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2. デルファイ調査と 2030 年の将来シナリオ

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43 http://doi.org/10.15108/stih.00084 2017 Vol.3 No.2

STI Horizon 2017 Vol.3 No.2

(2017.6.25 公開)

1. はじめに

 3D デジタルデータを用いて 3D プリンティング

(アディティブマニュファクチャリング(AM)注 1)に より立体物を造形するデジタルファブリケーション は、デザインと製造を融合する新しいものづくりとし て注目されている1、2)。製造がデジタルデータ・ベー スとなることで、従来の企画・デザイン・開発・製 造・販売さらにはアフターケア・サービスまでのサ プライチェーンを大きく変革する可能性がある。この デジタルファブリケーションのグローバル展開に向 けて、将来社会を見据えた産業界、学界そして政策面 での対応が求められている。しかしながら、製造技術 のみではなく、経済的及び社会的影響も含めたサプラ イチェーンに関する研究はほとんどなされていない。

 2017 年 4 月、ドイツ・アーヘン工科大学とベルリ ン工科大学の研究グループは、デジタルファブリケー

注 1 米国材料試験協会国際標準化会議において定義された名称。ここでは原著論文3)に則して AM の略称で記載。

注 2 多数の人に同一内容の質問を複数回繰り返し、回答者の意見を収れんさせるアンケート手法。

【 概 要 】

 3D デジタルデータを用いて 3D プリンティング(アディティブマニュファクチャリング)により立体物を 造形するデジタルファブリケーションは、デザインと製造を融合する新しいものづくりとして注目されている。

2017 年 4 月、ドイツ・アーヘン工科大学とベルリン工科大学の研究グループは、デジタルファブリケーショ ンの経済的及び社会的影響に関する 2030 年の将来シナリオを公表した。専門家により 18 トピックを設定し、

実現性やインパクトに関しデルファイ調査を実施、その結果を用いてシナリオを作成した。2030 年の実現可 能性の高いシナリオでは、デジタルファブリケーションが製品の企画から流通に至るサプライチェーン全体に 影響を与えることが示された。さらに、ビジネスモデルと消費者の行動の変化を 2 軸とした 4 つのシナリオで は、それぞれマーケットエクスプローラ、コンテンツプロバイダ、サービスプロバイダ、マスカスタマイザと 製造業の姿が変革する将来が描かれた。

ションの経済的及び社会的影響に関する 2030 年の 将来シナリオを公表した3)。論文ではこれまでの予測 研究のレビューと今回の予測手法や専門家パネルに よる検討についても詳細に述べられているが、ここで はデルファイ法注 2による予測調査結果とそれを基に 作成された将来シナリオについて紹介する。

2. デルファイ調査と 2030 年の将来シナリオ

 デルファイ調査では、文献レビュー、専門家インタ ビューと専門家 90 名によるワークショップ開催等 の検討により 18 トピックを作成した(当初の 92 ト ピック案から 18 に集約)(図表 1)。インターネット ベースの Real-Time Delphi ツール4)を利用し、事前 に選定した専門家パネル 65 名(産業界 41 名、学界 24 名)から回答を得た。それぞれのトピックに対し、

2030 年における実現可能性と、企業及び社会インパ

ほらいずん

デジタルファブリケーションの将来シナリオ

- 2030 年の 3D プリンティングの経済的及び 社会的影響に関する予測研究-

科学技術予測センター 特別研究員 蒲生 秀典

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クト(最小 1~最大 5)の評価及び自由コメントを求 めた。

 デルファイ調査で実現性が高いと評価されたト ピック群を用いて(図表 2)、2030 年の将来シナリ オを作成している。シナリオでは、開発、生産、流 通、知財に関する一連の製品プロセスを、AM が劇的 に変える道筋を示す 2030 年の新しい姿が描かれて いる。

 AM がバリューチェーンの全ての要素に影響を与 える(図表 3)。デジタル化により製品開発は従来 のステージゲートモデルから変革し、市場からの フィードバックにより頻繁にアップグレードがなさ れる(トピック 9)。マルチマテリアル及び電子部品 内臓製品の AM 製造が可能となり製品範囲が大幅に 広がる(トピック 14)。サプライチェーンが全体的 に変わり、例えばスペアパーツは AM によって使用 現場で製造される(トピック 5)。さらに個人消費者 は、ファイル共有プラットフォーム(トピック 17)

とオンライン購買(トピック 12)を利用し、データ ファイルを入手した後、個人や地域でシェアされた AM 装置を用いて独自に作製する。従来の方法では 知的財産の保護が困難なため(トピック 16)、知的 財産、ファイル共有、製品流通に関する新しいビジネ スモデルが開発される。また、脱グローバル化(ト ピック 3)も社会に大きな影響を及ぼす。AM は消費 者に近い地域での製造を可能にする。これは世界的 に拡大した生産拠点が消費地近郊に戻ることを意味 する。個別デザインへの対応では、既に FabLab や 3DHubs の動きがある。

 一方でデルファイ調査の結果は、専門家の意見は広 範であり、実現性に関し高い不確実性も示している。

図表 1 デルファイトピック一覧

図表 2 デルファイ調査結果

AM:アディティブマニュファクチャリングの略(一般的には 3D プリンティングと呼ばれる)

参考文献3)を基に科学技術予測センターにて作成

参考文献3)を基に科学技術予測センターにて作成 䛊⏕⏘䚸䝃䝥䝷䜲䝏䜵䞊䞁䚸䝻䞊䜹䝸䝊䞊䝅䝵䞁䛋

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デジタルファブリケーションの将来シナリオ - 2030 年の 3D プリンティングの経済的及び社会的影響に関する予測研究-

