Research Study Repor
t 201
1
SPORT
AND
HEAL
TH
SCIENCE
立命館大学
ス ポ ー ツ 健 康 科 学 部
スポーツ健康科学研究科
トレーニング指導実習室 トレーニングマシン等を完備。現場におけ るトレーニング技術の習得をめざします。 低酸素実験室 低酸素下でのトレーニングが身体に与え る影響を解析することができます。 インテグレーション コア スポーツ健康科学部・同研究科の基本棟であ り、最先端の施設・設備を設置しています。 スポーツ健康指導実験室 筋パワーや持久力の測定機器や人間の体型を3 次元で解析する機器等も設置しています。 栄養調理実習室 栄養価の高い料理などを調理することが可 能です。また「食育」の実践にも活用します。 骨密度測定装置 MRシステム 体内の状態や脳内の働きを調べる「MRシステム」、骨密度や体脂肪、除脂肪量などの体組成 を推定する「骨密度測定装置」を設置。スポーツ健康分野に関連した高度な研究が可能です。 エネルギー代謝測定室 日常に近い状態で生活し、1日の正確なエネ ルギー消費量を測定することが可能です。 超音波診断装置 血管の形態や血流状態を計測することができます。運動の前後の血管の健康状態や筋肉・ 脂肪の厚さなどを測定・評価し、スポーツ健康分野の多様な実験・研究に応用します。 スポーツパフォーマンス測定室 運動動作の計測・解析が行える多目的スペース。複数のハイスピードカメラで、投げたボー ルの回転をスローモーションで観察するなどの相対分析もできます。
多様な学問領域を総合的・学際的に、
そして理論と実践の両面から学びます。
【スポーツ健康科学部】
ここで生まれた研究が世界標準になる。
医科大学 医療機関 ◎共同研究 スポーツ・健康イノベーション研究会※ ◎大学間連携、機関連携 など 国際機関 海外大学 自治体・官公庁 ◎国内外インターンシップ ◎海外研修・留学、受託研究 ◎スポーツ健康関連の活動を通した地域活性 など 地域 小学校・中学校・高校 ◎サービスラーニング ◎健康・運動教室 ◎生涯スポーツ・健康づくりの支援 などス ポ ー ツ
健康科学部
【スポーツ健康科学研究科】
3つの専門領域においてスポーツ健康科学の高度な理論と実践を
ふまえながら、豊かな人間性を持った次代のリーダーを育成します。
スポーツ健康分野の研究を深く追求し、
広く社会に貢献する人材を育てます。
さまざまな関心に対応した4コースを設置。
3回生から各コースに分かれ、専門性を深めます。
ス ポ ー ツ 科 学 コ ー ス
健 康 運 動 科 学 コ ー ス
自然科学的な観点からスポーツを理解 するとともに、その理論を実践へ活か すスキルを学びます。トレーニング法、 運動メカニズムなどを生理学・力学的な 側面等から科学的に理解し、スポーツ の実践に応用できる方法を探ります。 健康の維持・増進のために、運動の役割 を理解し、健康に関わる具体的なプロ グラムを学びます。運動生理学、生活習 慣病のメカニズム、栄養学などを学び、 健康を維持・増進するプランを提案でき る人材を育てます。ス ポ ー ツ
健 康 科 学
研 究 科
経営学 医 学 体育学 工 学 理 学 保健衛生学 教育学 経済学Introduction
国内外の関連産業 プロスポーツ ◎インターンシップ ◎産学連携(共同研究、共同プログラム) など スポーツ・健康産業研究センター ※ イノベーション・マネジメント研究センター ※
□健康運動科学領域
医学的知識、運動療法、スポーツ栄養などの知識を深め、健康と体力の維持・増 進に関する理論と実践を探求。健康づくりのスペシャリストを養成します。□応用スポーツ科学領域
人の動きやスポーツ選手の心身と技術について、科学的にアプローチ。適切な 運動プログラムやトレーニング機器を開発・指導できる人材を養成します。□スポーツ健康マネジメント領域
スポーツ健康分野におけるマネジメントの専門知識を深め、高度なマネジメンスポーツマネジメントコース
育の指導者に関わる指導スキルを学び ます。子どもの発達促進、学校体育・学 校保健、スポーツ指導法など幅広い分野 を通して、様々な側面からスポーツの 楽しさを伝えられる指導者を育てます。 スポーツ関連組織の運営を効率的に行 う方法を学びます。スポーツ用品メー カー、スポーツチームだけでなく、総合 型地域スポーツクラブなどを対象に、ス ポーツ団体の活性化や安定的な経営な どについて探っていきます。グ ロ ー バ ル な 視 野 と
リ ー ダ ー シ ッ プ を 備 え
社 会 の 発 展 に 貢 献 す る
人 材 を 育 成
身 に つく知 識・能 力
スポーツ健康科学の基礎知識 リーダーシップの力量 スポーツ健康分野の専門知識・技術ス ポ ー ツ 健 康 分 野 の
専 門 職 業 人・研 究 者 を 育 成
「研究力」「実践力」 「リーダーシップ」「コーチング力」身 に つく力 量
※ 現在、本学にある研究会・研究センターです。家光
素行
准 教 授 博士 ︵医学︶ 主な研究テーマ 競技力向上や生活習慣病予防のための運動効果と遺伝的影響の解明 K E Y W O R D 運動、心臓、血管、遺伝子、生活習慣病、オーダーメイド運動療法、スポーツ心臓 筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。「トレーニングによる心臓・血管の適応メカニズム」等、論文 多数。アメリカ心臓学会発表賞、日本高血圧学会優秀論文賞、日本運動生理学会若手優秀発表賞を受賞。運動効果を
解明
する
。
運動生理・生化学塩澤
成弘
准 教 授 博士 ︵工学︶ 主な研究テーマ 生体計測と心身状態の定量評価 K E Y W O R D 生体計測、バイオメカニクス、心身状態の定量評価、センサ開発 立命館大学大学院理工学研究科博士課程後期課程修了。「生体信号計測方法及び装置」「心電図計測装置」「周 期運動体の移動軌跡算出方法及び装置」「筋力計測方法及びそれに用いる装置」の特許を申請している。 「ものづくりが出発点です。」と、スポー ツ工学などを専門とする塩澤はいう。 「ものが完成するととても嬉しいし、そ れを人に使ってもらって、役に立てた時 にはやりがいを感じます。」 スポーツや健康に関するさまざまな問 題を、工学的なアプローチで解析・解明す ることが塩澤の研究課題。身体の動きや 脳波、筋力などを計測するセンサの開発 により、人間の運動や心身の状態を数値 化、評価することを研究している。 「心身の状態を測定できる装置は、いわ ゆる医療器具なので、日常生活の場面や スポーツフィールドで扱うことはできま せん。それなら、スポーツや健康づくり の現場で扱えるものを自分が開発すれば いいと思ったのです。」 塩澤が開発した器具は歩数計ぐらいの サイズで、心拍、加速度、筋電が計測でき る上にGPS機能を備えている。ランニン グ、ウォーキングなど、日常の運動に持っ て出れば便利に使えそうだ。 「計測結果を数値化しても、専門家はと もかく、一般の人は数値からさまざまな ことを読み取ることはできません。そこ で、計測結果をパソコンに取り込んで処 理することで、今日の運動量やその人に 適した運動メニューなどといったわかり やすい情報を活用してフィードバックす ることができると考えています。」 システムが確立され、実用化されれば、 アスリートのトレーニングから、一般の 人の健康管理まで、さまざまな場面で活 用できるだろう。 「現場で手軽に計測できないと、実際の 場面では役に立ちませんからね。これか らも、さまざまな取り組みを研究室の中 だけで終わらせるのではなく、成果をス ポーツシーンや日常生活の現場に活かす ことを目指していくつもりです。」心
