1.開発経過
1.1 開発の趣旨 産業分野の約 30%超のエネルギーを消費している石油・化学関連産業では、その内 40% のエネルギーが分離精製を目的とする蒸留プロセスで消費されており、CO2発生による地球 温暖化の防止の観点からも、この多量なエネルギー消費は大きな課題である。これまで両 産業分野では長年に亘って効率改善に努力してきたが、効果は頭打ちになってきており、 革新的で工業的な省エネルギー技術開発にかける期待は大きい。その中で膜分離プロセス は大規模な省エネルギー化を達成しうる有力な候補の一つである。 また、このような化石燃料消費に起因する地球温暖化の問題に加え、化石燃料の多くを 中近東などに依存するわが国として、エネルギー依存の一極集中リスクを避け、需給バラ ンスを取るために代替燃料の開発が急務でもある。このような目的から、化石燃料とコス ト競合性があるバイオ燃料製造プロセス開発が極めて重要な課題でもある。 以上のような社会的背景・必要性から、今回本システム技術の開発を行ったものである。 また、以下に示す当社の技術開発の背景(歴史)があり、これらの成果が今回の技術開発 を行う上で大きな基盤となっている。 1.2 開発経緯 ① セラミック材料技術の開発と事業化 当社では 1982 年頃からセラミック技術開発並びにその事業化を検討した。その一環とし て図 1-1 に示す様なアルミナ製セラミック膜(フィルター)の事業化にも進出した。 図1-1 日立造船製セラミックフィルター経済産業省
産業技術環境局長賞
日立造船株式会社
第 37 回 優秀環境装置この中でセラミック多孔質体の製造法(押し出し成形法、スラリーコート法、各種成形・ 接合法)の研究開発を行った。本技術は当時のある課題を解決できなかったことで事業化 は中断したが、研究・高度化の努力はその後も継続し、今回のゼオライト膜エレメントの 基幹部材である一体型アルミナ支持体製造に対する基盤技術へ発展した。 ② 有機膜を用いた脱水システムの研究 1982 年頃、石油燃料価格の急騰といった石油ショック問題が生じ、化石燃料代替技術の 開発、そして低コストなバイオエタノール製造プロセスの開発に対する期待が高まった時 期に、当社は今回と同じ観点から省エネルギー型の脱水膜システムの開発に取り組んだ。 ここで用いた膜は有機膜(再生セルロース型)であり、化学品メーカーの協力の下で膜を 提供して頂き、当社はその有機膜を用いた脱水膜システムの開発を行った。 残念ながら、有機膜特有の膨潤現象により耐久性の見通しが立たず本開発は中断し、耐 久性に優れる脱水膜の必要性の面から、今回の新型ゼオライト膜エレメントを用いた脱水 システム開発に移行した。
2.装置説明
2.1 構造、原理 ① 新型ゼオライト膜エレメント 今回採用した NaA 型ゼオライト材料は、その結晶構造中の α-cage に約 0.41nm(4.1Å) サイズの超微細な孔を有した、いわゆる規則性ナノ多孔質結晶である。この 0.41nm(4.1Å) の分子篩機能を発現することの応用・用途として、様々な候補が考えられるが、その筆頭 として分子サイズが約 0.35nm(3.5Å)の水に対する脱水膜としての用途が挙げられる。 そこで今回はまず脱水システムを開発する事とし、この観点から種々の技術開発を行った。 図 2-1 にゼオライト膜エレメントの外観写真を示す。サイズとしては直径が 16mm、長さ が 1150mm であり、後述(2.7 項参照)するように、一体型アルミナ製支持体の外表面にゼ オライト薄膜がコーティングされている構造である。 一体型アルミナ製支持体は、アルミナ質セラミック材料を使用し、その膜部は後述する ように物質の透過流速(例えば脱水速度)向上の観点から微細構造を徹底的に追及し、そ 図2-1 ゼオライト膜エレメントの外観 封止側 開口側の結果、強度特性とガス透過性の両特性に優れたアルミナ質多孔質管の開発に成功した。 