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附属特別支援学校 年報 2020

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(1)

佐 藤  德

今年度の「学びあいの場」について  子供の姿から学びあう授業研究

~学ぼうとしている子供の学びの過程を観るために~

柳 川 公三子

1

「授業づくりの聴き合い」を通した学びあい

~子供の学びの過程を見るために~ 網 谷 優 子

5

プロンプタを体験しての気付き

~子供の姿から学びあう授業研究を目指した小学部の取組から~ 脊 戸 みちる

9

学部の聴き合いを振り返ってみて~プロンプタとして取組を通じた気付き~ 幅   裕 子

14

プロンプタを体験しての気付き

 ~「授業づくりの聴き合い」を大切にした高等部の取組から~ 青 山 真 紀

19

<小学部>

どうしてAさんは,「長い」という言葉を,授業の最後に言えたのだろうか 真 田 祥 子

24

どうしてAさんは,「ゼリー」を選んだのか~子供の姿からの気付き~ 中 坪 真梨子

28

Cさんが考え直すきっかけとなったのは~聴き合いからの気付きと自己変容~ 西 井 奈 緒

33

<中学部>

どうしてFさんは,「そのままだす」を選んだのか?

どうしてCさんは,「なんどもひろう」を選んだのか?

 ~子供の学びの過程からの気付きと自己変容~

上 田 崇 史

38

Aさんが英語でやり取りできたのは、どうしてだろうか

 ~子供の姿からの気付きと授業改善~ 篠 原 孝 幸

42

ぴったりを選ぶためにどのように考えたのだろう?

 ~子どもが試行錯誤する様子から思考の過程を想像する~ 瀧 脇 隆 志

46

どうしてAさんは,「がんばった」と答えたのだろう

 ~生徒の姿からの気付きと自己変容~ 渡 辺 清 美

50

<高等部>

Aさんは,色を塗ることで,「鑑賞」をしていたのではないか?

 ~生徒の作品への見方や感じ方からの気付き~ 内 田 淳 史

53

なぜEさんは「待ち針が」と言ったのか

 ~子供の活動の取組の様子からの気付きと自己変容~ 常 楽 正 樹

57

どうしてCさんは,すっきりと答えられなかったのだろうか

 ~子供の学びの過程からの気付きと自己変容~ 名 苗 美 保

63

なぜAさんは「失礼ではない」と答えたのだろうか

 ~子供の姿からの気付きと自己変容~ 松 村 陽 子

67

<小学部>

算数科「正多角形の特徴を調べよう」 北 村   満

72

自立活動「ビスケットでおはなしをつくろう」 砺 波 祐 樹

76

<中学部>

数学科「ピタゴラ装置を作ろう!」 瀧 脇 隆 志

80

情報科「卒業に向けてメッセージボードを作ろう

         ~「micro:bit」で気持ちを伝えよう~」 藤 林 謙 太

84

国語科「分かりやすく伝えよう!」 柳 川 公三子

88

生活単元学習「いろいろな余暇に挑戦しよう ~戦車でG O!~」 山 﨑 智 仁

92

<高等部>

数学科「数量を予想しよう」 金 森 光 紀

96

自立活動「ボール集め~良い方法を考えて相手よりたくさん集めよう~」 本 田 智 寛

100

情報科「プログラミングをしよう」 毛 呂   恵

104

108

近 江 ひと美

117

(資料)今年度中に行った対外的な実践発表等 おわりに

第1章 今年度の「学びあいの場」の変容 巻頭言

第2章 子供の学びの過程からの気付きと自己変容

第3章 プログラミング教育の実践

富山大学人間発達科学部

附属特別支援学校 年報 2020

ISSN 2432-7948

(2)

巻頭言

校長 佐藤 德

令和2年度は新型コロナウィルス感染症の流行に伴い,教育のあり方が大きな転換点 を迎えた年でした。遠隔授業のシステム自体は以前からありました。しかし,感染予防 の必要性からこれだけ普及するようになりました。本校でも「知的障害のある児童生徒 の論理的思考を育てるプログラミング教育」と題する教育研究発表会をオンデマンドで 行いました。本年度の年報では,このプログラミング教育の実践と,従来から行なって いる富附特支型研修「学びあいの場」についての報告が収められています。

本校では,令和2年度より,プログラミング教育を全学部の教育課程に位置づけ,小 学部,中学部,高等部それぞれの発達段階に応じたプログラミング教育を実施しました。

我々がプログラミング教育によって目指しているのは,単に,コンピュータを活用した り,プログラムを作成できるようになるというだけではありません。育つように願って いるのは,その背景にある,目標の実現や問題の解決のためには何が必要なのか,要素 に分解し,それらの要素をどのように組み合わせていけば目的を達成できるのかを論理 的に考えていく,いわゆるプログラミング的思考です。目的を達成するには,これをや った後にあれをやってと順序立てて物事をやっていく必要があるでしょうし,それらを 繰り返し行う必要もあるでしょう。条件によって違う行動が必要な場合もあるでしょう。

時間通りに約束の場所に到着するといった身近なことから,環境問題の解決のようによ り大きな問題に至るまで,その解決に必要となるのが,このプログラミング的思考です。

こうすればこうなるという動作と結果の関係を学んでいくことがまずは最初です。

A

を 行うと

B

という結果が生じることを予想できるようになると,

B

という結果を引き起こ すために意図的に

A

を行うことができるようになります。この動作と結果の因果関係 に関する知識が最も基礎的な要素(ブロック)となります。あとは,ある目的に達する には,この要素とこの要素をこういう順番で行う必要があるなどと,クリエイティブに 要素を組み立てていくことになります。

我々がプログラミング教育において目的としていることは,プログラムの作成などを 通して,このプログラミング的思考を育むことにこそあります。それこそが,子どもた ちが自ら考え,自らの人生を豊かに生きていく力を育むことに大いに役立つのではない かと考えています。知的障害の子どもたちの中には,これをしてあれをするといった物 事の順序や手順を覚えるのが苦手な子どもたちもいます。そういった子どもたちにとっ てプログラミング的思考は特に役立つのではないかと期待しています。もちろん,プロ グラミング的思考がどこまで汎化できるのか,知的障害のある児童生徒の支援にどの程 度有効なのかはまだ明らかになっていません。本校の取り組みはそうしたデータの蓄積

(3)

