NHK「クローズアップ現代」に対する図書
館の見解(2002 年 12 月)
更新日:2002 年 12 月 16 日はじめに
NHKの報道番組「クローズアップ現代」は、去る 2002 年 11 月 7 日に「ベストセラーを めぐる攻防~作家vs図書館~」を放送し ました。図書館がベストセラーの複本(同じ 本)を購入することについて、まず前半で、それに異議を唱える作家・出版社と、ある 程度の複本の購入は必要であ るとする町田市立図書館の主張をそれぞれ紹介して います。 間に糸賀雅児・慶応大学教授(図書館情報学)のコメントを挟み、後半では、これか らの図書館の目指すべき方向を示唆するものとして、科学と産業に収集分野を特化 した神奈川県立川崎図書館とビジネス支援を掲げた浦安市立図書館の 2 館を取り上 げています。 最後に糸賀氏がこれからの図書館は、資料を揃えて利用者を待つという受け身の 姿勢から、情報を発信する「地域の情報拠点」、「知的インフラ」としての役割を果たす 必要があるとコメントして終わっています。 町田市立図書館は、視聴者に誤解を与える内容になることを危惧し、取材を受け る過程でNHKの番組担当者に再三客観的な番組制作を要請しました。そのため に 必要な資料は、積極的に提供もしてきました。しかし、放送内容は、町田市立図書館 にとっては不本意なものでした。現に番組を見た何人かの視聴者から、市 長や図書 館に宛てて、図書館のあり方に対する批判が寄せられています。 そこで、市民の皆様に対し、町田市立図書館としての見解を以下のとおり明らかに したいと思います。1.放送は、町田市立図書館の実態を正しく伝えていま
せん
<町田市立図書館はベストセラーだけを大量購入している図書館ではあり
ません>
今回、放送で取り上げられた『ハリーポッターと炎のゴブレット』については、町田市 立図書館は全館で上・下 50 冊ずつ購入してい ます。番組の中では、ナレーターが 「上・下巻合わせて 100 冊購入」と言ってましたが、聞きようによっては、同じ本を 100 冊購入していると誤解されかね ない表現です。他にも、「ベストセラーの大量購入」と いう言葉を繰り返し、町田市立図書館が特にそのことを積極的に行っているかのよう な論調が目立ちまし た。町田市立図書館のサービスを知らない視聴者は、ベストセ ラーばかりを大量に貸し出しするだけで、専門書も購入せず、レファレンスその他の サービスも、 お座なりな図書館であるかのような印象を持つと思います。<利用者の要求に応え、複本も用意するのは、図書館として当然の使命で
す>
また、糸賀氏の発言も、「全国の図書館があれ程の冊数を買っているわけではない」 と町田市立図書館が、あたかも例外であるかのよ うな言い方でした。しかし、利用の 多い図書館が一定の複本を購入して貸し出すのは、ごく一般的なことです。複本の冊 数については、図書館の規模、館数、利 用者数、予算等を勘案して決めます。全国 でも有数な貸し出しをしている町田市立図書館が、納税者である多くの市民が希望す るベストセラーを、数十冊単位で 購入するのは当然のことではないでしょうか。 ベストセラーの場合は、リクエストしてから半年以上お待ちいただくというのが実情 です。しかも、 ベストセラーといっても、図書館の場合は、一過性の人気ではなく、い わゆるロングセラーとして、数年にわたって借り続けられる場合が多いのです。です か ら、利用が一段落して、図書館の書架に並ぶ頃には、ボロボロに痛んでいること も珍しいことではありません。同じ本が何十回も借りられるわけですから、本と しての 使命を十分に果たしたといっても過言ではありません。それでもなお、利用に耐えるも のは、保存用を除いてチャリティ古本まつり等でリサイクルされま すので、資料費を 無駄に使っているということにはならないと思います。<図書館の複本購入は、子どもたちの活字離れを防ぐ役割も果たしていま
す>
