遺伝子から見た根寄生植物の生存戦略
吉田 聡子
1・ 若竹 崇雅
1,2・白須 賢
1,21理化学研究所 環境資源科学研究センター
2東京大学大学院 理学系研究科
A molecular view of survival strategies of root parasitic plants
Satoko Yoshida1, Takanori Wakatake1,2 and Ken Shirasu1,21RIKEN Center for Sustainable Resource Science 2Graduate School of Sciences, The University of Tokyo
要旨 : Several parasitic plants in Orobanchaceae, such as Striga and Orobanche, cause devastating damage on agriculture worldwide. Howev-er, the molecular mechanisms of plant parasitism remain poorly understood. Orobanchaceae include species in a different range of parasitism, i.e. facultative and obligate parasites. Facultative parasites complete their life cycle without host plants, while obligate parasites are not able to survive without hosts in a natural condition. Although both parasites respond to quinone signals to develop infectious organs called haustoria, their shapes are distinct. Their responses to germination stimulants are also different. We are conducting genome and transcriptome analyses of an obligate parasite Striga asiatica and a facultative parasite Phtheirospermum japonicum to identify genes responsible for plant parasitism. A transformation protocol of P. japonicum was also established and used for functional characterization of parasitic plant genes.
はじめに 春に河原を散策すると,クローバーの群生の中に何 やら巨大土筆の様な,茶色い植物が顔を出していることが ある.また,冬になって木々が落葉を終えると,その葉を 落とした枝の中にまだ緑色のボール状の植物が見えること がある.前者は外来雑草であるヤセウツボ(またはオロバ ンキの仲間),後者はヤドリギで,これらは他の植物に寄 生して生活する寄生植物である.一般的に高等植物は,太 陽光をエネルギー源として光合成によってつくりだした有 機栄養と土壌から吸収した無機栄養によって成長するが, 寄生植物は他の植物の茎や根に侵入し,その維管束系をつ なげ栄養を奪って成長する.全被子植物のうち約 1% に当 たる 4,000 種ほどの寄生植物が存在し,ヤドリギやネナシ カズラのように植物の茎に寄生する茎寄生植物と,ヤセウ ツボのように根に寄生する根寄生植物がある.寄生植物は 複数の科にまたがって存在し,被子植物の進化の過程で 12-13回の独立した進化によって生じたと考えられている (Westwood et al. 2010).寄生植物は生活環の宿主への依存 度によって,独立栄養でも育つことのできる条件的寄生植 物と,宿主なしでは生活環を回すことのできない絶対寄生 植物に分けられる(図 1).条件的寄生植物は光合成能を 持ち,緑の葉をつけるため一見して寄生植物には見えない ものがほとんどである.一方で,絶対寄生植物には,光合 成能を保持している半寄生植物と,光合成能を失った全寄 生植物がある.全寄生植物の中には,葉が完全に退化し, 地中から花だけがひょっこりと顔を出した,何とも奇妙な 姿をしているものもある. 絶対寄生植物のいくつかは,重要な穀物や野菜類に寄生 し世界的な農業上の脅威となっている.特に,ハマウツボ 科の絶対半寄生植物であるストライガ (Striga spp.)はア フリカの半乾燥地域を中心にソルガムやトウモロコシ,イ ネなどに寄生しその収量を落とすため,年 10-70億ドルも の農業損失をもたらしていると試算されている(Pennisi 2010 ; Spallek et al. 2013).また,オロバンキ(Orobanche
