凍結全卵 と普通卵の調理特性の比較検討
Co mpa r i s o no fCoo ki ngCha r a c t e r i s t i c so fFr oz e nWho l eEggsa nd Or di na r yEggs
(2007年3月
3 1
日受理)林 真愉美 市川 和子 * 遠藤 陽子 * 河原 和枝 *
MayumiHayash l Kazuko lchikaw a Yoko Endo KazueKawahara Keywords:凍結全卵,汁物,温度,粘度,官能評価,大量調理
要 約
凍結全卵は,割卵 して得 られた液卵を撹拝,殺菌,ろ過の工程 を経て凍結 させた製品である。利便性が高い ことか ら 集団給食施設において幅広 く利用 されている。 しか し,これまでの経験か ら汁物では卵が散って しまい,見た 目が悪 く 一部の料理での不適合が示唆 された。そこで,凍結全卵の種類や調理法,前処理の違いが汁物の仕上が りに及 ぼす影響 について調査 し,大量調理に適す る取 り扱いについて検討 した。
凍結全卵を使用前に予備加熱す ることで液卵粘度は低下 し,凍結全卵のかきたま汁でも殻付 き卵に近い性状 を再現で きた。また,官能評価 においても良好な結果が得 られ,鶏卵本来の調理特性 を再現 し,凍結全卵の利用価値 をさらに高 めることができた。
は じ め に
鶏卵は様々な調理特性 を持ち,安価で味も良い ことか ら料理 の用途 は広 く,幅広 く利 用 され てい る。 しか し なが ら,鶏卵は割卵の手間や細菌汚染などの問題点 もあ り,作業効率や食品衛生‑の特別な配慮が必要 とされ る。
一方で,凍結全卵は割卵作業の省略,細菌汚染防止,収 納スペースの縮小や保存期間の延長な ど様々な有用性か ら病院や学校などの集団給食施設でニーズが高まってい る。現在,川崎医科大学附属病院でも凍結全卵 を蒸 し料 理や煮物,妙 り卵な どの種々のメニューに利用 している。
しか し,凍結全卵はかきたま汁や 中華スープな どの汁物 では卵が散って しまい外見が悪い とい う点か ら汁物には 実用化 されていない 。今回,凍結全卵の汁物‑の利用 を 目的 として液卵 の温度お よび粘度 に着 目し検討 を行 っ た。
方
法
1.試料 (1) 凍結全卵
キユー ピー タマ ゴ株式会社 の凍結全卵 (調理 用)
H V N o . 3( N o . 3 )
および凍結全卵 (調理用)N o . 1 2(N o . 1 2 )
, ツインパ ック ヨーク&ホワイ ト (ツイ ンパ ック) を使 用 した (表1)。 ツイ ンパ ックは凍結 による卵の品質低 下 を防 ぐために黄身 と白身 を分離 して冷凍 させ た製 品 である。使用時 に袋 を貫通 させ て混合す る。 現在,川 崎医科大学附属病院では鶏卵のみを原材料 とす るN 0 . 3
を 使用 している。 当初,N 0 . 3
が普通卵に比べ汁物で散 りや す いのは,粘 りが少 ない為 との予測 か ら増粘剤 の入 っ たN o 二 1 2
やツインパ ックも採用 した。N o . 1 2
お よび ツイ ン パ ックには増粘剤以外に糖類や植物油脂等が添加 されて お り,価格 はN 0 . 3
の約1 . 2
‑1 . 3
倍 である。対照 として 殻付き鶏卵 (普通卵)を用い比較 した。凍結全卵の解凍方 法は,2日間の冷蔵解凍 とした。注)*川崎医科大学附属病院 栄養部
表 1.凍結全卵および普通卵の特性比較
凍結全卵 (調理用)耶No.3凍結全卵 (調理用)No.12 ツインパック(ヨーク&ホワイト) 普通 卵
容 量
