特集:グローバル MOOCsにおける「世界の日本語音声教育」
研究論文
ベトナムにおけるオンライン教育の 現状
―オンライン日本語教育の重要性―
サイ ティ マイ
要 旨
近年、外国語学習のみならず様々な分野においてオンライン教育が盛んになって いる。特に「
Coursera
」や「edX
」のような、世界の有名な大学が提供している大 規模オープンオンライン講座(MOOCs: Massive Open Online Courses
)のおかげ で、海外留学をしなくても、外国語学習のチャンスが広がってくる。ベトナムにお いてもオンライン教育が進んでいるが、オンライン日本語教育は、まだ始まったば かりで、内容的にあまり豊かではないと思われる。本稿は、ベトナムにおけるオン ライン教育、特にオンライン日本語教育の現状を概観し、ベトナム人日本語学習者 が苦手だと指摘される発音上の問題点を取り上げ、音声教育を中心に、ベトナムに おける日本語教育に関するオンライン教育の重要性を考察する。キーワード
オンライン教育
MOOCs
ベトナムの日本語教育 音声教育1
.はじめにベトナムにおける第二外国語は、英語が圧倒的に人気だが、近年日越関係の緊密化及び 日系企業のベトナムへの進出の増加に伴い、日本語学習者が急増している。また、
2016
年の9
月に日本とベトナムの両政府の協力によって設立された日越大学の開学及び首都の ハノイで初等教育での日本語教育の開始により、今後ベトナム人日本語学習者が益々増え てくると見込まれる。一方、2008
年からベトナム教育訓練局の指令により、全国における オンライン教育の強化が進められている。2016
年には、ベトナム国内におけるオンライン 教育機関の数は、有償と無償の講座を合わせると、100
機関程度である。その100
機関の 中には、英語と大学・短期大学・専門学校・高校の卒業試験対策に関する講座が多く、オ ンライン日本語教育に関する講座は、非常に少ない。ところが、2016
年11
月にedX
(MIT
とハーバード大学が共同開発したグローバルMOOCs
のプラットフォーム)で早稲田大学 論文の種類(研究論文・展望論文・研究ノート)は入力してください。によって開発された
Japanese Pronunciation for Communication
(コミュニケーション のための日本語発音、以下JPC
)の講座が開講され、世界の日本語学習者はもちろん、多 くのベトナム人日本語学習者が関心を寄せた。特に登録者の中では、ベトナム人学習者が 上位だった。ベトナムにおけるオンライン日本語教育があまり普及していないにもかかわ らず、なぜJPC
に興味を持ち、登録したベトナム人学習者が多かったのであろうか。本稿 は、ベトナムにおけるオンライン教育、特にオンライン日本語教育の現状を報告し、ベト ナム人日本語学習者による音声教育上の問題点をまとめながら、音声教育をはじめベトナ ムにおけるオンライン日本語教育の重要性を考察する。2
.ベトナムにおけるオンライン教育の現状2.1 ベトナムにおけるオンライン教育の事情
オンライン教育の概念は、
90
年代からベトナムに導入され、当初は、学校向けのソフト 開発がメインだった。2001
年にハノイオープン大学は、FIHOU CYBER SCHOOL
とい うオンライン教育の学校を創立し、4
年後の2005
年には、登録者数が1000
人を超えた。その後、ハノイ国家大学、建設大学等の国立・公立の高等教育機関のみならず民間の教育 機関・企業もオンライン教育の開発を開始し、ベトナムにおけるオンライン教育は着実に 進んできた。ベトナムにおけるオンライン教育の普及は、以下のように簡潔にまとめられ る。
① 導入期(
2001
年-2005
年)オンライン教育の概念と世界のオンライン教育が導入され、ベトナムのオンライン 教育が開始された。
② 普及期(
2006
年-2010
年)オンライン教育がより多くの人に知られ、ビジネスとして興味を持つ企業が多く なってきた。そのため、オンライン教育の開発に向けて準備・整備のための様々な 活動をしていた。普及期においては、オンライン教育の開発に向けた学習内容や学 習教材の検討及び作成がメインであった。また、
