光アクセス技術の今後の展望
吉本
直人
†a)Prospect for Next-Generation Optical Access Network Technologies
Naoto YOSHIMOTO
†a)あらまし 我が国では,世界に先駆け光アクセスネットワークの研究開発・実用化を推進し,今日における多 様なブロードバンドサービスを提供可能とする通信インフラを構築してきた.本論文では,この光アクセスネッ トワークの今後の発展するシナリオについて述べる.はじめに,現状の光アクセスネットワークの直面している 課題を,様々な視点から整理する.次に,一つ目のシナリオとして,既存のアーキテクチャを基本としつつ,そ の帯域拡張や省電力化,信頼性向上などの付加価値向上を指向する持続的発展シナリオについて述べる.併せて 最新の標準化動向,研究開発の進展状況についても紹介する.もう一つのシナリオとして,これまで培ってきた 技術を生かしつつも,光アクセスネットワークアーキテクチャに変革をもたらす可能性を有する新たな価値創造 を指向する革新的発展シナリオについて,いくつかの事例をもとに述べる. キーワード ブロードバンドサービス,光アクセス,PON,フォトニックネットワーク,光無線融合
1.
ま え が き
我が国が長年にかけて研究開発・実用化を推進して きたアクセス回線の光化によるFTTH (Fiber to the Home)は,今や一部未提供エリアは残るもののエリ アカバー率は90%を超え,世界で最もアクセス回線の 光化が進んだ国の一つとなっている[1].また,FTTH サービスの加入者数も2,000万を超え,まさに国民生 活に不可欠なブロードバンドインフラとしての地位 を確固たるものにしている.図 1に,我が国におけ るブロードバンドサービスに関するトラヒック量を示 しているが,年率20%以上と高い増加率を保ってい る[2].一方,諸外国においても北米や東アジアを中 心にFTTHの本格的な普及が始まっている[3].米国 では,通信事業者がケーブル事業者とのブロードバン ドサービスを巡る競争優位性を保つため,光化を進め てきた.AT&TのU-Verse,VerizonのFiOSといっ た映像配信,インターネット及び音声サービスを一体 で提供するトリプルプレイサービスを軸にユーザを†日本電信電話株式会社 アクセスサービスシステム研究所,横須賀
市
NTT Access Network Service Systems Laboratories, NTT Corporation, 1–1 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–0847 Japan
a) E-mail: [email protected]
増やしている.一方,ケーブル事業者も,光化による
大容量化と広域化・多分岐化を目的として,DOCSIS
(Data Over Cable Service Interface Specifications)
準拠の既存ケーブルテレビシステムを光回線によっ て提供するDPoE (DOCSIS provisioning of EPON)
の検討が進められている.中国では,FTTC (Fiber
to the Cabinet)+VDSL (Very high-bit-rate Digital Subscriber Line)を中心にブロードバンドサービスを
展開しているが,大都市ではFTTHの普及も始まっ
ている.最近では,China Telecomが多くのユーザを
経済的に収容可能な10G級PONシステムの商用トラ
図 1 日本の固定及び無線トラヒック量の推移 Fig. 1 Trend in the wired/wireless traffic in Japan.
