博 士 ( 経 済 学 ) 高 宮 浩 司
学 位論文 題名
Incentive Compatibility of Allocation :N/Iechanisms in Discrete Economic Environments
(離散的経済環境における配分メカニズムの誘因両立性)
学位論文内容の要旨
本論文では分割不可能財の配分メカニズムの誘因両立性、特に操作可能性、不可能性を研究す る。 以下のような状況を考えよう。
有限人の個人からなる経済を考える。 この経済には有限個の分割不可能な財しかなく、
初期状態で各財は誰かが所有している。いまこれらの財の再配分を考える。再配分後も個々 の財は必ず誰かに所有されてなけれぱならなく、しかも実現可能な配分はあらかじめ決められ ている。各個人は可能な配分の集合上に選好順序を持つ。このような経済モデルはmarriage
problem (Gale and Shapley
,1964)やhousing market (Shapley and Scarf
,1974)などのモデ ルのー般化としてSonmez (1999)によって導入された。さて、いまこの再配分プロセスを外部から実行したい「計画者」を考える。 このとき、
計画者の立燭から最適な配分を実行するの、この計画者は各個人の選好にかんする情報を収集 しなけれぱならない。 (初期配分と実現可能な配分のりストは既知とする。) 特にこの諭文 では、計画者が個人に選好を直接たずねるようなメカニズム(直接メカニズムとよぶ)のみに 焦点をしぼる。 この状況は、経済を構成する個人にとっては、ある種の戦略型ゲームとして 読むことが出来る。 このプロセスが目的どおりに働くには、個人のインセンティブと両立す るようにしなけれぱならない:計画者は各個人に選好の報告を要求する。 しかし、選好は もともと個人情報であるので、ある個人は偽りの選好の基づぃた報告をして、再配分結果を自 分に有利なように歪めることが出来るかもしれない。
これを「操作」と呼ぼう。操作が可 能なメカニズムがあれぱ理想的だが、これは要求が高すぎるかもしれない。操作が可能でも、
このゲームの均衡においては操作がなかったのとほぼ同じ結果を生ずるようなものなら、より 望みがあるかもしれない。
この種の質問をこの諭文では考える。
この論文では、 コアの意味で安定的な配分を指定するようなメカニズムの誘因両立性 に注目する。まず準備として、(1)配分メカニズムの操作不可能性の数学的な性質を(特に
「単調性」との閏係)を究明する。 この結果をふまえて、(2)コア安定性をみたし、しかも 操作が不可能な配分メカニズムの特傚付けを考える。次に(3)コア安定性をみたす配分メ カニズムが、「どの程度」操作可能なのかを考察する。
論文の第
1
章では、このモデルの2つの特殊ケ―ス(marr iage problem
およひhousing market)
ですでに得られている先行葉犠と、Sonmez (1999)よるこのモデルでの結果を紹介する。―87−
っ づ く 各 章 ( こ の 論 文 の 本 論 〕 で の 議 諭 は 、 こ れ ら の 結 果 を 踏 ま え た 形 で 展 開 さ れ る 。 (1) に か ん し て は 、 メ カ ニ ズ ム の 強 い 意 味 で の 操 作 不 可 能 性 が 「 単 調 性 」 な る 性 質 に 等 し い こ と を 証 明 す る ( 第2章 ) 。
(2) の 問 題 はSonmez (1999)が 先 鞭 を つ け 、 配 分 メ カ ニ ズ ム が コ ア 安 定 性 を 満 た し 、 か っ 操 作 不 可 能 で あ る こ と の 必 要 条 件 を 同 定 し た 。 私 は こ の 諭 文 の 第3章 で 第2章 で 開 発 し た 技 術 を 利 用 し て 、 彼 の 必 要 条 件 が 実 は 十 分 条 件 で も あ る こ と を 証 明 す る 。 そ の 条 件 とは (* ) コ ア 配 分 が ( 本 質 的 に ) っ ね に ー っ だ け だ 、 と い う も の で あ る 。 し た が っ て コ ア 配 分 メ カ ニ ズ ム が 操 作 不 可 能 に な る の は 難 し い よ う だ 。