eGame
やHocmai360
といったは じめてのオンライン教育の誕生により、ベトナムのオンライン教育が本格的に始 まった。特に普及期の2009
年-2010
年は、学習者のニーズを重視し、撮影の技術 や撮影後のビデオの処理等のオンライン教育の開発が少しずつ進んできた。③ 成長期(
2011
年-2015
年)2011
年-2012
年は、学習者の学習行為の分析を中心にオンライン教育が行われて いた。そして、学習用ゲームやスマートホン用アプリなどの開発が進んだ。これに よって、オンライン教育は、幅広く本格的に展開されてきた。2013
年-2014
年は、パソコン、タブレット、スマートホン等のオンライン教育が 多様化され、スマートホン用アプリも数多く開発されていた。特に、2013
年には、ViettelStudy
1というオンライン学習サイトが公開され、大きな注目を集めた。2015
年には、ベトナムにおけるオンライン教育の機関数が激増し、内容と専門性が より明確になってきた。さらに、オンライン教育を提供している機関は、オンライン教育の環境を充実させようとする機関が多くなってきた。したがって、
2015
年か らベトナムにおけるオンライン教育は、「質的」に進んでいる。④ 成熟期(
2016
年~)2016
年からベトナムにおけるオンライン教育が「量的」と「質的」の両側面から進 んでいる。オンライン教育を提供している機関は、量的に増加し、大規模のオンラ イン教育のプロジェクトも展開されていった2。ベトナムにおけるオンライン教育は、①国内大学・学校が提供する講座、②海外の教育 機関から取り入れた講座、③教育関係の企業が提供する講座といった
3
つの形式がある。① 国内大学・学校が提供する講座は、一般的に登録者がその教育機関の在学生である。
オンライン教育というものの、主に在学生向けの
PPT
と② 海外の教育機関から取り入れた講座は、海外の教育機関が持っている講座をベトナ ム語に訳したり、内容を多少調整したりして、ベトナム人学習者に提供するもので ある。
③ 教育関係の企業が提供する講座は、オンライン教育に特化した教育関係の企業が開 発・提供する講座である。
全体的にベトナムにおけるオンライン教育は、高校・短期大学・大学の学生向けの受験 対策の講座が多いため、利用者が安定的ではないという特徴がある。いわゆる、試験シー ズン(
4
月、5
月、6
月)は、ビジター数が激増するが、そのシーズンを過ぎると、3
割ぐ らい減少する傾向がある。また、外国語学習のオンライン教育といえば、ほとんど英語で、ほかの外国語のオンライン教育は、まだ少ない。
2.2 ベトナムにおけるローカルの大規模オープンオンライン講座(ベトナムMOOCs)の現状 ここ数年、大規模オープンオンライン講座(
MOOCs
:Massive Open Online Courses
) は、アメリカ、日本等多くの国で展開されている。ベトナムも2012
年よりMOOC
の概念 が導入され、その後、2013
年8
月にLiverpool
大学のGiap Van Duong
氏によりGIAPSCHOOL
というベトナムのはじめてのMOOC
が創立された。2014
年は、MYCLASS
というもう一つのMOOC
が誕生した。GIAPSCHOOL
の講座は、高等教育、中等教育、初等教育、英語、ビジネス、ソフトス キルといった6
つのカテゴリに分けられる。そのうち、高等教育の講座がメインで、ほか のカテゴリの講座はまだほとんど開発されていない。また、GIAPSCHOOL
は、ベトナム のローカルMOOCs
の無償の講座の他に、有償の対面講座も提供している。ホームページ には、計23
講座と書いているが、ホームページでカテゴリ別に調べると、17
講座の情報表
1
ベトナムにおけるMOOC
の情報名称 内容 登録者数 全コース 言語系関連コース 日本語教育関連コース
GIAPSCHOOL 総合 11,429 17 1 0
MYCLASS IT 15,600 53 0 0
しか掲載されていなかった。その
17
講座の中で、無償の講座が13
