産業循環と利子率の変動序論
著者 谷村 智輝
雑誌名 經濟學論叢
巻 56
号 2
ページ 1‑23
発行年 2004‑07‑30
権利 同志社大学経済学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004657
【論 説】
産業循環と利子率の変動序論
谷 村 智 輝
†1
は じ め に1990 年代初頭以降の長期的な不況は,デジタル機器と中国を中心とした海外 生産の需要に牽引されるかたちでの回復過程の開始がいわれているものの,そ の強さや持続性という点では不透明であるといわざるをえないのが現状である.
さて,こうした景気変動の基礎は,諸資本の再生産と競争である.一般的にい って,成長と自己増殖を目的に利潤を追求する個別諸資本の競争が,景気の波 をつくり出す.また,現代の不況の深刻化の背後には,経済グローバル化の進 展が影響しているといわれる.これは結局,個々の資本の再生産過程が利潤率 を指標にグローバル競争として展開される一方で,これら企業のもとで雇用さ れ生活の糧を得ている人々の再生産領域は,こうした企業活動のグローバル化 との対比でいえば限定されているということにもとづいている.ここで重要な ことは,個別諸資本の再生産活動がわれわれ自身の再生産を規定し,景気変動,
産業循環を生起せしめるということである.こうして個別資本の再生産過程と 競争に立脚することは,諸資本が一国経済を超えて事業を展開している現在で も,重要で基礎的な視点であると筆者は考える.
さて,Marx は,『資本論』第Ⅲ部(第5 篇第22 章「利潤の分割,利子率,利子 率の自然率」)で,つぎのように述べている.「利子率が産業循環中に通過する循 環を叙述するためには,産業循環そのものの叙述が必要になる」(Das Kapital, Ⅲ.
† 本論文の作成にあたって,平成14 年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学 院重点特別経費(研究科分)の助成を受けました.
S. 370).あるいはまた,『剰余価値学説史』では,「現実の恐慌は,資本主義的 生産の現実の運動,競争と信用の面からのみ説明されうる」ともいう(Mehrwert
Ⅱ. S. 513).これら周知の言説は,彼が産業循環それ自身を解明しなかったとい うことを示す一方,産業循環の過程で利子率は循環的に変動するが,諸資本の 競争と信用が産業循環過程を考察するさいに欠くことができないと彼が見てい たいということをあらわしている.もっとも,ここでいう「競争と信用」につ いて,その内容規定が具体的に与えられているわけでは決してない1).しかし,
資本主義,なかんずく機械制大工業の確立は,資本の自立化の契機であった一 方で,この発展と並行して信用も発展してきた(Das Kapital, Ⅱ. S. 182)のであ る.こうしたことからいっても,信用は個別資本の競争また産業循環と密接に 関わるはずである.
筆者はこれまで,諸資本の競争過程を個別資本の再生産過程に立脚しつつ検 討し,この個別資本の再生産と競争の因果的展開にもとづいて産業循環過程を 検討してきたのであるが,本稿の目的は,産業循環と「競争と信用」とについ て,とくに産業循環における利子率の動態に着目して検討することである.
一般的にいって,個別資本の競争は信用を媒介にして行われる.利子率は,
個別資本の再生産過程のなかで資本投下の意志決定にあたって大きな影響を与 えるとともに,利子率それ自身も個別資本の再生産過程の結果として変動する.
この点について,産業循環諸局面の進行にそくして検討するのが本稿の課題で ある.もう少し具体的にいうと,産業循環を利潤率の上昇と低下の過程として とらえたうえで,この利潤率と利子率の相互関係・相互変動と個別資本の再生 産過程の変化について検討し,産業循環のプロセスを明らかにするというのが 本稿の問題意識である.
利潤率の動態に着目しつつ産業循環論を展開しようとするとき,その変化の 因果的な説明が必要不可欠である.以下本稿で述べるように,個別資本の再生
1)『資本論』では,「資本主義的生産様式の内的編成を,いわばその理想的平均において」(Das Kapital, Ⅲ. S. 839)示すというかぎりで競争と信用が論じられていると筆者は考える.
産と成長が利潤率の関数であるため,産業循環は利潤率の循環なのである.利 潤率の可能性を与えることが再生産を起動する.これに対して一定の利潤率が 見込めないとき再生産が停止し,資本の成長は阻害され景気の反転がもたらさ れる.では利潤率低下の現実的契機をなにに求めるべきか?こうした蓄積・再 生産の停止について,既存の研究でも利潤率と利子率騰貴の再生産との関連が 問題になってきた.
周知のように従来の恐慌・産業循環論は,「商品過剰論」と「資本過剰論」
とに大別される.両者の大きな争点は,過剰資本の顕在化がもたらされるプロ セスをどうとらえるかにあったといえる.すなわち,前者は,商品過剰(商品価 値の実現の困難)の結果として利潤率が低下し,資本過剰がもたらされると主張 している.これに対して,後者は利潤率の低下から資本過剰がもたらされ,そ の結果として蓄積の鈍化が帰結されるととらえている.
