16
次年度の課題別実施計画案 課 題 番 号 中課題1 事 業 実 施 期 間 平成 29 年度 中 課 題 名 メタボローム・メタゲノム解析による消化吸収特性評価手法の開発 小 課 題 名 主担当者(機関 名・氏名) 理化学研究所・菊地 淳 分 担 者 ( 機 関 名・氏名) 水産研究・教育機構・玄 浩一郎, 高志利宣, 澤口小有美, 樋口健太郎, 相馬智史, 岡 雅一, 塩澤 聡, 森岡泰三, 久門一紀, 橋本 博, 江場 岳史, 馬久地みゆき, 安池元重, 小磯雅彦 理化学研究所・伊達康博, 坂田研二, 朝倉大河 JEOL RESONANCE・西山裕介 鹿児島大学・横山佐一郎 林兼産業・三宅謙嗣, 三代健造, 門田洋二, 大谷諒敬 目的: 本課題では、これまでにスジアラをモデル試料として開発された飼料の消化吸収評価法を、 中課題2との強い連携によりクロマグロに適用して飼料開発のための鍵因子を見出すこと を目指す。そのため、前年度の検討で得られたメタボローム解析やメタゲノム解析の手法に 加えて、さらに人工消化の手法による予備的評価系も構築し、マグロ稚魚飼育期のみに限定 しない飼料成分の酵素分解評価系を推進する。一連の実験室および小・中規模の飼育実験と の統合解析から、クロマグロ幼魚期の消化吸収特性の解明と、高機能・高効率な配合飼料開 発を目的とする。 方法: ・ 中課題2において遂行される、クロマグロ幼魚の消化酵素を用いた人工消化系による飼料原 料および飼料の消化性スクリーニングにおいて、多検体試料を様々な多変量解析手法を駆使 することで鍵因子抽出に結びつける。 ・ 人工消化系実験や、前年度に得られたメタボローム解析によるアミノ酸吸収の評価結果を統 合解析し、有効性の期待される原料を課題1に提示する。これを添加した試験飼料を中課題 2で小規模の飼育環境下でクロマグロ幼魚に与え、消化管内容物、魚体および糞便のメタボ ローム解析およびメタゲノム解析に処する。 ・ 中課題2で遂行される中規模飼育試験試料についても、同様にメタボローム解析およびメタ ゲノム解析に処する。 期待される成果: ・ スジアラをモデル試料として構築してきた各種メタボロームおよびメタゲノム解析手法が、 クロマグロ稚魚の吸収特性評価法として順調に機能する。 ・ 人工消化系による飼料原料のスクリーニング手法が開発され、クロマグロ稚魚生育期に依存 しない事前の酵素評価が可能になる。 ・ メタボローム解析およびメタゲノム解析に基づいた飼料組成の改良方法が実証される。17
課題別実施成果 課題番号 中課題2 事業実施年度 平成 28 年度 中課題名 クロマグロ等における飼餌料評価と高機能・高効率飼餌料の作製 小課題名 主担当者 鹿児島大学・横山佐一郎 分 担 者 水産研究・教育機構・玄 浩 一 郎 , 高 志 利 宣 , 澤 口 小 有 美 , 樋 口 健 太 郎 , 相馬智史, 岡 雅一, 塩澤 聡, 森岡泰三, 久門一紀, 橋本 博, 江場岳史, 馬久地みゆき, 安池元重 理化学研究所・菊地 淳, 伊達康博, 坂田研二, 小松桂子 近畿大学・升間主計, 中田 久 長崎県総合水産試験場・山田敏之, 門村和志, 吉川壮太, 中塚直征 林兼産業・三宅謙嗣, 三代健造, 門田洋二, 大谷諒敬 1. 課題目標(期間全体) 本課題においては、これまでに開発されたクロマグロ幼魚用配合飼料のさらなる高機能化を 目指す。そのため中課題1と連携して、メタボローム解析による飼料および栄養素の消化吸収 特性評価手法を開発し、クロマグロ幼魚の消化吸収特性に基づく飼料中栄養素の適性を評価す る。また、上記の知見を活用した飼料組成の改良と育成成績への影響評価を行う。さらに、消 化管内容物のメタボローム・メタゲノム解析を行い、クロマグロ幼魚の消化・吸収特性に関す る基礎的知見を得る。