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(ストレンジネス核物理における微視的シミュレ―ション)

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(理学)奈良 学位論文題名

/Iicroscopic Simulation for Stra,ngeness Nuclear Physics

(ストレンジネス核物理における微視的シミュレ―ション)

学位論文内容の要旨

侃爵・甼

  現在、重粒子(バリオン)は、中性子(n)、陽子(p)の他に、A,E,三,Q,A+c,&(2455), 三+c,=o,喫,A2,など多くの種類の存在が確認されている。さらに、これらの共鳴状態もそ れぞれのバリオンに対して約10種程発見されている。原子核物理の最近の研究対象は、こ れらの重粒子を含んだバリオン多体系すべての性質を研究することである。このような多体 系の例として、ハイパー核、デルタ物質、ストレンジ物質、クホークグルーオンプラズマな どがある。ハイパー核は通常の原子核にハイペロンを1個以上含む原子核である。核子当た りの入射エネルギー数lOGeVの高エネルギー重イオン反応では、デル夕物質が作られると 予想されている。また、核物質は中性子と陽子の他にハ粒子を含んだほうが、安定に存在で きると予言されていて、このようなストレンジ物質が宇宙の中に安定に存在している可能性 があることが示唆されている。超相対論的重イオン反応では、ハドロンの閉じこめが解放さ れて、クォークグルーオンプラズマ状態が生成されると予想されている。この状態を実験室 で作ることによって、クォークの閉じこめ問題や、宇宙初期の状態を研究できると期待され ている。

  本研究の対象とするバリオン多体系はハイパー核である。ハイパー核は、例えば、K一粒 子を原子核に入射して、7r粒子を捕まえることによって作ることができる。この反応は、原 子核の中で、Kーp→A7rというストレンジネス交換反応が起こり、生成 されたA粒子が原 子核の中に止まり、Aハイパー核を作ることをねらったものである。これまで、ハイパー核 の研究は主に、その存在形態を調べるなど、低エネルギー領域が中心であった。最近は、ハ イパー核生成反応における、高励起領域にも大きな関心が寄せられている。この領域では、

どのような反応が起こっているのであろうか。この領域の研究には、.N―体系の自由度を陽に 扱えるモデルが必要である。一方、重イオン反応では、最近めざましぃ進展があり、反応過 程に特別な仮定をすることなしに、重イオン反応のダイナミックスの時間発展を追うことの できる、微視的輸送理論(微視的シミュレーション)が成功を修めてきている。微視的シミュ レーションは、核子が作る平均場の中の運動を古典的に追い、さらに、平均場以外の効果を 取り入れるため、2体衝突項 を確率的にいれたものである。重要な量子効果として、2体衝 突のパウリブロッキング、粒子生成、共鳴粒子の崩壊、粒子の吸収なども取り入れている。

  本研究の目的は、ハイパー核反応の高励起領域を微視的シミュレーションを用いて、研 究することである。具体的には、K一粒子を原子核のクーロン軌道から吸収させる反応f静 止K―吸収反応)により生成されるハイパーフラグメントの生成率を実験と比べることによ り、その生成機構を解明する。また、(K−,K十)反応のK+粒子スペクトルを再現するため

‑ 77ー

(2)

には 、多 段 階過 程が 重要 であ る こと を示 す。 最後 に 、静 止竃 ←吸 収 反応 で生 成さ れる ダブル Aハイパー核の生成率を 予言する。

  本 研 究 で 用 い た 微 視 的 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン は 、 量 子 分 子 動 力 学(quantum molecular dyー namlcs,QMD)、 反 対 称 化 分 子 動 力 学(antisymmetrized molecular dynamics,AMD)、 核内 カス ケー ド(intra‑nuclear cascade,INC)で ある 。 比較 的エ ネル ギ ーが 高い 場合 は、 原子核 衝 突 は 、 核 内 核 子 間 の2対 衝 突 の 積 み 重 ね で 記 述 さ れ る も の と 期 待 さ れ るた め、 その よう な 、2対 衝 突 の み を シ ュ ミ レ ー シ ョ ン す る モ デ ル を 核 内 カ ズ ケ ー ド 計 算 と 呼 ぶ 。2核 子 が TNN二 ニ 、 佑 而 以 内 の 距 離 に 近 づ く と き に 実 験 的 に 決 め ら れ た 角 分 布 に 沿っ て、 確率 的に 2核 子 を 散 乱 さ せ る 以 外 は 等 速 運 動 す る む の とす る。2対 衝突 にお いて は 、粒 子生 成も 確率 的 に 取 り 入 れ ら れ て い る 。 比 較 的 エ ネ ル ギ ー が低 い反 応 、あ るい は、 原 子核 衝突 で生 成さ れる 、フ ラ グメ ント など を調 べ たぃ 場合 には 、核 子 がっ くる 平均 場 の効 果が 重要 とな ってく る 。2対 衝 突 に 加 えて 、核 子を ガウ ス 波束 で表 現し 、そ の 波束 の中 心が 、 平均 場か らの カを 受け てニ ュ ート ン方 程式 に従 っ て運 動す るよ うに し たモ デル が量 子 分子 動力 学と 呼ば れるも の で あ る 。QMDで は 、2対 衝 突 に お い て2核 子 の 位 相 空 間 が 他 の 核 子 に 占 有 さ れ て い る 場 合 に は 、 パ ウ リ ブ ロ ッ キ ン グ さ れ る と 見 な し 散 乱 を 禁 止 す る 。 こ のQMDに さ ら に 核 子 の フウ ルミ オ ン性 をあ らわ に考 慮 する ため 反対 称化 を 取り 入れ たモ デ ルと して 反対 称化 分子動 力学がある。