講座で、有償の対面講 座が4
講座である。GIAPSCHOOL
の講座の内容は、物理、生物、哲学、人類学等といっ た総合的な講座が多く、言語教育に関する講座は、一つあるが、有償の対面講座である。それは、
Giap Van Duong
氏による「ベトナム語の舌もつれの矯正法」の講座である。GIAPSCHOOL
の有償の対面講座の講師も、すべて創立者のGiap Van Duong
氏であり、ベトナム語で行われていた。一方、他の無償の講座は、主に英語とベトナム語で行われる。
無償の
13
講座のうち、英語による講座が9
講座で、ベトナム語による講座が4
講座であ る。一つの講義の平均時間は、5
分~15
分である。全講座の講師は、ベトナム国内で活躍 している講師ではなく、デンマーク、アメリカ等の海外の講師(外国人及び海外に住んで いるベトナム人の講師も含む)である。創立者のGiap Van Duong
氏もイギリスのLiverpool
大学で活躍し、ベトナムで科学、教育、哲学などの批評家として知られている 人物である。GIAPSCHOOL
は、創立者がベトナム人でベトナム人を対象に作られたベト ナムのローカルMOOCs
だが、7
割の講座は、外国人の講師により英語で行われる。それ に加え、選択式のテストがついている講座がいくつかあるが、ほとんどの講座は、受講者 とのインターアクションがない。また、GIAPSCHOOL
は、講座の数がまだ少ないため、あまり魅力と多様性が感じられないベトナムのローカル
MOOCs
だと思われる。もう一つのベトナムのローカル
MOOCs
であるMYCLASS
は、ウェブサイトのプログ ラミングなどの情報技術(IT
:Information Technology
)に関する講座である。MYCLASS
は、登録者数が15,600
人で無償の講座が25
講座である。人気の講座は、受講者が1
万人 近くになる。ベトナムのローカルMOOC
を開発する前に、MYCLASS
はIT
関係のオン ライン教育が提供しているサイトであるため、無償の講座の他に有償の講座が28
ある。一方、
2014
年には、MOOC.vn
というCoursera
、Khan Academy
、edX
等の世界中のMOOCs
の情報が紹介された。しかし、最初の頃は、一時的に投稿があったが、その後、何の活動もなかった。
現在、ベトナムでは、
GIAPSCHOOL
とMYCLASS
の二つのベトナムのローカルMOOCs
が存在しているが、この二つのベトナムのローカルMOOCs
とも、まだ講座数 が少なく、対象者が限られている。よって、ベトナムにおいてMOOC
という概念を知っ ている人も非常に少ないと思われる。ベトナムのローカルMOOCs
は、より注目を集め るために、学習者のモチベーションが向上するよう、講座の内容等様々な工夫が必要であ ろう。2.3 ベトナムにおけるオンライン日本語教育の状況
2.3.1
ベトナムにおける日本語教育の事情ベトナムの日本語教育は、
1950
年代から開始され、2017
年に初等教育から高等教育ま で日本語教育が実施されている。したがって、毎年日本語学習者が徐々に増加し、国際交 流基金の調査によると、2015
年には、64,863
人に達し、世界の日本語学習者が多い国の 中で8
位になっている。2015
年には、日本におけるベトナム人留学生数が38,882
人に達 している。国際交流基金のベトナム人日本語学習者数の調査は、ベトナム国内の学習者を 対象にしたものであるため、実際に日本留学中のベトナム人日本語学習者を入れて計算す図
1
ベトナムにおける1998
年~2015
年の日本語学習者数ると、ベトナム人日本語学習者数は
64,863
人を上回っていると思われる。一方、ベトナム政府は、「
2016
年-2026
年の国民教育における日本語学習者の強化」というプロジェクトを発足し、
2026
年には日本語教育を行う小学校が300
校、小学生の 日本語学習者が1
万人になることを期待している。また、ベトナムの教育訓練省の調査に よると、2016
年にはベトナム人の留学先の人気トップの中で日本が1
位になった3。それ に加え、2016
