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日本獣医腎泌尿器学会誌

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Academic year: 2021

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(1)

はじめに

近年ネコ飼育頭数の増加傾向に伴い獣医臨床現場 においてネコの下部尿路疾患(Lower urinary tract disease(LUTD))を治療する機会が増えつつある中で、 原因の特定に至らず治療方針の決定に時間を要する症 例も少なくない。中でも下部尿路疾患の 2-10%の症 例において細菌感染が認められる[1, 2]。一般的にネコ の尿比重は高値に保たれ、比較的尿路感染の発症は少 ないものの、腎機能低下のような病態では尿比重の低 下などの要因により尿路細菌感染を起こしやすくなる。 特に高齢ネコにおいては、糸球体腎炎、間質性腎炎等 の発症に伴い尿比重の低下を原因とする尿中細菌感染 による膀胱炎が多く認められる[3, 4]。また、年齢に関 係なくストラバイト結石(リン酸マグネシウムアンモ ニウム結石)やシュウ酸カルシュウム結石による尿路 ■ 要約 ネコの下部尿路疾患の2-10%の症例において細菌感染が認められる。MALDI-BioTyper Systemを応用 し、ネコの尿における直接菌種同定を試み、時間の短縮について検討を行った。2015年8月10日から 2016年3月31日の間に前田獣医科医院に受診し、細菌性膀胱炎と診されたネコ43匹の尿を検体とした。 MALDI-BioTyper Systemによる細菌の同定は、グラム陰性菌で92.0%、グラム陽性球菌で37.5%であり、 検体採取後30分で同定可能であった。本法は、尿中細菌同定分析を短時間で同定が可能な方法である。 ■ Abstract

Several studies have reported urinary tract infection of felines with LUTD accounting for 2–10% of cases. We performed direct identification of bacteria in urine using pretreatment kits for the direct application of positive blood culture bottles to MALDI-TOF MS. Urine samples collected from 4 3 cats with bacterial cystitis brought to Maeda Veterinary Hospital between August 10, 2015 and March 31, 2016 were used in the study. The MALDI Sepsityper Kit correctly identified 23 enteric negative bacteria (92.0%) and 6 gram-positive cocci (37.5%). This method employing the MALDI Sepsityper Kit for pretreatment is a quick and reliable method for the identification of bacteria from infected urines.

日本獣医腎泌尿器学会誌,10(1):50-54,2018

Keywords

  質量分析計,尿,細菌同定

前田浩人

1)

Hiroto MAEDA

,曽川一幸

2)

,林 加織

2)

,石毛崇之

3)

,阿部抄織

1)

砂川知宏

1)

,谷川滋子

1)

,金岩篤司

1)

,三品美夏

4)

,渡辺俊文

4)

,古畑勝則

5) 1)前田獣医科医院 2)麻布大学生命・環境科学部生化学研究室 3)千葉大学医学部附属病院検査部 4)麻布大学獣医学部付属動物病院 5)麻布大学生命・環境科学部微生物学研究室

ネコ尿検体に対してMALDI Bio Typer Systemを応用した

直接菌種同定の検討

Examination of the MALDI BioTyper system with MALDI-TOF MS for rapid identification

of microorganisms causing bacterial urinary tract infection from cat urine samples

(2)

