赤門マネジメント・レビュー 2 巻 11 号 (2003 年 11 月)
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〔研 究 会 報 告〕コンピュータ産業研究会 2003 年 10 月 16 日1
Beyond On Line Game,
Beyond Game-item Trading
魏 晶玄 中央大学(韓国)経営学科 GBRC 韓国企業&経営研究所 E-mail: [email protected] 1. はじめに 日本では現在オンラインゲーム(以下 OLG)産業はちょうどテイクオフ(離陸)のとき を迎えている。一方、韓国のOLG 産業は世界に先駆けて発展しており、すでにグローバル 展開を進めている 。さらに、近年ではオンラインゲーム上の使用物である「アイテム」の 取引が活発化し、現在では現金での取引が行われている。そして、アイテム取引の仲介業者 も現れ、大きなビジネスとなっている。 しかしながらアイテム取引仲介業者はゲームメーカーから歓迎されていない。ゲームメー カーはアイテム仲介業者が自社の財産を利用して取引していると主張しており、またオンラ イン上に仮想に存在するアイテムというものに対する法律上の(特に財物の要件や所有権に 関する)問題や、詐欺、騙しとりなど、サイバー犯罪の発生のような社会問題も起こってい る。そのため、必ずしもアイテム取引市場をめぐる情勢は一概に良いものとは言えない。こ のような韓国の OLG 及びアイテム取引市場の、現在、そして今後の発展可能性について議 論してゆく。
2. Beyond On Line Game
OLG は今まで、主に遊びの道具(tool)として捉えられていた。遊びの道具としての OLG の楽しみには二つの側面がある。ひとつは、今までの日本のスタンドアローンのビデオゲー ムと同様に、モンスターを倒す、レベルを上げる、アイテムを手に入れるなどの楽しみ(ゲ ーム性と言う)である。もうひとつは、ゲーマー同士でコミュニケーションを楽しむことで 1 本稿は 2003 年 10 月 16 日開催のコンピュータ産業研究会での報告を中川功一が記録し、本稿掲載 のために報告者の加筆訂正を経て、GBRC 編集部が整理したものである。文責は GBRC に、著作権 は報告者にある。内容の引用または複製には著作権者の許可を必要とする。
ある(これはコミュニティ性と言う)。このような二つの側面を持っていたOLG が、韓国で は近年、サイバー上の経済活動の場へと進化しつつある。 これは必然的な流れであると言える。OLG 上でアイテムはゲームを進めるため、さらに 他者への顕示欲求(後者の方が理由として大きいとされる)のためにユーザーから求められ、 取引の対象となったのである。取引に使用される貨幣は、はじめはサイバーマネー2であり、 取引は個人間で行われていた。だが今や、現金が取引に利用され、2、3 年前からは仲介業 者が現れるようになったのである。これはマルクス3が描き出した私有財産と貨幣経済の成 立とまるで同じである。剰余物が生まれ、モノとモノの物々交換が起こり、しだいに貨幣を 媒介とした貨幣経済へと発展しつつあるのである。 3. OLG とそのユーザーの現状、多様なコミュニティの存在 ここで、OLG をいくつか紹介して、現在のユーザーのコミュニティなどの状況を眺めて みよう。韓国のJC Entertainment という企業の「Joycity」は女性に人気があるライフスタイ ル型のゲームで、戦闘のない仮想空間での生活を楽しむゲームである。このゲームでは、多 くのユーザーがアイテムの交換を目的として集まる「市場」がゲーム内に存在し、アイテム の取引が行われている。 また、戦闘のあるゲーム(MMORPG)の「Lineage」の世界では、ギルド(血盟)という チームを作り、城を巡ってギルド間で攻城戦が行われる。城を所有していることは大変な名 誉であり、城には値段すらつけられないくらいの価値があると考えられている。