国 際企業環境 の理 論
田
中
則
仁
1は じ め に 企 業 は よ 賄 利 な生 産 資 源 ・ よ り大 きな市場 を求 め て 国境 を超 え て行 動 し て きた・ そ の行 動""wrと して・効 率 性 の追 求 力§あ っ た こ とは言 う まで もな い 。 従 来 か ら市 場 占有 率 最 大 化 ・ 利 潤 極 大 イヒ涜 上 高 最 大 化 な ど ,企 業 それ ぞれの具体的 目標 を追求 して 続
。
企 業 の行 動 は自国 の繍 ・ 社 会 に影 響 を与 え る ば か りで な く ,貿 易 直 接 投 資 が行 わ れ れ ば湘 手 国 の 繍,社 会 に も同様 の,あ る い は相 手 国 が発 展 途 鍛 階 に あれ ば よ り以 上 の講 を及 ぼ す こ とに な る .近 年,躰 企 業 の海 外 進 出 に よ り相 手 国 との経 灘 擦 は ます ます深 刻 の度 を深 め て い る .196。 年 代,繊 維,鉄 鋼 の対 米 輸 出 は個 別 の財 ご との2国 間 の貿 易 収 支不 均 衡 を発 生 させ,1970年 代 に は,不 均 衡 が よ り広 範 な財 に及 ぶ と ,さ らに通 商 摩 擦 に拡 大 した。 そ して1980年 代,日 本 か らの輸 出 が さ らに増 え る と ,ア メ リカ で の 自動 韓 業 にみ られ る よ うに・相 手 国 の 当該 産 業 にお け る塒 帰 休 ,擁 と い うか た ち で失 業 問 題 を発 展 させ る こ と1こな っ た .2国 間 の不 均 衡 が搬 資 国 に お い て失 業 を発 生 させ る よ うに な る と,こ れ は ま さに政 治 問 題 とな り, 1)拙 稿 「蝶 の国際的拠点戦 略 と蝶 纏 」国際繍 学会年細 国際繍 』 第 39号,世 界経済研究協会,1988年 。 1企 業 の行 動 自身 に も効 率 性 とは全 く異 な っ た次 元 の行 動 規範 が 求 め られ て き て い 観 本 稿 の 目的 は,多Qの イテ動 を まず 現 象 面 か ら鯉 し・ 国際 企 業 環 境 の枠 組 み を提 示 す る と共 に,現 代 の企 業 に求 め られ て い る社 会 的 責任 ニの を行 動 規 範 の次 元 で 提 示 す る こ とで あ る。
2多
国 籍 企 業 論 の ア プ ロ ー チ
日本 の産 業 構 造 が か つ て の輸 入 代 替 型 か ら輸 出指 向型 に変 化 して す で に久 し い。 この間 に 日本 企 業 の海 外 進 出 ま,単 な る製 品輸 出 か らy販 売 拠 点 の設 立,生 産 拠 点 の 展 開 と相手 国 の経 済 社 会 と深 く関 わ る よ う にな って きた。 企 業 の多 国 籍 化 の過 程 で,さ ま ざ まな分 析 が な され て きて い るが ・ 全体 像 を捉 え う る よ うな包 括 的 な ア プ ロー チ に は必 ず し もな っ て い な い。 そ こで本 節 で は,多 国籍 企 業 論 分 析 の た め の4つ の ア ブ ・一 チ と・ さ ら培新 しい要 素 を組 み合 わ せi新 しい視 点 で の多 国 籍 企 業 論 の見 方 を考 えて い く。 図 、で は基 本 的 な4つ の ア ブ ・一 チ を 円で ・ そ して地 域 研 究 の新 た な視 点 を縦 の軸 として描 い て い る。 そ の軸 は上 方 向 に明 示 的 な現 象,す な わ ち政 治 制 度,社 会慣 習 の分 析 が 必 要 な こ とを示 し,下 方 向 に は黙 示 的 な事 象,っ ま り相 手 国 や地 域 の 歴 史,民 族,宗 教,文 イヒな ど異 文 化 理 解 の基 礎 とな る要 素 へ の 考 察 が 不 可 欠 で あ る こ とを示 して い る。 (1)国 際 経 済 的 ア プ ロ ー チ 2)Marris,Robined.,TheCorporateSociety,TheMacmillanPressLtd.,1974. (今 井 賢 一 監 訳 『企 業 と社 会 の 理 論 』 日 本 経 済 新 聞 社y1976年) 3)Bower,JosephL.「 道 徳 と は 無 縁 な 組 織 一 一 効 率 の 社 会 的 ・政 治 的 帰 結 に 関 す る 研 究 」,R.マ リ ス,同 上 書(1974)所 収 。 4)拙 稿 「企 業 の 多 国 籍 化 戦 略 」 月 刊 『貿 易 と 産 業 』 通 商 政 策 広 報 社,1984年4 月 号 か ら1985年2月 号 ま で の 隔 月 号 所 収 。 2国 際 経 営 論 集No・21991まず 国 際繍 の ア ブ ・ 一 チ か 硯 て み よ う。 