これらの知見を統合し、成長や生残に優れたクロマグロ幼魚用配合飼料 を開発する。 2. 課題実施計画と成果概要 (1)28 年度計画(目的・方法・期待される成果) 目的: これまでにブリやマダイを用いて実施された飼育試験の結果より、飼料タンパク質の消 化吸収特性は育成成績へ多大な影響を与えることが示されている。特に消化管内でのタン パク消化や遊離アミノ酸の吸収特性は飼料タンパクの利用性を反映することから、これら の評価指標はクロマグロ飼料の開発においても有効と考えられる。一方、クロマグロ幼魚 の飼育実験には多大な労力と大規模な設備が必要なため、本種における栄養・飼料の適性 評価と配合飼料開発は他魚種と比較して遅れている。近年、いくつかの魚種においてメタ ボローム解析による栄養評価が行われているが、同手法を活用したクロマグロ消化吸収特 性の評価手法は確立されていない。 そこで、本課題ではメタボローム解析技術を利用したアミノ酸吸収特性の評価手法を開 発し、特徴的な挙動を示すアミノ酸を選定する。また、遊離アミノ酸量や消化吸収特性の 異なる数種類の試験飼料を小規模な飼育試験下でクロマグロ幼魚へ与え、消化管内容物や 糞便のメタボローム解析によって、これらの消化物に含まれる代謝産物を明らかにする。 加えて、消化管内容物のメタボローム・メタゲノム解析により、クロマグロ幼魚の消化・ 吸収特性についても明らかにする。これらの解析によって、大規模な飼育実験に頼らない 栄養・飼料の評価方法を確立する。18
方法: ・ アミノ酸の吸収において、ネガティブまたはポジティブな作用の予測される飼料原料を選 定する。さらに、遊離アミノ酸の生成量を基準とした魚粉の酵素処理条件を検討する。こ れらの原料を用いて、消化吸収特性の異なる数種類の試験配合飼料を作製する。 ・ 小型水槽を用いる短期間の小規模飼育実験系および採糞方法を検討する。 ・ 小規模飼育実験系において、沖出しサイズ(日齢 30~40)のクロマグロ幼魚へ上記のアミ ノ酸吸収特性の異なる試験配合飼料を与える。消化管内容物および糞便を採取し、NMR を利用した成分の同定、シグナル強度の解析およびメタボローム解析を行う。得られたデ ータをもとに、飼料組成および含有される栄養素とメタボローム解析結果との関連性を評 価する。加えて、クロマグロ幼魚の消化管において特徴的な挙動を示す飼料成分を選定す る。 ・ 消化管内容物のメタゲノム解析を行い、クロマグロ幼魚の消化・吸収特性におよぼす基礎 的知見を得る。 期待される成果: ・ 魚粉の酵素処理時間と遊離アミノ酸生成量の関係が明らかとなる。 ・ 小型水槽を用いた小規模飼育実験系と採糞方法が確立される。 ・ メタボローム解析によって、クロマグロ幼魚の消化過程において特徴的な挙動を示すアミ ノ酸種が明らかとなる。 ・ メタボローム解析結果と飼料組成および飼料成分との関連性を説明できる解析手法が確立 される。 ・ 飼料組成の違いによるクロマグロ幼魚の腸内細菌叢の変化が明らかになる。 (2) 28 年度成果概要 ・ 魚粉の酵素処理時間を延長することによって遊離アミノ酸量の増加が認められた。これら の酵素処理魚粉を用いて、遊離アミノ酸組成の異なる試験飼料を作製した(図 2—1)。上 記に加えてタンパク消化およびアミノ酸吸収酵素処理魚粉、結晶アミノ酸や植物性原料を 組み合わせた試験配合飼料を作製した(表 2—1)(鹿児島大学、林兼産業)。 ・ 1 kL アルテミア水槽を用いた飼育実験の結果、生残率は通常の沖出しと同程度の高い生残 率を得た。また、飼育期間を通じて NMR 分析に十分量の採糞が可能であった(図 2—2)。 これにより、日齢 32~38 日のクロマグロ幼魚を小型水槽で飼育する実験系を確立した。 また 2R 飼育試験においては試験飼料間での有意な成長差が見られた。このことから、飼 料組成の違いがクロマグロ幼魚の成長に与える影響を明らかにするためには、2 週間程度 の飼育期間を要することが示唆された(図 2—3)(水産研究・教育機構、長崎県総合水産 試験場、近畿大学)。 ・ NMR を利用した糞便中のメタボローム解析手法を開発し、主成分分析による解析を行った。 その結果、糞便中代謝物のデータ分布が飼料組成の違いに応じて異なることを明らかにし た(図2—4