しかも、「ハリーポッター」のシリーズの場合、活字離れが著しいといわれている若い 利用者に根強い人気があり、長編を初 めて読破したということで、自信を持つように なった子どもたちも多いようです。それをきっかけとして、本を読むことの楽しさを知ったという子どもたちが存 在することも報告されています。このことは、『五体不満足』 や『だからあなたも生き抜いて』等にも共通して言えることで、もし図書館が一定程度 の複本を購 入して利用者に提供していなければ、読書することの喜び、楽しさを知ら ないまま大人になってしまう子どもたちもいるのではないでしょうか。 ベストセラーだから、取るに足らないつまらない本という見方は偏見です。多くの 人々が支持するのは、やはり大きな魅力を秘めた本だからなのです。
<図書館が貸し出しをしなければ本は売れるようになるのでしょうか>
作家や出版社側は、図書館で貸し出されなければ、その分購入する人々が増える はずだと主張していますが、果たしてそうでしょう か。図書館で借りられるからこそ読 んでみるという利用者はとても多いのです。また、図書館で読んでみてから購入する かどうかを決めるという利用者もいま す。つまり、本当に手元に置いておきたい本な ら、図書館があってもなくても市民は自分で購入するのです。図書館が積極的に本を 貸し出すことによって、活字 に親しむ層が増え、結果的に本が売れるようになるとい うことはあり得ても、図書館が本の貸し出しを規制すれば本が売れるようになるなどと いうのは、まった くの幻想にすぎません。<ベストセラー購入の図書購入費に占める割合は、ごくわずかです>
取材のときには、町田市立図書館は、ベストセラーだけを購入しているわけでなく、 図書館として必要な図書は、きちんと購入してい るということを再三伝えました。また、 ベストセラー購入の図書購入費全体に占める割合、ベストセラーの貸し出しが図書全 体の貸し出しに占める割合が、いず れもごくわずかなものであることを実証したデー タ(注)も提出して説明しましたが、残念ながら放送ではそれらのことには一切触れら れませんでした。 (注)ベストリーダー100 の購入費が、図書購入費総額に占める割合は、4.86%に過ぎ ず、ベストリーダー100 の貸出冊数が、図書貸出総冊数に占める割合は、1.34%でしか ない(いずれも 2001 年度の実績)。 ベストリーダー100 の購入費が図書購入費総額に占める割合 ベストリーダー100 の購入費 499 万 6 千 77 円 図書購入費総額 1 億 280 万 1 千円 図書購入費総額に占める割合 4.86% ベストリーダー100 の貸出冊数が図書貸出総冊数に占める割合 ベストリーダー100 の貸出冊数 4 万 8 千 378 冊図書貸出総冊数 367 万 7 千 276 冊 図書貸出総冊数に占める割合 1.34%
2.これからの図書館のあり方として取り上げられた例は、
はたして適切でしょうか
<市町村立図書館が分野による特化を始めたら、図書館の魅力は半減し
ます>
神奈川県立川崎図書館が、自然科学、産業の分野に特化して資料提供している様 子が取り上げられていましたが、市町村立図書館を バックアップする機能が中心で ある県立図書館だからできることであって、利用者に直接サービスしている市町村立 図書館では、そのような特化はあり得ないこ とです。このことは、町田市立図書館 6 館にそれぞれ収集分野を分担させるということを想定すれば、まったく現実的でない ということが分かると思います。例 えば、中央図書館は、社会科学、さるびあ図書館 は、歴史と文学、金森図書館は、自然科学を受け持つという具合です。利用者は、そ の分野を担当している図書 館に直接出向くか、最寄りの図書館でリクエストをして取 り寄せるかのどちらかになるはずですが、いずれにしてもたいそう不便になることだけ は、間違いあり ません。しかも、もともと図書館を利用しにくい人たち(高齢者、障が い者等)が、ますます利用しにくくなるのではないでしょうか。 それ以上に 問題なのは、収集分野を分担した図書館が仮にできたとしても、それ では図書館としての魅力がまったくと言っていいほど、なくなってしまうことです。図書 館 を訪れるのは、特定の分野の本が読みたい、あるテーマについて調べたい等、何 か目的があっての場合もありますが、特に目的はないけど、書架をのんびり眺め な がら、おもしろそうな本があれば借りたいという場合も多いものです。