博 士 ( 歯 学 ) 入 江 丈 元
学 位 論 文 題 名
歯に再荷重を加えた際の圧迫側歯周組織の変化 学位論文内容の要旨
緒言
日常の矯正歯科臨床において;`よ、多くの場合、歯に加えている矯正カを1カ月に 1度調整し、荷重を繰り返し負荷することにより歯の移動が行われている。これは、
ゴム 、弾 線等 を吊 いた 矯正 装置 では 、歯 の移 動ど ともに 初期に与えた矯正カが減 衰す るた め、 定期 的な 調整 が必 要な こと によ る。 しかし 、矯正カの再負荷により 生じる歯同組織の変化について;_よほとんど報告がされておらず、また効果的な再 荷重 の与 え方 に関 する 蕊床 的指 標も 得ら れて いな い。そ こで本研究では、再荷重 を 加 え た 際の 圧迫側 歯周 組織 の変 化と 歯の 挙動 につ いて 検索 する こと を=的 とし て、 ネコ の上 顎犬 歯を 遠心 に章 引す る実 験を 行い 、組織 学的手法ならびに三次元 再構築法を用いて検討を行った。
材料ならびに方法 1.実験方法
実験 動物 とし て、全身状態および歯同組織の健康な雄の成ネコ4匹を用い、上顎 第 三前 臼歯 を固 定源 に矯 正用 クロ ーズ ドコ イルスプリングを用いて上顎犬歯を遠 心 に章 引し た。 荷重 の大 きさ は初 期荷 重、 再荷重ともに100gに調節した。また、
荷 重 の 作 用 期 間 に つ い て は 、3匹 のネ コの 左側 に初 期荷 重を1週、2週お よび4週 間加え(1週例、2週.例、4週例)、右側に4週間の初期荷重後、再荷重をそれぞれ1 週 、2週お よび4週間 加え た(4÷1週例 、4÷2週例、4÷4週例)。また別のネコに 対して、左側に4週間の初期荷重を、右側に;―よさらに1週間の再荷重を加えた(4 週例、4十1週例)。
2.組織切片作製法
実験 終了 後、 ブァ ン固 定液 によ って 濫流 固定を行い、犬歯を歯同組織とともに 切 り出 し、 脱灰 後、 試料 を通 法に 従い セロ イジンに包坦した。これちの試料を厚 さ30y[IIで連続薄切し、ヘマ卜キシリン・ニユニオジン染色を施した後、光学頭徴鏡で 観察を行った。
3.三次元再構築法
連続 切片 から4枚 おき に1枚 切片 を抽 出し 、顕徴筑写真を撮影した。その印画上 で 基準 点、 歯根 、歯 槽壁 、変 性組 織、 破骨 細胞の位置と分布をトレースした。こ れらのデータから、三次元画像ぎ♀析ソフ卜(コスそゾーン2SB)を用いて、三次元 再構簗を行った。
結 果
1) 初期 荷重 例(1週 、2週 、4週 )
(1)組 織像
遠心 側歯 頚部で絃、1週例で変性組織が帯状に幅広く認められたが、穿下性骨吸 収 や浅 部で の背部骨吸収の進行により、4週例では変性組織と歯槽骨が柱状にいく
っ か に 分 か れ て 認 め ら れ た 。 近 心 側 根 尖 部 で は1週 、2週 、4週 例 と 時 間 の 経 過 と と も に 、 変 性 組 織 は 次 第 に 縮 小 し て い た 。
(2) 三 次 元 再 構 築 像
遠 心 側 歯 頚 部 でI. よ 、1週 例 で 頬 舌 的 に 幅 が 広 く 、 根 尖 方向 へ舌 状に のび 出し た変 性 領 域 が み ら れ 、 そ の 周 囲 に 穿 下 性 骨 吸 収 お よ び 直 接 性 骨 吸 収 に 関 与 す る 破 骨 細 憩 が き わ め て 広 く 分 布 し て い た ,2週 例 で 憾 そ の 変 性 領 域 の 輪 郭 が や や 不 規 則 に な り 、 変 性 領 域 に 重 な っ て 浅 部 で の 背 部 骨 吸 収 に 関 与 す る 破 骨 細 胞 が み ら れ た 。4週 例 で は 変 性 領 域 の 輪 郭 は き わ め て 不 規 則 に な っ て い た 。 直 接 性 骨 吸 収 の 領 域 で は 破 骨 紹 胞 が 減 少 し て い た が 、 変 性 領 域 の 周 囲 な ら び に こ の 領 域 に 面 し た 歯 槽 壁 に は 穿 下 性 骨 吸 収 や 背 部 骨 吸 収 に 関 与 す る 破骨 細胞 が多 く分 布し てい た。 また 別の4.週 例で は、
