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加藤要一郎「三井田川鉱業所に於ける安全運動」

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

加藤要一郎「三井田川鉱業所に於ける安全運動」

西尾, 典子

九州大学大学院経済学府 : 博士後期課程

https://doi.org/10.15017/1515780

出版情報:エネルギー史研究 : 石炭を中心として. 30, pp.125-149, 2015-03-20. 九州大学附属図書館 付設記録資料館産業経済資料部門

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権利関係:

(2)

  戦前期において、全国の炭鉱や鉱山では安全運動が展開されていた。安全運動は昭和恐慌期に企業の合理化とともに展開された運動で、炭鉱業では技術者が炭鉱労働者一人一人の精神教導を行った上で、競争を通じて坑内の安全確保がはかられた

  加藤要一郎は、三井鉱山田川鉱業所(以下、三井田川と省略する)において展開された安全運動を牽引した炭鉱技術者である。加藤の出身は静岡県で、一九〇九年に熊本高等工業学校(現熊本大学工学部)を卒業した。

  熊本高等工業学校は、一八九四年に設立された第五高等学校の工学部を一九〇六年に分離させて設立された学校である。この時、第五高等学校は大学予科のみの三年制の高等学校となり、熊本高等工業学校の方は土木工学科・機械工学科・採鉱冶金学科の三科からなる三年制の学校となった。その後の一九一一年には夜学、一九一七年には電気工学科をそれぞれ増設するなどして世の中のニーズに合った専門の技術者教育と社会への供給に力を入れた。高等工業学校は、工業分野に関する高等教育 をなす場所であり、この課程を修了した者には工学得業士 44444の称号が授与された 。なお熊本高等工業学校を卒業し工学得業士となった加藤は、三井鉱山(最初は三池炭鉱建築課)に就職した。  本稿で紹介する資料は、加藤が一九三〇年に行った三井田川における安全運動についての講演を反訳したものである。三井田川で安全運動及び災害防止運動が開始されたのは一九二八年からであり、加藤の講演は二年間の運動の成果についての中間発表的な役割を果たすものであった。安全運動を展開して二年目の三井田川の様子は、「最近産業界の不況の為めに能率増進とか産業合理化と云ふ事が盛んに叫ばれ、従つて此方面は急速なる発展を見つつある現状に在りますが、一方安全運動或は災害防止運動と云ふ様な事は未だ之に追随するを得ず多少遅れて居るのではないかと思はれる」状況であった 。つまりこの時期の炭鉱において、坑内の安全対策や災害防止策といった労働者が稼働する上でのリスクを減らす試みは比較的軽視されていたのであった

  安全運動とはどのような内容のものであったのであろうか。具体的に

【資料紹介】加藤要一郎「三井田川鉱業所 於ける安全運動」

西 尾 典 子

(3)

みていくと、「安全デー」は毎月二日に敢行され、落盤安全デー、整理整頓デー、電気機械デー、炭凾安全デーなどが交互で行われた。これらは怠慢に流れがちであった坑内に対して、安全設備を修繕したり注意を喚起するという役割を果たした。「安全週間」は三井鉱山が最も力を入れていたものであり、年二回、四月と十月に開催された。主婦会や三井私立小学校などを巻き込んだ家族ぐるみの一週間であり、安全歌を歌ったり、安全を啓発するポスターを各所に貼ったり、運勢みくじを配ったり、鈴を振っての坑内宣伝なども行われた。

  また、荻野喜弘が指摘したとおり、三井田川でも「安全競争」が積極的に行われていた。三井田川の場合には、約五〇名を一団体とし、二ヶ月を四期に分けて標準負傷率の低下について競争させた。競争とはいってもゲーム感覚で行われたものであり、団体対抗のチーム戦ゲームであった。四期に分けているのは、一期目に最劣等であっても二期目以降に挽回できるようにするためであり、負傷の程度によって採点方法が定められていた。賞金は一回に七百円、一人あたりでは最高二円もの現金が授与された。また賞品として、茶箪笥などの世帯道具や時計などの身の回り品、坑内作業着などが贈られた。「安全服装賞与」もまた懸賞金が付けられていた。安全に資する服装改良案の募集が行われたものであった。労働者からアイデアを募って現場の改善に努めるという行為を、全労働者参加型で行っていたのである。「毎日負傷者を各炭坑に掲示して注意を促す事」では、負傷者数や負傷事例を掲示することにより、自分の坑の成績が向上するように意識を振り向けたのである。

  その他、「各種ポスター、ビラ、活動写真等」によっても注意を喚起していたが、その中の一つである博多二輪加は瞬間的であり効果が薄 かったという。「裏面運動」では、三井私立小学校に通う子ども達に対して、出勤時に夫婦喧嘩をすると仕事に集中できなくなるので家庭を明るくしようなど、間接的に安全意識を喚起することにも努めていた。  以上のように、三井田川で行われた安全運動の数々は、労働者に自覚を促すための宣伝が重要な部分を占めていたといえよう。そして加藤要一郎もまた、これらの宣伝によって、負傷者数が大幅に減少していったという認識を持っており、その有効性を本資料にみられるように大きく喧伝したのである。一方で、企業の合理化政策と連動するかたちで、坑内外の施設や作業方式の見直しなどが行われていた。具体的には、坑木配給の円滑化、切羽支柱法の制度、発破作業のマニュアル改善、足場の改善、落盤事故防止のため天井の点検強化、選炭作業の効率化と機械の点検の精緻化などがみられる。また、瓦斯爆発や炭塵爆発への対応についても言及されている

  復刻にあたっては、旧字を新字に改めた。また、それ以外はできるだけ原文通りとするとともに、明らかな誤字等にはママとルビをふった。句読点も原文のままとした。

【註】

1   荻野(一九七九) 。 2   山中 ほ か(二〇一二) 。 3   加藤(一九三〇)一頁。

4   西 尾( 二 〇 一 四 ) で は 恐 慌 期 以 前 の 炭 鉱 に お け る 爆 発 事 故 に つ い て 検 証 し た が、 恐 慌 期 と 同 様 に 労 働 環 境 の 事 故 の リ ス ク を 軽 減 す る こ と に つ い て

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は比較的軽視される傾向にあったといえる。 5   三 井 田 川 に お け る 爆 発 事 故 を め ぐ る 事 故 対 策 に つ い て は、 小 林 寛 の 活 躍

について明らかにした西尾(二〇一四)を参照のこと。

参考文献

加 藤 要 一 郎( 一 九 三 〇 )「 三 井 田 川 鉱 業 所 の 安 全 運 動 」 九 州 大 学 記 録 資 料 館

蔵 荻 野 喜 弘( 一 九 七 九 )「 戦 前 期 日 本 の 安 全 運 動 と 炭 鉱 」『 産 業 経 済 研 究( 久

留米大学) 』一九 - 四 西 尾 典 子( 二 〇 一 四 )「 近 代 石 炭 産 業 に お け る 事 故 の 発 生 と 技 術 者 │ 炭 塵 爆発の防止をめぐって │」 『エネルギー史研究』二九 山 中 孝 文 ・ 田 中 尚 人 ・ 星 野 祐 司 ・ 本 田 泰 寛「 土 木 分 野 に お け る 工 学 得 業 士 に 関

す る 研 究 │ 五 高 工 学 部 ・ 熊 本 高 工 の 卒 業 生 を 対 象 と し て │ 」『 土 木 学 会 論文集

D2 - (土木史) 』六八 一   三井田川鉱業所 於ける安全運動(其一)

