前十字靭帯損傷者の階段降段動作における
膝関節モーメントと膝屈伸筋力の関係
Relation between Knee Joint Moment during Stair Descent and Knee Extension and Flexion
Muscular Force in Subjects with Anterior Cruciate Ligament Deficiency
野村
高弘
1)勝平
純司
1,2)高野
雄太
3)三木
啓嗣
4)西山 卓志
5)中島 勇樹
6)丸山 仁司
1,2)TAKAHIRO NOMURA, RPT, MS1), JUNJI KATSUHIRA, PhD1,2), YUTA TAKANO, RPT3), HIROSHI MIKI, RPT4),
TAKASI NISHIYAMA, RPT5), YUKI NAKAJIMA, RPT6), HITOSHI MARUYAMA, RPT, PhD1,2)
1) Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, Graduate School of International University of Health and Welfare:
2600–1 Kitakanemaru, Otawara-shi, Tochigi 324-8501, Japan. TEL +81 287-24-3000
2) Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, International University of Health and Welfare
3) Sato Hospital
4) Saiseikai Central Hospital
5) Nishi Yokohama Kokusai Sougou Hospital
6) Nishi Hiroshima Rehabilitation Hospital
Rigakuryoho Kagaku 25(5): 667–672, 2010. Submitted Feb. 17, 2010. Accepted May 12, 2010.
ABSTRACT: [Purpose] The purposes of this study were to compare the dynamic knee function of healthy young subjects and subjects with Anterior Cruciate Ligament Deficiency (ACLD) during stair descent and to demonstrate the relationship between the knee joint moment and muscular force obtained in an Open Kinetic Chain (OKC). [Subjects and Methods] Eight healthy young and 8 ACLD subjects participated in this study. We measured stair descent movement using a three dimensional motion analysis system and six force plates. The knee muscular forces in OKC were obtained by dynamometer. The muscular forces were measured in the supine and sitting positions. We compared these parameters and calculated the correlation coefficient between the knee joint moment during stair descent and extension and flexion muscular forces. [Results] No significant differences of the knee joint moment were observed between healthy subjects and ACLD subjects. Only the knee extension muscular force of ACLD subjects showed a lower