身
の
状態を
計測
する
。
スポーツ工学、生体工学、医用工学 日本人の死因は1位:悪性新生物(がん)、 2位:心疾患 3位: 脳血管疾患。2位・3位 ともに動脈硬化がリスクファクターと なっていて、予防のためには運動の重要性 が叫ばれている。では、なぜ運動が動脈硬 化の予防に効果的なのか?「それを解明す ることで、より効果的な運動方法の提案に 活かせる」と、家光はいう。 「身体(体力)特性と遺伝特性の両方を評 価して、その人に合った運動・食事の方法 を提案する『オーダーメイド・ヘルスケア』 の可能性を追求しています。」 同じ運動を行なっても、高いトレーニン グ効果が得られる人とそうでない人がい る。ダイエットで痩せられる人と痩せにく い人がいる。一人ひとりの特性を踏まえた トレーニングや栄養摂取を実践できれば、 こうした個人差の問題に悩むことも少な くなるだろう。生活習慣病の予防・改善は もちろん、競技力のレベルアップにも活か せる可能性がある。 「生活習慣病予防に向けては、特に動脈硬 化や糖尿病、肥満に対する効果的な運動・食 事療法の開発を行なっています。競技パフォー マンスの向上のためには、心臓や血管など の循環機能に関する研究を実践しています。 動脈硬化の予防にとってマイナス要因とな る遺伝子を持つ人でも、有酸素性運動をす ることでそのリスクが解除されるケースも ありうることが明らかになり、その人に合っ た処方の大切さを再認識しています。」 一般的に、運動はある一定の期間続けな いと効果を確かめることができない。しか し、運動効果のメカニズムが解明されれ ば、早い段階で効果を確かめることがで き、モチベーションの向上にもつながる。 効果がないとわかったなら、早い段階で運 動プログラムの見直し、修正ができる。領 域をまたいだ家光の「マルチな感覚」の研 究はまだまだ終わらない。 ス ポ ー ツ 科 学P I C K U P V O I C E
藤田
聡
教 授 博士 ︵運動生理学︶ 主な研究テーマ 骨格筋タンパク質の代謝応答 K E Y W O R D 骨格筋、栄養摂取、タンパク質、加齢、運動、筋収縮、エネルギー代謝、インスリン抵抗性 南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。アメリカ生理学会やアメリカ栄養学会より学会賞を受賞。認 定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)。財団法人日本テニス協会教育部会長。 年齢を重ねると筋量が減少し、筋機能が 低下する。「サルコペニア」と呼ばれ、健常者 にも見られる現象だ。転倒の危険性が高く なり、寝たきりになるケースも少なくない。 筋肉が糖質を処理する代謝能力も低下する ので、糖尿病のリスクも上がる。藤田の研究 は、骨格筋を効率よく肥大させることを目 的とする。筋肉を強化することはアスリー トのパフォーマンスを向上させるために有 効だが、介護予防の観点からも重要なのだ。 「骨格筋を肥大させるためには、レジスタ ンス運動(筋トレ)が効果的ですが、若年者 の場合は運動後にアミノ酸と糖質を加えた サプリメントを摂ることで、筋肉のたんぱ く質合成がより高まることを確認しまし た。これは筋パワーを必要とするアスリー トにとって重要な発見です。アミノ酸の摂 取量や摂取のタイミングを変えることで、 より高いトレーニング効果を引き出せる可 能性もあります。」 高齢者の場合は、有酸素性運動とレジス タンス運動を組み合わせて、楽しみながら 続けることでサルコペニアを食い止めるこ とができるそうだ。有酸素性運動をすると 心肺機能だけでなく、加齢に伴う栄養障害 を改善することで間接的に筋肉を作る動き も促進される。 藤田はいま近隣の高齢者の協力を得て、 特殊なゴム製のバンドを使った運動教室を 開催している。参加者は週に2回、学内の教 室にやってきて、会話を楽しんだりしなが ら30∼40分間の筋トレをする。 「筋力がついた、階段の昇り降りが楽に なったなど、効果が早く出てくるところが 筋トレのメリットです。効果が実感できれ ばモチベーションも上がりますから。今後 は運動とサプリメントを効果的に組み合わ せることで、高齢者の筋機能の改善や脂肪 燃焼による生活習慣病の予防に役立ててい ければと思っています。」 水泳選手だった両親の影響で、2歳からスイミングスクールに通い始め、高校卒業まで ずっとスクールや学校の水泳部に所属していました。中学の時は、スクールに所属しなが ら、学校の水泳部の試合に出場していたほどです。高校は体育科のある学校を選び、水泳 部で活動しながら体育理論などを学びました。そんな私にとってスポーツ関連の学部に 進むのはごく自然なことで、総合大学として幅広く学べるこの大学を選びました。水泳部 の雰囲気もとてもよく、高めあえる環境だったというのも大きなポイントですね。 ここでは、周りの学生たちが本当によく勉強するので、自分もつられて当たり前のよう に勉強できる雰囲気があります。先生方はいろいろなことに親身になって対応して、しっ かりサポートしてくださるので、安心して学ぶことができます。 今後はスポーツ科学コースを選択し、トレーニングの効率について学びたいと思って います。自分が競技者なので、効果的なトレーニング法やスランプからの脱出法などにと ても興味があるのです。将来は、アスリートから一般の人まで幅広い層を対象にして、一 人ひとり異なる「こうなりたい、こう変わりたい」というニーズに合った運動プランを提 案できる人になりたいと考えています。筋肉
の
老化を
止
め
る
。
運動生理・生化学 ス ポ ー ツ 科 学競技者の経験を活かして、
運動プランを設計したい。
スポーツ健康科学部 2回生勝見 早希
ス ポ ー ツ 科 学
吉岡
伸輔