三井業所鉱業所  

加藤要一郎   最近産業界の不況の為めに能率増進とか産業合理化と云ふ事が盛んに叫ばれ、従つて此方面は急速なる発展を見つつある現状に在りますが、一方安全運動或は災害防止運動と云ふ様な事は未だ之に追随するを得ず多少遅れて居るのではないかと思はれる節があります。我田川鉱業所に於きましても此処約二年程此運動を行ひ最近稍成績の見るべきものがある様にも見受けますが、未だ〳〵不十分なる点が沢山ありますので今後一段の努力をする積りではありますが、不充分乍ら従来施行しました事やら感想やらを取交ぜて申上げ、最後に其成績を検討し更に今後に付ての御示教を給はり度いと思ふ次第であります。

  話の順序として次の様な項目に分けて申述べたいと思ひます。

一  安全運動の意義二  田川鉱業所に於ける安全運動   A  安全委員会の組織及機能   B  宣伝方法    1  安全デー    2  安全週間    3  安全競争

   4  安全服装の優秀なる考案に対する賞与

三井田川鉱業所 於ける安全運動

三井業所鉱業所  

加藤要一郎

(表紙)

(5)

  

21

  死者を生ぜしめし係員の訓戒

  

22

  重要作業場に於ける作業方法の掲示

  

23

  瓦斯炭塵保安に関する件     A  安全灯取扱方改良     B  切羽責任者に瓦斯量説明の件     C  局部扇風機据付運転     D  通行禁止策の件     E  高落ヶ所の瓦斯取扱方     F  坑内重要扇風機又は中継扇風機設置ヶ所に動力線の配電所を置くこと     G  下級係員の保安講習   D  服装の改良   E  保安教育   F  成績(第一表より第六表参照)三  今後の安全運動の方針

  A  稼働者の職業教育を徹底せしめ作業の真意義を理解せしむること   B  作業の段取手段を合理化し安全にして且つ能率を増進せしむること   C  常に宣伝を怠らざること   D  設備の改善を怠らざること

  E  諸規則の励行を厳重にし安全運動を永続せしむること    5  毎日負傷者を各坑に掲示して注意を促す事

   6  各種ポスター、ビラ、活動写真等    7  裏面運動   C  施設及作業方式の改善    1  坑木配給の円滑を計りしこと    2  切羽支柱法の制度    3  発破作業の改善    4  函乗り防止策    5  脱ピン防止策研究    6  坑口救急所の設置    7  選炭機の足場、油差道、ベルト覆ひ等の改善    8  人道を必ず造ること    9  坑内温度

27

℃を越へざらしむる為め通気の改善

  

10

  新参者の教育

  

11

  昭和四年度中公傷三回以上なしたるものの調査

  

12

  片盤に於ける負傷比較的多き原因及其の対策

  

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  手部の負傷原因及対策

  

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  電池発破器の改良

  

15

  重要職務に在るものの視力、聴力、調査

  

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  本年七月、八月二ヶ月間の公傷者の視力、聴力調査

  

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  天井打診

  

18

  吊り函々止装置の研究

  

19

  夏季午睡場の件

  

20

  坑木台車の緊縛方法

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員に対し実に気の毒な結末を来さしむる事もありますので、人道上よりの見地よりしましても、又此安全運動と云ふ事は非常に大切な事であると信じます。

  又此安全運動を盛んに施行するに就きましては相当の経費を要しますが、此費用は時日を経るに従ひ何時となく次第に効果を現はして来まして、負傷に依る直接経費、災害に依る直接経費及び此等の間接経費が非常に減額する様になる。『安全運動に投ずる経費は非常に好き投資である』と云ふ或る西洋の学者の云つた言葉が果して真実であつたといふ事は、私共の経験よりして明らかになつてをります。こう云う意味よりしても又安全運動と云ふ事は非常に重大なる意義を持つて居るのであります。又外国に於ける安全運動の模様を見ますと、欧州に於ては一八六七年に独逸に創まりましてより今や全欧州を風靡し、米国に於きましては一九〇九年頃災害審査委員会なるものが創立せられ、爾来非常な発達をなしました。我国に於きましては大正六年に内田嘉吉氏が一般世人に災害の防止を呼び掛け、安全第一協会を設立したのが表に顕はれた運動であるとの事であります。其後次第に発達しては参りましたが尚本邦が欧米の災害率に比して遙かに多い現状より見ますれば、未だ〳〵外国に比しては遜色があるので、即尠くとも外国に敗けない様尚一層此運動の徹底を期しなければならない、こう云う意味よりしましても此運動は更に一段の馬力を掛ける必要があるだらうと思ひます。

二、田川鉱業所に於ける安全運動

  此れから田川鉱業所に於ける安全運動の一般を申述まするが、実は 一、安全運動の意義  一般に産業経営に於きましては事業主と稼働者とは兎角利害が相反し立場を異にするものの如く考へられましたが其議論はしばらく之を措き、此安全運動と云ふ事丈けは明らかに此両者の利害が完全に一致するものと信ずるのであります。  凡そ災害があり負傷者が出来る事は事業主は元より稼働者の不利益でもあり、又災害が無く負傷者も無い事は両者の利益であります。此は明かである、従つて私は何より先きに先づ此安全運動の徹底を期し然る後に産業を治めなければならぬのであろうと思ひます。即、此安全運動と云ふ土台の上に真の意味に於ける能率増進、産業合理化と云ふものが築かるべきであらうと思ひます。  右の様に此運動は産業上重大なる意義を持つて居るにも関はらず、兎角此運動の為めに費す費用が直接直ちに生産に関係がないの故を以つて、余り注意を払はれず往々疑問をさへ抱く人があるのであります。又稼働者の側に在りましても其職務上災害に接近、馴致されまして却て安全設備等を邪魔物視し、安全作業を廻りくどい仕事視する傾向に在るのではないかと思ひます。元来負傷と云ふものは作業が計画通り行かない、即ち順調に行かない結果として出来た物である。依つて負傷がない、災害が無い、と云ふ事は作業が順調に行つた事となるので、換言すれば安全運動の徹底或は成功と云ふ事は即そこに取も直さず産業の発達がある事となるのであります。こう云ふ意味よりしましても此安全運動と云ふ事は非常に大切な事でありますが、殊に石炭鉱業に於きましては夫れが地下作業である為め動もすれば重大なる災害を起し易く夫れが為め従業

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(一)は事業所の責任でありまして之に付ては出来得る限り安全設備を施し、安全作業方式を規定しなければなりません。(二)も亦事業所の主脳部が部下役員の監督宜しきを得ないといふ事に帰着します。役員の鞭撻指教は一刻も忽にされません。(三)は稼働者の自覚に俟つものであるから、各方面よりの宣伝又は教育の力に頼らなければなるまいと思ひます。此の(三)が原因別にすると数に於て最も多い様に思はれます。(四)此れは已むを得ないものでありますが、よく〳〵調査しますと、又厳密な意味より申しますと、此の(四)の項に属するものは非常に少ない極めて罕な場合にあるものと思はれます。

  又以上四つの組み合はさつた多原因のものが多数ありまして中々的確に原因を探求する事は困難の事であるのであります。

  以上第一には重傷退治と云ふ旗を立て、次に負傷原因は右の四つにあると云ふ根本の考へを持ちまして、我田川に於きましては漸次色々な方法を以て攻めて行つたのであります。説明の順序を前に掲げました様にして話を進めます。

  A.安全委員会の組織及機能

安全委員会(委員長一名   委員十名)   │   │┌ 幹事会(幹事長一名   幹事十五名)   └┤    └ 支部会(支部長ハ各坑担当者   全山五ツノ支部会)      │      │┌ 班会(班長ハ切羽担当者   多数ノ班アリ)      └┤       └ 班長会(全山ニテ五ツノ会アリ)