城を獲得す るため血盟のメンバーが実際に2000 万ウォン(約 200 万円)くらいのお金をかけてアイテ ムを買い、「武装」して戦ったこともある。また、PC 房を所有しているリーダーは、PC 房 内で血盟を作っているが、城の獲得のため200 万円でキャラクターを買ったこともある。 OLG に対する認識は日本と韓国で大きな違いがあるが、韓国内でも世代間で大きく OLG の受け止め方には違いがある。私が教えている韓国の大学で、学生にMMORPG をしている かと質問したところ、一割もいなかった(ボードゲームは約3 割)。したがって、アイテム 取引に対してもだいぶ認識の差がある。韓国の大学生であれば、アバターやチャットは無料 のものであればほとんどの人は使用したことがあるが、アバターやゲームアイテムのような デジタル財を有料で取引したことがある人は10%程度である。ところが 10 代半ばともなる と 50%以上の人が取引をしたことがあるそうである。さらに、10 代の前半になると、ほと んどの人が有料の取引を使用している。一方で、40 代以上の人にはそもそもデジタル財の 2 インターネット上だけで通用する、無形のデジタル資産としての貨幣。 3 マルクス 著, エンゲルス 編 (1969-1970)『資本論』向坂逸郎 訳. 岩波書店。
取引などをする動機が全くわからない。 最近有料化が始まった「Lineage 2」では、血盟以外にかなりの数のコミュニティが存在し ていることが判っている。本来のキャラクターのレベルアップなどを省みずに、ひたすらに 共通の話題などでチャットをし続けたり、ゲーム内の丘でのんびり休むばかりのグループも いた。(タレントなどの)ファンクラブや、既婚者の会(未婚者は入会禁止)、親戚会、同年 輩会まで存在している。こうしたユーザーは、戦闘やレベルアップなどの目的でプレイして いるわけではなく、ユーザー間の軽いコミュニケーションを求めてゲーム世界に参加してい るのである。 4. アイテム取引市場 2003 年の韓国ゲームアイテム取引市場は約 500 億円規模(取引総額)である。市場の立 ち上りから、たったの3 年でここまで発達したのである。(また別の推計によればすでに1000 億円規模と見られていた。)このうち、アイテム仲介業者を介した取引総額が 300 億円(最 大手Itembay のデータより推計)、ユーザー間の直接取引が 200 億円と見られる。 2004 年は市場規模 800 億円、アイテム仲介業者売り上げが 500 億円、ユーザー直接取引 が約 300 億円と予測されている。アイテム取引市場の巨大さを理解するために、OLG 産業 とアイテム仲介業の売上高を比較してみよう。OLG 産業は 2003 年予測市場規模 600 億円、 2004 年で 740 億円である。これに匹敵し、凌駕する勢いでアイテム取引市場は発展してい る。韓国最大手のアイテム取引仲介業者Itembay の売上目標は 2003 年 190 億円、2004 年 350 億円である。この数値はOLG の韓国最大手 NCSoft の 2003 年売上予測 160 億円を超えるほ どの数値である。ちなみに、アイテム仲介業者の利益率は 5%程度である。利益率は決して 高くないが、取引量を増やして利益額を増大するビジネスだと言える。そのため、10 社を 超えるアイテム仲介業者の中の多数が淘汰される可能性がある。 アイテム仲介業者はユーザー間のアイテム取引の仲介をし、マーケットを形成する役目と 取引履行の保証を与える代わりに、仲介料として取引額の数%の取引手数料をとるビジネス である。最大手のItembay に取引は集中しており、仲介業者の取引総額の 50%以上が Itembay を介した取引となっている。 ここでItembay のサイトの様子を紹介しておこう。ここでは売り手と買い手がアイテム(及 びそのゲーム名)と希望取引金額を提示する。そして、売り手と買い手の条件が一致すれば 取引成立となる。アイテムの授受は該当のゲーム内で行われ、双方からItembay に取引完了 を報告すると、現金と兌換可能なサイバーマネーか、現金が銀行振り込みで移動する。その