助 教 博士 ︵学術︶ 主な研究テーマ スポーツ動作や日常生活動作の力学的分析 K E Y W O R D コンピュータシミュレーション、動作解析、スキー、日常生活動作 東京大学大学院総合文化研究科博士課程後期課程修了。同大学院にて研究員として就職、動作解析の 研究に従事。主に日常生活動作やスキー動作の解析を専門とする。 期待される。 こうしたスポーツ動作のみならず、日 常動作も吉岡の研究対象だ。 「椅子の立ち上がり動作を研究してい ます。通常の暮らしを送っていれば、誰 もが経験する動作にもかかわらず、力学 的に見るとかなりキツい動作なのです。」 自身の研究は「いまだ道半ば」と吉岡は いうが、椅子の立ち上がり動作の研究で は、日常生活を送るために必要な最小筋 力を明らかにしている。 「筋力評価を通して、近未来の筋力低下 のリスクを予見できれば、日常動作に支 障が出る前に予防に取り組むことができ るのではないでしょうか。高齢化がどん どん進む中、生活の質(QOL)を落とすこ となく、長生きを楽しむ仕組みを作るな ど、研究の知見を社会に還元するための 研究を進めているところです。」寝
た
きりを
予防
する。
身体運動のバイオメカニクス(生体力学)伊坂
忠夫
教 授 博士 ︵工学︶ 主な研究テーマ スポーツパフォーマンス向上のための動作解析ならびにトレーニング装置の開発 K E Y W O R D 身体動作学、スポーツバイオメカニクス、スポーツトレーニング 立命館大学で博士号学位を取得。スポーツ選手やリハビリテーションに活用できるトレーニング装置の開 発に携わる。身体動作の運動学習支援装置の開発、筋力トレーニング装置とその評価法の開発で特許申請。 アスリートがパフォーマンスを高める ためには、試合でベストが出せるように、 効果的かつ効率的にトレーニングするこ とが求められる。競技の特性に合わせて 筋肉を鍛えることが必要なのだ。従来の トレーニングマシンは、おもり(慣性)、 バネ(弾性)、油圧・空気圧(粘性)を利用し て負荷をかけるが、タイプの異なる負荷 を組み合わせたり、運動中に負荷を変え ることはできない。伊坂はこうした問題 点をER(磁性流体)クラッチなどを採用 した新しいマシンでクリアした。 「角度・スピード・力の3次元プロフィー ルで筋力を分析することができるので、 運動中に突然負荷を大きくするなど、負 荷のかかり方を自在に調節して、鍛えた い部分をピンポイントで、思いのままに 鍛えることができます。今まで何台もの マシンを使い分けていたトレーニングが この一台ですべてまかなえます。」 ゴルフ練習用の特殊なゴーグルも開発 した。これをかけてスイングすると、自 分の動作とお手本の動作が、ゴーグル上 に線画としてリアルタイムに映し出され る。ゴルフをしたことがない学生に、練 習してもらったところ、50回程度のスイ ングでプロが見てもきれいなフォームに なったそうだ。 スポーツ科学と関連する工学のテクノ ロ ジ ー を 応 用 し て、ア ス リ ー ト の パ フォーマンス向上、ケガからの復帰、一 般の人の体力向上やスポーツの上達、さ らにスポーツによる自己開発などをサ ポートすることで、「スポーツ好きを増や したい」と伊坂はいう。 「自分の変化をとても身近に感じられ ることが、スポーツの醍醐味。それは、何 も競技種目だけに限ったことではありま せん。きれいに歩けるようになりたいと 思うことだって、スポーツなのです。」ス
ポ
ー
ツ
好きを
増やす
。
スポーツバイオメカニクス、スポーツ科学 吉岡はクロスカントリースキーの選手 だった。もっと強くなりたい、という選 手の思いを感じることができる。 力センサーを取り付けた選手の動きを 記録して、力学的な観点から動作を解析 する。測定用の機械を作り、実際のフィー ルドに実験のための環境を整えること は、かなりの困難を伴う。さまざまな条 件を整えなければならず、準備に1年以 上を要することもある。それでも、スキー に対する思いと、何とかしてケガを防ぎ、 パフォーマンスを向上させたいという情 熱が、彼を銀世界へ向かわせる。 「ほとんど趣味で楽しんでいるんじゃ ないの、などどよくいわれますけどね。」 こ の ほ か に も、コ ン ピ ュ ー タ シ ミ ュ レーションを用いて、スポーツの基本動 作のひとつ「跳躍」の研究も進めている。 生体では不可能な筋肉の増減による変化 もシミュレートすることができ、応用がP I C K U P V O I C E
後藤
一成
准 教 授 博士 ︵体育科学︶ 主な研究テーマ 競技力向上、健康増進のためのトレーニング科学 K E Y W O R D 筋力トレーニング、有酸素性トレーニング、低酸素トレーニング、ホルモン、トレーニング法の開発 筑波大学大学院体育科学研究科博士課程後期課程修了後、日本学術振興会特別研究員として筑波大 学、東京大学、Bispebjerg Hospital(デンマーク)にて研究に取り組む。 フィットネスクラブなどで、筋トレと 有酸素性運動のどちらを先にすべきか 迷ったことはないだろうか?トレーニン グ科学を専門とする後藤は、筋トレに続い て有酸素性運動をすることで、合理的に脂 肪が燃焼することを明らかにした。テレ ビ、雑誌などでも頻繁に紹介され、指導者 の間でも、体脂肪の減少を目指すなら、筋 力トレーニングを最初に行う方法が効果 的という考えが広がりつつあるという。 後藤は、アスリートの競技力向上を目的 とするトレーニング法の効果検証や新た なトレーニング法の開発に取り組んでい る。さらに、一般の人の健康づくりやメタ ボリックシンドローム予防のためのトレー ニング法についても研究を進めている。 「有酸素性運動で脂肪を燃焼させるた めには、できるだけ長時間続けることが 大切といわれてきました。しかし、私の 研究では、60分間続けて運動をするよ り、休憩をはさんで30分間の運動を2回 行うほうが、脂肪の燃焼が大きいという 結果になりました。その後の研究では、 30分間の連続運動よりも、10分間の運 動を3セット行なうほうが効果が高いこ とを見いだしています。」こうした研究成 果により、今後、運動やトレーニングの 方法は大きく変わっていくだろう。 現在、後藤が特に力を入れているのは 低酸素トレーニングに関する研究。酸素 濃度を調節できる低酸素実験室があり、 この施設を利用して競技力向上のための 低酸素環境でのトレーニングや低酸素実 験室での滞在の効果を調べている。 「低酸素環境でのトレーニングがメタボ リックシンドロームの予防にも有効である ことを、昨年の研究で確認しています。現 在、他大学との共同研究もスタートしてい て、今後、国際的に注目される研究成果を たくさん出していきたいと考えています。」トレー
ニ
ン
グ
を
科学
する。
トレーニング科学設備と環境を活かして、
研究を続けたい。
スポーツ健康科学研究科 応用スポーツ科学領域 2回生森嶋 琢真