色々坑内事情其他に依りまして御恥しい様な点が多々ありますので他の完全な山のお方より見ますと御笑ひになる様な点もありましようが、何事も露骨に、隠立する事なく、有りの侭を御話し度いと思ひます。其積りで御覧が (ママ)願ひ度ひと存じます。田川に於きまして稍組織立ちたる安全運動を開始しましたのは昭和四年壱月からでありまして、其前も各方面より此種の運動はやつては居たのでありましたが、未だ萌芽といふ程度に過ぎませんでした。右の四年一月から本月まで約一年十ヶ月程安全運動としての色々な宣伝や色々な施設の改良をやつて参りましたが、未だ〳〵不充分と思はれる事のみで今後に望を懸けて居る現状であります。そこで此の運動を始めるに就て最も先に且痛切に考へたのは、重傷者を絶滅しよう、死者を一人も出すまい、と云ふことでありました。軽傷ならばあつてよい訳ではないが、治癒すれば又其の仕事に従事することも出来ますが、重傷以上は本当に可愛想な結果を来すもので其の原因の如何を論ぜず、人道上の見地よりしましても「先づ重傷を退治しなければならぬ」と云ふ旗印を打立てました。が之れは後程申上げますが、其成績より見ますと軽傷は著く減じたが重傷は減じ方が少ないと云ふ結論に達して居り事志に違ふものが多く我々の運動にはまだ〳〵大なる欠陥があるといふ事を深く自責さるゝ様な次第であるのであります。  扨て全般に亘つて災害の起りました原因を調べて見ますと、大体次の四つに分類されるだらうと思ひます。  一、事業所の設備不完全  二、役員の指導不良  三、稼働者の不注意

  四、天災又は不可抗力

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長は他の者と坑内でも一見して判る様に、『エヂソン』帽子に白線を付けさしめて居りますが、之等は余程彼等の気に入つて励みとなつて居る様であります。要するに多数の稼働者を採炭部、仕操部、棹取部(其他の者は別に班はありませぬが数も少ないので役員が直接指導す)に分ち、此れを五拾名内外を一組とせる班に組立て、之等の多数の班を支部長が統制して行くと云ふ仕組になつて居ります。

  以上が安全委員会の組織及機能であります。

  B.宣伝方法

  之れは一般稼働者の自覚を促す普遍的な方法でありまして、其知識程度に順応して適当にやるべきものですが、之れが中々巧拙のあるもので従つて其結果にも効果の大小が有ります。或は情の方面より訴へ、又は名誉心をそゝり、時に競争心をあふり、時によりて家庭内部より進め、或は又神助に縋る等、色々手を変え品を換へて結局災害を起すものでない、負傷するものではない、安全第一に作業すべきである安全第一は身の為め家庭の為め他人の為め国の為めだと云ふ事を真面目に納得せしめ度いに外ならぬのであります。

  田川鉱業所に於きましては昭和四年度は先づ此宣伝に終始したと云ふても善い位に次に申述べる各種の方法を行ひました。

   1.安全デー

  是れは毎月二日宛施行するのであつて施行項目は、落磐安全デー、整理整頓デー、電気機械デー、炭函安全デー、を毎月交互に行ひ、其主要項目に従つて支柱方面の事、坑木配給方面の事、各機械座、坑道、道具の手入、電気機械類の細密検査、炭函検査、車道手入等を入念に検査す   安全委員会と云ふのは此運動の最高機関でありまして、全体の統制に任じ幹事会の発案を審議決定し、之れを支部会に移し実行せしめるもので、委員長一名委員は炭坑各方面幹部級十数名より成立つて居ります。  幹事会は安全運動の発議研究の機関でありまして、支部を助けて実行に干 ママ与し、又反則の点は委員会に之を報告するの権をも持つて居ります。幹事長一名幹事十数名より成り立つて居ります。  支部会は実行機関でありまして各坑に一つの支部会があります。支部長は各坑主任担当者が之れに任じ、此支部会の下には班会といふものがありまして、採炭、仕操、掉取の三つに分れ、採炭部は坑内仕事場所を基準とせる五十名内外を以て組織されたる班が数班あり、仕操部掉取部にも同数数班あるのであります。之等の各班には班長(稼働者)なるものが居りまして全体の統制に任じて居ります。此班会は毎月一回は又は二ヶ月に一回昇坑時の一時間内外を利用し開会しまして、其受持の役員が座長となり、設備改善上の意見を聞くは元より命令を伝え又は各種の教育をもするのであります。座長格の受持役員は其結果即ち善い意見が出れば即刻採用し又は支部長の同意を求めて実行に移るので、支部長は之等の多数の班を能く統制し導いて行くのであります。此班会議を開く時は腹がへつて居る時なので粗菓を出しゆつくり話合ふ様にして居ります。  班長会議と云ふのは以上申述べました班長丈を年一回一つの支部毎に開きまして、支部長司会して各種の意見を聞き、又は今後の運動方法に付て諒解を求め、或は教育的な事をする事もあります。此班長は任期一年で毎年選挙しますが時に命令する事もあります。班長会議の場合は粗酒を付け簡単なる食事を出し多少慰労の意味も含ませます。又之等の班

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円を賞し大吉には活動入場券を配布し(何れも負傷せざりし者)其他の者には「みくじ」に訓戒、発憤、安全標語等を記入したものを与へた、e、日々の入坑時には前日の災害状況を詳述して注意を求むる外「不景気に処する心掛」「負傷しない心掛」「金儲けと負傷」「安全運動の意義」「家庭と負傷」「他坑に敗けるな」「負傷はどうしてするか」等の事を説明反覆して多大の感動を与へ、f、坑内外に宣伝用ポスターの飾付は元より「漫画」「大電飾」「山車」「坑夫社宅町に於ける辻宣伝」等をなし、g、会社の宣伝に感激してか仏教団、坑外受負団、其外の団体が自発的に自費印刷の「ビラ配布」「見送り」「応援演説」等をなしたるもあり、h、会社に於ては週間前より坑内外機械類の整備整頓、細密検査、坑木配給等些の遺漏なからしめ、i、坑内役員は稼働者よりも早く切羽に行き一巡して切羽で彼等を待ちて諸種の注意を与ふる様にし、j、坑内宣伝隊は鈴を振つて巡視して諸種の注意を与へ、k、午前午後二回切羽の者一斉に作業を中止して天井打診をなす、等大体右の様な事をしましたが此安全週間も回を重ぬるに従ひ次第に徹底して参りまして前申上げる通り一週間僅かに四名に過ぎなかつた様な成績を見るに至つた、蓋上下一致緊張裡に終始した賚と云はねばなりません。

   3.安全競争

  此安全競争と云ふのは坑内稼働者を前申上げた通の幾つかの班に分け ると同時に、稼働者側よりの安全係が役員と共に坑内宣伝の為め巡視して注意訓戒を加えます、其他坑内外の宣伝用飾付を一通り行ふのは勿論であります。  つまり此安全デーは兎角忘られたがる安全運動精神に毎月幾分の注射を行ひ、一方会社としましては兎角怠慢に流れたがる坑内を常に整理し、道具の完備、安全設備の修繕等を行はせ先づ手許を整備して然る後稼働者の不注意を攻めるといふ順序によつたのであります。   2.安全週間

  此安全週間と云ふのは当所では非常に重大視して可なりの力を入れて居ります。即、年二回、四月と十月頃施行しまして最近行ひました全国週間で既に四回目であります。第一回は六十六名の負傷、第二回目は四十六名、第三回は十六名、第四回目(先日行つた分)は僅かに四名に止まりまして、次第に安全運動の意味が徹底したかに見えました。如何なる方法でやつたかと申しますと毎回共必ず多少宛其遣り方と、目先きを換えて参りましたが先づ其大体を御話しますと、a、各坑の山の神様を坑口に勧請しまして入昇坑には必ず礼拝して神様の加護を求めしめ、b、各坑の処女会、主婦会等の婦人を煩はして入坑時には神様の『御守札』を渡し、又は宣伝ビラを渡して彼等の家庭を忘却せざらしめ、c、三井私立小学校生二千三百余名の大旗行列をなして坑夫社宅を廻り繰込時には整列して可憐なる児童の打ち振る旗の中を安全歌に送られて入坑せしめる、為に感極まつて目頭を熱くして行くものさえ見受けた、d、最後の日には昇坑時に「運勢みくじ」を引かしめ大々吉には金一

