早稲田大学大学院 創造理工学研究科
博 士 論 文 概 要
戦後アイデア・コンペの実施動向と
新建築コンペ入選案における正方形プランの類型研究
Study on idea competition trends after World War II
and typology of square planning seen in the prize-winning works presented in SHINKENCHIKU Residential Design Competitions
申 請 者
石垣 充
Takashi ISHIGAKI
建築学専攻 建築意匠論研究
2015 年 11 月
現在国内では様々な提案型建築設計競技(以降 アイデア・コンペ)が行われている。建築以外の デザイン分野においても公募型の懸賞競技、コンペ、コンクール、コンテスト等が多く存在し優秀 案の選定、公平な適者判定の方法として社会的な定着が見られる。アイデア・コンペは戦前から行 われているが戦後の出発点は 1947 年に新建築社主催により行われた「十二坪木造住宅國民住宅懸賞 募集」にまで遡ることができる 。このように戦前-戦中を含め古くから多くの若い設計者・学生に よって取り組まれているアイデア・コンペではあるが、その提案は実際の建築行為を伴わず、実施 を前提としていない。そのため応募者、設計者のデザイン力修練の機会やトレーニングチャンスと しての評価に留まり、主催者である企業側の安易な開催も見られる。しかし実施では無いがゆえの 独自の論点や表現が可能であり、かつ課題内容も社会背景や世相を敏感に捉えたテーマが多く見ら れる。それら課題の設定者・審査員も当代の代表的建築家や建築評論家が多く担当しており彼らの 課題への言説と提案への講評はその時代の建築に対する認識や展望を表現している。またアイデ ア・コンペが応募者にとって後の建築家へと成長していく過程での通過儀礼的、登竜門的扱いとな っているのは入選者歴からも伺うことができる。そして、アイデア・コンペの提案者は課題及び課 題設定者、審査員あるいは自身が提案によって獲得した建築的仮説から、以降なんらかの影響を受 けていると推測される。
このようにアイデア・コンペの要項における課題文章、応募者の提案におけるデザイン、審査員 の講評における言説は、設計者や建築家による社会のイメージや建築デザインの潮流を知る重要な 資料といえ時代的に大きな変化が見られるが従前論点として扱われていない。既往研究として戦前 の住宅改良会による懸賞競技や戦後の新建築懸賞など個別の競技を扱った内容は見られるが、アイ デア・コンペの実施動向全体とデザイン変遷を網羅的に捉えたものではない。このような背景に対 し本論文では以下の二つを目的として研究を進める。
新建築誌に掲載されるアイデア・コンペの実施動向や各競技における“要項-提案-講評”を分析 しアイデア・コンペの概略を論じ、それらの年次的変遷や起点、転換・展開期等を考察し、定義付 けることを目的とし、第一章と第二章が対応する。
また新建築コンペ(新建築懸賞と新建築競技の総称)入選案の平面外形とプランタイプの分析を 行い、新建築および住宅特集に掲載される住宅作品との比較分析によりアイデア・コンペ入選案に 含意される先進性や実験性を考察することで、アイデア・コンペの機能、意義の一端を提示し、ア イデア・コンペに客観的な評価を与えることを目的とし、第三章と第四章が対応する。
以下に各章ごとの概要と結論について述べる。
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第一章では、戦前-戦中-戦後に行われたアイデア・コンペの実施動向を把握するとともに特徴的 競技を考察し、本研究の起点となるアイデア・コンペを定義付けることとした。
戦前-戦中-戦後におけるアイデア・コンペは、それぞれの社会的背景により開催され、戦前の住 様式の啓蒙的役割、戦中の戦役記念建造物などによる国威発揚、戦後混乱期の坪数制限下における 小住宅提案へと、その目的を変化させていくが、高度経済成長期の1965年に単数の審査員による特 異な型式「ワンマン・コンペ」として新建築住宅設計競技(以降 新建築競技)が行われる。この新 建築競技1965が起点となり、以降万国博覧会開催などを社会的背景として次第に開催が活発化する 展開期を向かえ、かつ応募者を海外に求める国際コンペの形式も見られるようになる。その後の好 景気に合わせアイデア・コンペの開催数も増加し、1990年前後のバブル経済期に最も多くの競技が 開催される乱立期を向かえる。その後景気の後退とともにバブル経済期に乱立したアイデア・コン ペが短期間で終了し安定前期を向かえ、2000年代半ばより再び新規のコンペが見られるようになる 安定後期を向かえる。そして2010年にアイデア・コンペにおける特徴的開催事例である新建築競技 が終了するという実施動向が明らかになった。
