IRRBB市中協議について
(銀行勘定の金利リスクに関するバーゼル委員会の市中協議)
本資料はバーゼル委員会が2015年6月8日に公表したIRRBB(銀行勘定の金利 リスク)に対する新たな規制案の市中協議文書について、概要をご紹介するも のです。
“Consultative Document / Interest Rate Risk in the banking book” (BCBS, 8 June, 2015)
はじめに
本資料では当局資料の一部を翻訳してご紹介しておりますが、弊社はその正確な内容を保証するものでは
目次
1. 市中協議の概要
2.第1の柱アプローチ(標準的手法)について
エグゼクティブ・サマリー
バーゼル委員会はIRRBBの規制案として、1柱案と2柱案の両論を併記した市中 協議を発表した。コメントやQISを経て、今年の秋以降に検討が再開される予定。 最終化の時期は未定。 今回の規制対象は銀行勘定の金利リスク(=金利変動により銀行資産・負債の 市場価格あるいは収益が変動することにより生じるリスク)。現在は2柱での管理 対象(アウトライヤー規制)とされ、規制資本賦課の対象とはなっていない。 適用対象は「大規模で国際的に活動する銀行」。日本における具体的な対象範囲 は未定。 1柱案(標準的手法)では銀行勘定の金利リスクに対して規制資本が賦課される。 その際、銀行勘定の資産・負債の両サイドの金利リスクのネットアウトが認められ ている。資産サイドでは国債のみならず貸出金も対象。負債側では定期預金のほ か、コア預金も対象。 2柱案は現行の監督枠組みを強化するもので、規制資本の賦課は行われない。 ただし、1柱案(標準的手法)に基づく計算結果の開示が求められているなど、管 理負担は増大する内容になっている。IRRBB規制の市中協議の概要
バーゼル委員会は2015年6月8日、 IRRBB(銀行勘定の金利リスク)に関する新た な規制案に関する市中協議文書を公表した。コメント期限は2015年9月11日。 銀行勘定の金利リスクとは金利水準の変動により、銀行勘定の資産・負債の経済 価値あるいは収益が変動することにより生じるリスクである。従来のバーゼル規 制において、IRRBBは第2の柱(監督上の取扱い)とされ、第1の柱における資本 賦課の対象とされていなかった。 今回の市中協議では、IRRBBを第1の柱として資本賦課の対象とする案と、監督 枠組みを強化した上で引き続き第2の柱として取扱う案の、両論が併記される異 例的な形式となっている。最終的にはいずれかの案に決着させることを目標とし ており、国ごとにどちらかの案がバラバラに適用されることは意図されていない。 対象は「大規模で国際的に活動する銀行」とされているが、日本国内での具体的 な適用対象は未定。 今後、市中からのコメントや定量的影響度調査(QIS)の結果を踏まえて、今年の 秋以降に検討が再開される予定。最終化の時期は未定である。IRRBB規制案の概要/規制を変更する背景
IRRBB(銀行勘定の金利リスク)は現在のバーゼル規制下では第2の柱の一部で
あり、大半の国でバーゼル委員会のガイダンス(2004 Principles for the
management and supervision of interest rate risk;以下「IRR原則」)に従い、この アプローチが採用されている。IRR原則では銀行がIRRBBを特定、計測、モニター、 コントロールする方法と監督に関する期待水準が示されている。 バーゼル委員会はIRRBBの規制資本上の取扱方法を2つの理由に基づいて変更 することを提案する。 第1に、銀行が金利変化に対するエクスポージャーから生じる潜在的な損失を カバーするため、適切な資本を保有することを促進するためである。これは特 に現在の超低金利環境において重要である。 第2に、トレーディング勘定と銀行勘定の間や、異なる会計上の取扱いに従う 銀行勘定ポートフォリオ間の資本アービトラージのインセンティブを抑制するこ とである。これはトレーディング勘定の資本上の取り扱いを高度化する上で特 に重要である。
IRRBB規制案の概要/両論併記
この市中協議文書はIRRBBの規制上の取扱いについて2つの選択肢を提示して いる。 「第1の柱」の標準的アプローチ(最低資本要件) 「第2の柱」の高度化アプローチ(第三の柱の要素も含む) 第1の柱として最低IRRBB資本要件を算出する手法を一律に採用することにより、 フレームワークの整合性、透明性、比較可能性が高まるメリットがある。これによ り、銀行の資本適正度に対する市場の信頼感と国際的に公平な競争環境を促進 できるメリットがある。 第2の柱のアプローチのメリットは国ごとに異なる市場環境やリスク管理実務をよ り良く取り込むことができることである。標準的手法に基づく計算を第2の柱に組 み込むことにより、資本要件(第1の柱)と監督プロセス(第2の柱)をより良く結合 させ、より優れた整合性、透明性、比較可能性を実現できる。 今回提案するフレームワークは大規模で国際的に活動する銀行に連結ベースで 適用される。各国当局にはIRRBBフレームワークをそれ以外の金融機関に適用 する裁量権がある。IRRBB規制案の概要/第1の柱アプローチ