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なつても負傷した者には授賞しないとか、又出役率に依りて其班の内でも色々差を設ける等の事をしました。d、賞品   賞品としては全山に対して一回に七百円程出しました。一人当り最高二円位の現金を与へた事もあり、又世帯道具の如き品物を贈つた事もあり、七十銭位の坑内作業衣を贈つた事もあります、其班の内で抽籖で茶箪笥、時計等とした事もありますが、只団体に金を与へ彼等の自由裁量に任した事はありませぬ。賞品は坑内服装が尤も適当して居り彼等も又希望する様に見受けました。

  以上大体の方法を掻摘んで申述べたのでありますが、此効果如何と云ふ事は軽々に申上げられません、競争期間中の負傷率は成る程低下はしましたが大した結果を得たとは思ひませんでした。然し事務所の熱心誠意を示す宣伝には随分役立つた事を信じます。尤も稼働者は団体を嫌ひ個人競争にして呉れとの注文もぼつ〳〵ある様でしたが、之れは授賞に困難があるので採用しませんでした。

   4.安全服装賞与

  負傷は服装の不完備より来る事を痛感しましたのと、又一つには宣伝方面の意味よりしてその懸賞募集をしましたが、何れも大して優秀なるものは遺憾乍ら見受けられませんでした。坑内作業上衣、安全脚絆、古釘の通らない靴の敷皮、道具の刄掛け、エヂソン電池入、手甲等の各種のものが出ました。依つて夫れ〳〵五六円以内の賞品及其製作費を授与しました。只こう云ふ事が自然安全運動の理解の一端となるのであるのは疑ふの余地はありません。

   5.毎日負傷者を各坑に掲示して注意を促す事 此班間に負傷をしない競争をさせたのでありまして、実は安全運動の一の宣伝方法であります。之れが又一面中々効果のあつたものでありますが、矢張何回も続けて施行すると反つて効薄く、時機を見て其方法、手段、賞品等を換へて、即ち目先きを換へて面白くもし又勝負も分り易くする必要がある様であります。少くとも同一方法を二回以上繰り返してはいけない。殊に其競争期間の如きも二ヶ月では長し一ヶ月では短かきに過ぐるであらうと思ひます。然し手段方法が巧みであれば安全運動の初期には中々効果あるものと断言するに憚らぬ。又此競争には多少の弊害をも伴ふものでありますが、安全運動の宣伝と云ふ大局よりの見地よりすれば多少の事は寛恕しなければならぬでしよう。  当所で施行した此競争にも色々の方法がありますが一例として左に申上げ度いと思ふのはa、競争班   此れは各坑を先に申述べました様な五十名内外を一団体とする数個の班に分けてありますので此各班の前三ヶ月の負傷率の実績を調べます。b、競争方法   二ヶ月を各月上期下期の四期に分け各期に於ける標準負傷率の低下率最大なるものより各順位を付けて置き自分の負傷は元より他の者にも負傷させない様、団体的に安全第一に仕事をさせます。c、勝敗決定   各期を通じて尤も成績の佳良なるものに授賞するのでありまして、此四期に分けたと云ふのは四回ゲームとした訳で、第壱回で最劣等でも第弐回第三回で充分取り返しがつくと云ふ仕掛であります。又負傷の程度に依りまして、採点方法にも色々ありまして、重傷軽傷は同様に取扱はない様な事や、又優勝班に

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  C.施設及作業方式の改善   前既に申述べました様に、負傷原因と云ふものは会社の施設不良に因する場合もありますので班会議に於きまして稼働者の気付いた事、又は要求も出来得る限り之を容れて安全施設をなし、又安全作業方式を案出するといふ訳で之れが独り安全運動のみならず、結局事業所の営業状態に非常な好果を齎すものである、如斯事に投ずる費用は結局非常に利廻りよき投資であるとの格言を確く信じ、又そう云ふ傾向を生み出して居る事実の上に立つて申上得る次第であります。凡そ宣伝のみに立脚して此運動をやりましても、人間の注意力と云ふものには限りが有ります、依つて負傷を蒙むる根本原因である施設乃至作業方式の改善を併せ行ひ、此等の両者が両々相俟つて始めて安全運動の徹底を期し得るものと深く信じて居ります。

  そこで以下に申述べまする種々の事は当所で安全運動を始めまして以来、負傷原因を探求して特に強調した事ばかりであつて、当所に於ける安全施設が以下に申述べる事のみであるのではないので、従来より施設してあり、又作業して居る安全方式は一切此所では省略してあるのでありますから、此点は特に御諒承が願ひ度いのであります。重ねて申しまするが此等は其全部でなく最近特に強調した事柄であつて、他に従来より行つて居る重要な、有効な施設乃至作業方式は余りに当然なので此所には申上ないのであります。

   1.坑木配給の円滑を計りし事

  坑内作業の内では支柱材料即ち坑木類を適宜の時機に適宜の個所に配給してやらないと、仕事の能率は元より上らぬのみか危険なる作業をしなければならないので、此坑木配給と云ふ事は非常に重大な事であるの   初めの内は左程でもありませんが、自然に銘々自分の坑の成績向上を希望せぬものはない様になります。依つて他坑自坑共負傷者数やら、其重大なものは負傷の仕方や対策を掲示するのでありまして、宣伝が一通り行き渡つた後には可也有効でありました。   6.各種ポスター、ビラ、活動写真等

  各種ポスター、ビラは時に応じ注意の喚起に実行あるは元よりですが、是は常に其目先を変へなければならないので、今後は主として絵画に依つて負傷百態の様なものを随時掲出しやうと思つて居ります。活動写真も随時適当な映画の場合は観覧せしめて居り、亦相当の印象を与えて居るものと思ひます。二輪加の如きも見せましたが此れは其効果が余り瞬間的だと思ひました。

   7.裏面運動

  小学校生徒の書方、図画、唱歌等に依り家庭内部よりの宣伝をする事、即ち書方等(例へば安全といふ如き語)を宅に持ち帰らしめ壁に貼付せしむるのでありまして、之等は小供のする事なので可なり効果がある様見受けます。又負傷と云ふものは頭の中に何か込入つた事でもあると、切羽でぼんやりする、結局負傷をする、例へば宅を出る時に夫婦喧嘩でもすると兎角仕事も出来ないと同時に、負傷をすると云ふ事が実例より見て明らかでありますので、家庭を明るくする、気持ちを愉快にする事が大切であるので、労務方面の方が此方面を折角努力下さつて居る次第で、結局能率の上るも上らないも主として此家庭の明暗に起因するのが大きいと申してもよからうと存じます。要するに之等の裏面運動は直接的ではありませんが、間接的に可なり有効と信じられます。

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ですが励行して行く様にすれば安全施設として非常に有効な事であろうと思ひました。