関東の大学に在籍している時に後藤先生の研究に興味を持ち、このスポーツ健康 科学研究科で研究することになりました。びわこ・くさつキャンパスは豊かな自然 に囲まれたロケーションで、施設がとてもきれい。新設学部・研究科ということも あって設備が充実しています。著名な先生方もたくさんおられて、研究の最先端に いるということを実感できます。 いまは『低酸素環境下での運動が生活習慣病予防に及ぼす影響』をテーマに研究 を進めています。この大学には、ちょうど標高の高い土地や高山にいるような空気 の薄い状態を作り出せる「低酸素実験室」があり、その中で運動をすることで得られ る運動効果は、通常の環境での運動とどう違うのか、そして糖尿病、動脈硬化に代 表される生活習慣病の予防にどう活かせるのかを探っています。 修士課程を修了したら、できれば博士課程後期課程に進んで研究を続けていこうと 考えています。そのために、積極的に論文を読み、ノートにまとめるように普段から 心がけています。また、最低でもそれらを年間100本は読むことを目指しています が、どうやら目標は達成できそうです。 ス ポ ー ツ 科 学健 康 運 動 科 学
真田
樹義
教 授 博士 ︵理学︶松生
香里
助 教 博士 ︵医学︶ 主な研究テーマ 心身のコンディションと腸管防御機能の関連 K E Y W O R D 運動、ストレス、免疫、コンディショニング、腸管機能、骨格筋修復 東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は運動免疫学。現在は「腸管機能と骨格筋修復・再生 過程の関連」に興味をもって研究を進めている。 質のよいトレーニングをきちんとこな しながら、本番で力を発揮できないアス リートがいる。なぜか?松生は腸管のコ ンディションが関係しているのではない かと考えている。 「私自身も陸上をやっていたのでわか るのですが、試合が近づくと、必ずといっ ていいほど食べられなくなる選手や下痢 をする選手がいます。オリンピックの選 手村でも、消化器系のトラブルを訴える ケースが多いと報告されています。」 長距離ランナーは、過度のトレーニン グが原因でしばしば腸管機能の障害を起 こすという。松生はいま、精神的・身体的 ストレスが腸管機能を低下させるメカニ ズムと、ストレスで腸管がダメージを受 けた場合の防御機能について個体レベル での解明を目指している。さらに、腸管 の働きが低下すると、損傷した骨格筋の 修復・再生が遅れることが実験によって 確かめられつつある。 腸管のコンディションを正常に保つこ とが、アスリートの体調維持や能力発揮に 重要だということが確認できれば、選手の トレーニング現場への応用も期待できる。 「プロバイオティクス(乳酸菌)を摂取 することで腸管の働きを整え、選手のコ ンディション悪化を予防できる可能性に ついて実験しています。」 事前に乳酸菌を飲ませた個体の筋肉を 損傷させ、その後の回復過程をみた実験 では、若い個体では変化はみられなかっ たものの、老化した個体では、筋肉の修復・ 再生スピードの改善が確かめられたとい う。高齢者のサルコペニア(加齢による骨 格筋量の減少)は、現在は筋肉の萎縮に よって起こると考えられているが、松生 は腸管機能の老化も関連しているのでは ないかという可能性に着目している。今 後のメカニズム解明に期待したい。腸と筋肉
の
関
係
を
解明。
運動免疫学、分子生物学、運動生理学生活習慣病を
予防
する
。
応用健康科学、運動処方 主な研究テーマ 生活習慣病予防のための運動処方開発に向けた科学的根拠の構築 K E Y W O R D 生活習慣病、肥満、遺伝子多型、運動処方、身体活動量、体組成 東京都立大学大学院理学研究科博士課程後期課程修了。専門分野は、健康づくりのための運動処方。 著書は『エビデンスと実践事例から学ぶ運動指導』(分担執筆)をはじめ多数。 中高年になると、体脂肪が増え、筋肉が 減り、骨密度が低下するケースが多い。糖 尿病や骨粗鬆症に代表される生活習慣病 のリスクが高くなり、それらを予防する ために、より効果的な運動処方が求めら れる。一般的に脂肪が増えるメタボリッ クシンドローム(内臓脂肪症候群)には有 酸素性運動、筋肉が落ちるサルコペニア (加齢による骨格筋量の減少)にはレジス タンス運動(筋トレ)が有効とされるが、加 齢による身体の変化は個人差によるもの が大きい。懸念される生活習慣病も異なっ てくる。当然、効果的な運動処方も違う。 真田が目指しているのは、科学的根拠 に基づいたテーラーメイドの運動処方だ。 「生活習慣病の発症には、遺伝的要因と 環境的要因が関係しています。遺伝的要 因とは、太りやすく痩せにくい遺伝子や、 筋力が減りやすい遺伝子などを持ってい るということ。一方、環境的要因とは、運 動、食事、休養といった生活習慣のこと。 この両者が組み合わさって発症します。 そこで、遺伝子解析と体力・体組成を組み 合わせることで、生活習慣病予防につな がる個別の運動プログラムの提案・普及 を狙います。」 現在、この国の医療費はおよそ30兆 円。その3分の1が生活習慣病関連の支出 となっている。病気を予防することがで きれば医療費の高騰に歯止めがかかり、 活気ある社会づくりにもつながっていく。 「運動プログラムの開発だけでは、予防 意識を高めていくことは難しいでしょ う。強力な突破口が必要です。例えば、そ の人の10年後、20年後の健康状態が予 想できる遺伝子キットがあれば、真剣に 予防に取り組めるのではないでしょう か。相談者と対面して科学的な検査を行 い、効果的な運動プログラムを作れるプ ロの育成も大事な課題です。」P I C K U P V O I C E
田
畑
泉
教 授 博士 ︵教育学︶ 主な研究テーマ 身体活動・運動による生活習慣病予防に関する研究、競技力向上のためのトレーニング法の開発 K E Y W O R D 身体活動・運動、生活習慣病、競技力向上、骨格筋、糖代謝、ガン、高強度運動、トレーニング 東京大学で博士号学位を取得。独立行政法人国立健康・栄養研究所を経て現職。平成17年度厚生労働省 運動所要 量・運動指針の策定検討会委員、平成21年度厚生労働省「日本人の食事摂取基準」活用検討会委員などを務める。世界を相手
に
研究
する
。
健康科学健康運動指導士として
生活習慣病予防に取り組みたい。
スポーツ健康科学研究科 健康運動科学領域 2回生劉 辛
中国でも糖尿病などの生活習慣病や、その大きなリスクファクターである肥満に 悩む人が急激に増えています。人々の健康に対する意識はこのところ向上してきた のですが、具体的な予防法となるとまだまだ普及していないのが現状です。 大学では生命科学を勉強していました。こうした状況にふれて、生活習慣病予防 の研究が進んだ日本でスポーツ・健康に関する勉強がしたいと考えるようになり、 2年間日本語学校に通った後、スポーツ健康科学研究科で学ぶようになりました。 いま取り組んでいるテーマは『疲労困憊に至らない高強度短時間間欠的運動が人の 糖代謝能に与える影響』。エクササイズバイクで最大酸素摂取量の170%に相当する 運動を行ない、糖の代謝能力がどう変化するかを調べます。研究室の田畑先生には「効 果が期待できそうだ」といっていただけましたが、糖尿病の療養中に強度の高い運動 はできないという問題をどうクリアしていくかがこれからの課題。新しく開設され た研究科ということもあって、先生方の熱意を感じながら研究することができます。 中国ではこれから、生活習慣病の予防が国を挙げての大きなテーマとなると思い ます。