イアルを実施している.また,経済成長が著しい新興 国においても,ブロードバンドサービスの提供手段と して光化が進められており,今後は世界的な規模で光 サービスや装置関連市場の高い成長率が予想されてい る.我が国においては,広く海外動向を注視し,技術 開発や標準化を進めていくとともに,世界に先駆けて 築き上げてきた光インフラを有効活用することによっ て,魅力的なブロードバンドサービスを提供し,豊か さの向上や安心・安全な社会の構築,国の経済成長や 地域コミュニティの活性化などに寄与していく必要が ある. また,地球温暖化防止に対する社会的コンセンサ スの形成によるネットワークの省電力化や,震災後 に高まった人の安全と安心をサポートするつながり 続けるネットワークなど,新たな社会的要請も出て きている.一方で,様々な技術革新やサービス創造に よって激変する経営環境に対応するため,通信事業 者は不断のCAPEX (Capital expenditure)/OPEX (Operating Expense)低減化に取り組む必要性に迫ら れている[1], [4].また,スマートフォンなど移動体向 け情報端末の急速な普及に伴うブロードバンドサービ スのモバイル化は,モバイルネットワークのトラヒッ ク量の爆発的増大を招くことが予想されている.ま た,近年モバイル通信モジュールの小型経済化の進 展やIPV6の普及促進策などにより,今後は人間同士 のコミュニケーションのみならず,「モノ」と「モノ」 (M2M:Machine to Machine)との通信も増大するこ とが予想される[5]. 本論文では,このような多様な外部環境を考慮しつ つ,光アクセスネットワーク技術の今後の発展する方 向性について,いくつかの展開シナリオをもとに述べ る.まず2.では,通信インフラを提供する事業者とし て,多様化する端末・サービスや急増するトラヒック 量に対し,一つは効率的な投資・運用といった事業持 続性を確保する観点から,もう一方は,環境や安全・ 安心など社会的な要請からくる観点から,次世代の光 アクセスネットワークに対する課題を整理する. 3.では,一つ目のシナリオとして,既存のアーキテ クチャを基本としつつ,その帯域拡張や省電力化,信 頼性向上などの付加価値向上を指向する「持続的発展 シナリオ」について述べる.併せて最新の標準化動向, 研究開発の進展状況についても紹介する.もう一つの シナリオとして,これまで培ってきた技術を生かしつ つも,光アクセスネットワークアーキテクチャに変革 をもたらす可能性を有するといった新たな価値創造を 指向する「革新的発展シナリオ」について,いくつか の事例をもとに述べる.
2.
次世代光アクセスネットワークの課題
2. 1 多様化するサービスへの対応 図2に,様々なアクセスサービスの要求帯域を示す. ブロードバンドサービスの代表格である映像配信サー ビスでは,映像端末の高精細化や3D化,ユーザの視 聴スタイルの変化(多チャネル同時録画・視聴化,視 聴のパーソナル化など)によって,帯域需要は増加傾 向にある.更に,高精細画像の視聴可能なスマートモ バイル端末の普及によって,この傾向が加速する傾向 にある.また,サービスのクラウド化によって,帯域 ボトルネックを解消したデータアクセスの快適性に関 する要求が益々高まることが予想される. 一方で,様々なセンシング技術を用いたホームサー ビスやM2M通信が普及すると,個々のパケット内の データ量は小さいながらも,多量のパケットがネット ワークを流れることが予想される.したがって,従来 の音声サービスやベストエフォート型サービスも含め た優先クラスの異なる多様なサービスに対してリーズ ナブルな価格で対応していく必要がある. 2. 2 CAPEX/OPEXの低減化 CAPEX低減に関する基本的な点として,FTTH サービスの基幹システムである既存のPON (Passive Optical Network)システムが既に多くのユーザを抱え ている現状を考慮すると,次世代の光アクセスシステ ムをスムーズに普及させていくためには,以下の点に 留意しなくてはならない.(1)設備投資額が大きく,償 却期間の長い既設の所外光ファイバ網(ODN:Optical Distribution Network)が活用できること.(2)スムー ズで柔軟なサービス展開を考慮した場合,既存のPON システムとの共存化が可能であること.また,既存シ 図 2 サービスによる要求帯域の推移 Fig. 2 Trend in required bandwidth of access図 3 アクセスシステムのマイグレーション Fig. 3 Migration toward the next-generation access.
図 4 光アクセスネットワークの広域化 Fig. 4 Reach extended optical access network.