製造法としては、該多孔質管は、押し出し成形法、湿式成膜法を用いて製造し、次に緻密 なアルミナ部材(プラグ、チューブ)をその両端に、焼成法によって接合することで一体 型のアルミナ製支持体を作製した。最後に、水熱合成法にて NaA 型ゼオライトをコーティ ングする。この水熱合成法に関しては二次結晶成長法を採用した。 図 2-2 に膜部の SEM 像を示す。多孔質支持体上(外表面)に緻密なゼオライト層が形成 されていることがわかる。セラミック材料が有する力学的な特性を考慮し、原料は膜エレ メントの外表面に供給し、水成分をエレメント管の内部に透過させる方法でエタノールと 水を分離する方法を開発した。 ② 膜モジュール 膜モジュールは膜分離システムの核となる機器である。要求される特性としては以下が 挙げられる。 a 運転流動状態に起因する物質移動抵抗が小さいこと。 b 膜エレメントにより均一な圧縮応力が加わることが望ましいこと。 c 膜エレメントに振動(チューブ振動)などが生じないこと。 d メンテナンスが容易であること。 e その用途(カスタマーメリット)に相応の工業的コストであること。 a の観点では、膜表面の原料の濃度分極現象が重要な要因となる。従って、原料流れはよ り乱流状態であること(Re 数が大きいこと)が望ましい。原料蒸気の乱流状態を得るため の膜モジュールの構造として、シェル&チューブ型の構造を採用し、前述した b~e の特性 も考慮し、膜エレメントに片持ちなどの曲げ応力が生じないよう、縦型・吊り方式の膜モ ジュール構造を考案した。図 2-3 にその外観と内部構造の模式図を示す。各膜エレメント は金属チューブ(外管)に挿入された構造(二重管構造)となっており、原料蒸気はこの 外管と膜エレメントの空隙を流れることになる。 図2-2 ゼオライト膜部の SEM 像 ゼオライト薄膜 多孔質 セラミック チューブ 原料:エタノール(5Å) 水(3.5Å) 製品:エタノール(5Å) 水 (3.5Å)
膜表面の微構造
膜断面の微構造
A型ゼオライト結晶孔の有効径≒4.0Å③ 脱水システム(日立造船式ゼオライト膜脱水システム:HDSTM) a. 膜分離方法の概要 膜分離のプロセスとして図2-4に示すように、原料を液体状態のまま膜へ供給して分離さ れる浸透気化(PV)法と、原料が気化された後に膜へ供給して分離される蒸気透過(VP) 法の2種類が挙げられる。 熱的に変質しやすい原料などの特殊な条件を除けば、物質の透過流速、例えば脱水速度 は膜の一次側(非透過側)と二次側(透過側)の水分圧差に比例するため、一次側の水分 圧が比較的容易に高められ、また原料中の不純物なども除去しやすい気化方式のVP法が工 業的な面で有利と考えられる。VP法では原料が一旦気化器に供給され、加圧蒸気状態の原 図2-3 膜モジュール外観と内部構造(模式図) 図2-4 浸透気化法(PV 法)と蒸気透過法(VP 法)
Ste am
Rete ntae
( 無水アルコール)
Perme ate
( 透過物: 水)
Pe rvaperation (PV: 浸透気化法)
Vapor Pe rme ation (VP: 蒸気透過法)
原料
(液体) 気化器 (蒸留塔) 膜モジュール 凝縮器Retentate
(無水アルコール)
Ste am
Rete ntae
( 無水アルコール)
Perme ate
( 透過物: 水)
Pe rvaperation (PV: 浸透気化法)
Vapor Pe rme ation (VP: 蒸気透過法)
原料
(液体) 気化器 (蒸留塔) 膜モジュール 凝縮器Retentate
(無水アルコール)