value than that of healthy subjects. Also, significant negative correlations in healthy subjects and positive correlations in ACLD subjects were observed between the knee joint moment during stair descent and the H/Q ratio. [Conclusion] Significant correlations were observed between the knee joint moment during stair descent and the H/Q ratio but not with extension and flexion muscular forces.
Key words: ACLD, stair descent, joint moment
要旨:〔目的〕本研究の目的は,階段降段動作における健常者とACL 損傷者の動的な膝関節機能を比較すること, 膝関節モーメントとOKC の膝屈伸筋力の関係を明らかにすることを目的とした。〔対象〕下肢に既往がない健常者 と前十字靭帯損傷者8 名ずつとした。〔方法〕三次元動作分析装置と床反力計を用いて階段降段動作を計測し,膝関 節モーメントを指標とした動力学的分析を実施し,等速性筋力測定装置を用いて背臥位と坐位にて膝関節屈伸筋力 の評価を実施した。これらのパラメータを群間で比較するとともに,動作計測により得られた膝関節モーメントと 屈伸筋力の相関関係を示した。〔結果〕降段動作時の膝関節モーメントに群間の有意差はみられなかった。膝屈伸 筋力では伸展筋力においてのみACL 損傷者で低い値を示した。また,階段降段動作時膝伸展モーメントの関係につ いて,H/Q 比と膝伸展モーメントの間に健常者では有意な負の相関がみられ,ACL 損傷者では有意な正の相関がみ られた。〔結語〕膝屈伸筋力と階段降段動作時膝伸展モーメントの関係について,H/Q 比と膝伸展モーメントの間 に有意な相関が得られた。 キーワード:ACL損傷,階段降段,関節モーメント
I. はじめに
前十字靭帯(anterior cruciate ligament:以下ACL)損傷 はスポーツ傷害における膝関節疾患の中で60~80%と 最 も 多 く を 占 め て い る。一 般 のACL 損傷の発生率は 1,000 人に0.18 ~0.36 人で,スポーツ選手ではその10 ~ 100 倍になると報告されている。また,ACL 保存治療例 では,平均11 年の経過で63%に,再建例では平均13 年 の経過で67%に膝関節の変形が生じていたとの報告も あり1),正常な膝運動機能の獲得が重要であると考え られる。生活環境を考えたとき,歩行や階段昇降など は日常生活で頻繁に行われる動作である。中でも階段 降段動作は膝関節への負担が大きく2),ACL 損傷者に とって困難な動作であり,ACL 損傷者が恐怖感を訴え る場面も多々みられる。近年,ACL 損傷者の日常生活 動作の特性を分析するためにバイオメカニクスの手法 が用いられており,階段降段動作においても多くの報 告がある3,4)。関節モーメントでは,関節中心を回転軸 として発揮される筋のトルクを計測することができる。 しかし,屈筋群と伸筋群によるモーメントを個別に計 測することは できない。一方,筋力評 価においては, ACL 損傷者に対する力学的評価としては等速性筋力測 定装置を用いた開放性運動(Open Kinetic Chain:以下 OKC)での測定が行われ,回復やスポーツ復帰の指標 などの観点から臨床において幅広く用いられている5)。 これら筋力と関節モーメントを用いて運動力学的観 点から包括的に行われている研究はACL 損傷者のス ポーツ動作6)や歩行7)では多くみられる。しかし,ACL 損傷者の階段降段動作では関節モーメントと筋力との 関係について行っている研究はほとんどない。 そこで本研究では,OKC の膝屈伸筋力と降段動作時 の膝関節モーメントを計測し,健常者とACL 損傷者の 膝関節機能を比較することで,運動力学的観点から階 段降段動作におけるACL 損傷者の膝運動機能と筋力の 関係を明らかにすることを目的とした。 II. 対象と方法 1. 