ステムからのスムーズなマイグレーションが可能であ ること.すなわち,図 3に示すように,同一の光ス プリッタ上に全て新設のNG-ONUを接続する場合の みならず,既存のPONシステムのユーザ(1G-ONU) と新設のPONシステムのユーザ(NG-ONU)が共存 して接続できることが必要となる. また,OPEXの低減については,主として以下の点 を考慮する必要がある.(1)保守稼動の効率化を図る ため,冗長機能や遠隔監視機能の具備によるシステム の信頼性を向上させること.これは,常時接続型サー ビスの増加や優先クラスの高いサービスの提供には不 可欠なものである.(2)更に抜本的な設備維持コスト を低減させるためには,ロスバジェット(区間許容損 失量)の拡大による光アクセスネットワークの広域化 (図4)の可否がポイントとなる.これにより,ユーザ 宅と光回線を収容するビルとの距離を延伸することが できるため,より多くのユーザを一つのビルに収容す ることができる.すなわち,光回線を収容するビルの 数を減らすことが可能となり,設備維持コストの抜本 的な低減化が期待できる. 2. 3 省電力化と耐障害性向上 これまで性能向上と低コスト化が研究開発の指標 であったが,近年は社会的な観点から新たな指標が求 められている[6].第一に,ブロードバンドサービス を提供するネットワークの装置別消費電力の割合を 図 5 ネットワーク機器の電力消費量比率 Fig. 5 Ratio of power consumption of network
equipments.
図 6 Resilient networkのコンセプトイメージ Fig. 6 Visual concept of resilient network.
図5に示す.膨大なユーザ数を抱えるため,アクセス 系装置の消費電力割合が高い[7].特にONU (Optical Network Unit)の低消費電力化は喫緊の課題である. 第二に,たとえ激甚災害が起こったとしても,持続 的に最低限のサービスでも提供を受けたいというニー ズは高い.従来では,図 6の破線で示すように,激 甚災害時では通信が途絶え,復旧にも時間を要してい た.今後は,図6の点線で示すように,災害が起こり, 例えば電力供給が途絶えたような状況であっても,必 要最小限の電力量で必要最低限の通信品質でもつなが り続けるしかけづくりと,そしてより早く復旧する仕 組みを併せ持つResilient networkへの指向が重要と なってくるであろう. ここまで,次世代光アクセスネットワークの課題に ついて述べてきた.要約すると,第一に,大容量化・ 多様化するサービスに対して快適なアクセス環境を提 供すること,第二に,膨大な設備量である光アクセス ネットワークのインフラを有効活用するとともに,設 備量を削減してCAPEX/OPEXの低減化を可能とす ること,第三に,社会的な要請として,電力消費量が 少ないネットワークを実現すること,災害時において もつながり続けることのできるネットワークを実現す ることが求められている.
3.
持続的な発展∼次世代
PON
システム
本章では,前章で述べた課題の解決に向け進められている次世代PONシステムに関する標準化並びに研 究開発の動向について述べる. 3. 1 PONの高速・大容量化技術 高精細映像の配信サービスなど多様なサービスを 需要に応じて柔軟に提供するためには,PONシステ ムの高速化・大容量化が効果的である.現在において 世界で広く普及しているG-PON (1Gigabit Capable PON)や1G-EPON (1Gigabit Ethernet PON)など
1G級のPONシステムの後継システムとして,10G
級PONシステムの標準化が精力的に進められてきた.
既に,ITU-Tでは,G.987シリーズとしてXG-PON (10Gigabit Capable PON)を2010年に勧告化して いる.一方,IEEEでもIEEE802.3avとして, 10G-EPON (10Gigabit Ethernet PON)の標準化を一足
早い2009年に終了している.ここでは,前章の図3 でも述べたとおり,既に広く導入されている1G級 PONとの共存やスムーズなマイグレーションの可否 がポイントとなる.双方の標準とも伝送路の許容損失 は,完全に1G級PONとの互換性が考慮されており, 同一のODNを用いても支障が起きない仕様となって いる. また,波長配置については,図7に示すように XG-PONとG-PONはWDM技術を利用することによっ て,同一ODN上での共存を可能としている.一方, 10G-EPONでは1G-EPONシステムとの共存化を考 慮した場合,上り信号は波長帯が重なるため,OLT側 では1G/10Gが混在したバースト信号を受信する必 要がある.したがって,デュアルレートバースト受信 技術が10G-EPONシステムのキー技術の一つである. 最近では,精力的な研究開発によって,非常にバース ト応答性能の優れたdual-rate対応光トランシーバ[8]
や,それをSoC (System on Chip)で制御するシス
テムデモンストレーション[9]の報告がされている.
