がん治療の新しい流れ
千葉ポートメディカルクリニック 今 村 貴 樹 日本のがん治療は2~3年前より当サイトで取り上げてきた3つの新しい流れに確実に向 かっています。これは改めて言うまでもなく当サイトの先駆性を示していますが、今回は その点について述べたいと思います。<新しい流れ その1> 精密医療(プレシジョン・メディシン)
NHKスペシャルで取り上げられ反響を呼んでいますが、当サイトでは以前より全てのが ん患者はがん遺伝子を調べるよう提案してきました。(MSK-INPACT検査もその1 つ) そして一人一人に合う分子標的薬を用いるべきだと主張してきました。 今ようやくスクラム・ジャパンなどの活動によってがんセンターなどが中心にこの流れを 日本に普及させようとしています。誠に喜ばしいことです。 これからも当サイトは微力ですが精密医療推進の普及に手助けしていきたいと思います。 さしあたっては臨床試験外だが自責負担で最適な分子標的薬を処方希望する患者さんにそ の薬を供給していきます。<新しい流れ その2> がん幹細胞と上皮間葉転換(EMT)
がん幹細胞には放射線や抗がん剤治療が効かず、がん細胞を治療によって叩いても新たに 耐性を持つがん細胞が、がん幹細胞から生産され増殖する。そしてがん幹細胞から新たに 産生されたがん細胞はEMTによって増殖・転移する。これも2~3年前より当サイトで 取り上げてきたことですがようやくナパブカシン(大日本住友製薬)の開発、エリブリン の効果、サラゾピリンなどによって注目されつつあります。<新しい流れ その3> 免疫チェックポイント阻害剤
言うまでもなく、当サイトは日本国内で最も早く免疫チェックポイント阻害剤 抗PD- 1抗体を導入し2017年3月現在様々ながん、肉腫に対し110名を超える方に使用し ています。自由診療として使用した症例としては国内最多です。 それ故、抗PD-1抗体の副作用について、その早期発見と対策について何度も情報発信 しています。抗PD-1抗体について適切な対策を取れば恐れる必要はないと考えていま す。 又、抗PD-1抗体の効果と限界も同様に判ってきており、その為今回はこのテーマを中心に説明したいと思います。
<免疫チェックポイント阻害剤はなぜ効くのか?
なぜ効かないのか?>
免疫細胞(CD8陽性Tリンパ球)がPD-L1を発現しているがん細胞を攻撃する事に よって、がんを抑制するシステムです。このシステムを良く理解しないままオプジーボを 投与している医師、病院が多いのも残念ながら事実です。(1) 正常な状態
免疫細胞が、がんを攻撃する ⇒ PD-L1発現していない ★免疫チェックポイント阻害剤の投与は不要です。(2) PD-L1をがん細胞が発現している場合
(a) CD8陽性リンパ球が、がん細胞に侵入し攻撃している状態 ⇒オプジーボが良く効く (b) CD8陽性リンパ球が、がん細胞内に到達せず細胞間質に留まる状態 ⇒そのままでは効かない 血管リモデリング作用がある薬と併用か 抗VEGF抗体作用がある薬(レンバチニブ、アバスチン、サイラムザ、etc)(3) PD-L1をがん細胞が発現していない場合
(a) CD8陽性リンパ球は存在している状態 ⇒免疫応答はできているので他の免疫チェックポイント阻害剤を併用する ●イピリムマブ(ヤーボイ) ●抗CCR4抗体(ポテリジオ) 抑制Tリンパ球を除去する (b) CD8陽性リンパ球は存在していない状態 そもそも免疫チェックポイント阻害剤が効かない ⇒抗HER2蛋白が高くなると効かない傾向がある 抗HER2抗体の投与が必要か?<オプジーボの真の使い方が理解できていない
医療機関がほとんど>
1)抗PD-1抗体の効果を高めると称して(余計な)免疫療法を併用しようとする民間 医療機関は全てダメ。悪徳医療機関と考えるべき(活性化リンパ球療法、樹状細胞など 一切エビデンスがない。) 例外はイピリマブ、抗CCR抗体などを併用するケース⇒それでも慎重にすべき 2)化学療法を(分子標的薬を含む)やり尽くして抗PD-1抗体を投与するケース①効果がある場合
ただひたすらに効果がなくなるまで投与を続ける医師が大半 ⇒作用機序を抗がん剤と同じだと思っている(笑) こういう医師が腫瘍内科医の理事や重鎮として学会の中にいるのでちゃんちゃらおかしい です。当たり前の事ですが免疫が正常な状態に戻ったら抗PD-1抗体の継続投与は不要 です。②途中から効果がなくなってきた場合
なぜ効かなくなったか考えましょう。 ・CD8陽性リンパ球が枯渇したから? ・CD8陽性リンパ球が、がん細胞内に到達しなくなったから? ただ投与を中止したり、だらだらと投与を続ける前に少しは頭を働かせましょう。③最初の1~2ヶ月で画像上、増悪した場合
