高機能自閉症および定型発達児の鑑別尺度としての遊びの
質問票(Japanese version of Children's Playfulness Scale :
JCPS)の有用性に関する予備的研究
長田洋和
1・正治幸恵
2A preliminary study of usability of the Japanese version of Children’s
Playfulness Scale for differentiating high functioning autism from
typically developmental children
Hirokazu Osada, Yukie Shoji
Abstract : The purpose of this preliminary study is to investigate usability of the Japanese version of Chil-dren’s Playfulness Scale (JCPS) to be a supplement scale for screening high functioning autism in early devel-opmental stage.METHOD : The social skills and free−play behaviors of five 3 to 6 year olds high functioning autism (HFA), and seven typically development (TD) children were compared. All of HFA children had been referred to the Senshu Psychoeducaiton Room (SPER). TD children were recruited from public nursery kin-dergarten near Senshu University. They were paid 2,000 yen for participation of the study. After we acquired written informed consent from mothers of every child precisely, they filled out the JCPS. RESULTS : HFA chil-dren were found to have significantly poorer skill in playfulness than TD chilchil-dren. Especially, significant differ-ences were found between groups with regard to humor. Based on odds ratio in each question of the JCPS, the short version of JCPS (JCPS−SV),which consisted of 11 questions out of 23 was examined. The JCPS−SV also showed good reliability and validity. CONCLUSION : Though this is the preliminary study, the JCPS and its short version might be useful scale for detecting HFA in aspect of playfulness.
Key words : autism spectrum disorder, children, cut off, high functioning autism, odds ratio, playfulness
緒言
自 閉 症 ス ペ ク ト ラ ム 障 害(Autism Spectrum Disor-der:ASD)児には,早期介入が非常に重要であり,良 好 な 予 後 に つ な が る こ と は 周 知 で あ る。ASD の ス ク リーニングが早期介入への第一歩となるので,これまで ASDのスクリーニング尺度の開発が,イギリス,アメ リカをはじめ,わが国でも行われてきている。Baron−Co-henら(2000)は,Checklist of Autism in Toddlers(CHAT) を一般人口を対象として開発した。CHAT は,主たる養 育者(主に母親)による9つの質問項目,および専門家 の直接観察による5項目のから構成される質問紙であ る。それぞれの質問項目に対して,「はい」「いいえ」の 2件法で回答するもので,非常に簡便なものであり,感 度はあまり高くないものの,ASD のスクリーニングに は一定の有用性が認められている。アメリカでは,Rob-binsら(2001) が , CHAT を 修 正 し た Modified CHAT (M−CHAT)を開発している。M−CHAT は,23項目から