今後は,それらの経済化が10G-EPONシステムの普
及のかぎとなるであろう.また,XG-PONにおいて
図 7 PONシステムの波長配置 Fig. 7 Wavelength assignment of PON systems.
も,field trial [10],WDMによるシステム多重化の 検討が精力的に進められている[11].一方で,もう一 つのキー技術である動的帯域割当(DBA:Dynamic Bandwidth Assignment)技術に関しても,1G/10G dual-rate時の帯域利用効率やユーザ間の公平性,遅 延時間を既存システムと比べて同程度とする必要があ り,実用化に向けて検討が活発化している[12]. さて,標準化が先行し技術開発がそれを追う形で進 められてきた10G級PONシステム開発であるが,よ うやく標準化仕様を満足するプロトタイプ装置が開 発されるようになってきた[13].そこで,次のステッ プとして,グローバル市場における本格的普及に向 けての重要課題として,相互接続性の向上による経 済化が焦点となる.IEEE標準であるIEEE802.3ae (1G-EPON)やIEEE802.3av (10G-EPON)は,物理 層やデータリンク層の伝送機能のみを規定したもの で,上位のシステムレベルの規格については,通信 事業者や伝送装置メーカーが独自のシステムを実装 していたため,相互接続性に課題があった.そこで,
IEEEでは2010年1月よりシステムレベルの標準化
を実現するため,IEEEP1904.1 (SIEPON:System Interoperability of EPON)を立ち上げ,様々なQoS
を提供可能とするEPONシステムの仕様策定作業を 進めてきた.今後は,規格準拠並びに相互接続性を効 率的に認証するため,Conformance test項目の策定 が2013年12月完了を目標に進められており,これ によるグローバルレベルでのマーケットの拡大とシ ステムの経済化の促進が期待される.また,もう一 つの普及に向けた取組みとして,ITU-T G.988準拠
のOMCI (ONU management and control interface)
を保守監視機能(OAM:Operation, Administration, and Maintenance)の一つのオプションとするEPON
システムの標準化(G.epon)がある.これまで,ITU-T 系とIEEE系とでPONシステムの互換性が確保さ れておらず,市場拡大の制約要因となっていた.保守 監視機能のオプション化を契機として,双方の技術の 共用化が進展し,互換性が確保されるようになれば, PON市場の急速なグローバル化とともに,より大き く発展を続けていくものと期待される. 3. 2 CAPEX/OPEX低減化技術 (1)多分岐化・長延化技術 CAPEXを低減するためには,PONシステムの多 分岐化・長延化が有効な手段の一つである.すなわち, PONの多分岐化によるOLTの集約化や集線スイッチ
図 8 PONシステムの多分岐化 Fig. 8 Large splitting PON system.