   3.発破作業の改善

  発破による災害は殆んど皆が避け得らるべき事であつて、不可抗力と称すべきは極僅少である事は三菱谷崎氏の御講演にもありましたが、実際避け得らるる事が大部分であると信じます。昭和四年度に於きまして田川に於ける災害は大小取交ぜ計八件と云ふ御恥しい結果でありましたが此等を研究しますと避難不充分七件、合図不徹底一、と云ふ事となり此外三年度に於きましては、監視人不適と云ふのも相当ありました。依つて四年度末から次の様な事に致したのですが、五年度に於きましては今迄に僅か四件と云ふ風で尚此上は徹底的の絶滅を企図して居る所であります。イ、避難は二十五間以上必ず離れ全身を覆ふに足る堅固なる隠蔽物の蔭たるか、或は坑道を直角に曲る事。ロ、監視人は其方に於ける切羽責任者、又は副責任者か又は古参者を順次採用し、発破中は能く監視の責に任じ雑用をせしめざる事。ハ、安全灯に赤色の透明板を差して、遠方より危険信号たる事を認識せしむること。ニ、発破標識とも称すべき小旗を紐に吊し通路に掛ること。ホ、発破警笛を必ず鳴す事。ヘ、其他当所制定の発破規則を励行する事。ト、発破母線の長さを毎日検査する事。チ、発破に依る災害は安全委員会に於て原因、責任の所在を調査する事。 であります。往々炭函は送るが坑木類は後廻しとなるの傾向に在るのみならず、又坑木は送り込んでは居るが適当の時間でない為め其方に間に合はない、と云ふ事が有り勝でありますので、当所に置きましては先づ切羽坑木の貯蔵場に於ける貯蔵数量の規定を厳重に励行させ、非常坑木は元より常用坑木の幾分を常に持たしむるのみならず、毎日の仕繰用、切羽用坑木の必要数量(坑内係よりの請求)を必ず必要時間に到着する様、炭函よりも寧ろ此方を重大視して送付するといふ様に運搬係其他各方面との打合せを励行して苟も切羽に於ける坑木不足の声を絶たしめようとした之も種々の難関を透破し最近は非常に成績がよく従つて落磐に依る負傷が覿面に激減して参りました。同時に能率も慥かに向上した様に見受けました。こう云ふ事は炭坑に於ける余りに判り切つた古臭い問題でありますが、思切つて断行する事は之れ又余程むづかしい勇気の要る事項であると思ひました。   2.切羽支柱法の制定   切羽に於ては採炭作業を急ぐ関係上、切羽支柱に就ては出来る丈け最小限度の支柱で間に合せ、採炭能率を極度に発揮しやうとする傾向がありますが、仮りに一時成功しましても此れは真の意味の能率が上つた訳ではない、寧充分天井を調べて其切羽に適したる支柱法を定め、支柱夫の身勝手な裁量に委ねない、制規の支柱法を施す事が結局に於ては能率が上つた訳となるのでありますから、従来より制定されて居つた支柱法に幾分の改善を加えまして、之れを更めて厳重励行せしむる事にしたのであります。各炭層に依り一々具体的な事は申されませぬが、一例としては吊岩打柱は三本以上施工することゝし、実行しない場合は賃銭に影響がある様な風にしたのであります。之れも炭坑としては判り切つた事

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の考究を要すると云ふ事も考へて居ります。

   6.坑口救急所設置

  坑内には各切羽毎に救急箱を供へて一通りの手当が出来る様にしてありますが、尚擦過傷程度の微傷でも矢張り相当入念に殺菌し早期に治癒せしめるの要がありますので、坑口に救急所を設けて、陸軍看護卒級のものを常置しました。斯様に申上げると相当の外傷も手当する様誤解を受け易い恐がありますが、当所は此点を厳重取締りまして弊害に陥らない様監督して居ります。此所は坑内ばかりでなく自宅に居る時一寸怪我しても、矢張り繃帯位はしてやります。要するに従来一寸した傷位は自宅で手療治をして仕事をして居つた者を、多少完全に手当をしてやると云ふ見地よりやつて居るのであつて、稼働者の非常な賛成を得て今の所廃止するなぞの考はありませぬ。元来如何な小さな怪我でも仕事上受けたものは、会社は相当責任あるものであるのと、一つは田川に於きましては医局が少し離れて居るので医局迄行くのを億劫がり、自然放任して置く為めに化膿すると云ふ事もあつたので、彼是で設置しました次第であります、現在は洗眼位迄やつて居ります。

   7.選炭機の足場、油差道、ベルト覆ひ等改善   之れは判り切つた事ですが怠り勝であるので、未だ完全とは申されませんが各坑共可なり手を入れて貰ひました。四年度中に一人油差中重傷を蒙りました事件に鑑み早速実行した様な次第であります。

   8.人道を必ず作る事

  現在の炭坑で人道のない炭坑は殆んどありませんが、此所に云ふ人道と云ふのは此主要人道でなく、切羽迄は本線に出でずして達し得らるると云ふ意味の人道でありまして、兎角切羽近くなれば本線に出て片磐に    4.函乗り防止策

  入昇坑に際して少し傾斜でも急であると乗つてならぬと知りつつ函に乗る、非常に楽に早く坑外に昇ると云ふ訳で此味を覚えた者は中々忘れられぬ、数回乗れば熟練もする、愈々函乗り癖が付くと云ふ訳で、遂には大怪我をすると云ふ結果に至るものが往々あるのですが、規今では大抵の山は人車設備がありますが此函乗り病は中々治らぬものであります。当所に於きましても罰金を取つたり色々な事をしつゝ、時々反則者を見付けて居りました。四年一月頃より安全運動を盛んに高唱してゐましたが、未だ〳〵函乗りは絶へませんでした。然し何時となく此運動が浸潤して、四年末に於きまして運搬関係のものの当務者丈には腕章を与へ、或はエヂソン帽子に白線を巻かしめ、他の者と明瞭に区別し得る様にし、一方反則者は厳罰に処する旨を掲示しましたが幸に此時を界にして殆んど絶ゆる様になりました。爾来函乗りに依る怪我がなくなり反則者も無くなつたものと信じて居る次第であります。宣伝が利いて居る所にこう云ふ風にしましたので一挙にして奏功したものと考へます。

   5.脱ピン防止策研究

  現在でも炭函逸走は可なり沢山あります。其原因を調べますと明らかなものもありますが大部分は不明に依る場合が多い、鎖切断は継手なし鎖にしてから其跡を断ちましたが、脱ピンに依る場合は多い、脱線の為め道中車に依り叩き抜かれるが、上ピン、吊ピンとかの場合もありますが要するに一度差したものは容易に抜けない装置で、然も取扱簡単で且つ経費の掛らないと云ふ無理な註文であるので、中々容易に此問題の解決は困難であります。色々研究して見て居りますが今以て成功しません。目下研究中と申上げる外ありませんが、一方脱線しない様な車道及車輪

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新参者が一団とならざる場合、なり得ぬ場合等には特にある古参者に命じて個別的に教育する様依頼します。其為賃銭は当然歩引することにしてあります。斯様にして一箇月位経過しますと始めて一人前となる訳で、実は一人前になるには一箇月位では尚早ではあるのですが、そう長くも世話が出来ないと云ふ訳で、此一箇月中に兎も角成績不良のものは転職、又は退職せしむる場合もあります、之れは余程本人が作業に不適当なる場合に限り先づ滅多にないと申上げて宜敷からうと存じます。

  斯様に教育して参りますと怪我も少ないの理屈でありますが、若い者は兎角仕事を覚え込んだ心算りになつて、二三箇月すると不注意やら生意気の為めに怪我が出で参ります。その位であるのだから新参者を其侭作業させる事は事業主としましても第一不親切な話で、相当の世話をする事は当然であり、又義務でもあらうと存ずる次第であります。

  

