校研究会』2007 年、『第五九回 全国夜間中学校研究会』

2013年、『第六十回 全国夜間中学校研究会』2014年、全国夜間中学校研究会『第六一回 全国夜間中学校 研究会』2015年より、筆者が作成。

資料9

要望5【中学校形式卒業者について】

2007年 回答

既に中学校を卒業している方については中学校に入学することはできない。形式的に中学 校を卒業してしまった方が義務教育相当の学力を身につけるということについては、社会教 育をはじめ様々な場、多様な教育機会を文科省の施策として実施している。必ずしも中学校 における学習が現状では必要ではないと考えている。

2013年 回答

義務教育相当の学力を身につけられるような学習機会として中学校以外にも社会教育を はじめとして様々な場が想定されています。義務教育段階の学びなおしについては、高等学 校において学校や生徒の実態等に応じて必要な場合に行って学習内容の確実な定着を図る よう学習指導要領にも明記しているところでございます。

2014年 回答

(12)

こういった生徒が希望した場合に、その学習機会の確保をどうしていくかということは大 変重要な課題であるというふうにわたくどもも認識しております。特に、不登校児童生徒が 非常に多いなかで、こういったことは非常に重要だと認識しておりまして、今後どういう対 応が考えられるのか、ここも研究してまいりたいと思っている課題の一つでございます。

2015年 回答

従来文部科学省では通常就学すべき年齢を超えた方の中学校受け入れについては「中学校 を卒業していない場合は就学を許可して差し支えない」との考え方を示してきたところでは ございますが、卒業はしていても実質的に十分な義務教育を受けられなかった方が希望した 場合の学習機会の確保、これは重要な課題だと考えております。このため、ほとんど学校に 通えないまま中学校を卒業した方が希望した場合に夜間中学に入学することについては、教 育委員会や夜間中学の関係者の方々の声も聞きながら、どのような基準や考え方に基づいて 行うべきかを含めて、学習機会の拡大・充実の方向で積極的に検討していきたいと考えてい るところでございます。

※全国夜間中学校研究会『第五三回 全国夜間中学校研究会』2007 年、『第五九回 全国夜間中学校研究会』

2013年、『第六十回 全国夜間中学校研究会』2014年、全国夜間中学校研究会『第六一回 全国夜間中学校 研究会』2015年をより、筆者が作成。

これをみても文科省の回答が2014年に明らかに変化していることがわかる。例えば「義務 教育不就学者数について」の要望について2007年には「国勢調査において小学校・中学校を 別に区分して調査するということについて今の段階ではかなり厳しく困難な状況」と切り捨てる ような発言をしていたのが、 2014年には 「文部科学省といたしましても総務省に対しまして、

中略…その項目に義務教育未修了者を追加するよう、常々これまでも要望を行っている」とい

う回答になっている。 「形式卒業者について」の要望についても、2007年には「既に中学校を 卒業している方については中学校に入学することはできない」と断言していたのが、2014年 には「こういった生徒が希望した場合に、その学習機会の確保をどうしていくかということは大 変重要な課題である。…

中略…今後どういう対応が考えられるのか、ここも研究してまいりたい」

という検討の姿勢へと変化している。

以上、 夜間中学に対する文科省の対応変化は、 2014年にあったと結論づけることができる。

4-2. 文部科学省の対応の変遷

実際、夜間中学に対する文科省の対応変化は、こうしたものにだけみられるものではなく、夜 間中学にかかわる教育条件整備においても確認できることである。

2014年9月からはそれ以前にはなかった夜間中学の実態調査を実施するための夜間中学関 連予算300万円が計上されている。2015年には夜間中学の広報強化と未設置道県への委託 調査を実施するため、夜間中学関連予算1,000万円、さらに補正予算2,100万円が計上さ れている。また同年に、文部科学白書に夜間中学の項目がはじめて記載されている。夜間中学の 広報媒体としてのカラーパンフレットの作成と、文科省ウェブサイトにおける夜間中学校の記載 も、この年(2015年)からはじまっている。