spp.)やフェリパンキ(Phelipanche spp.)の仲間も,野菜 や花きに寄生し,南ヨーロッパや中近東地域の農業に重大 な被害を与えている(Parker 2009).これら地域では,寄 生雑草の駆除に取り組んでいるが,寄生植物に効果のある 除草剤等は知られておらず,一度広がった寄生雑草被害を 食い止めることは極めて困難である.問題の根本的解決に は,植物寄生の仕組みを理解することが重要であるとの立 場から,筆者らのグループを始め世界中で遺伝子レベルで の寄生メカニズムの解析が進んでいる. 本稿では,特にストライガやオロバンキを含むハマウツ ボ科の根寄生植物に焦点をあて,寄生という特殊な生存戦 略について紹介したい. ハマウツボ科寄生植物 ハマウツボ科には約 90 属が属するが,Lindenbergia 属を除く全ての種が寄生植物である.ひとつの科の中に, 独立栄養植物,条件的寄生植物,絶対半寄生植物および絶
対全寄生植物の全ての寄生レベルが揃っている点で特徴的 である.ハマウツボ科の寄生植物種は,単系統に収束する ため,寄生能力の獲得は一回の進化で起こったと推定され て い る(Bennett and Mathews 2006 ; McNeal et al. 2013). 独立栄養生長と従属栄養生長の両方をおこなうことができ る条件的寄生植物は,絶対寄生植物に比べ進化的に早く生 じたと考えられる.系統解析によると,ハマウツボ科植物 は大きく 6 クレードに分かれる.クレード 1 は独立栄養植 物である属で構成され,他の寄生植物のみからなる 5 つの クレードのうち 3 つは光合成能を失った絶対全寄生植物を 含む(McNeal et al. 2013).異なるクレードで独立に絶対 寄生植物が出現していることから,条件的寄生から絶対寄 生への進化は独立に複数回おこったと考えられている. 全ての寄生レベルを包括するハマウツボ科は,寄生能の 図 1 条件的寄生植物と絶対寄生植物の比較
A. 左からコシオガマ(P. japonicum),ストライガ(S. hermonthica)とオロバンキ(O. minor).B. それぞれの種の特
徴の比較.S. hermonthica は 70% 程度の糖分を自身の光合成で賄う(Press et al. 1987).
図 2 ハマウツボ科寄生植物の吸器
A. ストライガの頂端吸器.B. 宿主トウモロコシ(H)に寄生したストライガ(Sh).C. 宿主イネ(H)に寄生する
コシオガマ(Pj).D. コシオガマ側生吸器.サフラニン染色の後,組織を透明化した.矢印は導管細胞を指す.スケー ルバー : 200 µm
獲得と,独立栄養から従属栄養生活への移行の進化を解析 する上で最適な材料である.我々のグループでは,日本に 自生する条件的寄生植物コシオガマ(Phtheirospermum
ja-ponicum)をモデル植物と位置づけ,解析を進めている.
また,農業被害の最も大きい絶対半寄生植物であるストラ イガ(Striga hermonthica, Striga asiatica および Striga
gesnerioides)を用いてトランスクリプトームおよびゲノ ム解析を進めている.両者を比較することにより,ハマウ ツボ科寄生植物における寄生メカニズムの解明を目指して いる. 吸器形成 独立栄養植物が寄生植物へ転換する際の,鍵となる 現象は吸器(haustorium)の形成であろう.ハマウツボ科 寄生植物における吸器は膨らんだ根の一部であり,宿主へ の付着および侵入に必要な器官である.宿主根に侵入した 吸器は,宿主と寄生植物の維管束をつなげ宿主からの栄養 吸収を可能にする(図 2).条件的寄生植物は根の側面を ふくらませ側生吸器(lateral haustorium) を形成する.側生 吸器が形成されても寄生植物の根は先端成長を止めず,さ らに伸長を続けるため,条件的寄生植物ではひとつの根に いくつもの吸器が形成される.これに対し絶対寄生植物は, 幼根の先端成長を停止し根端を吸器へと変化させる(図 2A).この絶対寄生植物の吸器を頂端吸器(terminal haus-torium)もしくは一次吸器(primary haustorium)と呼ぶ. 頂端吸器は根端分裂組織の不可逆的な再分化により形成さ れるため (Smith et al. 1990),絶対寄生植物における頂端 吸器の形成は主根の伸長とトレードオフの関係にある.な お,絶対寄生植物は,頂端吸器で寄生を成立させた後にさ らに不定根を発生し,この不定根には側生吸器(二次吸器 secondary haustoriumとも呼ぶ)が形成される.側生吸器 は一見して,側根に近い形状であるが,側根が内鞘組織の 分裂により内生的に形成されるのに対し,吸器は表皮およ び皮層組織の肥大と分裂により発生する.さらに,根毛状 の吸器毛の発達を伴う点においても,側根とは異なる. 吸器誘導物質 ハマウツボ科寄生植物の吸器形成は宿主由来の化学 物質によって誘導されることが知られている.Lynn らは 条件的寄生植物 Agalinis purpurea の吸器誘導物質をゴム抽 出液のフラクションから単離し,xenognosin A と