本当に効いていないのかを見極める必要があります。 画像上、悪化していても後から効いてくる場合は少なくありません。 QOLが低下していなければ3~6ヶ月は投与を続ける方が良いと思います。④効果が現状維持だった場合
一番、判断が難しいところですが、免疫反応が生じているかどうかが1つの判断ポイント。 又、腫瘍マーカーが上昇していなければ効果を期待して投与を続けるのも良いと思われる。<活性化リンパ球療法、NK細胞療法、LAK療法な
どは、なぜ効果がなく人は騙されるのか?>
患者の血液から白血球を分離して体外で培養してリンパ球を増殖活性化させて、それを末 梢血管から再び患者に戻す治療法(つまり点滴)ですが、これらの治療法の何が問題でし ょうか?<問題点1>
大半が、がん進行期の患者に行う為、既にPD-L1分子などが、がんに発現しており、 せっかくのリンパ球はがんを認識せずスルーされる。 ⇒免疫チェックポイント阻害剤の併用なら意味はあるかもしれない。 しかし今までそうした事を言わずに行っていたのはなぜか?金もうけの為ではないのか?<問題点2>
培養したリンパ球が、がん細胞内に到達して攻撃する保証はどこにあるのか? 細胞間質に留まったら、血管リモデリング作用のある薬を追加しなくてはなりません。 しかしそういった点についても言及されていません。<問題点3>
こうした1度採取した免疫細胞を体外で培養し活性化して体内に戻す治療法の本命はCA R-T細胞療法です。 CAR-T細胞療法が安全に行えるようになり、普及したら活性化リンパ球療法、NK細 胞療法などは全く意味がなくなります。 今、こうした治療法を行っている民間医療機関はどうするのでしょうか?(笑)<免疫チェックポイント阻害剤は、どのタイミングで
投与するのが最善か?>
この質問は簡単に答えがでます。
「早ければ早いほど良いです。」
それはなぜか?
「リンパ球(CD8陽性リンパ球)が多ければ多いほど奏効性が高
まるからです。
」
従い、
化学療法をやり尽くした進行がん<化学療法を行っていないあるいは回数が少
ない
進行がん<術後の再発予防の方がより奏効する可能性が高くなるのは免疫チェ
ックポイント阻害剤の特徴です。
しかし末梢血液のリンパ球が少ないかどうかは、あまり関係ありません。
重要なのはCD8陽性リンパ球であってリンパ球全体ではありません。
免疫チェックポイント阻害剤の投与を続けていくと末梢血のリンパ球が減少す
るケースがあります。これを我々は免疫枯渇現象と呼んでいます。
リンパ球が使い尽くされた状態と考えてよいでしょう。
こうしたケースでは免疫チェックポイント阻害剤の投与を中止すべきです。
術後再発予防は手術後半年~1年以内が妥当でしょう。
<血管リモデリング作用はなぜ重要なのか>
がんは増殖する上で次々に新生血管を作り出します。
その新生血管の増殖を抑制することで、がんの増殖を止める作用を持つ薬が血
管新生阻害剤アバスチンやサイラムザです。
では、そのがんの内部環境はどうなっているのでしょうか?
異常な血管が作られ、その為血流は低下し薬剤が、がん内部まで届きにくくな
ります。
つまり抗がん作用が働きにくくなります。
そうした状態を改善する作用をリモデリング作用といいます。
腫瘍血管に対してリモデリング作用を行うことで治療の効果を上げることがで
きます。
このリモデリング作用によって奏効性が期待できるのは、化学療法だけでなく
ホルモン剤分子標的薬も同じく期待できます。
がん細胞は敵じゃない がんはやっぱり敵だ!
PD-1
<免疫チェックポイント阻害剤について>
免疫細胞(CD8陽性Tリンパ球)はサイトカインを腫瘍部位で生産し抗腫瘍反応を起こ す細胞を増殖させ、がんを攻撃します。 がんはそれに対し身をかわすためにPD-L1などを発現して、攻撃されないようにしま す。では、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体はどこが違うのでし ょうか?1)抗CILA-4抗体
より多くのT細胞を活性化させる
免疫抑制細胞を減らす
2)抗PD-1抗体
機能が低下したT細胞の活性を取り戻す働き3)抗PD-L1抗体
基本は抗PD-1抗体と同じだが…… 抗PD-1抗体 抗PD-L1抗体 PD-L1 Tリンパ球 抗CTLA-4抗体 より上流で作用するイメージ (すぐには単独では役立たない) 増 殖 がん細胞 LAG-3、OX-40 PD-L1 抗PD-1抗体ガンを攻撃
PD-1
PD-L2 PD-L1 CD-80 PD-L1=CD80 PD-1=PDL2 こちらはブロックしないその他にも抗LAG-3抗体、OX-40刺激抗体、GITR刺激抗体など開発中