)(理化学研究所、水産研究・教育機構)。 ・ 飼料、魚体および糞便のメタボローム解析より、特に吸収性の高いアミノ酸種を明らかに した(図 2—5、図 2—7、
)。また、消化管内容物のメタボローム解析より、胃におけるア ミノ酸の消長がタンパク消化の指標となることが示唆された(図 2—6)
(理化学研究所、 水産研究・教育機構)。 ・ 人工消化系の構築に向けた分析条件の検討を行い、クロマグロ当歳魚における消化管プロ19
テアーゼの至適 pH を明らかにした(図 2—8
)(鹿児島大学、水産研究・教育機構)。 ・ 消化管内容物のメタゲノム解析を行い、飼料組成の違いが腸内細菌叢へ影響することを明 らかにした(理化学研究所)。表2-1.試験飼料組成
酵素処理魚粉区(酵素処理時間) 0 分 (未処理) 30 分 60 分 90 分 アミノ酸 添加 植物 タンパク 酵素処理 0 分魚粉 60.3 56.5 33.8 酵素処理 30 分魚粉 60.3 酵素処理 60 分魚粉 60.3 酵素処理 90 分魚粉 60.3 アミノ酸混合物* 3.7 濃縮大豆タンパク 16.0 コーングルテンミール 8.0 その他 30.7 30.7 30.7 30.7 39.8 42.2 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0*イカナゴシラスの遊離アミノ酸量と同様の含量となるように、結晶アミノ酸(Asp, Thr, Ser, Glu, Pro, Gly, Ala, Val, Met, Ile, Leu, Tyr, Phe, Lys, Trp, Arg)を混合・添加
図2-1.魚粉と配合飼料の遊離アミノ酸組成におよぼす魚粉酵素処理時間の影響
魚粉
20
1R
2R
酵素 0 分 酵素 30 分 酵素 60 分 酵素 90 分 酵素 0 分 アミノ酸 添加 植物 タンパク イカナゴa
ab
b
a
図2-3.小規模飼育実験系において異なる試験飼料を 7 日間(1R)および
14 日間(2R)与えたクロマグロ幼魚の全長(mm)
a, ab, b: 統計的有意差を示す(Tukey-Kramer, p< 0.05)図2-2.小規模飼育実験系において異なる試験飼料を 7 日間(1R)および
14 日間(2R)与えたクロマグロ幼魚の生残率(%)
酵素 0 分 酵素 30 分 酵素 60 分 酵素 90 分1R
酵素 0 分 アミノ酸添加 植物タンパク イカナゴシラス2R
飼育期間(日)
サンプリングによる 個体数の減少21
図2-5.酵素処理時間の異なる魚粉を用いた試験飼料およびクロマグロ
幼魚糞便のアミノ酸シグナル強度とシグナル比(1R 試験)
図2-4.組成の異なる配合飼料を 7 日間(1R)および 14 日間(2R)
与えたクロマグロ幼魚糞便メタボロームの主成分分析(PCA
分析)結果
22
図2-6.酵素処理時間の異なる魚粉を用いた試験飼料のクロマグロ
幼魚胃内(胃内容物)におけるアミノ酸シグナル強度(1R 試験)
図2-7.異なるタンパク質源を用いた試験飼料およびクロマグロ幼魚
糞便のアミノ酸シグナル強度とシグナル比(2R 試験)
23