変 性 領 域7‑い く っ か に 分 割 さ れ た 細 長 い 島 状 領 域 と し て 確 認 さ れ 、 破 骨 細 胞 の 多 く は そ の 周 囲 に 分 布 し て い た 。 近 心側 根尖 部で ;− よ、1週 例 で根 尖部 付近 に頬 舌的 に幅 が 狭 く 歯 頚 側 に 向 か っ て 細 長 い 変 性 領 域 が み ら れ た が 、2週 、4週 例 と 経 時 的 に 小 さ く な っ て い た 。 破 骨 細 胞 は 、1週 例 で は 根 尖 か ら 歯 根 の 中 央 部 に ま で 幅 広 く 窘 に 分 布 し て い た か 、2週 、4週 例 と 経 時 的 に 減 少 し て い た 。
2) 再 荷 重 例 (4÷1週 、4十2週 、4十4週 )
(1) 組 織 像
遠 心 側 歯 頚 部 で ; ‐ よ 、4十1通 例 で4週 例 と 同 様 に 変 性 組 織 と 歯 槽 骨 の 柱 状 の 構 造
! が み ら れ 、 こ の 変 性 組 織 は 内 変 性 帯 と そ の 両 側 の 無 細 胞 帯で 構成 され てい た。 しか し 、4十2週 お よ び4十4週 例 で は 、 無 細 胞 帯 の み が 観 察 さ れ る も の や 、 狭 い 内 変 性 帯 と そ の 両 側 の 広 い 無 細 胞 帯 か ら 構 成 さ れ て い る も の が み ら れ た 。 ま た 特 に4十4 遷 例 でr‑、 歯 槽 骨 表 面 か ら 骨 が 短 い 突 起 状 に 残 存 す る 部 位 も み ら れ た 。 近 心 側 根 尖 部 で は 、4÷1週 例 の2個 体 と も に 変 性 組 織 が 観 察 さ れ ず 、 歯 槽 壁 に 沿 っ て 直 接 性 骨 吸 収 に 関 与 す る 破 骨 細 胞 と し て 観 察 さ れ た 。4十2週 お よ び4÷4週 例 でf. よ 、 柱 状 の 歯 槽 骨 に 面 し て 変 性 組 織 が 観 察さ れた 。破 骨細 胞f‐よ 変 性組 織の 周囲 にわ ずか にみ ら れ た 。
(2) 三 次 元 再 構 薬 像
遠 心 側 歯 頚 部 で は 、4十1週 例 で 歯 槽 頂 部 に 隈 局 し て 、 破 骨 細 胞 の み ら れ な い 変 性 組 織 の 小 さ な 領 域 が 観 察 さ れ た 。 し か し 、4十2週 伊 亅 でl‑歯 槽 頂 部 近 く の 変 性 領 域 に も 、 破 骨 細 胞 が み ら れ た っ4十4週 例 で は 修 復 が す す ん で 変 性 領 域 の 輪 郭 は 極 め て 不 規 則 に な り 、 そ の 大 き さ も さ ら に 縮 小 し て い た 。 近 心 側 根 尖 部 で 弦 、 変 性 領 域 ; _ よ4÷1週 例 の2個 体 と も に認 めら れな かっ たが 、4十2週、4+4週例 でf. よ、 隈局 し た 小 さ な 領 域 と し て 観 察 さ れ た 。 破 骨 細 胞f_ よ 、4十1週 例 で は 根 尖 部 か ら 齒 頚 側 約2/3を 越 え て 密 に 分 布 し て 、 い た が 、4十2週 、4十4週 例 と経 時的 に分 布領 域I. よ総 小 し て い た 。
考察
今 回 の 実 験 に お ぃ て 、 変 性 組 織 が い く っ か に 分 割 し て 残 存 す る よ う に な る 初 期 荷重 1週例および再荷重例で;‐よ、内変性帯と無細胞蕎チ撒様)‑な様相を呈していた。 すな わ ち4週 例 や4÷ | 週 例 の よ う に 変 性 組 織 や こ れ に 面 す る 残 存 歯 槽 骨 の 幅 が ま だ 広 い 場 合 に は 、 広 い 内 変 性 帯fと そ の 両 側 の 幅 の 狭 い 無 細胞 帯か ら桝 成さ れる もの が観 察さ れ、4十2週例 や4十 1週例 で;―よ、内変性4fの 狭いものや鴛細胞謝fのみで 桝成さ れる もの が多 くみ られ た。 さら に4十 ′1週例 で ;. よ、 短い突起状の歯槽骨に面 する部 位 で 、 変 性 組 織 が 修 復 組 織 に 置 き 換 わ っ て い る 例 も み ら れ た 。 