結石や腫瘍等を原因とした腎不全に起因した細菌感染 が認められ、膿腎症に至る症例も散見されるなど尿中 細菌同定及び薬剤感受性検査の重要性が増しつつある。 組織や体液に存在しているすべての蛋白質を網羅的 に解析するプロテオミクス研究はその解析技術の進歩 と相俟って、近年急速に展開している[5]。質量分析 法はプロテオーム解析における最も重要な手法であるが、 質量分析計を用いた細菌同定は、1975年にAnhaltら[6] によって、ペプチドスペクトルをベースとしたパター ンマッチングによる同定が行われた。近年、高い迅速 性と正確性を有し、しかも低コストの細菌同定手法と して、質量分析計が注目されている。2011 年に医療 機器として認定され、日本国内に約 150 ヶ所の病院・ 検査センターの細菌検査室で細菌同定のツールとして 運用されている。従来細菌の同定には、主に形態学的 手法(グラム染色、コロニーの形状やその大きさ)や 生化学的手法が用いられている。しかしながらいずれ の手法も煩雑な作業であり高い専門性が要求される。 高い識別能力がある 16S rRNA を指標とする手法は、 多くの検体を一度に解析することが難しく、日常的に 用いることは困難でありコストがかかる。質量分析計 による細菌同定はサンプル調整が容易で、測定操作も 簡便であり、一菌種約5分で同定結果が得られる[7, 8] この特徴を活かして、煩雑な試料前処理を行わず、属 や種を容易に識別することのできる手法として注目さ れている[9, 10] 今回我々は、MALDI-BioTyper System を応用し、 ネコの尿における直接菌種同定を試み、検査の感度及 び時間の短縮について検討を行った。

材料および方法

対象 2015 年 8 月 10 日から 2016 年 3 月 31 日の間に前田獣 医科医院に受診され、細菌性膀胱炎と診断されたネコ 43匹(雑種;雄30匹、雌13匹、0-19歳)を対象とした。 採尿は、仰臥位にて超音波装置にて膀胱の位置を確 認後、25G注射針にて皮膚より膀胱穿刺し採尿を行った。 尿検体は採尿後すぐに 4℃に保管し、6 時間以内に 従来法及び質量分析計で細菌同定を行った。 従来法による細菌同定 トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地(日本 BD)に 1μL の原尿を塗布し、37℃、18-24 時間培 養した。血液寒天培地に発育したコロニーを調整し、

MicroScan WalkAway system(Siemens Healthcare Diagnostics)で菌種を同定した。

16S rRNA 遣伝子のシークエンス解析

トリプチケースソイ 5%ヒツジ血液寒天培地で 24 時 間 培 養 し た コ ロ ニ ー か ら 集 菌 し、MagNAPure Compact DNA isolation kit 1(Roche Molecular Biochemicals)を用いて DNA 抽出を行なった。16S rRNA遺伝子のPCR増幅用プライマーには、8UA(5’ -AGAGTTTGATC(A/C)TGGCTCAG-3’、 不 変 領域)と1485B(5’-TACGGTTACCTTGTTACGAC -3’、不変領域)を用いることによりほぼ全長1500bp の PCR 産物を得た。PCR には 1x GoTaq Master mix (Promega)、終濃度 0.5μM のプライマー(8UA およ び1458B)を使用し、温度条件は初期変性95°C、5分 間、続いて変性 95°C、30 秒間、アニーリング 55°C、 30秒間、伸長72°C、90秒間を30サイクル、最後の伸 長を72°C、5分間で行った。シーケンス用プライマー に は、519A(5’-CAGC(A/C)GCCGCGGTAAT- 3’、不変領域)、519B(5’-ATTACCGCGGC(G/T) GCTG-3’、不変領域)、907A(5’-AAACT(T/C) AAA(T/G)GAATTGACGG-3’、不変領域)、907B(5’ - CCGTCAATTC(A/G)TTT(A/G)AGTTT - 3’、 不 変 領 域 ) を 用 い、Applied Biosystems 3130/ Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で塩基配列 を決定した。塩基配列の既存菌種との相同性検索は、 GenBank/EMBL/DDBJデータベースを利用した。 MALDI Sepsityper Kit及び質量分析による同定