さらに2015年7月には、文科省による形式卒業者の公立夜間中学への再入学を認める通知

が出され、2016年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保

(13)

等に関する法律概要」 (教育機会確保法)が成立している。2017年度の夜間中学関連予算は2, 000万円が計上。2017年3月には「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機 会の確保等に関する基本指針」が策定。同年同月には、 「義務教育費国庫負担法の一部改正」によ り、都道府県が設置する夜間中学等の教職員給与に要する経費を国家負担の対象に追加。また「学 習指導要領の改訂」により、夜間中学校学習指導要領の総則に「教育課程の特例を創設」し、学 齢超過者への指導の際、実情に応じた特別の教育課程を編成できるよう明記している。

さらにまた2017年4月には、 「夜間中学の設置・充実に向けて「手引き」 (改訂版) 」を作成。

2017年8月には、教育委員会担当者を対象とした夜間中学説明会が開催、2017年11月 には夜間中学等に関する実態調査が実施される。2017年3月には2018年度夜間中学関連 予算額として3,600万円が計上。2018年4月には、夜間中学校の認知度をあげるためのフ ライヤーが作成。2018年7月には、 「夜間中学の設置・充実に向けて「手引き」 (第二次改訂 版) 」が作成され、2018年7、8月には、夜間中学における日本語指導研修会を開催。201 9年3月(2019年度)夜間中学関連予算においては、6,600万円が計上されている。

このように2014年を基点にする関連予算及び教育条件整備の充実度は普通ではない。

さらに2018年11月に「夜間中学設置促進・充実協議会」を設置するが、その協議会の開 催頻度の高さに加え、この構成メンバーの大半(11人中8人)は、全夜中研構成員(自主夜間 中学を設置運営してきた実践家を含め)か、夜間中学を支える運動にかかわってきた研究者と実 務家である。会議の開催頻度がきわめて密になっているのは、 「教育機会確保法」の附則に記載さ れた「3年以内の見直し」を目前に、その見直しを射程に入れていることも理由のひとつとして 考えられるとしても、そのメンバー構成や会議の頻度の高さをみても、他の会議とは同一に論じ られない程の特異性がある。

4-3. 教育条件整備運動の変遷

ところで、夜間中学の条件整備運動にかかわる変遷を時系列でまとめたものが以下である。

表1

1947年10月 大阪市立生野第二中学校「夕間学級」の開室

※1955年に89校、生徒数5208人を頂点として減少 1954年 全国夜間中学校研究会(全夜中研)の発足

1966年~ 「夜間中学早期廃止勧告」への反対運動

荒川九中夜間学級卒業生の高野雅夫の夜間中学廃止反対を訴える全国行脚の開始

反響から義務教育未修了者が名乗りをあげ、大阪市立天王寺中学夜間学級開設

大阪市立天王寺中学夜間学級が開設以後、近畿地方に夜間学級の開設が続く

1969年に夜間学級の設置数は底となり、その後、 (82年まで)増加に転じる

2003年2月 日弁連へ人権救済申立を行う

2008年8月 日弁連は国に対して「学齢期に修学することができなかった人々の教育を 受ける権利の保障に関する意見書」を提出

2009年 全夜中研大会(第55回大会)において「教育環境整備法案」の「法整備を

超党派の各会派に積極的にはたらきかけていきたい」という提案がなされ、

(14)

国会議員への働きかけが活発化

2012年8月 「超党派参加・国家院内集会の集い」開催

2013年5月 衆議院文部科学委員会による東京都足立区立第四中学校夜間学級視察 2013年8月 「超党派参加・国会院内シンポジウム」開催

2014年4月 超党派「夜間中学等義務教育拡充連盟」発足会の開催

※呼びかけ人

馳浩、小渕優子、萩生田光一、笠浩史、林久美子、

鈴木望、稲津久、柏倉祐司、井出康夫、宮本岳志、

青木愛、吉川元

2014年5月 下村文科大臣「各都道府県に一校以上の夜間中学設置が必要」と答弁 2014年7月 衆議院文部科学委員会による大阪府守口市立第三中学校夜間学級視察 2014年7月 教育再生実行会議第五次提言「夜間中学の設置を促進する」と発表 2015年9月 超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充連盟合同総会