将来は健康運動指導士として、病院で働くことを目指しています。 You Tubeに ア ク セ ス し て「tabataprotocol」というキーワードで検索をかけ ると、アメリカのスポーツジムで撮られた らしい動画がいくつも出てくる。人々は Wall Ballと呼ばれる見るからにキツそうな 運動を10秒の休息を挟み、20秒間を6∼7 回繰り返すという独特のトレーニングをく り返している。この運動法が米国でブレイ クするきっかけとなったのが田畑の論文。 日本のスピードスケートの選手が行なって いた高強度・短時間トレーニングを分析し て、発表したところ、忙しい勉強の合間に時 間をかけず効果的なトレーニングがしたい 東海岸の学生や、筋骨隆々になりたい西海 岸のマッチョな人々が飛びついたという。 田畑のフィールドは多岐にわたる。「骨 格筋の糖代謝能に対する身体活動・運動の 効果の研究」では、運動の効果を検証して新 しいトレーニング法を提案し、糖尿病患者 が治療のために筋力トレーニングを取り入 れるようになった。これまで、生活習慣病 の予防には有酸素性運動が効果的とされて きたが、無酸素性運動である筋トレと有酸 素性運動をそれぞれ短時間で組み合わせる ことで、運動療法の効果がより高まること がわかってきたのだ。また、「身体活動量・ 体力と生活習慣病発症との関係に関する研 究」の知見により、田畑は厚生労働省の『健 康づくりのための運動基準と運動指針(エ クササイズガイド2006)』の策定を担当し た。今後も、運動による大腸癌の発生の仕 組の解明や、短時間の運動による生活習慣 病の予防などに、期待が寄せられている。 「研究を進めていくと、自分の領域内だけ で収まることはまずありません。この学部 には興味深い研究を行なっている先生がた くさんおられるので、各分野のスペシャリ ストにこと欠かない。いろいろな人と刺激 し合い、協力し合いながら、世界に通用す る発見を目指したいと思います。」 健 康 運 動 科 学
健 康 運 動 科 学
海老
久美子
教 授 博士 ︵栄養学︶橋本
健志
准 教 授 博士 ︵人間 ・ 環境学︶ 主な研究テーマ 全身のエネルギー代謝に関する研究 K E Y W O R D エネルギー代謝、乳酸、ミトコンドリア、骨格筋、心臓、脂肪細胞、脂肪分解、機能性食品開発 京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程後期課程修了。運動が全身の代謝制御機構に及ぼす影響 と、その分子メカニズムについて探求。国際学会での受賞歴も多く、世界的に注目を浴びている。 「乳酸」は一般的には疲労物質と考えら れ、身体によくないものというイメージ がある。しかし橋本は、乳酸があらゆる 細胞内にあってエネルギーを生み出すミ トコンドリアを増やすこと、さらにエネ ルギー源として働く可能性があることを 明らかにした。これにより、これまでの スポーツ科学における乳酸の固定観念は 一新された。 「ミトコンドリアの機能は、運動能力や 代謝疾患ととても密接に関連していま す。運動によって乳酸が生成され、ミト コンドリアが活性化するメカニズムを明 らかにできれば、効果的な運動処方が提 案できるようになると思います。競技力 の向上や、糖尿病などの予防・改善への適 用が可能になるのではないでしょうか。」 乳酸は運動の際に糖が分解されること で、必然的に作り出される物質。比較的 強度が高い運動をすることで、乳酸を産 生させてミトコンドリアを増やし、持久 力を向上させるというようなアプローチ が可能になるだろう。強い運動ができな い人には、運動と乳酸主体のサプリメン トを併用するなど、これまでにない新し い手法も考えられる。 しかも、乳酸が脂肪燃焼の向上に関係 しているという可能性も出てきた。乳酸 のほかにも、運動することによってもた らされるいくつかの因子が、脂肪燃焼に 関与することを橋本は突き止めつつある。 「まだ具体的な因子について公開でき る段階ではありませんが、細胞レベルで いくつか明らかとなってきました。今後 は、こうした因子の機能を、実際に個体レ ベルで実証していくことが主な研究テー マとなります。」 研究が進めば、こうした因子を誘発で きるような運動処方や機能性食品の開発 などにもつながっていくことだろう。固定観念を
打ち
破る
。
運動生理・生化学食
べ
る力を
養う
。
スポーツ栄養学、栄養教育 主な研究テーマ 競技者への栄養学的支援の評価に関する研究 K E Y W O R D スポーツ栄養、栄養学、ジュニアアスリート、食育、栄養教育 甲子園大学大学院栄養学研究科博士課程後期課程修了。専門は応用栄養学としてのスポーツ栄養・食事 学。北京オリンピックでは日本選手団への現地食環境調査、JOC強化指定選手の栄養サポートを担当。 海老が講義や食育セミナーなどを行な う「栄養調理実習室」は、充実した設備を備 えていながら、ほっと落ち着ける家庭をイ メージした空間になっている。そこでは料 理を作るだけでなく、食べることそのもの を楽しむことができる。 「高校野球の選手、指導者、保護者に向け て、食べる力を伸ばすことを目的に食育を 実践してきました。選手の多くが増量した い、大きくなりたいと願っているのに、実 際は食べることが苦痛になっていること が少なくありません。そこで、なぜ食べな いといけないのか、そもそも食べるとはど ういうことなのかを気づかせてあげます。 すると、食べることが楽しくなって自然に 増量できるのです。」 一方、減量を行なう場合は、危険な方法が まかり通っているという。目指す階級の体 重になりたいばかりに、水分を抜いてしま うケースが多いのだ。安全に、安心して減量 に取り組むためには、専門家がしっかりと したプランを立てることが欠かせないのだ。 海老はいま、高校の野球部員のための部 活食の開発に農工商連携で取り組んでい る。進学校として知られるその県立高校で は、練習が終わると生徒たちは塾などに直 行する。帰宅すると夕食には遅すぎる時間 になっている。選手にとってとても重要な 食事が軽視されがちになる。そこで、地元 のお米などを活かして、部員たちが練習後 すぐに食べることができる夕食を地元弁当 業者と提案した。この部活食の導入により、 夜遅くから夕食を食べることがなくなり、 翌朝快調に起きて朝食を食べることができ る。今後は生活のリズムを整える効果のあ るこの部活食の検証をきちんと行ない、農 工商連携につなげ、研究を進めている。 競技特性に合わせた能力を発揮するた めにも、ケガや故障を予防するためにも、 食事は重要な意味を持っているのだ。P I C K U P V O I C E
浜岡
隆文
