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-小学校第6学年「月の満ち欠け」の学習を事例に-栗原 淳一

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(1)

観察を補完するデジタルコンテンツを導入した理科の授業デザイン

-小学校第6学年「月の満ち欠け」の学習を事例に-

栗原 淳一

1.問題の所在及び研究目的

 理科の授業においては、科学的な原理・法則の 理解や、観察・実験などを行って科学的に調べる スキルが重要視されてきている。現行の小学校学 習指導要領解説理科編においては、理科の目標を

「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験など を行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育 てるとともに、自然の事物・現象についての実感 を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養 う」と明記している1)。中でも特に、「見通しをもっ て観察、実験など行うこと」が強調されており2)、 科学的に調べるスキルの育成は重要である。

 理科の授業は一般的に帰納的推論をたどらせる 問題解決的な学習が展開されることが多い3)。そ の中で、子どもが観察・実験を通して科学的な法 則や原理をスムーズに発見できるような方略が求 められる。この方略として広く行われているもの に、「仮説を立てる活動」を取り入れた仮説実験 授業がある4)。観察・実験の結果を根拠をもって 予想し仮説を立てることで、観察・実験の見通し をもたせることができるとともに、観察・実験の 結果を考察する際に何が明らかになったかを捉え させることができるなど、仮説実験授業の有効性 が明らかにされている5)

 しかし、「どう予想・仮説を立てさせていくの か」、「子どもはどの程度予想・仮説を立てること ができるのか」という、具体的な授業方略とその 効果について明らかにした研究は数少ない。そこ で、本研究では、理科の授業の問題解決的な学習 過程における、「予想・仮説を立てる局面」の具 体的な授業方略に着目した。

 一方で、「教育の情報化に関する手引き」では、

教科指導におけるICT活用についての具体的な

方法や場面が示され6)、授業におけるICT活用 が求められている。

 特に理科においては、様々なデジタル教材が開 発され、児童の学習意欲や理解の向上に有効であ ることが検証されている7)8)。また、 Web上には 理科教育用のデジタルコンテンツを提供するサイ トが多数あり、授業で活用できる環境が整ってい る。そして、これらを授業で活用することで、児 童の学習への効果があることが多数報告されてい

9)10)。さらには、ICTの活用場面を紹介した

書籍も多く出版されている11)12)

 これらは、事物・現象を提示するなど、資料提 示としての活用であったり、アニメーション等に よる現象のシミュレーションで理解を図る活用方 法であったりし、予想・仮説を立てる局面で子ど もの思考を促すようなものはほとんど開発されて いない。また同時に、その方略についても検討さ れてはいない。そこで本研究では、子どもが予想・

仮説を立てる局面において、デジタルコンテンツ を活用することで、子どもの思考を促すことがで きるかを調査することとした。

 また、小学校理科の学習内容では、第6学年単 元「月と太陽」は教員が指導しにくい単元である ことが指摘されている。その要因には、 ①観察対 象(月・太陽)を観察させにくいこと、 ②月の満 ち欠けの原理をとらえさせにくいこと、 ③教材が 整っていないこと、の3つがあると指摘されてい る13)。そこで本研究では、満ち欠けの原理をとら えさせる授業の「予想・仮説を立てる局面」で観 察を補完するデジタルコンテンツを活用し、それ が如何に子どもの思考を促し、学習内容の理解に つながるかを調査するとともに、その授業デザイ ンを検討する。

白梅学園大学・短期大学情報教育研究     2012,No.15,6-11.

(2)

2.観察を補完するデジタルコンテンツ

 小学校第6学年単元「月と太陽」で行う観察対 象は、月や太陽である。この観察は、時間や天候 の制約を受けるため、対象を観察させにくい。本 来、授業では子どもが観察した月や太陽の観察結 果から考察していく授業をデザインするが、授業 時間外の観察になったり、天候が悪く観察できな かったりするため、観察を補完するためにデジタ ルコンテンツが必要となる場合がある。本研究で は、小学校第6学年単元「月と太陽」において、

このような観察の補完を目的に開発されたデジタ ルコンテンツ(静止画)14)を活用する。しかし、

本研究では、観察ができている場合でも、教師の 授業方略の中にこうしたデジタルコンテンツを取 り入れることの有効性を探る。

 本研究において活用するデジタルコンテンツ

(静止画)を、図1~3に示す。図1と図2は、

それぞれ2009年7月25日と29日に撮影された日 没前の月の静止画で、撮影日時、月の方位と形 の情報を含んでいる。図3は、図1と図2をパ ノラマ写真上で合成した静止画である。この3 つの静止画を、「月・太陽・観測者の位置関係に よって月の満ち欠けが変わる」という仮説を導く ために使用する。

図3 2009年7月25日と29日(日没前)の月の方位と形

図2 2009年7月29日(日没前)の月の方位と形 図1 2009年7月25日の月の方位と形

(3)

