―――神楽坂で働いてどれくらいですか? ○ここのスーパー 「 KIMURA YA」 で働き始めて 4 年目だね。 ●俺は 5 年目。俺、最近就職したんだ。今まで で一番長いアルバイトだよ、俺。 ――― 2 人が出会ったのは? ○青木さんはバイトで先に 1 年以上いて、それ で俺が社員として入ってきたんだ。でも俺、最 初青木さんを社員だと思っててさ。風格だけは あったから。 ●上から「新人に喋りかけるな」って言われて たんだ。悪いイメージを与えるからって(笑) 。 ○ハハハ ・・・ 酷いだろ(笑) 。 ―――その時の印象を覚えてますか? ○覚えてるよ。 最初はすれ違ってまぁ挨拶して、 それだけだったんだよな。その後で休憩室で話 したんだけど、そこでお互い新潟出身だって分 かってさ。でも青木さんが意外と話に食いつい てこない。なんかおかしいな?と思ったら、喋 りかけるなって言われてたらしくて。最初は部 門 が 違 か っ た ん だ。 俺 は 夜 番 で 青 木 さ ん は 昼。 だ か ら な か な か 話 す 機 会 が な か っ た ん だ け ど、 一ヵ月後同じ部署になった。それで否応なく話 すよね。そこで初めて、仲間として迎えいれら れたって感じかな。 ●よくそんなこと詳しく覚えてんなぁ。まぁ一 緒 に 仕 事 し て り ゃ あ リ ミ ッ タ ー 解 除 は 速 い わ な。その頃、田中が彼女と別れる別れないの話 で盛りがったのは覚えてるよ(笑) 。 地元神楽人が、決まって日用品の買い物をする場所がある。 神楽坂のメインストリートに面する 地元密着型スーパー「キムラヤ」だ。 「いらっしゃいませー!」 路地裏にまで響くような、店員たちの若々しい声。 ここは若者が働く場でもある。 若者は街の賑わいをつくる。 買い物客で溢れる神楽坂の一角に、また新しい賑わいが生まれた。
スーパー店長×元ボクサー
~神楽坂で働く若者たち~
「KIMURAYA」
田中史朗さん 青木智志さん
文 栗田一希
二人は、新生神楽人。
〇 田中史朗さん ● 青木智志さん●青木智志(あおき さとし) 昭和 54 年生まれ、新潟県魚沼市出身。 県内の建築系専門学校を卒業後、上京。 プロボクサーとして活動したのち、 現在は KIMURAYA 本店で社員として勤務中。 ○田中史朗(たなか しろう) 昭和 54 年生まれ、新潟県新潟市出身。 県内の高校を一度中退するも、大学に進学。 それを機に上京し、卒業後に KIMURAYA へ入社。 現在は KIMURAYA 北町店の店長として勤務中。 ―――どういう経緯でキムラヤ で働くことになったんですか? ●俺は新潟で生まれて、 21の頃 か な? 東 京 に 来 た わ け だ け ど、 それまで 1 回も新潟から出たこ とがなくて。小、中、高、専門 学校が全部地元だから、じゃあ 都会に出るかって感じかな。で も東京に出て来ても泊まる場所 も決めてなかったから、行きの 新幹線の中で友達に電話したん だ。最初阿佐ヶ谷の友達に電話 して断られて、 2 人目に西葛西 の 友 達 に 電 話 し て。 じ ゃ あ 泊 まっていいよみたいな?だから 西葛西でスタートしたわけです よ、俺の東京生活は。でもその 友達から 1 ヶ月くらい経った後 に、彼女が来るから出てけって 突然言われてさ。 ―――酷いですね(笑) 。 ● だ ろ? 俺 家 な い じ ゃ ん と か 思って。で、その時のアルバイ ト先の友達に「家がなくなるん だけど行っていい?」って相談 したら、いいよって言ってくれ てさ。でも実はこの頃からボク シングのジムに通い始めたんだ けど、それが飯田橋にあったん だ。するとさ、やっぱり面倒臭 いじゃん、帰るの。だから場所 が近い、神楽坂の薬局屋にアル バイトを変えたんだ。薬局やっ て、その次が東京ドームなんだ けど。その時さぁ、コンクリー トは冷てぇなって思って。