企 業 は資 本,労 働 力 源 材 料 , 技 術 な ど生 産 要 素 の比 較 灘 性 を勘 案 して生 産 立 地 を考 え ,と きに は海 外 へ 進 出 して い くこ とに な る・ 日本 企 業 の海 外 直 接 投 資 は ,1985年 以 来 第3の ブ ー ム に な っ て い る 。 東 南 ア ジ アへ の進 出 が 豊 富 な労 働 力 と安 価 な賃 金 に よ る もの で あ る こ とは言 う まで もな い・ 相 手 国 の 技術 水 準 が 必 ず し も高 くな い場 合 で も旧 本 か ら設 備 ・ 機 械 オ ペv`シ ョン技 術 鱒 入 で きれ ば躁 業 に とっ て大 きな支 障 はな い で あ ろ う・ 資本 につ い て も,資 金 の調 達 コス トが安 くつ 暢 合 に は・ 企 業 に とって の問 題1まな い .198・ 年12月 鵬 躰 の外 国 為 瀦 理 法 は原 則 舳 に な っ て お り,外 国 で の起 債 潰 欄 達 は容 易 にな っ た が 湘 手 国 の資 本 市 場 の利 点 を活 か しなが ら ,生 産,販 売 で 得 た利 益 を還 元 で きれ ば,経 済 全 体 へ の貢 献 も大 きい。 技 術 に つ い て は,す で に公 表 され て い る さ ま ざ まな技 術 鱒 入 す る こ と も さる こ とな が ら ,最 先 端 の 技術 開 発 が な され て い る地域 に研 究 施 設 を設 立 す る こ とで ,い わ ば集 積 の利 益 を享 受 す る こ と もで きよ う。 現 代 の高度 技術 の場 合 に は ,研 究 開発 中 の新 技術 に つ い
ての情報 を集 め安 い こ とも広 臆
味 での技術 に関 す る利 点 と考 えら認
。
② 国際 経 営 的 ア プ ローチ 企 業 に とって 最 も主 体 性 が 発揮 され る 国際 経 営 の ア プ ロー チ を次 に み て み よ う。 経 営政 策 の考 慮 す る範 囲 は広 範 で あ るが ,大 き く分 け て次 の6点 にな ろ う・1)経 営戦 略(投 資計 画 湘 織 戦 略 を含 む) ,2)生 産 管 理,3)労 務 人 事 管 理 ・4)鯉 財 務 管 理 ・5)マ ー ケテ ィ ン グ,6)研 究 開 発 な どが あ る。 経 営 戦 略 の 中 で も投 資戦 略 策 定 に際 して1ま,海 外 直 搬 資 の フ ィ_ジ ビ リ テ ィス タデ ィー が 重 要 に な る。 海 外 直 接 投 資 にお い て は,企 業 と して の経 営 判 断 だ けで はな く,相 手 国 の さ ま ざ まな制 度 上 の制 約,規 制 な どが あ り,さ 5)田 中共 編 『米 国 の技 術 戦 略 』 日経 サ イエ ンス 社 ,1988年 。 国際企業環境の理論3図1多 国籍 企 業 論 の ア プ ロー チ 地 域研 究 (明示 的現 象) 政 治 制 度,社 会慣 習 地 域研 究 (黙示 的現 象) 民 族,宗 教,文 化 等 らに国 に よって は宗 教 的 背 景, 民 族 的 な特 色 が 労 務 人 事 管 理 に 大 きな影 響 を与 え る こ とに な る。 そ の意 味 で 地 域 研 究 とい う新 し い視 点 が必 要 にな る(図1の 縦 軸)。地 域研 究 の新 しい軸 に つ い て は,後 に また触 れ る こ とにす る。 (3)国 際法 務 的 ア プ ロー チ 企 業 が海 外 で 活 動 す る場 合 に は,必 ず 相 手 国 の法 律,規 則 と の 関係 が発 生 して くる。 これ が 多 国 籍 企 業 論 の国 際 法 的 ア プ ロ ー チ で あ る。 企 業 が海 外 法 人 設 立 に際 して 関 わ るで あ ろ う法 律, 規 則,行 政 指 導 な ど は法 人 設 立 登記 に始 まって,税 制,外 国為 替 管 理,契 約 な ど実 に多 岐 にわ た る。 企 業 が 多 国籍 化 戦 略 を進 め る背 景 として,タ ッ クスヘ ブ ン に代 表 され る税 制 上 の優 遇 措 置 の活 用 が あ る。 た とえ ば ア メ リカ にお け る投 資税 減 税 を 利 用 した方 が,日 本 で 同額 の 投 資 を利 用 す る よ りコス トが 安 価 に な り,ひ い て は投 資 の期 待 収 益 が 高 くな る場 合 に は,企 業 は この よ う な税 制 上,法 律 上 の特 典 を狙 って 多 国籍 化 を促 進 す るで あ ろ う。企 業 の多 国籍 化戦 略 の 中で, 経 営 戦 略 や 国 際 経 済 上 の環境 分 析 に比 べ て,国 際 法 務 の研 究 は まだ十 分 とは い えな い。 特 に 日本 企 業 の好 調 な業 績 や優 れ たマ ー ケ テ ィ ングカ に対 して, 競 争 で はな く,法 律 的 な措 置 で対 抗 し よ う と政 府 に働 きか け る企 業 も外 国 に 4国 際 経 営 論 集No・21991