xenogno-sin Bと名付けた(図 3A)(Lynn et al. 1981).さらに,宿
主ソルガムの根抽出液から S. asiatica の吸器誘導活性のあ る 化 合 物 と し て 2,6-dimethoxy-p-benzoquinone(DMBQ) を同定した(Chang and Lynn 1986).その後の in vitro での 吸器誘導実験により,ある一定の酸化還元ポテンシャルを 持つ様々なキノンやフラボノイド類も吸器誘導活性を持つ ことが示され(Albrecht et al. 1999 ; Smith et al. 1996),宿主 根周辺には多様な吸器誘導物質が存在することが示唆され たが,これまでに実際に宿主根から単離同定された吸器誘 導物質は DMBQ のみである.DMBQ は細胞壁構成成分で あるフェノール化合物が酸化されることにより生じる (Keyes et al. 2001).ストライガの幼根は恒常的に H2O2を 生産しており(Keyes et al. 2007),カタラーゼ処理により 吸器誘導が起こらなくなることから(Kim et al. 1998),吸 器誘導物質は宿主と寄生植物の共同作業により生成されて いると考えられている. DMBQを利用して in vitro で協調的に吸器を誘導できる ことから,DMBQ によって誘導される遺伝子群の単離が おこなわれている.Yoder らは,条件的寄生植物である Triphysaria versicolorを材料に DMBQ で誘導される遺伝子 を単離したところ,2 つのキノン酸化還元酵素(Quinone oxidereduc t a se : QR)をコードする遺伝子が強く発現誘導 されることを見出した.TvQR1 を RNAi 法によりノック ダウンすると,T. versicolor の吸器形成率が下がったこと から,TvQR1 は吸器誘導に重要な役割を果たしていると 考えられる(Bandaranayake et al. 2010).TvQR1 はキノン の一電子還元を触媒し,その作用により,反応性の高いセ ミキノンが生じる.セミキノンは活性酸素種 (ROS)を 生じて反応性の低いヒドロキシキノンに変換される.一方 で,2 電子還元を触媒する TvQR2 では,ノックダウン根 で吸器誘導における表現型は確認されていない.TvQR2 の反応は ROS を生成せず,むしろ,キノンを反応性の低 い水酸化型に変化させるため,活性酸素種の除去の役割を 担っていると考えられる.キノンによる吸器誘導活性には 酸化還元ポテンシャルが重要であることが分かっており, TvQR1の反応によって生じるセミキノンあるいは ROS が 吸器誘導シグナルの伝達に関わっているのではないか,と 推測されるが,そのシグナルの実態は未だ明らかにはなっ ていない. DMBQの前駆体であるシリンガ酸や類似のキノンは, 細胞壁分解産物であり,広く植物一般に保存されているた め宿主決定要因にはならないと推察できる.実際,筆者ら は非宿主植物を用いて S. hermonthica の感染試験をおこ なったが,非宿主植物においても吸器の誘導と付着・侵入 がおこることが確かめられた(Yoshida and Shirasu 2009). しかし,条件的寄生植物コシオガマを仮の宿主として,ス トライガ感染試験をおこなったところ,実に 9 割以上が吸 器を形成せずコシオガマ根に侵入しなかった.コシオガマ 根では吸器誘導物質の産生が著しく少ないか,または何ら かの抑制物質もしくは抑制環境要因が存在し,吸器形成を 阻害していると考えられる. 宿主への侵入 寄生植物の吸器は,宿主根へ付着し,宿主の維管束 へ向けて侵入していく.寄生植物細胞が宿主の導管に辿り 着くと,吸器内部の細胞が導管細胞へと分化し,導管を連
結させる.宿主への侵入の際には,寄生植物から分泌され る細胞壁や細胞内産物の分解酵素群が機能していると考え られている.実際にペクチン主鎖の分解に関わるペクチン メチルエステラーゼがオロバンキの吸器と,侵入部位の宿
主のアポプラストで確認されている(Losner-Goshen et al.
