論文受付 2011年 8 月 9 日 論文受理 2011年10月 7 日 Code Nos. 253 522 621 1)大阪市立大学医学部附属病院中央放射線部 2)名古屋第 2 赤十字病院 3)京都医療科学大学 4)滋賀医科大学医学部附属病院 5)大阪大学医学部附属病院 6)藤田保健衛生大学病院 7)有限会社ムツダ商会 8)金沢大学附属病院 9)奈良県立医科大学附属病院 10)名古屋市立大学病院
Study of Appropriate Dosing in Consideration of Image Quality and
Patient Dose on the Digital Radiography
Kenji Kishimoto,1) Eiji Ariga,2) Rikuta Ishigaki,3) Masatake Imai,4) Kiyosumi Kawamoto,5)
Kenichi Kobayashi,6) Michito Sawada,7) Kimiya Noto,8) Mitsuhiro Nakamae,9) and Ryo Higashide10)
1) Department of Radiology, Osaka City University Hospital
2) Depertment of Radiological Technology, Nagoya Daini Red Cross Hospital 3) Kyoto College of Medical Science, Faculty of Medical Science
4) Department of Radiology, Shiga University of Medical Science Hospital 5) Department of Radiology, Osaka University Hospital
6) Department of Radiology, Fujita Health University Hospital 7) MUTSUDA SHOUKAI CORPORATION, LTD.
8) Department of Radiology, Kanazawa University Hospital 9) Central Division of Radiology, Nara Medical University Hospital 10) Central Department of Radiology, Nagoya City University Hospital
Received August 9, 2011; Revision accepted October 7, 2011; Code Nos. 253, 522, 621
Summary
Recently about 90% of radiographs have been taken by the digital radiographic system in Japan, but the exposure dose of the patients are about ten-times different among the systems. We understood it by a surveytaken in 2007. We studied the visual evaluation with varying exposure doses using the image phantom of the lumber AP, lumber lateral and hip AP. Additionally we measured quantum efficiency (DQE) of the digital systems. We also studied the exposure index (EI) of IEC standard to see whether it is able to be the sensitivity index among the digital systems. DQE in 1.0 cycle/mm of CR, FPD (GOS), FPD (CsI, a-Se) became 0.2–0.25, 0.3, 0.5, respectively. Our results display that the dose reduction is relative to DQE. The visual evaluation results also show that dose reduction is possible among the systems. From these results, we are able to reduce the exposure dose of the patients at the clinical site. We also suggest that we manage the exposure dose using the E.I of the IEC standard.
Key words: digital radiography, patient dose, image quality, detective quantum efficiency (DQE)
別刷資料請求先:〒 545-8586 大阪市阿倍野区旭町 1-5-7 大阪市立大学医学部附属病院中央放射線部 岸本健治 宛 はじめに 長年,放射線画像はアナログ画像である増感紙− フイルム系(以下,F/S)が利用されていた.しかし, 1983年からコンピューテッドラジオグラフィ(CR), 1998年にはフラットパネルディテクタ(FPD)のディジ タル画像が利用され始めた.ディジタル画像の普及 率は 2001 年を境に逆転して 2007 年には 88.9%まで 急増した.鈴木らの報告1, 2)では被ばく線量の格差は 施設間と装置間で共に大きいと指摘している.これは
アナログ画像からディジタル画像への移行時に発生 しており,線量差は同一部位において数 10 倍になる と述べている. この課題に対してわれわれは,『ディジタル画像の 画質と被ばくを考慮した適正線量の検討』をテーマと して取り上げ,平成 22 年度日本放射線技術学会の学 術研究班を立ち上げた. 本論文では上記研究班の報告を行う.内容は,第 1章 一般撮影における患者が受ける線量の現状− 平成 19 年度全国調査から−(文責:小林謙一,能登 公也),第 2 章 ディジタル装置の感度指標としての exposure index(文責:有賀英司),第 3 章 物理評価 による検出器の検出量子効率評 価(文 責:東出 了),第 4 章 視覚評価による適正線量(文責:中前 光弘),第 5 章 まとめと今後の課題(文責:岸本健 治),以上 5 章にわたり報告する. なお,本研究班では第 4 章の視覚評価においての 検討部位は,今回は胸腹部に比べ被ばく線量の多い 部位,躯幹部 3 部位(腰椎正面・側面,骨盤正面)に絞 り,またその躯幹部 3 部位の被ばく線量の基準線量 は,第 1 章の 2007 年(平成 17 年)アンケート結果か ら算出したものを用いた. 第 1 章 一般撮影における患者が受ける線量の現 状-平成 19 年度全国調査から- はじめに 平成 19 年度学術調査研究班「X 線診断時に患者が 受ける線量の調査研究」は,アンケートによって X 線 装置や撮影条件の現状を調査し,わが国における診 断領域での患者が受ける線量の推定,評価を行った ものである1, 2).この研究班報告で明らかとなった各 施設における線量の実情は,平成 22 年度学術調査 研究班「ディジタル画像の画質と被ばくを考慮した適 正線量の検討」の発足動機となった.今回の研究班で 新たに行った解析結果を踏まえて,患者が受ける線 量の現状について報告する. 1-1 2007 年(平成 19 年)全国調査の結果・考察 1-1-1 アンケート調査の対象 3,000 施設を対象とし,回答数は 782 通で,回収率 は 26.1%であった. 1-1-2 モダリティの装置割合 一般撮影におけるモダリティの装置割合は,computed radiography(CR)のみが 69.4%で,flat panel detector (FPD)のみが 2.2%であった.CR と FPD の両方を所 有している施設は 17.3%で,film-screen(F/S)のみの 施設は 11.1%であった(Fig. 1).過去の線量調査3)と 比較すると,ディジタル装置と F/S システムの割合 は,2001 年にほぼ同等となり,1997 年から 2007 年 の 10 年間で逆転した(Fig. 2). 1-1-3 各部位における入射表面線量 中部地区 50 施設(対象 X 線装置 100 台)における X線出力の実測値を基に,アンケートで得られた撮 影条件などを用いて入射表面線量(entrance surface dose; ESD)を算出した.各部位における ESD の平 均,標 準 偏 差,第 3/4 分 位 線 量(75%線 量),最 小 値,最大 値を示した(Table 1).最小値と比較し, 75%線量はおよそ 10 倍から数 10 倍程度で,最大値 は数 10 倍かそれ以上の値となった.また,2001 年調 査と 2007 年調査の変動係数(coefficient of variation; CV)を比較すると,2007 年調査の CV 値が増加傾向 であった.これらのことから,患者が受ける線量の施 設間格差は数 10 倍以上あり,その格差は拡大傾向で あるといえる(Fig. 3).調査を行った 5 部位(頭部・胸 部・腰椎・骨盤・グースマン)について,過去の線量 調査4∼7)との比較を 1973 年の折戸らの値5)を 100%と して示した(Fig. 4).F/S システムがレギュラーシステ ムからオルソシステムに移行し,1993 年までは線量 が減少した.それ以降,線量はほぼ同等か増加傾向 となった.1993 年は,FCR9000 シリーズ が 発 売さ れ,ハードコピーが縮小 2 画像からライフサイズへと Fig. 1 Results of a survey on the image
receptor system.
