博 士 ( 薬 学 ) 小 島 学 位 論 文 題 名
四本の水素結合に基づく相補的塩基対を 含 む 新 規 核 酸 に 関 す る 研 究
―イミダゾピリドピリミジンヌクレオシドの合成,および オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド 中 に おけ る 諸 性質 につい て―
学位論文内容の要旨
直
DNAは遺 伝情 報 の担 い手 とし てそ の 保存 、伝 達を 行 って いる 。DNAの 二本 鎖構 造 は主 に、
1) 二 組の 相補 的な 塩基 対(A:T,G:C)に よる 水素 結 合の 形成 、2)この塩基対の積み重な り によ るス タッ キ ング 効果 、お よ び3) 糖部 、 リン 酸部 、塩 基 部に よる親水性、疎水性の相 互 作用 によ り二 重 らせ ん構 造を 形 成し 、そ の熱的安定性を維持し ている。また、これらの相 互 作用 は核 酸一 蛋 白質 問な どで の 分子 認識 にも関与しており、様 々な生体機能の調節に深く かかわっている。
著者 は天 然核 酸 の構 造や 機能 を 参考 にし て、非天然型の新規核 酸を創製することを計画し た 。 特 に 水 素 結 合 と 二 本 鎖 の 熱 的 安 定 性 と の 相 関 〔 天 然DNAで は 、A:T( 二 本 の水 素結 合 )、G:C( 三本 の水 素 結合 )の 二組 の塩 基 対に より 二本 鎖が 形 成さ れ、GCリ ッ チな 配列 ほ ど安 定な 二本 鎖 を形 成す る〕 に 着目 し、 天然には存在しない四 本の水素結合による相補的 な 塩基 対を 形成 す るヌ クレ オシ ド を合 成す れば 、こ の 塩基 対を 組み 込んだDNAでは熱的に非 常 に安 定な 二本 鎖 が形 成さ れる の では ない かと考えた。そしてこ のような機能を有する新規 塩基対による非天然型核酸の合成を計画し、四種の新規三環性化合物、イミダゾ[5.,4.:4,5]ピ リド【2.3‑d]ビリミジンヌクレオシド(NN,00 NO,ON)をデザインした。NN体と00体、No体と ON体は それ ぞれ 四 本の 水素 結合 に よる 塩基 対形 成が 可 能で あり 、DNA二本鎖内ではこの四本 の 水素 結合 形成 に よる 二本 鎖の 安 定化 が期 待できる。さらにこれ らの化合物では塩基部にイ ミ ダゾ ール 環‐ ビ リジ ン環 ‐ピ リ ミジ ン環 からなる三環骨格を有 しているため、天然型の核 酸 塩基 と比 ベ芳 香 環の 広が りに よ る強 いス タッキング効果が予想 され、この効果により二本 鎖 のさ らな る安 定 化が 期待 され る 。こ のよ うな機能を有する核酸 誘導体の合成は今までに報 告 例が なく 、そ の ためDNA二本 鎖内 にお ける 様 々な 性質 の解 析 を行 うことは非常に意義深い ことであると考えられる。
目的化合 物のうち、NN体はAICA2.‐ デオキシリボシドより誘導した4.シアノ‑5‑ヨードイミ ダゾールヌ クレオシドと4‐アミノ‑2‑ク ロルピリミジンの有機スズ 化合物との間でのバラジウ ム触媒を用 いたクロスカップリング反応 を利用して合成した。他の 化合物も同様にイミダゾー ル ヌク レオ シド の ヨード体と2,4置換 ピリミジンの有機スズ化合物 を用いて合成した。まず、
NMR測 定、 およ びNOE実 験 によ り合 成し た化 合 物の 立体 構造 解析 を 行っ た。 そし て 、四 種の 化 合物 はい ずれ も 糖部パッカリング様 式がC2.‑endo構造であり、 グリコシル結合回りの配向 がanti配座 をと っ てい るこ とを 明 らか にし た。 この 構 造は 天然 のDNA二本鎖内におけるデオ キ シヌ クレ オシ ド の構 造に 類似 し てお り、 三環性化物を用いて合 成した非天然型核酸も天然