は あ る・ そ の と き 躰 の企 業 はダ ン ピ ング ,あ る い は欧 米 社 会 で最 も忌 盤 れ るア ン フ ェ ア(不 公 正)と 批 判 され る こ との な い よ うな 準備 と対 策 が必 要 で あ る。 また 中近 東 諸 国 との紛 争 の際 にみ られ る よ うに ,イ ス ラム 法,す なわ ち シ ャ リア ー の 支 配 す る地 域 との法 的 債 儲 務 関係 で 問題 が 生 じた と き に は , 国 際 私 法 の及 ば な い事 態 が発 生 す る こ と も想 定 して お か な けれ ば な らなll 。 (4)国 際 関係 論 の ア プ ロー チ カ ン トリー リス ク とい う言 葉 が こ こ数 年 さ ま ざ まな か た ちで 取 り上 げ られ て い る・ カ ン トリー リス クの定 義 内叡 こつ い て まだ定 ま った もの は な いが, カ ン トリー リス ク を その 国 に 内在 す る投 資 に とって の危 険 な要 因 と して お こ う・ 世 界 経 済 の マ ク ・の視 点 で は,カ ン トリー リス ク は累 積 債 務 問題 と して 表 面 化 して い る・ また ミク ・の視 点 で1ま企 業 の 多 国籍 化 戦 略 と密 接 に関 係 し て い る問題 で あ る。 企 業 が投 資,資 源 調 達,販 売 の相 手 国 を分 散 し多 角化 す る理 由 もヂ つ に は各 国 の 抱 え て い る リス ク を考 慮 して の行 動 で あ る .企 業 が 多額 の 資 本 と高 度 な技 術 を投 資 して 設立 した法 人 が ,外 貨 輔 や そ の他 の 政 治 的 理 由 に よ り活 動 を規 制 され て し ま う こ と1まこれ まで に も少 な くな い 。 ま して や政 勧 交 代 を機 に企 業 が 国有 化 され た1りす る こ とは是 が非 で も避 け ね ば な らな い・ 今 日 の企 業 に とっ て,貿 易 の拡 大 と取 引 額 の増 加 は,と り も 直 さず カ ン トリー リス クの増 加 と表 嘉 体 の関 係 に あ る .多 国籍 化 戦 略 の進 展 と と もに,国 際 情 勢 を正 確 に把 握 す る こ とが ます ます 重 要 に な っ て きて い る。 企 業 の国 際 化 戦 略 は今後 も進 む で あ ろ う。 これ まで述 べ て きた4つ の ア プ ロー チ は,相 互 に補 完 的 で あ り,い ず れ も不 可 欠 の視 点 で あ る。 世 界 経 済 が これ か ら も拡 大 し,貿 易 ,投 資 を通 じて の各 国 との 関 係 が ます ます 緊 密 の度 6)拙 稿 「サ ウ ジア ラ ビ ア にお け る 日本 的 経 営 の展 開」村 山 元 英 ・大 泉 光 一 繍 日 本 型 経 営 の現 地 資 源 化 』 白桃 書 房 ,1985年 。 国際企業環境の理論5
を増 して い くとす る な らば,そ れ に伴 う便 益 贋 用 ・ 信 用 の度 合 ・ 繊 の度 合 な どを冷 静 に分 析 して い か な けれ ば な らない 。 (5)地 域研 究 の 軸 上 記 の4つ の ア ブ ・一 チ を縦 に貫 く靴 して・ 地 域 研 究 の視 点 を図1で 導 入 した。 これ は地 域 に対 す る よ り深 く正 確 な理 解 をす る た め に は,そ の国 や 地 域 の民 族,宗 教,文 化 等 に関 す る理 解 と配 慮 が 不 可 欠 だ か らで あ る。4つ の各 ア ブ 。一 チが 基 本 的 に は投 資 をす る側 の 立場 に た っ た分 析 で あ るの に文寸 して,地 域 研 究 の視 点 は相 手 国 の 中 に身 をお い て歴 史 ・ 民 族 ・ 宗 教 を も擦 し よ う とす る もの で あ る。 企 業 が人 に よって成 り立 つ 組 織 で あ る以 上,相 手 国 の人 々 との接 触 は当然 の こ とで あ る.こ れ まで は本 社 で の や り方 を その ま ま導 入 し よ う とす る企 業 が あれ ば,一 方,外 国 の従 業 員 も同 じ人 間 な の だか ら話 せ ばわ か る と安 易 に考 え る経 営 者 も多 か っ た。 海 外 に進 出 し よ う とす る 企 業 の姿 勢 として は この い ず れ か の立 場 とい う よ りも・ そ の間 で あ りさ らに よ り深 い理 解 と交 流 を 目指 す もので な けれ ば な らな い。 地 域 研 究 の軸 が相 手 国 社 会 の 中 で さ らに どの よ う に伸 び てい くべ きか は,後 の節 で 改 め て取 り上 げ よ う。
3国
際企 業環 境 論 の概 念