挨拶 も 返 し て く れ な い し( 笑 )。 結 局東京ドームを辞めて、次のア ルバイトを探してた時にキムラ ヤの説明会があったんだ。それ でここにしようって。 ―――神楽坂で働いてみてどう でした? ●俺結構好きだよ!神楽坂はす げぇ好き。西葛西とかヤンキー 多いけど、神楽坂はいいとこ。 ―――どのあたりが? ● い や、 す っ げ ー な ん か こ う、 言えないよな。感じ?雰囲気? ○高級住宅地じゃないけどそれ なりに家もあるし。コンビニの 前に座ってるヤンキーとかもい ないじゃん?親しみやすいとい うか。いや、 いい町だと思うよ。 あとは、働いててお客さんに顔 とかも覚えてもらえるかな。町 ですれ違えば挨拶するし。 ●客と距離が近いよな。都会の 割に人が優しいっつーかさ。 ―――働いていて楽しい時は? ● 商 品 を お 客 さ ん に 声 か け て るのとかかな。 最初は見たことも ない商品が多くて驚いたし。 輸入 菓 子 と か 新 潟 じ ゃ あ ま り 見 か ないわけよ。で、 お客さんも「す げぇ!」 みたいな反応でさ。青空 市とかの大きなイベントだと、 先で声をかけながら売るんだ。 品の知識を言ったりだとか、 味見 し て も ら っ た り だ と か い ろ い 考えて。 自分が推した商品が売れ るのってすっげー楽しいし、 逆に 売 れ な い と め ち ゃ め ち ゃ 寂 し (笑) 。 ○ 俺 の 場 合 は 些 細 な こ と な ん けど、 一昔前まではもっと若手が いっぱいいたんだ。 キムラヤの飲 み 会 と か が 結 構 あ る か ら 横 の ながりがすごくてさ。 若い奴らが 多 か っ た 頃 は み ん な す ご い 仲 くて、 男子校みたいな雰囲気だっ たんだ。第二、 第三の青春みたい な。 遊 び に 行 っ た り も そ う だ し、 仕事でも割と自由で。 そんな毎日 が楽しかったねー。 ●仲良かったよな。 まぁ大学みた いなもんだよ、延長線上。 ―――田中さんは? ○俺そんな、全然普通だよ。青 木さんと一緒で俺も出身は新潟 だけど、大学進学を機に上京し て さ。 で も 別 に 神 楽 坂 に こ だ わったわけじゃなくて、合同説 明会に行った時にたまたまキム ラヤの話を聞いたんだ。うちの 親 父 も ス ー パ ー の 店 長 だ か ら、 興味もあって。でまぁ他の所も 落ちたりしたし、じゃあここで 働こうって。
―――では逆に、大変だったこ とは? ●ない! ○言い切りますね。 ●だってねぇもん。まぁ人間関 係が時々煩わしいくらいか? ○ 俺は年末とかかなぁ。かきい れ時だからすごい忙しいし、最 初はビックリした。よく怒られ たりもしたよ。 ―――休の日はなにをしてるん ですか? ● 俺 は 買 い 物 だ な。 買 い 物 と、 ラーメン? ―――どこへ行くんですか? ● 原 宿! ラ ー メ ン は あ ち こ ち。 今日もラーメン食って来たくら いだよ。 ○ 俺もラーメンとか食いに行く けど、並んだりするのが面倒だ な ぁ。 金 が あ る と き は 買 い 物。 場所は近いからもっぱら池袋だ ね。あとはカフェ巡り。でもだ いたい寝てるかな。 ―――神楽坂に関係のないとこ ろばっかりですね。 ○ 休みの日には基本、神楽坂に は来ないね。 ●だって何もないじゃん。昼間 遊ぶようなとことか。 ○ 夜だったら飯食いに行くぐら いはあるけどね、この辺で。 ● こ の 辺 で っ て 言 っ て も、 決 まってるけどな。 ○ い つ も の 2 、3 件 く ら い だ よ ね(笑) 。 ●焼肉、もつ、焼肉、もつ、焼 肉、飲み屋、のローテーション みたいな (笑) 。週 5 日は肉食っ てたよな。 ―――神楽坂では遊ばないんで すか? ●なかなかないよな、実際。 ○ 今 の 大 学 生 が 何 し て 遊 ぶ か 全 然 分 か ら な い け ど、 ま ず 1 人 で 遊 ば な い じ ゃ ん? 学 校 終 わった後、神楽坂に遊びに行こ う ぜ ー っ て 流 れ に は な ら な い でしょ?飲みに行こうぜって感 じで神楽坂に来るぐらいじゃな い? ●だからって 2 人で遊ぶっつっ ても、例えばボーリングでもこ こら辺にはないからさ。高田馬 場まで行かないと。 ○ 個 人 的 に 料 亭 に は ち ょ っ と 行ってみたいけどね。せっかく 神楽坂で働いてるわけだし。
新生神楽人と「神楽坂」
―――牛込店の店長さんなんで すよね? ○といっても名目上だよ(笑) 。 まだ店長になって 3 , 4 ヶ月く らいだし。 ―――店長として努力している ことは? ○俺ね、誰かに何かを教わった と か、 そ う い う 経 験 が な い ん だ。最初は本店に勤務してたけ ど す ぐ に 牛 込 店 に 行 っ ち ゃ た し。まぁ野放しだよね。何が正 し い の か よ く わ か ら な い ま ま、 自己流だけど、いろいろ試し試 しやってるよ。専門的な知識を 勉強して、実現してみたりね。 ―――店長として指導などもさ れるんですよね? ○さっきも言ったけど、最初の 頃 は よ く 上 司 に 怒 ら れ て た ん だ。お客さんの立場に立って仕 事をしないといけないとか、上 司に気が利く部下にならないと いけないとかね。今は指導する 立場だからそれを伝えなきゃい けないわけだけど、まぁ直接言 うよりもうまく持ってくように してるよね。相手の性格をみた りしてさ。 ―――店長の立場から見る牛込 店の魅力とは? ○本店よりも売り上げは低いけ ど、より身近だよね。もともと 神楽坂は若い人よりもお年寄り が多いわけだけど、みんな喋り かけてきてくれる。そういう人 たちとコミュニケーションを取 る こ と が 大 切 な ん じ ゃ な い か な。あとは、体が悪くて買い物 に 1 回ジム見に行ったんだ。で も さ、 新 潟 な ん て 地 方 だ か ら ジ ム と か ね ぇ ん だ よ。 そ れ で まぁ、東京に出て来て、こっち で 5 、6 ヶ 所 く ら い 見 学 し て、 じ ゃ あ 神 楽 坂 の ジ ム に 行 く か なって決めたんだ。 ―――ボクシングをしてみてど うでした? ●何が良かったって、すげぇ人 たちを直で見れたことだな。東 ―――ボクシングを始めたきっ かけはなんですか? ● 友 達 が 学 校 に「 は じ め の 一 歩 」 っ て 漫 画 を 持 っ て 来 て さ。 読んだら、超面白くて。もとも と格闘技に興味があったし、そ のままボクシングへ、みたいな 感じかな。 ―――ジムに行こうと決めたの は新潟の時ですか? ●ああ。新潟の専門学校のとき に行けないお客さんとか、そう いう人たちが重宝してくれる店 なんだ。うちは本店に比べて規 模も全然小さいけど、お年寄り は狭い方があまり歩かないで店 を回れるから便利だしね。そう いうお客さんがいる限りは、牛 込 店 を や っ て る 意 義 が あ る ん じゃないかな。 京 じ ゃ な い と 見 れ な い じ ゃ ん。 あと、ジムの人とも知り合いに なれたこと。そういう人たちは オーラが違うわけだよ。見るだ け で 技 術 の 向 上 に も な る し な。 今はもう引退したけど。 ―――それはなぜ? ●まず年だろ。それと、二度ほ ど 健 康 診 断 に 引 っ か か っ た だ。鉄分が不足してたのと、目 が悪くて。それでプロテストが 受けられなかったりしてさ。で まぁ、周りから辞めろみたいに 言われて。でもなかなか辞める 決断が出来なくて。で、試合し た ん だ け ど、 そ の 内 容 が な ぁ。 いやぁ、ふがいなかった。練習 で力出せてもしょうがないんだ よ。本番で力を出さないと意味 がないわけじゃん。プロの厳し さを知ったよな。 ―――ボクシングの魅力はなん ですか? ● ボ ク シ ン グ は、 や っ て る 時、 ブレないんだよ。でもまぁ、地 元のやつらに言わせると俺がボ クシングをやるなんて思ってな かったわけだから。それは自分 でも思うし、ここまでやれたこ とに後悔はしてないよ。