第二章では、新建築誌に掲載されたアイデア・コンペの“要項-提案-講評”を分析し年次的変化 を把握し、それらの変化がどの期間に顕著に見られ転換期を形成しているのか、また変化を引き起 こした背景の一端を考察した。
1960年代、初動期のアイデア・コンペは設計条件が付され所与の問題を解く「問題解決型」の課 題が主であったが、1970,73年に起こった要項の変化、特に所要図面の変化と主題の変様は提案表現 の自由度を拡大した。この変化後に見られる新建築競技1975の最上位案は図面表現によらないイメ ージ提案であり、以降の建築物によらない非建築的回答の増加を誘導し、提案が多様化していく。
その後、設計条件やビルディングタイプ等を要項により設定する「問題解決型」の課題形式から、
それらを各自設定し、提案者が問題を作成、拡張する「問題拡張型」へと変化していく。以上のよ うに1965年から2010年までのアイデア・コンペの流れを俯瞰すると初期段階である1970年代がアイ デア・コンペの意味的内容が大きく変化する転換期となっていると推察される。
第三章では、前章において明らかになったアイデア・コンペの起点であり転換期を形成する背景 となった新建築コンペを対象として、当該コンペの要項における作品体裁の変遷を分析するととも に入選案の平面外形とプランタイプの分析を行い、作品体裁の変遷に伴う建築デザインとの対応関 係、特徴的プランタイプの存在を考察した。
1970年代に見られる作品体裁の大きな変化として図面表現、空間表現、文章表現の自由設定があげられる。
この変化は提案表現の任意設定という自由度を付与し、空間表現、文章表現とともに縮尺率や方位記号を持 No.2
たない図式的表現が一体的にレイアウトされるという図面表現の意味的変化をもたらした。また公室を南面 に配置する東西方向長手プランが減少し、対して正方形外形の提案が増加する。このように住宅における採 光および間取りの工夫という主題が後退し、空間の新規性を正方形外形に投影する実験的回答モデルとして 正方形プランが多数見られる様になり10種の類型が多様に展開していく。またこれらの展開の端緒は1970年 代に見られ、前章における「アイデア・コンペの転換期」と同時性を持つことも確認された。
第四章では、新建築コンペの入選案「紙上建築」と新建築および住宅特集に掲載される住宅作品
「地上建築」における、正方形という限定的な平面形状を比較対象として紙上建築と地上建築にお ける正方形プランの出現動向、類型変遷等双方の対応関係を考察した。
紙上建築と地上建築において 1952 年という正方形プランの出現初年、1970 年代と 2000 年代に出 現率が増加するという出現動向の同一性が見られる。一方で面積規模、「間取り型」の占有率、駐 車場の計画、意匠面における差異などの不同性も確認された。各類型の出現傾向として地上建築に おいて実作例が見られず紙上建築の実験性を表出するプランタイプとして「外周諸室型」「複数選択 型」「一室型」があげられる。さらに紙上建築が先行出現し、地上建築において後発的に同傾向の作 品が見られる類型として「空間接続型」があげられるなど、紙上建築における先進性とアイデア・
コンペの意義の一端が確認された。
以上各章における知見をまとめると、戦前-戦中-戦後の建築機会減少の代替行為として懸賞競技 が行われるが、戦後復興以降の高度経済成長期に開催された新建築競技 1965 を起点とし 1970 年代 にアイデア・コンペは課題、提案ともに転換期を迎える。主題が多様化し要項における設計条件や 作品体裁の自由度が高まるなか問題解決型から問題拡張型へと課題形式が変化、提案も多様化し実 験的回答モデルとして正方形プランが多く出現していく。これらの正方形プランと新建築誌におけ る実作との比較分析から紙上建築と地上建築における出現動向、転換・展開期の同一性、紙上建築 に見られる地上建築との意匠的差違と先進・実験性などが認められ、アイデア・コンペの意義の一 端が確認されるという結論を得た。
今後の展望として、詳細なデザイン分析を進めるために正方形以外の平面外形を扱い、さらに立 断面図により立体的空間構成の変化を分析することも可能である。また新建築コンペ以外の競技、
戦前の競技、海外のアイデア・コンペ等を扱うことで、紙上建築と地上建築の対応関係をより俯瞰 的に把握することが可能である。
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