そのとき、ふと目 にとまった本との思いがけない、あるいは運命的な出会いを経験され た方も多いと 思います。それこそが読書の醍醐味であり、図書館へ行く楽しみでもあります。分担 収集は、図書館の魅力を半減させることになるでしょう。 神奈川県立川崎図書館のような分担収集は、管内の市町村立図書館へ協力貸し 出しをすることが主要な仕事である都道府県立図書館ならではの工夫です。なお、 放送で紹介されたネットワークについても、町田市立図書館は、都立図書館を始め、 全国の図書館とネットワークを組んで、自館で所蔵していない本を取り寄せ るサービ スを行っています。もっとも、これはほとんどの公立図書館が行っているサービスで、 目新しいものではありません。<浦安市立図書館でもベストセラーの複本購入を行っています>
浦安市立図書館のビジネス支援は、図書館のレファレンス機能を活用し、ビジネス に必要な資料・情報を提供しようというものです。 確かに今重視すべき視点ですが、 レファレンスサービスそのものは、町田市立図書館も実施しており、高い評価を得て います。今回の放送では、そのことについ て何も触れてもらえませんでした。 また、浦安市立図書館でも、ベストセラーは相当数所蔵しています。『ハリーポッタ ーと炎のゴブレット』は、 上・下各 23 冊所蔵しており、上巻が 237 件、下巻が 234 件 のリクエストを受けています。町田は、上・下各 50 冊所蔵していますが、上・下とも 471 件 のリクエストがあります(いずれも、2002 年 11 月 17 日現在)。1 冊当たりのリクエ スト数の比率は、たまたまほぼ同じですが、町田市の人口は、浦安市 の約 3 倍であ ることを考えるなら、町田市立図書館の購入が特に多いということにはならないと思 います。 更に、放送では浦安市立図書館が「大人 へのサービス」を強調していることも紹介 されていました。町田市立図書館も、少子化等の影響で児童の利用が減少し、大人 の利用が増えていることは事実で す。しかし、だからといって、子どもに対するサー ビスをないがしろにするつもりはありません。子どもは、将来の図書館利用者ですし、 次の世代を担う大切な 存在ですから、町田市立図書館は、児童やヤングアダルトに 対するサービスにも引き続き力を入れていきます。3.公立図書館は、何のために存在するのでしょうか
<公立図書館を無料で利用できるのは、市民の権利です>
公立図書館の基本的な機能は、利用者が求める資料・情報を提供することにありま す。図書館は、市民一人ひとりが必要な資料・情報 を手軽に入手することで、より豊 かな人生を生きるために存在します。だとすれば、新刊書や雑誌等についても、でき るだけ豊富に揃え、利用者に提供するの が、公立図書館の使命ではないでしょうか。 もちろん、予算等の制約がありますから、その限られた条件の中でいかに目的にかな う蔵書構成を作り上げるかが、 私たち図書館員に求められる専門性の一つでもあり ます。 図書館法第 2 条は、図書館の目的を「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理 し、保 存して一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資 すること」と規定しています。小説や趣味に役立つ本、生活に必要な資料・情報を 利 用者の権利として、無料で手に入れることができるのが公立図書館なのです。<貸し出しに対する批判は、何を意味するのでしょうか>