Lumbar spine AP 707 4.06 2.31 5.17 16.23 0.25 Lumbar spine LAT 703 11.34 7.98 14.16 77.65 0.50
Pelvis AP 702 3.12 2.61 3.65 30.01 0.29
Femur 697 1.99 1.51 2.39 17.72 0.09
Forearm 706 0.18 0.27 0.19 5.22 0.01
Ankle joint 709 0.21 0.19 0.25 2.74 0.02
Chest low voltage 258 0.42 0.63 0.44 7.26 0.01 Chest medium voltage 251 0.49 0.38 0.62 3.11 0.01 Chest high voltage 721 0.26 0.26 0.30 2.99 0.02
Abdomen 703 2.52 2.60 3.00 34.13 0.01
Guthmann 328 5.65 5.55 6.77 50.55 0.23
Martius 308 6.02 5.07 7.60 35.32 0.24
Infant hip joint 475 0.19 0.21 0.21 2.09 0.01
Infant chest 490 0.18 0.26 0.19 3.91 0.01
Pediatric chest 527 0.25 0.42 0.24 4.70 0.01
Breast 434 1.61 0.63 1.91 5.12 0.0005
unit: mGy
Fig. 3 Comparison of the CV value on A.D 2007 and A.D. 2001.
Fig. 4 Transition of the ESD and sale time of the image receptor system.
変化した時期と一致した.モダリティ別の線量を把握 するため,腰椎正面,腰椎側面,骨盤正面の 3 部位 について,モダリティ別に平均線量を示した(Fig. 5). F/Sと CR はほぼ同等で,FPD が相対的に低い線量 であった.また,撮影条件のアンケートの結果から撮 影管電圧と mAs 値についてそれぞれヒストグラムを 作成し,得られた累積曲線を示した(Fig. 6).CR は F/Sと比較し高管電圧低 mAs 値撮影傾向があり, FPDは,さらにその傾向が顕著であった.モダリティ 別の平均線量の相違は,撮影条件の変化に起因する ものと考えられた.一般撮影領域で最も線量を必要 とする部位の一つである腰椎側面において,線量ヒ ストグラムから,低線量 20 施設と高線量 20 施設を ピックアップし,モダリティの割合を示した(Fig. 7). FPDは低線量化に貢献し,CR は高線量化に寄与し ていた.間接型 FPD のシンチレータ cesium iodide Fig. 5 Comparison of the ESD in FPD, CR and F/S.
Fig. 6 Cumulative curve in the lumbar spine AP, the lumbar spine LAT and the pelvis AP examination. (a) X-ray tube voltage in the lumbar spine AP examination
(b) X-ray tube voltage in the lumbar spine LAT examination (c) X-ray tube voltage in the pelvis AP examination (d) Value of mAs in the lumbar spine AP examination (e) Value of mAs in the lumbar spine LAT examination (f) Value of mAs in the pelvis AP examination
(CsI)と gadolinium-oxide sulfide(GOS)について比較 すると,低線量化に貢献していたのは CsI であること が判明した(Fig. 8). 1-2 線量増加と施設間格差拡大の原因 患者が受ける線量は,増加傾向で施設間格差が拡 大していた.原因として,以下のようなことが考えら れる. 1)撮影条件の検討が十分にされていない 2003 年の浅田ら8)によると,ディジタル移行時に撮 影条件を検討していない施設が約 50%以上あった. 撮影条件の検討が不十分であるために,施設間格差 が拡大していると考えられる. 2)CR の品質管理が十分に行われていない 光電子増倍管(PMT)の感度低下などに対する補正 が十分になされていないことにより,線量が増加して いる可能性がある. 3)線量指標(dose index)がない 各メーカで異なる指標が用いられており,その挙 動の不確かさから,線量決定の精度が低下し,施設 間格差が拡大していると考えられる. 4)モダリティと読影媒体の多様化 モダリティの 種 類[F/S,CR,間 接 型 FPD(CsI・ GOS),直 接型 FPD],や読影 媒 体(ソフトコピー・ ハードコピー)が多様化し,同一部位における最適線 量の幅が広がっているために,施設間格差が拡大し ていると考えられる. 5)必要以上の線量を与える傾向がある ICRP Publ.93(ディジタルラジオロジーにおける患 者線量の管理)9)の guest editorial では,「放射線技師 は,過剰照射された画像はコンピュータで解決される が,過小照射した場合には再検査が必要になる事を 知っている.その結果,必要以上の線量を与える傾 向がある.」としている.このため,撮影条件が増加し ていると考えられる. 6)線量に対する意識の低下 放射線撮影分科会において検討されている「ディジ
タル化のわなシリーズ」では,modality worklist
man-agement(MWM)の普及により,デフォルトの撮影条 件が自動でセットされるために,被写体に応じた撮影 条件の設定が行われなくなっていることや,患者が 受ける線量への意識が低下していることに警鐘を鳴 らしている.線量増加の一因であると考えられる. 1-3 画質と被ばくを考慮した適正線量の検討 今回の研究班で検討を行う部位は,腰椎正面・腰椎 側面・骨盤正面である.2007 年全国調査結果におけ るヒストグラムより,各部位の 75%線量以下の線量 を算出した(Table 2).この線量を第 4 章(視覚評価に よる適正線量)における基礎資料とした. 1-4 結 語 撮影モダリティが,急速にアナログシステムから ディジタル装置へ移行し,画質や撮影条件について 多くの研究がされてきたが,標準化には至っていな い.このため,患者が受ける線量増加や,施設間格 差が拡大したと考えられる.画質と被ばく線量の最 適化の検討を進め,わが国における一般撮影領域の 撮影技術に関する標準化を行う必要がある.