のポート数削減などによってCAPEXを大幅に低減 できるとともに,消費電力の削減にも期待できる. これらを実現するロスバジェットの拡大化技術とし て,これまでバースト対応光増幅器の検討がなされ, 中継リピーターとして用いることにより,大幅な多分 岐化と長延化の実現や[14],100 km圏の広域フィー ルドトライアル[15],更には遠隔監視機能を実装した 屋外設置型中継器[16]の開発が報告されている.ま た,多分岐・広域化に適応したDBA技術も提案され ている[17].しかしながら,給電や故障時対応などの 保守運用性を考慮した場合,更には将来のビル集約 などを併せて考慮すると,バジェット拡大機能は局内 設備に集約されていることが望ましい.したがって, 図 8に示すように,光増幅器のダイナミックレンジ を拡大し,ブースター増幅や前置増幅器としての活 用性向上が残された課題である.最近では,半導体光 増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)を
OLTに集積し,経済性と運用性の両立を目指した報 告がされている[18]. もう一つの多分岐化の手法として,複数のPONを 上位で集線するL2SWと,PONの機能一体化も有力 な手段である.この場合,L2SWで行うトラヒック制 御とPONのDBAとの連携動作が,総帯域の利用効 率とユーザ間との優先度・公平性の保証に重要な役割 を果たす[19].今後の研究開発の進展を期待したい. (2)高信頼化技術 OPEXを低減化するためには,PONシステムの信 頼性を高め,障害などに関わる稼動を低減化すること が有効策の一つである.前述のようにPONの多分岐 化・長延化により収容ユーザ数が増大してくると,局 内設備の障害時の影響が大きくなってくるため,その 冗長化技術が重要視されてくる.また,今後のサービ スや設備のアップグレードをインサービスでも実施可 能とするには,運用系と待機系を具備することが望 ましい.近年,経済性を重視したN : 1冗長PONシ ステムの提案がされている[20].また,前述の多分岐 化システムとの親和性を考慮し,PONの多分岐化用 Nx2光スプリッタと集線L2SWのポート切換機能を 活用した手法が提案されている[21].残された課題と して,切換によるサービス中断時間の低減化・無瞬断 化や切換光スイッチの経済化などがあり,今後検討の 進捗が期待されている. (3)線路監視システムとの融合技術 OPEXを低減するためには,保守要員の派遣をす ることなく,遠隔にて故障・予防診断できることが望 ましい.PONシステムの線路監視における課題とし
て,OTDR (Optical Time Domain Reflectometer)
では,スプリッタ下部の故障点が特定できない.そこ で,レンジングによって各ユーザ宅の距離情報を有し ているPONシステムとOTDRを連携させることに よって,この課題を解決する試みがなされている[22]. 今後,このような光アクセス系伝送システムと線路監 視システムとの機能融合による業務効率化・低コスト 化の検討が活発化することを期待したい. 3. 3 省電力化技術 図5で示したように,光アクセスネットワークでは, 膨大な数量のONUがあるため,ネットワーク全体に おける電力消費量は相対的に大きい.しかも,今後の 高速化に伴い,消費電力の一層の増加が懸念される. したがって,次世代の光アクセスネットワークでは, ONUの省電力化の機能を具備することが極めて重要 視されており,コストや性能と並ぶ新たな評価指標と して注目されている[6], [23].これまで,様々な研究機 関がONUへのスリープモードの導入を検討してきて おり[24],IEEEP1904.1でも,その導入を策定中であ る.今後の課題は,ONUスリープ機能導入による既 存サービスの品質への影響と省電力効果との関係を定 量的に評価することである.例えば,ONUの送信側 のみスリープさせるTxモードの場合,緊急呼への対 応は問題ないものの,スリープ効率は低下する.一方, 送受信とも積極的にスリープ状態に入るcyclic mode (TRxモード)の場合(図9),スリープ効率は高くな るものの,QoSへの影響に注意を払う必要がある. いずれにしても,今後フィールド試験などを通じて, 実際のトラヒック条件に近い環境で,実効的なパラ メーターをつめていく必要がある.また,更なる省電 力化を実現するために,ONU単体のスリープ機能の みならず,複数の機器・機能が連携したより積極的なス
図 9 間欠スリープモード(TRx モード) Fig. 9 Time chart of cyclic sleep mode.
図 10 PONシステムの大容量化
Fig. 10 Possible direction for bandwidth upgrade of PON. リープ動作も検討されている.例えば,前節で紹介し たPONとL2SWとの連携を活用する方法や,ONU とHGW (Home Gateway)との連携動作によるもの などである.併せて,シリコンフォトニクスなどの光・ 電子集積化技術を用いて,部品レベルの抜本的省電力 化の検討の進展も期待したい. 3. 4 波長を活用したPONシステム さて,図10で示すように,PON区間の伝送容量 が10 Gbit/sを超えるレベルになると,既存のPON システムと許容損失を満足する送受信デバイスや,高 速瞬時応答性能やダイナミックレンジを有するバース ト受信回路を実現することは技術的に極めてハードル が高く,高価なシステムになってしまうと考えられる. すなわち,TDMA技術が本来有していた経済的優位 性[25]を発揮できなくなる. そこで,近年WDM技術をTDM-PONにハイブ リッド多重したWDM/TDM-PONシステムが有望視 されている.大別して,波長多重を活用して複数の異 なるPONシステムをオーバレイする「Stack型」[26] と,PON区間の総容量をスケーラブルに拡張できる 「add-on型」[27]がある.前者は,光ファイバ網を有 効活用するために,共通のODN上に異なる事業者や 図 11 PON標準化のスケジュール Fig. 11 Schedule of PON standardization.