第1の柱としての標準的手法では、経済価値(EVE)手法を用いて、複数の金利 ショック(*)に対する金利リスクが計測される(*パラレル上昇・低下、スティー プニング、フラットニング、短期金利上昇・低下の6種類)。 これらのシナリオは 各国の経済状況を反映するよう策定されると同時に、グローバルな金利ボラティ リティを反映するものである。 今回の提案では、全ての銀行勘定ポジションが標準化に馴染むものでないと認 識している。提案では銀行が一定の制約と監督当局による承認を条件に、一定 のプロダクトのために内部パラメータ推定を用いることを認めている。 委員会ではIRRBBフレームワークが経済価値の低下を緩和しようとするインセン ティブを生み出すなど、意図せざるリスクが生じうることを認識している。この問 題に対処するため、委員会は経済価値手法を期間収益ベース手法によって補 完することを提案している。IRRBB規制案の概要/第2の柱アプローチ
第1の柱のアプローチに替わる代替的な案として、高度化された第2の柱アプ ローチを提案する。そこではまず、現在のIRR原則に代わる諸原則の改定案を 提示する。そこに示される銀行向けの9原則はIRRBBのリスク・ガバナンス、ディ スクロージャー、銀行による適切な資本の割当に関する期待水準などを規定す る。当局向けの3原則は監督報告、データ主計、評価、資本レビューなどを規定 する。 また、第2の柱アプローチでは銀行は資本適正度を測るために当局承認を条件 に内部計測システム(IMS)を使用することを認められる。第1の柱アプローチの 標準的手法は銀行のIMSに対するフォールバック(代案)として機能する。第2の 柱アプローチにはIRRBBのディスクロージャーが含まれ、リスク・プロファイル、 主要前提条件、IRRBB水準の定量的・定性的な評価、手法の定性的な開示、標 準的手法に基づく算出結果などが対象となる。第1の柱アプローチの概要
銀行勘定における金利リスクを定式化された標準的手法によって計測し、自己 資本比率の分母に算入する。 資産・負債の両サイドを勘案し、資産と負債の金利リスク量のネットアウトを認め る。すなわち、資産については国債のみならず、貸出金も対象とする。また、円 貨のみならず外貨も勘案される。 リスク量の計算方法として複数の選択肢が提示されており、経済価値に基づく 手法のほか、期間収益を勘案する案も示されている(合計4案)。 金利ショックに基づいてリスク量を算出する。金利ショック量は各国通貨別の金 利水準×グローバルの金利変化率によって算出される。金利ショック量は6種 類のシナリオ(*パラレル上昇・低下、スティープニング、フラットニング、短期金 利上昇・低下の6種類)に基づいて算出され、最大損失が採用される。ただし、 下限(現在の想定は1%)と上限(3%以上の水準で検討中)が設置される。 流動性預金のうち、長期間滞留する預金としてコア預金が勘案される。コア預金 額は流動性預金額×安定的な預金の率×(1-追随率)で算出される。安定的 な預金の率と追随率は一定の制約の下で各銀行の推計値を使用する。期日の 割り振りについては最長満期は6年として均等、あるいは、平均満期を3年以下第1の柱アプローチの概要
標準化に適さない (Less amenable) 標準化できない (Not amenable) 標準化が可能 (Amenable) 満期のない預金 (TIA or STIA) 行動オプション (SA or IM) 金利ショック下のオプショ ン価値変化のアドオン 通貨の合算 元本キャッシュフローの時系列バケットへの割当 経済価値の算出 (6種の金利ショック) 期間損益変化の算出 (パラレル金利ショック) ベーシスリスクのアドオン ステージ1 ステージ2 ステージ3 ステージ4 ステージ5第1の柱アプローチの算出プロセス
ステージ1: 金利感応度のあるポジションを3カテゴリーに分類(標準化可能、 標準化できない、標準化に適さない) ステージ2: リプライシング満期日に基づいてキャッシュフローの期日割当てを 決定。標準化可能なポジションに関しては単純に満期に基づき期日の割当てを 行う。標準化に適さないポジションはこのステップから除外。金利オプションを内 包するポジションについては、オプション性は無視して割当を行う。 満期のない預金: 時系列アプローチ(TIA)もしくはコア預金推計能力を十分に持たな い中小規模の銀行では簡便TIA法(STIA)に基づき、コア預金とノンコア預金に分類。 行動オプション(定期預金、固定金利ローン・コミットメント、期限前返済): 行動パラ メータは標準化手法におけるシナリオ依存型のルックアップ・テーブルに従う。銀行は 当局承認を条件に内部推定アプローチを用いて行動パラメータを計算することができる。 ステージ3: 各通貨の金利ショック・シナリオにおける経済価値変化と期間損益 変化の算出。経済価値変化は通貨ごとに全6種類の金利ショック・シナリオに基 づいて、ネット金利収入の変化は通貨ごとに2つのパラレルショック・シナリオに 基づいて、それぞれ算出する。第1の柱アプローチの算出プロセス