教 授 博士 ︵医学︶ 主な研究テーマ 運動時の筋代謝、酸素動態の測定評価 K E Y W O R D 酸素、磁気共鳴分光法、近赤外分光法、筋代謝、筋血流、身体不活動、機能性食品の効果検証 東京医科大学大学院医学研究科修了。磁気共鳴分光法や近赤外分光法などを用いて、運動時の酸素動 態や筋エネルギー代謝の測定を行っている。1999年日本臨床生理学会優秀論文賞等を受賞。 とにかくスポーツが好きです。器械体操を約8年間続け、中学・高校ではテニスで 全国大会にも出場しました。私立の高校に通うようになったのも、受験勉強の負担 を少しでも軽くすることで、思う存分テニスに熱中できると考えたからです。高校 では理系コースに所属していたので、大学でも理系の資質が求められるスポーツ健 康科学部を選びました。 新設学部ということで入学までは不安でしたが、設備が充実していて、先生方は 素晴らしい方ばかりで不安は吹き飛びました。免疫学などに興味があり、これから はスポーツを用いた病気の予防・改善について学びたいと思います。実はいま、ス ポーツ医学の浜岡先生の研究室を授業外に時々訪問しています。先生はいつも歓迎 してくださって、そんな開かれた雰囲気もこの学部の魅力ですね。 将来は海外も視野に入れて、研究職や大学院への進学などを考えています。何を するにしても英語が不可欠だと考えて、教材を使って毎日コツコツと勉強していま す。英語は苦手だったのですが、実際に必要になると考えると興味を持てるように なり、最近はおもしろいと感じるようになってきました。運動効果を
測定
する
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スポーツ医学、環境医学可能性を広げるツール
「英語」を勉強中です
スポーツ健康科学部 2回生木戸 康平
健康を維持するために、運動が効果的 だということは、研究によって確かめら れている。しかし、なぜ運動が身体にい いのかという疑問に対して、現在の科学 は納得できる答えを出せていない。 浜岡はMRI(磁気共鳴画像装置)や光を当 てて酸素量を測る近赤外分光法を用いて、 心臓や筋肉の変化をモニタリングする。ど のような運動を行えば、身体のどの部分 が、どう変化するのか、その因果関係を調 べることで、筋代謝という視点から運動の 効果を科学的に解明しようとしている。 「以前は筋生検といって、筋肉の一部を 切り取るか、筋肉に針を刺すかしないと調 べることはできませんでした。私が採用し ている方法ならダメージを与えることな く、筋肉の変化を調べることができます。 何よりも、運動の前後だけではなく、運動 中の変化をみられることが強みです。」 運動による身体の変化=運動効果がと らえられれば、持病がある人や生活習慣 病のリスクが高い人などにも、どんな運 動をすればいいのかを提案できる。浜岡 の研究室では、ギブスの使用前後での筋 肉の状態も調べていて、骨折後のリハビ リテーションなどに役立っている。 現在、近赤外線で測定できる範囲はご く狭いものだが、浜岡はこれを下肢全体 に広げることを目指している。また、ハ ンディタイプを開発して走りながら測定 することで、フィールドでの筋肉の動き を明らかにしたいとも考えている。 「時間と手間をかけて準備をした実験 が失敗に終わることは多いのです。しか し、そこから新しいテーマが生まれるこ ともあるので、研究者は失敗を楽しめる ぐらいの気持ちを持っていたいですね。 安全圏で研究することも大切ですが、危 ない橋をあえて渡ることで、面白いもの が生まれてくるのですから。」 健 康 運 動 科 学健 康 運 動 科 学 ス ポ ー ツ 教 育
大友
智
教 授 博士 ︵体育科学︶ 主な研究テーマ 体育・スポーツ場面における指導方法に関する研究 K E Y W O R D スポーツ教育学、体育科教育学、体育授業研究、学習者行動、体育教師教育 日本体育大学で博士号学位を取得。専門は、スポーツ教育学・体育科教育学。子どもの体力向上指導者 養成研修講師、全国学校体育研究大会指導助言者等を担当。 スポーツ教育学・体育科教育学を専門 とする大友は、大学生の頃からずっと、 小・中・高の体育の授業をビデオに撮って 分析してきたという。 「体育が嫌い、授業がおもしろくないと いう子どもの様子を見ていると、先生の 何気ない言動がきっかけとなって嫌に なっていることがわかります。例えば、2 人組で何か運動をする時に、ちゃんとペ アが組めるように先生が気づかいをして あげないと、クラスで浮いているような 子はたちまちやる気をなくします。」 興味を持って取り組めるかどうかは、 子どもの性質によるという考えもある。 しかし、優れた指導者の授業を受けると、 ほとんどの子が楽しいと感じている。お もしろいと思えればそこから世界が広 がっていく。毎日が楽しく、ひいては人 生が豊かになる。先生の人格や学習者と の接し方を含めた指導のあり方次第で、 学習の成果は大きく変わってくるのだ。 蓄積した研究成果に基づいて、大友は 体育指導プログラムを群馬県教育委員会、 小学校体育研究会と共同で開発。それは 群馬県の200以上の学級で活用された。 「それまで運動が嫌いだった子どもが、 プログラムによって授業に興味や関心を 持つようになりました。体育指導を専門と しない先生や苦手な先生でも効果的な指 導ができるように工夫しているので、先生 方からも高い評価をいただいています。」 さらに、文部科学省が主宰する会議を 通して、大友も積極的に関与したハンド ブックが、まもなく全国の全ての小学校 の先生の手にわたる。これまで“教科書” がなかった体育教育にとって画期的な出 来事だ。 「これからも、スポーツの指導の在り方 について、課題を提起し、具体的な指導 法を開発していきたいと考えています。」木村
哲也
助 教 博士 ︵人間 ・ 環境学︶ 主な研究テーマ さまざまな対象者の運動に役立てる応用生理学研究 K E Y W O R D 筋電図、筋代謝、運動制御、交感神経、生体信号処理 京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程後期課程修了。日本学術振興会特別研究員。立位平衡の 神経制御則解明等の基礎的研究から、他動的運動方法の開発等の応用研究まで幅広く行っている。 高齢者の転倒は骨折や寝たきりにつな がる。したがって、転倒の予防は高齢化 社会を迎えた我が国の社会的課題であ る。木村は、私たちがどのようにして二 足での立位姿勢をとっているのか、その 仕組みを神経・筋の視点から明らかにし ようとしている。研究の成果は、より安 全で効果的な転倒予防法の発見へとつな がっていく。 「転倒予防法というと、杖を使うなどの 方法が一般的ですが、適用できる範囲が 限られます。そこで、転倒を予防するた めに立位バランスを神経生理学的観点か ら安全かつ効果的に向上することに着目 したのです。」 転倒の心配が軽減されると行動範囲が 広がっていくため、生活の質(QOL)の向 上にもつながる。 実験では、学生ボランティアや大学近 隣の高齢者の協力を得て、立位中や歩行 中の身体の動きや神経制御の働きをモニ タリングしていく。 「生身の人間を相手にするので、安全 に、不快感を与えることなく実験を進め ることが不可欠。何よりもコミュニケー ションと信頼関係を大切にしています。」 今後は研究成果を補助器具などの開発 にもつなげていきたいと木村はいう。 「例えば、力で物理的に姿勢を支えるの ではなく、神経制御メカニズムを応用して バランスを向上させる器具の開発などを 目指しています。私の研究は特に工学分野 の先生方とコラボレーションすることで、 発展の可能性があると考えています。この 大学にはさまざまな分野で活躍されてい る良き先輩研究者がたくさんおられるの で、これからの展開がとても楽しみです。」 素朴な疑問を大切にするという姿勢の もと、多分野の研究者および学生と様々 な共同研究を行なっている。二足立位の