サービスを容易に重畳することが可能となる.後者は, 複数波長を用いてユーザへの帯域割当を柔軟にスケー ラブルに行うものである.すなわち,ユーザに割り当て る帯域を時間軸方向に加え,波長軸方向に拡張したも ので,動的波長割当(DWBA:Dynamic Wavelength Assignment)と呼ばれる.これにより,更にきめ細や かな帯域割当を実現するができ,多様でかつ柔軟な サービス提供と運用が可能となる.例えば,QoSや サービスのグレードごとに波長を割り当てることが できれば,少なくともアクセス区間ではサービスごと に独立した帯域割当を運用することが可能となる.ま た,高速ダウンロードなどのピーク性の高い利用方法 に対しても,一定時間のみ追加波長を割り当てること によって,他ユーザへの影響を抑圧することができる. このようなWDMを活用したWDM/TDM-PONシ ステムは,1波当りの伝送速度を向上させることなく 大容量化が可能となるため,非常に高価な最先端の 高速光送受信デバイスの使用を抑えることができる 一方で,各々の波長別光送受信器や光合分波器など 相対的に光部品をたくさん使う必要がある.したがっ て,光部品の経済化が本システムの普及のかぎとなる. 40GE/100GE用光部品との共用化などの施策が課題 となるであろう.PON特有の課題として,運用性の観 点から各ONUの波長属性を無依存化する技術(ONU カラーレス化技術)は重要である.既設のODNの活 用や既存システムとの共存を考慮した場合,全ての波 長は全ユーザにブロードキャストされてしまうので, ONUに波長選択性を有するWDM-PONが有望であ る[28].この方式では,波長リソースを各ONUに柔 軟にかつ効率的に割り当てること,多数利用される波 長の経済的な設定・監視方法が重要なポイントとなる. 図11にPONに関する今後の標準化スケジュールを 示す.ITU-Tにおいて,WDM型PONシステムにお
いて,OLTとONU間で波長の設定・監視に関する情 報をやり取りするプロトコルの制定を目指した標準化 (G.multi) [29]がスタートしており,今後,波長を活 用したPONシステムの研究開発が進展することが期 待できる.また,40G超の大容量化と多分岐・広域化 をスコープとしたNG-PON2 [30]の標準化が早くも 始動した.今後WDM/TDM-PONを中心に,実現技 術の見極めと仕様の具体化の着実な進展を期待したい. さて,今後より多数の波長を活用して,より大容量 かつ柔軟性に富んだシステムを目指すときに共通して いえる課題は,無線技術と同様に利用できる波長(周 波数)資源は有限であるため,利用波長数を増加させ ていくためには,既存システムとの協調性を考慮した 波長配置の議論が必要であるとともに,波長利用効 率を高めていかなければならない.最近では,進展著 しいディジタル信号処理(DSP:Digital Signal Pro-cessing)技術を用いたコヒーレント受信技術を用いた
Ultra Dense WDM-PON (UDWDM-PON) [31]や,
OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplex-ing)技術を利用したOFDM-PON [32]などが精力的 に検討されている.これらは,偏波制御や分散制御な ど光領域での制御が複雑で高価であったものをDSP 技術で代替したものである.今後のLSI集積度の向上 (低コスト化)と省電力化技術の進展が普及のかぎで ある.
4.