ビスを開始したことによって、取引額が2 割増しになったという。つまり、新しい OLG が 出るたびにアイテム取引量が増えるわけであるが、また同時に以前のゲームのアイテム価格 は下落する可能性がある。アイテム需要と供給の関係で価格の決まる、ごく素直な自由競争 市場となっている。 ユーザー間直接取引は現在、サイバー犯罪の可能性を広げている。アイテムを受け取った のに入金しなかったり、その逆であったりという、いわゆる詐欺行為がここで行われる犯罪 の主たるものである。しかしアイテムというデジタル財に対しては、まだ個人の財物とは刑 法上は認められておらず、アイテムには所有権が認められていない。つまりこうした詐欺行 為が犯罪行為として成立するかに対しては議論がある。このように、法整備は整っていない のに、取引市場はすでに発展してしまったのである。 ちなみに米国でも、まだ初歩的な状況ではあるものの、アイテム取引は出現をはじめてい る。米国でも、MMORPG については、アイテム取引が登場しているものもある。代表的な のが、「ウルティマオンライン」の家といった不動産のネットオークションである。ただ、 メーカー側がアイテム取引については否定的であるために、それほど一般化するまでには至 図1 Itembay の取引サイト ゲーム名 アイテム名 価格 登録日付
っていない。また、アバター取引については、PC ゲームについては、ゲームの開発ツール を公開して、ユーザーが自由にアバターデータを作成して交換させる MOD カルチャー (Modify から略)が一般的であるため、無料とする考え方が強い。一部のユーザーサイト は、ダウンロードサービスを月額課金(5 ドル程度)の有料で行っていて人気を得ているサ イトも存在しており、アバター市場は成り立ちつつあると考えられるものの、韓国と比較す るとかなり規模は小さい。アイテム取引に対しての需要は存在しているため、日米でも今後 発展する可能性は高いが、それぞれの国のゲームの社会的な受容のあり方や文化的歴史的な 背景に依存すると考えられるため、それぞれの国特有の成り立ち方をしてくるのではないか と考えられる。こうしたことを考えても、アイテム取引市場の発生は韓国だけのこととは言 えないであろう。ゲームユーザーのニーズ(あるいは、人間そのもののニーズ)は万国共通 で、日米でも今後発展するのではないかと考えられる。 ただし日本の現状はまだまだこれからである。現在、日本ではヤフーオークションでゲー ムアイテムが出品されており、ユーザー間で取引が始まっている。しかし、まだサイバーマ ネーでの取引が中心で、ゲームアイテムの取引は活性化していない状況である。今後 OLG 市場が離陸期に入ると、アイテム取引市場は急速に拡大するであろう。日本のゲームメーカ ーもアイテム取引市場の今後の可能性に注目を始めている。 5. 今後の展望:サイバー経済の発展とその影響 仲介業者最大手Itembay は、今はまだゲームアイテム売買が中心であるが、将来的にはあ らゆるデジタル財の取引可能性を考えている。つまり、アイテムはもちろん、画像、動画、 設計情報や知識、その他あらゆるデジタル化可能な財と知識が、今後サイバーエコノミーで 取引されるようになると考えているのである。 韓国ではすでにアイテムに限らず、知識の取引有料化も進んでいる。また、アイテム仲介 業者はユーザーのマイレージを管理していて、まるで金融業のようなサイバーマネー取扱業 務を行っている。アイテム取引によって得られたマイレージを蓄積し、これをほかのサイバ ーマネーに交換できる、などのサービスも開始した。そしてユーザーもサイバーマネーの扱 いを銀行預金口座のように利用して、あたかもサイバーマネーの金融システムが存在してい るような様相を呈している。人と取引が集中するところに現金のプールができ、金融業が発 生するというロジックが考えられるであろう。日本において、セブンイレブンなどのコンビ ニが公共料金の取り扱いから銀行業務へ進出したことがこのロジックで説明でき、韓国での アイテム仲介業のサイバー銀行のような機能も同様に説明されるであろう。将来にはアイテ ムの先物市場すら発生するかもしれない。