STI Horizon 2017 Vol.3 No.2

この点を明示するために、専門家間の合意度が最も低 いトピックから 2 つの軸を作り、4 つのシナリオを 提示している(図表 4)。横軸は AM よるビジネスモ デルの変革(トピック 8)、縦軸は消費者の行動の変 化(トピック 12)を示している。以下に各シナリオ の概要を示す。

 シナリオ 1(マーケットエクスプローラ)では、企 業は新しい海外市場で試行するために製品を輸出す る代わりにファイルをオンライン販売することで効 率化し、地域におけるニッチな需要に応えるために利 用する。しかし、市場が構築されれば、従来の事業に より製品は販売される。シナリオ 2(コンテンツプロ

バイダ)では、企業のビジネスモデルが根本的に変 革する。これまでのメーカーはデザインのみを行い、

デジタルプリントファイルを提供することになる。企 業の主業務はファイルの「3D プリント適性」を保証 することであり、収益を得るためには価値を確保する 新しい形の知的財産保護を利用する必要がある。シナ リオ 3(サービスプロバイダ)では、AM は主に既存 のビジネスをサポートするために利用される。前述の スペアパーツの例はこれにあたり、従来の方法で経済 的に実現できないニッチな製品の製造に AM が使用 される。シナリオ 4(マスカスタマイザ)では、全て のユーザーに個別の製品を大量生産の効率を備えつ 図表 4 ビジネスモデルと消費スタイルを検討軸とした 4 シナリオ

図表 3 実現性の高い 2030 年のシナリオ

参考文献3)を基に科学技術予測センターにて作成 参考文献3)を基に科学技術予測センターにて作成

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つ提供する、すなわちマスカスタマイゼーションが確 立される。企業のビジネスモデルは劇的に変化する。

製品需要を予測して生産できるため、在庫を持つ必要 はなくなり、各個人のそれぞれの要求に的確に応える ことが主業務となる。

 また研究グループは、AM のための規制と政策の枠 組みはまだ初期段階にあるとし、特に社会インパクト が高いと評価された以下のトピック群に対する政策 検討の必要性を指摘している。医療に革新をもたらす 臓器のバイオプリント(トピック 15)の倫理問題や、

オンライン購買(トピック 12)と知的財産管理(ト ピック 16)に関わる知的財産保護、そしてサプライ チェーンが再びローカルになる生産の脱グローバル 化(トピック 3)に対応するインフラ検討への対応が 求められるとしている。

 一方で論文では、現行手法による予測の限界にも言 及しており、例えばブレークスルーが必要な不連続性 の高いトピックや社会的な意外な事象の分析・予測 は難しいとしている。

3. 第 10 回科学技術予測調査結果との比較

 科学技術・学術政策研究所が 2013 年から 2015 年に実施した第 10 回科学技術予測調査において、デ

ジタルファブリケーション関連の 12 トピックを設 定し、実現年に関する予測5)及び 2030 年のシナリオ プランニング6)を実施した。マスカスタマイゼーショ ン、オンサイト・オンデマンド生産、パーソナル生産 などのデザイン・製造・サービス融合に関連した全 てのトピックは 2030 年までに、バイオプリンティ ングは 2035 年に社会実装される。また、ICT・もの づくり・サービスが融合した 2030 年のシナリオの 中で、ユーザーニーズのデジタルデータ化を背景に、

マスカスタマイゼーションやデザイン・サービスと の一体化によるオンサイト・オンデマンドサービス を展開し、多様化した個々人や社会のニーズに対応す ることで QOL(生活の質)の向上や社会課題解決に 大きく貢献している姿が描かれた2)。これはビジネス モデルに大きな変革をもたらすシナリオ 2 と 4(図表 4)に相当する。

 科学技術全般を俯瞰した当研究所の調査では、個人 や社会課題に対応しデータ駆動型となる将来社会に おいて、デジタルファブリケーションが中核となる位 置づけを示したのに対し、論文ではより具体的にサプ ライチェーンの変化や政策的留意点を示しており、デ ジタルファブリケーションの今後の方向性の指針と して参考になると思われる。

1) 蒲生秀典、「デジタルファブリケーションの最近の動向―3D プリンタを利用した新しいものづくりの可能性―」、科学技 術動向、No.137、P.19-26、2013 年 8 月:

http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/11035/2416/1/NISTEP-STT137-19.pdf

2) 蒲生秀典、「デジタルファブリケーション医療応用の Horizon ~ 3D デジタルデータの活用とバイオファブリケーション の進展~」、STI-Horizon、Vol.2, No.1、P.19-26、2016 年春号:http://dx.doi.org/10.15108/stih.00016

3) Ruth Jiang, Robin Kleer, Frank T. Piller; “Predicting the future of additive manufacturing: A Delphi study on economic and societal implications of 3D printing for 2030”, Technol. Forecast. Soc. Chang., 117, 84 (2017):

http://dx.doi.org/10.1016/j.techfore.2017.01.006

4) Gnatzy, T., Warth, J., von der Gracht, H.A., Darkow, I.-L.; “Validating an innovative real-time Delphi approach - a methodological comparison between real-time and conventional Delphi studies”, Technol. Forecast. Soc.

Chang., 78, 1681 (2011).

5) 科学技術・学術政策研究所、「第 10 回科学技術予測調査 分野別科学技術予測」、調査資料- 240 (2015 年 9 月):

http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/3080

6) 科学技術・学術政策研究所、「第 10 回科学技術予測調査 国際的視点からのシナリオプランニング」、NISTEP REPORT No.164 (2015 年 9 月):http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/3079

参考文献

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