Fig. 7 The image receptor system of low dose and high dose at the lumbar spine LAT examination in 20 facilities.
Fig. 8 Comparison of the ESD of the lumbar spine LAT examination in indirect FPD systems.
Table 2 Results of ESD below 75% dose
Dose (%)
ESD (mGy)
Lumbar spine Lumbar spine Pelvis
AP LAT AP 75 5.17 14.16 3.65 50 3.65 9.71 2.57 25 2.39 6.56 1.78 10 1.74 4.44 1.24 5 1.27 3.19 0.99 3 1.05 2.64 0.83 1 0.7 1.47 0.54
第 2 章 デ ィ ジ タ ル 装 置 の 感 度 指 標 と し て の exposure index はじめに X 線検査において受光系がアナログシステムの場 合,適正な線量はシステムの感度によって決定され た.しかしながら,ディジタル装置に移行し,観察環 境の自由度によってシステムの感度評価が軽視さ れ,適正線量での撮影に対する撮影者の意識は低下 している.これには,装置メーカが感度指標を独自に 定義しているため,撮影者が撮影線量を比較しにく いことも関与している.また,第 1 章からもディジタ ル装置における撮影線量の適正化は急務であり,期 待されている.撮影線量の最適化にはディジタル装 置の感度評価および統一された感度指標あるいは線 量指標の設定が必要である.本章では線量指標と感 度指標との関係と適正線量を求める手順を示して exposure indexが統一された線量指標としてディジタ ル撮影の適正線量化に有用であることを示す. 2-1 Exposure index とは 国際電気標準会議(IEC)は単純 X 線撮影のディジ タル画像の新たな線量指標(exposure index; EI)を提
案した10).ディジタル装置の感度指標を検出器に入 射した線量によってキャリブレーションを行い,あら ゆるディジタル装置の感度指標を統一したスケール の線量指標に変換する手法である.IEC は EI を導く ためのキャリブレーションの手順を提示している. キャリブレーションの幾何学的配置を Fig. 9 に示す. EI は次式で定義される. EI=c0·g(V) ………(1) c0は 100 μGy−1という定数であり,g(V) は感度指 標値(V: value of interest)から検出器前面に入射する 空気カーマ(K)を導く関数である.キャリブレーショ ンにおける EI は次式で定義される. EI=c0·Kcal ………(2) また,キャリブレーション時の Kcalと感度指標との 関係は Kcal=g(Vcal) ………(3) で表されるため,EI はキャリブレーションによって得 られた近似式を用いて,実際の感度指標から検出器 前面に入射する空気カーマを算出し,100 を乗ずるこ とにより求められる. 2-2 キャリブレーションの結果と考察 本章では複数のディジタル装置の入出力特性の評 価を行った.検出器到達線量に対応する EI を求める ため近似式で g(V) を求めた.なお,キャリブレー ションの手順および精度については別稿に記した11).
Fig. 10 は 3 施設の CR,Fig. 11 は 3 施設の Philips 社の同一 FPD 装置におけるキャリブレーションで得 られた S 値と線量 K の関係およびその近似式をそれ ぞれ示している.EI は Fig. 10,11 の縦軸の値に 100 μGy−1を乗ずることにより得られる.Fig. 10 の CR を 同一線量で比較した場合,施設 A,B の差は 9%程 度であったが,施設 C は 50%程度 S 値が大きな値を 示していた.S 値は,メンテナンスによる光電子増倍 管の印加電圧調整,光学系の劣化や汚れ,読み取り までの時間経過によるフェーディングの影響,温度に よって変動するため,キャリブレーションはメーカメ ンテナンス直後に行うことが望ましい.
Fig. 11 の FPD 装置では施設間の変動は 3 μGy 以 下において ±15%であったが,CR と比較して少ない といえる.FPD 装置はユーザによる検出器のキャリ ブレーションが可能であり,未使用時も検出器は通電 されるなど安定化が図られているため施設間の変動 は少ないと考える. 本実験では直前のメンテナンスは実施していな い.実施直後の施設間の変動は CR,FPD ともに今回 の結果よりも減少することが予測されるため,キャリ ブレーションの手順としてメンテナンスを追加するべ きか検証する必要がある. 2-3 感度指標としての EI EI は検出器に入射する線量を表す指標であり,装 置固有の感度を示すものではない.IEC 62494 では EIとともに target exposure index(EIT)および
devia-tion index(DI)も定義している.EITは,ある部位の撮
影において目標とする線量指標であり,学会や各施 設で設定される.DI は EITに対する実際の撮影の EI の差異を表す指標であり,次式で表される9). ………(4) 例として,目標どおりの線量,あるいは 2 倍の線量 で撮影した場合の DI は,それぞれ,0.0,3.0 となる. EITを設定する手順を以下に示す. (1)視覚評価にて検出器到達線量の目標値となる EIT を決定する. (2)物理評価にて相対感度が明らかになれば,各装置 の EITは,相対感度に対して反比例の関係となる.す なわち,EITの逆数が新たな装置固有の感度指標とい える. 以上の 2 通りの方法を合わせ,使用ディジタル装 置・検査部位・検査目的等,さまざまな要因を考慮し た EIT設定が必要となる. 2-4 今後の課題 撮影者は,EITおよびキャリブレーションで得た近 似式から算出される EI から DI を得て,線量の適正 を確認することが可能となる.しかしながら,不要な 患者線量の増加を防止するためには,リアルタイムあ るいは事前に撮影条件から EI あるいは DI を確認す る装置の構築が今後の課題である.また,イメージ ングプレートをはじめ検出器は線質依存性があり,特 に 90 kV 以下では大きく X 線検出効率が変化するた め12),学会などは撮影部位ごと,装置ごとの適正な 線量だけでなく,適正な撮影管電圧も併せて提示す る必要がある. 臨床画像から得られる感度指標値の算出方法は メーカによって異なるため,得られた EI が関心領域 の平均的な到達線量の指標として適さない部位,画 像処理が存在する可能性がある.適用範囲の決定は 臨床的な知見の集約によって明らかにされるべきで ある.
