博 士 ( 獣 医 学 ) 三 上 修
学 位 論 文 題 名
Study on the effects of acute exposure to deoxynivalenol on the liver and immune system of plgS ( デオ キシ ニバ レノ ー ルの 急性暴露が 豚の肝臓および 免疫系に与える影響に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
デオ キシ ニパ レ丿 ―ル(D〇N)は 穀物を 汚染 する 主要 なマ イコ トキ シンのーつで あ る。 消化 管か ら吸 収さ れた 後,DONの 一部は肝臓で無毒化され排泄される。豚は 最 もDONに感 受性 の高 い動 物で ある が, 肝臓や免疫系に対する急性暴露の影響につ いては確立されていない。
第1章では .DONの 豚肝 細胞 に対 する細 胞毒 性に つい て検 討し た。 初代培養肝細 胞 の 細 胞 死 がDON添 加6時 間 後 か らD〇Nl00,10 pg/ml群 で 認 め ら れ ,24時 間 後にはDON 100、10,1,0.1 [.,g/ml群で濃度依存性にみられた。細胞死した肝細胞 は アポ 卜― シス に特 徴的 な形 態学 的変化 を呈し,TUNEL法で核が陽性を示した。ま た ,カ スパ ―ゼ ―3活 性の 上昇 がD〇N 100,10,1pg/ml群で認められた。培地中へ の アル プミ ン分 泌はDON 100,10,1,O.l, O.Ol pg/ml群で有意に減少した。これ らの結果から,D○Nはカスパ―ゼ一3の活性化を介する経路でアポトーシスを誘導し,
ま た豚 肝細 胞に 機能 的な 障害 を引 きおこ すことが明らかになった。これらはDONの 肝毒性を示唆するものである。
第2章 で は , 加vivoで ア ポ ト ー シ ス に 注 目 しDONの 肝毒 性お よび 免疫 毒性 を確 認 す る た め ,1カ 月 齢 の 豚6頭 にDONを 静 脈 内 投 与 し た 。DON投 与 豚 の 病 理 組 織 学的検査では,全身のりンパ組織でりンノく球のアポト―シスが認められ,肝臓では肝 細胞のアポト―シスが観察された。リンノく球と肝細胞のアポ卜一シスは,TUNEL法 と 一本 鎖DNAおよび活性型カスパ―ゼ‐3に対する免疫組織化学的染色により証明さ れ た 。 胸 腺 と 回 腸パ イ エ ル 板 のTUNEL陽 性 細 胞数 は ,DON投 与6時 間 後 よ り も24 時間後に増加したが,肝臓では6時間後がピ―クであった。これらの結果から、豚で
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DONの 急 性 暴 露 によ り 誘導 さ れ た肝 細 胞 のア ポ ト― シ ス はDONの 潜在 的 肝 毒性 を 示 すものであり,加えて,全身のりンパ組織におけるりンパ球のアポト―シスは免疫 毒性を示すものであると考えられた。
第3章 では ,まずり ンパ組織に おける炎 症性サイ トカイン の遺伝子 発現を異 なる発 育 段階の豚 で比較し ,発現の べ―スラインを調べた。続いてDOI¥I投与豚でこれらの サ イトカイン発現を検討した。脾臓,胸腺,扁桃,膝窩リンパ節および腸間膜リンパ 節 のイン夕―ロイキン(11)‑1p,IL‑6,|L‑18および腫瘍壊死因子(TNF)‑aの発現を調 べ たところ,サイトカイン遺伝子の発現は豚の年齢およびりンパ組織の部位により異 な る こ とが 示 され た 。DON投 与 豚で は,脾 臓で投与6時間後に |1‑1p遺伝子 発現の 上 昇 と24時 間後 にIL‑18発 現 の低 下 がみ ら れ た。 胸 腺で は6時 間 後にIL‑1Bおよ び IL6発 現の上 昇が認め られ,腸間 膜リンパ 節では6時 間後にTNF‑a発 現が低下 した。
以 上から‐ 豚でD〇Nの 急性暴露 により,リ ンパ組織 の炎症性サイトカイン遺伝子発 現は変調をきたすことが明らかになった。
第4章では ,D○Nの急 性暴露が炎 症反応に 与える影 響を調べ るため, ミニブタ に D〇Nを投与し ,自血球 数,血液 中のサイト カインお よび急性期夕ンパク濃度の動態 お よび末梢血好中球の化学発光能について検討した。自血球数は,好中球数の増加に よ り投与3,6および12時 間後に― 過性の増加 がみられ た。好中球の化学発光能は投 与24時間後 に有意に 上昇し,好 中球の殺 菌能の活 性化が示 唆された 。また, 投与3 時 間 後 には 血 液中IL‑8お よ びTNF‑a濃度 の上昇,6時間後に はIL‑6濃度の 上昇,24 時 間後には ハプトグ ロビンお よび血清アミロイドA濃度の上昇が有意に認められた。