3.研究の方法

(1)調査対象及び調査時期

 調査対象は、群馬県内の公立小学校第6学年の 子ども(2学級78名)とした。

 対象とする授業は、単元「月の形と太陽」(全 5時間)における「月の満ち欠け」に関わる授業(1 時間)で、2009年11月に行った。本単元の指導計 画を表1に示す。

(3)授業方略

 本研究における授業方略を(a)~(h)に示す。

ただし、統制群は(c)の過程を行わないもので、

両群の違いは、(c)の過程の有無のみである。また、

両群とも、同一の理科専科教員が授業を行った。

 (a)まず教師が、日没前に月を観察した結果(月 の方位と形)と、その4日後の日没前に月を観察 した結果(月の方位と形)を3名の子どもに発表 させた。

 (b)指名されたそれぞれの子どもは、各自の ノートに記述してある月の方位と形を発表し、教 師は子どもの言葉を解釈して、その情報を黒板に 文字と簡単な図で記述した。

 (c)ここで実験群では、教師が「違う日の月の 見え方を見てみましょう」と子どもに伝えた後、

図1・図2・図3を黒板に貼り付けたマグネット スクリーンにプロジェクタで順に投影し、その情 報を読み上げた。図3については、その後、マグ ネットスクリーンに投影したままとした。

 (d)次に教師は、板書した月の方位と形の情報 に注目させ、「月の形の見え方は何に関係するの だろうか」と問いかけ、子どもに予想・仮説を立 てさせた(局面1)。

 (e)その後、子どもに予想・仮説を発表させ、

それを整理し、「月の形の見え方は、月・太陽の 位置に関係する」という仮説を板書した(局面2)。

 (f)そして次に、「ボールと電灯を使用したモデ ル実験で、仮説を検証しよう」という課題を与え た。モデル実験における月と太陽のモデルには、

それぞれボールと電灯を使用した。

 (g)子どもたちは電灯と自分の位置を変えず に、自分を軸にして回転させることで持っている ボールの位置を少しずつ変え、電灯によって照ら されたボールの見え方を調べた(仮説検証実験)。

 (h)次にその結果を考察し「月の形の見え方は、

太陽と月の位置に関係する」という結論を導いた。

(4)調査方法

 子どもが予想・仮説を立てることができたかを 調査するため、局面1と局面2において、質問紙 表1 「月の形と太陽」指導計画

(2)実験群と統制群の設定

 調査対象とした2学級のうち1学級を「授業に デジタルコンテンツを導入する群」(実験群)とし、

他方を「授業にデジタルコンテンツを導入しない 群」(統制群)とした。

 また、調査対象2群の等質性については、標準 学力調査の結果を基に分散分析を行い、有意差が ないことを確認した(F(1,76)=0.12,ns)。

(4)

1(資料1)による調査を行った。質問紙1の設 問は、問1の ①で「1回目の先生の指示があっ た時(局面1)、予想・仮説を立てることができ たかを回答するもの」、 ②で「自分の仮説を記述 するもの」とした。また、問2の ①で「2回目 の先生の指示があった時(局面2)、予想・仮説 を立てることができたかを回答するもの」、 ②で

「自分の仮説を記述するもの」とした。

 月の満ち欠けの理解を調査するため、授業前と 授業直後に、質問紙2(資料2)による調査を実 施した。質問紙2の設問は、問1「 ①太陽の位 置と月の形から判断して適当な月の位置を選択肢 から選び、 ②その選択理由を記述するもの」、問 2「 ①太陽の位置と月の位置から判断して、適 当な月の形を選択肢から選び、 ②その選択理由を 記述するもの」とした。

 ただし、授業前においては、設問1の ②、設 問2の ②にある「学習したことをもとにして」

という部分を削除して調査を実施した。

4.結果と考察

(1)質問紙1について

 質問紙1の回答結果を表2に示す。ここでは局 面ごとに、予想や仮説を立てることができた子ど もの数と予想や仮説を立てられなかった子どもの 数を示す。予想や仮説を立てることができた子 どもであるかの判断は、問1の ①でア「できた」

を選択し、かつ問1の ②で予想・仮説を記述で きた子どもとした。その際、月の位置と満ち欠け の関係を述べる記述があることを、「記述できた」

と判断する基準とした。

 各群の局面1で予想・仮説を立てられた子ども と立てられなかった子どもの数を直接確率計算で 比較すると、両側検定の結果、p=0.0059(p<.01)で、

有意であった。また、各群の予想を立てられた子 どもと立てられなかった子どもの数を直接確率 計算で比較すると、両側検定の結果、P =0.0097

(p<.01)で有意であった。

 このことから、実験群の子どもは統制群の子ど もより、予想・仮説を立てることができたと言え る。また特に、局面1で予想・仮説を立てること ができた子どもが多いことから、本授業方略で観 察を補完するデジタルコンテンツ(静止画)を活用 することは、子どもの思考を促し、予想・仮説を 立てることに有効であったと言える。