1998).Honaas らはレーザーマイクロダイセクションを用 いて T. versicolor が異なる宿主に感染した際の吸器細胞を 特異的に分離し,その遺伝子発現プロファイルを調べたと ころ,細胞壁を弛緩する作用のあるタンパク質として知ら れるエクスパンシンをコードする遺伝子が顕著に発現して いることを見出した(Honaas et al. 2013).エクスパンシン は α 型と β 型の 2 種類あり,α 型は双子葉類,β 型は単子 葉類で働くことが知られている.面白いことに,双子葉で あるタルウマゴヤシに寄生した T. versicolor は α 型エクス パンシンを発現するのに対し,単子葉であるトウモロコシ に寄生した T. versicolor は β 型エクスパンシンを発現する (Honaas et al. 2013).つまり,寄生植物内の遺伝子発現が 寄生する宿主の種によって制御されていることを示してい る.同様に,茎寄生植物のネナシカズラのトランスクリプ トーム解析からも,細胞壁修飾酵素群の発現が吸器の侵入 の過程で上昇していることが確認されている(Ranjan et al. 2014).我々のグループでもストライガの寄生時のトラン スクリプトーム解析から,多数の細胞壁分解酵素およびタ ンパク質分解酵素をコードする遺伝子の発現レベルが宿主 への侵入の過程で上昇するという結果を得ている.しかし, 寄生植物がどのように自身の細胞壁を分解せずに宿主の組 織の中に侵入するのか,という疑問は残ったままである. 発芽における生存戦略 頂端吸器の進化との関連は明らかではないが,絶対 寄生植物はその種子に特徴がある(図 1).ストライガや オロバンキの種子は必要最低限の栄養しか蓄えておらず, 0.2-0.3 mm程度と非常に小さい.この小さい種子は風に 乗って広範囲へと散布され,また容易に土壌の中に到達す る.ストライガやオロバンキの種子発芽には,1-2週間程 度の吸水処理による休眠の打破と,ストリゴラクトンに代 表される他の植物由来の発芽誘導物質の刺激が必要である (Cardoso et al. 2011).このため絶対寄生植物は発芽後すぐ 近傍に宿主植物の根を高確率で見つけることができる.一 方で,条件的寄生植物の種子サイズは多様であり,発芽に ストリゴラクトンの添加を必要としない.他の植物由来の 物質による発芽誘導は,寄生しないと生きていけない絶対 寄生植物のみに備わった生存戦略であると言える. ストリゴラクトンは 1966 年に Cook らによって,スト ライガの発芽誘導物質としてワタの滲出液から単離された (Cook et al. 1966).発見以来 40 年間,寄生植物の発芽誘 導以外の機能は謎のままであったが,21 世紀になって, 共生菌であるアーバスキュラー菌根菌の菌糸誘導活性 (Akiyama et al. 2005)や植物の枝分かれの抑制機能が明ら かになり,多様な植物の生長を制御する植物ホルモンとし て再発見された(Gomez-Roldan et al. 2008 ; Umehara et al. 2008).さらに,ストリゴラクトンは苔類からも検出され ており,植物全般に渡り広く保存されていることが明らか になった(Proust et al. 2011).その生理作用および生合成 経路,シグナル伝達経路の詳細については,過去に多くの
優れた総説があるので参考されたい(Ruyter-Spira et al.