馳浩議員を座長とする立法化チームによる「義務教育の段階に相当する普 通教育の多様な機会の確保に関する法律案」の提案

2016年4月 超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充連盟合同総会 丹羽秀樹議員を座長とする立法化チームによる「義務教育の段階における 普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律概要」説明

2016年12月14日 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保 等に関する法律」成立

※全国夜間中学校研究会『全国夜間中学校研究会』、『全国夜間中学ガイド』学びリンク 2016年、埼玉に夜 間中学を作る会・川口自主夜間中学三十周年誌刊行委員会『月明かりの学舎から』東京シューレ出版、2016 年、松戸市に夜間中学校をつくる市民の会『新たな出発の今』桐書房、2015年、を参考に筆者が作成。

表1をみると2014年に超党派「夜間中学等義務教育拡充連盟」が発足して以後、 「教育機会 確保法」ができるまでの間、急速に夜間中学拡充の方向へと文科省が舵をきっていることがわか る。この契機は2008年にある。同年8月に日弁連は国に対して「学齢期に修学することがで きなかった人々の教育を受ける権利の保障に関する意見書」を提出。この意見書を根拠に、20 09年から全夜中研構成員による国会議員の各会派への働きかけがはじまる。この働きかけの結 果、2012年8月「超党派参加・国家院内集会の集い」が行われ、翌2013年8月「超党派 参加・国会院内シンポジウム」を開催。そして2014年

4

月に超党派「夜間中学等義務教育拡 充連盟」が発足し、2016年12月「教育機会確保法」の成立へと至るのである。

とりわけ2012年8月「超党派参加・国家院内集会の集い」は、その後の夜間中学拡充政策

への端緒となっていることには留意したい。なぜならこの集いが、国会議員と全夜中研構成員(自

主夜間中学を設置・運営してきた実践家を含め)との関係をつくる契機となっており、この関係

構築の結果、夜間中学への国会議員の視察がはじまり、それが夜間中学の拡充政策へとつながっ

ているからである。具体的には、2013年11月には衆議院文部科学委員会による東京都足立

区立第四中学校夜間学級の視察を実現し、2014年7月には大阪府守口市立第三中学校夜間学

級の視察へと広がっていった。その後、全夜中研の支援を得ながら視察は自主夜間中学へも広が

6)

、 2015年6月9日川口自主夜間中学へも議員連盟による視察が行われた (川口

pp.31-34)

(15)

こうした経緯を経て2015年9月超党派フリースクール等議員連盟・夜間中学等義務教育拡充 連盟合同総会において馳浩議員を座長とする立法化チームによる「義務教育の段階に相当する普 通教育の多様な機会の確保に関する法律案」の提案が行われ、2016年12月14日「義務教 育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」 成立へと至るのである。

4-4. 全夜中研の構成員と自主夜間中学関係者の「戦略的活動」

ところで国会議員との関係構築や夜間中学に対する視察等のはたらきかけは、全夜中研の構成 員が半世紀にわたり文科省や教育委員会と交渉してきた結果、行政及びその職員に直接交渉をし ても埒があかないという経験から見出されたいわば戦略に基づくものであった。

例えば公立夜間中学が2019年に開設された千葉県松戸市では、松戸・教育を考える会を1 979年に立ち上げて以降、松戸市や松戸市教育委員会と交渉するも、 「水面下で保守系会派の議 員や中間会派の議員を中心に切り崩し工作を活発化させ」、松戸市議会へ提出した陳情を不採択 にするという行為を松戸市教育委員会が行うという状況にあった

7)

(松戸

pp.174-178)

。市長の 影響下にある市職員や教育委員会職員の意識を変えることは「市長の交代を図らねば市教委の対 応を変えることができないと判断」 (松戸

p.189)