にも貢献できるのではないかと期待しています。

もう一つ,本年報には「子どもの姿から学び合う授業研究~学ぼうとしている子ども の学びの過程を観るために~」と題した富附特支型研修「学びあいの場」に関する報告 も収められています。ともすれば,授業者は自分が思い描いていたような授業ができた かどうか,その結果のみに注意を向けがちです。しかし,それでは,本来大事なはずの 子どもたち自身の学びのプロセスが見えてきません。本校では,子どもの学びのプロセ スを子どもの視点から理解できるようにするために,ラベルコミュニケーションという 方法を用いています。まずは,2枚のラベルを区別して授業中の子どもたちの様子を観 察します。2枚のラベルとは,子どもの言動をそのまま描写する言動ラベルと,なぜそ うしたのかについて子どもの視点に立って子どもの思いや考えを推察する解釈ラベル の2つです。ここで重要なのは,言動ラベルに記される「事実」と,それについての解 釈を明確に区別することです。子どもの視点に立った解釈とは言っても,あくまで観察 者の解釈です。そこには偏りや盲点もあるでしょう。そこで,「事実」に基づいて互い の解釈を聴き合います。この聴き合いの中で,自分と異なる解釈に出会い,自らの解釈 を更新することで,子どもの理解が深まり,より子どもの視点に立った授業実践ができ るようになることを狙っています。

解釈の際に大事なことは,①子どもの言動の原因を過度に子どもたちの「内面」に帰 属しないという点と,②子どもたちの認知行動特性をしっかり理解するという点,③無 知の知,すなわち,自己の無知を自覚すること,の3点です。当たり前のことですが,

一般的に「こころ」の座とされる脳は一定の物理的特性を持つ身体に埋め込まれていま す。決して脳だけが水槽の中にぷかんと浮いているわけではありません。身体はプラス ティックでできているわけでも,30 メートルを超える大きさでも,目が背中について いるわけでもありません。そして,その身体は,様々な事物や道具,他の身体とともに 環境の中に在ります。何もない誰もいない空間に一人ぼっちでいるわけではありません。

タンパク質でできた,目が頭の前方に二つ並んで存在する直立歩行が可能なこの身体は

(四足歩行であったり目が側面に二つあったりすれば知覚世界はまた別のものとなり ます),ちょうどよい大きさと硬さを持つモノに座って(自分の大きさに比べて大きす ぎたら寄りかかることはできても座ることはできません),自分と同じくらいの大きさ で同じような形をした他の身体とともに,この世界に生きています。我々の言動は,そ うした特定の場所において,それぞれ物理的特性を持つ事物や身体との関わりの中で生 じます。我々の言動は,特定の状況や文脈の中で起こる環境中の出来事です。河野(2005)

の言葉を借りるなら,こころは環境に拡がっており,決して「内面」に還元できるもの ではありません。言動ラベルを作成する際には,子どもたちの言動がどのような場で起 こったのか,その状況や文脈をしっかり観察し記録する必要があります。そうした「事 実」に基づき,子どもたちの言動が生じた原因を,「内面」のみに偏らず,正しく解釈

(4)

することで,一人一人の子どもたちの「主体的な学び」を促進する環境をデザインする ことも可能となります。

また,特別支援学校にはいろんな人を対象とした特別支援学校があり,その対象者の 一つである知的障害者にも,自閉スペクトラム症(ASD)の子ども,ダウン症の子ども,

注意欠陥・多動性障害の子どもなど,いろんな人がいます。言うまでもないないことで すが,それぞれの障害の特性をしっかり理解し,そこから子どもたちの言動を理解して いくことも大変重要です。その際,重要なのは子どもたちが持つ様々な認知行動特性の

「強み」にも目を向けるということです。明地(2019)も言うように,こだわりや興味 の限局は熟達や革新につながるかもしれませんし,また,細部への注意は,新たな法則 の発見につながるかもしれません。「空気」を読まないからこそ「王様は裸だ」と真実 を告げることができたり,物事の本質を追求したりできるかもしれません。それぞれの 子どもたちが持つ様々な認知行動特性の「強み」に目を向け,「強み」を活かせるよう に環境をデザインしていく。それもまた教育として大変重要なことです。そもそも,苦 手なことは補い合って,得意なところは伸ばしあっていく,そんな社会の方が,豊かで 楽しい社会だと思いませんか?

解釈はあくまで解釈であると距離を置き続けるという点も重要です。昨年,米国科学 アカデミー紀要という権威ある雑誌に注目すべき論文が発表されました(Casartelli et al.,

2020)。一般的に,従来の研究では,ASD

の子どもたちに「定型発達」の子どもが登場

する「定型」用の課題を与えられ,ASD の子どもは「定型」の子どもの感情や信念や意図 を理解できないがために

ASD

には「コミュニケーションの障害」があるとされてきました。

しかし,ご想像の通り,これはフェアではありません。そもそも「定型」の人は

ASD

の子 どもたちを正しく理解できているのでしょうか? 我々は表情や動作のパターンから相手 の感情や気分を読み取ります。ものを渡すという同じ行為であっても,その動作のパター ンから「雑で乱暴」とか「物柔らかで穏やか」とか「疲れている」いった様々な力動感を 読み取ります。残念ながら,「定型」の大人は,「定型」の子どもたちの動作から力動感を 正確に読み取ることはできても,ASD の子どもたちの力動感は読み取れません。正解を示 されても上達さえしません。何が異なるかというと,「定型」と

ASD

の子どもたちはそれ ぞれ,動作のパターンとして穏やかなものと雑なものを区別しているのですが,両者には その動作のパターンに大きな違いがあるからです(「定型」では雑なのは速く,穏やかなの はゆっくりしていますが,

ASD

にはその関係が見られません)。動作のパターンに違いがあ るため,動作に関連する意図や感情などの心的状態を理解できないのです。「定型」の人は

ASD

の人が作った図形が動くアニメーションから心的状態を推測するのが苦手だとか同様 の研究は多数あります。我々なりに理解しようとする試みは大変大事です。しかし,ASD が「定型」を理解できないように,「定型」も

ASD

を理解できないという研究も多数ある ことを忘れず,謙虚であるべきです。

(5)

令和3年度からはいよいよ

GIGA

スクール構想が始まります。子どもたち一人に一台パ ーソナルコンピューターが届きます。一人一人の苦手なことは補って得意なところは伸ば される,特別支援学校だからこその

GIGA

スクールに,富山大学人間発達科学部特別支援 学校がなれるようやっていきたいと思います。今後ともご支援よろしくお願いいたします。

引用文献

明地 洋典(2019)多様な認知行動特性の意義

─片桐論文・米田論文へのコメント─.

心 理 学評論, 62, 1, 51-65. https://doi.org/10.24602/sjpr.62.1_51

Luca Casartelli, Alessandra Federici, Lucia Fumagalli, Ambra Cesareo, Monica Nicoli, Luca Ronconi, Andrea Vitale, Massimo Molteni, Giacomo Rizzolatti, & Corrado Sinigaglia (2020).

Neurotypical individuals fail to understand action vitality form in children with autism spectrum disorder. Proc Natl Acad Sci U S A, 117, 27712-27718.