ステージ4: 自動的な金利オプションの価値変化に対するアドオンを経済価値 変化に、ベーシスリスクに対するアドオンを期間損益変化に、それぞれ加算する。 ステージ5: 通貨の合算を行う。 ステージ6: IRRBB最低資本要件を算出する。金利ショック・シナリオに基づき 算出された経済価値及びネット金利収入(期間収益)の減少額のうち最大額を 用いる。 リスクパラメータ 内部推計 フォールバック 満期のない預金 コア預金/ノンコア預金の区分と コア預金の期日割振り 時系列アプローチ(TIA) 簡素化されたTIA(STIA)とコア預 金上限 償還リスクある定期預金 償還率に関する行動要素影響の 決定 内部計測された償還速度(IMRS) 標準手法 期限前返済リスクある固定金利 ローン 期限前返済速度に関する行動要 素影響の決定(条件付期限前返 済率(CPR)) 内部計測された期限前返済速度 (IMPS) 標準手法 【標準化できないポジションの経済価値算出に関する手法とフォールバック】金利ショック・シナリオ
【金利ショック・シナリオ】 金利ショック・シナリオは6種類あり、それぞれが各国通貨の金利水準とグロー バルショック・パラメータ(金利変化のボラティリティ)の組み合わせによって策定 されている。 【金利ショック・シナリオの上限と下限】 金利ショック・シナリオが各国の金利環境下で非現実的な結果をもたらす可能性 に対処するために、全ての各国金利の変化に対して100ベーシスの下限を設 定することが提案されている。金利変化のボラティリティについては、500ベー シス(短期金利ショック)、400ベーシス(パラレルショック)、300ベーシス(長期 金利ショック)の上限を設定することが提案されている。 パラレルショック(上昇) パラレルショック(低下) スティープニング(短期金利低下と長期金利上昇) フラットニング(短期金利上昇と長期金利低下) 短期金利ショック(上昇) 短期金利ショック(低下)満期のない預金/コア預金・ノンコア預金
満期のない預金(NMD)に関しては時系列アプローチ(TIA)とそれを簡素化した 簡便TIA(STIA)がある。TIA法ではNMDをコアとノンコアの2つに分類し、それぞ れの期日の割り振りを決定する。 満期のない預金はリテール預金とホールセール預金に区分される。次に過去1 0年間の残高変化に即して、NMDを安定的な部分と非安定的な部分に区分する。 安定的なNMDを更にコアとノンコアに区分する。金利感応度のある部分を特定 するために金利パススルー・コンセプト(*)を適用する。コア預金は安定的な NMDのうち、リプライスされない部分で、残額はノンコアNMDとなる。(*「追随 率」: 銀行が安定的な預金残高を維持するために、市場金利が変化した際に預金金利へ 反映させる率のこと) 満期のない預金 安定的 非安定的 100%満期のない預金/コア預金・ノンコア預金
銀行は各預金カテゴリーについて「安定的な預金の率」と「追随率」の推計を行う。 ただし、以下の上限・下限に従う。 コア預金とノンコア預金キャッシュフローの期日割当を行う。ノンコア預金は即座 にリプライスされるため、オーバーナイトに割り当てる。コア預金は、2つの代替 的な手法を従って、6年を最長満期として時系列バケットに割り当てられる。 (1)均等アプローチ: コア預金は以下の表の通り、最長6年までの満期に割り当てる。 (2)裁量アプローチ: 加重平均満期が3年以下になることを条件に、銀行の裁量にて最 長6年までの満期に割り当てる。資本要件算出に関して提案されている4手法
第1の柱アプローチにおいてIRRBB最低資本要件を算出する手法として、4つの 手法が提案されている。 (1)経済価値のみによる最低資本要件 (2)経済価値とネット金利収入のいずれか高い方の資本要件 (3)経済価値とネット金利収入のいずれか高い方から短期の収益を控除 (4)経済価値とネット金利収入のいずれか高い方から一定額を控除第2の柱アプローチの概要