それぞれの
歩む道
―――神楽坂と牛込で違いはありますか? ○人の気質とかだいぶ違うね。 ●牛込の方がお客さんがおとなしいよな。こっちの方が大変。 ○慌ただしいよね。せかせかしてる。レジが遅いと怒られるもん。 ●それはお前が遅いだけだろ(笑)。 ○いやいや。たぶん新しく神楽坂に住み始めた人が多いからじゃないかなぁ? ―――なるほど。 ●あと、神楽坂に比べると牛込の方とか盛り上がってないよな。 ○そうなんだよ。俺からしたら悲しいなぁ。どんどん人が少なくなってるし。 やっぱり神楽坂に比べると全然違うもんなぁ。人通りとか、お店の数も少ない し。歩きづらい。 ●まぁ俺も行かないしな。用無いし。月に一度の棚卸しぐらいだよ(笑)。 ○でも最近ね、そうでもないのよ。今の牛込の会長さんが頑張ってくれて。今 年の祭りは牛込の方も盛り上がってたよ。 ―――若手が少ないとも言われていますが。 ●そりゃあね。原宿とかと比べればはだいぶ差があるわけで。全然違うよ。 ○でも実際住みにくいよ、家賃的に。今引越ししようと思って調べてたんだけ ど、やっぱり若干高いよね。まぁ、ある程度年いった人に神楽坂は魅力なんだ とは思うけど。 ―――世代交代も難しいのでは? ○正直出来てないとは思うよ。 ●でもなんだかんだいって、どこの商店街だって厳しいしな。 ―――今の神楽坂ブームをどう思いますか? ○あんまり実態がないよね。入社した当初より人が増えたくらい? ●どこが流行ってるのかがよく分からないよな。まぁ俺も働かなきゃ神楽坂な んて知らなかったし。 ○俺も知らなかった。人に「神楽坂」って言っても、どこですか?みたいな。 ●今はそうでもねぇけどな。みんな知ってるから。やっぱテレビの影響だよ。 ―――歓迎はしてますよね? ●歓迎っつーか、まぁそんな上の立場じゃないけどな(笑)。 ○店には良いことだよね。 ●まぁ好きな時に来てくれればね。ブームになるだけの物はあるよ。
―――これから神楽坂はどうなると思いますか? ●まぁこのままいくんじゃないの? ○大きな変化はないと思うね。デカい街開発の動きがあるらしいけど。 ●赤木神社を潰してビルを建てるっていうね。どういうことだっつーね。 ―――こういう風に変わっていって欲しいというのは? ○とりあえず路地は残して欲しいよね。 ●面白いからな、裏とか行くと。知らない発見とかいまだにあるし。 ○そうそう。普段住んでないから、本当にあちこちにね。でもまぁ街開発するなら、ちゃんと 計画的にやって欲しい。それこそヨーロッパみたいな、ちゃんと残すべきものは残してってい うかさ。色んなものがごっちゃごちゃな町って、嫌だよ。 ―――では、ご自身はどうなりたいですか? 10 年後とか。 ○ 10 年後の自分かぁ ・・・。たぶん落ち着いてると思う。正直まだ神楽坂にいるかどうかは分 からないけど。俺長男だし、いつ実家に戻って来いって言われるか分かんないから。でもまぁ、 今キムラヤでやってることを無駄にしたくはないよね。今こうやって勉強したことを未来に活 かせたら、いいんじゃないかなって思います。 ● 40 歳だもんなぁ。とりあえず結婚はしてたいなぁ。あとは ・・・ スポーツ関係で働くのとか も面白そうだよなぁ。今とまったく違うけど。もともと動くのも好きなわけだし。あ、スポー ツで神楽坂を盛り立てていきます!ってのは?上手くまとまったんじゃない?(笑)。 ―――そうですね(笑)。今日は本当にありがとうございました!