年から小学校での日本語教育の開始や日本語を必須科目として設置する日越 大学の設立等により、今後ベトナム人学習者も順調に増加していくだろう。2.3.2
ベトナムにおけるオンライン日本語教育の事情ベトナム人日本語学習者の増加に伴い、オンライン日本語教育を展開する機関が数多く なり、ベトナムにおけるオンライン日本語教育も多様化している。
2017
年には、ベトナム国内でオンライン日本語教育を提供している機関は、20
機関前 後で、そのうちほとんどはベトナムにある日本語学校が提供する講座である。それらの日 本語学校は、オンライン教育と対面の授業を両方持っている。日本語教育機関の規模によ りオンライン日本語教育のコースは様々だが、主に初級日本語と日本語能力試験(JLPT
) の受験対策N5
-N1
である。その他に日本語の会話、読解、ニュースの日本語、漢字など のコースを設置している日本語教育機関もある。また、オンライン日本語教育を展開する 日本語教育機関は、さくら日本語学校とドンズー日本語学校といった日本語教育の歴史が 長い機関ではなく、日本語教育の歴史が短い機関が開発していることが多い。10,106
18,029
29,982
44,272 46,762
64,863
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000
1998年 2003年 2006年 2009年 2012年 2015年 1998年~2015年のベトナム人日本語学習者数(人)
表
2
オンライン日本語教育を提供している代表的日本語教育機関1
DUNG MORI日本語センター
(オンラインと対面)
http://dungmori.com
① 一般日本語
② 技能別の日本語(語彙、会話、聴解、読解)
③ JLPTの受験対策(N5-N1)
2
AKIRA日本語センター
(オンラインと対面)
http://akira.edu.vn
① 一般日本語
② JLPTの受験対策(N5-N4)
③ 子供向けの日本語
④ 会話
3
EIKOH日本語センター
(オンラインと対面)
http://www.eikohvietnam.com.vn
① 一般日本語
② 会話
③ 日本語教師養成講座
④ JLPTの受験対策
⑤ 通訳・翻訳 4
Jellyfish educationセンター
(オンラインと対面)
http://jellyfish.edu.vn/
① 一般日本語
② JLPTの受験対策
5
SOFL日本語センター
(オンラインと対面)
http://trungtamnhatngu.edu.vn/
① 一般日本語
② 会話
③ JLPTの受験対策
6
日越学校
(オンラインと対面)
http://lophoctiengnhat.com/
① 一般日本語
② JLPTの受験対策
7
Cosmos日本語センター
(オンラインと対面)
http://hoctiengnhatcosmos.com/
① 一般日本語
② JLPTの受験対策
8
Top Globis日本語教育センター
(オンラインと対面)
http://www.topglobis.com/
一般日本語
9
一緒に日本語を勉強しよう
(オンラインのみ)
https://cunghoctiengnhat.com/
初級日本語
10
kyna.vn
(オンラインのみ)
https://kyna.vn/
① 一般日本語
② JLPTの受験対策
11 unica.vn ① 会話日本語
② JLPTの受験対策(N3)
12 Vietnamjapan.vn
① 入門
② JLPTの受験対策(N5-N2)
③ ニュースの日本語
13 dekiru.vn JLPTの受験対策
14 gotojapan.vn ① 入門
② みんなの日本語I 8課まで
15 Daytiengnhat.com ① 総合日本語N5-N1
② 漢字 16 dailyling.com
(オンラインのみ) 一般日本語
ベトナムにおけるオンライン日本語教育は、オンライン英語教育と比べ、まだ盛んになっ ていないが、今後日本語学習者の増加により、オンライン日本語教育もより盛んになって いくだろう。
3.