河野哲也(2005)環境に拡がる心:生態学的哲学の展望. 勁草書房

(6)

第1章

今年度の「学びあいの場」の変容

(7)

今年度の「学びあいの場」について

子供の姿から学びあう授業研究

~学ぼうとしている子供の学びの過程を観るために~

研究・研修部主任 柳川 公三子 1 「学びあいの場」で培われる教師の資質とは

本校は,5年前から「学びあいの場」の授業研究に取り組んでいます。「学びあいの場」は,

授業を参観し,授業の中の子供の姿から,「なぜ,子供はそうしたのか。」と子供の考えを推察 し,教師同士が聴き合うことを通して,子供の主体的な学びを捉えることを主眼としています。

それは,個々の学びの過程を「どのように学ぶか」という視点で捉え,授業における個別最適 化を図ることを目指すものであり,新学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」

の実現を支える教師の資質を高めることにつながります。5年間の取組を通して,どの教師も 子供の視点に立って子供の考えを推察し,子供なりの「見方・考え方」を丁寧に捉えようとす る姿勢が培われてきました。全ての教師が年

1

回公開授業(年間8回)を行い,授業者,参観 者それぞれの立場で子供の見方を深めてきました。子供の姿から「なぜ,そのような言動をし たのか」「子供はどのように考えていたのか」を聴き合うことは,同僚と一緒に子供の学びの過 程をたどることになります。これは決して授業者一人ではできないことであると同時に,参観 者にとっても子供を観る目を高める機会となるのです。自分とは異なる他者の子供の見方に触 れることで,新たな子供の見方に気付き,自身の見方の幅の広がりを実感する声が数多く聞か れるようになってきました。

2 「子供の主体的な学び」の具現化を目指す「授業づくりの聴き合い」

昨年度から,新たに二つのことに取り組み始めました。一つ目は「授業づくりの聴き合い」

です。「学びあいの場」における聴き合いを授業の狙いや子供の学びに迫りながら深められるよ うになることを目的としています。授業者の思いに寄り添いながらも,関連する学習場面での 具体的な子供の姿について,授業者同士で,学部全体で,あるいはプロンプタと,など多層的 に聴き合い子供の実態を共有することで,子供のより主体的な学びの実現を目指すものです。

授業者は,多層的な聴き合いを通じて広い視点で子供の実態を捉え直し,自身の思いや狙い,

子供のめあてとするところを焦点化していくことになります。今年度は,「授業づくりの聴き合 い」の成果を振り返り,整理することを目的とし,『「学びあいの場」通信』を毎回の「学びあ いの場」の後に発行しました。実際に「授業づくりの聴き合い」を通じて,どのような「子供 の学びの過程」の気付きがあったか,そこから授業の狙いをどのように絞り込んでいったか,

それが「学びあいの場」当日の授業にどのようにつながったか,振り返り,整理します。そし て「学びあいの場」では,どのような場面が話題となって,どのような「子供の学びの過程」

の解釈があったかということを通信に掲載します。通信を通じて,授業者の思いを基に,「授業 づくりの聴き合い」から「学びあいの場」までの一連の「学びあい」において,授業者にどの ような気付きと授業づくりの変遷があったか整理すると同時に,校内の全教師が共有すること で,「子供の見方」を広げ,深めながら子供の実態について共通理解を図る機会としました。さ らに,『「学びあいの場」通信』は,本校のホームページに掲載して広く発信することで,より

(8)

多くの学校現場の先生方に「学びあいの場」の理念の理解が得られること,そして「子供の主 体的な学び」を捉え,寄り添おうとする教師の資質が,子供のより主体的な学びの実現におい て重要であることの理解が得られることに寄与することを願いとしています。この取組につい ては,この後の第1章第2節「各学部の聴き合いを通した「学びあいの場」の変容」で詳細を 紹介します。

図1:「授業づくりの聴き合い」から「学びあいの場」までの一連の多層的な聴き合い

図2:「学びあいの場」通信

(9)

3 授業者に寄り添い,学びを促すプロンプタ

二つ目は,「学びあいの場」で教師の聴き合いを促進するプロンプタを全教師が体験するとい うことです。一昨年度までは富附特支型研修プロジェクトのメンバーが担ってきましたが,子 供たちの学びを促進する授業者の役割と重なることから,全教師が体験することに意義がある と考え,昨年度は4名,今年度は6名の教師が新たにプロンプタを体験しました。プロンプタ は,「授業づくりの聴き合い」から公開授業が終わって授業者の気付きを確認するところまで,

授業者の思考のプロセスを共に歩みます。授業も時々参観し,授業者の願いや授業の目標,子 供の実態の捉え等で授業者が悩んでいることを聴いて整理するサポートをしていきます。授業 者の悩みや求めていることを一番知っているプロンプタは「学びあいの場」で参観者と授業者 の間をつなぎ,授業の中で子供がどんな学びをしているのかの解釈を深められるようにしてい けたらよいのではないかと考えています。このことが,授業者になったときに,子供の主体的・

対話的で深い学びを促す教師の資質を高めることにつながっていくのです。この取組について は,第1章第3節「プロンプタを体験しての気付き」で紹介します。

4 「学びあいの場」の普及を目指して

これからの新しい教育に資する「学びあいの場」を,広く学校社会に発信し,普及すること を本校の重要な使命と捉え,年間8回の「学びあいの場」を公開し,体験型の研修として県内 外の様々な校種の先生方と共に学ぶ機会としてきました。今年度はコロナ感染症対策のため,

公開教育研修会が中止となりました。それでも,第3回(9月),第5回(12月)の「学びあ いの場」には県内から合わせて16名の先生方に参加していただくことができました。外部参 加者のアンケートには,以下のような記述が見られました。一部紹介します。

(1)子供の学びの過程を見つめることに関して,どのような気付きがありましたか?

・いつもは気になる子供の言動を自分の視点や思い込みで結論を出していたが,前後の流れや 周りの子供との関わりを合わせて見ると,いろいろな解釈ができることが分かった。

・普段以上に子供の些細な様子に気を配って参観することができた。些細なつぶやきからも子 供の変容が感じられ,子供を中心に考えることの大切さを学んだ。

・子供の一つ一つの言動について,「なぜ,そうしたのか?」と深く考えることがより子供を分 かろうとする姿勢につながると感じた。事実に着目し,子供の視点に立つ大切さを学んだ。

・子供の言動を丁寧に追い掛けていくことで,その子がどこまで理解しているのか,どんなふ うに捉えているのかと,子供の考えの背景を推察することができると学んだ。その過程では,

どの先生もとても謙虚に他の方の意見や子供を尊重する姿を感じた。

(2)授業研究の在り方について,どのような気付きがありましたか?

・生徒の学びの過程を見ることは,一人の視点では限界があり,一つの場面について複数の視 点で話し合うことで気付きがあった。全員が話しやすい雰囲気が必要だと思った。

・授業者や他の参観者の様々な捉え,解釈に触れることができ,自身の見方の幅が広がった。

・聴き合うと同じ場面でも捉え方がいろいろ出てくるので,こんな見方もできるんだと思った。

・ラベルコミュニケーション,アクティブ・リスニング,協同学習リフレクションと場が区切 られていることが新鮮だった。

(10)

・自分が気付かなかった視点,子供の様子,解釈が次時の学びや実態把握にもつながって,や ってよかったと思える授業研だと感じた。

(3)勤務校で「学びあいの場」の研修を部分的にでも取り入れることは可能だと思いますか?