(3) 最 後 に 上 の 条 件 ( * ) が 必 ず し も 満 た さ れ な い よ う な ― 般 の 壜 合 で の 、 コ ア 安 定 的 配 分 メ カ ニ ズ ム の 操 作 可 能 性 に つ い て 調 べ る が 、 以 下 の よ う な 分 析 を す る ( 第4章 ) : コ ア 安 定 的 配 分 メ カ ニ ズ ム を 任 意 に 選 ぶ 。 ゲ ― ム 諭 の い く っ か の 均 衡 概 念 、 こ こ で はNash均 衡 、 strong Nash均 衡 、t;trict strong Nash均 衡 、 を 考 え る 。 各 均 衡 概 念 で 、 均 衡 に お い て 実 現 す る 配 分 の 集 合 と コ ア と の 関 係 を 調 べ る 。 こ の と き 均 街 配 分 が 常 に コ ア の 中 に 入 っ て い れ ば 、 こ の メ カ ニ ズ ム は 、 ( た と え 操 作 を 許 す と し て も ) 個 人 が そ の 均 衡 概 念 に し た が っ て 行 動 す る 限 り 、 結 果 と し て コ ア 安 定 的 な 配 分 を 実 現 す る 、 と い う こ と に な る 。 っ ま り 、 そ の よ う な こ と が 起 こ る に は ど の 均 衡 概 念 を 還 べ ば い い か 、 と い う の が こ こ で の 質 問 と な る 。 均 衡 概 念 は 、 個 人 が ど の 程 度 他 の 個 人 に 関 し て 情 報 持 っ て い る か を 反 映 し て い る 。 し た が っ て 、 選 ぱ な け れ ば な ら な い 均 衡 概 念 が 「 強 い 」 ( よ り 豊 富 な 情 報 を 仮 定 す る と い う 意 味で )も の で あ れ ぱ 、 考 え て い た メ カ ニ ズ ム の 操 作 可 能 性 は 高 い と い う こ と に な る 。 こ の 諭 文 で 、 私 は 結 局 上 の3っ の う ち 轟 も 強 いstrict strong Nash均 衡 を 選 ば な く て は な ら な い こ と を 証 明 す る 。 し た が っ て 、 ― 般 的 に コ ア 配 分 メ カ ニ ズ ム の 操 作 可 能 性 は 高 い 。
結 諭 と し て 、 こ れ ら の 結 果 は 直 接 メ カ ニ ズ ム を 考 え る 限 り 、 誘 因 両 立 的 で コ ア 安 定 的 な 配 分 メ カ ニ ズ ム を 得 る こ と の 難 し さ を 表 現 し て い る 。
Gale D and Shapley L (1964) : College Admissions and the Stability of Harriage. American
hlathematica
Shapley L and Scarf H (1974) : On Cores and Indivisibilities. Journal Economics l: 23‑37.
Sonmez T (1999) : Strategy‑Proofness and Essentially Single‑Valued Cores.
67: 677‑89.
88―
Econometrica
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 小 野 浩 副 査 教 授 板 谷 淳一 副査 助教授 町野和夫
学位論文題名
Incentive Compatibility of Allocation IvIechanisms in Discrete Economic Environments
(離散的経済環境における配分メカニズムの誘因両立性)
本論文は「離散的経済環境における配分メカニズムの誘因両立性」と題され、
全体として
4
っの章から構成され、英文タイプA4版57ぺージにとりまとめら れている。 本論文で扱っている問題は、経済学にとって重要なトピックスの ーっである財の純粋交換の均衡の問題である。 これはミクロ経済学のコアの 問題として必ず取り扱われる基本的な研究問題である。 しかし、ここでは通 常のテキストで取り扱われるような可分な財を対象としていない。 ここで対 象とするのは分割不可能な財である。 分割不可能な財を扱っている経済学に おける有名な問題として、住宅市場(housing markets)と結婚問題(marriageproblems)
がある。 これらの問題は、前者はShapley and Scarf (1974)
、後 者はGale and Shapley (1964)の有名な論文で研究されている。 これらのモデ ルを含んだ一般的なモデルはSonmez (1999)によって提示され、本論文はこの論 文に大きく依拠している。 本論文で考察する状況は以下のようなものである。有限数の個人からなる経済を考える。
この経済には有限個の分割不可 能な財しかなく、初期状態で各財は誰かが所有している。 しかし、初期の財 の保有状況が必ずしも望ましいものではないかもしれない。 それゆえ、財の 再配分の問題を考える。 再配分後は個々の財は再び誰かに所有されている。
しかも実現可能橙配分にはあらかじめ決められた制限がある。 各個人は可能 な配分の集合上に選好順序を持つ。
さて、いまこの再配分プロセスを外部か ら実行したい「計画者」を考える。
このとき、計画者の立場から最適な配分 を実行するのに、この計画者は各個人の選好にかんする情報を収集しなければ ならない。 (初期配分と実現可能な配分のりストは既知とする。) 特にこの 論文では、計画者が個人に選好を直接たずねるようなメカニズム(直接メカニ ズムとよぶ)のみに焦点をしぼっている。 この状況は、経済を構成する個人