国 際 企 業 環 境 論 と は 多 国 籍 企 業 と は,2ケ 国 以 上 に お い て 生 産 活 動 を して い る 製 造 業 の 企 業 ・ ま た は事 業 活 動 を 行 っ て い る企 業,と 最 も広 い 定 義 を こ こ で は と っ て お く。 多 国 籍 企 業 の 発 展 過 程 は,19世 紀 の 世 界 経 済 の 発:: Fじ く・ ア メ リ カ を 基 点 に始 ま り,プ ロ ダ ク ト ・ラ イ フ ・サ イ ク ル の よ う に ヨ ー ロ ッ パ,そ して 日 本 へ と続 い て きた.多 国 籍 企 業 の 活 動 に 関 す る研 究 は従 来 も っ ぱ ら直 搬 資 の 効 率 性 を基 準 に し た 企 業 行 動 の 視 点 か らの 分 析 で あ っ た 。 そ の 際 に は,投 6国 際経営論集No21991資 国 にあ る企 業 の本 社 と被 投 資 国 にあ る支店 との上 下 関 係 を と もな っ た組織 の視 点 か らの分 析 に と ど ま らざ るを得 な か っ た(図2の 左側 に あ る本 支 店 関 係)。 しか しす で に述 べ た よ うに,日 本 と諸 外 国 との間 の貿 易 不 均 衡 にみ られ る 国 際 経 済 関 係 の 問題 は,主 体 で あ る企 業 が あ くまで効 率 性 を規 範 として行 動 して きた結 果,相 手 国 の あ る製 品 の 市場 に影 響 を与 え る に と どま らず ,相 手 国 の産 業 構 造 へ の影 響 を通 じて,労 働 市 場,さ らに は経 済 の諸 現 象 の変 化 に 敏 感 な政 治 を もま き込 む に い た っ た。 そ の結 果 が どの よ うに今 日の 日本 の経 済 関 係 に影 響 を与 えた か は,日 米構 造 協 議 な どに み られ る ア メ リカ あ るい は 諸 外 国 か らの厳 しい批 判 を見 れ ば明 らか で あ ろ う。 一 例 をあ げれ ばy1987年 7月 の ア メ リカ議 会 で 当時 の レー ガ ン大 統 領 が 日本 を名 指 しに は しな か っ た もの の,「 い まア メ リカが 求 め て い るの は,自 由貿 易 で は な く,公 平 な貿 易 で あ る。」 と語 っ た こ とか ら も窺 え る。 こ こで 重 要 な こ とは,本 来 効 率 性 を高 図2企 業組織 と社会 との関係 の変化 業 社 企 本 府 会 業 民 会 政 議 企 国 社
→
團
地域本社 現 地法人 支唐 社 会 政府 議会 企業 国民 従 来 の 本 社 ・支 店 関係 今後 の現地法 人のあ りか た 緊密 化す る社会 との関係 国際企業環境の理論7め,そ れ に よ って さ らに望 ま しい資 源配 分 の状 態 を達 成 し よ う とす る 自由競 争,自 由貿 易 の 基盤 とす る効 率 性 基 準 が,結 果 の公 平 を求 め,競 争 条件 の整 備 を求 め る公 平 性 基 準 に移 行 して きた こ とで あ る。 経 済 の基 本理 念 にお い て, 公 平 性 が 無 視 され て きた こ とは なか っ た し,現 在 で も,市 場 の欠 陥 を補 完 す る 目的 か らさ ま ざ ま な財 政 支 出が な され,そ れ に よ って社 会 的公 平 性 を保 と う とい う努 力 は な され て きた。 しか しそ れ はひ とつ の 国 民経 済 の 中 で発 生 す る市場 の欠 陥 を,中 央 政 府 が補 完 す る とい う1国 の閉 鎖 経 済 モ デ ル の なか の で き ご とで あ り,今 日各 国 が 直面 して い る2国 間,あ るい は多国 間 の相 互 依 存 性 を加 味 した グ ロー一バ ル の均 衡 状 態 をめ ざす もの で は ない。 多 国 間 で複 数 の財 市場 に またが り,さ らに登 場 す る経 済 主体 が 国 内 で,ま た対 外 的 に相 互 に利 害 を異 に し,対 立 す る よ うな状 態 が,い ま検 討 し よ う と して い る対 象 に 他 な らな い。 本 節 の は じめ に指摘 した よ うに,海 外 直 接 投 資 に よ って企 業 が 投 資 相 手 国 に進 出 した際 に,い ま求 め られ て い るの は,本 社 との 関係 を いか に保 つ か よ りも,相 手 国 社 会 で い か に して企 業 と して の市 民権 を得,社 会 的 な責 任 を果 た せ るか にか か って い る とい え よ う(図2の 右 側 に あ る現 地 法 人 と地 域 社 会 との 関係)。 この点 は,先 に述 べ た公 平 性 の概 念 よ りさ らに踏 み込 ん だ,よ り積 極 的 な意 味 あ い を も った企 業 の行 動 規 範 の 問題 で あ る。 国 際 企 業 環境 論 で は国 際 経 済 関 係 の 多 国 間 の モ デ ル を,国 境 を つ な ぐ主体 に多 国 籍 企 業 を お くこ とで経 済 上 の接 点 を求 め,企 業 と社 会 の関 係 をグ ロ ーバ ル に捉 えて論 ず る もの で あ る。