11.昭和四年度中公傷を三回以上重ねたる者の調査

  四年度中丈けの調べでは全山で七十一名居りました。私共の考へでは斯様に三回以上も公傷をするものはどこか身体に欠陥あるか、又は間違つた考を持つて居る者と思つて調べましたが、此等を直ちに解傭する等の極端な事は長年使ひ使はれて来た情誼もあるので、中々出来ぬのであるが、只極一部の明らかに作業不適者を除き大部分は転職せしめ又は説諭して置きました。元来斯様に続けて三、四回も怪我をするのは確かに身体の一部に欠陥ある者で、他の適当な職業に就くことは稼働者自身の為めにも幸福である訳で、元々此事は本人は自覚しない事であるから、会社で性能を調べて不適向者は夫れ〳〵始末を付けてやるのが、人道的にも社会的にも大切な事であらうと存じます。炭坑には各種の仕事がありますので夫々適所に彼等を使役していく事は之れ又必要な事で、無暗 入る様になつて居るので此れを極力止め度いと云ふ訳であるのですが、通気の関係もあるし、又坑道に荷重が来る関係もありて、中々思ふ様に出来て居りませぬ。が然し出来る丈此意味を考慮に入れて置く様に致し度い積りであります。   9.坑内温度を摂氏二十七度を越へざらしむる為め通気の改善   瓦斯炭塵に依る変災のあつた場合に衣服を纏つて居れば人命に影響が無かつたであらうが、裸体の為めに助かるものが助からなかつたと云ふ事は度々ありますのと、今一つは小さな負傷に対しては直接に防禦にもなると云ふ意味で服装を整えしめるといふ事は、非常に大切な事ではあり乍ら、一方作業場の温度が高くて裸体でなくては到底作業が出来ぬなどといふ事は甚だ面白くない。又温度が高い事は一面通気不良でもある訳なので、此坑内温度を下げる事は即、右の通気を佳良ならしむる事にもなるので、当所は切羽に於ける温度は如何なる場合と雖も摂氏二十七度を越ゆるべからずと規定した訳であります。現在は機械室なぞを除き全山二十七度以上といふ様な所はないのでありまして、明年は摂氏二十六度迄に規定を下げたい希望で居ります。

  

10.新参者の教育   怪我する者は兎角新参者に多いのは作業に対する理解が少ないのと、坑内に慣れない為であります。此は稼働者に取りては可哀想な事であるので、如何にしても何とかせねばならぬ次第であります。それで当所に置きましては素人新参者でも、山新参者でも、新規傭入れの場合は道具類の事や、規則の事を一通り云つて聞かせた丈けでは未だ〳〵不充分と考へるので、此新参者を一団としまして切羽に有附け、古参者及役員、又は助手、発破方等より当分の内作業の事を教える様にしました。或は

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  本文の終りの方の成績と云ふ項目で説及ぶ積りでありまするが、負傷を身体部位別に調べると手が一番多い。何故に手が多いかと云ふと、手が一番よく仕事をするからと云ふ答になるのですが、然し手部の負傷は何れも軽傷であつて手を折つたなぞの事は殆んど無い、つまり軽傷であるが一番多いと云ふ訳になる、原因なども百種百様であつて一概でないが、例へば照明と云ふ事は一般災害と密接な関係にあるが手部の負傷とは更に深い関係にあるかに見える。そこで之を如何にすべきやの問題となるが、原因は複雑して居るが兎も角幾分なりとも保護しやうと云ふ意味から先づ手袋及手甲の使用を推奨せざるべからざる成行となり、目下此等の使用を極力奨励中で近き内には正規の服装の一つに加えようと期待を持つてゐます。然し鶴を持つ者には力が入らないとか云ふ批難もあり、之に対し慣れさへすれば左程でもない、或は鶴の柄に何か巻けば宜しいとも申して居ります、一番良いのは硬扱ひをするものとか、仕繰作業に従事するものは一般に歓迎して実行してゐる様であります。然し此手袋は少し位良いと云ふ丈で決して此れが為めに手部の負傷をなくせるものではありませぬ。尚之に関連して手袋の破損し易い素質の問題、手袋の到底使へぬ場合抔もあり相当困難な問題を伴ふてゐます。

  

14.電池発破器の改良   是は従来使用して居りました電池が甚だ不完全なものでありましたので、角電池に安全装置を施したに過ぎません。当所では電池発破は一発一回であるから、此電池で出来る訳で、一斉発破の場合は発電式の発破器を使用さして居ります。

  

15.重要職務に在るものの視力、聴力の調査

  捲の運転手とか、乗り廻し掉 ママ取夫、竪坑捲運転に従事する者とか、発 に退職せしめる必要もないと考へます。こう云ふ訳で四年度分のものは大体に於て之を処理して置きましたが、五年度も又前記方針を進める考で居ります。  

12.片磐に於ける負傷の比較的多き原因及其対策   切羽に於ける怪我が減少して来たに関はらず、片磐に於ける負傷は少しも減じないと云ふ現象を示して来ましたので、段段其原因を調べましたが、之れは複雑極まるものがあり一に其原因を申上げる事は出来ませんが、極簡単に其結論丈けを申しますならば、

 

1.勾配が急過ぎる事、

3.片磐仕繰が多い事、

 

2.車道が悪い事、

4.逆転エンドレス機で無理な運転をなす事、等が其重なるものであります。急勾配である為に炭函が走る、車道が悪い為に脱線をする、片磐仕繰が多い事は常に片磐に人間の居る事を示し、且つ車道扱ひをなして居る事を示し、逆転エンドレス機で無理な函扱をなす為め脱線事故及車道破壊をなす、坑道には常にロープが二条通つて居る、こう云ふ訳で自然怪我が多いと云ふ結果になる此等の原因を除去し改善しなければならぬといふ事に到着したのであります。

  そこで車道勾配を水平になし、車道布設を改善し、充填を充分にし、エンドレス運転に充分注意せしむる方針を立てましたが、之れは中々急には行かぬ、目下必死努力中でありまして、行々は次第に効果を上げ来るべきものなるを信ずる次第であります。

  以上の事は怪我の事ばかりではなく能率上重大な事であり、又採炭作業上分り切つた事でして今更喋々を要しないのでありますが、怪我と云ふ方面から見ましても又痛切に其必要を感ずるのであります。

  

13.手部の負傷原因及対策

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破作業に関係する者とか、兎に角重要なる職務に在るものの視力、聴力が果して完全なりやと云ふ点を調査したのですが、意外であつたのは中に、片耳能く聞えないとか、片目が能く見えないとか云ふ者を見出した事で、而も其仕事振を見ると長年熟練してやつて居るので格別困らない、一人前は結構やつて行くと云ふ実際の事情には一面驚きました、只之れが処分には大に困じ果てまして結局其特に甚だしきものは適当の所に転職させる、其他の者は其仕事のみやらしめ、他の仕事は決してやらせない事で結末を付けて置きました。此等の事に付ては色々議論の余地多く、左様に不具(不具と迄は行かなくとも欠陥者)の者を何故に使用するかと云ふ事にもなりますが、充分熟練し切つて居れば其職務に差支なき程度に於ては従来の仕事をやらせるが至当であると云ふ事にしました訳で、無論其甚だしきものは坑外に出し又は極閑職に移した次第であります。元来傭入の際は左様な不具はなかつた筈なのですから、其後病気とか其他諸種の事情の為めに次第に斯様になつたと見るべきであるから、此際極端な事は避けた次第であります。

  

16.本年七月八月二箇月間の公傷者の視力、聴力調査   之れは前項に鑑みまして公傷者を調査しましたが、僅か二箇月位では充分な結論を得られず、寧ろ怪我は視力、聴力の不完全に基因するよりも他に多くの複雑な原因があると云ふ事を感ずるに至つたのでした。

  