仕組み
を探る
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応用生理学、運動医科学体育嫌
い
を
なく
す
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スポーツ教育学、体育科教育学P I C K U P V O I C E
岡本
直輝
教 授 修士 ︵体育学︶ 主な研究テーマ 敏捷性のトレーニング法に関する研究 K E Y W O R D コーチング、トレーニング科学、スキルのトレーニング 日本体育大学大学院体力研究科修了。コーチングにおけるトレーニング処方やゲーム分析に携わっている。Jリー グのサンガカレッジの立ち上げなどを経験。現在、京都体育学会副会長、滋賀県バスケットボール協会副会長など。 ビジネスシーンの人材教育などでよく 用いられる「コーチング」という言葉は、 スポーツの場面の方が早く使われてい る。しかし、スポーツフィールドでは、い ま だ 十 分 な 発 展 が 見 ら れ な い。特 に ス ポーツの場面では、指導者の「勘」や「経験 則」に基づいている部分がまだまだ多い のだ。岡本の研究の目的は、「うまい」と か「センスがある」などというあいまいな 表現に置き換えられている選手の能力 と、指導者の評価の基準を科学的に分析・ 解明することにある。さらにトレーニン グ科学をはじめ、さまざまな分野の知識 を応用して、一人ひとりの体力やスキル の向上を狙い、競技特性に最も適したプ ログラムを組み立てるのだ。研究の対象 は子どもからアスリート、さらには一般 人まで幅広い。 「最先端の研究分野の成果を現場に活 かす。いわば、コーチと研究者をつなぐ パイプのような役割ですね。」 昔から、スポーツの基本は「走る」ことに あるので、あらゆる種目の選手がひたすら 走らされてきた。しかし、球技の選手のラ ンニングと陸上選手のランニングのプロ グラムが同じでいいわけがない。特にトッ プレベルに達したアスリートほど、残され た「伸びしろ」は少ない。きめ細かなトレー ニングを設定しないと伸びは期待できな い。著名な監督の本を参考にして指導す るコーチもいるが、対象をしっかりと見 て、トレーニング方法を検討しなければ効 果は薄く、選手の士気も上がらない。 「科学的な根拠に基づき、競技特性を考 慮したコーチングを提示していくと、現 場の人たちの目が変わっていくことに気 づきます。その時は本当にやりがいを感 じますね。科学的プログラムの作成法を 発展させようと研究する若いコーチらと 議論を深めていきたいです。」コ
ー
チ
の
勘
を
科学
する
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コーチング 保健体育教師になることが目標です。もともと子どもが好きで、体育の授業も大 好きだったのですが、高校で、バスケットボール部の顧問の先生や保健体育の先生 に出会って、目標が定まりました。3回生以降はスポーツ教育コースに進んで、勉強 したいと思います。中学・高校の教員免許状に加えて、小学校教員の免許状が取得 できるプログラムも受講予定です。 恵まれた環境と設備がこの学部の魅力です。明るい雰囲気で、学生同士が和気あ いあいとやっていて、スポーツの話で盛り上がります。いろんな種目をやっている 人がいるので、他の種目のおもしろさなどにも触れることができます。 『スポーツ指導実習』という授業があり、岡本先生にバスケットボールとバレー ボール、後藤先生に柔道について教えていただきながら、子どもたちの目線に立っ た授業の進め方について考えました。単に保健体育の科目の内容を教えるだけでな く、子どもたちのことを考えられる先生、トレーニングなどを含めて指導できる先 生を目指したいので、とても興味深く、ためになりました。勉強に、アルバイトに、 ラクロスの試合にと忙しい毎日ですが、目標に向かってがんばっています。子どもの気持ちがわかる
保健体育教師を目指します。
スポーツ健康科学部 2回生浮田 麻未
健 康 運 動 科 学 ス ポ ー ツ 教 育ス ポ ー ツ 教 育
三浦
正行
教 授 修士 ︵教育学︶ 主な研究テーマ 健康観の学校保健分野への適用の問題 K E Y W O R D 健康の権利性、健康の定義、私事性・社会性、自己決定・自己責任、教育保健 東京学芸大学大学院保健体育研究科を修了後、東京の公立中学校・高校の非常勤講師を経て立命館大 学へ。以来、大学における保健体育の教育・研究に従事し、学生部副部長なども歴任。佐藤
善治
教 授 修士 ︵教育学︶ 主な研究テーマ 知覚ー運動スキルの習熟過程とその指導 K E Y W O R D 知覚ー運動スキル、学習、指導、コーチング、チームマネジメント 広島大学大学院教育学研究科を修了後、和光大学専任講師を経て立命館大学へ。現、日本室内自転車 競技連盟(JFIC)副会長。 ドリブルシュートができるようになるには、 ボールを受ける、ドリブルしながら走る、ジャ ンプする、ゴールにシュートする、といった 個々の要素的動作をまず身につけなければな らない。しかも複数の動作を同時に、協調させ て最終的なシュートにまでまとめあげる必要 がある。ゲーム場面になると、空間的にも時間 的にも一層細かな状況判断が求められる。 運動初心者への効果的な指導内容や方法を 開発するためには、このような運動スキルを 身につけ、深化・洗練させていく過程を観察・分 析することが基本的な作業課題の一つとなる。 「初心者はエラー発生の名人だが、指導−学 習のフィールドで観察すると、共通項と個人 差が入り混じった実に多様なパフォーマンス 結果が観られます。初心者にとっても指導者 にとってもこれらのエラーは問題解決の宝庫 で す。ゲ ー ム の 流 れ や 各 プ レ イ ヤ ー の パ フォーマンスを記述・分析したデータを学習 者や指導者を支援するシステムにいかに活用 できるか、を私は一番に考えています。」 コーチングは人間が相手。それだけに、知識 を増やすだけでは良き指導者になることは難 しい。現場で問題を見つけ、競技者等とコミュ ニケーションを築き、深めていく「プロセス・ アプローチ」を行う力量が問われる。プロの指 導者になるには、ここが基本線だともいえる。 「できなかった運動・動作ができるようにな るというのは、人々にとって大きな変化です。 その実現までには困難が多々ありましたが、指 導者にとってもそれはまた同時に大きな喜び です。研究することを通してそのような感動 的な場面に幾度か立ち会うことができるのが 私の密かな楽しみです。」 一人ひとりに合った方法で、より効率よく スキルを習得させる。そんな指導者のコーチ ングが、人材の要請や開発としてもあるいは プログラムの開発や普及としてもシステム化 されれば、その応用範囲はスポーツフィール ドの枠を超えて大きく広がるに違いない。プ