対象 対象者は,事前のアンケート結果から抽出された下 肢に既往がない健常な大学生からなる群(年齢:22 ± 1 歳,身長:166.8 ± 7.8 cm,体重:55.5 ± 8.6 kg:以下 NORMAL)8 名と前十字靭帯損傷者からなる群(年齢: 23 ± 4 歳,身長:165.0 ± 9.2 cm,体重:60.1 ± 10.7 kg: 以下ACLD)8 名とした。また,NORMAL,ACLD とも に男性5 名,女性3 名とした。対象者は実験に参加する にあたり,説明書を用いて十分に説明を受けた後に, 同意書に署名捺印をした。なお,ACLD8 名は再建例 4 名,非再建例4 名であり,平均受傷後経過期間は 53 ± 25ヶ月,再建者 4 名の平均術後経過期間は 40 ± 19ヶ月 であった。ACLD の特性は表1 に示す。 2. 方法 運動力学的データ計測のため,6 枚の床反力計(AMTI 社製)と12 台の赤外線カメラを用いた三次元動作分析 システムVICON612(VICON 社製)を使用した。動作計 測においては直径14 mm の赤外線反射マーカーを,臨 床歩行分析研究会の推奨する方法を参照し8),対象者 の両側肩峰,上前腸骨棘と大転子を結んだ線上の大転 子側1/3 の点,膝蓋骨の中央の高さで矢状面上において 膝蓋骨を除く前後径の中間点,外果,第5 中足骨趾節間 関節の10 箇所と,左右を区別するため,右側肩甲骨下 角に1 箇所の合計 11 箇所に貼付した。赤外線カメラは 四方の天井に2 台ずつ,8 台設置し,赤外線反射マー カーがすべて映るように4 台の移動式カメラを設置し た。左右の下肢における床反力を分けて計測するため に,計測用階段を中央で分離し,左右3 枚ずつ設置した 1) 国際医療福祉大学大学院 博士課程保健医療学専攻理学療法学分野:栃木県大田原市北金丸2600-1(〒324-8501) TEL 0287-24-3000 2) 国際医療福祉大学 保健学部理学療法学科 3) 佐藤病院 4) 東京都済生会中央病院 5) 西横浜国際総合病院 6) 西広島リハビリテーション病院 受付日 2010年2月17日 受理日 2010年5月12日 表1 ACLDの特性 性別 年齢 身長 体重 患側 術式 術後 受傷後 期間 期間 (歳)(cm)(kg) (ヶ月)(ヶ月) M 20 172 59 Lt STG 11 47 M 22 178 78 Rt STG 46 55 M 22 172 67 Rt 不明 65 68 F 19 151 44 Rt BTB 38 51 M 34 160 62 Lt ― ― 3 M 21 165 62 Rt ― ― 48 F 22 152 44 Rt ― ― 99 F 22 170 65 Rt ― ― 52 *ACLD:anterior cruciate ligament deficient people
床反力計の中央境界線に合わせて設置した。その後, 階 段 の 重 量 を 除 く キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン を 行 っ た。 Katsuhira et al. は,この方法による計測と床反力計を階 段上に直接設置した方法で同様の結果が得られること を報告している9)。三次元動作分析装置から得られる 赤外線反射マーカーの座標データと床反力計から得ら れる床反力作用点と三分力を用いて膝関節モーメント の算出を行った。膝関節モーメントの算出には臨床歩 行分析研究会が推奨するDIFF(Data Interface File Format) 形式のプログラムを用いた8)。 本研究ではバリアフリー法で推奨されている,踏面 30 cm,蹴上16 cm,5 段の計測用階段を作製して用いた。 階段降段動作は自由速度とし,対象者ごとに3 回実施 した。階段降段動作はNORMALでは非利き脚より,ACLD では健側より開始するものとし,各々利き脚,患側の 初期接地より一歩行周期を計測した。 膝屈伸筋力を計測するために,等速性筋力測定装置 BIODEX SYSTEM 3 PRO(BIODEX 社製)を用いた。測 定データは,サンプリング周波数1000 Hz にてPowerLab/ 16sp(ADInstruments 社製)でA/D 変換し,計測用ソフト Chart4 を用いて測定用パーソナルコンピューターに取 り込んだ。対象者は,ウォーミングアップとして自転 車エルゴメーター(COMBI 社製)を使用し,負荷量を 20 watt,60 ~70 回転/min に設定し5 分間行った後,対象 筋群に対して20 秒間のストレッチを行った。