17.天井打診

  切羽に於ては兎角仕事を急ぐ関係上天井検査を怠る、殊に採掘が進むに伴ひ刻々天井とか吊岩の安定状態は変化して行くもので、以前に調べて安心と思ふ所も十数分の後には随分変化して来て居るものであります。依つて午前、午後二回コンベヤーの運転其他の運転を止め、一斉に 役員指揮の下に天井の浮き石を叩いて其音を聴く、悪るい所は早速支柱夫に命ずるなり、又採炭夫が自分で囲ふなり、其所を離れて居るなり、適当の方法を講じさするのであります。私の所では原則として採炭夫に払の囲をやらせて居る、つまり自分の体を自分で囲へと云ふ訳でありますが、然しどうも採炭を急ぎまして兎角囲を後廻しとする傾向に在り、吊り岩の如きも一本柱はいけない事になつて居つても、尚且つ一本柱で平気で居る者がある始末であります。斯様に一斉に天井打診を始めましてから天井と云ふものに余程注意を払ふ様になりましたのは、大変結構な事で且有効適切な事と思つて居ります。然し此処に注意を要するのは素人に打診をやらせる事は一方に危険を伴ひまするので、素人にはやらせない、附近の者が必ず見てやる様にするのであります。従つて切羽に並ぶにも適宜に交ぜてある訳であります。又仕事の終りにも必ず囲ひは完全にして向ふ方に渡すと云ふ訳で、此点は役員に余程よく指導させなければならないと考へます。  

18.吊り函々止装置の研究   卸掘進の場合吊り函をします、此場合卸し詰の函に函止を要する、普通坑木で磐と天井に突張つて置きますが、是れが非常に危険なもので、当所に於きましても之が為めに重傷者を作つた例が二三あるので、之れを何とか改良し度いと思つて研究を始め、稍々成功しそうに見えて来ましたが、差当りの方法としては函止め専用の坑木、鉄管等を用意して、磐の掘方、天井の止めを、厳重に取締つて居るのであります。そして反則者はどし〳〵処分します。埋め磐の場合、天井高落の如きは上の坑木では利きませんので、夫れ〳〵役員の指揮通りやらせる事にして居ります。

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   19.夏季午睡場の件   冬季よりも夏季に負傷者が多い事は誰でもが感ずる通り睡眠不足に基因するものと考へまして、夏季丈けは特に坑夫社宅の集会所又は倶楽部を開放して午睡させることにしたのであつて、家族の多い者等は坑夫社宅では充分な昼寝は出来ないのをこれで緩和して居ります、尤、之れは従前より実施して居つて此頃始めたのではありませんが、最近に至り之を奨励する位にした。又午後十時になりますと一斉に約五秒間消灯して就寝時刻を報ずるのみならず、其後起きて居るものは必静かにすべき事を厳重に申し渡し随時社宅廻りをなして喧燥 ママな鳴り物等を中止せしめて居ります。

  

20.坑木台車の緊縛方法   兎角坑木台車は緊縛しても途中弛くなつて抜け落ちる為めに脱線原因をなす場合があつて、当所では之れが為めに重傷者が出来た程であつた、それで其後は台車には鎖を付け(従来でも鎖はあつたが無くなつて縄なぞで縛り又は古ロープで縛つて居りました)緊縛せしめた上更に坑木を打ち込んで置く様にしたのであります。

  

21.死者又は重傷を生ぜしめし係員の訓戒   係りの役員で其配下の稼働者に不幸死者又は重傷者が出来た場合は、其係りの役員を本部に招致しまして、詳細に其当時の模様を述べさせ、今後の対策を研究せしめ、且つ安全運動の意義等を説明して懇切に将来を訓戒して居ります。之れは役員に手落ちがあつた訳ではなくても今後再び其役員の配下で其様な事を繰り返さない為に稼働者一同を警告せしめ、且つ安全作業方式の研究をなさしめ度いに外ならぬのであります。

  

22.重要作業場に於ける作業方式の掲示

  之れは重要な作業場に於て其所の仕事の遣り方を説明して置く掲示板であつて、正規の作業方法を示して置くのであります。反則者は直に現行犯となるので稼働者への訓戒に役立つと同時に災害を防止し度い主旨からやつてゐることであります。

 

23.瓦斯炭塵保安に関する件   之れは当所が石炭爆発取締規則の適用を受けて居りますので、元より諸規則を厳重に励行するのみならず、尚社内丈けの取締規則をも励行して居るので各種多数あるのは一々此処で申上げるのは避けます。其内重要な有効な事もありますが此所では最近尚足りない所を補足したり、又分り切つた事で励行されない点等があるので、特にそれを高唱した事それが最大事なことであるといふ丈けを申述べ度いと存じます。

    A.安全灯取扱方改良

  之れは従来の方法で格別不安があつた訳ではありませんが、本部に在る係の技士が一箇月一回不時に検査をしまして当該係員の緊張を促し、時に不良品の使用禁止を命じて居ります。当所では安全灯開放などは殆んど絶対にありませぬが、不良品は余程細心の注意をしないと良品に混入する恐れがありますので、此点に全力を傾注して居るのであります。若し係員の注意が不足して居る事なぞが明かになりますと、其安全灯係員は処分を受ける事もある訳です。

    B.切羽責任者に瓦斯量説明の件   切羽責任者と云ふのは其切羽収容人員十五人なり二十人なりのリーダー又はフォアマンとしての古参者で、技術の優秀な瓦斯炭塵の如何なるものであるか位を能く知つて居る所の稼働者であります。此者に其切羽を受持つて居る役員が毎日一回、今日は此所は瓦斯状態は斯く

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〳〵の通りであると云ふ事を説明するのでありまして、一般稼働者は兎も角も切羽責任者丈けは心得て居つて欲しい事であつて、そこの瓦斯状態に応じて無理な作業をしない様に、他の稼働者の統当らしめるので、稼働者自ら瓦斯を測定さする訳ではありませね ママ。換言すれば門の開放とか、通気道の良否とか、払面の形とかを命ずる場合、其根本義を納得せしめ充分の効果を挙げさせ度い為めに外ならぬのであります。尤、当所でも殆んど瓦斯のない所がありますが、斯様な所では其必要を認めぬ訳ではあるが、尚矢張り通気の良否に就ては常に稼働者に其日の状況の一斑を心得さする準備をして居ります。

    C.局部扇風機据付運転

  局部扇風機は兎角勝手な位置に据付けたがり、瓦斯さえ取るれば善いと云ふ様な傾向に在りますので、局部扇風機据付けに際しては其位置、通気系統、運転期間を略図で一々屈出でしめ、尚其撤去に際しても同様にさせる、据付位置の如きは絶対に排気内を禁止して居ります。排気とは一度でも切羽面を通つたものは全部排気であるので、余程前以つて通気系統を正さなければいけない事になる。斯様にしました結果は各坑共、通気道が善くなりまして、局部扇風機使用は激減して来ました。元来坑内に局部扇風機等で局部的に通気を計るのが抑悪るい事であつて、仕繰が進んで居り通気道の完全な所には局部扇風機と云ふものは不必要な筈であります、又運転開始でありますが之れが非常に危険な事でありまして、局部扇風機を運転する以上相当瓦斯を認めなければならぬ、此瓦斯の通路に置きまして不慮の災害を起さないとは限らない、依つて運転開始に当つては通気係其他が必立会を要する様にしたのであります。次に日常の運転に際し此監視人も充分選択し て居り、殊に日曜の如きは此監視人と云ふ事は相当重大視して居るのであります。    D.通行禁止柵の件

  之れが従来禁止柵としては特別に規定がなかつたので、時に成木二三本で真似形ばかりして居つた、即ち瓦斯存在の標示に過ぎなかつたので、今後は進入出来ない事実上の通行不能柵と云ふものを造る様にした、即釘付けで相当堅固なものを作り進入の場合は一部を破壊せなければならぬ様にしました。