構成されており,CHAT とは異なり,全ての項目が主た る養育者(主に母親)によって回答される形式となって いる。すでに M−CHAT は,ニューヨーク市での ASD の 早 期 介 入 プ ロ グ ラ ム ( Early Intervention Program : EIP)で実際に用いられている。英語だけではなく,ス ペイン語でも翻訳され,ニューヨーク市での EIP での ASDの鑑別尺度として重要な役割を果たしている。EIP は,ニューヨーク州保健局によって推進されているもの であるが,ニューヨーク州内でもニューヨーク市が最も 整備されている。アメリカには,わが国のように国民皆 保険制度がないことから,国民は,基本的に自ら医療保 険に加入し,医療機関を利用した場合は,各医療保険会 社が診療費を査定し,承認されれば,医療費がカバーさ れたり,減額される。ニューヨーク州では,近年,ASD が医療保険の対象となってはいるが,依然として,ASD 児を養育する親の中には,必ずしも医療保険に加入でき ていない事も多く(掛け金も払えない貧困層も含まられ る),子どもが ASD を疑われる場合でも,医療機関を利 用できない場合も多かった。しかし,EIP では,子ども が ASD と診断された時点で,ASD としての診療は,す べてニューヨーク市が負担し,利用者は無料で,EIP が 受けられるようになる。そのため,ASD の鑑別のため 受稿日2010年10月14日 受理日2010年12月7日
1 専修大学人間科学部心理学科(Department of Psychology, Senshu University)
の尺度は非常に重要な役割を果たす事となっているが, M−CHATは,その実践に十分耐えうる尺度として用い られていることから,その有用性が高い事が理解されよ う。
わが国では,長田ら(2000)が乳幼児期チェックリス ト(Infant Behavior Checklist:IBC)の有用性を報告し た。IBC は,主たる養育者(主に母親)によって回答さ れる24項目から構成される。各項目は,「はい」「いい え」の2件法で回答するもので,24項目中10項目に「は い」と回答した場合,ASD を疑うとされている。その 後,IBC は,さらに参加者を増やして,そのカットオフ (特定のポイント以上だと,疾病を疑う)のさらなる吟 味が進められている。また,Koyama ら(2003)によっ て,日 本 語 版 CHAT(CHAT Japanese version)の 開 発 の予備的な報告がなされている。長田が原著者の Baron −Cohenの許可を得た上で,進められているが,未だ, 児童精神科クリニックを受診した ASD および知的障害 児との鑑別のみにとどまっている。今後,一般人口での 調査をもとに,より精密なスクリーニング尺度としての 吟味が望まれている。 Barnett(1984)は,遊びが早期児童には重要である と述べ,Children’s Playfulness Scale(CPS)を開発し, 子どもの行動の心理測定尺度としての十分な信頼性およ び妥当性を報告している(Barnett,1990,1991)。Trevlas ら(2003)は,CPS の異なる年齢での応用性を見出し た上で,十分な妥当性の再確認も行い,小学校あるいは 保育・幼稚園で,教師や保育士が CPS を用いて,子ど もの遊びを評価できると結論付けている。CPS は,上 述の他の ASD スクリーニング尺度よりも,一般的で広 範囲な行動評価を行うように開発されていることから, クリニックなどの臨床場面よりも一般的な場面での利用 が可能であると考えられる。 以上を踏まえ,本研究では,高機能自閉症(High func-tioning Autism:HFA)児および定型発達(Typically De-veloping:TD)児を比較することにより,遊びの質問票 (Japanese version of CPS:JCPS)の信頼性と妥当性の 検討を行うことを目的とした。CPS に関する先行研究 では,発達障害児を対象では行われていないので,本研 究は JCPS による ASD の鑑別を検討した最初の研究で もあり,有意な知的の遅れを認めない ASD 児の鑑別へ の一助となる可能性がある。 方法
1.参加者
A大学に付属する相談室(B 相談室)に来所している HFA児5名(男 児3名,女 児2名)の 母 親5名 と,C 区 の 区 立 保 育 園 に 通 う TD 児7名(男 児5名,女 児2 名)の母親7名が参加した。本研究に参加した HFA 児 は,すべて,他の専門機関の医師により広汎性発達障害 の診断を受けているものであり,B 相談室にて臨床心理 士である HO により個別,あるいはまた小集団での認知 行動療法を継続的に受けていた者である。参加者全てに 対して,下記に詳細を記す JCPS に回答してもらった。 また,下記に記す倫理的配慮のもと,書面での研究参加 へのインフォームド・コンセントが得られた参加者に は,研究参加協力費として2000円を支払った。なお,B 相談室に通う HFA 児の母親に関しては,1回の相談料 の内,親面接にかかる2000円を1回分無料にすることに より研究参加費支払いを充当した。HFA 児の平均月齢 は60カ 月(SD=9.0),TD 児 の 平 均 月 齢 も60カ 月(SD =9.2)であった。HFA 児と TD 児の男女比には有意差 は認められなかった(χ2=.17,p=.68:HFA 児では男 児3人,女児2人,TD 児では男児5人,女児2人であ った)。研究倫理上,参加者の母親の年齢はたずねるこ とはできなかった故,HFA 児と TD 児の母親の年齢に関 しては比較検討できなかった。2.尺度