計測肢位 は,座位(股関節85º 屈曲位)及び背臥位(股関節10º 屈 曲位)とし,骨盤,体幹および測定側の下肢は大腿部 をベルトで固定し,遠位のパットは内果より二横指近 位に固定した。また,代償動作を防ぐために両上肢は 胸の前で交差させた。また,背臥位では,腰椎の過伸 展を防止するために,頭部,腰背部に枕を敷いた。測 定は表2 に示す条件にて行い,膝関節角度の測定範囲 は,術前の対象者では屈曲20º ~70º,その他の対象者に おいては屈曲10º ~ 90º とした。遠心性収縮(eccentric contraction:以下 ECC)における測定では屈伸動作を 1 セットとし,各々5 セット行った。等尺性収縮(isometric contraction:以下 ISO)における測定では 10 秒間からな る1 セットを行った。各測定の順序は乱数表を用いて ランダムに決定した。また,疲労の影響を考慮し,測 定間に休憩時間を設けた。 条件設定は3 条件とした。設定 1,2 は階段降段動作 の先行研究を参考にし,各々階段降段動作における立 脚初期,立脚後期に合わせて収縮様式,股関節角度,角 速度を決定した。また,設定3 は筋力評価として広く一 般的に用いられている条件であり,設定1,2 との比較 検討のために設定した。 膝関節モーメントは,一歩行周期を100%とした後, 階段降段動作における一歩行周期を立脚相と遊脚相に 分け,さらに立脚相を計測肢の初期接地から反対側が 計測肢を越えるまでを立脚初期,反対側が計測肢を越 えてから計測肢の足趾離地までを立脚期後期と定義し た。膝関節モーメントの波形より観察される立脚初期, 後期における膝伸展モーメントのピーク値を抽出し,3 試行の平均値より求めた値を身長と体重で正規化し, 代表値とした。 膝屈伸筋力は,ウォーミングアップと疲労を考慮し, 設定1,2 では 5 試行のうちの 2,3,4 試行の計 3 試行, 設定3 では10 秒間のうち2.5 秒から7.5 秒までの5 秒間を 用い,各々得られたトルクカーブよりピークトルク値 を抽出し,設定1,2 は3 試行の平均値より求めた値を, 設定3 では抽出したピークトルク値を体重で正規化し た体重支持指数(Weight Bearing Index:以下WBI)を求 めた。また,膝周囲筋の筋バランスの指標として,ACL 損傷者の筋力評価において重要視されている膝伸展ピー クトルクに対する膝屈曲ピークトルクの割合を示すH/ Q 比を算出した。
立脚初期,後期各々で求めた膝伸展モーメントピー ク値,膝屈伸WBI,H/Q 比においてはACLD とNORMAL の比較のため対応のないt 検定を用いた。また,膝屈伸 WBI,H/Q 比と立脚初期,後期各々より求めた膝伸展 モーメントピーク値との相関を調べるため相関係数を 算出した。相関係数の算出にはPearson の積率相関係数 を用い,有意水準は危険率5%未満とした。 III. 結 果 膝関節モーメントの結果を示す(図1)。いずれの波 形パターンも代表例の結果と近似しており,大きな違 いはみられなかった。立脚初期伸展モーメントピーク 表2 膝屈伸筋力測定条件 収縮 肢位 屈曲角度 角速度 以下略語 様式 股関節 膝関節 (º/sec) 設定1 遠心性 背臥位 10º ― 60 ECC60 設定2 遠心性 背臥位 10º ― 180 ECC180 設定3 等尺性 坐位 85º 60º ― ISO-K60 ECC60:eccentric contraction at 60º/sec,
ECC180:eccentric contraction at 180º/sec,
値はACLD で 0.22 ± 0.10 Nm/m/kg,NORMAL で 0.24 ± 0.12 Nm/m/kg,立脚後期伸展モーメントはACLD で0.49 ±0.07 Nm/m/kg,NORMAL で0.52 ±0.19 Nm/m/kg であっ た。いずれもACLD で低い傾向がみられたが有意差は なかった。 膝屈曲WBI では全ての条件において有意差はなかっ たが,膝伸展WBI ではすべての条件において ACLD で 有意に低い値を示した(表3)。H/Q 比ではISO-K60 にお いてのみNORMAL で有意に低い値を示した(表3)。 膝屈伸WBI においては全ての条件でピークトルク値 と膝伸展モーメントピーク値との間に有意な相関はな かった(表4)。