Retentate (無水アルコール) エタノール エタノール水 水 エタノール 水料として膜モジュールへ供給される。膜の二次側は透過した水分が凝縮器により液化され ることで減圧状態が維持される。図2-2及び2-4に示すように、含水エタノール原料は膜エ レメント外表面上を流れながら水分が膜エレメント内部に透過し、その結果Retentateとし て無水エタノールが得られることになる。 なお、当社独自のゼオライト膜を用い上述したような特徴を有する脱水システムを「HDS」 として2008年に商標登録を行った。 b. 膜脱水システムと蒸留システムとの組合せ ここではバイオエタノール製造用の無水化システムについて例示する。図2-4に示すよう な蒸気透過法(VP法)において、原料蒸気を得る手段として、図2-5に示すような加圧蒸留 塔を用い、塔頂の加圧蒸気をそのままダイレクトに膜モジュールへ供給するケースと、図 2-6に示すような蒸留塔からの塔頂蒸気を一旦凝縮・液化したものを気化器に供給し、再度 加圧下で蒸発した後に膜モジュールに供給するケースがある。 無水エタノール1Lを製造する上で、蒸留塔や気化器で消費するエネルギーをシミュレー ションすると、図2-5の加圧蒸留塔ダイレクトシステムでは3,100kJ/L、図2-6の常圧蒸留塔 を用いて一旦凝縮し、次に気化させるシステムで4,340kJ/Lとの結果が得られた。省エネル ギーの面からは図2-5のダイレクトシステムが望ましいが、加圧蒸留塔では一般に不純物の 除去が困難であり、この場合膜の目詰まりを解消するための洗浄などのメンテ費用が嵩む リスクがある。さらに、加圧蒸留塔では蒸留塔内部(棚段や充填物)にスケールが付着し やすく、棚段や充填物の洗浄のためのメンテナンスコストも嵩むリスクや、プラントの安 定運転へ支障をきたしかねないことなどのリスクもある。従って、プラント仕様(原料種、 運転期間、ユーティリティ条件など)を十分に考慮し、いたずらに効率を追及するのでは なく、様々なリスクやコストを総合的に考慮して、どのようなシステムを選択するかを決 定するべきである。 図2-5 加圧蒸留塔と膜システムのハイブリッドシステム 発酵液 無水 EtOH 廃水 加熱蒸気 蒸留塔 ゼオライト膜モジュール 10wt% 製品エタノール 99.5wt% 3,100kJ/L 91wt% 透過液 (主に水) 消費エネルギー 3,100kJ/L-EtOH
2.2 特許の有無 本開発の新型ゼオライト膜エレメントとその脱水システム関連の特許については、商標登 録も含めて、計24件が既に出願されている。 2.3 性能 2.7項でも後述するが、当社では多孔質アルミナ支持体の微構造(気孔率や気孔径など)や その製造条件(温度、素地、種々の添加剤など)について多大な実験を行い、膜透過性能(透 過するときの抵抗)におよぼす素材因子や製造条件の効果を徹底的に究明した。 その結果、膜中の微細な多孔質内の水のモビリティが飛躍的に向上し、図2-7に示すように、 A社に対し約2倍、B社に対し約6.5倍の脱水性能を持つ高性能なゼオライト膜エレメントの開 発に成功した。図2-7は原料としてエタノール/水=90/10wt%を用い、130℃での蒸気透過法 (VP法)にて同一の測定条件下での脱水性能の比較である。A社、B社とも国内企業であり、 このようなセラミックス技術をベースとする製品・機械はわが国が世界的に最も進んでいる と言っても過言ではないが、図2-7から分かるように、当社が開発したゼオライト膜エレメン トは既往の技術レベルを陵駕している。 なお、水選択性(分離係数)も膜分離における重要な性能指標であるが、当社が開発した 新型のゼオライト膜エレメントの分離係数(下式による計算方法)は数1,000以上であり、十 分な水選択性も併せて具備している。 (水濃度/エタノール濃度)透過液 (水濃度/エタノール濃度)原料 一方、透過係数(脱水速度)と乱流因子である原料蒸気のRe数との関係について、130℃で のVP条件下で測定した結果を図2-8に示す。透過係数はRe数と共に向上し、調べた範囲では正 の相関にあることが判る。既往の研究ではRe数がある値以上で透過係数はほぼ一定値に漸近 する傾向が報告されている。本開発では膜での透過抵抗を低減できたために、濃度分極の効 図2-6 常圧蒸留塔と膜システムのハイブリッドシステム 分離係数= 発酵液 廃水 加熱蒸気 蒸留塔 10wt% 3,573kJ/L 92wt% 気化器 ゼオライト膜 モジュール 透過液 (主に水) 製品エタノール 99.5wt% 無水 EtOH 消費エネルギー 4,340kJ/L-EtOH 767kJ/L