町田市立図書館は、1960 年代末から日野市立図書館をはじめとする多摩地域の 図書館が先頭に立って実践した「市民の図書館」の 理念を継承し、全国でも有数の 活動を展開してきました。1990 年に待望の中央図書館が開館してからは、これまで十 分できなかったレファレンス、地域資料 やハンディキャップサービスなどにも力を注 いできました。まだまだ、不十分なところも多くありますが、今日のようなサービスが可 能になったのは、貸し出し やリクエスト制度の確立に力を注いできた結果、ようやく 図書館の存在が利用者に浸透してきたからではないかと思います。 かつて鶴川の地で、 50 年もの長きにわたり、農村図書館に始まる私立図書館の運 営を続けた、故・浪江虔さんは、「市民の図書館」が全国に拡がった実態を「図書館革 命」と名付 け、高く評価しました。しかしながら、最近の風潮として、それを「貸出至上 主義」「無料貸本屋」等と批判的に捉える動きが顕在化しています。その背景に は、 逼迫した自治体財政の問題などがありますが、先進諸国に比べて図書館が立ち後れ ている我が国の現状を更に昔の状態に後戻りさせる動きというほかありま せん。今 回の事態も、そのような動きと無縁ではあり得ないと思います。4.ベストセラーの複本購入は、どこに問題があるのでし
ょうか
<出版物が売れないことを図書館の貸し出しのせいにするのは大きな誤り
です>
改めて論点を整理してみます。今回の放送は、「ベストセラーをめぐる攻防~作家v s図書館~」というタイトルが示すとおり、作 家・出版社と図書館の対立というように 描かれています。すなわち、作家・出版社側は、「図書館がベストセラーを大量に購入 し、貸し出すから、本が売れな い」という論法です。これに対して、図書館側は、ベス トセラーの購入費が図書購入費全体に占める割合や、ベストセラーの貸出冊数が図 書の全貸出冊数に占め る割合を資料により示し、それがごくわずかであることを実 証しました。 そのことが明らかになってきたため、出版物の売り上げ(右肩下がり)と 図書館の 貸出冊数(右肩上がり)を対比させ、「図書館が無料で本を貸し出すから、本が売れな い」という見当違いの論法を持ち出すに至っています。そして、 それが公共貸与権 (公貸権)導入の主張に結び付いているのです。しかも、それだけでにとどまらず、 「新刊書など市場で流通しているものは、図書館で買う必 要はない」、「雑誌などは、個人で買うべきである」という飛躍した議論まで出てくる始末です。そのように主張す る人たちは、一体どのような図書館を望んで いるのでしょうか。一部の利用者しかい なかった 30 数年前の図書館に戻せという主張なら、まったく話は別です。
<町田市立図書館は、流通の仕組みから疎外されている本も購入していま
す>
市場に流通しない本、個人で買えない本、そればかりを揃えた図書館を一体誰が利 用するでしょうか。確かに、地方で出版された本、 小出版社から出された本は、市場 のルートに乗りにくいために、個人で手に入れることは困難かもしれません。版元か ら直接購入しなければ手に入らない本もあ ります。町田市立図書館は、そのように 流通の仕組みから疎外されている本も、地方・小出版流通センターから選定用の本を 取り寄せたり、出版者から直接購入 するなどの方法で選書の幅を広げています。<森羅万象にわたる資料を豊富に揃えることが図書館の使命です>
図書館を利用する動機は、人によって様々です。時代小説・ミステリー小説・園芸の 本・スポーツの本といった趣味や娯楽の ための本を借りる人、生活に必要な情報を 得るため、本を書くための調べもの、学校の宿題その他の目的を持って図書館を訪 れる人、あるいは、特に目的の本を 探すためではなく、書架にどんな本があるか眺 めながらおもしろそうな本を探す人、実に千差万別です。利用者層も乳幼児から高齢 者まであらゆる世代にわたっ ています。だから、図書館は、森羅万象にわたる資料 を豊富にそろえる必要があるのです。5.町田市立図書館は、利用者とともに歩みたいと考え
ています
<町田市立図書館は、分野ごとに選定会議を開いて購入する本を選んで
います>
町田市立図書館は、多くの利用者に満足していただけるような蔵書構成を心掛け、 そのための選書を行っているつもりです。町田市立 図書館では、各図書館の代表が 文学・一般・児童の分野ごとに集まり、選定会議を開いて、原則として実際の本を見 ながら購入する本を選んでいます。複数の職 員が様々な要素を考慮しながら、総合 的に判断しており、職員個人の好みや恣意的な判断で選ぶわけでは決してありません。購入に際しては、リクエスト件数 や、多くの利用が見込まれるか等を判断して、 複本の冊数も決定します。もし、更に多くのリクエストが殺到した場合は、追加購入冊 数も決めます。