Fig. 10 Relationship between S number and K. Fig. 11 Relationship between value of interest.
DI EI EIT = ⋅ 10 log10
2-5 まとめ IEC62494 の EI は統一された線量指標としてディ ジタル撮影の線量適正化に有用である.本論は線量 指標を用いる最適化の手順の一端を示すことができ た.今後,多くの施設から撮影目的に応じた EITの知 見が報告され,ディジタル撮影の線量の適正化が活 発になることを期待する. 第 3 章 物理評価による検出器の検出量子効率 評価 3-1 目 的 近年,ディジタル X 線撮影装置は広く普及し,装 置の多様化も進んでいる.現在の主なディジタル装 置としては CR,FPD が存在するが,これらの装置は 入力の X 線に対する画像形成の機序や材質などがそ れぞれ異なる.このため,検出器の検出量子効率は 装置によって異なり,異なる装置間において同等の画 質を得るために必要となる X 線量に違いが生じるこ とになる.X 線撮影装置は CR によってディジタル化 が進み,CR は改良や進化を続け,現在では CR に代 わって FPD の台数が徐々に増加している1, 13).しか し,以前に行われた被ばく線量調査の結果において はディジタル装置の進化に対する被ばく線量の変化 はほとんどみられない2).これは,使用する装置の特 性を十分に把握しておらず,適切な線量を選択して いないケースが多くあると予想される. ここでは,撮影装置における検出器の特性を物理 評価から明らかにして,検出量子効率を表す detective quantum efficiency(DQE)14∼16)を算出する.この DQE を把握することで,装置に応じた撮影線量をより適正 な範囲内に導くことが可能となる.このため,ディジ タル装置における画質と線量の最適化に向けたアプ ローチとして,複数のディジタル装置における検出器 の検出量子効率を明らかにした. 3-2 方 法 4 施設で合計 7 機種の装置に対して,検出器の物 理特性を評価した.評価対象としたディジタル撮影 装置(Table 3)の内訳は,直接型 FPD が FUJIFILM DR BENEO(以下,BENEO)の 1 機種,間接型 FPD が 3機種[シンチレータに CsI を用いたものが Difinium
8000(以 下,Difinium)と Digital Diagnost(以 下, DiDi)の 2 機 種,シ ン チ レ ー タ に Gd2O2S(以 下, GOS)を用いたものが FUJIFILM DR CALNEO U(以 下,CALNEO)の 1 機 種],CR が REGIUS MODEL
170(以 下,REGIUS)と FCR PROFECT CS(以 下, PROFECT),FCR 5000 の 3 機種であった.DiDi を 除く 6 機種では,線形データもしくは入出力特性から 線形化が可能なデータによって物理評価が行われ た.しかし,DiDi に限っては周波数特性に影響を及 ぼすフィルタ処理が掛けられている可能性のある データしか取得できなかった.DiDi は後述の「第 4 章 視覚評価による適正線量」においても使用される装置 であるため,線形性を満たさず信頼性に欠ける評価 結果をもたらすことを理解したうえで取得データから 物理評価を行った. 各装置の検出器特性を把握するための物理評価とし て,presampled modulation transfer function(presampled MTF),Wiener spectrum(WS)の測定を行い,DQE の 算出を行った.この際,画像取得時の X 線質は IEC 6126717)で規定された RQA5 を選択し,presampled MTFと WS は IEC 62220-118)に準ずる形でエッジ法19), 二次元フーリエ変換による方法18, 20)によって評価をし た.presampled MTF は,水平と垂直の 2 方向に対し て測定を行い,CR のレーザスキャン方向(主走査方 向)に限ってはスキャン方向に対するエッジ面の向き を変えて測定を行った.WS も水平と垂直の 2 方向に 対して測定をした.DQE は,単位面積あたりの入射 X線量子数 q,presampled MTF,WS の結果から次 式を用いて算出した.なお,q は IEC 62220-1 の線量 あたりの量子数テーブルから決定した. ………(5) DQE(f) MTF (f) q WS(f) 2 = ×
Table 3 Specification of digital radiography systems evaluated in the study
System Manufacturer Technology Pixel size (mm)
FUJIFILM DR BENEO Fujifilm medical Direct FPD 0.150 Difinium 8000 GE Healthcare Indirect FPD(CsI) 0.200 Digital Diagnost Philips Indirect FPD(CsI) 0.143 FUJIFILM DR CALNEO U Fujifilm medical Indirect FPD(GOS) 0.150 REGIUS MODEL 170 [RP-3S] Konica Minolta CR 0.175 FCR PROFECT CS [ST-VI] Fujifilm medical CR 0.100
Fig. 12 Determination of presampled MTF in respec-tive systems.
Fig. 13 Determination of WS in respective systems.
Fig. 14 Relation between air Kerma and WS values at 1.0 cycles/mm.