果が既往の研究例に比べてより影響を及ぼすことになり、濃度分極の低減に貢献するRe数の 増大に伴い、透過係数は更に増大したものと考えられる。 なお、図2-7にて当社が開発した膜エレメントの脱水速度は約50 kg/m2h であると示したが、 これは図2-8中の破線で囲んだデータに相当する。Re数が増大すればさらに脱水速度が向上す る現象は確認されたが、実プラントへの応用を図る場合には、原料蒸気流れで生じる圧力損 失を考慮する必要があり、特に後段の膜モジュールではその圧力損失の影響により、膜一次 側の静圧低下に伴う水分圧差(膜を透過する駆動力)の低下を招くため、十分に考慮して設 計する必要がある。 2.4 維持管理 システムの運転操作性については、プロセスがシンプルゆえ、定常状態では非常に安定し た温度・圧力下でシステムが運転制御される。また安全性についても、圧力・温度センサー 等の保安装置を設置して危険状態を検知し、異常時には自動停止させるロジックが組まれて おり、停電時などでもフェールセーフとなるように設計されている。 メンテナンスについては、膜の取り換えや洗浄、さらに一般的な圧力容器法定検査、ポン プ部品取り換えなどの項目がある。膜の取り換えについては、膜モジュールの蓋を開けて交 換しやすいようにモジュールを配置しており、当社作成の要領書に基づき、現地で作業が容 易に行えるよう配慮されている。 維持管理コストの面では膜の耐久性(性能劣化)が重要な要素となるが、この耐久性は、 膜自身の性能劣化(例えば材質の変質など)に起因する内因的なものと、不純物付着(目詰 まり)などによる外因的なものの2つの因子に依る。当社の膜エレメントは、前述したように 全て高耐久性の無機材料から構成されており、内因的な面での耐久性は優れていると考えら れる。従って、外因的な理由による膜性能低下が耐久性に関わることになるが、それは供給 原料に含まれる不純物の状況によって変わってくる。現在納入した1号機では運転開始後既に 2年を経過したが、膜の脱水性能低下やそれに起因する現象は観察されていない。今後の運転 試験結果を通じてさらに長期間の耐久性の実証が見込まれ、その場合維持管理コストは相応 に低減される。 一方、膜の目詰まりやダメージ等の管理は運転データから解析が可能であり、経過データ から膜の交換時期は予測可能である。また仮に膜がダメージを受け、エタノールが透過側へ 0 10 20 30 40 50 60 Hitz 膜A (同社技術資料) 膜B (同社技術資料) 脱水速度 / kg / (m 2 ・ h r) 6.5倍 2倍 日立造船
VP方式-130℃
E/W=90/10 wt/wt
0 10 20 30 40 50 60 Hitz 膜A (同社技術資料) 膜B (同社技術資料) 脱水速度 / kg / (m 2 ・ h r) 6.5倍 2倍 日立造船VP方式-130℃
E/W=90/10 wt/wt
日立造船 A社 B社 脱水速度 [kg /m2h] 透過係数 [kg /m2hPa] Re 数 図2-7 日立造船製ゼオライト膜と他社の比較 図2-8 透過係数と Re 数の比較漏れても、脱水機能は継続されることから、製品エタノールの品質は維持され、特にシステ ム停止・膜交換などを緊急で行う必要はない。 以上述べたように、信頼性が高いゼオライト膜を開発し、またシステム上でもフェールセ ーフの設計に配慮することで、信頼性の高い脱水システムの提供を可能としている。 2.5 経済性 定量的に比較説明が容易なバイオエタノール用脱水システムにて例示する。無水エタノー ル製造用のシステムとして、本膜システム以外には以下が挙げられる。 ① 共沸蒸留システム(図 2-9 参照) ② 吸着システム(PSA 法とも呼ばれる、図 2-10 参照) 共沸蒸留システムとは、エタノール/水系で存在する共沸現象を逃れるため、亜共沸域ま で通常の蒸留法で濃縮した後、シクロヘキサンやベンゼンなどのエントレーナを加え、エタ ノールとエタノール・水・エントレーナの3元系共存物(低沸物)に蒸留・分離することで無 水エタノールを得る方法である。図2-9に示されている通り、蒸留塔にて消費される総エネル ギーは8,000~10,000 kJ/Lと非常に多いことが分かる。