た。 表1に,JCPS の 各 質 問 項 目 に お け る オ ッ ズ 比 を 示 す。23の質問項目のうち,11項目は,95%CI が1を ま たいでいないことより,これら11項目に「いいえ」と答 えた場合,HFA 児であるリスクが統計的に有意に高い 可能性が示された。特に,質問22に関しては,HFA 児 のすべての母親が「いいえ」と回答したのに対して,TD 児の母親は,すべて「はい」と回答した。Trevlas によ ると,CPS 原版は,5つの遊びの因子で構成されてい て,質問22は,ユーモアのセンスの因子に含まれてい た。概して,ユーモアは,HFA 児にとって,もっとも 獲得しにくいソーシャルスキルの一つである。本研究で は,専門的な知識を必ずしも有さない母親によって,自 身の子どもの遊びを観察することにより,ユーモアとい うソーシャルスキルに困難さを呈していることが認識さ れたと思われ,一般の遊び場面で JCPS を用いること で,HFA 児に鑑別の一助となる示唆が得られたと考え られる。また,上述の Trevlas の報告,すなわち,CPS 原版の5因子のうち,ユーモアのセンスに含まれる項目 のオッズ比が本研究で有意であったことにより,JCPS の一定の内容的妥当性が確認されたと思われる。 JCPSの感度および特異度により,カットオフを13/ 14と設定し得た。ただし,感度および特異度ともに1.0 という値であり,理想的ではあるが,参加者の人数が増 えれば,この値はあり得ないものとなるだろうし,また 臨床現場でも感度および特異度ともに1.0となること は,まずあり得ない。今後,参加者を増やし,さらに吟 味する必要があるが,カットオフを13/14と見出させた ことで,JCPS は,HFA の早期スクリーニング尺度とし ての可能性が示唆されたものと考えられる。 JCPSの23の質問項目のうち,11項目が HFA 児を TD 児と鑑別する本質的な質問項目であることが示唆され た。こ れ ら11項 目 に お い て 全 参 加 者 の 回 答 を も と に Cronbachの!係数を算出したところ,0.97であり,十 分な内的一貫性が示されたことで,これら11項目をもっ て,JCPS 短縮版(JCPS short version:JCPS−SV)とし た。一般に,スクリーニング尺度は,項目数が少なけれ ば少ないほど,回答する時間が短くて済むことにより, その有用性は高まると考えられていることにより,短縮 版の作成の意義は高い。JCPS−SV の総得点は,0∼11 点に分布することになったが,HFA 児の方が TD 児より も有意に高い得点であっ た(M =10.2(SD=1.10)vs M=1.57(SD=2.07),t (10)=9.35,p <.001)。こ のことから,JCPS 同様,JCPS−SV でも,HFA 児の母親 は,TD 児の母親よりも,自身の子どもがうまく遊べて いないと認識していることが理解され得ると考えられ る。JCPS−SV の 感 度 お よ び 特 異 度 に よ る カ ッ ト オ フ は,6/7であり,感度および特異度ともに1.0であっ た。JCPS と同様,これらの値は,参加者の増加,ある いは,実際の臨床場面では,まずあり得ない値である が,やはり,JCPS−SV が,早期の HFA 児の鑑別の一助 となる可能性があることが示唆されたと言える。
結論
遊びの質問票(Japanese version of CPS:JCPS)の有 用性の検討を行い,十分な信頼性および妥当性が確認さ れた。高機能自閉症児のスクリーニングのカットオフ 表 1 JCPS*各質問項目に対するオッズ比 項目番号 OR** 95%CI *** 下限 上限 1 23.2 2.57 208.6 2 18.8 1.49 237.7 3 23.2 2.57 208.6 4 1.87 .21 16.9 5 23.2 2.57 208.6 6 14.8 1.59 137.4 7 23.2 2.57 208.6 8 14.8 1.59 137.4 9 8.13 .64 102.8 10 4.06 .44 37.7 11 1.52 .12 19.2 12 6.59 .73 59.3 13 2.57 .25 26.4 14 3.52 .28 44.5 15 18.8 1.49 237.7 16 11.0 .21 587.3 17 6.59 .35 125.7 18 .15 .01 2.89 19 23.2 2.57 208.6 20 5.55 .104 295.9 21 14.8 1.59 137.4 22 43.4 4.68 403.5 23 3.27 .35 30.4*The Japanese version of Children’s
Play-fulness Scale,
**Odds Ratio:本 研 究 で の オ ッ ズ 比 は,
Peto法を用いて算出されているため,値 は推定量である.
は,23点中14点以上であることが示された。JCPS の23 の各質問項目に対するオッズ比により,11項目からなる JCPS短縮版(JCPS short version:JCPS−SV)の有用性 の検討も行い,十分な信頼性および妥当性が確認され た。JCPS−SV のカットオフは,7点以上であることが 示された。参加者数が少ないことにより,本研究は予備 的ではあるが,HFA 児の早期の一般的な場面での遊び を観察することにより,HFA 児の早期スクリーニング の一助となる可能性が示唆された。
引用文献
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