原 材 料
価格 (N0.3を 1とした時の比率)
1
倍1k g / p 3 0 0 g / p
鶏卵,還元水 あめ 鶏卵,糖類植物 油脂 植物油脂
カ ロチ ノイ ド色素 カ ロチ ノイ ド色素 増粘剤 ,酢酸Na
リン酸塩, グ リシン 酵素,乳 たんば く
1 . 2
倍増粘剤 ,食塩
1.1倍
約50g/個 鶏卵
0.6倍 粘 度 (20℃) 176.0mPa・S 未測定 76.5mPa・S 18.0mPa・S 外 観
(2) か きた ま汁 の調製
官能評価 はか きたま汁 で行 い,表2の配合割合 で調製 した。水, 混 合 削 りぶ しパ ック (株 式会社 モ リタ ;川 崎 医科 大学 附属病 院オ リジナル)を40分 間加 熱 し,煮 だ し 汁 を作成 し, うす くち しょ うゆ (羽原醤油株式会社)と水 溶 き片栗粉 を加 え,97℃ の一定 に した。凍結全卵お よび 普通卵 はステ ン レス製 のボ ウル に移 し,十分 に撹拝 の後 使用 した。液 卵 は菜箸 に伝 わせ て流 し入れ た。凍結全卵 は未 開封 のまま室 内に放置 し15℃ に した もの と湯 煎にて 50℃ に予備加 熱 した ものを使用 した。 かきたま汁 は5人 分ずつ作成 した。予備加熱 したN0.3を用いた大量調理 に は170人分 を作成 した。
表
2.
かきたま汁の組成(%) 液卵
淡 口しょ うゆ だ し汁
水 86.7
混合 削 りぶ しパ ック 水 の
1%
片栗 粉 0.6
2.官能評価
官能評価 は,No.3,No.12お よび ツイ ンパ ックにつ い て行 った。 普通卵 を基 準 として卵 の散在状態,色,味 ・ 食感 ,総合 の
4
項 目について5
段 階評 点法 によ り行 った(表3)。 さらに,ツイ ンパ ックを用いた液卵投入前の予 備加熱 の有無やN0.3を用 いた大量調理 な どの影響 につい て も官能評価 で調査 した。パネル は川崎 医科大学附属病 院の管理栄養 士,調理師,調理員 の計31名 とした。
3.
液卵粘度測定N0.3とツイ ンパ ック,普通卵 の各温度帯 にお ける液卵 粘度 はB型 回転粘度計 (東京計器株式会社)を用いて測定
した。
表3.官能評価の内容
基準 よ り散 ってい る 基準 よ り散 っていない (悪 い) 基準 と同 じ (良い)
【散在状態 】
【色】
‑2 ‑1 0 1 2 基準 よ り悪い 基準 と同 じ 基準 よ り良い
‑2 ‑1 0 1 2
基準 よ り悪い 基準 と同 じ 基準 よ り良い
【味 ・食感】
‑2 ‑1 0 1 2
基準 よ り悪い
【総合評価 】
基準 と同 じ 基準 よ り良い
‑2 ‑ 1 0 1 2(点)
4.
細菌検査凍結全卵の衛生上の安全性 を確認す るために,冷蔵解 凍後の
N 0 . 3
を用いて温度の異なる条件下で未開封のまま2 4
時間放置後,一般細菌数 を測定 した。冷蔵解凍後の保 管場所 は今後の解凍方法の検討 も併せて行 うために,袷 蔵庫,厨房,フー ドウオーマ‑の3
カ所 とした。液卵温 度はそれぞれ6
℃,2 0
℃,3 7
℃ に設定 した。結 果
各種凍結全卵を使用 し,液卵温度
1 5 ℃
(室温)でかき たま汁 を作成 した ときの官能評価 の結果 を図1に示 し た。 いずれ の凍結全卵 もすべ ての項 目で普通卵 よ りも 劣 っていた。増粘剤 の効果 が期待 されたN o . 1 2
や ツイ ン パ ックでも普通卵 に比べ散在状態の評価 は低 く,劇的な 変化はみ られなかったが,ツイ ンパ ックは川崎医科大学 附属病院で使用 してい るN 0 .