利子率の変動との関連でいえば,商品過剰論の場合,恐慌の必然性論として 第Ⅰ部門(生産手段生産部門)の自立的発展を根拠とした商品過剰の顕現がまず 解明されなければならず2),利子率の変動とりわけ好況末期の利子率騰貴は,実 現問題の激化要因であるという理解が一般的である.これに対して資本過剰論 の場合は,宇野(1953)以来,利子率騰貴が資本過剰の顕現にとって重要な要 因となっている.しかし,実現問題を捨象し賃金騰貴による資本の絶対的過剰 生産を基礎的理論とすることについて,資本の絶対的過剰生産自体が再生産過 程の全面的攪乱を不可避的にもたらすものではないこと,そして利潤率と利子 率の衝突の結果,新投資のための生産手段の実現困難と若干の消費手段の過剰 生産が生じることがあったとしても,それは拡大再生産から単純再生産への移 行にすぎないともいいうること,こうした再生産規模の縮小は,遊休貨幣資本 と失業者を排出する結果,利子率と賃金率が低下して資本の絶対的過剰生産を
2)松橋(2001),(2002)は,恐慌・産業循環論を統合説とりわけ富塚説を中心にサーヴェイしてい
る.そのなかでも,実現困難を不可避とさせる論理を明らかにしたうえで,現実資本と貸付資本の 関係が検討されなければならないと述べる.資本過剰論に立脚した研究の整理は,さしあたり信用 論研究会(1981)を参照.
緩和すると考えられること,こういった点で批判されている.筆者は利潤率低 下と資本過剰,蓄積停止という論理展開について資本過剰論を重視するが,こ れらの問題点は,資本の絶対的過剰生産と利子率騰貴の因果的関係が不明確な 点にあると考えている.
本稿では,利子率と利潤率との関連について考察し,利子率要因が産業循環 の局面転換にとって重要な役割を果たすということを明らかにしたい.また,
産業循環過程と利子率の動態の対応関係について,利潤率との関連を明らかに したい.具体的に言うと,利子率が利潤率と時の遅れをもって変動していくと いうことを明らかにしたい.
2
個別資本の競争・再生産過程と利子率2. 1 個別資本の競争・再生産過程の基礎的規定
一般的にいって産業循環は,資本主義経済の内的法則の現象形態であるとと らえられる.この内的諸法則と産業循環運動とを媒介するのが諸資本の競争の 作用であるということが通説的理解といえよう.しかし,個別資本の再生産過 程ではこうした抽象的規定として競争を位置づけるのではない.個別資本の再 生産過程それ自身を競争の過程としてとらえることが,この分析の眼目である.
これらの点については,既に拙論で展開してきたが,要点のみまとめておきたい.
個別資本は,価値増殖運動の自立的運動主体である.そして競争の主体でも ある.個別資本は,自己の成長・価値増殖を自己目的とするが,この目的の達 成度は,利潤率ではかられる.個別資本の再生産過程は,「資本の投下」と
「資本の産出」の連続である.投下資本(K)は,資本構成にしたがって生産手 段と雇用労働者とにわかれる.言い換えれば,K は再生産のための需要を表現 している.再生産のための需要は,補填需要と蓄積需要(=新投資需要)とにわ けられる.この資本投下にもとづいて個別資本の事業が展開され,その結果,
資本が産出される(X)3).今期の資本投下と前期の産出資本―すなわち再生
3)Xは,実現利潤のひとつの表現である.しかし,ここで注意したいのは,個別資本の再生産過程 にとって,生産物が全て売れる=実現されるとかあるいはどれだけ実現するかということそのものが 最も重要なのではない.今期の産出資本と次期の投下資本とを結びつけるのは,自己増殖の可能性 したがって利潤率の可能性がまず問題となるのであり,たんにどれだけ売れるかということそれ自体 ではない.このことを区別するために産出資本の概念は有意義である.
産過程―を媒介するのが今期の資本蓄積率(f)にほかならないが,蓄積率は,
純産出資本(総産出資本と投下資本との差額)のうち次期に資本投下される比率で あることから,時間を加味してつぎのように表現できる.
ここでgは個別資本の成長率,r は利潤率である.上式から,
g =f r
となる.この式を「蓄積の基本方程式」と呼ぶ4).これは,再生産過程の自己 目的である自己の成長が,資本蓄積率と利潤率によって決まるという再生産の 基本関係をあらわしている.上式に見られるように,利潤率は,前期の利潤率 rt−1である.したがって前期利潤率が前期から今期にかけての成長率を基礎づけ る.しかし個別資本は,前期利潤率だけでなく今期の期待利潤率をも加味して,
資本投下を決定する.この意味で,今期に利潤率をどう高めるかということが 個別資本にとって問題となる.
これはつぎのことを含む.すなわち,個別資本の再生産過程では,今期の資 本産出と次期の資本投下には,実現問題(生産物価値がどれだけ実現したか,つま り売れたか)それのみが問題になるとはいえない,ということである.仮に生産 物がすべて売れなくても,資本投下をすることができる.次期の資本投下にみ あう利潤率を可能とする生産手段と労働力が得られれば,そのかぎりで資本は 投下されうるということである.こうして期待利潤率が,個別資本の再生産過 程を根拠づけている.期待利潤率を規定するのは,市場価格水準,資本構成と 費用価格水準である.