将来に向けての革新的展開シナリオ
本章では,前述した課題の抜本的解決に向けた光ア クセスネットワークの革新的展開シナリオについて, 図12に示す三つのシナリオの可能性について述べる. 4. 1 広域フォトニックアグリゲーション 今後の更なる高速・大容量化の進展,多分岐収容 による集線・振分スイッチの大規模化が進むとする と,その省電力化が課題となってくる.近年,大容量 ルータの一部機能の光化の研究が行われているが,同 様に,フォトニック技術を集線・振分機能(Photonic Aggregation技術)にも一部拡張することによって, より柔軟でかつ省電力な広域・多分岐光アクセスネッ トワークの実現が期待できる(図13). アクセスネットワークの最大の特徴は,PONシス テムが厳密なタイミング制御機能を有したバースト信 号対応光パケットネットワークシステムであることで ある.したがって,PONシステムと組み合わせるこ とによって,光パケットスイッチングを実現する可能 図 12 PONの将来発展シナリオ Fig. 12 Long-term evolution scenarios of PONsystem.
図 13 Photonic Aggregation Accessの一例 Fig. 13 Example of Photonic Aggregation Access.
性があるということである.更に,プリアンブル時間 程度の高速波長切換光源が実現できれば,より柔軟に 大容量の帯域の資源を有効に広域のユーザに割り当て ることが可能となる. 4. 2 光無線融合 無線システムの高速化が進展すると,基地局(BS:
Base station)及びその張り出し基地局(RRH: Re-mote Radio Head end)の数が増加してくる.特に,
RRHの分布密度が高まって,FTTHのユーザ分布密 度に近づいていくことなる.BS-RRH間の光伝送に PONで培った技術を活用することが考えられる.この ような光と無線が融合したアクセスネットワークアー キテクチャによって,光アクセスのもつ高速性と無線 アクセスのもつ移動性を併せ持つ,どこでもブロード バンドサービスを利用できるブロードバンド・ユビキ タス社会が実現可能となる.このようなネットワーク を実現する技術を「Mobility-aware光アクセス」と呼 ぶこととする.一例として,PONシステムのONU が,ある場合ではマルチユーザ対応の無線サービスの
アクセスポイントとして,またある場合では特定ユー ザ対応の光ブロードバンドのアクセスポイントとして 活用される.この場合,光無線システム連携によるモ ビリティ制御によって,ユーザはネットワークを意識 することなくブロードバンドサービスを利用すること ができる.更には,アクセスポイント間で光・無線の 冗長構成を構成することができれば,激甚災害時など においても通信回線の確保が可能となり,災害に強い resilientなネットワークを実現できる. 光アクセスのもつ大容量・低遅延性は,将来モバイ ルネットワークシステムのモビリティ制御への積極的 適用も期待されている.LTE-advanced (Long Term Evolution advanced)以降のモバイルシステムでは, セル端のスループットを向上する目的で基地局間協 調技術(CoMP:Coordinated Multiple Point trans-mission and reception)を検討している.この場合, 離れた基地局間でのモビリティ制御をきめ細かく行 う必要があり,光アクセス技術の特徴を生かしやすい と考えられる.この場合,基地局間協調動作など高 度なモビリティ制御やセル端スループット制御を行う LTE-advancedなどでは,周波数・時刻同期機能が必 要になってくる.最近,経済性に優れたEPONに周波
数同期機能としてSynchronous Ethernet (Sync-E), 時刻同期機能としてIEEE1588v2 (PTP:Precision Time Protocol)を実装した例が報告されている[33]. これにより,OLTがクロック配信網かGPSより同 期情報を取得できれば,コアネットワークを変更する ことなく,エンド–エンドで周波数並びに時刻同期し たパケット転送網が実現できる.また,高度のモビリ ティ制御を支える光の低遅延性を生かした例として, 図14で示すように,波長変換が可能な光源とフォト ニックルーターを活用したWDM技術を用いること によって,RRH間の低遅延伝送や,高速の冗長切換 図 14 WDM-PONのモバイル網への適用例 Fig. 14 WDM-PON application for Mobile backhaul.