一方,H/Q 比においては全ての条件で立 脚後期膝伸展モーメントピーク値と有意な相関はなかっ 図1 階段降段動作時の膝関節モーメント 表3 3条件の筋力測定における各WBI 膝伸展WBI(Nm/kg) ACLD NORMAL ECC60*(n=7) 1.63 ± 0.64 2.52 ± 0.44 ECC180**(n=6) 1.84 ± 0.76 2.52 ± 0.39 ISO-K60**(n=8) 1.90 ± 0.48 2.81 ± 0.56 *:p<0.05,**:p<0.01( )内は ACLD の人数 表中の値は3 条件の筋力測定における膝伸展 WBI の平均値お よび標準偏差を示す 膝屈曲WBI(Nm/kg) ACLD NORMAL ECC60(n=7) 0.89 ± 0.18 1.10 ± 0.28 ECC180(n=6) 0.96 ± 0.26 1.10 ± 0.21 ISO-K60(n=8) 1.09 ± 0.18 1.35 ± 0.34 ( )内は ACLD の人数 表中の値は3 条件の筋力測定における膝屈曲 WBI の平均値お よび標準偏差を示す H/Q 比 ACLD NORMAL ECC60(n=7) 0.60 ± 0.18 0.44 ± 0.99 ECC180(n=6) 0.55 ± 0.10 0.44 ± 0.09 ISO-K60*(n=8) 0.59 ± 0.11 0.48 ± 0.05 *:p<0.05()内は ACLD の人数 表中の値は3 条件の筋力測定における H/Q 比の平均値および 標準偏差を示す
WBI:weight bearing index, ACLD:anterior cruciate ligament deficient people,NORMAL:healthy young people, ECC60: eccentric contraction at 60º/sec,ECC180:eccentric contraction at 180º/sec,ISO-K60:Isometric contraction at 60ºflexion of the knee
表4 立脚相膝伸展モーメントピーク値と膝屈曲,伸展 ピークトルクおよびH/Q比との相関係数
膝屈曲ピークトルクとの相関係数
ECC60 ECC180 ISO-K60 (n=7) (n=6) (n=8) 立脚初期 ACLD –0.014 –0.067 –0.465 NORMAL –0.294 –0.406 –0.168 立脚後期 ACLD –0.374 –0.154 –0.123 NORMAL –0.009 –0.080 –0.056 膝伸展ピークトルクとの相関係数
ECC60 ECC180 ISO-K60 (n=7) (n=6) (n=8) 立脚初期 ACLD –0.619 –0.499 –0.643 NORMAL –0.311 –0.514 –0.048 立脚後期 ACLD –0.498 –0.291 –0.527 NORMAL –0.459 –0.644 –0.148 H/Q 比との相関係数
ECC60 ECC180 ISO-K60 (n=7) (n=6) (n=8) 立脚初期 ACLD –0.557 –0.803** –0.342 NORMAL –0.630 –0.856** –0.419 立脚後期 ACLD –0.530 –0.629** –0.519 NORMAL –0.395 –0.520** –0.126 *:p<0.05,**:p<0.01()内は ACLD の人数
ACLD:anterior cruciate ligament deficient people,NORMAL: healthy young people
ECC60:eccentric contraction at 60º/sec,ECC180:eccentric contraction at 180º/sec,ISO-K60:Isometric contraction at 60ºflexion of the knee
たが,ECC180 の H/Q 比と立脚初期膝伸展モーメント ピーク値との間で0.8以上の有意な高い相関がみられた (表4)。また,ECC180 における H/Q 比と立脚初期膝伸 展 モ ー メ ン ト ピ ー ク 値 の 間 に ACLD は 正 の 相 関, NORMALは負の相関という対照的な相関関係がみられ た(図2)。 IV. 考 察 膝屈伸筋力と階段降段動作時膝伸展モーメントの関 係について,膝伸展筋力および膝屈曲筋力においては 有意な相関が得られなかったのに対し,H/Q 比におい てのみ有意な高い相関が得られた。これは,階段降段 動作がCKC であることから,膝伸展モーメントは主動 作筋である大腿四頭筋のみの収縮だけでなく,ハムス トリングスとの同時収縮により発揮されているためだ と考えられる。