188 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 報告 2 14:00-14:40 「高校生は経済学の用語をど のように理解していくのか ─経済教育におけるカリキ ュラム再構築の研究─」 金子幹夫(神奈川県立平塚 農業高等学校初声分校) 「生産期間と生産構造を明示 した国民所得理論の導入」 大坂洋(富山大学) 「経済教育の中のサービスラ ーニング─ソーシャルビジ ネスの体験的学習を通して ─」 井草剛(明治大学地域活性 システム研究所)・水野勝之 (明治大学商学部) 報告 3 14:40-15:20 「EU 加盟をどのように高校 生に教えるか」 佐々木優理(東京都立総合 芸術高校) 「アダム・スミスと人間の科 学」 中谷武雄(元京都橘大学) 「キャリア教育における金融 教育の取入れと効果─早期 離職防止に繋げる福井県立 大学経済学部の実践からの 考察─」 中里弘穂(福井県立大学) 報告 4 15:20-16:00 「原発事故の政治経済学を高 校生に教える」 箕輪京四郎(元横浜商業高 校) 「現代の企業・利益に各分野 から迫る─オムニバス講義 の実践─」 岩田年浩(京都経済短期大 学)・佐藤健司(京都経済短 期大学)・藤原隆信(京都経 済短期大学) 「経営管理論の授業で実施し たキャリア教育」 田中淳(東京都立産業技術 高等専門学校) 第 29 回大会実行委員 加納正雄(滋賀大学),岸本実(滋賀大学),藤岡惇(立命館大学),松本朗(立命館大学) 第 1 分科会 第 1 分科会は 3 つの報告が行われた。第 1 は,新井 明会員の「経済概念学習の可能性─教科書の変遷を手 がかりに─」である。本報告は,高等学校「政治・経 済」教科書の検定過程と学習指導要領の変遷を丁寧に 追いながら,高校での教科書が(1)主流派経済学の 学問体系から離れていること,(2)制度的説明に力点 が置かれたこと,(3)近年では主流派経済学の内容へ の回帰が見られるという仮説を検証したものである。 この報告では教科書が経済学の内容を展開するよりも 高校の現場で教えやすい指向が強まっていることなど が強調されると同時に,教科書調査官や教科書執筆者 の個性がその内容の変遷に大きく関わっていることも 強調された。フロアからの質問も報告者の報告意図よ りも後者の部分へのものが中心になっていた。 第 2 報告は,「フィリピンの高等学校における経済 教育の現状と課題」(佐々木謙一会員)である。本報 告は,フィリピンの高等学校における経済学教育の現 状について,ラガナ州の公立高等学校を事例に研究さ れたものである。報告者によれば,フィリピンでは海 外出稼ぎ労働者が経済の重要な位置を占めており, フィリピンの名目 GDP の 10%をこえる送金を本国の 家族などに行っている。したがって,中等教育段階に おける経済教育もそうした状況に対応した世界経済事 情にも通じる内容になっているという。カリキュラム も一般的なミクロ,マクロ経済学から始まり,国際経 済,貿易論に至るまで大学レベルでもおかしくない内 容となっている。フロアからの質問では,こうした内 容のカリキュラムに高校生の生徒達が付いてこられる のか否かなどに関心が集中した。 第 3 報告は,金子浩一会員による「学習指導要領改 訂に関する商業高校教諭へのアンケート調査」である。 科学研究費補助金による平成 25 年度に始まる商業高 校の新課程に関するアンケート調査研究の結果報告で ある。新課程の科目の特徴を紹介された上で,アン ケート結果から抽出された内容が報告された。結論と しては,(1)商業課程でも上昇している大学への進学 を意識した内容の必要性,(2)「ビジネス経済」科目 における経済学の概念,内容を教えることの難しさ, (3)アンケート時期の問題から来る調査の限界などが 示された。フロアからの質問では,簿記や現実の商業
分科会報告