「世界の日本語音声教育」ベトナム語編近年、ベトナム人日本語学習者の増加とともに、発音上の問題が指摘されることが多く なっている。「ザ行・ヤ行・ジャ行」の混同、「ツ」等のような単音のみならず、「拍」、「ア クセント」等のような韻律に関する問題もしばしば指摘される。以下に、特に顕著に現れ るベトナム人日本語学習者の発音上の問題点をまとめる。このように発音上の問題が顕著 であるため、早稲田大学により開発された
JPC
には、ベトナム人日本語学習者が大変興味 を持ち、日本語の発音をもっと練習したいと思う。3.1 ベトナム人学習者の発音上の問題点
ベトナム人の日本語学習の問題の中で発音の問題がしばしば指摘されている。特に松田
(
2016
)は日本語上級レベルの中国語、タイ語、韓国語、ベトナム語の母語話者の中でベ トナム人の学習者の発音は自然さも印象も最下位であると述べている。3.1.1
単音の問題ベトナム人学習者の発音の最も大きな問題点として、日本語にベトナム語にない子音が ある場合、ベトナム語にある子音で置き換えることが挙げられる(戸田・大久保
2016
)。 以下の単音の発音についてよく指摘されている。① 「ツ」
「ツ」の発音がよく「チュ」になって、聞き手に悪い印象を与える(重川・中村
2005
)。② 「ザ行・ヤ行・ジャ行」
ベトナム語には「ザ行」、「ジャ行」に近い音がある。「ヤ行」の場合、「
yêu
」とい うやや近い音はあるが、「や」と「よ」の発音が存在しない。そこで、ベトナム人 にとって、母語で一番近いと感じられる[d]
4で置き換える傾向がある。しかし、ベトナム語の
[d]
の発音は、従来の歯茎破裂音より緩い発音であるため、日本語母語 話者には、緩い[z]
に聞こえてしまう。これが、「山」が「ざま」、「夜」が「ぞる」のように発音される原因である。さらに、ベトナム語にある日本語の「ザ」、「ヤ」
「ジャ」と似ている音を母語でも弁別せずに発音する地域がある。よって、「ザ行・
ヤ行・ジャ行」の混同が顕著である(重川・中村
2005
、ファム2006
)。③ 「ラ行」
ベトナム人学習者にとって、日本語の「ラ行音」の発音が難しく、ラ行とダ行の混 同やラ行とナ行の混同が起きていると言われている(杉本
2003
、2005
、2007
)。 日本語の「ラ行音」は、ベトナム語にはないため、ベトナム語で近い子音、[l],[n],[d]
に置き換えられることがある。例えば、「衣(ころも)」は、「こども」と「このも」
になる場合がある。
[l]
で置き換えられた場合は、あまり問題にはならないが、[n]
で置き換えられた場合は、「ラ行音」が「ナ行音」になってしまう。また、
[d]
で置 き換えられた場合は、日本人には「ダ行音」や「ザ行音」に聞こえてしまう。その ため、ベトナム人が発音した「ラ行音」が、日本人には異なった音に聞こえてしま うという問題が生じる。その他に、「ダ行」と「ラ行」の混同や「バ行」と「パ行」の混同等、ベトナム人学習者 には様々な発音の問題が存在している。
3.1.2
韻律の問題韻律は、分かりやすさ・聞き取りやすさに大きな役割を果たしているが、ベトナム人学 習者は、下記のように日本語の韻律の問題についてよく指摘されている。
① 拍の感覚がつかめない。
ベトナム人学習者は、「拍」の感覚がよく分からないため、発音の際に長音や促音 等がきれいに発音できない(重川・中村
2005
)。② アクセントが正しく発音できない。
ベトナム語は声調言語であり、声調は
6
つもある。それに対して、日本語のアク セントは高低アクセントで基本的に2
段階である。ベトナム人学習者は、母語が 声調言語ではあるが、声の高さに意識は向けていないことが多い。そのため、アク セントの誤用も多い。③ イントネーションに関して、ベトナム人学習者は、 「単語の
3