もし取り入れるとしたらどのようなことですか?また,難しいと思うことは何ですか?

・取り入れることは難しい。授業を見るために時間割を変更することや,先生方の意識が生徒 に向いていない点が理由になると思う。「学びあいの場」の良さを先生方に理解してもらうと ころから始めなければいけないと思う。

・子供の姿で解釈することは可能だと思います。しかし,教師の手立てに話が移ります。若手 が6~7割を占める今,「明日から使える技術」に目がいっているのが現状である。今日学ん だことを組み合わせて勤務校の実態に合わせて使っていきたいです。

・可能であると思うが,子供の学びの過程に注目した話し合いをするための共通理解を図るこ と,プロンプタ役となる先生を育てること等に課題が出てくると考えられる。まずは,授業 を参観する視点を子供中心とした見方に変えていくことでも授業研究が変わっていくのでは ないかと考える。

・部分的に取り入れたい。自分は教務主任や研究主任といった立場ではないが,やってみたい と提案したり,若手と一緒にやってみたりできたらよい。プロンプタはある程度経験を積ま ないとうまく話を回せないと思った。

・有効だとは思うが難しい。高校では教科指導の面が強く,他教科の教員は同等に話をし辛く,

また子供の反応も減り,読み取りが難しくなると考える。

・言動ラベルと解釈ラベルに分けて書くことは,最初は慣れるまでは難しいと思うが,子供の 姿をゆがめずに捉えようという点では有効である。

・勤務校で取り入れると,授業研への苦手意識,負担感も軽減されると思った。まずは学年グ ループの研修に取り入れてみたい。解釈を聴き合う経験を積むことで,見方が広がると思う。

(4)その他

・「高校への導入は難しい」と書いたが,このような「学びあい」は,これからの教育には必要 不可欠な気がする。

・子供の言動をありのままに捉えることが意外と難しいことに気付いた。

・月1回やっておられると聞き,また参加させていただきたいと思った。

以上のアンケート結果から,外部参加者は,「学びあいの場」を実際に体験してみて,子供の 解釈(見方)について,自身の思い込みで結論付けている傾向があることや,子供の言動の事 実に着目し,子供の視点に立って「なぜ,そうしたのか?」と考えることが,より子供の学び の実態を捉えることにつながることなどに気付き,そのような見方をすることの大切さを実感 していることが分かりました。そして,子供の学びの過程を見るためには,複数の視点で話し 合うことが必要であること,さらに,誰もが話しやすい雰囲気が重要であることの気付きも得 られました。一方,自身の勤務校に「学びあいの場」を取り入れることについては,「子供の姿

(事実)を解釈する」という「見方」の部分は取り入れたいが,その意義を共通理解すること やプロンプタ役の重要性とそれを担う教師の育成などが課題となることが窺われました。

今年度の成果と課題を踏まえ,「授業づくりの聴き合い」から「学びあいの場」を通じた一連 の「学びあい」の更なる体系化を図り,「子供の主体的な学び」の実現を目指していきたいと思 います

(11)

「授業づくりの聴き合い」を通した学びあい

~子供の学びの過程を見るために~

校内教頭 網谷 優子 1 学ぼうとしている子供の姿を見る

学びの個別最適化への足掛かりとして,本校では,学習者の学び方の個性を知り,学習場面 での学びの状態を個々に見取るところから始めようとしています。

本年は,「子供の姿から学び合う授業研究 ~学ぼうとしている子供の学びの過程を見るため に~」というテーマで取り組みました。「子供は,なぜそうしたのか」という視点で,我々教師 は,子供の姿から子供の思いや考え(内面)を推察しその解釈を重ね合わせることで,授業場 面での子供の学びの様子を見逃さず,そこに合わせて教師は柔軟に対応し,児童生徒の一人一 人の主体的な学びを実現しようとしてきました。

ここでは,「授業づくりの聴き合い」について述べます。

2 「授業づくりの聴き合い」

(1)「授業づくりの聴き合い」の目的

本校では,授業研究会と授業づくりの聴き合いを,分けて捉えています。授業研究会「学 びあいの場」の前に,これまでに身に付けた知見を生かし,公開授業までの授業を積み上げ る過程で「授業づくりの聴き合い」を行いました。ここでいう「これまでに身に付けた知見」

とは,「学びあいの場」を通して得た実感というのでしょうか,教師同士が,問い聞き合おう とすることで,まず事実としての学ぼうとする子供の姿を多面的に捉えていく,そしてなぜ そうしたのかを同僚と共に問うていくと,最後は,授業者が自ら気付き授業を捉えなおすき っかけが生まれるという手ごたえです。

授業研究会「学びあいの場」では,ひたすら子供を見ます。そして子供の学びの過程を見 取ろうとします。そのため子供の学びを見取ろうとする教師自身が学習者となります。「授業 づくりの聴き合い」では,授業という枠組みの中で考えます。授業としての枠組みの中で,

授業者の思いに添った聴き合いと同僚から提供される学習者についての多角的な実態の把握 とにより,授業の狙いや学習者のめあての明確化,授業者自身の気付きによる自らの問い,

教材,授業の進め方などの改善へと導かれることを期待して行いました。「授業づくりの聴き 合い」を通して学ぼうとする教師全員が学習者ではあるのですが,ここでは,授業の枠組み の中で「授業者」「学習者」という関係性で言葉を使っていきます。

(2)「授業づくりの聴き合い」の話題

「授業づくりの聴き合い」は,授業者の抱える悩みによって,また,単元の開始前か直後 か,数回授業を行ったところかによって,話題となることが異なっていました。単元の開始 前や初めの頃では,学習者の実態と授業者の狙いの両方を明確にしていくことが聞き合いの 中心となることが多かったように思います。授業者自身がどんな授業にしたいと考えている のか,まだぼんやりとしているところがありその点で授業者自身が悩んでいたり迷っていた りして相談したいと話題にしていました。聴き合いを通して,授業者が言語化することで自

(12)

分で気付いて明確になっていくということがありました。

また,聴き合いでは,学習者の姿から,授業者の悩みに添いながら指導のアイデアを提案 されたり,別の指導場面での学習者の姿などから実態を多面的に捉える機会となったことで,

対象となる授業の学習場面での予想される姿なども話題に挙げられたりしました。

「授業づくりの聴き合い」は,学部の職員全員で,授業者同士で,あるいは主事やプロン プタとなど,授業を重ねながら,必要に応じて多層な聴き合いが行われました。授業を重ね ると学習者が変容しそれに応じて授業者も変容します。その呼応する授業という営みを見つ めて必要な話題に必要なグループで,必要なだけ聞き合いが行われました。

(3)「授業づくりの聴き合い」に対する教員の意識

授業者と授業を参観する同僚の双方の立場を体験する教員に「授業づくりの聴き合い」を どんなふうに捉えているのか,アンケートを行いました。小学部8名,中学部5名,高等部 7名が回答してくれました。合計