アイテム(デジタル財)取引市場の発展は、多様なコンテンツプロバイダーの成長を促進 させる可能性がある。例えば、アイテムデザイン企業が発展する可能性が高い。実際、韓国 ではルイ・ヴィトンや、バービー(人形)のブランドのアイテムが出現した。いまはまだ社 内のデザイナーがデザインしているところも多いが、近年は専門のデザイン会社に外注して いる会社も多い。もちろん、アイテム取引の増加やサイバーエコノミーの台頭は、ゲームメ ーカーにも恩恵が大きいと思われる。 また、今後サイバーエコノミー中のアイテム取引は現実の財貨との交換を可能にしてゆく 可能性が高い。例えば、アイテム取引を通じて蓄積されたマイレージを他の財貨と交換する ことなどが考えられる。韓国では実際、かなり進んできており、飛行機やガソリンスタンド でマイレージが使用できる。ただし、まだ飛行機専用、ガソリン専用などそれぞれのマイレ ージ間には互換性がなく、一般的にあらゆる財と交換可能な「サイバー通貨」とはなってい ない。現状ではある一部の取引で使える「地域通貨」のレベルであろう。しかし、韓国では すでにこれらサイバーマネー間の互換性を作っていこうという動きも起こっている。 ゲームメーカーはまだアイテム取引仲介業に参入していない。ただ一社、「巨商」という ゲームのメーカーだけは参入しているが、軒並みゲームメーカーはアイテム取引仲介業への 参入に足踏みしている。これは、アイテムが欲しくて売春してしまったある少女の事件など 図2 デジタル財取引のモデル
Digital goods
- game items - design - image - motion-picture - knowledgeBuyers
(personal,
company)
content provider, game development &various design company)
Financing system
(Banking system, Futures
market)
Identification
and Security
Real goods market (airline, gasoline stand
がきっかけで、倫理問題としてゲームメーカー側に社会的圧力がかかっていること、さらに、 アイテム取引業者を相手取り、ビジネスの権利をめぐって裁判を起したりしているなどのア イテム仲介業との対立などが原因である。本音としては、ゲームメーカーも参入したいのか もしれない。新たな、そして重要な収入源として、ゲームメーカーはアイテム取引へ何らか の形で参入すべきであろう。 6. サイバー経済発展の課題 サイバーエコノミー発展にはまだまだ解決すべき問題も多い。例えば、サイバーマネーは 小額では無償で提供されることも多い(オンラインのカジノなど。トライアルを促進させる ために小額のサイバーマネーを提供し、ギャンブルに参加させる)。これを利用して、組織 的にサイバーマネーを集める者も現れている。アルバイトを集めて、カジノにユーザー登録 をさせてサイバーマネーを手に入れ、それを集めることでかなり高額のサイバーマネーをほ とんど無償で獲得するという方法である。 また、ハッキングの問題もある。OLG 内でのアイテム数量制限によってアイテム市場が 成立しているという側面があるだけに、ハッキングはアイテム取引市場の構造を破壊してし まう恐れがある。今後、あらゆるデジタル財に市場が拡張するためには、こうしたハッキン グの問題や知的所有権、セキュリティの問題など、技術的、制度的インフラが整う必要があ る。 7. まとめ OLG はすでにただのゲームではなくなっており、仮想空間上のコミュニティや生活、サ イバーエコノミー活動の場となってきている。同様に、アイテム取引も、ただのアイテムだ けの取引というものではなくなっている。これはゲームアイテムにとどまらない、無形デジ タル財の取引市場と捉えるべきであり、今後はそのような方向へ発展していくだろう。