こ れらの結 果から.D○Nは末梢 血中にIL‑8によ る好中球 の―過性動員とそれに引き 続く殺菌能の活性化を誘導するとともに,炎症性サイトカインおよび急性期夕ンノくク 濃 度 の上 昇を引き おこすこと が明らか となり,DONの急性暴 露による 豚への免 疫変 調作用が示された。
本 研究 で は, 加vitroでDONの豚 肝細胞 に対する アルブミ ン分泌の 抑制とア ポト
― シスとい う形での 細胞毒性 について明 らかにし た。さら に.加vivoでも肝細胞お よ び り ン パ 球 のア ポ トー シ ス が認 め ら れる こ とをDON投 与豚 で 証明 し ,DONの 肝 毒 性および 免疫毒性 を示した 。また,D〇Nは豚のり ンパ組織で炎症性サイトカイン 遺 伝 子発 現を変調 させた。加 えて,DONは 血液中炎 症性サイ トカイン および急 性期 夕 ンパクを誘導し,好中球を活性化させることを豚で初めて明らかにした。これらの
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知見は,DON の毒性の包括的理解だけでなく,ヒトや動物における急性中毒の病態 解明にも貢献するものと考えられる。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
Study on the effects of acute exposure to deoxynivalenol on the liver and immune system of plgS ( デ オキ シニ バレ ノー ル の急 性暴露が豚 の肝臓および 免疫系に与える影響に関する研究)
デオ キシニバ レノール(DON)は穀物を汚染する主要たマイコトキシンのーつであ る。 消化管か ら吸収後 ,DONの一部 は肝臓で 代謝され排 泄される。豚は最もDONに 感受性の高い動物であるが,肝臓や免疫系に対する急性暴露の影響にっいては確立さ れていない。
第1章 では,DONの 豚肝細胞 に対する 細胞毒性 について初 代培養肝細胞を用いて 検討 した。その結果,DONはカスパーゼ―3の活性化を介する経路で肝細胞のアポト ーシスを濃度依存性に誘導し,また肝細胞に機能的な障害を引きおこすことを明らか にした。
第2章で は ,DONを豚 に投与しめVIVOで肝毒性 および免 疫毒性を 確認した 。DON 投与豚の病理組織学的・免疫組織化学的検査では,肝臓で肝細胞のアポトーシスが認 められ,全身のりンパ組織で広範にりンパ球のアポトーシスが観察されたことから,
DONの豚における肝毒性および免疫毒性が示唆された。
第3章お よ び第4章 では,DONの急 性暴露が 豚の免疫 系に与え る影響を さらに調 べるため,リンパ組織における炎症性サイトカインの遺伝子発現を検討した。この発 現の べースラ インは豚 の年齢お よぴりンパ組織の部位により異なるが,DON投与豚 で は 炎 症 性 サ イ ト カ イ ン 遺 伝 子 発 現 が 変 動 す る こ と を 明 ら か に し た 。 加え て,DONは投 与豚にIL‑8に よる末梢血好中球の一過性動員とそれに引き続く 殺菌能の活性化を誘導すること,炎症性サイトカインおよび急性期タンパク濃度の上 昇 を 引き お こす ことを見い だし,DONの 急性暴露 による免 疫変調作 用を示し た。
DONの 肝毒 性を沈vitroお よぴ沈vんDで 示し,ま たDONの急性 暴露が豚 の免疫 系, 特に炎症 反応に与 える影響 を明らかにした本研究は,DONの毒性の包括的理解 だけ でなくIヒ トや動物 における 急性中毒の病態解明にも貢献するものと判断され た。 よって、審査員一同は,上記学位論文提出者三上修氏が博士(獣医学)の学位 を授与されるに十分な資格を有するものと認めた。
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司宏 彦美 由 孝和 和真 村村 橋塚 梅木 大石 授授 授授 教教 教教 査査 査査 主副 副副