20

名。自由に記載された文章から言葉を抜粋し,分類しま した(表1参照)。

表1 授業づくりの聴き合いは何のためにするのか

カテゴリ 詳細

1.自分自身について気付くため 明確になった/整理された/言語化

9

自分が考えていたこと 授業の狙い/教えたいこと/めあて*

14

ぼんやりしていたこと 活動について

7

教材について

1

次何をしたらよいか 分かった

2

教えたいことと学習者が学びたいことの差

3

自分の思い込み

2

2.学習者の様子について知るため 気付いていなかった実態を知った

12

知らなかった実態を知る 思考の過程を探れた

1

学習者の表現の仕方に気付いた

2

目標・狙いをしぼる

7

活動内容 学習効果・つまずき

3

ステップアップ課題の必要性

1

教材/効果的な設問など

2

子供に合った支援方法を考えられた

4

3.T1T2と共通理解を図るため 狙いの捉え/役割分担/支援

2

4.教師自身が主体的に学ぶため

2

※授業者自身の授業の捉えについての文章中の言葉を抜粋し分類した。数は延べ数。

「授業づくりの聴き合いは何のためにするのか」という問いに対し,実際に授業づくりの 聴き合いに参加した教員は,その目的を大きく四つの観点から捉えていることが分かりまし

(13)

た。「自分自身の考えをクリアにしていくこと」,「自分が知らなかった学習者の授業場面等で の実態を同僚から知ること」,「ティームティーチングの共通理解を図ること」,「授業者自身 が主体的な学びを体験すること」です。

その中でも,延べ数が多かったのは,自分自身が考えていた授業でやりたかったことや狙 いとしたかったことに気付くこと,自分が知らなかった学習者の実態を同僚から知ることで した。授業者については聞いてもらい言語化することで「授業者の実態」が,学習者の姿は 同僚に見取ってもらうことで「学習者の実態」がクリアになる,「学習者の目標や授業者の狙 い」がクリアになると考えられていることが分かりました。(*印)。

3 まとめ

(1)授業者・参観者が見ようとしているところ

令和2年度の授業研究の特徴として,各授業において,「授業づくりの聴き合い」「学びあ いの場」の両方で,学習者が課題に向かうときの方略の取り方や行動の見取りから,学習者 の思考の道筋についての推察へと話題が及ぶことが多くありました。今年度,全校でプログ ラミング教育について取り組んだ効果と,学習者は,課題に向かいそれぞれに自分なりの方 法で解決しようとしているという前提が教員間で共有されているからだと思います。その影 響もあってか,様々な教科等の授業において,学習者の姿(事実)から内面を推察するとき,

「○○のとき,○○さんはなぜ○○したのだろう」そこから「○○のとき,どんなふうに考 えたのだろうか」といった視点で教師一人一人が興味深く見ようとしていると感じます。

高等部の自立活動の授業作りの聴き合いに参加したときのことです。話をしたり説明をし たりすることが苦手で少し難しい生徒たちのグループでした。生徒たちが方略を考えてゲー ムをどう戦うか,考えたり工夫したりしてほしいという思いで,授業者と学部教員とで聴き 合いをしていました。狙いは,コミュニケーション,人間関係,環境の把握,心理的安定な ど,生徒によってそれぞれです。ゲームは,対戦形式で,床に落ちているボールやお手玉を できるだけ多く自分の陣地に運び,決められたかごに分類して収めるというものでした。授 業者は,「たくさん集められるよう工夫してみよう」と問いかけました。

参観していた同僚の教師から,学習者の様子として,「○△さんは,ポケットに詰め込んで いた」「□○さんは,足でキックして陣地に集めようとしていた」「○○さんが,友達のまね をしていたとか」,「□□さんは,ハンカチに包もうとしていた」「△△さんは,友達に声を掛 けていた」など,学習者が考えて工夫しようとしている姿がたくさん挙げられていました。

授業者は,学習者自身に考えたり工夫したりしていることの自覚を促すことで一層積極的 に考え工夫してほしいと願いました。そこで次の授業では,学習者が工夫しようと試せるよ うな大きな布などの道具を準備し,考えたり工夫したりしている場面があるとすぐに言語化 して褒めて伝えてみるようにしました。また,工夫すると得点が追加されるルールに変更し,

工夫していた学習者には,自ら他の学習者に伝えられる場をゲーム後の全体での振り返りと して設定してみました。

次の授業の振り返りの場面のことでした。授業者は,工夫していた生徒を指名し,「○○さ ん,工夫していたね。前に出て発表して」と促しました。その生徒は前に出てきたものの,

言葉でうまく説明するのが難しく戸惑っていました。そのとき授業者が「どうやってたっけ?」

と言葉を掛けると,「こうやって」と生徒は両手を動かしジェスチャーをしました。すると授

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業者は,「さっきみたいにやってみせて」とゲームの場所を指さしました。すると,生徒は「は い」と返事をして床に置いてある道具を使って「こうやって」「こうやって」「しました」と 実演で説明したのでした。その姿をみて,他の生徒も「はい」と手を挙げ,「私は」「これで」

「こうやって」「工夫しました」と実演しました。授業者も学習者への問いや話掛けに,言葉 だけでなく実演やジェスチャーなどさまざまな情報をのせるようになっていました。

その後,授業者はさらにゲームを工夫し,勝ったチームが待機できる勝者のエリアを設け ていました。生徒たちはルールの範囲で,工夫し,ゲームに向かうモチベーションを上げ,

ペアの道具を協力して使うようになっていきました。

このように,他の授業でも学習者の学びの姿に呼応するよう授業改善が行われていました。

(2)「授業づくりの聴き合い」が日常的に継続されるには

今年は,各学部で実施しながら,内容や運営など組織的に確立しようと取り組みました。

授業づくりの聴き合いでは,教員は互助的に同僚の授業を参観し,聴き合いに参加していま す。しかしながら,授業を事前に参観もしくはビデオで視聴して参加するには事前の準備時 間が必要です。また,必要に応じて授業者同士,学部全員で,プロンプタや主事となど多層 の聴き合いが行われます。単元の進行に伴い,その時々で行われるどの聴き合いも,授業者 にとっては貴重な機会と考えられます。スケジューリングを工夫しながら,日常の業務に支 障のない範囲での持続的な運営が求められます。他業務を工夫し時間を作る工夫や聴き合い を授業後に短い時間で日常的に重ねる工夫などができるとよいと考えます。

(3)柔軟性を持たせた学習指導案と授業デザインの表し方

「授業づくりの聴き合い」と「学びあいの場」をとおして学習者の事実から授業者が気付 き考えた事柄を次の授業にどう生かしたか,教科等の目標に向かって,授業をどう組み立て 学習者の学びを実現する学習活動を準備したのか,このようなことが伝わる柔軟な授業デザ インを可能とする学習指導案もしくは指導略案があるといいと思います。