。2010年夜間中学に対して理解のある新た な市長を擁立し、当選させることに成功。2011年4月新市長の指示によって「市教委の姿勢 自体は従来と変わってはいないもののこれまでにない動きが始ま」った(松戸

p.190)

。2017 年5月には「保守系会派を中心にした市議会議員有志との懇談が実現」 (松戸

p.192)

。議会にお いて議員が教育長に夜間中学について再三質問する過程で「三部制中学」構想を答弁させるまで に至った。30年以上にわたる運動の成果として自治体や教育委員会の職員に直接交渉しても埒 があかず、 市長を代えることや議員の関与が効果的であるという知見を獲得していったのである。

松戸同様に夜間中学の設立運動をしてきた川口でも、夜間中学を認可する主体と義務教育未修 了者の居住地が重なっていないことによる問題で、20年以上、話が平行線をたどってきたと埼 玉に夜間中学を作る会代表の野川義秋氏は述べている。 「県は『中学校の設置主体はあくまでも市 町村であるから、県から特定の市に設置しろと指導することはできない』と主張し、川口市の方 は『県内の義務教育未修了者は、川口市だけでなく県内全域の市町村に在住しているので、広域 行政として県が指導的な役割を果たすべきだ』との言い分をずっとくり返している。ここをどう 超えていくかが課題だった」 (埼玉に夜間中学を作る会,pp.19-20) 。ところが2015年6月9日 に行われた川口自主夜間中学へも議員連盟による視察と、同年10月17日「埼玉の夜間中学運 動三十周年集会」での馳浩文科大臣(当時)の講演及び馳議員を介しての紹介によって様々な政 党の議員との関係が構築され、埼玉の夜間中学を支える議員連盟の基礎がつくられていった。こ うした過程で川口自主夜間中学への議員による視察も増えていった。議員の視察と議会での議員 による行政への追求の影響は大きく、20年以上にわたる行政交渉において平行線をたどってき た川口における公立夜間中学設立は、議員との関係構築ができてわずか4年で実現されることに なった。

このように議員と関係構築をはかり、議会等で首長や教育委員会へ夜間中学の必要性や可能性

を議員が追及することが、夜間中学設立及び拡充を実現させる効果的な方法であるということを

全夜中研構成員は経験から学んでいったのである。そしてその経験は構成員のつながりを介して

全国の夜間中学及び自主夜間中学の関係者に共有される。この情報共有を実現させたのは、まぎ

れもなく全夜中研という組織と構成員によるつながりであった。議員との関係を一人の構成員が

(16)

つくれば、そこから派生的に他の議員との関係構築がなされていく。こうして全国の夜間中学や 自主夜間中学への議員の視察が実現していくのである

8)

。議員が視察したところには文科省職員 や教育委員会職員も視察に訪れる

9)

。こうした過程を経て、夜間中学の教育条件整備の充実と夜 間中学の設置及び拡充ということが実現しているのである。

以上のように全夜中研の構成員による議員(政治家)との関係構築は、夜間中学の教育条件整 備の充実と夜間中学の設置及び拡充を進めるための 「戦略的活動」 ということができるのである。

5. 夜間中学拡充政策のイニシアティブをとる全夜中研構成員

この戦略的活動は功を奏し、夜間中学の拡充政策では全夜中研構成員がイニシアティブをとっ ている。この点は「教育機会確保法」の見直しの議論の過程をみると明瞭となる。

周知のように「教育機会確保法」は、附則において次のような文言が入っている。 「この法律施 行後3年以内にこの法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づき、教育機会の確保 等の在り方の見直しを含め、必要な措置を講ずるものとする」 。この文言に基づく見直しがすでに 水面下で進んでいる。ここでは2018年7月27日に全国夜間中学校研究会と夜間中学等義務 教育拡充議員連盟との共済で開かれた「全国に夜間中学の開設を!研修交流会」での公式記録を 手がかりに、 「教育機会確保法」の見直しを全夜中研とそれにかかわる構成員がどのように要望し ているのか、そしてそれに対し文科省がどのように対応しているのかを確認していく。