4国
際 企 業 環 境 論 の フ レー ム ワ ー ク
国際 企 業 環 境 論 で取 り扱 う対 象 領域 は非 常 に多 岐 に わ た って お り,マ ク ロ 経 済 の構 造 か ら ミクロ経 済 の企 業 に お け る経 営 管 理,組 織 戦 略 に まで お よぶ 。 これ らの多様 な分 析 対 象 を図 に示 し,相 互 の関係 を位 置 づ け た ものが 図3で あ る。 8国 際経営論集No.21991甑 画 肺 筆 婁 督 一 鰻 枢 e 曜 課 駆 潔
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鄭 窓 e 鞍 繁 遡 娘 i 騨 即 潔 麗 熈 霞 脚 即 oり O q .掛 渚 e 蝦 塚 -脚 迦 気 ( ヤ ト 碁 : 卜 興 製 ・ 遡 鷹 Q 鯛 惣 -騨 即 燃 甚 湘 溺 e 翼 懸 避 欺 i 脚 姻 蹄 く 樫 欺 遠 蕊 e ぐ 閣 釧 細 急 輝 暗 輪 、国 厘 塑 蘭 姻 ー 醐 即 髄 洲 塒 督 耀 細 .禦 貫 輪 e 加 騨 1 騨 即 遡 騨 魎 騨 縣 ↑ ー 魎 国 際 企:_境 の 理 論 区 鱗 藻 へ 1 ト く ー ム h e 縄 堺 懸 蘇 禦 継 圃 。。 図図3で は,全 体 を4つ の 象 限 に分 け て い る。 第1象 限 は投 資 国 の国 内 マ ク ロ経 済 事 象 を扱 い,第2象 限 は投 資 国 国 内 の ミク ロ経 済 す な わ ち企 業 行 動 を 示 して い る。 さ らに第3象 限 で は投 資 相 手 国 の ミク ロ経 済,相 手 国 企 業 との 関 係,技 術 等 の経 営 資 源 の移 転 問題 が あ り,第4象 限 で は相 手 国 の マ ク ロ経 済 との 関係,さ らに相 手 国 社 会 との関 わ りを も含 め て対 象 と して い る。 これ ら4つ の象 限 を つ な ぐ原 点 に多 国籍 企 業 が位 置 づ け られ て お り,多 国籍 企 業 の行 動 が,マ ク ロ経 済 に対 して も影 響 力 を持 っ て きて い る こ とを示 して い る。 そ こで第2象 限 の企 業 の行 動 か ら まず 見 て い くこ とに し よ う。 (1)企 業 の 国 際 化 戦 略 企 業 は事 業 規 模 の拡 大 過 程 で,国 内 市 場 に とど ま らず海 外 市 場 へ も事 業 展 開 を計 って い く。 製 造 業 で は製 品 輸 出 を初 め にて が け,つ い で3年 か ら4年 の 市場 開 拓 の後 に,相 手 国 に販 売 拠 点 を設 け,さ らに6年 か ら7年 後 に生 産 r) 拠 点 を設 立 す る とい う姿 が平 均 的 に み られ た。 このパ タ ー ン は産 業 に よ って, 企 業 の製 品群 に よ っ て異 な るで あ ろ うが,過 去 の 日本 企 業 の海 外 進 出形 態 の 一 例 に な ろ う。 特 に,1985年 の先 進5力 国蔵 相 ・中央 銀 行 総 裁 会 議(G5)の プ ラザ合 意 以 降 の ドル安,円 高 が企 業 の経 営 戦 略 に大 きな影 響 を与 えて きた。 円 の 高騰 に よ って も原 材 料 な どの輸 入 品 価 格 が 低 下 せ ず,一 方,輸 出 した製 品 の現 地 販 売 価 格 が 引 き上 げ に く くな って くれ ば3そ の解 決 は も はや 企 業 に とっ て国 内 に と どま る こ との難 しさ を痛感 させ た だ け で あ っ た。 さ ら に加 えて,経 済 摩 擦 の批 判 が 企 業 の製 品 輸 出 に 向 け られ る よ う にな る と,企 業 に とって 日本 国 内 で操 業 す る こ とは,む しろ経 済 合 理 性 に反 す る よ うに な っ て し まっ た。 こ こで 日本 とア メ リカ の製 造 業平 均 賃 金 を比 較 して み る と次 の よ うに な る。 7)拙 稿 「地 域 開 発 と産 業 の 国際 化 」 日本 経 済 政 策 学 会 年報,第33号,『 地域 開 発 と産 業 政 策 』 勤 草 書 房,1985年 。 10国 際経営論集No.2199]