「授業づくりの聴き合い」を通して授業者に見えてきた学習者の実態や,学びによって変容 しつつある学習者個々の姿を受けて,授業者は,「次こんな『教材』に出会わせたら」,「次○

○なふうに『仕組』んだら」,「次○○と『問い』を投げてみたら」,「学習者は『○○○な姿 になるかも』知れない」「次は,狙いに迫る『○○○な姿が期待』できそう」と予想しながら 次の授業を計画するように変わってきています。実践し,また,学習者の姿を捉え次の学び へと誘えるよう計画する。こんな呼応する営みに合う指導案が必要だと感じます。

過去には,授業研究会のためにずいぶん早い段階で研究会当日の授業の流れを予想して学 習指導案を準備することがありました。それには、学習の過程で変容した授業者と学習者の 状態を十分反映できていなかったかもしれません。

新しい指導案は、「授業づくりの聴き合い」を通して変容した授業者が、次時の授業をイメ ージするものであること、そのイメージは、学習者の反応を予想したり、学習者の学びの姿 に呼応できるような柔軟さを持つこと、学習者個々の姿から課題が考えられ活動がデザイン されていることが大切だと考えます。現在,授業者は、個別の指導計画(単元指導計画)と ブリーフィングシート(授業者の願いや悩みや見てほしいところなどを自由に記す用紙)を 準備しています。新しい指導案もしくは指導略案が、授業者が準備する「書く物」が増えな いよう,必要な機能を統合した様式になればと願います。

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プロンプタを体験しての気付き

~子供の姿から学びあう授業研究を目指した小学部の取組から~

小学部主事 脊戸 みちる 1 はじめに

私は今年度,「学びあいの場」で4回プロンプタを務め,学部主事の役割として授業づくりに も関わってきました。その体験を具体的に紹介しながら,学ぼうとする子供の姿から学びあう 授業研究を目指した小学部の取り組みの中で大切にしたいと思ったことや,プロンプタが果た すべき役割についての気付きを述べたいと思います。

2 A先生の「学びあいの場」をとおして

(1)授業者同士で行った授業づくりの聴き合いの様子

小学部1,2年生を担任しているA先生は,国語で気持ちを表す言葉と様子を表す言葉を 子供に学ばせたいと考えていました。この授業の構想の段階で授業者同士の聴き合いが行わ れました。私は,授業者がこれから行おうとする授業をどのような願いで作っていこうとし ているのか,その経緯を継続して見ていきたいと思い,同席して話を聞かせてもらいました。

A先生は,日頃から学級の子供が新しい言葉を獲得していく様子を見取りつつ,物の名前 などの語彙は増えているが,伝えたいことが十分に伝えられない場面も少なからずあると捉 えていました。そのような気持ちから,これまでよりも人に詳しく思いを伝え,伝わる喜び を感じられたらよいと願っていました。

聴き合いでは,そのようなA先生の授業への思いを共通理解した上で,授業をどのように 進めていくかということについて具体的に話し合われました。気持ちを表す言葉や様子を表 す言葉は,実際に同じ場面を共有する中で体験を通じて実感することが必要です。そのため,

多くの人が「うれしい」「かなしい」「熱い」「冷たい」と同じように感じる状況を教室で 再現し,友達と感じたことを共有しながら自分が体験したことに言葉を結び付ける方法で学 習を進めようと話し合われました。

(2)A先生の最初の構想による授業の様子

数日後に最初の授業が行われました。授業の前半では,気持ちを表す言葉の学習として,

「花子ちゃん」が家族からプレゼントをもらう様子を描いた絵を見て,「花子ちゃん」の気 持ちを言葉で言い表す学習をしました。イラストで見るだけでなく,教師から模擬のプレゼ ントを手渡される役を演じることで「花子ちゃん」の気持ちになって考えられるように工夫 がされていました。その手立てにより「花子ちゃん」の気持ちとして「うれしい」のカード を正しく選ぶことができた子供もありましたが,一方で「いたい」や「かなしい」のカード を選んだ1年生のBさんと2年生のCさんの姿もありました。

また,授業の後半では,様子を表す言葉の学習として,触ると熱いと感じる温度のおしぼ りと,冷たく感じるおしぼりを触って比べることで,「熱い」「冷たい」という言葉で言い 表す活動をしました。この活動では,全員の子供が感じたことを言葉で言い表すことができ

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ました。この授業は録画して,学部での聴き合いの前に学部教員全員で視聴しました。

(3)学部教員で行った授業づくりの聴き合いの様子とプロンプタとしての関わり

学部教員での授業づくりの聴き合いに先立ち,学部教員全員には授業の構想をブリーフィ ングシートと個別の指導計画(単元指導計画)で読み,授業の動画を視聴することで,授業 者の意図や授業の様子についてイメージをもって参加してもらうようにしました。

授業づくりの聴き合いでは,「うれしい」という言葉を学習する場面で,イラストの中の「花 子ちゃん」の気持ちを「いたい」「かなしい」のカードで答えたBさんとCさんのことが話 題になりました。A先生はBさんとCさんの行動について自分の捉えを話しましたが,二人 がそのとき何を考えていたのかということになかなか近付けないでいるようでした。そこで,

二人の実態についてもっと詳しく捉えてみようと提案し,学部教員に順番に尋ねたところ,

国語の学習場面の他にもキッズタイムや遊びの指導,体育,休み時間などの様々な場面で,

二人が活動や人との交流を楽しみ,その楽しい気持ちを表情や仕草や言葉で表していた姿が 語られました。A先生もそれを一つ一つ聴いては自分の知っているBさんやCさんの姿と重 ね合わせて話をすることでBさんとCさんの考えに迫ろうとしていました。ひと段落して,

A先生に気付きがあったかを尋ねると,「BさんやCさんは実際の場面で楽しい気持ちやうれ しい気持ちを感じ,Bさん,Cさんなりに豊かに表現していることが分かった。それを絵を 見せて,この人は今どんな気持ちですか,と言って答えさせるのはどうなのかなと思った。

それよりも実際の場面で湧き上がった気持ちが言葉となり自然に表出するということの方を 大切にしたい。」と話していました。A先生は,気持ちを表す言葉については実際の場面に即 して学べるように工夫することにし,授業では様子を表す言葉だけに内容を絞ることにしま した。

(4)授業の改善のための授業づくりの聴き合い(学部主事としての関わり)

学部での聴き合いの後,A先生にこの後の授業の進め方について尋ねると,「狙いは絞ら れてきたが,どんな言葉を課題として選んだらよいか,学習活動をどのようにすればよいか をまだ悩んでいる」ということだったので,授業改善を目的としたA先生との具体的な聴き 合いを学部主事として行いました。

どんな言葉を課題としていくかということについては,既習の「熱い・冷たい」のように 比較によって関係性が捉えやすいものがよいと考え,5人の子供の発達段階も考慮して書籍 を参考に「大きい・小さい」「長い・短い」「重い・軽い」などを選びました。また,学習 活動は,次の四つに設定しました。

①おはなし(めあてを理解する)