拍目を伸ばす」 、「文全体を平坦に」、「平叙文でも文末が上がる」等というように発音する傾向があ る(重川・中村
2005
)。上記のようにベトナム人日本語学習者の発音の問題をまとめた。これらは、母語や母方 言の影響による「負の転移」だと思われる。ベトナムは、南北に長細い国であり、方言が たくさんあるため、日本語における発音上の問題も様々で個人差が大きい。
ベトナム人日本語学習者は、日本語のみならず母語でも様々な発音の問題を抱えている。
しかし、ベトナムの日本語教育の現場は、世界の日本語教育の場と同様に、音声教育にか ける時間がほとんどない。その上、実践的・体系的な日本語発音指導ができる教師があま りいない。よって、多くの学習者は、日本語の発音を勉強するチャンスが与えられていな い。このため、早稲田大学が開発した
JPC
が公開されたとき、ベトナム人学習者の関心表
3
ベトナムの北部と南部の発音の違い項目 北部 南部
声調 6 5
語末子音
正しくはっきり発音する。
例:Man # Mang Tắc # Tắt Bìn # Bình
弁別しないことが多い 例:Man = Mang
Tắc = Tắt Bìn = Bình
語頭子音 弁別しないことが多い。(tr/ch, s/x) 例 Trà = Chà
Sau = Xau
正しくはっきり発音する。(tr/ch, s/x)
例 Trà # Chà Sau # Xau
[h] 正しくはっきり発音する。
[h]を[w]のように発音するときがあ る。
Hoa →Woa
[r]
[r]を[z]のように発音する。
例:ra → za
※[r]と[z]を弁別しない。
正しくはっきり発音する。
[v] 正しくはっきり発音する。 [z]のように発音するときがある。
[l]と[n]の混同
ある 例: Hà Nội → Hà Lội Lặng lẽ → Nặng Nẽ
ない
[r]と[g]の
混同 ない
ある 例:rô →gô
※メコンデルタ地方のみ
を引き、多くの人がすぐ講座に登録したと思われる。この講座をきっかけに日本語の発音 に興味を持ち、講座終了後も発音の練習を続けるベトナム人日本語学習者が増えてくるだ ろう。
3.2 ベトナム人日本語学習者への指導法・学習法
ベトナム人日本語学習者の発音指導に関して、出身地、母方言等ベトナム人学習者の背 景に合わせ、様々な指導法と学習法が考えられる。本稿は、参考のため、「ヤ行」、「ラ行」
とアクセントの練習方法を紹介する。
①ヤ行
まず、最初に学習者に、ベトナム語にある[
yêu
]の発音をして、「ゆ」のイメージを 伝える。例:ゆき→ゆうめい→ゆうがた→ゆうびんきょく
その後、ベトナム語にない[
ya
][yo
]を発音し、ヤ行の練習を行う。例:やま→やさい→やすみ→よる→ようふく
②ラ行
「ラ行音」をベトナム語で近い子音に置き換えるのではなく、新しい音として「ラ行音」
を覚え、発音できるよう練習する。
③アクセント
アクセントを正しく発音するために、まず高低の感覚になれてもらうのが大事である。
指導の際に「高」をベトナム語の「平板型」に、「低」を「下がる声調」に置き換えて説 明すると、ベトナム人学習者には分かりやすいと思われる。もちろん高低の感覚を分かっ てもらったら、すぐにアクセントを正しく発音できるとは言えない。しかし、練習を重 ねると、そのうちにアクセントの高低の感覚になれてきて、だんだん自然になると思わ れる。
4
.まとめと今後の課題以上、ベトナムにおけるオンライン教育、特にオンライン日本語教育及びベトナム人学 習者の日本語発音の問題をまとめた。ベトナムは、若い人口が総人口の半数以上占めてい る。さらに、
2017
年3
月31
日時点にインターネットの利用者数は、95,414,640
で世界の インターネットの普及率が高いトップ20
の中で17