こうしたことから,利潤率そして蓄積率は,資本投下にあたって個別資本の 自己決定にもとづき,みずからが主体的に決めることができる要因であると考 えられる.そして,個別資本の競争も,これら要因をめぐって展開されること
4)この点についての詳論は,大野(1998)第4章,また谷村(2000)を参照のこと.
f = = = Kt−Kt−1 Xt−1−Kt−1
(Kt−Kt−1)/Kt−1 (Xt−1−Kt−1)/Kt−1
g r
になるのである.こうした基本関係に依拠すると,個別資本の競争は,利潤率 を高めることに主眼をおいた競争と資本蓄積率をめぐる競争すなわち規模拡大 競争とにわけることができる.産業循環との関連でいえば,不況期において利 潤率を高める競争が展開される.それは,不況局面が資本投下の困難に直面し ているからである.蓄積率をめぐる規模拡大競争は,好況期での競争の展開で ある.これらについては,後述する.
2. 2 利子率と個別資本の再生産過程
個別資本は,資本投下のファンドとして自己資金のみならず他人資金をも利 用することができる.他人資金の利用にさいして,利子,利子率が再生産過程 に導入されるのであるが,ここで,利子および利子率と個別資本の再生産過程 との基本的な関連について考察しておきたい.
まず,利子とはなにかという問題について整理したい.利子は,資金の貸借 関係において,借り手が貸し手に支払う資金利用(金融)の価格である.資金 としての貨幣は,資本すなわち生産手段と雇用労働者に転化する.個別資本は,
これらを産業に投下し自己増殖をはかる.資金としての貨幣は,資本として機 能する可能性,換言すれば利潤をもたらす可能性という使用価値をもっている.
この可能性が根拠となって,借り手は貸し手に利子を支払うことになるのであ る.したがって,貸し出された資金がある一定の期間をへて貸し手の元に戻っ てくるさいに借り手が支払う資金商品の価格が,利子の定義である.これに対 して,約定期間にもとづき資金に対してどれだけの利子を支払うかということ が利子率の規定である.
しかし,利子率には多様なカテゴリーがある.たとえばMarx でも,個別的 利子率,市場利子率,平均利子率は区別されている(Das Kapital, Ⅲ. S. 374).個 別資本の再生産過程を競争過程として論じるということ,そしてそれが産業循 環過程の検討であるということから,一般的利潤率や生産価格の成立を前提に するものではない.これらを成立させる競争は,均等化をめぐる競争である.
この面での競争は,市場での資本の配分競争にすぎない.高山(1985)でも指 摘されているように,個別諸資本が生産価格や一般的利潤率の成立を前提にあ るいはまた目的として競争するのではないことはいうまでもない.さらに重要 なことは,市場での配分競争は,再生産の起動因としての個別資本の利潤率を 高める競争を看過しているということである.
こうしたことから,産業循環における利子・利子率の検討にあたって,平均 利潤,一般的利潤率を前提にしてそれらとの関連から両者を規定することは妥 当ではない.利子率は,市場利子率として,個別資本の再生産過程の前提条件 となる.それは市場価格が個別資本の競争の前提になるのと同じである.信用 制度とりわけ銀行制度の発達を前提として資金の需要・供給関係が「同時的大 量作用」としてあらわれ,利子率は社会的なものとなる.そこで利子率は,各 個別資本にとっては社会的な,したがって個別資本の再生産では所与となるも のである(Das Kapital, Ⅲ. SS. 378 - 382).
ところで,個別資本の再生産過程に着目するとき,前節で述べたように,資 本投下と利潤率の自己決定の関係,したがってまた期待利潤率との関係が競争 の機軸となるから,利子率についてもこれらをふまえて考察しておかねばなら ない.個別資本の再生産過程にそくしていえば,個別資本は,資本投下のさい にその時点での利子率を前提に資金市場(現実的には銀行)から資金を調達する.
利子率は期待利潤率の計算にはいる.そこで,個別資本の期待利潤率が資金需 要を規定し,したがってまた利子率を規定することになる.いうまでもなく,
もし利子が期待利潤より大きければ,借り手にとって資金を手に入れることは 無意味である.そこで利子率は,期待利潤率よりも小さい.
さらに,このようなことからも理解できるように,利子率は,資金を需要し 利用する側によって規定される.そこで,利子・利子率は,貨幣を所有すると いうこと,したがって資金供給側に規定されるのではない.
個別資本は,期待利潤率に応じて資金を需要し,生産を開始する.その結 果,資本を産出し利潤を取得する.そして,利子は,実現利潤....
から..
支払われる.
この意味で,利子率の上限が個別資本の利潤率である.このことから,一般に 利子の大きさの上限は実現利潤,下限はゼロであることもわかる.
個別資本の再生産過程では,資本投下の総額(K)は,自己資本をk,他人資 金をBとすると,K=k+Bで書ける.利子率―これをiとする―は,資本 投下のための資金調達にあたって個別資本にとっては前提となる.上述のよう に利子率は,資金の需要と供給の関係に応じて変動する市場での要因であり,
利子率の水準を決めるのはこうした需給関係によるほかはない.