3と比較す ると散在状態,味 ・ 食感すべての項 目で有意 に良好 な評価であった。‑2 ‑1 基準 よ り悪い
0 基準 (普通卵)
と同 じ
1 2(点 ) 基準 よ り良い
図1.各種凍結全卵を使用し、液卵温度15℃でかきたま汁を 作成したときの官能評価結果の比較 *pく0.05(t検定)
表4にパネルの意見 を示 した。N0.3とNo.
1 2
では卵が 散っていた,普通卵の方が よい,汁物 には向いていない な どの否定的な意見が多かった。 しか し,ツインパ ック は何か一工夫あれば使用できそ う,普通卵 よ りもふんわ りしてい るな ど唯一肯定的な意見 もあ り,N o . 1 2
に比べ 好ま しい とい う意見 も圧倒 的に多かったことか らツイン パ ックの汁物‑の利用 の可能性が示唆 された (図2)。そ こで,ツイ ンパ ックの予備加熱 を試みた。ツイ ンパ ッ クを
5 0
℃ に予備加熱 し,か きたま汁 に用いたもの と室温 のまま使用 したものを比較 した ときの官能評価の結果 を表4.官能評価におけるパネルの意見
種 類 意 見
No.3
N o . 1 2
・卵が散 っていた
・普通卵の方が よい
・卵が沈んでいた
・汁には向いていない
・卵が固まっていた
・散らばり過ぎて卵の食感が感 じられない
ツインパ ック ・食感 は普通卵 よ りふんわ りしてい る
・一工夫 あれ ば使用できそ う
・卵の柔らかさはあったが、塊になりにくい
図2. 15℃のツインパックとNo.12使用のかきたま汁の総 合評価のアンケー ト結果
図3に示 した
。5 0
℃ に予備加熱す ることで しない ときよ りも散在状態 と総合評価 において有意 に良好な結果が得 られた。 さらに,普通卵 との比較 において も散在状態以 外の全ての項 目で良好 な結果 となった。総
‑2 ‑1 0 1 2 (点 )
基準 よ り悪い 基準 (普通卵) 基準 よ り良い と同じ
図3.ツインパックにおける予備加熱の有無が官能評価に 及ぼす影響 *pく0.05,**pく0.01(t検定)
000000208日リ日日
液卵粘度
5
1
0 20普通卵 (15℃ )
15℃
ツインパ ック
30 40 50
( ℃)
液 卵 温 度
20℃ 30℃ 40℃ 50℃
図4.液卵の温度帯別粘度とかきたま汁の形状の変化
図
4
に普通卵お よび各種凍結全卵の温度帯別粘度 とか きたま汁 の形状 の変化 を示 した。普通卵 はいずれ の温 度帯において も粘度は非常に安定 してお り,常に低い粘 度 を維持 していた。 ツイ ンパ ックは普通卵 と同様 に温 度 による変化が小 さく安定 していた。一方,N0.3は温度 による影響 を非常に受けやす く,特に20℃以下では普通 卵の10‑ 50倍 の高粘度であることが分かった。 さらに, N0.3とツイ ンパ ックは40℃または50℃まで予備加熱す ることで普通卵の2倍程度 にまで粘度 を低下 させ ることが できることも明 らか となった。凍結全卵使用のかきたま 汁の形状は,30℃までの温度帯では懸濁や塊化 した非常 に不均質な形状 を呈 していたが,40℃ または50℃の温度 帯で普通卵使用のかきたま汁に近い形状 を再現す ること ができた。
これ らの結果 を踏 まえ,従来 か ら使 用 してい る安価 で添加物の入 っていないN0.3を大量調理へ実用化す るこ
とを 目的 として,50℃ に予備加熱 したN0.3を用いて170 人分のかきたま汁の作成 を試みた。そ して,同様の官能
評価 を行った結果 を図5に示 した。N0.3は普通卵には及 ばない もののすべての項 目で予備加熱 しない少量の調理 よ りも良好な結果が得 られ,散在状態 と味 ・食感 におい て有意な改善が認 め られた。 さらに,N0.3が大量調理 に 使用できると答 えた人は全体の88%と高い割合 を占めた