まず全夜中研及びそれと関係する構成員からどのような要望がでているのかを確認する(5-1、

5-2、5-3、5-4)

。そのうえで当該要望に対する夜間中学等義務教育拡充議員連盟の応答(5-5)と、

夜間中学等義務教育拡充議員連盟と全国夜間中学校研究会共済研修交流会参加者の連名による要 望書(5-6)を確認したうえで、その要望に対する文科省の対応文章(5-7)を確認する。

5-1. 野川義秋「埼玉に夜間中学をつくる会代表」

北海道は、協議会という形式をとりながら進められているんですけれど、私たちのところ には協議会はありません。ただ、一昨年、教育機会確保法が成立する前に先駆けて、 「中学校 夜間学級設置検討会議」というのが、教育局の市町村支援部に置かれています。そこに、埼 玉県から東京都内の夜間中学へ通う生徒の多い12市を中心にして「中学校夜間学級関係1 2市町村連絡協議会」というのが設置されています。私たちも協議会の設置を望んでいるん ですけれども、ただ、この「設置検討会議」は協議会に類するものとしての役割を果たして いると思っておりまして、今はここをもとにしながら来年の開校に向けた話し合いを行って いるところです。

入学条件、16歳以上…

中略…と表現されているのですけれども、実は5月19日に行わ

れた「市民説明会」で…

中略…この時のパンフレットには「ある程度日本語を習得している

方」という文言があったんです。これでは、ひらがなカタカナから勉強する外国人の人たち は入れないということになるのではないかということで、話し合いの中で申し入れたところ、

原案には最初からこれは入っていなかったということで検討されて、現在皆さんに見ていた だいている表現になっています。16歳という縛り方とか、それから原則ということばです

ね。…

中略…やはりこのままではまずいんじゃないかということで7月23日に行いました

県の方にも、ぜひ考え直してという要望をしたところです。

(17)

養護教員の配置ということがまだ入っていなくて…

中略…こちらも検討してもらいたい。

今のところ給食等は考えていないと回答してきています。ただやはり働いて学校に来て、

腹ごしらえもしないままに勉強しなきゃいけない、あるいはコンビニに走らなきゃいけない というのは、生徒たちの学ぶ条件として好ましくない。…

中略…県としても再検討をお願い

したいというふうに申し述べているところです。

5-2. 榎本博次「松戸市に夜間中学を作る市民の会代表」

入学資格というのがありまして…

中略…この中で、松戸市在勤、あるいは千葉県在勤の人

は含まれておりません。松戸市の場合に、例えば江戸川を渡って、反対側に埼玉県の三郷市 というのがありますけれども、そこまでバスで10分か15分くらいで行けるんですけども、

結構、松戸市内の事業所に勤務されている方がいらっしゃるんですけれども、そういう方の 中にもおそらく、夜間中学で学びたいという人がおられるんではないかというふうにおもっ ているんですけれども、そういう方は、含まれていないということになっております。

一番私たちが問題にしているのは、みらい分校の生活に支障のない方、というこれは…

…千葉県には市川市立大洲中学校の夜間学級というのがありまして、その募集要項を、そ

っくりそのままコピーしたようなそういう内容になっております。これはもうなんというん ですか、障害を持っている方たちはなかなか学びに、これ難しいですよというそういうとこ ろにあるんですけれども私たちも声をあげておりまして、今、そういう方は相談にのるとい う、そういうようなことになっています。

先生方の配置の数なんですけれども、その辺も非常に最初の話とは違って少なくなってき ているようですので、この辺りも強く、県教委とかそういうところにもお願いしていこうか なとおもっているところでございます。

5-3. 工藤慶一「北海道に夜間中学をつくる会

共同代表」

教育機会確保法の公布を受け少なくとも各県に一校の公立夜間中学の設置が求められて いる中にあって、北海道で三度の夜間中学等に関する協議会が開かれたにも関わらず、事態 は遅々として進んでおりません。