Fig. 15 Determination of DQE in respective systems. 3-3 結 果 グ ラ フ(Fig. 12∼15)で 示 す presampled MTF, WS,DQE の結果は,2 方向(水平方向,垂直方向)の 平均とした.また,DiDi は取得データが線形性を担 保できず信頼性に欠ける評価結果となるが,参考 データとして他の 6 機種と同様に結果を示した. 3-3-1 Presampled MTF
Fig. 12 に各装置の presampled MTF を示す.DiDi の結果を除くと,直接型 FPD である BENEO の MTF は,間接型 FPD(CsI,GOS)や CR と比べて十分に高
い値となり,解像特性が最も優れていた.CR の 3 機 種は,間接型 FPD(CsI,GOS)と同等以上の MTF を 示した.間接型 FPD では,Difinium より CALNEO の方が高い MTF となった. 3-3-2 WS X 線撮影時の実際の検出器到達線量を想定したた め,2.19 μGy(0.25 mR)における WS を比 較した. Fig. 13に 2.19 μGy における各装置の WS を示す.な お,各撮影装置には X 線発生器における管電流やタ イマ設定などに制限が存在するため,2.19 μGy に最 も近い線量の WS 値に対して複数の線量から求めた WS値で補正を行い,2.19 μGy における WS 値を算 出した. DiDi の結果を除くと,直接型 FPD,間接型 FPD (GOS)および CR と比べて,間接型 FPD(CsI)である Difiniumの WS 値は最も低く,ノイズ特性が最も優 れていた.また,FPD は全体的に CR よりも WS の 値は低く,ノイズ特性に優れていた.直接型 FPD で ある BENEO は MTF が高いため,中高周波数領域に おいても WS の値はわずかしか低下しない.間接型
FPD(GOS)である CALNEO は,間接型 FPD(CsI)で
ある Difinium と比べて WS は高い値を示し,ノイズ 特性が劣っていた.また,CR は PROFECT の WS が 若干低い値を示したが,3 機種ともにほぼ同等の WS となった. Fig. 14 に検出器 到達線 量における各装置の 1.0 cycle/mmの WS 値を 示 す.1.0 cycle/mm における WS値は,検出器到達線量の変化があっても間接型 FPD(CsI)である Difinium が最も低い値を示した. DiDiの結果を除くと,間接型 FPD(GOS),直接型 FPD,CR3 機種の順に WS は大きい値を示し,ノイ ズ特性は悪くなった. 3-3-3 DQE Fig. 15 に 2.19 μGy(0.25 mR)に お け る 各 装 置 の
DQEを示す.DiDi の結果を除くと,DQE 値は約 1.3
cycles/mmまでは間接型 FPD(CsI)である Difinium,
約 1.3 cycles/mm 以上では直接型 FPD である BENEO が最も高い.間接型 FPD(GOS)である CALNEO は
CRの 3 機種より高い DQE 値をもつが,Difinium や
BENEOより明らかに低い DQE 値を示した.CR で
は,REGIUS の DQE 値が PROFECT や FCR 5000 よ りもやや高くなった.
Table 4 に各 装置の 1.0 cycle/mm の DQE 値を示 す.直接型 FPD である BENEO,間接型 FPD(CsI)で ある Difinium は 0.5 程度となり,間接型 FPD(GOS) である CALNEO は約 0.31,CR の 3 機種は約 0.20∼ 0.26となった. 3-4 考 察 今回は限られた装置のみの検出器の物理評価と なったが,DiDi の結果を除くと,解像特性は直接型 FPDである BENEO,ノイズ特性は間接型 FPD(CsI) である Difinium が明らかに優れていることが示され た.DQE は BENEO と Difinium が高い値となり,次 い で 間 接 型 FPD(GOS)で ある CALNEO,CR(3 機 種)の順となった.代表値として 1.0 cycle/mm におけ る DQE 値 を 比 較 す る と, 直 接 型 FPD で あ る BENEO,間接型 FPD(CsI)である Difinium は 0.5 程 度となり,間接型 FPD(GOS)である CALNEO は約 0.31,CR の 3 機種は約 0.20∼0.26 であった.直接型 FPD,間接型 FPD(CsI)の DQE 値は高くなったが, 同じ FPD でも間接型 FPD(GOS)は直接型 FPD や間 接型 FPD(CsI)の 60%程度の DQE 値を示した.CR を基準として比較した場合,直接型 FPD,間接型 FPD(CsI)の DQE 値は 2 倍以上となり,間接型 FPD (GOS)の DQE 値は 1.2∼1.5 倍程度となることがわか る.これより,CR の 2 倍以上の DQE 値を有する直 接型 FPD や間接型 FPD(CsI)は,CR と同等の画質を 得るのに 1/2 以下の線量で撮影が行える可能性を示 唆している. このように,物理評価を行い,検出器の検出量子 効率を示す DQE を評価することで異なるディジタル 装置に応じた撮影線量をより適正な範囲内へと導くこ とが可能となる.実際に画質と線量を決定するには, 撮影部位や目的,画像処理などが影響してくるもの の,検出器の検出量子効率から装置に応じた基準と なる線量を概ね把握することができる21).このため, 検出器の検出量子効率はディジタル装置の画質と線 量の最適化を行ううえで重要な指標となる.特に新 たなディジタル装置の導入の際には検出器の検出量 子効率である DQE 値をもとに線量決定を行うこと で,各装置において画質を考慮したうえで,線量の 適正化を図ることが可能といえる. 3-5 結 語 ディジタル装置において画質を考慮したうえで撮 Table 4 DQE value at 1.0 cycles/mm
System DQE value at 1.0 cycle/mm
BENEO 0.501 Difinium 0.525 CALNEO 0.306 REGIUS 0.257 PROFECT 0.207 FCR5000 0.201 DiDi 0.667
影線量の適正化を行う際に,検出器の物理評価を行 い,特性を理解することは重要である.特に検出量 子効率を表す DQE を把握することで,装置に応じた 撮影線量をより適正な範囲内に導くことが可能とな る.検出器の検出量子効率評価は受像部のみの評価 となるが,ディジタル装置の画質と線量の最適化を 行ううえで重要な指標といえる. 第 4 章 視覚評価による適正線量 はじめに 近年,一般撮影のディジタル化は急速に進み約 90%を超えている.第 1 章で報告したとおり,患者被 ばく線量の施設間格差が数 10 倍に広がっている. 本章では,アンケートから求めた基準線量を考慮 して,人体ファントム画像(腰椎正面,腰椎側面,骨 盤正面)を撮影し,その画像を視覚評価によって画質 の評価を行った.その結果から適正線量について報 告する. 4-1 方 法 本章では,画質評価の対象を被ばくの大きい腰椎 正面画像,腰椎側面画像,骨盤正面画像として,人 体ファントムを用いて撮影した. 使用したディジタル装置は,CR 1 機,FPD 装置 1 機で行う.CR は富士フイルム社製カセッテタイプ FCR5000(Imaging Plate; ST type)で,FPD はシンチ
レータに CsI を用いている間接変換型[以下,Gd2O2S:
Tb(GOS)を用いたものと区別するために FPDCsIとす
る]を搭載した Philips 社製 Digital Diagnost とする. 以 下の図 表において,CR 装 置を CR(FCR5000), FPD装置を FPDCsI(DiDi)と表す. Table 5 に撮影条件を示す.第 1 章で求めた入射表 面線量の分布を考慮した範囲の撮影条件と,加藤ら が開発した診断用 X 線領域における入射表面線量計 算ソフト SDEC にて患者の皮膚表面での被ばく線量 (以下,被ばく線量)を算出した22).また,画像はフィ ルムにて出力した. 観察者は,整形外科医師 2 名,リュウマチ内科医 師 1 名,放射線科医師 3 名,診療放射線技師 6 名の 計 12 名とした. 評定実験の方法について,以下に示す.まず, フィルム出力された画像を線量に関係なくランダムに 1画像提示する.評価前に最大被ばく線量,最小被 ばく線量の画像を提示して前学習を行った.また, 観察結果を最大値 100 点として数直線上に書き込む ことを説明した(Fig. 16 の上).併せて,診断可能な 最低基準であると評価した結果は,50 点にすること
Fig. 16 The filing form of observation scores and examples.