(図6)。
色
‑2 ‑1 基準 よ り悪い
0 基準 (普通卵)
と同 じ
1 2 (点 ) 基準 よ り良い
図5.N0.3を50℃に予備加熱 し、かきたま汁を170人分 作成 した時と15℃のまま5人分作成 した時の官能評 価の比較 **pく0.01(t検定)
使用で きない
図
6.5 0
℃に予備加熱 したN0.3を使用し、1 7 0
人分のか きたま汁を作成 したときの官能評価におけるNo.3使 用の可否についてのアンケー ト結果N 0 . 3
を用いた細菌検査では,いずれの条件下でも一般 細菌は検出されなかった (表5)。表5.凍結全卵N0.3の細菌検査結果
冷蔵解凍後の保管場所 温 度 一般生菌数 (℃) (CFU/ml) 冷 蔵 庫
厨 房
フー ドウオーマ‑ (湯煎)
62037
考 察
凍結全卵は,大量調理 において殻付 き鶏卵に代わる利 便性の高い加工品であるといえる。 しか しなが ら,撹拝, 殺菌,ろ過,凍結な ど様々な物理的刺激 を経て製品化 さ れ るため,鶏卵本来の持つ性質を損ない,料理の仕上が りに影響 している可能性がある。特に,凍結による卵黄 中の リボたんばくの変性および脱水による解凍時のゲル 化1)2)は, これ まで凍結全卵が汁物 に利用 できなかっ たことに影響を与えていると推測 され る。今回,凍結全 卵の解凍後の粘度お よび温度 に着 目し,検討 を試みた。
そ して,凍結全卵 を
4 0‑ 5 0
℃程度 に予備加熱す ること で液卵の粘度は低下す るとともに汁物における卵の散在 を抑制す ることができた。結果 として,理想 とする普通 卵のよ うな均質な糸状のかきたま汁を再現す ることができ,凍結全卵の大量調理‑の利用を可能に した。
これまでの報告で,卵液 を
5 0
℃ に予備加熱す ることは, 急速蒸 し加熱法において卵液の加熱 し過 ぎを防ぎ,卵液 ゲルの外観 を改善 させ,卵の熱凝固に有効であることが示 されている3)。今回の結果 もこれ に一致 している。た だ し,凍結全卵の場合には殻付 き卵 とは異な り,一度 に 大量を扱 うため
,5 0
℃まで予備加熱すること自体が容易 ではない。そ こで,本研究では大量調理における凍結全 卵の予備加熱 の方法についても検討 し,冷蔵解凍後,温 度管理 された厨房 内にて液卵温度 を室温まで上 げ, さ らにフー ドウオーマ‑で湯 煎す ることで衛生的かつ経 済的,効率的な温度上昇 を可能に した。また,峯木 ら4)は軟 らか くもろいテクスチャーを示す凍結全卵のプ リン を ミキサーによる撹幹 によって改善 したことを報告 して いるが,このことは,温度や粘度以外に撹拝条件 が凍結 全卵の汁物における調理特性 を高める要因にな り得 るこ とを示唆 してお り,今後 さらに検討が必要である と考 え られた。予備加熱 による細菌繁殖等の食品衛生上の影響 については今回の実験結果か らは特に問題はない と考え られ るが,大量調理における凍結全卵の取 り扱いに関 し ては今後 も細心の注意が必要である。
参 考 文 献
1)中村良編
( 2 0 0
1), 「卵の科学」,朝倉書店,p p. 1 2 2 2
)竹林やゑ子 (1983), 「洋菓子材料の調理科学」,柴田書店
,p p . 8 0
3)斉 田由美子,村 田安代,松元文子 (1976),家政学雑誌,
2 7 ,41 2
4)峯木真知子,井戸明美
( 2 0 0 0 )
,冷凍液卵 を擾拝 し たプ リンの調理特性,青葉学園短期大学紀要,2 5
,41 ‑ 4 7
今 回の研究 に際 し,試料 をご提供いただきま したキ ユー ピータマ ゴ株式会社 に厚 く御礼 申し上げます。