血液陽性ボトルから直接MALDI-TOF MSで同定す る前処理キットであるMALDI Sepsityper Kit(Bruker Daltonics)を用いて尿の直接同定を行った。尿路感 染を伴う LUTD の尿中には多くの白血球や赤血球、 細菌が含まれるので、サンプルの前処理は上皮細胞や 血球成分の除去のため500 gで5分間遠心分離を行った。 白血球の除去のため 2000 g で 30 秒間遠心分離し、さ らに細菌回収のため15500 gで10分間遠心分離を行っ た[11, 12]。沈渣物を 1 mL の蒸留水(D.W)、200μL の Lysis buffer で血液細胞を溶解[13]後、21130 g で 1 分 間遠心分離した。沈渣物を 300μL の D.W、900μL の エタノールで洗浄後、15μL の 70%ギ酸、15μL のア セトニトリルで混合した。その溶液 1μL を質量分析 計のMTP BigAnchorChipターゲットプレート(Bruker Daltonics)上に添加し、乾燥後1μLのα-シアノ-4- ヒドロキシケイ皮酸(CHCA;Bruker Daltonics)マ

(3)

表3 細菌同定の一覧

従来法 MALDI Sepsityper法 16S rRNA法

(菌株数) (菌株数) (菌株数) No reliable identification (1) Enterobacter cloacae (1) No reliable identification (1) Escherichia coli (17) Klebsiella pneumoniae (5) グラム陰性菌 (25) 92.0% (23/25) 100.0% (25/25) Enterococcus faecalis (3) No reliable identification (7) Staphylococcus aureus (3) No reliable identification (3) グラム陽性菌 (16) 37.5% (6/16) 100.0% (16/16) 総数 (41) 70.7% (29/41) 100.0% (41/41) Enterococcus faecalis (10) Staphylococcus aureus (6) Enterococcus faecalis (10) Staphylococcus aureus (6) Citrobacter freundii (1) Enterobacter cloacae (2) Escherichia coli (17) Klebsiella pneumoniae (5) Citrobacter freundii (1) Enterobacter cloacae (2) Escherichia coli (17) Klebsiella pneumoniae (5)

1.0×10

8

5.0×10

7

1.0×10

7

5.0×10

6

1.0×10

6

5.0×10

5

1.0×10

5

E. coli

2.341

2.333

2.321

2.301

2.284

2.184

1.988

E. faecalis

2.132

2.130

2.122

2.115

2.001

1.774

1.662

菌種

細菌数による

MALDI-TOF MSスコア(CFU/mL)

表1 MALDI Sepsityper Kitにより前処理とした質量分析計による細菌同定の最低検出感度 0.000-1.699 1.700-1.999 2.000-3.000 コロニーあり (N=33)    1菌種 (N=25) 4 0 21    2菌種 (N=8) 8 0 8 コロニーなし(N=10) - - -質量分析法同定スコア 菌株数 尿の培養 (検体数) 表2 尿検体の培養及びMALDI Sepsityperによる同定

(4)

トリックス溶液を添加し乾燥後、AutoFlex II TOF/ TOF MS(Bruker Daltonics)で測定した。得られた マススペクトルを菌種ごとにマススペクトルをデー タ ベ ー ス 化 し た MALDI BioTyperTM 2.0(Bruker Daltonics)で照合し、Score valueが2.000以上を種レ ベルの同定とした。Score value において、種レベル の同定は2.000-3.000、属レベルの同定は1.700-1.999、 同定不可は0.000-1.699と数値で表示される[9, 10] 尿検体に含まれる菌数の算出 希釈平板法により菌数の算定を行った。トリプチケー スソイ 5%ヒツジ血液寒天培地(日本 BD)に 1μL の 原尿を塗布し、37℃、18 時間培養した。血液寒天培 地に発育したコロニーをカウントした。