日頃から子供が絵本の読み聞かせを好む姿から,A先生はペープサート劇により子供 が自ら考え始めたくなるめあての提示の工夫を思い付きました

②分けようクイズ(身近な物を大きさなどの特徴によって分類する)

学習に際しては大きいと小さいなどの言葉カードを選ぶだけでなく,体を動かして目 的のために考えて行動する活動を取り入れることにしました。

③作ろう(言葉が表す様子を制作活動により表現する)

例えば「大きい・小さい」という学習をした際には,大きいものと小さいものとを自 分で作ることで,学習したことを活用できる活動を設定してみようと考えました。

④(プリント)

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学んだことをプリントに文字で書くことと同時に学んだことを振り返ることに有効で あると考えました。

(5)プロンプタとの授業づくりの聴き合い

以上のように改善された授業がその後二時間行われました。単元の最初の授業から比べて 狙いが絞られ,課題や活動の流れが分かりやすくなり,子供がより意欲的に学べるようにな ってきたと感じました。ちょうど2回目の授業を行った日の放課後に,プロンプタとの聴き 合いを行いました。

聴き合いでA先生に,ここまで授業を進めてきて今はどのように思っているかを尋ねると,

A先生はその日の授業(「大きい・小さい」の言葉の学習)を振り返り,「③作ろう」とし て新聞紙を使って大きいボールや小さいボールを作る活動をしたが,うまくいかなかったと 話しました。どうしてそう思うのかと尋ねると,A先生は,ペアの友達と協力して大きなボ ールと小さなボールを作るように子供に伝えたのに,子供は小さいボールをいくつも作って いたり,友達と言葉を交わさずに一人で黙ってボールを作ったりしていたと話しました。そ して,自分の説明が足りなくてそうなってしまった,もう少し分かりやすく伝える必要があ ったと言っていました。がっかりしているA先生に私は,それでも子供はとても楽しそうに 次々とボールを作っていたと伝えました。また,小さいボールがたくさんできてしまったと 思っても,例えば子供が作ったいくつものボールを一緒に見て「たくさんできたね。この中 のどれが大きい?」と言って話題にしたり,いくつものボールをまとめて大きくして「ほら,

こうやったらこんなに大きくなった!」と言って楽しんだりして,子供の行動を更なる学び につなぐこともできるのではないかと伝えました。A先生は理解を示しながら,それでも次 はもう少し分かりやすく説明したいと話していました。

(6)「学びあいの場」当日の授業とワークショップの様子

当日の授業のテーマは「長い・短い」でした。この日も子供は「①おはなし」を聴いて張 り切って活動を始めました。「②分けようクイズ」では,長さの違うリボンや靴下,ストロ ーなどの長さを比べて「ながい」コーナーと「みじかい」コーナーとに分けて置く活動,「③ 作ろう」では,短い線路をつなげて長くする活動が行われました。この日は,ほとんどの子 供がA先生が狙いとした活動をすることができたのですが,Bさんが長さの違う2本のスト ローの長い方を「みじかい」コーナーへ,短い方を「ながい」コーナーへ置くという姿があ りました。A先生はその様子を見て,更に何度かBさんを誘って課題に挑戦させたのですが,

Bさんは何度やっても同じように答えました。

ワークショップではこのBさんの姿がどのグループでも話題になりました。A先生自身は,

Bさんの様子から,Bさんは「長い・短い」の課題を理解できなかったと思ったそうです。

しかし,Bさんが「長い・短い」の違いを実感して学習できたかどうかということがA先生 の一番の気掛かりでもあったことから,私は,Bさんが考えていたことが解釈として書かれ ているラベルを選び,それを書いた参観者に詳しく話を聴くことにしました。数名から話を 聴いてみたところ,実はBさんは,長いストローを「おおきい」と言いながら「みじかい」

コーナーに置き,短いストローを「ちいさい」と言いながら「ながい」コーナーに置いた,

ということが分かってきました。そして,その事実からBさんはストローの長さを比較し区 別することはできているのではないかと考えられました。また,別の参観者からは,ストロ ーを置く仕草に迷いがなく,しかも一貫して全て間違って置いたことから,言葉が意味と逆

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に結びついているのではないかという解釈が聴かれました。そのことから,Bさんは何も分 からずに過ごしていたのではなく,Bさんなりに課題を理解し,長いことと短いことを実感 しながらしっかりと学習に参加していた姿が見えてきました。

ワークショップの最後に,A先生に気付きや考えの深まりがあったかどうか尋ねると,「B さんが大きい(小さい)とつぶやいていたことは知っていたが,それをそんなに大したこと と捉えていなかった。前の時間に学習したことをよく分かっているのだなとは思っていた。

頑なに長いと短いを逆に置いていたのを,長いと短いを全然分からないのか,彼にはまだ早 かったのか,もっと見比べるような活動が必要なのかと考えていた。しかし,一貫して長い と短いを逆に答えた彼なりに長いと短いは違う言葉だと捉えていたのではないかと考え直す ことができた。どちらが長いでどちらが短いということはきちんと教えなければならないが,

何の言葉を勉強しているのか分からないというのではなく,彼なりに理解して参加していた のだと思った。大きい小さいはできたから,長い短いも知っているだろうぐらいに思ってい たが,彼が日頃その言葉に触れることが少なかったかもしれないし,分かると思っていても 分からないこともあるので丁寧に見ていく必要があると思った。」と話しました。

3 まとめ

(1)プロンプタの役割についての気付き

プロンプタは授業者と似た役割と言われます。学部教員での授業づくりの聴き合いにおい ては,A先生が考えを話すと学部教員が質問しA先生がそれに答えたり,学部教員が子供の 姿やその解釈を話すとそれについてまたA先生が思うことを話したり,それに関連して学部 教員がまた別の場面の子供の姿を話すというように,テーマに沿いながら多様なやり取りが なされながら進みました。その多様なやり取りを大切にしつつ,話の流れがどんな結論に向 かっているのかを見守ったり,時々言葉でまとめて確認を促したり,みんなで聴き合った一 連のことが授業者のどんな気付きにつながっていったかを見取ったりすることが,プロンプ タの役割の一つであると思います。「学びあいの場」においても,A先生と参観者の双方の気 付きにつなげられるように進行を考えたり,事実について,例えばBさんの姿は,長いスト ローをただ「みじかい」コーナーに置いたのでなく,そのストローを見て「大きい」と言っ て「みじかい」コーナーに置いたのが実際であるということを確認し,それに基づき参観者 の解釈を引き出しながら進めることもプロンプタの役割であると思います。

そして最も大切なことは,「学びあいの場」の一連の流れが,子供の学ぼうとしている姿(事 実)と授業者の思いを根拠として進んでいくように舵取りをすることであると考えます。