  K― 粒 子 が 原 子 核 に 吸 収 さ れ 、 核 子 と 反 応 し てAあ る い は 、E粒 子 を 作 ると かな り高 励起 な 状 態 が 生 成 さ れ る。 この 状 態か ら、 ハイ パ ーフ ラグ メン トと し てい ろい ろなAハ イパ ー核 が生 成さ れ るこ とが 知ら れて い る。 最近 、田 村ら が 、こ の反 応で 生 成さ れる ハイ パー フラグ メ ン ト の4AHの 生 成率 をい ろい ろな 原 子核 ター ゲッ トで 測 定し た。 ハイ パ ニフ ラグ メン トの 生 成 機 構 を 解 明 す べ く 、 上 記 の 微 視 的 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン の1つ で あ る 、AMDを 適 用 し た と こ ろ 、 標 的 核9Be,12C,160に つ い て は 、 実 験値 を再 現す るこ と がで きた 。AMDシ ミュ レー シ ョ ン は 次 の よ う な反 応機 構 を与 える 。160で は、 ハイ ペ ロン 複合 核が 作 られ 、そ の統 計崩 壊に より 、 災Hフ ラグ メ ント が生 成さ れ る。12Cで は 、えHフ ラグメント生成率の約半分 は、ハ イ ペ ロ ン 複 合 核 か らの 統計 崩 壊か らの 寄与 で 説明 され 、残 りは ダ イナ ミカ ルに12Cが壊 れ、

比 較 的 小 さ ぃ ハ イ パー フラ グ メン トか らの 統 計崩 壊か ら生 成さ れ る。9Beでは 、ダ イナ ミカ ル に 生 成 さ れ る ハ イ パ ー フ ラ グ メ ン ト か ら の 寄与 と、 直 接9Beの 中の アル ファ ー粒 子 とK― が 反 応 し て 、 失Hが 作 ら れ る 機 構 と で 説 明 さ れる 。ま た、QMDによ り、7r一運 動量 分布 もよ く再 現で き るこ とを 示し た。 こ れは 、モ デル が反 応 の全 過程 の時 間 発展 をよ く扱 えて いるこ とを意味しているもの である。

  ス ト レ ン ジ ネ スS‑―2を 持 っ た 系 の 研 究 を す る た め 、(K− ,K+) 反 応 が最 近、 注目 を浴 びて いる 。 この 反応 は、 はじ め 、原 子核 の中 にミ : 粒子 を作 る、あるいは、ダブルAハ イパー 核 を 作 る こ と を 目 的と した も ので あっ たが 、 軽い 核か ら重 い核 ま で、K十 の運 動量 を測 った とこ ろ、 三 のプ ロダ クシ ョン の みで は説 明で きな ぃ 大き なス ペク ト ルが 見ら れた 。現 在、実 験 的 に は こ の 反 応 に よ っ て 生 成 さ れ る と 予 想 さ れ るS‑−2の 系 は 見 つ か っ て い な ぃ が 、 将 来S‑―2の 系 の 生 成 機 構 を 理 解 す る 上 で 、(K− ,A'+)反 応 に お け るK+運動 量分 布の 解釈 が 強 く の 望 ま れ て い る 。 こ の 問 題 は 次 の プ ロ セ ス で 理 解 で き る こ と をINC計 算で 示し た。

1)Eと‑(1350)プロダクション、2)4(ao,fo)プロダクションと その崩壊:¢(no,ん)‑K‑K十、

3)2段階過程:K‑〃→ MY(*),MN′→K(*)y(*)ここで、M ‑7r,p 可 u,ゲ,Y ‑A,E, Y゛‑A(1450),A(1520),E(1385)で あ る。 この よう な計 算 ができるのは、微視的シミ ュレー ションを適用したため である。

  以 上 の よ う に 、 微 視 的 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン は 重 イ オ ン 反 応 だ け で な く、K一 粒子 入射 反応 に よ る 、 ハ イ パ ー 核 生 成 反 応 の 理 解 に も 、 非 常 に 有 効 な モ デ ル で あ る こ と を 示 し た 。