また,設定条件がECC180 のときに有意 な相関がみられた一つ目の理由として,一般的な階段 降段動作の立脚期における収縮様式は遠心性収縮であ り,設定条件と一致したことが挙げられる。二つ目の 理由としては,今回階段降段動作中の膝関節平均角速 度がACLD・NORMAL 共に 140º/sec であったことから, 筋力測定条件の180º/secに近似していたことが挙げられ る。三つ目に,ACLD では,膝くずれ再発への恐怖心の 未克服が示唆されており10),実際に本研究における一 部のACLD では,階段降段動作時・ECC180 の筋力測定 時に恐怖感の訴えがあったことから,心理的要因も影 響していると考えられる。 次に,立脚初期に有意な相関がみられた理由は次の ように考えられる。階段降段動作時における膝伸展モー メントピーク値において,NORMAL と ACLD で相違が ないと報告されている11)。また,歩行時立脚初期膝伸 展モーメントと遠心性Q/H 比において有意な相関がみ られたとの報告がある12)。本研究における階段降段動 作においても,これらと同様の関係性があるのではな いかと考えられる。膝関節モーメントは膝伸展モーメ ントと屈曲モーメントの相対的な差であるため,それ らを構成する膝屈伸筋力の相対的な差に影響を受ける。 また,膝伸展筋である大腿四頭筋は脛骨前方引き出し 力を生じさせるため,膝伸展筋力の相対的な増大によ り脛骨前方引き出し力が増大すると言われている。一 方,膝屈曲筋であるハムストリングスは脛骨の前方引 き出しに対する抑制力として働くといわれている13)。 今回ACLD・NORMAL 共に立脚初期膝伸展モーメント ピーク時の膝屈曲角度は平均20º であり,OKC において この角度では大腿四頭筋における脛骨前方引き出し力 が増大すると言われている14)。階段降段動作はCKC で あるためOKC のように大腿四頭筋のみではなく,ハム ストリングスとの相対的な筋力によって膝関節安定性 が影響をより強く受けると考えられる。 対象者個々における筋力と関節モーメントの関係を 以下のように考察する。NORMAL では膝伸展筋力に比 して膝屈曲筋力が低下することでH/Q 比が低下し,膝 屈伸筋力の相対的な差が大きくなると膝伸展モーメン トが増大する関係にあった。その結果,有意な負の相 関がみられた。これは,膝伸展筋力の増大により脛骨 前方引き出し力が生じるが,前十字靱帯と膝屈曲筋に よりその抑制力が生じ,関節を安定させることができ るため膝伸展筋力が大きくなると膝伸展モーメントが 大きく発揮されることによると考えられる。一方,ACLD では膝屈曲筋力に比して膝伸展筋力が低下することで H/Q 比が増大し,膝屈伸筋力の相対的な差が小さくな るが,NORMAL と異なり膝伸展モーメントが増大する 関係にあり,有意な正の相関がみられた。原因として, 前十字靱帯の機能低下により脛骨前方引き出し力に対 する抑制力が低下し,それを膝屈曲筋力の増大により 補っていることによると考えられる。このようにして 関節を安定化させた上で,膝伸展筋力が増大すること により膝伸展モーメントが大きく発揮されると考えら れる。よって,ACLD と NORMAL とでは階段降段動作 時立脚初期において膝関節の安定を確保し,関節モー メントを発揮するために異なったstrategyを利用してい ると考えられる。 図2 立脚初期膝伸展モーメントピーク値と ECC180 に おけるH/Q比との相関図
以上より,階段降段動作時立脚初期膝伸展モーメン トと遠心性収縮・角速度180º/sec におけるH/Q 比の間の 関係性が示唆された。今回はデータ数が少ないものの, 0.8 以上の高い相関関係が得られたことから,二つのパ ラメータ間の一定の関係性を示すことができたと考え る。今後の展望として,症例数を増やし,筋力測定時 の収縮様式や他関節の影響を考慮した検討を行い,さ らに筋電図学的分析や恐怖心などとの関連性も明らか にしていく必要がある。 引用文献 1) 大森 豪,瀬川博之,古賀良生:前十字靭帯損傷膝および前 十字靱帯再建膝における変形症性変化.臨床スポーツ医学, 2001, 18(5): 505-509. 2) 勝平純司,山本澄子,丸山仁司・他:階段およびスロープ昇 降時の関節モーメントの分析.バイオメカニズム,2004, 17: 99-109.
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