 デジタルコンテンツにより、教師は効率的に観 察の補完ができたと同時に、子どもの観察を補完 する情報が整理された状態で提示できたことで、

子どもの思考が促されたことが示唆される。

(2)質問紙2について

 質問紙2の回答結果を表3、表4に示す。

 表3において、授業前の実験群の正答者数は8 名で、全体の18%が正答を選択した。また、授業 前の統制群の正答者数は10名で、全体の26%が正 答を選択した。しかし、授業前において、両群の 正答選択理由(問1 ②の記述)は、生活経験を 根拠としたものがほとんどであったが、その根拠 が曖昧なものであった。このことから、授業前で は、満ち欠けを見たことはあるが、月と太陽の位 置関係と満ち欠けの関係についての知識・理解が ほとんどない状況であったことがうかがえる。

 表3において、実験群と統制群の授業後の子ど もの正答者数と誤答者数を直接確率計算で比較 すると、両側検定の結果、 p=0.0076(p<.01)で 有意であった。また、表4において、実験群と 統制群の授業後の子どもの正答者数と誤答者数 を直接確率計算で比較すると、両側検定の結果、

p=0.0296(p<.05)で有意であった。さらに、授 業後における、両群の正答選択理由(問1の②、

表2 予想・仮説を立てられた子どもと立てられな かった子どもの数

(5)

問2の②の記述)は、仮説検証実験から導出した 月と太陽の位置関係と満ち欠けの関係を記述して いた。このことから、実験群の子どもの方が、仮 説検証実験から導出した月と太陽の位置関係と満

ち欠けの関係を根拠に、正答を選択できたと言え る。つまり、実験群の子どもの方が、仮説検証実 験により、満ち欠けを月と太陽の位置関係と関連 付けて理解できたと言える。

5.研究のまとめと課題

 質問紙1と質問紙2の結果の考察を総合する と、実験群の子どもの方が統制群の子どもより、

予想・仮説を立てることができ、その仮説をもと に行った実験によって学習内容(月の満ち欠け)

の理解が図れたと言える。したがって、本研究に おける授業方略、つまり、観察を補完するデジタ ルコンテンツを「予想・仮説を立てる局面」で活 用することは、子どもの思考を促し、仮説検証実 験による学習内容の理解を図る上で有効であると 言える。本授業方略は、月の満ち欠けの学習にお いて、デジタルコンテンツを取り入れた授業デザ インの一つのモデルとして活用することができる と考える。

表3 質問紙2(問1の①)の回答数

表4 質問紙2(問2の①)の回答数

 ただ、今回「予想・仮説を立てる局面」で使用 したデジタルコンテンツが、どの程度適切であっ たかについては検証できていない。別のコンテン ツとの比較により、さらに有効な情報を示すこと ができるコンテンツを明らかにしていくことも必 要であろう。また、本研究における「予想・仮説 を立てる局面」では、一斉授業の形式を取り入れ たが、この局面では子ども同士の交流を図った 様々な学習形態も考えられる。こうした学習形態 で子どもの学びを質的にとらえ、効果的なデジタ ルコンテンツの活用法を検討することも今後必要 となる。

(6)

引用・参考文献

1)文部科学省、「小学校学習指導要領解説理科 編」、2008、pp.13-17.

2)前掲書1)、pp.7-8.

3)増田和明、益田裕充、「演繹的推論による授 業づくりに関する研究」、臨床教科教育学研究 第10巻第2号、2009、pp.85-92.

4)板倉聖宣、上廻昭、「仮説実験授業入門」、明 治図書出版、1965.

5)板倉聖宣、渡辺慶二、「ものとその重さ」、国 土社、1974.

6)文部科学省、「教育の情報化に関する手引き」、

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/

zyouhou/1259413.htm、2010.

7)澤田佳宏・川上紳一、「児童の学習意欲を高 める小学校理科授業でのICT活用研究-デジ タルコンテンツの活用と児童とともに製作する コンテンツ-」、岐阜大学教育学部研究報告(自 然科学)、34、2010、pp.81-86.

8)栗原淳一、「小学校理科「月と太陽」の理解 を深める指導の工夫-指導資料『「Moon & Sun」

セット』の作成と活用を通して」、群馬県総合 教育センター研究報告、241、2010、pp.1-10.

9)柴田功・長郷智成、「「理科ねっとわーく」の 活用に関する研究-実験・観察とデジタル教材 の活用を融合した学習活動の推進に向けて-」、

神奈川県立総合教育センター研究集録、26、

2007、pp.11-16.

10)柴一実・山崎敬人・中田晋介・小川麻貴、「小 学校理科における学び文化の創造(9)-デジ タル教材が子どもの昆虫理解に及ぼす影響に関 する研究-」、広島大学学部・附属学校共同研 究機構研究紀要、37、2009、pp.375-384.

11)堀田龍也、野中陽一、「わかる・できる授業 のための教室のICT環境」、三省堂、2008.

12)高橋純、堀田龍也、「すべての子どもがわか る授業づくり -教室でICTを使おう -」、高稜 社書店、2009.

13)前掲書8)

14)前掲書8)

(資料1)

(資料2)

(くりはら じゅんいち 子ども学部)

参照

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