The current time product of lumber spine (lateral view), x-ray tube voltage is at 85 kV Grid ratio Grid density CR (FCR5000) 63.0 40.0 32.0 − 20.0 16.0 12.5 8.0 − − − 10:1 36 FPDCsI (DiDi) − 40.0 − 25.0 20.0 16.0 12.5 8.0 6.3 5.0 2.5 12:1 36
Exposure dose 12 7.62 6.1 4.76 3.81 3.05 2.38 1.52 1.17 0.98 0.48
The current time product of hip joint (A-P view), x-ray tube voltage is at 75 kV Grid ratio Grid density CR (FCR5000) 36.0 − 20.0 16.0 12.5 10.0 7.1 − 5.0 3.6 − 10:1 36 FPDCsI (DiDi) − 32.0 20.0 16.0 12.5 10.0 − 6.3 5.0 − 3.2 12:1 36
Exposure dose 3.12 3.1 1.73 1.39 0.99 0.87 0.62 0.54 0.43 0.36 0.33 unit: mGy
Fig. 17 Observer’s score and average score.
(a) CR (FCR5000) on lumber spine (A-P view) (b) FPDCsI (DiDi) on lumber spine (A-P view)
(c) CR (FCR5000) on lumber spine (lateral view) (d) FPDCsI (DiDi) on lumber spine (lateral view)
(e) CR (FCR5000) on hip joint (A-P view) (f) FPDCsI (DiDi) on hip joint (A-P view)
を説明した.例えば,観察者が診断可能な最低基準 以上で最大点以下であり,その間に位置していると 判断した場合に Fig. 16 の下のように記載する.数直 線は 10 cm にしてあり,長さから 75 点として集計す る.なお,評価基準について,骨盤正面画像は臨床 で撮影の機会が多い股関節(大腿骨頭および臼蓋部 分)としているため,本章では骨盤正面画像を股関節 正面画像とする. 4-2 結 果 Fig. 17a に,CR(FCR5000)を用いた腰椎正面画像 の各観察者による得点と平均点を示す.横軸に被ば く線量(mGy),縦軸に評価得点を示している.観察 者間でのバラツキは大きい.平均点では被ばく線量 が増えると得点も高くなっている.しかし,0.77 mGy 以下では診断可能な基準に満たなかった.
Fig. 17b に,FPDCsI(DiDi)を用いた腰椎正面画像の
バラツキは大きい.平均点では被ばく線量が増えると 得点も高くなるが,1.08 mGy 以上では得点が横ばい であった.しかし,0.54 mGy 以下で診断可能な基準 に満たなかった.
Fig. 17c,d に腰椎側面画像,Fig. 17e,f に股関節 正面画像の各観察者の得点と平均点を示す.股関節 正面画像ではすべての画像が診断可能であった. Fig. 18a に腰椎正面画像における CR(FCR5000)と FPDCsI(DiDi)の平均点を比較し,診断可能な 50 点以 上の最小線量と他の線量の得点に有意差があるか, Tukey-Kramer法による多重比較により検定を行った. CR(FCR5000)の 0.77 mGy との間で最小 0.28 mGy と 最大 5.42 mGy のみ有意差を認めるが,他の線量とは 有意差は認められない.矢印で示す範囲では評価が 入れ替わる可能性がある.すなわち,この範囲が最 適線量範囲といえる.
FPDCsI(DiDi)では,0.54 mGy と有意差があったの
は最小 0.22 mGy と最大 5.42 mGy であり,矢印で示 す範囲では評価の入れ替わる可能性がある. Fig. 18b に腰椎側面画像における CR(FCR5000)と FPDCsI(DiDi)の平均点を比較し,診断可能な 50 点以 上の最小線量と他の線量の得点に有意差があるか, Tukey-Kramer法による多重比較により検定を行っ た.最大線量との有意差は認められない. Fig. 18c に股関節正面画像における CR(FCR5000) と FPDCsI(DiDi)の平均点を比較し,診断可能な 50 点 以上の最小線量と他の線量得点差に有意差がある か,Tukey-Kramer 法による多重比較により検定を 行った.CR(FCR5000)では最小線量との有意差が認 められない.また,FPDCsI(DiDi)では,すべて 50 点 以上であった. 4-3 考 察 本章では,診断可能な 50 点以上の最小線量を最 適線量として有意差を認めた線量までを最適線量範 囲とした.腰椎正面画像,腰椎側面画像,骨盤正面 画像の結果を Table 6 に示す.この値は,X 線管総ろ 過,散乱線除去用グリッドおよび被写体の違いなど の要因により変化するため,絶対的な値ではなく相対 的な参考値として取り扱う必要がある. しかし,ファントム画像の結果で直接臨床画像に 結びつくかは疑問が残るが,腰椎正面画像や骨盤正 面画像では,アンケート調査のヒストグラムから 1% の線量(Table 2)でも撮影が可能であり,平均的な線 Fig. 18 Comparison of the average scores between CR (FCR5000) and FPDCsI (DiDi) on
lumber spine (A-P view), lumber spine (lateral view) and hip joint (A-P view). (a) Lumber spine (A-P view)
(b) Lumber spine (lateral view) (c) Hip joint (A-P view)