吸着システムは、一般に PSA(Pressure Swing Adsorption)システムと呼ばれ、本膜エレ メントと基本的に同じ材料である A 型ゼオライトの造粒物が吸着剤として一般的に使用され る。現在米国ではこのプロセスがバイオエタノール製造プラント用の脱水システムとして多 用されている。このシステムの課題は、水分が吸着された吸着剤の再生工程(水分除去)に ある。一般に再生工程では、キャリアガスとして吸着工程で製造された無水エタノールの数 割が使用される。そして再生工程で排出される物質には約 70%(図 2-10 では 72wt%)のエタ ノールが含まれており、この高濃度のエタノールを回収するために蒸留塔へリサイクルされ る。この分の新たなエネルギーが蒸留工程で必要となり、結果として無水エタノール製造の ための消費エネルギーが 4,860 kJ/L となる。図 2-6 と比較すると、本膜システムの消費エネ ルギーが PSA システムに比べて、蒸留工程を含めて約 11%、脱水工程だけなら約 26%削減され ており、省エネルギー性が向上していることがわかる。 以上の結果を表2-1に要約した。膜システムを使用することの省エネルギーメリットは、そ の前提条件として米国における中堅規模のエタノールプラント(500kL/day、年産15万トン) で、プラントのユーテリティエネルギーコストとして6円/kWhと仮定すると、PSAシステムに 対し年間1.5億円であると算出される。 表 2-1 各種脱水システムの運転エネルギーの比較(500kL/day、年産 15 万トン) 膜分離(HDSTM) PSA 共沸蒸留 「蒸留塔+脱水工程」 エタノール 10%⇒99.5% 4,340 kJ/L 4,860 kJ/L 8,000~10,200 kJ/L 「脱水工程」 エタノール 92%⇒99.5% 767 kJ/L 1,044 kJ/L 膜システムの 省エネルギーメリット 「蒸留塔+PSA」システムに対し、 年間約 1.5 億円のメリット
2.6 将来性 前項2.5で説明したとおり、既存脱水技術である共沸蒸留やPSAと比較しても、経済性の面 で優れていることから、HDS導入実績の増大や実績を通じての信頼性向上に従って、本HDSが 新規採用又は代替されていくことが期待される。一方で、既にPSAなどの脱水装置を所有して いる事業者においては、既設備を最大限有効に活用することを望む傾向があるために、かよ うな場合にはHDSにてリプレースする動機が低いのが現状でもある。 そこで、このような既にPSAなどの設備を所有する事業者に対して提案できるシステムを考 案し、我々はそれをレトロフィット型のHDSと称している。図2-11はPSAが既存するときにレ 図2-9 共沸蒸留システム 図2-10 PSA システム 30~50% 発酵液 廃水 94% 10wt% エントレーナ 3000kJ/L デカンタ 製品エタノール 99.5wt% 無水EtOH 消費エネルギー 8,000~10,200kJ/L-EtOH もろみ塔 濃縮塔 濃縮塔 脱水塔 脱水塔 溶剤 回収塔 溶剤 回収塔 1500kJ/L 3000~ 3200kJ/L 500~2500kJ/L 92wt% 発酵液 廃水 蒸留塔 PSA塔 10wt% キャリアガス 72wt% 3,816kJ/L 加熱蒸気 気化器 製品エタノール 99.5wt% 無水 EtOH 1,044kJ/L 消費エネルギー 4,860kJ/L-EtOH (再生) (吸着)