教育を十分に受けていない人たちの実態把握についてです。…

中略…やはり国勢調査教育

欄のデータ把握は必要不可欠です。しかし現状は「未就学・その他」の欄から…

中略…小学校

未修了の人たちの人数がかろうじて分かるのみです。…

中略…このデータに15歳以上人口

データを入れて、未就学率という割合を出して比較をし、配慮すべき事項の把握と市町村の 取り組み優先順位を決めていくべきだと考えます。…

中略…法律第16条には「実態把握に

努める」という文言が入っています。そこでこの言葉を「詳しい実態を把握し公表する」に かえ、その内容を基に各地方公共団体に対枠の立案と実行を求めていくことが必要だと考え ます。

協議会についての問題です。現行の協議会はいくつかの問題を抱えています。第一に支援

活動を行う民間団体その他の人たちを構成員に入れていないか、入れていても民間団体等の

意見は等閑視する傾向があります。第二に知事や市町村長の参加が皆無であることから、法

律に則った協議会がひとつもないということ。第三に第15条第3項にある、構成員は尊重

すべき「協議が調った事項」という文言についてですが、これは協議会で決定したことを意

(18)

味するのか、それとも拘束力のない了解事項の事をいっているのか、不明であります。です から意見の羅列になってしまって、いつまでも議論が続く欠陥を持っています。

各県に少なくとも一校の公立夜間中学ができたとしても、一校で全県をカバーすることは できません。…

中略…このためさまざまな工夫を行って学びの場をつくっていく必要があり

ます。その一つとして第19条に教材の提供に関して「 (通信の方法によるものを含む) 」と ありますが、教材提供だけでなく、法整備を含めた上での通信制夜間中学の充実と、その他 の学びの場との連携方法の検討を開始すべきだと考えます。

自主夜間中学に対する適切な措置についてです。…

中略…教育の確保等に関する基本指針

の中で、自主夜間中学が「義務教育を卒業していないもの等に対する重要な学びの場となっ て」いるので、 「地域の実情に応じて」各地方公共団体は「適切な措置が検討されるよう促す」

とあります。問題は「適切な措置」とは具体的に一体何をすることなのかを、徹底的に実践 例を集めて公表して頂きたいのです。

5-4. 竹島章好「全国夜間中学校研究会事務局長」

潜在的な夜間中学での学習対象者の掘り起こしのためには、夜間中学に対する認識を広く 一般に広めることが不可欠であることが明らかとなっている。国や地方自治体が率先して地 道に息の長い広報活動を展開する義務を負うように、確保法の見直しをしていただきたい。

国勢調査おいて、義務教育の未修了者の概数が把握できるように、小学校・中学校の分離 も含め、しっかりと対応してください。

都道府県に一つ夜間中学ができたとしても、通うのには交通費が必要で、就学援助制度が 不可欠です。また、学校給食法で規定されている給食の実施や健康管理のための養護教諭や 校医の配置、健康診断、校内のエレベーターも含めてのバリアフリー化や安全・安心で充実 した学校づくりになりますようお願いします。

都道府県に一つの夜間中学ができたとしても、設置市以外から入学できない例が現状もあ るので、都道府県市区を越えて入学を可能とすることをさらに強く打ち出した法に見直して ください。

協議会設置の条文で「組織することが出来る」という規定ではほとんど自治体は動かない。

※『2018.7.27(金) 研修交流会 記録誌』より筆者が引用・作成

5-5. 夜間中学等義務教育拡充議員連盟からの応答

浮田智子「夜間中学等義務教育拡充議連連盟」副会長

要望書1番

(1)協議会については、これから議連を開き、しっかりと検討していきたい。

(2)は、自治体の判断もあるが、連携をとってやっていなければならないと感じる。

(3)についても具体的な内容について、しっかりと検討していきたいと思う。

要望書2番

(4)具体的な案について協議をはじめていきたいと思う。

(5)学齢超過者の就学援助が行われるよう、進め方については議連の中で検討していく。

(6)給食も自治体の判断なのでしっかりと勉強していかなければならないと思う。

参照

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