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型 に 類 似 し た 構 造 に よ り 二 本 鎖 を 形 成 可 能 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 っぎ に糖 部 保護 体を 用い て 温度 可変NMR測定 を行 い、 予 想し た塩基対が形成可 能であるか 検 討し た。 そ の結 果、No体 、ON体 はそ れぞれ単独で四 本の水素結合によるアンチ パラレル型 の 二量 体を 形 成し てい るこ と がわ かっ た。No体とON体 の1対1混合溶液ではこの二 量体のシグ ナ ルに 加え 予 想し たN°体 とON体の 間で の 塩基 対形 成を 示 すシ グナルが観察され た。げ体と Oo体につ いても塩基対が実際に形成 されることを確認した。
続い て、 三 環性 化合 物を オ リゴ ヌク レオ チド 中 に導 入し 、NN体と00体、No体 とON体 との 塩 基対 がDNA二 本鎖 内 でも 形成 可能 であ る かを 調べ た。 各 三環 性化合物は塩基部 を適切に保 護 した 後ア ミ ダイト体へと 変換し、DNA自動合成機によ りoligoI〜IVを合成した。OligoI,II は17 merの中心に一残基三環性化合 物を導入した配列であり、oligo III,IVは中心に連続三残 基 の三 環性 化 合物 を導 入し た 配列 であ る。この二組の 二本鎖について熱変成法に より50q0融 解 温度 、お よ び自 由エ ネル ギ ー変 化を 算出 し、 こ れら の結 果を 比較することによ りDNA二本 鎖内にお ける三環性化合物の水素結 合能の評価を行った。
oligo.I,IIを用いた場合では二本 鎖の融解温度の差が小さく、ほとんど塩基特異性が観察さ れなかっ た。一方、三環性化合物を 中心に連続三残基導入したoligo. III,IVの二本鎖では、い ず れの 化合 物 にも 特徴 的な 塩 基特 異性 が観察された。 このうち最も安定な組み合 わせはや体 とON体 との 組 み合 わせ であ り 、こ のと きの融解温度は 天然型で最も安定なG:C塩 基対よりも 18度高 く、 や 体とON体 の一 組 の塩 基対 あた りG:C塩 基対 と 比較 して6度 以上 の安 定化 効 果が 得 ら れ た 。 こ の 結 果 よ りDNA鎖 内で のNo体とON体の 塩基 対に よる 四 本の 水素 結合 形成 が 強 く 示 唆 さ れ た 。NN体 と00体 の組 み合 わ せで もG:C塩 基対 より 高い 融 解温 度が 観察 され 、 今 回 合成 した ニ 組の 新規 塩基 対 によ る二 本鎖の安定化効 果が示された。その他にもNo:No塩基 対 など いく っ かの 安定 な組 み 合わ せが 見っかったが、 いずれの場合も二本鎖の熱 的安定性と 塩 基対 間で の 水素 結合 形成 能 との 間に 強い相関が観察 された。各三環性化合物は 天然核酸塩 基 と組 み合 わ せた 場合 でも 塩 基特 異性 を示し、同様に 二本鎖の熱的安定性と水素 結合形成能 との相関 が観察された。
また 、オ リ ゴヌ クレ オチ ド 中の 様々 な部位に三環性 化合物を導入した二本鎖の 融解温度の 測 定に より 、 三環 性化 合物 と の塩 基対 による二本鎖の 安定化には、三環性化合物 が連続して 二 本鎖 内に 導 入さ れて いる こ とが 必要 であることを示 した。これは、三環性化合 物による塩 基 対が 天然 型 の塩 基対 に比 べ 嵩高 く、 そのため導入部 位前後の塩基対を不安定化 しているた めである と考えられる。
さら に著 者 は三 環性 化合 物 によ るス タッキング相互 作用の評価を行ない、二本 鎖の安定化 が 三環 性化 合 物同 士、 ある い は三 環性 化合物と天然型 塩基との間での四本、また は三本の水 素 結合 によ る 安定 な塩 基対 形 成と 同時 に、三環性化合 物による強いスタッキング 相互作用も 大 きく 寄与 し てい るこ とを 明 らに した 。またその効果 が塩基部の極性により異な ることが示 唆された 。