位である5。若い人口、そしてインター ネットの普及率は、オンライン教育の発展に繋がるため、今後ベトナムのオンライン教育 が益々発展していくだろう。一方、日本語学習者の増加に伴い、オンライン日本語教育の 開発が重要になってくると思われる。世界中でオンライン日本語教育が発展しているが、ベトナム人学習者向けのコースは、ほとんどないようである。特に、日本語教育の現場で は、なかなか学習機会がない音声教育に関するコースである。だからこそ、早稲田大学の
JPC
の講座は、ベトナム人学習者に大きなモチベーションを与えた。将来的にも同様の コースの開発が望ましいと思われる。注
1 http://viettelstudy.vn/index.html(2017年8月31日閲覧)
小学校から大学までのコースがあり、特に中学校、高校の卒業試験、大学受験の対策の講座が多 い。成人向けと子供向けの英語コースもある。
2 FPT会社のオンライン大学(FUNix)やKyna.vnのオンライン教育開発プロジェクト等である。
3 https://vnexpress.net/infographics/giao-duc/du-hoc-sinh-viet-nam-dang-hoc-tap-tai-nhung- nuoc-nao-z3493240.html(2017年9月9日閲覧)
4 ベトナム語には、「d」と「đ」という文字がある。「d」は、日本の「ザ」とは違う音である。「đ」 は、日本語の「ダ」に近い音である。
5 http://www.internetworldstats.com/top20.htm(2017年8月31日閲覧)
参考文献
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国際交流基金(1993 年~2015 年)「海外日本語教育機関調査の結果概要」https://www.jpf.go.jp/j/
project/japanese/survey/result/(2017 年 08 月 15 日閲覧)
杉本妙子(2003)「ベトナム語圏日本語学習者の発音に関わる誤用についてI―誤用の実態を中心に―」
『茨城大学人文学部紀要コミュニケーション学科論集』14号、pp. 19-45
杉本妙子(2005)「ベトナム語圏日本語学習者の発音に関わる誤用についてII―音声聞き取り調査と 発音調査における長音化・短音化の誤用の比較と考察―」茨城大学人文学部紀要『コミュニケー ション学科論集』17号、pp. 73-93
杉本妙子(2007)「ベトナム語圏日本語学習者の発音に関わる誤用についてIII―促音と撥音における 誤用の比較と考察―」『コミュニケーション学科論集』2号、pp. 149-164
戸田貴子(2004)『コミュニケーションのための日本語発音レッスン』スリーエーネットワーク 戸田貴子(2016)「MOOCs(Massive Open Online Courses)による日本語発音講座―発音の意識化
を促す工夫と試み」『早稲田日本語教育学』21号、pp. 87-91
戸田貴子・大久保雅子(2016)「ベトナムにおける日本語発音指導―ベトナム方言を考慮して―」2016 年日本語教育国際研究大会(Bali ICJLE2016)
中村則子(2013)「非母語話者教師と母語話者教師の発音指導―ベトナムにおけるアンケート調査の 結果から―」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』39、pp. 113-124
ファム・トゥー・フォン(2006)「ベトナム語母語話者による日本語のザ行音・ジャ行音・ヤ行音の 聞き分け」『日本言語文化研究会論集』第2号、pp. 83-108
松田真希子(2016)「ベトナム語母語話者のための日本語教育:ベトナム人の日本語学習における困 難点改善のための提案」春風社
(さい てぃ まい 早稲田大学大学院日本語教育研究科・博士後期課程)