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経済教育33号 189 活動と「ミクロ経済学」や「マクロ経済学」を結びつ けて教えることへの困難や疑問,また,数学的な限界 概念の指導が現場ではきわめて困難を伴うことなどが 提起された。 総じて,このセッションでは,我が国における大学 の経済学教育と高校の経済教育のギャップの拡大が一 層深刻なものになっていることが浮き彫りになった。 (文責:松本朗,二宮健史郎) 第 2 分科会 第 2 分科会は,テーマ「小中学校の経済教育」のも とに 2 本の報告が行われた。座長は,岩田年浩(京都 経済短期大学)と中里弘穂(福井県立大学)が務めた。 第 1 報告では,太田正行会員(慶應義塾大学)が 「中学校における経済教育授業実践について─企業の 社会的責任を事例に─」というテーマで報告を行った。 参加者は 18 名と少なかったが活発な議論が行われた。 報告内容は中学校の社会科における経済教育の実践に 基づく分析,考察であった。社会科では教科書により 単元,学習テーマの並べ方に相違が見られることから 学習指導要領の分析を経年的に行い,平成 14 年と 25 年で教科書の内容が変化していることに着目した。そ の中で企業の社会的責任につき生徒に調査させ,まと めさせたところ,生徒が興味を示し積極的な取り組み を行い,学習効果があったという事例が報告された。 参加者からの主な質問は,「学習指導要領がどのよ うに変化したのか」,及び変化した理由を問うものと, 「生徒の調査内容は社会的貢献だけで社会的責任の方 には及んでいないが,企業の社会的責任と社会的貢献 の違いを生徒が理解しているのか」など生徒の理解を 問うものであった。また,生徒の調査内容が良い企業 の例だけであるが,今話題となっているいわゆるブ ラック企業と呼ばれる問題のある企業などの調査も行 うと面白いと思うなどの意見があった。 第 2 報告では,猪瀬武則会員(日本体育大学)が 「小学校社会科の経済教育内容を問いなおす─経済概 念に内包する道徳性─」いうテーマで報告を行った参 加者は 26 名であった。経済教育は,社会科学教育で あるという考え方が,社会科教育の基本認識であると 考えられる。しかるに小学校の社会科の経済教育に関 わる内容に道徳性があることに問題はないのかという 問題意識の下,小学校の経済教育の内容など多くのス ライド画面を使用して報告がなされた。質疑応答の時 間が短くなってしまったが,教育学を専門とする参加 者も多く専門的立場からの意見交換がなされた。 参加者からの主な意見としては,初期社会科には価 値が含まれている,高校生の社会科テキストにはあか らさまに道徳的内容が含まれているなど報告者の論調 に賛同するものが多かった。論議の時間が少ないまま 報告終了時間を迎え,報告者より報告に対するさらな る質問・ご意見があればメールをいただきたいとの言 葉で終了となった。 (文責:中里弘穂) 第 3 分科会 報告は以下の 3 本。それぞれについて行われた討論 の内容は次のとおりである。 木村雄一「経済学入門としての経済学史」は,社会 科教員養成における経済学の入門教育において理論, 政策,歴史全般を網羅的かつ初歩的に教えるうえで, 経済学史教育が意義あることを授業アンケート調査で の評価をつうじて論じたものであった。 テキストは詳細なリーディングリストとコピーの配 布によっており,授業内容(範囲)はスミス,マルク ス,ケインズを中心に現代経済学とその思想まで幅広 く扱っていることが明らかにされた。また,学生の経 済に対する拒否感(それは教員養成の場合,生徒に通 じる)をどのように克服し,興味関心を涵養するかに ついては,歴史と現代の経済問題にそれぞれの経済学 者がどのように取り組んだかを興味深く説明すること, そして経済をよい広い社会認識の中に位置づけること の重要性などが論点として出された。 柴田透「金融危機と経済教育─リーマン・ショック 後の経済学教科書の変化」は,アメリカにおける経済 学の入門用,専門課程導入用教科書を題材に,2008 年リーマン・ショック後に出された教科書がそれ以前 の版と比べて,金融危機やインフレなどについてどの 程度,扱いが変わったかを調べた結果,大きな変化が ないというものであった。 この結果について,新しい経済現象については解明 がなされ,その理論的結果が教科書に反映されるあい だの時間差の問題,リアルビジネスサイクルモデルに たいする新しいモデルの可能性およびデータとの整合 性,それとの関わりでハイマン・ミンスキーの金融不 安定性論の評価,そして意思決定の問題を扱う行動経 済学の成果が既存のモデルと整合的かどうか,理論と 価値観との一体性などが議論された。 飯嶋香織「大学生の金融リテラシーに関する調査研 究(2)」は,大学生 715 名を対象としたアンケートか
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