表1日 米 の製 造 業 平 均 賃 金(時 間 給 換 算 ・ ドル 蒙 示) 1985198619871988 日 本 ア メ リカ 6,998,249 ,8214.31 9,549,739.9110 .14 出典:日 本 労働省,ア メ リカ 商務省 の統計 各年版 平均賃 金 を各年の為替 レー トの平均値 で割 った値 表1で 注 目 した い の は,日 米 の平 均 賃 金 の格 差 が 円高 以 降 急速 に縮 小 し, 1988年 に は 日本 の賃 金 水 準 が ア メ リカの それ を超 え て し まっ た こ とで あ る 。 す で に指 摘 した企 業 の 海 外 直 接 投 資 が,経 営 戦 略 と して 合 理性 を持 つ こ とは , この 日米 の賃 金 格 差 を見 て も明 らか で あ る。 敢 えて言 うな ら ば,近 年 の 日本 企 業 の対 米 直 接 投 資 の増 加 は,ア メ リカ とい う大 きな マ ー ケ ッ トで ,低 賃 金 の労 働 者 を雇 用 で きる利 点 が あ っ た か らに他 な らな い。 海 外 進 出 日系企 業 の 進 出動 機 と して,現 地 生産,情 報 収 集,経 済 摩 擦 回避 な どが あ げ られ て い る。 低 賃 金,労 働 力 確 保 とい う理 由 は,対 ア ジ ア投 資 の場 合 に限定 され て い たが, 平 均 賃 金 水 準 で み る限 り,対 米 投 資 で も当 て は ま りそ うで あ る。 最 近 の 日本 国 内 にお け る労働 市場 で の人 手 不 足 問題 は深 刻 の度 を増 して お り,企 業 が 国 際 化 戦 略 を とる こ との新 た な理 由が 生 じて きて い る とい え よ う。 企 業 の国 際 化 戦 略 は雇用 確 保,賃 金 コ ス トの抑 制 とい う企 業 内部 の 必 要 欠 くべ か らざ る条 件 の変 化 に よっ て も起 こる こ とが わ か っ た が,次 に企業 が 国 境 を超 えて事 業 を展 開 す る と き,投 資 相 手 国 で どの よ うな こ とが 起 こるの か を,先 の 図3の 第3象 限 に そ くして み て い こ う。 ② 企 業 の 現 地化 第3象 限 の 要点 は国 際 分 業体 制 の進 展,経 営 資 源 の移 転,経 営 組 織 の改 革 の3点 に な ろ う。 国 際 分 業 は水 平 的 分 業,垂 直 的統 合 と合 わ せ て,企 業 の拠 点戦 略 に立脚 した行 動 で あ る。 従 来 の国 際 分 業 の形 態 で は,日 本 国 内 で 生 産 国際企業環境の理論11
す る に は人 件 費 等 で コス ト割 れ をす る場 合,労 働 集 約 的 な製 造 工 程 のた め, 労 働 力 が 確 保 で きな い場 合 な どが 主 で あ っ た。 近 年 の海 外 直 接 投 資 で は企 業 が世 界 戦 略 の 中 で各 国 の生 産 拠 点 を ネ ッ トワ ー ク化 し,文 字 通 りの グmバ ル ・ロ ジ ス テ ィク ス と して拠 点 を位 置 づ けて きて い る(拙 稿,1988年)。 国 際 分 業 が 現 地 調 達 を増 や す よ う に な って くる と,進 出企 業 の 相 手 国産 業 構造 との関 係 は,地 場 企 業 とい か に して協 力,協 調 関 係 を持 て るか に か か っ て くる。 その段 階 に な る と企 業 の持 つ経 営 資 源 の移 転 が どの よ う に進 む か が 問 わ れ て くる。 技術 者,経 営 者 と現 地 雇 用従 業 員 との労 使 関係,人 間 関係 さ らに は,経 営 情 報 の共 有 化 な ど従 業 員 の 動機 付 け に つ なが る さ まざ まな努 力 8) が求 め られ る。 相 手 国 の技 術 水準,企 業 の対 応 等 で 一 般 化 す る こ とは難 しい が,技 術 移 転 に関 して は,ア ジ ア諸 国 か らみ た 日本 企 業 の対 応 は,き わ め て消 極 的 に映 っ て い る。 技 術 に は最 新 の機 械,機 器 や 先端 技術 の特 許 等 に代 表 され る形 の あ る技 術 い わ ば テ ク ノ ロ ジー と,現 場 の職 人 が 経 験 と勘 で身 につ けた技 能 い わ ばア ー トの部 分 が あ る。 多 くの ア ジ ア諸 国 が期 待 して い るの は,先 端 技 術 で あ り,最 新 の研 究 成 果 に基 づ い た テ ク ノ ロ ジー で あ る。確 か に先 端 技術 は今 後 の発 展 可 能 性 が 大 き く,投 資 収 益 も高 い こ とか ら期 待 感 が 強 い ので あ るが, 相 手 国 に お い て そ の技 術 を受 け止 め,さ らに製 品化 を推 進 して い くに は,相 当 な技 術 力 の蓄 積 が 必 要 で あ る。 とこ ろが 多 くの場 合,発 展 途 上 国 の地 場 産 業 の技 術 水 準 は そ の よ うな技 術 を 自家 薬 篭 中 の もの とす る に は不 十分 で あ る。 技術 は基 本 的 に は さ ま ざ ま な製 造 技 術 の積 み上 げ の上 で,高 度 技術 が 花 開 くの で な けれ ば,所 詮,脆 弱 な産 業 基 盤 の上 の砂 上 の楼 閣 で しか な い。 技 術 はそ の 国,そ の産 業 に最 適 な水 準 の ものが 導 入 され るべ きだ とい う適 正 技 術 の 問題 を,そ れ に よ っ て発 展 途 上 国 の成 長 をむ しろ磐 石 にす るた め に,考 え 8)佐 久 間 賢 「日系家 電5社 の現 場 管 理 ス キル の国 際 比 較 」 神 奈 川 大 学 国 際 経 営 研 究 所 『国 際経 営 フ ォー ラム!第1号,1989年 。 12国 際経営論集No,21991