そして,期末にX 量の資本が産出される.この産出資本は,(X−K)だけ自 己増殖している.この自己増殖分から期末に利子(iB)が支払われる.こうし て,(X−K)−iB の一部あるいは全部が次期への蓄積にまわされる.これは,個 別資本の自己利潤すなわち企業利潤(企業利得:Unternehmungsgewinn)である.
これと次期の他人資金とが,次期の「蓄積需要」のためのファンドとなる.な お,「補填需要」は,既存投下資本(K)である.
このようなことに留意すると,利子と利潤,利子率と利潤率の関係は,つぎ のようにあらわすことができる.
いま,当該資本の取得する利潤量をS とすると,
X−K=S+iB
である.すなわち,純産出資本から利子が支払われ,企業利潤(企業利得)が残 る.しがたって,利子は利潤より小さい.総利潤が利子の上限であるといえる.
2. 3 個別資本の資金充用と利潤率
つぎに,個別資本の資金調達行動と利潤率との関連,これと利子率との関係 について考えたい.結論を先取りするなら,これらの規定は産業循環の過熱局 面と恐慌への転換で重要な役割を果たすと考えられるのである.
ここで,投下総資本利潤率をπ,投下総資本に対する他人資金の比率すなわ ち「負債比率」をε として,自己資本に対する利潤の比率
(これを自己資本利潤率と呼ぶ)をr とすると,
(ε= ,B 0≦ε≦1) K
=(1−ε) r+iε したがって,
と書くことができる5).投下資本のすべてが自己資金にもとづく場合,明らかに 総資本利潤率と自己資本利潤率は同じである.この自己資本利潤率は,総資本 利潤率,負債比率(したがって自己資本比率),利子率によって規定される6).投 下総資本利潤率が利子率の上限になる.もっとも,産業循環上では,利子率が 実現利潤率よりも大きくなる可能性をもつ.この点については,あとで述べる.
自己資本利潤率は総資本利潤率と同じ方向へ,利子率とは反対に変化する.負 債比率の変化が自己資本利潤率にどう影響するか調べよう.
自己資本比率に対する自己資本利潤率の変化率は,
である.この定式では,利子率が個別資本にとって外生変数であるから,利子 率の水準そのものを考察することはできない.また,総資本利潤率の変動それ 自体も問題にはならない.しかし,利子率の状況と自己資本比率,総資本利潤 率の関係,個別資本の行動を表現している.
すなわち,π>i であるとき,他人資金を積極的に充用して―したがって r = − iπ
1−ε ε 1−ε
5)上式で企業利得率は, であり,量的には(1−ε)r と等しい.しかし,いうまでもなく,企業
利得率は自己資本利潤率とは異なる.
6)これらの関係については,Lianos(1987)が考察している.Lianos(1987)は,産業循環におけ る利子率と利潤率の変動を研究していて興味深いが,その最大の問題点は,石倉(2000)でも指摘 されているように,負債比率が産業循環をつうじて一定であることにある.また,一般的利潤率の 成立を基準としている点でも賛成しがたい.なお,高橋(2000a),(2000b),(2002)は,均衡蓄積 経路のフレームワークにもとづいて,景気循環における総資本利潤率,自己資本利潤率,自己資本 比率の動態について検討している.
S K
∂r
∂ε = π−i (1−ε)2
π= = ・ + S K
k k
iB K X−K
K
負債比率を上昇させて―事業を展開すればするほど,自己資本利潤率は大き くなる.この関係については,高橋(2000a)等でも検討されているが,そこで 指摘されているように,総資本利潤率が利子率よりも小さいときには,より少 ない自己資本でより高い自己資本利潤率をあげることができることを意味する.
すなわち,金融の「レバレッジ効果」が働くのである.
ところが,逆にπ<i であれば,負債比率が大きくなればなるほど自己資本 利潤率が小さくなる.これについてどう考えることができるだろうか.他人資 金を導入した場合,資金調達コストすなわち利子を上回る利潤,したがって利 子率を上回る利潤率が上げられない場合は,「負のレバレッジ効果」が働いて,
負債比率が大きくなるほど,自己資本利潤率が低くなるのである.負債比率が 高いほどレバレッジ効果は高い.言い換えれば他人資金に依存すればするほど 負のレバレッジ効果の影響も大きいということである.こうした事態は,産業 循環の一定の局面で,現実的な影響をもたらす.この点については,後述する.
付言すると,この関係があらわしているのは,π<iのとき,他人資金を充 用して事業をすることをやめるかそれとも事業そのものをあきらめるかである.
自己資本利潤率が利子率より大きければ事業をつづける.利子率が自己資本利 潤率を上回るほどの高騰があれば,事業は継続しないということも意味してい る.
3
産業循環過程と利子率「恐慌の必然性論」とは異なって,産業循環過程を個別資本の再生産・競争 過程から論じることの眼目は,資本の再生産と競争の因果関係からこの問題を 検討することである.たとえば利子率の変動も上述のように他人資金の需要か ら規定されるから,個別資本の再生産過程が原因となって利子率が変動すると いえるのである.
さて,恐慌は,前循環の生産編成・社会編成の解体と再編の契機となる.し たがって恐慌につづく不況局面は,ひとつの産業循環過程において個別資本の
再生産過程の出発点として位置づけられる.そこで,産業循環過程の考察を不 況期からはじめる.