トロフィットHDSを導入する場合の一例である。PSAプロセスでは前項2.5での説明の通り、吸 着材の再生工程から排出されるキャリアガスのエタノール濃度は約70%もあり、そのエタノー ルを蒸留工程で処理するエネルギーがPSAの運転エネルギーを増大させている。一方、HDSは 幅広い水分含有量の原料に対して適用できるという優れた特長を有していることから、図 2-11のようにPSAからのキャリアガスを蒸留塔へ戻すラインにHDSを設置することにより、こ のHDSからも製品エタノールを取り出すことが可能となる。その結果、これまで蒸留塔に戻さ れていたキャリアガスのリサイクル分の蒸留負荷を減らすことができ、省エネ効果が生まれ ることになる。また蒸留塔へキャリアガスが戻らない分だけ、発酵液をより多く供給するこ とが可能となり、結果として既設の蒸留塔サイズを大きくしなくても、エタノール増産が可 能となる。 バイオエタノール以外の用途として、他の有機溶剤(例えばIPAやアセトンなど)の脱水・ 再生利用にも利用することが可能である。 2.7 独創性 ① オールセラミックス+一体型(シールレス)構造 図2-12に従来のゼオライト膜エレメントの製法、および当社が開発した新型ゼオライト 膜エレメントの製法を示す。従来は両端が開口状態の多孔質支持体にゼオライト薄膜が合 成されていた。しかし膜モジュールに膜エレメントを格納するために、金属部材(管板) と接続する必要があることから、従来はゼオライト薄膜合成後に、金属プラグや金属チュ ーブを樹脂製の熱収縮チューブでシール(接続)したゼオライト膜エレメントが作製され ていた。しかしながら、この熱収縮チューブ材料固有の特性上、加熱状態が続くことで材 料が硬化し、弾力性が失われ、シール性が著しく悪化する可能性がある。 また、物質の膜透過速度を増大するためには、透過の駆動力である膜一次側(原料側) の物質の温度、圧力を増大することが有効な手段であるが、この樹脂製のシール材の特性 (加熱硬化現象)に起因して、運転の温度や圧力におのずと制約(上限)があった。 図2-11 PSA へのレトロフィットの一例
HDS
発酵液 排水 蒸留塔 キャリアガス 加熱蒸気 PSA塔 無水 EtOH 無水 EtOH (再生) (吸着) 気化器このような背景から、当社は樹脂材料(熱収縮チューブ)などを含まず、全て無機材料 から一体型(シールレス構造)で構成されるゼオライト膜エレメントの開発を行った。す べて無機材料化とすることで、耐久性に優れ、より高温、高圧の条件下でも運転すること が可能となった。図 2-12 に示すように、一端が緻密質封止構造で、もう一端が緻密質で開 口構造であり、中央部が多孔質状の一体型のアルミナ製支持体を作製し、次にその支持体 の外表面上にゼオライト薄膜を水熱合成法により製膜することで一体型のゼオライト膜エ レメントを作製する一連の製法を開発した。 ② 高透過性 膜を透過する物質の速度に関して、例えば脱水膜の場合は脱水速度に相当するが、以下 のような関係式で与えられる。 膜の原料(一次)側と透過(二次)側の水分圧の差 分離膜素材の抵抗+運転環境に起因する抵抗 上記式から、脱水速度を向上させるには以下の方策がある。 a 分離膜の原料(一次)側の水分圧を増大する b 分離膜の透過(二次)側の水分圧を低減する c 分離膜素材の透過抵抗を低減する d 運転環境に起因する抵抗(濃度分極)を低減する a、bはシステムを運転する際のユーティリティと密接な関係と制約が有り、dは膜モジュー ルを設計する際に決められるため、膜エレメントを開発する上で重要な課題はcになる。 ここで分離膜素材の抵抗は、物質(水)がゼオライト薄膜内を透過する際の抵抗と多孔 質支持体内を透過する際の抵抗という2つの抵抗の和として考えられる。ゼオライト薄膜の 抵抗はゼオライト種が決定された後は、主に薄膜の膜厚に依存する抵抗である。一方支持 図2-12 シール構造の膜エレメントと一体型シールレス構造の膜エレメント 脱水速度= 端部部 材 と 接 合 ( シ ー ル ) 接合部材 ゼオ ラ イ ト 薄膜合成 多孔 質セ ラ ミ ッ ク チ ュ ー ブ シール構造の膜エレメント (従来方式) 端部部材 (例:金属) 多孔質部 (アルミナ) 緻密質部 (アルミナ) 一体 型セ ラ ミ ッ ク チ ュ ーブ ( オ ー ル セ ラ ミ ッ ク ス 製) ゼオ ラ イ ト 薄膜 合 成 Hitz 一体型構造の膜エレメント 緻密質部 (アルミナ)