2013 ; Xie and Yoneyama 2010 ; 山 田 ら 2013 ; 謝・ 来 生 2013). ストリゴラクトンが広く植物一般に保存されている植物 ホルモンであれば,絶対寄生植物も産生しているのであろ うか.S. asiatica のゲノム中にはこれまでに報告されてい るストリゴラクトンの生合成遺伝子が保存されており,ス トライガがストリゴラクトンを生合成できる可能性が示唆 される(筆者ら未発表).しかし,これまでにストライガ からのストリゴラクトンの検出は報告されておらず,今後 の解析が待たれるところである. ストリゴラクトンはその一般性から,宿主特異性を決め る要因ではないと考えられている.しかし,種によっては ストリゴラクトン以外の発芽誘導物質に反応することが知 られている.例えば,ストライガはエチレンに応答して発 芽 す る( 杉 本 2009). ま た, ヒ マ ワ リ に 寄 生 す る
Oro-banche cumanaやアブラナ科植物に寄生する Phelipanche ramosaはそれぞれストリゴラクトンとは異なるセスキテ
ルペンラクトンとグルコシノレートの分解産物によって発 芽誘導される (Auger et al. 2012 ; Joel et al. 2011 ; Yoshida and Shirasu 2012).絶対寄生植物の発芽誘導機構は種によっ て異なる進化を遂げている可能性がある. 遺伝子の水平伝播 寄生植物は宿主植物の根の組織の中に侵入するた め,寄生成立時には異なる植物の細胞同士が密接している. 宿主 ─ 寄生植物間では,栄養分だけでなく RNA やその 他の小分子化合物などが盛んにやり取りされている.その 中で,両植物間で遺伝子が水平伝播する現象がみつかって きた.ミトコンドリアや色素体などの原核生物由来のオル ガネラゲノムにコードされた遺伝子については,比較的水 平伝播しやすいことが分かっており,寄生植物と宿主植物 の間でも水平伝播していることが確認されている(Keeling and Palmer 2008).しかし,核コード遺伝子について,遠 縁の高等植物間での遺伝子水平伝播は極めて珍しい.筆者 らはストライガの EST 解析から,宿主であるイネ科植物 からストライガの核ゲノムへ水平伝播した遺伝子を発見し た(Yoshida et al. 2010b).残念ながら,この遺伝子の機能 はわかっておらず,この水平伝播が寄生植物の進化にどの ような影響を与えたかは未知数である.Phelipanche
ナ科植物由来のストリコシジン合成酵素のホモログがみつ かり,系統解析から水平伝播によって得られたものと推定 された(Zhang et al. 2014 ; Zhang et al. 2013).面白いこと にこの 2 つの遺伝子は,茎寄生植物であるネナシカズラの ゲノム中にも見つかり,それぞれ独立した水平伝播がお こったと考えられている.ブドウ科植物に寄生する全寄生 植物のラフレシアの EST 解析からも水平伝播によって得 られたと考えられる遺伝子が多く検出されており(Xi et al. 2012),寄生植物では比較的頻繁に核コード遺伝子の水 平伝播が起こっていることを示唆している.水平伝播した 遺伝子が何らかの生理的役割を持っているのか,寄生植物 の進化に寄与するのかは今後明らかになるであろう.スト ライガゲノムからも水平伝播で得られたと推定される遺伝 子が複数見つかってきており(筆者ら未発表),ゲノム解 読によって,寄生植物における水平伝播の頻度やそのメカ ニズムについても解明のヒントが得られると考えられる. 根寄生植物の大規模遺伝子解析と機能解析 植物寄生を分子レベルでひも解くために,根寄生植 物の大規模遺伝子解析が進んでいる.アメリカのグループ は PPGP(Parasitic Plant Genome Project)と銘打った大規
模 EST 解析をすすめている.このプロジェクトでは,ハ マウツボ科の寄生レベルの異なる 4 種の植物(Lindenbergia
philippensis, T. versicolor, S. hermonthica, Phelipanche