3. 1 不況からの回復と費用低減競争の展開
恐慌の端的な表現は,利潤率=0 である.この利潤率=0 が原因となって,
賃金率,利子率,操業度が低水準となる.つまり個別資本の再生産過程が開始 できず資本蓄積が停滞しているために,言い換えると次期への期待利潤率が与 えられないために資本の再生産過程の開始が制限されていることから,商品,
雇用労働者に対する需要,資金需要,操業度も低いのである.
利潤率=0 は,「企業精神の麻痺」をよぎなくされた資本の活動の停止を意味 しており,自己の定在の否定である.この不況期における個別諸資本の競争の 性格は,利潤率を高める可能性をめぐる産業での生存競争である.期待利潤率 0%に対する個別資本の対応,個別資本の再生産の開始が,不況からの回復を もたらすのである7).これに対して,利子率の政策的低下は,問題そのものを解 決しない.というのも,利子率の低下は,資本の再生産のための需要の欠如を あらわすのであり,利子率が低いことから需要が喚起されるのでは決してない.
ところで,こうした利潤率を高. める..
競争に対して,不況期の狭隘な市場での シェア獲得を目的として生産物を安くするための新技術導入が強いられるとい う考えがある.いわゆる生産性上昇にともなう商品価格低下によって自己の実 現利潤量を増大させるということである.確かに,これは生産性上昇のための 機械の採用を伴うから,このかぎりで需要形成を期待できる.しかし,こうし た設備投資は,商品供給量を増大させよりいっそう市場価格を低下させる.市 場価格と費用価格との差が利潤であり,利潤と費用の比率が単位当たり利潤率
7)たとえば高山(1985)では,不況期における特別剰余価値を獲得するための投資が,それ以降の 蓄積の推進力となると考えられている.高山(1985)は,個別資本の再生産と競争過程を重視し,
ひとまず「利潤率をめぐる競争」がとりあげられているが,個別資本がみずから利潤率を高めるこ とが問題であろう.個別資本の再生産過程と市場価格等の各指標の因果的関連が問われなければな らないだろう.
にほかならないから,こうした投資行動はよりいっそうの利潤率低下を帰結す るだろう.
こうした市場での商品販売高をめぐる競争ではなく,個別資本が能動的に自 己の利潤率を高めることが模索される.資本投下の開始は,決して商品実現に のみ規定されない.商品価値の実現量にかかわらず個別資本が利潤率を高める ならば,再生産過程が開始され,再生産のための需要連関が形成されうる.
このようなことから,個別資本の再生産過程の開始は,資本の投下の可能性 をつくりだすことにかかっているといえる.それは自己の利潤率を高める可能 性を創出することにほかならない.これは,自己の費用価格を低減させる以外 にはない.利潤率を規定する要因のなかで個別資本自身が主体的に操作できる のは,費用価格だからである.個別資本が自己の費用を低減させて主体的に利 潤率を高める可能性には,いくつかの契機が考えられる.まず,費用低減的な 新機械の採用,第二に安価な原材料の採用,第三に不変資本充用上の節約,第 四に安価な労働者雇用,を挙げることができる.そのうちで資本にとって最も 主要な要因は,費用低減的な新機械の採用にあるといえよう.
ところで,費用価格低減の競争は,生産量の増大と同義ではない.生産量増 大は,むしろ規模拡大競争の結果である.費用低減は,労働者との置き換えで あり,費用価格にかかわる.不況期に合理化投資が行われることはその証左で ある.こうしたことから,費用低減競争は,資本構成の高度化をともなう質的 な競争である.また,規模拡大にもとづいた生産性増大そして生産量拡大,商 品価値低下は,市場でより多く販売するための手段であり,「市場シェア獲得競 争」であるが,費用規準での競争は産業での資本投下にさいしての利潤率をめ ぐる競争である.
さて,こうした技術の発生それ自体をいま所与とし,一部の特殊的資本がこ の新技術の採用を現実化した場合,この産業部門では新技術を模倣する競争が 展開される.なぜなら,既存の資本の利潤率は,相対的により低くなるからで ある.マイナスの特別利潤をめぐる競争圧力をつうじて新技術の導入・普及が
強制され,個々の利潤率が高まり,結果として利潤量も拡大する.その結果,
当該産業の部門利潤率と資本構成は高まる.
ところで先にも述べたように,新しい機械の採用は,労働者を機械に置き換 えるということである.したがって新技術導入にともなって当該部門での雇用 労働者に対する需要は減少し,相対的過剰人口が形成される.これは他面,賃 金財に対する需要の減少にほかならない.したがって実現問題に着目するかぎ り,このような投資行動は,回復に容易に結びつかないと考えられるかもしれ ない.しかし,この投資が,たんなる販売量の増大を目的とするのではなく諸 資本の利潤率を高めることに主眼があるということが重要である.労働者の置 き換えによる貨幣賃金率の低下は,回復局面における新技術模倣の進展の一方 で,貨幣賃金率が急速に増大せず比較的安定的に推移することの理由でもある8).