て お く必 要 が あ ろ う。 経 営 組 織 改 革 の視 点 は,近 年 企 業 が よ り きめ の細 か い ,相 手 国 の現状 に あ っ た経 営判 9)す る必 要 が あ る との舳 か ら譲 数 本 社 制 や 分 社 化 の謝 が な され て い る。 経 営組 織 論 か らの発 想 とは別 に,意 志 決 定 の 現 実 的 な対 応 と して は・ 現 地 法 人 ・ 支 店 が 現 地 で判 断 し,決 定 して い くこ とが不 可 欠 で あ る。 躰 企 業 で は特 に・ 本 社 が 現 地 事情 を正 確 に は把 握 しな い ま ま 日本 側 の論 理 で判 断 す る こ とが 現 在 で も多 い・ 日本 人 役 員 が 所 詮,数 年 単 位 の駐 在 や 出 向 で現 地 法 人 に くるの で あれ ばa結 局 は 日本 を見 な が ら仕 事 をす る こ と しか で きなか っ た の で あ ろ う。 しか し相 手 国 に お け る そ の企 業 の存 在 が ,徐 々 に大 き くな る と,相 手 国事 情 を知 らな い経 営 判 断 とい う もの は あ りえ な い 。 東 南 ア ジ ア諸 国 で大 きな成 果 をあ げ て い る企 業,長 年 にわ た って安 定 した経 営 を 続 けて い る企 業 は IO)現地 法 人 へ の意 志 決 定 の分 権 化 が 進 ん で い る蝶 と考 え て まず 間 違 えが な い。 経 営 資 源 の 移転 で 最 初 に直 面 し,最 後 まで残 るの は人 材 育 成 の問 題 で あ る 。 この点 は進 出企 業 か らす る と,教 育研 修,実 務 研 修 を施 して もむ し ろそ の成 果 を も とに他社 へ 転 職 して し ま う とい う定 着 率 の悪 さが,日 本 企 業 にお い て 深 刻 な問 題 にな って い る・ 詳細 は別 稿 に譲 る として も ,rが お こな っ た共 同研 究 に お い て,任 用 昇 格 な どの処 遇,権 限 の委 譲 を相 手 国 の事 情 に合 わ せ
て欝
す る こ とで湘
当程 度 防 げ る との結 果 がで て い る こ と指 摘 してお き
た い 。 9)衣 笠 洋 輔 「日本 企 業 の 国際 化 戦 略 の新 展 開 」 神 奈 川 大 学 経 営学 部 掴 際 雛 論 集 』 第1号,白 桃 書 房,1990年 。 10)拙 稿 「ASEAN地 域 へ の 産 業 協 力 の課 題 」 国 鰹 済 学 会 年 報r国 際 繍 』 第 38号,世 界 経 済 研 究 協 会 ,1987年 。 lD中 小 企 業 研 究所 『研 修 事 業 の海 外 展 開 と海 外 か らの研 修 生 受 入 れ に関 す る報 告 』 報 告 書 番 号90-11,中 小 企 業 事 業 団,1990年 。 国 際 企 業 環 境 の理 論13⑧ 緊 密 化 す る国 際 経 済 関 係 次 に図3の 第1お よび 第4象 限 を み て い こ う。 企 業 の多 国 籍 化 戦 略 で 見 て きた よ うに,企 業 の海 外 直 接 投 資 は相 手 国経 済 に大 きな影 響 を与 え る ばか り で な く,自 国 す な わ ち投 資 国 に もさ まざ まな影 響 を及 ぼ して い る。1980年 代 半 ば に 日本 で いわ れ て い た産 業 の空 洞 化 が そ れ で あ る。 生産 部 門 が海 外 に移 転 す るた め に,国 内 の生 産 設 備 が遊 休 化 し,余 剰 労働 力 が 排 出 され て労働 市 場 で の 失業 が 発 生 す る との考 え方 か らで て きた 。現 実 に は1986年 か らの景 気 上 昇 局 面 に支 え られ て,鉄 鋼 業 で も粗 鋼 生産 量1億 トンの状 況 で,空 洞 化 論 も忘 れ 去 られ た感 が あ る。 しか しなが ら,日 本 の産 業 構 造 が技 術 集約 的 な産 業 に移 行 し,第3次 産 業 の付 加 価 値 比 率 が 着 実 に上 昇 して い る こ とを みれ ば, 製 造 業 の 内部 で構 造 的 な変 化 が 進 行 して い る こ とは否 定 で きな い 。 