    E.高落個所の瓦斯取扱方   当所の高落個所と云ふのは時に或は三十尺にも達する事があつて、如何にしても瓦斯が溜り之が排除は実に困難をし為に或は局部扇風機で毎日吹き続け或は又吹き上げを造りましたが、多くの範囲であると之れも出来ぬ、そこで高落の個所は高さ八尺の所で張り切をする、其上には安全灯其他発火器具の接近が出来ない様にする、そして瓦斯存在の標示をする様にした、尚出来得べくんば相当堅固な枠を入れ、其上に更に硬を積上ぐる様にして居ります。然し何れにしても此附近は噴出瓦斯が続く訳なので発火器具は厳重に保管することにして居ります。

    F.坑内主要扇風機又は中継扇風機設置個所に動力線の配電所を置く事   停電の場合の事でありまして、坑内主要扇風機が運転停止すると、再送電の場合扇風機も運転開始をする、又他のコンベヤー、ポンプ、カツター、ドリル、類も一斉に運転開始をすることは、其部内に於ける通気系銃 ママが未だ変調なる時であるから或は濃厚なるガスがあるかも

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知れない、何分かは其所の現場に応じて機械類の運転は扇風機運転に後れなければならぬ訳であるので、主要扇風機に其通気系統内の全ての動力線の配電所を置き、扇風機運転開始後通気系統の正常に復した後此等の動力を送る様にするのでありまして、之れには相当数量のケーブルが必要であります、只時に不安な坑道にケーブルを通すは不利はありますが、然し前述の危険を放置する訳に行かないので、順次改善に努めて居りますが未だ全部に行き渡つては居りませぬ。

    G.下級係員の保安教育

  稼働者より役員になつた者も相当ありますので之等には是非保安教育を施さなければならぬ。そこで爆発瓦斯及炭塵に関する一切の事、瓦斯検定法、諸法規、通気法、採掘法、支柱法抔を一通り教授して居るので、殊に保安の点に就てはかなり力を入れて居ります。彼等は経験丈けなので更に学問的理論の初歩を教授して、今後の発達の階段を付けてやるのが安全運動の人事方面の最重要な一ツであるのであります。

  D.服装の改良

  前既に申述ました通り裸体作業は万一の場合に於て危険であると云ふので、完全なる服装に就て研究して見ましたが差向き完全で適当なるものは先づ無かつた。只兎も角裸体作業丈は是非禁止すると云ふ事で標準服装としては第一、エヂソン帽子、第二、厚い衣 キレのシヤツ、半ズボン、脚絆、靴下、ゴム靴、手袋、手甲と云ふのでありますが、此内手甲、手袋、半ズボン丈けは強制して居りませんが他は已に強制して居るので違反者は入坑を禁止する事にしてゐます。然し或坑は自発的に全部半ズボンを 着用して居り、又或坑では手袋を着用して居る所も無論あります、それで来る六年度には半ズボンを規制の服装に入れ度いと思つてゐます。尤本問題には一方大事な洗濯、乾燥と云ふ事も発生しますので、追々此方面にも善処し度い、同時に温度も前申上ました通り次第に低下させねばならぬと思ひます。此服装の改善は負傷と大変関係がありまして確かに小さな怪我が減じて参りました様に信じて居ます。E.保安教育  之れは稼働者に瓦斯炭塵に関する必須な智識を授けて、万一の場合にも慌てない様に教育し度い為めで、各坑の班会を利用しては「瓦斯炭塵とは何か」「瓦斯が爆発した時の心得」「遠くで爆発した時の心得」「門の開閉」「安全灯の取扱方」「爆発する火の元」などの項を簡単に書きまして一同に渡し、尚之れを耳学問的に説明する。尚炭塵爆発試験器を購入して、稼働者の目前で実際爆発せしめて其恐ろしきものなる事、及爆発するは瓦斯丈けではない、炭塵丈けでも爆発するものである事抔を知らしめ、且つ其爆発伝播の如何に早いものであるかを見せました。此実験は非常に有効でありまして、其後彼等の炭塵に対する考が一変したかに見え、中には恐怖心を起すものさへ見受けられた様であります。どうも稼働者教育は実験が第一で、次が耳学問、最後が書いたものと云ふ順序らしく思はれます。F.成績  以上宣伝やら施設改善やら色々申上ましたが、扨其成績は如何であるかと申しますと、未だ決して満足な成績を拳げ得たとは申されません。

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然し少くとも以前よりも次第に負傷者が漸減して参り、又各種の事故も減じて参つて居るのでありまして、多少づゝ堅実に進みつゝある現状とは申されませうと思ひます。

  そこで第一表は負傷者数の三年度四年度五年十一月迄の各坑別月別でありまして、此処に一寸説明申上げ度いのは一坑と云ふのは日産五百五拾噸内外、二坑は日産六百噸内外、三坑は千六百噸内外、斜坑は五百五拾噸内外、川崎と云ふのは無煙坑で日産八拾噸位の山でありまして、各山共坑内外一切の其坑所属の稼働者に就て調査したのであります。此表で見ますと安全運動をしなかつた昭和三年度は総数四、四四七名の負傷者があつたのですが安全運動をした四年度は三、一六五名に減じ、即ち約三〇%も減じました。而して五年度は十一月迄でありますが二、〇六〇名となつて著るしく減少してゐる。

  然し最近になつて特に著しく減少して参りましたのは、不景気と云ふ事が多少手伝つて居るらしく、世間一般が不景気〳〵と云ふので一般稼働者が緊張して来た事は争はれますまい。然し此所が我々の附目で、其心持を持続させこう云ふ時に良き習慣を固める事が出来たなら、一朝景気が直つて来ても負傷者が増すまい増し方にも大差があろうと一面考へて居る次第であります。此表は負傷者数丈けの事でありますが、最近稼働者数が減少して来たので之れ丈では真実の事が判らぬ、そこで第二表を御覧願ひます。第二表は稼働延人員千人当の負傷者数でありまして、三年度に於ては平均三・一人だつたのが四年度には二・四人となり、五年度には九月迄ですが二・〇人となりました。尤も二年度は四・〇人又は四・五人等の高率の月もあつたのでしたが、兎も角次第に低下して参りました。之れで見ましても最近大分成績が向上した様に思はれますが、未だ 〳〵今後の発達を期し得る余地は大にあるのは明かであります。次に第三表は負傷程度は如何云ふ風になつたかを示すもので、之れは総て治療実績から調査しまして、四年度五年度の模様を掲げたのでありますが之れで見ますと二十八日以上のものは大体四年度五年度の比較に於て約二割減、十四日から二十七日迄のもの三割減、三日から十三日迄のもの二割減と云ふ事になつて居つて、先づ大体善き趨勢であるのですが、私共が真先に叫び出した死者、重傷者退治と云ふスローガンに対しては、まだ甚だ赤面の至りである、殊に五年度に於きまして死者を二十一名も出した事は甚だ以て世間へ対して申訳もない次第で、此点は真に遺憾千万であります。元来当所の四年は大変多くて計三十一名も出したのですが、数年来の統計は先づ二十七八名が平均であるので、之れに対し二十一名も五年度に於て死者を出すなどはお話にならぬのであります。然し此所に注意して戴き度いのは、第六表の公傷死亡者原因別でありまして、之れに依りますと最近は其原因が従来より少しく変化して参りまして、従来余りなかつた事故が出来て居ります、この点は多少考へて見ねばならぬ訳であるが何れにしても減じ方が少いと云ふ事は一層戒心を要することと信じてゐます。  次に負傷者を職別にしますと第四表の通り、矢張り採炭夫であります。其次は仕繰夫であります。尤も之れは数が多いからでもありますが、此処に注意を要するのは四年度五年度の減じ方で採炭夫は非常に減じたが、独り仕繰夫のみは余り減じないと云ふことであります。之れは採炭夫の仕事は最近割合に単純化され、切羽の囲ひ方も行届きつゝあるのですが、仕繰の作業は其種類も多く、仕事の作業も非常に熟練を要し、危険に暴露さるる割合も採炭夫より多い、又仕事も坑内全部に拡がつて居

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