とはいえ,こうした模倣過程の進行はそれ自身蓄積需要を形成するから,そ れが他の部門の回復にも寄与する.この部門の投資の発生が資本財に対する需 要を創出することはいうまでもない.そこで当該資本財需要に対応する資本は,
さしあたり稼働率を上昇させるとともに,過剰人口を吸収する.こうした需要 の形成は,費用価格の上昇をもたらす.とはいえ,期待利潤率が高められるか ぎり,このような模倣過程がつづいていくことになろう.蓄積需要に対して当 初は稼働率増大で対処するが,その後蓄積需要の拡大につながる.また,新技 術導入を実現した資本は,高い自己利潤率から順次拡大を志向することになろ う.こうした資本は,流動資本,雇用労働者の需要の拡大である.
新技術の普及は,徐々に部門利潤率の上昇をもたらす.こうした利潤率上昇 の一方で,回復期の利子率についていえば,この局面での競争が期待利潤率を 高めることを主眼にしているだけに,急激に上昇しないと考えられる.もちろ ん,利子率はこの局面で低水準であるから利子費用も相対的に低位である.と はいえ他人資金の充用は,結果的に費用価格の上昇となり利潤率の低下を意味 する.したがって他人資金の導入は,技術導入が,利潤率を高める大きな可能
8)この点については,星野(1998)を参照.
性を有していなければなるまい.したがって他人資金に対する需要には大きな 制約があるといえる.
3. 2 好況局面における規模拡大競争の展開と過熱局面への転化
以上のようにして当該部門で新技術が全般的に普及していくにつれて,部門 利潤率が一定に落ち着く.この時点で,個別資本の競争の性格が変化する.
つまり,技術の普及・一般化の過程は,改良の余地の枯渇である.これにと もなって,競争は,規模拡大競争に転化する.新技術の浸透の結果,規模を拡 大することだけが,当該部門での地位を確保する手段となる.こうして,費用 低減的技術導入競争の結果として,規模拡大競争が展開されるのである.こう した規模拡大競争の進展のなかで,稼働率は上昇する.また,利潤率は高水準 で一定となる.規模拡大に対応して,蓄積需要も大きい.したがって資本財と 雇用労働者に対する需要も大きい.雇用労働者に対する需要は,賃金財に対す る需要の拡大にほかならないから,賃金財産業における資本の再生産過程も順 調である.こうして,規模拡大競争が展開されるとき,経済は好況局面にある.
というのも,生産能力の完全稼働,高利潤率,高蓄積,旺盛な資本財需要と旺 盛な雇用労働者に対する需要が生じているからである.
好況期には個別資本は順調に成長していくことができる.つまり自己資本の 拡大が行われる.規模拡大競争は,獲得した利潤をより多く蓄積する競争であ る.しかし,こうした競争がたんに量的な性格であるだけに,この競争の展開 の過程で他人資金に対する需要が増大していく.というのも前章で考察したよ うに,利潤率(総資本利潤率)が利子率よりも高い場合には,他人資金を積極的 に導入してより少ない自己資本で高い利潤率,大きな利潤の実現が可能である.
そこで,自己資本の制約を超えた他人資金の充用が企図されることになり,利 潤率は高水準で安定的である一方で,利子率の上昇がもたらされる.こうして 他人資金の充用と信用制度の利用は,個別資本の制限を突破する契機であり,
競争を推進させる契機である9).
9)諸資本の競争と信用制度との関連について,下平尾(1999)29 - 32 ページが参考になる.
規模拡大競争は生産量の増大を不可避的にもたらす.もっとも,規模拡大競 争の進展によって増大した供給量が,他の産業にある個別資本の再生産のため の需要として吸収されるなら,市場価格の低下をもたらすのではない.また,
利子率は上昇するとはいえ,旺盛な需要による実現利潤量の増大から,銀行へ の貨幣還流が順調であるので,貨幣市場で急速に利子率が上昇するのではない.
しかし,競争の進展によって商品量の増大と費用価格の増大が利潤率を低下さ せ,一定の利潤率を見込めない状況を生む.この結果,利潤率低下に対応する ための価格競争が不可避となる.この点については,後の過熱局面の考察を必 要とする.
ともあれ,この局面での規模拡大競争は量的拡大が盲目的に追求される傾向 をもつと考えられるから,他人資金の充用が拡大し,好況末期では,借入残高 が上昇していく.好況期の順調な市況,これにもとづく期待利潤率の十分な形 成は,他人資金の積極的充用の動機となる.これは,利子費用の増大を意味す るから,利潤率低下圧力として作用する.
その一方で,貨幣賃金率上昇が利潤率を低下させる圧力をもつ.資本財需要 の増大,すなわち原材料と固定資本の積極的な充用は,資本財部門の量産効果 によりクリアできるとしても,労働力はそうではない.そのため貨幣賃金率が 上昇する傾向をもつ.
こうして産業での競争が,市場次元での諸問題を醸成する.つまり産業での 規模拡大競争の進展によって,利子資金市場で成立する利子率,労働市場で成 立する貨幣賃金率の増加傾向によって,再生産のカギとなる利潤率が圧迫され る.