3. 今後の問題点等 ・ 特になし 4. 成果の公表 ・特になし図2-8.クロマグロ当歳魚における消化管プロテアーゼの至適 pH(赤丸)
24
次年度の課題別実施計画案 課 題 番 号 中課題2 事 業 実 施 期 間 平成 29 年度 中 課 題 名 クロマグロ等における飼餌料評価と高機能・高効率飼餌料の作製 小 課 題 名 主担当者(機関 名・氏名) 鹿児島大学・横山佐一郎 分 担 者 ( 機 関 名・氏名) 水産研究・教育機構・玄 浩 一 郎 , 高 志 利 宣 , 澤 口 小 有 美 , 樋 口 健 太 郎 , 相 馬 智 史 , 岡 雅一 , 塩 澤 聡 , 森 岡泰三 , 久 門一紀 , 橋 本 博 , 江 場 岳 史, 馬久地みゆき, 安池元重 理化学研究所・菊地 淳, 伊達康博, 坂田研二, 小松桂子 近畿大学・升間主計, 中田 久 長崎県総合水産試験場・山田敏之, 門村和志, 吉川壮太, 中塚直征 林兼産業・三宅謙嗣, 三代健造, 門田洋二, 大谷諒敬 目的: 本課題では、これまでに開発された配合飼料の組成を見直し、原料レベルでの改良を行う ことで、成長指標を向上させる配合飼料の作製を目指す。そのため、前年度の検討で得られ たメタボローム解析や人工消化の手法を用いて、飼料原料の適性を予備的に評価し、小・中 規模の飼育実験と消化物のメタボローム解析等を組み合わせて、それらの有効性を多方面か ら評価する。更に、これらの評価手法を用いたクロマグロ幼魚期の消化吸収特性の解明と高 機能・高効率な配合飼料開発を目的とする。 方法: ・ 飼育実験の実施に先立ってクロマグロ幼魚の消化酵素を用いた人工消化系による飼料原料 および飼料の消化性スクリーニングを行う(鹿児島大学、水産研究・教育機構)。また、こ れらの消化産物についてメタボローム解析を行い(理化学研究所)、様々なタンパク質源の 飼料原料としての適性を評価する。 ・ 前年度に得られたメタボローム解析によるアミノ酸吸収の評価結果に基づいて、飼料原料お よび成分量を見直し、有効性の期待される原料を添加した試験飼料を作製する(鹿児島大学、 林兼産業)。これらの試験飼料を小規模の飼育環境下でクロマグロ幼魚に与え、消化管内容 物、魚体および糞便のメタボローム解析を行い、飼料組成の有効性とアミノ酸の消化吸収特 性を評価する(理化学研究所、水産研究・教育機構、長崎県総合水産試験場、近畿大学)。 ・ メタボローム解析により明らかとなった吸収性の特に高いアミノ酸類に着目し、それらを単 独で、あるいは組み合わせて添加した飼料を作製する(鹿児島大学、林兼産業)。さらにこ れらの飼料を用いた中規模飼育試験を実施し、育成成績、体組成分析および血液化学成分分 析の結果を総合的に評価し、飼料の有効性を確認する(鹿児島大学、水産研究・教育機構)。 期待される成果: ・ 中規模飼育実験によって成長指標や生理状態におよぼす配合飼料の影響が明らかとなる。 ・ メタボローム解析に基づいた飼料組成の改良方法が実証される。 ・ 人工消化系による飼料原料のスクリーニング手法が開発され、メタボローム解析との整合性 が明らかとなる。 ・ 成長指標を向上させる栄養素および飼料原料が選定される。25
課題別実施成果 課題番号 中課題3 事業実施年度 平成 28 年度 中課題名 クロマグロ等の初期餌料に適した大型かつ高栄養ワムシ品種の作出技術の開発 小課題名 主担当者 水産研究・教育機構・小磯雅彦 分 担 者 水産研究・教育機構・手塚信弘、川田実季 理化学研究所・阿部知子、市田裕之、常泉和秀、一瀬勝紀、田中拓男、LE Thu 長崎大学・萩原篤志、阪倉良孝、菅 向志郎、金 禧珍 1. 課題目標(期間全体) 重イオンビームは、対象生物の突然変異が効率良く誘発でき、変異形質の固定を短い世代 数で行うことができる等から優れた育種技術として注目されている。