量で撮影している施設でも,もっと線量を軽減できる 可能性を示すことができた. 4-3-1 観察者について 観察者は,専門の異なる医師と診療放射線技師を 用いた.評価の基準は,各自の経験に任せ診断可能 な最低の基準を 50 点として評価を依頼した.診療放 射線技師は直接「診断」をしないが,診断に耐えうる 画像であるかを検査する観点からの評価を依頼した. 4-3-2 撮影部位について 撮影部位の違いでは,腰椎正面画像では最適線量 がほぼ中心に位置し,低線量域,高線量域ともに有 意差が認められた.しかし,腰椎側面画像では高線 量域についての評価結果に,股関節正面画像では低 線量域についての評価結果に有意差が認められな かった. 過去の報告23)では,胸部ファントムに油粘土で多数 の信号をつけ,「観察者が指摘した数」を「全観察者 数」で除した値を信号の検出率とし,100%,60%, 35%の検出率の信号を調べている.各検出率の信号 について画像処理パラメータを 5 種類変更させたもの を試料として,シェッフェの一対比較法にて観察実験 を行っている.ほぼ半数が検出できる信号(60%)は, 全試料間の検出力が高かった.検出率の高い信号 (100%)つまり良く見えるものは評価の低い処理で, 検出率の低い信号(35%)すなわちあまり見えないもの は評価の高い処理で,有意差は認められていない. 過去の報告と本結果を比較すると腰椎正面画像は 60%の信号の結果と合致し,腰椎側面画像は椎体の 骨梁が見づらく,35%の信号の結果と合致する.ま た,股関節正面画像は,低線量でも大腿骨近位端の 骨梁が明瞭であり 100%の信号と合致している. 4-3-3 ディジタル装置について 本章では,CR 装置に CR(FCR5000)を FPD 装置 に FPDCsI(DiDi)を用いた.最適 線 量の結果では, FPDCsI(DiDi)がやや低い値となっているが,第 3 章の DQEの違い(Table 4)から考えるともっと差が出るは ずである.使用管電圧,X 線管総ろ過で被ばく線量 が異なり,散乱線除去用グリッド,撮影天板の材 質,撮影天板から検出器までの距離,表示パラメー タによって画質が大きく変わるため,DQE ほどの差 が出なかったと考えられる. 4-3-4 最適線量について 本章では,視覚評価の結果から診断可能な最小の 被ばく線量を最適線量とし,その線量から有意差の ある線量までを最適線量範囲と定義した. 被ばく線量によって最適線量を定義したが,被ば く線量は臨床画像の決定後に推定して求められる結 果であり,使用管電圧,X 線管総ろ過で大きく異な るが,画質は同一とはいえない.したがって,被ばく 線量を画像評価の指標とするのは無理がある. 物理評価では検出器への到達線量を一定として評 価することが一般的であり,視覚評価を行う臨床画 像も検出器への到達(または入射)線量を画質評価の 基準とすることで,標準化が可能になると考えられ る.しかし,臨床画像の検出器到達線量を測定する ことは極めて困難であり,到達線量から算出する感 度指標 exposure index が代用できる可能性が大きい. 4-4 結 語 アンケート調査による基準線量を考慮した被ばく 線量で,CR(FCR5000)と FPDCsI(DiDi)を用いて人体 ファントムを撮影した.腰椎正面画像,腰椎側面画 像,骨盤正面画像の視覚評価を行い,最適線量とそ の範囲を求めた. 第 5 章 まとめと今後の課題 5-1 まとめ 第 1 章 2007 年度の一般撮影における患者が受け る線量のアンケート報告の分析では,一般撮影にお いての被ばく線量は,施設間,装置間などで数倍か ら数 10 倍の差がある.2001 年にディジタルがアナロ グを逆転し,2007 年ではディジタルは約 90%となっ たが,被ばく線量は 2001 年の日本放射線技師会のガ イドライン線量24)と今回の 2007 年アンケートでの線
Table 6 Relation between image quality of diagnostic confidence level and minimum required values of exposure dose in this study
CR (FCR5000) FPDCsI (DiDi) Lumber spine 0.77 0.54 A-P view (0.39–2.15) (0.45–2.15) Lumber spine 6.10 3.81 Lateral view (>3.81) (>2.38) Hip joint 0.43 0.33 A-P view (<1.39) ( − ) unit: mGy
ため,被ばく線量を減らして撮影する傾向となり, CR使用の施設間との線量差も大きくなったと思われ る.一方,間接型 FPD の蛍光体が GOS の場合は, CRより少し DQE が高いだけで,撮影時の線量は CRと大きく変わっていない26). 第 2 章では,IEC 規格(2006 年)の EI がディジタ ル装置の感度指標として使用できないかを検討し た.現在,EI を感度指標として取り入れている海外 メーカもあり,すぐには被ばく線量の管理などに使用 できるわけではないが,その可能性を秘めた指標値 である.今後,本学会での研究が進み,近い将来 ディジタル装置の被ばくに関しての指標,もしくは装 置の感度指標と成り得るであろう. 第 3 章では,各ディジタル装置の物理評価を行い DQEを算出した.DQE そのものは装置の検出量子効 率のみを表した数値であるが,DQE の高い装置は低 い装置に比べ,被ばく線量を低減することが可能で あることは容易に想像できる.現に第 1 章のアンケー ト結果では,CR より FPD(CsI)の方が線量を低減す る傾向にあった.ここで,今回の物理評価の結果が 示 すように,同じ間 接 型 FPD 装 置 でも蛍 光 体 が GOS,CsI と異なる場合では,GOS は CsI の約半分 の DQE であるため,撮影条件を設定する際に注意が 必要となる. 今回の DQE の測定結果より,各ディジタル装置の 検出量子効率の値は 1.0 cycle/mm において,CR: FPD(GOS):FPD(CsI),FPD(a-Se)の順で 0.2∼0.25: 0.3:0.5 となる.被ばく線量はその逆数となるため, FPD(CsI),FPD(a-Se)を 1 とした時,CR:FPD(GOS): FPD(CsI),FPD(a-Se)の 被 ば く 線 量 差 は 2.5∼2: 1.75:1 となる. 第 4 章では,視覚評価による適正線量の検討を 行った.人体ファントムを,第 4 章 Table 5 に示す線 量を変えた条件(第 1 章 Table 2 を参照)にて,腰椎正 面, 腰 椎 側 面, 骨 盤 正 面 の 3 部 位 に つ い て CR (FCR5000)と FPDCsI(DiDi)の 2 装置で撮影し,視覚 評 価を 行 った.ファントム画 像 作 製 時 には,CR (FCR5000),FPDCsI(DiDi)ともに,画像処理をかけた 状態で行っている.