にとっては、ある種の戦略型ゲームとして読むことが出来る。 このプロセス が目的どおりに働くには、個人のインセンティブと両立するようにしなければ ならない:計画者は各個人に選好の報告を要求する。 しかし、選好はもと もと個人情報であるので、ある個人は偽りの選好の基づいた報告をして、再配 分結果を自分に有利なように歪めることが出来るかもしれない。 これを「操 作」と呼ばう。 操作が不可能なメカニズムがあれば理想的だが、これは要求 が高すぎるかもしれない。 操作が可能でも、このゲームの均衡においては操 作がなかったのとほば同じ結果を生ずるようなものなら、より望みがあるかも し れ な い 。
こ の 種 の 問 題 を こ の 論 文 で は 考 察 し て い る 。
この論文では、
コアの意味で安定的な配分を指定するようなメカニズ ムの誘因両立性に注目している。 このため、(1)配分メカニズムの操作不可 能性の数学的な性質を(特に「単調性」との関係)を究明している。 この結 果をふまえて、(
2
)コア安定性をみたし、しかも操作が不可能な配分メカニズ ムの特徴付けを考ている。次に(3)コア安定性をみたす配分メカニズムが、「どの程度」操作可能なのかを考察している。
論文の構成は以下のようである。
この論文の第1章では、このモデル の2つの特殊ケース
(marriage problem
およびhousing market)
ですでに得ら れている先行業績と、Sonmez (1999)によるこのモデルでの結果を紹介する。つ づく各章での議論は、これらの結果を踏まえた形で展開され、著者独自のこの 分野での貢献を示している。第2章では配分メカニズムの操作不可能性と「単 調性」との関係を究明し、メカニズムの強い意味での操作不可能性が「単調性」の性質に等しくなることが証明されている。第3章ではコア安定性をみたし、
しかも操作不可能な配分メカニズムの問題を取り扱っている。 この問題に関 しては、すでSonmez(1999)が、配分メカニズムがコア安定的でかつ操作不可能 である必要条件を示している。 その
Sonmez
の必要条件とは、コア配分が(本 質的に)常にちょうどーっだけ存在するという条件である。 この論文では、ある付随的な条件のもとで、Sonmezの必要条件が実は十分条件でもあることを 示している。
最後に、この論文の第4章では、上で述べた条件が必ずしも満 たされていない一般的な場合における、コア安定的配分メカニズムの操作可能 性について分析している。 分析は以下のように行われている。 コア安定的 配分メカニズムを任意に選ぶ。 ここではゲーム論の
3
つの均衡概念、Nash均 衡、Strong Nash均衡およびStrict Strong Nash均衡を取り上げる。 各均衡 概念で、均衡において実現する配分の集合とコアとの関係を調べる。 このと き均衡配分が常にコアの中に入っていれば、このメカニズムは(たとえ操作を 許すとしても)、個人がその均衡概念にしたがって行動する限り、結果としてコ ア安定的な配分を実現する、ということになる。 っまり、そのようなことが 起こるにはどの均衡概念を選べればよいか、というのがここでの問題となる。均衡概念は、個人がどの程度他の個人に関して情報を持っているかを反映して
いる。
したがって、選ばなければならない均衡概念が「強い」(より豊富な情 報を仮定するという意味で)ものであれば、考えていたメカニズムの操作可能 性は高いということになる。 この論文では、結局上の3っの均衡概念のうち 最も強いstrict strong Nash均衡を選ばなくてはならないことを証明している。
し た が っ て 、 一 般 的 に コ ア 配 分 メ カ ニ ズ ム の 操 作 可 能 性 は 高 い 。
結論として、この論文で示された一群の結果は、直接メカニズムを考え たとき、誘因両立的でコア安定的な配分メカニズムを得ることの難しさを表現 している。
以上のような要旨によって構成されている本論文にっいて、審査委員会 の評価は以下のようである。
(
1
)論文全体を通じて問題意識が明確であり、そのために必要とされる分析 手法が適切に使用されている。(2)
本論文では、分割不可能な財を対象とした配分メカニズムについて、こ れまでのhousing markets
やmarriage problemsといった古典的な問題を整理 し、独自の貢献を行っている。 審査委員会においても、高宮君のこの分野で の貢献は高く評価された。(3)
本論文で得られた独自の結果を導出するにあたって、同氏が十分な理論 的能カのあることは明らかであり、この分野では将来の活躍が十分に期待され る。以上の所見を総合して、提出された本論文は執筆者の自立した研究者と しての資質と能カを確認するのに十分値するものと、審査員全員の合意を得た。
本審査委員会は本論文を博士(経済学)の学位授与に値するものと判断した。