本課題においては、様々 な種類や方法(照射量や照射エネルギー等)で重イオンビームを、複数種(シオミズツボワ ムシは 15 種からなる複合種である)の発育段階の異なるワムシや卵に照射して突然変異を誘 発させる。得られた変異集団からアルテミアと同程度に大型サイズで、高増殖能等の有用形 質ワムシを選抜し、世代を経ても有用形質が保持されていることを確認する。さらに、その ワムシに応じた大量培養法や栄養強化法を開発して、栄養的にも EPA や DHA 等の高度不飽 和脂肪酸を高率で含有するワムシを作出する。最終的には魚類種苗生産において餌料として の有効性を評価する。このような手順で研究を進め、重イオンビーム照射による新規高付加 機能ワムシ品種を作出する技術を開発することを目標とする。 2. 課題実施計画と成果概要 (1) 28 年度計画(目的・方法・期待される成果) 目的: 種苗生産の初期餌料として不可欠なワムシについては、種類や発生段階等の異なるワムシに 対して、様々な種類および方法で重イオンビームを照射し、それぞれの照射されたワムシのサ イズを調べて、ワムシの大型化の突然変異誘発のための適切な重イオンビーム照射方法の予備 的検討を行う。なお、大型化したワムシを選別して大型化形質の保存方法を検討する。高栄養 ワムシ等、機能強化されたワムシ品種の作出についても同様に検討を行うことを目的とする。 方法: ・複数種の異なる発育段階のワムシや卵を準備して(長崎大学、水産研究・教育機構)それら のワムシや卵を理化学研究所仁科加速器研究センターへ輸送して、様々な種類及び方法(照 射量や照射時間等)で重イオンビームを照射する(理化学研究所)。 ・照射されたワムシはマイクロプレート等でできる限り多くの個体の個体別培養を行い、それ ぞれの生残や繁殖能力等を調べると共に、突然変異個体の中からサイズ測定を行い、大型化 の有用形質を備えたワムシを選別する(長崎大学、理化学研究所、水産研究・教育機構)。 ・大型化の有用形質を備えたワムシが確認された場合には、世代を経ても有用形質が保持され る保存方法の開発に取り組む(長崎大学、水産研究・教育機構)。26
期待される成果: ワムシに適正な重イオンビーム照射法が開発されることによって効率良くワムシの突然変 異が誘発され、大型化や高増殖能等の有用形質を備えたワムシ品種を作出できる可能性が高ま る。 (2) 28 年度成果概要 ・照射した L 型ワムシ能登島株の輸送に関しては、4℃で 7 日間置いても生残率は 95.8%と高 く、またその後通常培養でも増殖率に顕著な低下は認められないため、冷蔵輸送が有効と考 えられた(水産研究・教育機構)。 ・照射後のワムシの生存率は、非携卵個体よりも携卵個体の方が高い傾向が認められた(水産 研究・教育機構)。 ・アルゴンの異なる線量(200、300、400、600、800 および 1,000 グレイ(以下 Gy と表記)) で L 型ワムシ能登島株(携卵個体の平均背甲長:285±22 µm)に照射したが、全ての線量で ワムシはほぼ全滅し、再生産も 200 Gy で 2,3 個体に認められただけであった(図 3-1、理化 学研究所、長崎大学、水産研究・教育機構)。 ・アルゴンの 200 Gy 以下(25、50、75、100、150 および 200 Gy)の照射では、L 型ワムシ能 登島株は生存が 75 Gy 以下で 80%以上と高くなり、再生産は 100 Gy(再生産率:12.5%)以 下で確認された。これらのことから、アルゴン照射では、50 または 75 Gy がワムシの突然変 異を誘発する適切な線量と推察された(図 3-2、理化学研究所、長崎大学、水産研究・教育 機構)。 ・炭素の異なる線量(100、150、200、300、400 および 600 Gy)で L 型ワムシ能登島株に照射 を行った結果、全ての照射区で再生産が確認された。生存率は線量 200 Gy 以下で 90%以上 と高くなり、300 Gy では 67%程度が確認された。400 および 600 Gy では再生産率が 47%以 下と低下した。これらのことから、炭素照射では、200 から 300 Gy がワムシの突然変異を誘 発する適切な線量と推察された(図 3-3、理化学研究所)。 ・アルゴン 50、75 および 100 Gy 照射後、生存したワムシを任意に 48 個体個別培養し、その 中から目視で比較的大きな 6 系群を選び 2 週間培養後のワムシ体サイズを測定した。6 系群 の中で最大となったものでは、背甲長と背甲幅が有意に増加し(P<0.05)、最大背甲長 371 µm (対照区では 295 µm)の個体が出現した(表 3-1)。このとき、眼点面積が小さくなったこ とから(P<0.05、表 3-2)、走光性の低下が生じていると推測される。また、咀嚼器の大き さは体サイズと相関することが知られているが、今回の照射によって体サイズが大型化した ワムシについても、咀嚼器が大きくなっていることが確認された(P<0.05、図 3-4、表 3-3)。 継代に伴う大型個体の小型化が 9 月(照射条件、アルゴン 50、75 および 100 Gy)に照射さ れたサンプルについて認められたが、7 月の照射分(アルゴン 50 および 75 Gy)については、 大型を維持しており、遺伝子レベルで多様なメカニズムが内在していると推察される(長崎 大学)。 ・アルゴン 50、75 および 100 Gy で照射された L 型ワムシ能登島株(12 穴マイクロプレート 各 4 枚ずつ)から大型個体を選別して個体別培養を繰り返した(水温 20℃、塩分 18 psu;1 回/週)。その結果、50 と 75 Gy で携卵個体の最大背甲長が 350 µm 以上の大型化ワムシが認 められた。なお、75 Gy では照射後 90 日が経過しても 380 µm を超える大型化ワムシが認め られ、大型化の形質が保持されていた。しかし、50 Gy では照射後 60 日前後で突然、多くの 大型化ワムシが再生産せず死亡することで、急に通常サイズに戻る現象が認められた(図 3 -5、水産研究・教育機構)。27
0
20
40
60
80
100
0
2
4
6
8
10
12
14
200Gy 300Gy 400Gy 600Gy 800Gy 1000Gy経過日数(日)
ゴ
生存率
(
%
)
・アルゴン 75 Gy 照射で得られた大型化ワムシを照射後 56 日目からマイクロプレートから 1 L 容器へ拡大し継代培養(大型個体の選別は無し)を行った。その結果、携卵個体の最大背甲 長は 352~380 µm の範囲であったが、平均値(照射後 56 日目:348 µm ⇒ 98 日目:316 µm) と最小背甲長(同:323 µm ⇒ 同:279 µm)は徐々に小型化した。上記の大型化ワムシが再 生産せず死亡することや、徐々に最小背甲長が小型化することで、通常サイズへの“もどり” が起こるのかもしれない(図 3-6、水産研究・教育機構)。図3-1. 異なる線量(200~1,000 Gy)でアルゴン照射されたワムシの生存率-1
図3-2. 異なる線量(50~200 Gy)でアルゴン照射されたワムシの生存率-2
0 20 40 60 80 100 0 2 4 6 8 10 12 14 対照区 25Gy区 50Gy区 75Gy区 100Gy区 150Gy区 200Gy区 生存率 ( % ) 培養日数(日)28
図3-3. 異なる線量(100~600 Gy)で炭素照射されたワムシの生存率
表3-1. アルゴン照射の強度によるワムシ体サイズの変化(