最 後 に 三 環 性 化 合 物 を 導 入 し たDNAテ ン プ レ ート と3ZPラ ベル し たプ ライ マー を用 い て Klenow Fragmentにより鎖 伸長反応を行い、三環性化合 物がポリメラーゼの認識に 及ぼす影響 を 調べ 、先 に 示し た三 環性 化 合物 の水 素結合能と、ポ リメラーゼによる認識との 関係の考察 を 行っ た。 三 環性 化合 物を 含 むテ ンプ レートは、天然 のヌクレオシドのものと比 較して低効 率 な が ら 鎖 伸 長 が 起 こ るこ とが わか り 、N0体とO〜 体で は完 全鎖 長 の生 成も 確認 され た 。 dNrP取 り込 み 実験 では 、各 三 環性 化合 物の 相補 的 な部 位へ 取り 込ま れ るdNrPに 特異 性 が観 察 され た。 そ していくっか では水素結合能とKlenowFragmcntIこよる認識に相関関 係が見い出 さ れ、KIenowFragmcntが三 環 性化 合物 を認識する際に は、その水素結合能を認識 し対応する dNlPを取 り込んでいることが強く示 唆された。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 松田 彰 副査 教授 大塚栄子 副査 助教授 周東 智 副査 助教授 井上英夫
学位論文題名
四本の水素結合に基づく相補的塩基対を 含 む 新 規 核 酸 に 関 す る 研 究
一イミダゾピリドピリミジンヌクレオシドの合成,および オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド 中 に おけ る 諸 性質 につ いて―
著 者 は 、 天 然 核 酸 の 構 造 や 機 能 を 参 考 に し て 、 非 天 然 型 の 新 規 核 酸を 創 製 す る こ と を 計 画 し た 。 特 に 水 素 結 合 と 二 本 鎖 の 熱 的 安 定 性 と の 相 関 〔 天 然 DNAで は 、A:T( 二 本 の 水 素 結 合 ) 、GニC( 三 本 の 水 素 結 合 ) の 二 組 の 塩 基 対 に よ り 二 本 鎖 が 形 成 さ れ 、GCリ ッ チ な 配 列 ほ ど 安 定 な 二 本 鎖 を 形 成す る 〕 に 着 目 し 、 天 然 に は 存 在 し な い 四 本 の 水 素 結 合 に よ る 相 補 的 な 塩 基 対 を形 成 す る ヌ ク レ オ シ ド を 合 成 す れ ぱ 、 こ の 塩 基 対 を 組 み 込 ん だDNAで は 熱 的 に 非 常 に 安 定 な 二 本 鎖 が 形 成 さ れ る の で は な い か と 考 え た 。 そ し て こ の よう な 機 能 を 有 す る 新 規 塩 基 対 に よ る 非 天 然 型 核 酸 の 合 成 を 計 画 し 、 四 種 の 新規 三 環性化合物、イミダゾ[5.,4.:4,5]ピリド[2,3―d]ピリミジンヌクレオシド(NN, 00,No,ON)をデザインした。
目 的 化 合 物 の う ち 、NN体 はAICA2. ― デ オ キ シ リ ボ シ ド よ り 誘 導 し た4ー シ ア ノー5− ヨー ド イ ミ ダゾ ー ー ルヌク レオシド と4‑アミ ノ−2−ク口 ルピリミ ジン の 有 機 ス ズ 化 合 物 と の 間 で の バ ラ ジ ウ ム 触 媒 を 用 い る ク 口 ス カ ッ プ リ ング 反 応 で 合 成 し た 。 他 の 化 合 物 も 同 様 に イ ミ ダ ゾ ー ル ヌ ク レ オ シ ド の ヨ ‐ ド体 と 2,4置 換 ピ リ ミ ジ ン の 有 機 ス ズ 化 合 物 を 用 い て 合 成 し た 。 ま ず 、NMR測 定 、 お よ びNOE実 験 に よ り 合 成 し た 化 合 物 の 立 体 構 造 解 析 を 行 っ た 。 四 種 の 化 合 物 は い ず れ も 糖 部 パ ッ カ リ ン グ 様 式 がC2.‑endo構 造 で あ り 、 グ リ コ シ ル 結 合 回 り の 配 向 がanti配 座 を と っ て い る こ と を 明 ら か に し た 。 こ の構 造 は 天 然 のDNA=本 鎖 内 に お け る デ オ キ シ ヌ ク レ オ シ ド の 構 造 に 類 似 し て お り 、 三 環 性 化 物 を 用 い て 合 成 し た 非 天 然 型 核 酸 も 天 然 型 に 類 似 し た 構 造 に より 二 本鎖を形成可能であることが示唆された。