貨幣賃金率の上昇は,賃金財の需要を形成するから,ただちに利潤率を低下 させるわけではない.しかし,賃金財産業の規模拡大の結果増大した賃金財は,
最終的には雇用労働者の消費に結びつかなければならない.このことを考慮す ると,賃金財の需要は雇用量に規定されるから,結局,賃金財産業の需給ギャ ップが生まれて市場価格は低下するということである.市場価格低下がおこれ
ば,当該部門の利潤率は低下する.
このような利潤率低下の一方,利子率が上昇すると投機が活発になる.投機 がまた利子率を上昇させる.利子率上昇は総資本の実現利潤率を低下させる.
こうして資産市場と労働市場における利子率と賃金率の上昇の結果として,実 現利潤率の低下が生じるとともに,貨幣賃金率の上昇にもかかわらず市場価格 の低下が生じる.こうして利潤率は両者からますます圧力をうけて低下するこ とになるのである.
こうした規模拡大競争の展開は,これまでの産業での諸資本の競争を市場で の競争に転化させるということができる.規模拡大競争の過程で,賃金財産業 の需給ギャップ(=市場価格低下)の一方で,賃金と利子費用の増大が生じ,両 者によって実現利潤率の低下が生じる.こうした実現利潤率が低下しはじめる ところが,好況の過熱局面への転化である.
過熱局面での競争の性格は,「価格競争」である.というのは,このような市 場価格の低下と費用価格の上昇によって実現利潤率が低下していく場合,既存 の生産編成では利潤率を見込めない事態があらわれる.こうした企業は,蓄積 意欲が減退し再生産の需要を減少させるから,全体としての再生産のための需 要の縮小が生じる.しかし,再生産過程を維持する場合に費用価格の回収は欠 くことができない.そのため,個別資本は,低下していく市場価格のもとで,
自己の商品価格を低下させることによって利潤の絶対的総量の減少を防ぐこと を目指す.これが価格低下競争の展開である.こうして,実現利潤率の低下に よって規模拡大競争の価格競争への転化がもたらされるのである.これが薄利 多売競争である.こうした価格競争の展開は,市場価格をよりいっそう低下さ せるから,それに応じて実現利潤率もよりいっそう低下する.こうして,不況 期における新技術導入から開始された景気の上昇局面は,過熱局面に至って収 縮へと転化する.産業での個別資本の再生産過程の運動は,最終的に市場で清 算されることになる.
さて,この局面では支払い手段に対する需要が増加せざるをえない.いうま
でもなく,信用は貨幣の支払い約束であり必ず決済されなければならない.好 況期には,商業信用が拡大するから拡大した手形取引に対する決済のための支 払い手段需要が大きくなるが10),こうした取引の決済のために支払い手段の需 要が大きくなるのである.支払い手段としての資金の利用は,規模拡大競争に おける増強投資のための他人資金の利用ではなく,既存の債権債務関係を維持 することが必要になるための資金の利用である.こうした資金需要が個別資本 の成長を目的とするものではなく,たんに過去の取引の返済資金の貸し付けで あるために,需要を形成するものではないことはいうまでもない.
こうした状況のもとでは既存の雇用労働者は利潤率に対して過剰になってい る.
3. 3 過剰資本の顕在化
価格競争は,費用低減競争や規模拡大競争のように蓄積需要を生み出さない.
また,支払い手段のための資金需要は,実現利潤と関連がない.そこで利潤率 から独立に変動する.したがって,低下する利潤率の一方でこれとは独立に利 子率は上昇する.その結果,利子率と利潤率が衝突する事態に至る.
両者の衝突によって,過剰資本が顕在化する.過剰資本の顕在化は,企業利 得が得られないことである.このとき資本は無化しているといえる.こうした 事態は,前章で自己資本利潤率,利子率,総資本利潤率の関連の検討からも理 解できる.すなわち,好況の進展とともに負債比率は増大していく.そして,
上述したように好況期の利子率は常時高水準であるわけではない.また好況期 の利潤率は高い.そこで,個別資本は負債比率を高めより小さい自己資本でよ り大きな利潤を得ようとする.しかし,規模拡大競争につづく過熱期の価格競 争においては,総資本利潤率上昇の費用増大と市場価格低下によって総資本利
10)好況期における商業信用の拡大,再生産過程の膨張の一方で流通手段量が増大し支払い手段量が ふえないという点については,下平尾(1978),(2002)の検討が参考になる.
潤率がどんどん低下する.その一方で利子率が上昇していき11),しかもしばし ば実現利潤とは無関係に利子率が上昇することから,自己資本利潤率の急激な 低下が生じる.そこで資本は,自己資本利潤率が急速に低下し一般に事業を停 止せざるを得なくなるのである.
利潤率が,市場価格低下と費用増大とによって低下する.これは市場におけ る制限の発生であるといえる.そして,規模拡大競争が行き着いた事態が薄利 多売的価格低下競争である.こうして,規模拡大の強蓄積が結局は市場での実 現問題を帰結させ,資本過剰が形成されることになる.
さて,資本過剰は,蓄積に値する利潤率が見込めないことである.資本投下 の制限がどうかたちづくられるかということが,資本過剰の顕在化を考察する さいに問題となる.個別資本の再生産過程では利潤率の可能性が与えられ,蓄 積需要が充足されるなら再生産過程は継続する.したがって次期の利潤率の可 能性と今期実現量とは,ひとまず区別されねばならない.個別資本の再生産過 程が,資本投下を原因としてその結果としての市場での需給関係を引き受ける かたちで次期の資本投下が行われるのである.しかし,上記のように利潤率が 見込めないということになれば,実現問題が再生産に対する制限として顕在化 するのである.