画像処理は CR(FCR5000)では富 士フイルム(株)開発のノイズ抑制処理[flexible noise control(FNC)処 理]27)および,ダイナミックレンジ (DR)圧縮処理,マルチ周波数処理などメーカ推奨の いる. それら画像処理をかけた 3 部位のファントム画像 を視覚評価した結果(第 4 章 Table 6),腰椎正面,骨 盤正面の診断可能な最小線量は,第 1 章 Table 2 に 示すアンケートから基準線量(75%線量)の約 1/5 以下 となり,腰椎側面では Table 2 に示す基準線量の約 1/3となった.また,CR と FPDCsI(DiDi)の最小線量 の差は,DQE の差(第 3 章 Table 4)ほどではないが, 3部位ともに CR に比べ FPDCsI(DiDi)の方が少ない線 量となった.これらはファントム画像の視覚評価結果 であるが,臨床画像においても大幅な被ばく線量低 減の可能性があるとが確信できた. 今回の研究班では,アンケート結果の解析によっ て,被ばく線量の適正化が図られていなかったこと, また,物理的評価から,その適正化には DQE をベー スとした画質を考慮する必要があること,さらに視覚 的評価からは,現在の放射線技師会ガイドラインより 大幅な被ばく線量の低減が図れることの可能性を示 せた.今後は,被ばく線量の管理的役割として,EI を用いていくことも進めていく必要がある. 5-2 最後に ディジタル画像において,画質を考慮した被ばく 線量の適正化をすることにより,大幅な被ばく線量低 減の実現は可能である.そうしたことで,今後は検 査目的に合った画質,すなわちその多様な目的に見 合った細やかな画質の分類,被ばく線量の設定が必 要となってくるであろう. 今現在,アナログ時代に培った良いところは残し ながら,ディジタル装置特有の画質,撮影条件を構 築し,画質と被ばく線量の最適化を推し進めて行か なければならない. 謝 辞 2007 年全国調査のアンケートにご協力いただいた 施設の方々に,改めて御礼申し上げます.また,平成 19年度学術調査研究班「X 線診断時に患者が受ける 線量の調査研究」のデータを提供していただきまし た,藤田保健衛生大学医療科学部,鈴木昇一前放射 線防護分科会長に感謝いたします. 今回の物理評価を行うにあたり,データ取得に御 協力いただきました大阪市立大学医学部附属病院,
大阪大学医学部附属病院,滋賀医科大学医学部附属 病院,大阪府立急性期・総合医療センター,名古屋市 立大学病院の関係各位,また,視覚評価について, 観察者として御協力いただいた大阪市立大学医学部 附属病院の関係各位に感謝いたします. 最後に,本研究班内容をについて有意義なご意見 をいただきました,元山口大学医学部附属病院放射 線部技師長,大塚昭義先生,群馬県立県民健康科学 大学学長,土井邦雄先生に感謝いたします. なお,この内容の一部は第 38 回日本放射線技術学 会秋季学術大会 専門分科会合同シンポジウムにて 発表した. 参考文献 1) 鈴木昇一,浅田恭生,加藤英幸,他.X 線診断時に患者 が受ける線量の調査研究班−中間報告.日放技学誌 2009; 65(5): 681-685. 2) 鈴木昇一,浅田恭生,加藤英幸,他.X 線診断時に患者 が受ける線量の調査研究班−中間報告 2.日放技学誌 2009; 65(11): 1582-1590. 3) 鈴木昇一,浅田恭生,小林正尚,他.2003 年全国調査に よる X 線診断時の患者被ばく線量.医器学 2005; 75(2): 55-62. 4) 折戸武郎.患者被曝低減対策としての撮影技術の現状調 査.日放技学誌 1976; 32(1): 34-39. 5) 折戸武郎,真田 茂,古賀佑彦,他.X 線撮影技術と患 者被ばく線量の推移− 1973 年アンケート調査との比較. 映像情報(M)1980; 12(6): 324-327. 6) 鈴木昇一,折戸武郎,古賀佑彦,他.X 線撮影技術と患 者被ばく線量の推移− 1973 年,1979 年との比較.映像情 報(M)1990; 22(6): 359-363. 7) 鈴木昇一,藤井茂久,浅田恭生,他.わが国における X 線撮影時の患者被ばく線量解析−過去 23 年間の推移につ いて.日放技師会誌 1999; 46(4): 382-393. 8) 浅田恭生,石川晃則,小林謙一,他.CR における被曝線 量の把握班報告.日放技学誌 2005; 61(11): 1510-1520. 9) ICRP Publication 93. Managing patient dose in digital
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腰椎正面・側面,骨盤正面における管電圧と mAs 値の累積曲線 (a) 腰椎正面での管電圧 (b) 腰椎側面での管電圧 (c) 骨盤正面での管電圧 (d) 腰椎正面での mAs 値 (e) 腰椎側面での mAs 値 (f) 骨盤正面での mAs 値 Fig. 7 腰椎側面における低線量 20 施設と高線量 20 施設のモダリティの内訳 Fig. 8 腰椎側面における間接型 FPD のシンチレータ別線量 Fig. 9 IEC62494におけるキャリブレーションの幾何学的配置 Fig. 10 S値と K(air kerma)の関係
Fig. 11 感度指標と K(air kerma)の関係 Fig. 12 各装置の presampled MTF Fig. 13 各装置の WS
Fig. 14 Air kermaと 1.0 cycles/mm における WS 値の関係 Fig. 15 各装置の DQE Fig. 16 観察結果の記入用スケールと記入例(下段) Fig. 17 視覚評価での各観察者の得点と平均点 (a) 腰椎正面での CR(FCR5000)の得点と平均点 (b) 腰椎正面での FPDCsI(DiDi)の得点と平均点 (c) 腰椎側面での CR(FCR5000)の得点と平均点 (d) 腰椎側面での FPDCsI(DiDi)の得点と平均点 (e) 骨盤正面での CR(FCR5000)の得点と平均点 (f) 骨盤正面での FPDCsI(DiDi)の得点と平均点
Fig. 18 腰椎正面,腰椎側面,股関節正面における CR(FCR5000)と FPDCsI(DiDi)の平均点の比較
(a) 腰椎正面 (b) 腰椎側面 (c) 股関節正面 Table 1 各部位における入射表面線量 Table 2 各部位における 75%以下の線量 Table 3 評価したディジタル X 線装置の仕様 Table 4 各装置の 1.0 cycle/mm における DQE 値
Table 5 腰椎正面画像,腰椎側面画像,股関節正面画像における撮影条件(mAs 値)と患者表面での被ばく線量の関係