こ れ ら の 変 性 組 織の 様相 は、 以下 の繊 序に よる もの と考 えら れる 。 再荷 盈時 に変性組織の周囲で;‐ よ穿下 性骨 吸収 や浅 部で の背 部骨 吸収 等が すす み、 散 在す る変 性領 域f.よ さら に いく っか に 分 割 さ れ る 。 そ の 後 、 小 区 域 に 散 在 す る 変 性 組 綜 と 、 こ れ に 対 応 し て 残 っ た 歯 槽骨 は 側 方 か ら の 吸 収 を 受 け る 。 こ の 時 、 歯 槽 骨 の 吸 収 が 先 行 す る た め に 変 性 組 織 の両 端 部 で 圧 が 減 じ て 組 織 液 が 還 流 し 、 内 変 性 帯 で あ っ た 部 位 に 無 細 胞 帯 が 生 じ る 。さ
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らに歯槽骨の吸収がすすみ狭い柱状を呈するようになると、.変性組織全体にゆるみ が生じ、無紹胞帯のみになっていくことが亨隹測された。ま・た、このように4 キ2 週 例の 変性 組織は、内変性帯の狭いものや無細胞帯のみで構成されるものが多くみら れた こと 、さ らに 三次 元再 構築 像の 4 ÷1 週例 では 変性 領域の 残る 歯槽頂部付近に 破骨 細胞 がほ とん ど見 られ なか った が、 4 ÷2 週例 では みられ るよ うになったこと から、再荷重後2 週間で初めて再荷重に対する組織反応が生じたことが示唆された。
さら に、 実験 歯の 挙動 につ いて は、 4 ÷1 週例で近心側根尖部の破骨細胞の分布が1
週例 に比 して齒頚側に向かって分布がより拡大したこと、遠心側歯頚部の歯槽頂部
付近 で破 骨細胞がみられない領域が認められたことから、再荷重直後、実験歯は遠
心側 歯頭 部歯槽頂付近に強く押しっけられ、回転中心が歯根中央部から歯槽頂部に
変化 した ことが考えられた。このような再荷重時の歯の挙動は、歯冠の遠心移動が
停i 帯するとともに、歯根の近心移動により歯の傾斜のみが強くなったことを示すも
のであり、結果的に矯正臨床の観点からf ―よ好ましくない移動様相であった。このよ
うな 歯の 挙動を避けるためには、再荷重時には荷重の大きさとともに歯体移動の適
用を考塵ニすべきことが示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
歯に再荷重を加えた際の圧迫側歯周組織の変化
審査は担当者がそれぞれ個別に申請者に対して口頭試問により提出論文の内容と それに関連した学問分野について行った。
日常の矯正歯科臨床において多くの場合月に1 度の割合で矯正装置を調整し歯に 再荷重を加えている。しかし再荷重を加えた際の歯周組織の変化に関する研究はほ とんど報告されていない:そこで申請者はネコ上顎犬歯の遠心移動実験を行い、再 荷重による圧迫側歯周組織の変化と歯の挙動にっき組織学的手法と組織像の三次元 再構築法を用いて検討を行っている。
【実験材料ならびに実験方法】
1 .実験方法
実験動物として、健康な雄の成ネコ4 匹を用い、矯正用クローズドコイルスプリ ングを用いて上顎犬歯を遠心に牽引した。荷重の大きさは初期荷重、再荷重ともに 100g に調節した。また、荷重の作用期間については、3 匹のネコの左側に初期荷重 を 1 週、 2 週および4 週間加え( 1 週例、2 週例、 4 週例)、右側に4 週間の初期荷重 後、再荷重をそれぞれ 1 週、2 週および4 週間加えた( 4 十1 週例、 4 十2 週例、 4 十4 週例)っまた別のネコに対して、左側に4 週間の初期荷重を、右側にはさらに1 週間 の再荷重を加えた( 4 週例、4 十1 週例)。
2 .組織切片作製法
実験終了後、ブアン液によって灌流固定を行い、犬歯を歯周組織とともに切り出 し、脱灰後、試料を通法に従いセロイジンに包埋した。これらを厚さ30Ltm で連続薄 切し、H ーE 染色の後、光学顕微鏡で観察を行った。
3 .三次元再構築法
連続切片から4 枚おきに1 枚切片を抽出し、顕微鏡写真を撮影した。その印画上 で基準点、歯根、歯槽壁、変性組織、破骨細胞の位慰と分布をトレ‥スした。これ らのデータから、三次元画像解析ソフ卜(コスモゾーン2SI3) を用いて、三次元再 構築を行った。