これに関して,再生産の社会的編成について言及しておきたい.この社会的 編成は,需要連関に応じて決まる.つまり,資本投下による蓄積需要が社会的 な産業編成を規定する.社会の総生産物の分配関係がこれを決めるのではなく,
個別資本の再生産過程での需要が社会をかたちづくるのである.そこで再生産 の開始が問題になるが,既に述べたように利潤率期待が与えられること,それ に応じた蓄積需要が形成されること,蓄積需要が充足されることが再生産の開
11)「近代産業がそのなかで運動する回転循環―平成状態,活気増大,繁栄,過剰生産,破局,停 滞,平成状態という循環であって,そのよりくわしい分析はわれわれの考察の圏外にある―を考 察してみれば,そこで見いだされることは,利子の低い状態はたいていは繁栄または特別利潤の時 期に対応し,利子の上昇は繁栄とその転換との分かれ目に対応し,また極度の高利にもなる利子の 最高限界は恐慌に対応することであろう」(Das KapitalⅢ. S. 372)
始を規定する.費用価格低減の可能性が見込めない,あるいは可能性があって もそれが現実化されないとき,再生産は起動しない.したがって,需要連関が 形成されない.付言すれば,「市場」は再生産の需要連関を媒介するに過ぎない のである.
では,社会的編成はどのような構造をもつだろうか.いま再生産の需要に対 応して,資本財と賃金財との編成について考えれば,賃金財産業の資本の再生 産の需要は一方で資本財に対する需要となり他方で労働者への需要となる.労 働者への需要は,みずからの需要(賃金財産業の供給に対する需要)となり,労働 者への需要は他の部門・市場を経由して最終的に自分自身に帰ってくるかたち で完結している.これに対して資本財に対する需要は,直接
..
には
..
賃金財を需要 しない.みずからの生産物がみずからによって需要され投入されるからそれ自 身で独立化しうる.したがって資本財の需要は必ずしも労働者と賃金財の需要 に結実しない.したがって,賃金財産業の再生産過程が社会的連関の機軸であ るといえる.このことをふまえると,賃金財産業の過剰が社会的に見た再生産 過程を麻痺させるということがわかる.
4
お わ り に本稿では,主に過剰資本の顕現を利子率上昇と利潤率低下との関連から検討 した.そのさい,産業循環の各局面における個別資本の競争の特質がふまえら れた.これらを簡潔にまとめると,新技術導入を主軸とした費用価格低減競争 によって不況から脱出した後,好況期には規模拡大競争が展開される.このと き利潤率は高い.そして利子率も好況の進展に応じて次第に高くなっていく.
そこで利子費用と賃金費用の増大が生じ,利潤率低下傾向があらわれる.規模 拡大競争の後薄利多売的価格競争が展開される.そうすると,よりいっそう市 場価格・実現利潤率が低下する.その一方で,利子率は上昇を続けるがこの局 面では,実現利潤とは独立に上昇する.そこで個別資本は利潤率と利子率の差 である企業利潤が獲得できない事態に陥る.これは過剰資本化にほかならない.
以上のように,産業循環は利潤率の可能性を創出することからはじまり,産 業での競争が市場価格,貨幣賃金率,利子率といった市場要因の問題を帰結さ せて利潤率を圧迫し,個別資本の再生産を限界づけることにもとづいている.
利潤率は利子率に先行して変動する.これは,利潤率が再生産の動因(原因)
である一方,利子率は市場での需給によって決まるそのかぎりで再生産の結果 に関することだからだといえる.
さて,Marx は,本稿のはじめに引用した言説を例として,競争と信用および 産業循環という3 つの要素の密接なつながりを示唆している.個別諸資本の競 争の過程として産業循環が現実化するが,この競争を媒介し現実化する役割を 果たすのが信用である.したがって信用は蓄積と再生産の結果であり,またそ の結果がつぎの再生産の原因あるいは前提となる.利子率の水準は,それ自身 個別資本の再生産の内生変数ではない.それは,利子率が社会的要因であると いうだけでなく,再生産を起動する役割を果たすものでないことから明らかで ある.しかし,再生産に外生的に影響を与え,再生産と競争の展開を規定する ものであるといえる.
【参考文献】
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所収.
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宇野弘蔵,(1953)『恐慌論』岩波書店.
The Doshisha University Economic Review Vol.56 No.2
AbstractTomoki TANIMURA, A Study of Relation between Industrial Cycle and Interest Rate
This paper studies the relationship between the rate of the profit of individual capital and the rate of interest, which leads to making a survey of the change of the interest rate in the industrial cycle. For the solution of this problem it is required to make inquiries into the reproduction and competition process of indi- vidual capital.
I have come to the conclusions that the interest rate fluctuates behind the profit rate movement on industrial cycle, because demand for money is determined with demand of reproduction that is based on the profit rate. At the end of the boom, the interest rate rises and strains the profit rate, apparently leading to capital over-accumulation.