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(3)

学位論文審査の要旨

主 査

  

教 授

  

石 川 健 三 副 査

  

教 授

  

和 田

  

宏 副 査

  

助 教 授

  

加 藤 幾 芳

副 査

  

講 師

  

大 西

  

副査

  

助教授

  

岡部成玄(情報処理教育センター)

学 位 論 文 題 名

Microscopic Simulation for Strangeness Nuclear Physics

( ストレンジ ネス核物 理におけ る微視的 シミュレ ーション )

  ストレ ンジネスを含む原子核は、近年の原子核物理のーつのフロンティアとして注目を浴びている が、これ までの理論的な研究としてはその低励起状態のみが主たる研究対象となっていた。しかしな がら、最 近ではハイパー核生成反応における高励起領域にも大きな関心が寄せられている。この高励 起領域で は、少数の自由度のみが励起されるのではなく、多数の自由度が励起されて破砕につながる ため、で きる限り多くの自由度のダイナミクスをあらわに扱えるモデルが必要となる。一方、重イオ ン反応の 分野では最近めざましい進展があり、反応過程に特別な仮定をすることなしに、重イオン反 応のダイナミックスの時間発展を追うことのできる、微視的輸送理論(微視的シミユレーション)が成 功を修め てきている。本論文は、近年発達してきたシミュレーションの方法を用いることにより、ス トレンジ ネスを含む原子核の生成反応について、特にその高励起状態に着目し、理論的に研究した結 果をまとめたものである。

  本論文 で示された研究内容は、(1)静止Kー吸収反応からのハイパーフラグメント生成機構の研 究、(2)(K―IK十)反応の反応機構の研究、(3)静止三ー吸収反応で生成されるダブルAハイパー破片生 成の研究、という3つの対象にわたる。以下では、学位論文の中心となっている(1)、(2)の内容の要 旨をしめす。

  (1) の静止K一吸収反応から生成 されるハイパーフラグメント4AHの生成機構については、これ までは、 まず熱平衡状態に達した複合核が形成され、そこからの統計崩壊によるものである、と理解 されていたが、様々な標的核についての実験値を定量的に議論できる段階ではなかった。本論文では、

微視的な シミユレーションにより、標的核の質量数の変化に伴い、主たる生成機構が、ハイペロン複 合核生成 、ダイナミカルな破砕、直接反応と変化する事、また、これらの生成機構の変化が標的核の 構造を反 映している事を明かにした。さらに、ここで行われたシミュレーション結果の妥当性が、反 応の様々な段階から現れる7r一粒子の運動量分布が実験値をよく再現する事、5AHeの生成確率の予言値 が理論計 算の後に行われた実験によ り測定された値を再現している事、の2点から支持されている。

  (2)で扱 われ た(K−,K十)反応は、 ストレンジネスS=―2を持っ た系の研究をするうえで現在 特に注目されている。この反応は、はじめ、原子核の中に三粒子を作る、あるいは、ダブルAハイパー 核を作る ことを目的としたものである。現在、実験的にはこの反応によって生成されると予想される S=―2の系 は見 っか っ てい なぃ が、 将来S=―2の 系 の生 成機 構を 理解 す る上 で、 (K―,K+)反 応の反応 機構、特にどのような核が残されるか、という問題は分野にとって重要な問題であると言え る。しか しながら、これまで実験的 に観測されたK+粒子のスペク卜ルを理論的に理解する事は困難 であった 。特に問題となっていたのは、残留核が大きな励起エネルギーをもつ領域であり、多自由度 をあらわ に取り扱える微視的な研究が待望されていた。本論文では、上記のスペクトルが通常扱われ

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(4)

ていた1段階過程に加えて、一旦生 成された重い中間子の崩壊、及び中間状態で中間子が伝搬する2 段階過 程を考慮に入れる事により、実験値が再現できる事を示した。このような評価は、素過程の断 面積を 定量的に評価し、反応機構についての特別な仮定をおかずに得られたものであり、信頼性が高 いもの である。この理解が正しいとすると、(K ‑,K+)反応では多数の様々なハイペロンの共鳴状態 が 生 成 さ れ る こ と を 示 唆 し て お り 、 今 後 の 実 験 的 な 研 究 を 促 す も の と な っ て い る 。   以上 のように、本論文で示された研究は、高励起状態のストレンジネスを含む原子核反応のダイナ ミクス の研究を、定量的に信頼できる形としては初めて可能にしたものである。さらに、本研究は微 視的な シミュレーションをこの領域 に適用した初めての研究であり、これらの2点から、大変優れた 研究と ぃえる。これを要するに、著者は、ストレンジネスを含む原子核反応の研究におぃて、新しぃ 方法を 導入することにより、新しぃ知見を得たものであり、ハイパー核の研究に対して貢献するとこ ろ大な るものである。

  よっ て審査員一同は、著者が北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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参照

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