【実験結果】
I )初期荷重例(t 週例、2 週例、・1 週例)
組織像でみると、遠心側歯頚部の変性組織は1 迎例で帯状に幅広く認められたが、
穿下性骨吸収や浅部での背部骨吸収の進行により、 4 週例では変性組織と歯槽骨が 柱状にいくっかに分割していた。近心側根尖部の変性組織は経時的に縮小していた。
三次元像では変性領域、破骨細胞ともに1 週例で最大で経時的に縮小していた。1 週例の近心側根尖部での破骨細胞の分布f 土根尖から歯根の1/2 まで密に分布してい た
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治 稔
光
進
重
村 田
田
中 脇
吉
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
2)再荷重例(4十1週例、4十2週例 、4十4週例)
組 織 像 で は 遠 心 側 歯 頚 部 の4十1週 例 に お い て4週 例 と 同 様 に 変 性 組 織 と 歯 槽 骨 の 柱 状 構 造 が み ら れ た 。 し か し 、4十2週 例 お よ び4十4週 例 で は 、 こ の 柱 状 構 造 は 様 々 な 様 相 を 呈 し て い た 。 近 心 側 根 尖 部 で は 、4十1週 例 で 変 性 組 織 は み ら れ ず 、 直 接 性 骨 吸 収 に 関 与 す る 破 骨 細 胞 が 観 察 さ れ た 。4十2週 例 お よ び4十4週 例 で は 、 わ ず か な変性 組織とその周囲に破骨細胞がみられた。
三 次 元 像 遠 心 側 歯 頚 部 で は 、4十1週 例 で 歯 槽 頂 部 に 限 局 し て 、 破 骨 細 胞 の み ら れ な い 変 性 組 織 の 小 さ な 領 域 が 観 察 さ れ た 。 し か し 、4十2週 例 、4十4週 例 で は 歯 槽 頂 部 に も 、 破 骨 細 胞 が み ら れ た : 変 性 領 域 は 経 時 的 に 不 規 則 な 輪 郭 を 呈 し な が ら 残 存 し て い た 。 近 心 側 根 尖 部 で は 、4十1週 例 で 破 骨 細 胞 は 根 尖 部 か ら 歯 頚 側 約2/3を 越 えて分 布していたが、経時的に分布領域は縮小していた:
【結論 】
1.初期荷重例の遠心側歯頚部では 、経時的に歯槽骨の吸収が進行し、4週例では柱状の歯槽 骨とこ れに面する変性組織が残存して認められた。
2.再荷重4十1週例では、遠心側歯 頚部の変性領域の歯槽頂部付近に破骨細胞のみられない 部 位 が 認 め ら れ 、 同 部 の 歯 根 膜 は 再 荷 重に よっ て 強く 圧迫 され てい ると 考え られ たュ 3. 再荷 重4十1週 例の近心側根尖部では、初期荷重1週例に比べて、破骨細胞の分布が 歯頚 側方向 により広がっていることから、再荷重によって実験歯の回転中心が歯頚側よりに移動 し た も の と 考 え ら れ た 。 そ の 後4十2週 例 で は 破 骨 細 胞 の 分 布 は 縮 小 し て い た 。 4.再荷重4十2週例の遠心側歯頚部 では、無細胞帯のみで構成される変性組織がみられ、歯 槽頂部 付近にも破骨細胞がみられたことから、再荷重に対する 歯周組織の適応は再荷重後2 週間で 生じたものと考えられた:
5.今回の実験では、再荷重後に遠心側歯頚部を支点として実験歯の傾斜のみが強くなったこ と か ら 、 再 荷 重 時 に は 荷 重 の 減 少 や 歯 体 移 動 を 考 慮 す べ き こ と が 示 唆 さ れ た 。 以 上 の よ う に 本 論 文 は 歯 に 再 荷 重 を 加 え た 際 の 歯 周 組 織 の 変 化 お よ び 歯 の 挙 動 に つ い て 詳 細 に 検 討 し た 点 、 こ れ か ら の 矯 正 歯 科 臨 床 に 資 す る と こ ろ 大 で あ る 。 よ っ て 申 請 者 は 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 を も っ も の と 認 め た っ