ロ
の
指
導過程を
解明
する
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体育科教育学、スポーツ教育学、運動学習論健全な健康観を
育む
。
学校保健学、教育保健学 女性で86歳を超える平均寿命、低い乳 幼児の死亡率など、データを見るとわが 国は世界でも屈指の健康国だといえる。 それなのに、なぜ私たちは健康になりた いと願うのか? 他の先進国の人々は、自 分の健康について高い満足度を感じてい るという。それなのに、日本人はなぜいま 以上に健康であることを求め続けるの か? 三浦は、こうした健康意識と実際の 健康状態のギャップに興味を抱いている。 「人類はずいぶん昔から健康について 考えてきたようで、ギリシャ時代にすで に健康づくりの処方箋があります。そこ には、食べる・動く・寝るという基本が大 事だと記してあります。少しふっくらし ているほうがいいといわれた時代があっ たり、現代のようにダイエットがブーム となるような時代もあったりして、人々 の意識は時とともに移り変わっていま す。しかし、健康に対する根本的な考え 方は今も昔もさほど変わらないのです。」 ではなぜ、ヒポクラテスの時代からい われてきた生活習慣の改善とそれによる 病気の予防が、現代日本ではことさら声 高に叫ばれているのか? 三浦は、自己顕 示的な“見せびらかし”の健康、言い換え れば社会的ステータスとしての健康が、 今の時代を象徴する健康観ではないかと 考えている。高額な健康・医療サービス やオーガニック食品など、このまま行け ば健康のために使えるお金の差が、健康 状態を決めるということにもなりかねな いのではという危惧を抱いている。 「留学中にフィリピン人の医師に、そん なに健康になって、日本はいったいどこへ 向かうんだと尋ねられたことがあります。 今は世を挙げての健康ブームですが、健康 観を批判的に見つめ直し、健康問題をいか に学校教育へ適用させればいいかを考え ることが私の役目だと思っています。」佐
久
間
春
夫
教 授 博士 ︵医学︶ 主な研究テーマ 運動・スポーツのもたらす心理的効果に関する研究 K E Y W O R D スポーツ心理学、精神生理学、バイオフィードバック、脳波、事象関連電位スポ
ー
ツ
で
幸せ
になる。
スポーツ心理学、精神生理学、健康心理学赤沢
真世
准 教 授 修士 ︵教育学︶ 主な研究テーマ 入門期英語教育における教育方法 K E Y W O R D 学習・指導、教育方法、学校教育、カリキュラム、英語教育 京都大学大学院教育学研究科修士課程修了。同大学院助教を経て、現職。専門は、主にアメリカにおけ学び手
に
適
し
た
指導
とは?
教育方法学 「運動・スポーツには素晴らしい教育力 があります」と、あがりや集中力といった スポーツに関わる心身の問題や運動の持 つ心理学的効果を研究する佐久間はいう。 「運動により体力が向上し、技能が高ま るといった身体的側面の機能向上だけで なく、自信がつく、積極性が高まる、責任感 や連帯感が育まれるなど、幅広い効用が期 待できます。スポーツは人生をよりよく生き るための人間力の形成に役立つのです。」 事故などで障害を負った人がリハビリ を終えると、精神的に落ち込むことが多 いらしい。そんな時、運動により筋力が 高くなっている様子を数値で示してあげ ると、やる気を取り戻せることがある。 筋力アップという身体的な変化が、自信 という心理的な変化につながり、元気に なった心がいっそうの身体的な変化にも 結びつく。運動には人の潜在的な資質を 見いだし、育む効用がありそうだ。 佐久間によれば、歩く、触れるといっ た日常的な動きにもこうした効用が期待 できるそうだ。 「抑うつ状態では生体機能が全般的に 低下している状態なので、ウォーキング などの運動で代謝を活発にすれば改善効 果が期待できます。また、触れることの 意義としては、むずがる子どもは、お母 さんに抱かれて優しく背中をたたかれれ ば、血圧や心拍が安定して落ち着きを取 り戻すのです。」 スポーツコーチも、単に言葉だけでは なく、選手に触れることで、指導効果が 期待できるという。 「30年以上にわたってさまざまな分野 の研究をしてきましたが、今はスポーツが 最もおもしろい。心理学は人間の日常生活 と密接に関わるPOP SCIENCEと考えて いるので、これからも人と関わって、実践的 な学問を追求したいと思っています。」 東邦大学で博士号学位を取得。東京都立大学、国士舘大学、奈良女子大学を経て現職。カリフォルニア 大学サンフランシスコ校客員研究員、ニューヨーク市立大学交換教授も経験。 平成23年度から、小学校に英語が導入 される。現場からは不安の声も上がって いるようだ。赤沢は、英語入門期にあたる 小学校「外国語活動」や中学校英語教育に 関心を持ち、現場での授業見学や、授業改 善に向けた取り組みを実践している。 「英語の基礎的なスキルをどう指導す るか、その方法を考えた時、アメリカの国 語の教育方法のひとつの「ホール・ラン ゲージ(Whole Language)」の可能性に 注目しました。ドリルなどを使って文字 や文法を系統的・強制的に教えることより も、絵本や新聞を読む、郵便屋さんごっこ を楽しむといった、英語を使う場面を意 識した教育に重点が置かれています。」 ホール・ランゲージは1980年代に盛 んに取り入れられた。しかしその後、学力 低下が懸念されたことから、今のアメリ カではドリルなどを使う通常の教育方法 と併用されているそうだ。赤沢も絵本を 用いた指導の良さを活かしながら、基礎 的な文字指導や文法指導をどう位置づけ、 指導するのかについて研究を進めている。 「中学生になって急に文字やスペリン グが登場すると生徒は混乱します。小学 校から中学へとうまく英語教育をつなげ ていくためにフォニックス(文字と音声 の関係)の考え方も取り入れています。」 子どもがブックを「buk」と綴った場合、 スペリングとしては間違っている。しか しホール・ランゲージの考え方では、それ を英語の音を聞いて、音と文字の関係を 意識して綴ったその時点で子どもの成長 過程と評価する。 「先生方から、子どもたちをどう見れば いいのかがわかってきました、という声 をいただいています。英語が理解できた 時の子どもたちの笑顔を見るために、こ れからもカリキュラムの開発、実施、評価、 そして改善に取り組んでいきます。」 ス ポ ー ツ 教 育スポーツマネジメント