µm)
対照区
イオンビーム照射区
50 Gy
75 Gy
100 Gy
背甲長
281.1±10.7
(267.1-294.7)
341.5±9.1*
(329.4-360.0)
317.1±13.7*
(295.4-339.6)
336.0±18.5*
(297.5-371.0)
背甲幅
208.0±10.9
(192.4-224.2)
232.1±15.0*
(213.1-250.9)
224.1±10.4*
(208.1-238.6)
222.18±10.6*
(212.6-245.1)
平均値±標準偏差、括弧内の数字は体サイズの範囲を表す.
アスタリスクは対照区との有意差を表す(Dunnett test, P<0.05, n=10).
表3-2. アルゴン照射の強度による眼点面積の変化(
µm2)
照射順
対照区
イオンビーム照射区
50 Gy
75 Gy
100 Gy
前回
(7 月 14 日照射)56.2±14.7
(35.6-75.5)
39.6±12.8*
(18.9-58.5)
37.2±12.1*
(23.6-62.8)
39.8±11.5*
(20.7-63.6)
今回
(9 月 13 日照射)116.3±28.5
(52.5-149.3)
54.1±23.5*
(23.3-96.6)
80.2±26.7*
(39.0-120.9)
77.1±22.8*
(35.6-99.0)
平均値±標準偏差、括弧内の数字は範囲を表す.
アスタリスクは対照区との有意差を表す(Dunnett test, P<0.05, n=10).
0 20 40 60 80 100 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 対照区 100Gy区 150Gy区 200Gy区 300Gy区 400Gy区 600Gy区 生 存率( %) 培養日数( 日)29
図3-4. ワムシ咀嚼器の形態および測定部位
A:trophi width、B:anchor length、C:ramus width、 D:ramus length、E:clava distanceなお、現時点では A~E の標準和名は定められていないため、
英語表記のままとした。
表3-3. アルゴン照射(7 月 14 日照射)によって大型化したワムシの
咀嚼器サイズ
咀嚼器(
μm)
A B C D E
対照
50 Gy
77.0±3.4
85.2±9.4*
31.4±3.7
35.4±3.0*
42.2±7.4
40.8±1.3
28.3±3.2
30.1±2.5
51.3±5.5
54.1±2.6
75 Gy
87.2±4.5*
32.2±3.4
40.7±1.4
32.1±2.3* 51.9±3.2
A:trophi width, B:anchor length, C:ramus width, D:ramus length, E:clava distance
なお、A~E の部位は標準和名が定められていないため、英語表記のままとした.
30
図3-5. アルゴン 50、75 および 100 Gy 照射後の個体別培養
での携卵個体の最大背甲長の推移
図3-6. 個別培養で大型化したワムシを 1 L 容器で拡大培養
した時の携卵個体の平均背甲長の推移
260
300
340
380
420
0
15
30
45
60
75
90
50Gy‐1 50Gy‐2 50Gy‐3 50Gy‐4
75Gy‐1 75Gy‐2 75Gy‐3 75Gy‐4
100Gy‐1 100Gy‐2 100Gy‐3 100Gy‐4
携 卵 個 体 の 最大背甲 長(μ m ) 照射後の経過日数(日) 同じ培養条件での対照区の 携卵個体の最大背甲長:313μm 75Gy-1 50Gy-2