結果

MALDI Sepsityper Kitにより前処理とした細菌 同定の最低検出感度

E. coli(ATCC8739)ではスコアが2.000以上は5.0× 105 CFU/mL であり、E. faecalis(ATCC19433)では

スコアが2.000以上は1.0×106 CFU/mLであった(表1)。

尿検体の培養

43 検体において、従来法では培養陰性が 10 検体、 1 菌 種 陽 性 が 25 検 体、2 菌 種 陽 性 が 8 検 体 あ っ た。 MALDI Sepsityper Kit を前処理とした質量分析計に よる細菌の同定率は、1 菌種含まれる尿検体で 84.0% (21/25)、2菌種同定できた尿検体は0.0%(0/8)であっ た(表 2)。1 菌種含まれる尿検体で同定された 21 検 体は全てスコアが 2.000 以上であり、種レベルの同定 であった。2 菌種含まれている尿検体では 1 菌種はス コアが2.000以上であり、種レベルの同定が可能であっ た。スコアが1.699以下で同定されなかった12菌種は 菌量が1.0×105 CFU/mL以下であった。 細菌同定

MALDI Sepsityper Kit で前処理とした質量分析計 による細菌の同定率は、グラム陰性菌で92.0%(23/25)、 グラム陽性球菌で 37.5%(6/16)であった(表 3)。 グ ラ ム 陰 性 菌 で は Citrobacter freundii が 1 株 と Enterobacter cloacaeが1株同定できず、グラム陽性球 菌 で は Enterococcus faecalis が 7 株 と Staphylococcus aureusが3株同定できなかった(表3)。同定されなかっ

た12株は全て菌量が1.0×105 CFU/mL以下であった。

従来法で同定された41株すべてにおいて、16S rRNA 遣伝子のシークエンス解析は同定可能であった(表3)。

考察

今回実施したMALDI Sepsityper Kitの前処理によ る MALDI-TOF MS 法は 1 菌種含まれる尿検体の同 定は 84.0%であり、既報と同等な同定一致率であっ た。特に E. faecalis で既存の検出方法に比較して同 定率の向上が認められ、E. faecalisの検出感度限界は 1.0×106 CFU/mLであった。FerreiraらはE. faecalis の検出限界を検討し、1.0 × 105 CFU/mL から 1.0 × 106 CFU/mLに菌量を調節して行っているが、スコア が 2.000 以上の結果は得られていない。Ferreira らや Kimらの細菌回収法では2000 gで30秒間遠心分離し、 その後15500 gで10分間遠心分離を行っている。我々 は、上皮細胞や血球成分除去のために、初めに500 g で5分間遠心分離を行うことにより、グラム陽性球菌 の回収率が向上した。 2 菌 種 含 ま れ て い る 尿 検 体 で は、MALDI-TOF MS 法と既存の検出方法との同定一致率は低かった。 MALDI-TOF MS法は平板培地による単コロニーに対 応したシステムであるが、今回使用した尿検体におい て 1 菌種は 1.0 × 106 CFU/mL 以上であったが、もう 一菌種は 1.0 × 105 CFU/mL 以下であり、最低検出感 度に達していないため評価は難しい。 既存の尿培養検査では、検査結果の確定に、48 -72 時 間 を 要 す る[14]が、MALDI-TOF MS 法 は、

MALDI Sepsityper Kit で尿検体を処理後、MALDI-TOF MSで分析、MALDI BioTyper自動化ソフトウェ アで菌種を同定することにより約 30 分で菌種同定を 確定できという利点がある。一方で、細菌同定に 1.0 ×106 CFU/mL以上の菌量が必要であり、既存の尿培 養検査に比較して同定率が低いことから、感染症を見 逃す可能性が考えられる。 今後は尿からの集菌方法の改良を行い、より少ない 菌量において、好発菌種感染、多菌種感染等の尿感染 における同定率の向上を検討することや真菌に対し検 出率を向上させる方法を確立していく。

謝辞

本研究は「科学研究費助成事業(学術研究助成基金 助成金)」(基盤研究(C),16K08979)、「麻布大学研 究推進・支援本部補助金」の助成を受けてものである。 質量分析計による尿検体からの直接同定-前田浩人

(5)

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参照

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