また一方で私は,プロンプタとして小学部の授業づくりの経緯を概ね見てはいましたが,

「学びあいの場」当日の授業で,子供の学びの全体像がどうであったかということを,授業 を観ただけでは捉えることはできませんでした。A先生の授業でも,「学びあいの場」を経る ことで初めて子供の学んでいた過程を多面的に理解することができ,自分自身の学びとする ことができました。それとともに,授業を観たばかりのときの私自分の捉えが一面的であっ たことに気付くこともできたと思います。このことから,プロンプタ自身も授業者や参観者 と一緒に学ぶ姿勢をもって参加することも大切であると感じています。

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(2)一連の授業づくりに関わって見えてきたもの

小学部の授業づくりに学部主事として関わる中で,子供が学んだことを表現する機会につ いて考えるようになりました。A先生の授業にも取り入れられていますが,子供が身近なも のを見たり触ったりして「長い・短い」の区別を考え,決められた場所に分けて置く課題は,

自ら意図したことを体の動きにより表現する活動です。また,長いという言葉を学習したら,

次は自分の手で長いものを作って長いということはこういうことだと表現する活動により,

子供はその概念への理解を一層深めることができると考えられます。更に,授業者もまた子 供の学びを活動の様子により見取ることができると思われます。今後もそのような学習場面 を授業に積極的に取り入れていけるとよいと考えます。

(3)今後の課題

小学部では今年度から,学部の聴き合いの前に授業の動画を全員で視聴するようにしてみ ました。そうしたことで,資料のみだった昨年度よりも学部の聴き合いにおいて意見が多く 出るようになったと思います。さらに,遠くから全体的に録画した授業を観たときよりも,

子供の表情や言葉や仕草がよく見える動画を観たときの方が活発に意見交換がなされていた ように思いました。授業を録画したり,視聴したりすることには少し時間がかかりますが,

今後も学部教員の気付きで授業者を支えるためには必要な配慮ではないかと考えます。

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1 はじめに

私は,本校の校内研修「学びあいの場」に昨年度までは一参観者として参加してきましが,

昨年度より新たな取組の一つとして,「学びあいの場」で教師の聴き合いを進めるプロンプタを 全教員が体験することになりました。私自身も今年度初めてプロンプタをすることとなり,不 安の中,年四回の「学びあいの場」でプロンプタの役を担いました。そのプロンプタの体験を 通しての気付きを紹介したいと思います。

2 プロンプタとは

これまでの取り組みから,プロンプタの役割について,以下のように四つにまとめられてい ます。

①大まかな計画を立てて進行

各グループのラベルコミュニケーションの様子と図解を見て,アクティブ・リスニングで 話題にすることの順番を大まかに決めて進行する。

・最初に話題にしたいことを決め,報告を促す

・関連した話題に進み,報告を促す

・少数意見も報告を促す

②報告者(参観者)同士の解釈を重ねるために

グループで話題になった場面の事実とその解釈を詳細に聴く。

・事実を確認したり,解釈を聴いたりする

・同じ場面を取り上げている他の参観者の解釈を聴く

・事実をより詳細に把握するために,違う角度から見ていた参観者からも聴く

③授業者と参観者の解釈を重ねるために

授業者が自分の解釈を話しやすいように,参観者から出たことを整理したり,授業者が振 り返りやすくしたりする。

・授業者の解釈を聴く

・日頃の様子を聴く(授業者しか知らない事実を聞き出す)

・話題になった事実や解釈を整理して授業者に投げ掛ける

・授業者の気付きを促す

④対話をより深めるための軌道修正

支援方法や授業の良しあしが話題になった場合には,子供の姿の事実に対する解釈に徹す るよう働き掛ける。

・支援方法が話題になった場合には,その時の生徒の姿はどうだったかを聴く

・授業内容を否定するようなラベルや授業者への質問が出た場合は,どのような子供の姿か らそう思ったのかを聴く

(年報,2018, pp.51-52)

学部の聴き合いを振り返ってみて

~プロンプタとして取組を通じた気付き~

中学部主事 幅 裕子

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さらに,2019 年度より授業者が児童生徒の実態の捉えと単元や本時授業の狙いを絞り込み,

子どもの学びに迫るために,「授業づくりの聴き合い」に取り組み始めました。この聴き合いに は,①授業者同士の聴き合い,②授業者と学部教員との聴き合い,③授業者とプロンプタとの 聴き合いがあります。さらに「学びあいの場」後に④授業者とプロンプタとの振り返りがあり ます。③と④の間に「学びあいの場」として公開授業とラベルコミュニケーション,アクティ ブ・リスニングが行われます。それぞれにおけるプロンプタとしての働き掛けについては年報

(2019 34P)にあります。

私はこの②授業者と学部教員との聴き合いについて,所属する中学部で取り組む中で気付い たことを報告していきます。

3 授業者と学部教員との聴き合いについて~中学部の授業より~

(1)授業者と学部教員との聴き合いに向けて

「授業づくりの聴き合い」の中で,②授業者と学部教員との聴き合いは,授業者が選択した 授業の教科にもよりますが,大体1か月から2週間ほど前に行われます。

授業者は,学部教員との聴き合いに向けて,ブリーフィングシートと個別の指導計画を作成 します。学習の目標や学習活動を言語化することで,学習の目標や学習活動が具体的になりま すが,実際に授業を行ってみると,授業における生徒の実態が異なっていたり,個別の指導計 画のように学習活動が進まなかったりします。

そのため,今年度の中学部での授業者と学部教員との聴き合いの場で話題になったことは,

実際に授業者が授業を進めていく中での悩みや,生徒の実態について他の学部教員に聞きたい ことが多かったように思います。

学部教員は,事前に配布されたブリーフィングシートや個別の指導計画に目を通し,どのよ うな目標で,どのような学習活動を行うのか把握したうえで,授業を観察または動画で視聴し,

自分の知っている生徒の実態と学習している生徒の姿を重ねてから参加します。

今回は,数学A教諭の「学びあいの場」に向けて行った授業者と学部教員との聴き合いにつ いて振り返っていきたいと思います。

(2)数学の授業での取り組みについて

中学部の「学びあいの場」で取り組みました数学の授業の概要は,以下のとおりです。

単元名 数学「ピタゴラ装置を作ろう」

対象生徒 中学部1・2年生 4名

ねらい ・上下や前後,形の違いに気付いて操作することができる。

・長さの違いに注目し,比べる方法が分かり,比べる力を養う。

聴き合いで中心と なった話題

・数学としてどう狙うのか。

・長さを生徒はどう捉えているのか。

授業者と学部教員との聴き合いは,授業者に単元の学習で狙いたいことや生徒たちに気付い てほしいこと,学習を進めるにあたって困っていることを聞いてから始めます。

授業者は,長さの学習の導入でピタゴラ装置を作り,生徒たちに提示しました。最初に提示 されたピタゴラ装置は,スタートからビー玉がからころと転がり,ゴールにビー玉が入ると生 徒たちは笑顔になりました。次に提示されたピタゴラ装置は,ゴールまでビー玉を転がしたい のですが,途中にある数本のレールが抜かれたため,ビー玉が床に落ち,ゴールできないピタ

参照

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