体の抵抗に関しては、因子が多く、またそれぞれの相互作用があるため慎重に取り組む必 要がある。この支持体の抵抗を検討する上で重要である、多孔体内の物質の拡散速度は以 下のように与えられる。 係数×気孔率×気孔径1~2×差圧 厚み×屈曲率 従って、低い透過抵抗の膜を開発する上では、膜を構成する多孔質支持体の微構造として、 気孔率や気孔径を増大させ、厚みや屈曲率を低減することが重要である。 以上のような観点から、当社では支持体の微構造やその製造条件について多大な実験を 行うことで、前述 2.3 項に記載の脱水性能を達成することに成功した。 2.8 今後の規制に対する対応策 現状では障害となっている規制はない。
3.応用分野
これまでの記述内容は、現在当社で商用化にまで至っているNaA型ゼオライトを適用した膜 について説明したものである。しかしながら、このゼオライト種は使用条件が限られている ため、さらに用途を拡大するために、他のゼオライト種の開発にも着手している。表3-1にて 現在当社で取り組んでいるゼオライト種を挙げる。 表 3-1 当社が取り組んでいるゼオライト膜の種類 ゼオライト種 Si/Al 比 結晶孔径 用途例 NaA 型 1.0 4.0Å 低含水/中性有機媒体の脱水 NaY 型 3.0 7.5Å 高含水/中性有機媒体の脱水 CO2等のガス分離 MOR 型 8~10 6.0Å 酸性有機媒体の脱水 ZSM-5 型 10~12 5.5Å 高温・高圧下での 各種ガス分離・精製 種々の用途において、各々のゼオライト種の適性があるため、今後の用途展開では着実に 検証を進めた上で実用化を図ることが必要ではあるが、脱水以外の分野で考えられる用途の 一例を以下に述べる。 (1)CO2分離 地球温暖化に最も影響を及ぼしている CO2を経済的に分離可能となれば、さまざまな用途 に対して適用が可能となり、地球環境保全の目的からもその工業化は極めて意義が大きい ものである。分離対象となる媒体としては以下が挙げられる。 ・ ボイラー等の燃焼排ガスや空気中の CO2除去 ⇒ 浄化 ・ 天然ガス田など、燃料製造過程における燃料濃縮(CO2除去) これらの分離には、透過したCO2をどう処理するかが同時に課題となるが、CCS(地中など 移動速度=への固定化)や有価物転換などのプロセスがそのような処理の候補に挙げられる。大規模 な CCS は吸収法を利用して実証試験が行われつつあるが、コスト的に不採算の傾向が高い 中小規模では、このような経済性に優れる膜分離技術が期待されている。 (2)膜リアクター 可逆反応において、反応の原料濃度に対して生成物濃度がある一定の基準に到達すると 平衡状態に達し、反応が進まない現象となる。天然ガスからの GTL 製造など、各種燃料精 製工程にはそのような反応が見られるが、その反応工程に膜を適用することで、生成物を 選択的に透過させることにより生成物を反応系から取り除き、反応を生成側に促進させる 効果をもたらすため、反応プロセスの高効率化(転化率増大)を図ることが可能となる。 例えば、CO2からのメタノール合成は下記の反応式となる。 CO2 + 3H2 ⇔ CH3OH + H2O ここで生成系である CH3OH と H2O を反応系から膜を使って取り除くことで、反応平衡状態 は移動し、上式の右への反応が促進されることになる。そうすることで、原料が生成物へ 転化される割合が大きくなり、反応プロセスが高効率になる。