産 業構 造 が 調 整 過 程 に あ る こ とを想 定 す れ ば(拙 稿 前 掲 論 文1988年),マ ク ロ経 済 か らの投 資 国 と相 手 国(被 投 資 国)の 関係 は,単 に企 業 段 階 の貿 易 や投 資 を通 じて行 わ れ る通 商 関 係 とは別 の 次 元 で対 応 して いか な けれ ぼ な ら な い で あ ろ う。経 済 協 力 ・援 助 の あ りか た と基 本 理 念 は,こ こで考 えて い る 企 業 の行 動 規 範 とは相 容 れ な い ものが あ る。 政 府 の お こな う経 済援 助 は基 本 的 に は発 展 途 上 国 の社 会 資 本 整備 な ど,産 業 基 盤 を形 成 す る もの に な る。 こ れ らの投 資 は工 業 化 や 経 済 発 展 に とっ て不 可 欠 で はあ って も,そ れ か ら生 み 出 され る社 会 的 な利 益 が長 期 にわ た り,懐 妊 期 間 が 長 い た め,企 業 の投 資 に はな りに くい 。 そ の よ うな社 会 資 本 整 備 は,し たが って先 進 国 の援 助 協 力 が 必 要 に な る。 国際 社 会 の一 員 として 日本 に対 す る期 待 は ます ます 高 まって い る。 国際 企 業 環 境 論 の フ レー ム ワー クで は,相 手 国 の投 資 環 境 整 備 とい う点 で,二 つ の国 をつ な ぐ役 割 と位 置 づ けが,こ の経 済 協 力 ・援 助 にあ る とい え
謬 。
12)拙 稿 「経 済 援 助 政 策 」 黒 川 和 美 ・大 岩 雄 次 郎 編 『ゼ ミ ナ ー ル 経 済 政 策 』 有 斐 閣 ブ ッ ク ス,199ユ 年 。 14国 際 経 営 論 集No21991さ らに資本 移 動 か ら派 生 して くる累積 債 務 の問 題 は,金 融 資本 市 場 に も影 響 を与 え るで あ ろ う。 企 業 環 境 に とって の重 要 な部 分 と して ,資 金 の調 達, 運 用 が あ り,実 物 面 だ けで な い経 済 の事 象 を的 確 に捉 え,理 解 して い くた め に も・ 累 積 債 務 問題 に代 表 され る国 際 資本 移 動 の側 面 へ の考 察 が必 要 にな13) 。 国 際 企 業 環 境 論 の これ か らの重 要 な課 題 にな る もの が,第4象 限 に あ げ た 現 地 化 の必 要性 以 降 の流 れ で あ る。 これ まで の論 点 が発 展 途 上 国 に固 有 の課 題 で あ っ た の に対 して,現 地 化 の要 請 ,そ れ に伴 う諸 課 題 は,海 外 進 出企 業 が何 処 にお い て も直 面 す るで あ ろ う相 手 国 の社 会 との接 点 を何 に求 め る か と い う問題 で あ る。 外 国 に あ っ て は社 会 慣 習 ,制 度 な ど,そ の国 の歴 史,宗 教, 民族 的 特 質 か ら派 生 して きた もので あ る。 人 間 と して は互 い に な ん ら変 わ る こ とが な い に も拘 わ らず,海 外 進 出企 業 の失 敗,撤 退 事 例 で例 外 な く挙 が る のが,相 手 国 の パ ー トナー との対 立 ,労 務 人 事 上 の問題 で あ る こ とを考 え る と,表 現 形 態 の違 う文 化 に出会 い,そ の文 化 とい か に相 互 作 用 を保 っ て い く か が,ま ず 第1の ポ イ ン トに な る。 そ して相 手 の文 化 を異 文 化 と して忌 避 す る こ と は論 外 で あ るが,単 に文化 的 な背 景 の違 い を認 め合 うだ けで は社 会 に お け る企 業 の あ り方 と して 消極 的 な感 を免 れ な い。 む しろ相 手 国社 会 に どの よ うに して とけ込 め るか,そ の積 極 的 な行 動 の規 範 と して,い ま企 業 に求 め られ て い る の は,自 国 の社 会 と同様 相 手 国 社 会 に お け る企 業 の社 会 的 責 任 の 自覚 ,敢 え て い うな ら 「社 会 性 」 で あ る。 企 業 が 地 域 社 会 と共 に行 動 し,発 展 して い くこ との意 義 を認 め て いか な けれ ば な ら ない 。 日本 製 の さ ま ざ まな 品物 が世 界 の市場 を席 巻 して い るが ,ア ジ ア の諸 国 に お い て,日 本 製 品 の品 質 を除 く と,日 本 に対 す る評 価 が 必 ず し も高 くな い の は,日 本 人 の顔 が 見 え な いか らだ といわ れ て い る 。 日本 人 の暮 しや もの の考 え方 が,相 手 国 の人 々 に伝 わ って い な い そ の事 実 を,私 た ち は考 えて い 13)拙 稿 「金 融 ・資 本 市 場 の市 場 開放 」 国 際経 済 学 会 年 報 『国際 経 済』 第36号 , 世 界 経 済 研 究協 会,1985年 。 国際企業環境の理論15
か な け れ ば な ら な い 。