現行の監督枠組みである第2の柱としての位置付けを維持しつつ、監督対応を 明確化・透明化するもの。 (1)資本への影響、(2)開示の強化、(3)当局ピアレビュー、の3点において強 化された案が提示されている。 (1)「資本への影響」として、現行のアウトライヤー規制(*)を強化する(CET1 あるいはTier1を使用)。ただし、アウトライヤー基準を超過したとしても実際の判 断は当局裁量。内部モデル計測において内部の金利ショックシナリオのほか、 第1の柱アプローチで示された6種類の金利ショック・シナリオの使用が提案さ れているなど、標準的手法の計測の義務付けも提案されている。(*日本のアウト ライヤー規制はTier1とTier2の合計の20%を基準に運営されている。) (2)「開示の強化」として、内部モデル及び標準的手法の両方に基づくIRRBB水 準、主要な前提、IRRBB水準の定性的・定量的評価の開示が提案されている。IRRBB諸原則
第2の柱アプローチにおいては12項目から成るIRRBB管理の上位原則が提案 されている。これは既存のIRR原則の15項目を改訂するもの。銀行に向けられ た9項目は以下の通り。 (1)IRRBBは全ての銀行にとって重要なリスクであり、特定、計測、モニター、コ ントロールされなければならない。 (2)取締役会はIRRBBリスク管理フレームワークの監視責任を負い、銀行の IRRBBに関するリスクアペタイトに同意する責任を負う。取締役はこの役割を 果たすために、全体としてIRRBBに関する適切な知識をもち、理解しなけれ ばならない。IRRBBのモニタリングと管理は取締役会によって適切な専門家 やグループ/委員会に委嘱されることができる。 (3)銀行のIRRBBに関するリスクアペタイトは経済価値へのリスクと期間収益へ のリスクの両方の観点で調整されなければならない。リスクアペタイトは適切 なリミットと内部コントロールを通じて示されなければならない。 (4)IRRBB計測は幅広く適切な範囲で設定され、金利のタームストラクチャーに わたって変化をもたらす金利ショック・シナリオ(ストレスシナリオを含む)から 生じる経済価値と期間収益の両方の結果に基づかなければならない。IRRBB諸原則
(5)IRRBBの測定に際して、行動面及び戦略的な前提条件は完全に理解され、 概念的に健全で、文書化されていなければならない。それらの前提条件は 厳しくテストされ、企業計画と整合的なものでなければならない。前提条件は 金利変化の予測を考慮する観点のみにおいて調整されるべきではない。 (6)IRRBBに用いられる計測システムとモデルは計算の正確性を確保するため に、完全かつ正確なデータに基づいていなければならず、適切に文書化され、 テスト及びコントロールがなされなければならない。IRRBB計測に用いられる モデルは包括的で堅牢な内部検証プロセスによってカバーされなければな らない。 (7)IRRBBの計測結果とヘッジ戦略は経営と取締役会に対して定期的に報告さ れなければならない。 (8)IRRBBのポジションとリミットに関する報告は要求され次第、監督当局に報 告されるべきである。また、市場に対して定期的に開示されるべきである。 (9)取締役会の承認を得て、リスクアペタイトに従って、内部資本をIRRBBに割りIRRBB諸原則
諸原則のうち、監督当局に向けられた3項目は以下の通り。 (10)監督当局は銀行のIRRBB水準に関する標準化された情報を、経済価値及 び期間収益の両方の観点で、定期的に取得すべきである。そして、潜在的 なアウトライヤー銀行を特定し、より密接な監督と資本上の影響を決定す るためにそれを使用すべきである。 (11)監督当局はIRRBB分野における専門家リソースを保持し、各銀行がIRRBB を特定、計測、モニター、コントロールするアプローチの実効性について定 期的な評価を行うべきである。 (12)監督当局はIRRBBを軽減し、潜在的なアウトライヤー銀行を特定するため に、銀行が割り当てている内部資本額をレビューすべきである。もしも銀行 のIRRBB管理が不適切な場合、監督当局は追加的なリスク軽減措置及び /もしくは資本割当を要求すべきである。ディスクロージャーについて
原則8の開示に関して以下の通り提案されている。 銀行は内部モデルと標準的手法(第1の柱アプローチで提案されている手法) のそれぞれによって計測されたIRRBB水準を開示すべきである。IRRBBは経 済価値アプローチとネット金利収入(期間収益)アプローチの両方によって算 出されるべきである。 以下のIRRBBポジションが市場に開示されるべきである。 • 内部計測システム及び標準的手法に基づくIRRBBの水準 • 主要な前提条件(例えば満期のない預金や期限前返済に関するもの) • IRRBB水準に関する定性的・定量的な評価およびモデリング手法 (注:ディスクロージャー用のテーブルが開示されているがここでは省略している)著作権表示(C)2015年ムーディーズ・アナリティックス・ジャパン株式会社及び(又は)同社のライセンサー 及び関連会社(以下、総称して「ムーディーズ」といいます)。無断複写・転載を禁じます。
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