を実現することが可能となる.また,動的波長割当技 術を活用することにより帯域を柔軟に制御し,モバイ ルトラヒックの局所的変動に対して柔軟に対応可能な
光アクセスネットワークが提案されている[34].また,
今後は様々なモバイルサービスが導入されると考えら れる.そこで,RoF (Radio over Fiber)伝送技術と
WDM-PONのような光多重アクセス技術を活用して, 異種モバイルサービスを同一のインフラで柔軟に提供 しようという検討[35]が行われている.更に,光・無 線アクセスが融合した状況になると,端末側としては, 様々な利用シーンに応じて最適なアクセス手段をと ることが必要となる.したがって,多様な状況に柔軟 に即応するため,ディジタル信号技術(DSP:Digital Signal Processing)を駆使した,ソフトウェアによる 光アクセスシステムの適応性の向上(Software-defined Access)に関する検討の進展が期待される.このよう に,光技術が今後の移動体通信システム技術のブレー クスルーを実現する上で,重要な役割を果たすものと 期待されている. 4. 3 スマートコミュニティへの応用 近年,活発に議論されているスマートコミュニティと は,あるコミュニティ全体の電力エネルギーの有効利用 や再生可能エネルギーの活用などを複合的に組み合わ せた地域社会システムをいう.あるエリア内に物理的 に多くのユーザと直につながっている光アクセスネッ トワークは,地域内の情報流通のみならず,電力エネ ルギーの流通制御にも寄与できるポテンシャルを有し ているといえる.無線アクセスを用いた場合に比べて, 光アクセスは低遅延性と高信頼性に特徴がある.もし, 地域内の送配電網に障害が起きた場合,その影響が拡 大しないように,マイクロ秒レベルでコミュニティ内の
CEMS (Community Energy Management System)
とHEMS (Home Energy Management System)間 を結ぶ送配電網を切り換えなければならない.この ような制御を実現するためには,専用の低遅延ネット ワークが必要となる.そこで,図 15で示すように, 低遅延性と高信頼性に優れ,既に広く普及している PONシステムを有効に活用することによって,上記 切換制御が実現可能となれば,新たなネットワークの 投資を抑えながら,高信頼なスマートコミュニティの 実現に寄与することができる.「Green of ICT」であ るネットワークシステムそのものの抜本的省電力化 と,「Green by ICT」としての一例である光アクセ ス技術のスマートコミュニティへの応用などを総称し
図 15 Energy-aware光アクセスのイメージ Fig. 15 Typical example of energy-aware optical
access.
て,「Energy aware Access」技術と呼ぶこととする. 少資源国である我が国において,このような技術分野 の展開が期待される.今後の展開例として,光無線融 合M2Mネットワークなどが考えられる.こうしたコ ミュニティ内では,粒度は小さくても頻度が大きいト ラヒックの発生が予想される.技術課題としては,多 分岐PON帯域制御技術を活用した系全体の帯域利用 効率や公平性制御や,上位ネットワークへの負荷低減 を目的とした地域内のONU間通信(multi-point to multi-point接続)を実現するPON折返し機能など が考えられる[36].また,故障検知やトラヒックモニ タリング機能などの実運用上の課題なども今後の検討 の進展に期待したい.
5.
む す び
光 ア ク セ ス 技 術 の 今 後 の 展 開 に つ い て , CAPEX/OPEX 低減を前提としつつ,サービスの 多様化による大容量化・広域化を指向する伝統的・持 続的な発展のシナリオと,新たな価値創造の可能性を 指向した革新的発展のシナリオを三つの適用領域に分 けて述べた.今や社会生活に不可欠となった光アクセ スネットワークの発展が,今後の国民生活の豊かさの 向上に,引き続き貢献することを期待したい. 文 献[1] H. Shinohara, “FTTH in Japan: Strategy, technology and implementation,” Plenary talk of ECOC2011, Geneva, Switzerland, Sept. 2011.
[2]「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試 算」,「我が国の移動トラヒックの現状」,総務省情報通信 統計データベース. [3] http://www.ftthcouncil.org/en/newsroom/2012/02/ 16/canada-joins-global-ranking-of-ftth-countries, Feb. 2012.
[4] N. Yoshimoto, “New enabling technologies for
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