(syn-onym Orobanche) aegyptiaca)の様々な器官や寄生過程に おけるトランスクリプトームを網羅的に解析し,ウェブ上 で公開している(Westwood et al. 2010).我々のグループ では,S. hermonthica の EST データを収集し,データベー スとして公開した(Yoshida et al. 2010a).EST データは, 発現している遺伝子の配列を効率的に集めることができる ため,遺伝子機能解析の第一段階としては大変有用である. 一方で,mRNA 以外の調節領域や発現量の少ない遺伝子 の情報を得るため,我々はストライガのゲノムシーケンス をおこなっている.アフリカにおいて一番被害が大きいこ とから,これまでの解析には S. hermonthica 種が用いられ てきたが,S. hermontica は他科受粉植物のため,そのゲノ ム上のヘテロ接合度が高くゲノムアセンブリが困難になる と予想される.加えて,ゲノムサイズは 1.0∼1.6 Gb 程度 と 比 較 的 大 き い(Westwood et al. 2010 ; Yoshida et al. 2010a).S. hermonthica とほぼ同じ宿主特異性を持つ S.
asi-aticaは自家受粉植物であり,約 600 Mb の比較的小さいゲ
図 3 キノン類によるストライガの吸器誘導
A. 吸器誘導物質及びそのアナログの構造式.XenognosinA (1),DMBQ(2),tetrafluoro-1,4-benzoquinone (TFBQ,
3).
B. 各化合物を使った S. hermonthica の吸器誘導試験.DMBQ では吸器形成が観察されるが,TFBQ ではみら
ノムを持つ(Estep et al. 2012).S. asiatica 種はアフリカと アジア地域に広がるが,1950 年代にアメリカでもその被 害が認められた (Musselman 1980).このアメリカ大陸に 生育する S. asiatica は他の場所から少量の種子が持ち込ま れたもので遺伝的多様性が低いと推測されるため,筆者ら はアメリカ大陸の S. asiatica の全ゲノムシーケンスを進め ている.実際に次世代シーケンサーで読んだリードを解析 すると,そのヘテロ接合度は極めて低く,良好なアセンブ リが得られている.S. asiatica ゲノムの中から寄生に特異 的な遺伝子が見つかることを期待している. 独立栄養から寄生への転換を解明するためには,中間的 な存在である条件的寄生植物を解析に用いるのが適してい る.幸い日本には,多くのハマウツボ科条件的寄生植物が 生息している.その中で,我々はコシオガマ(P. japoni-cum)をモデル植物と位置づけ,解析を進めている.コシ オガマは,研究室内での栽培が容易である,自家受粉植物 である,日長の調節により開花時期をコントロールでき, 最短で 3 カ月程度で世代を回すことができる,など解析材 料として有利な形質を備えている.我々は,Agrobacterium rhizogenesを使った毛状根形質転換により,コシオガマの 根に遺伝子を導入する系を立ち上げた.バイナリーベク ターを持った A. rhizogenes を,超音波を用いて細かく傷つ けたコシオガマ子葉に感染させることにより,導入遺伝子 を組み込んだ形質転換根が作成された(Ishida et al. 2011). 形質転換根は,コシオガマの通常の根のように,DMBQ や宿主植物に反応し,吸器を形成し宿主に侵入することが できる.この系を用いて,コシオガマの吸器形成時の細胞 分裂や植物ホルモンの動態を in vivo で観察できるように なった(図 4).現在コシオガマを用いたトランスクリプ トーム解析,ゲノム解読,変異体スクリーニングを精力的 に進めており,ストライガと合わせて比較ゲノムから遺伝 子機能解析を用いて寄生に関わる機能遺伝子の同定を目指 している. おわりに 甚大な農業被害をもたらしている根寄生植物である が,病害雑草となっているのは一部の種に限られている. 他の多くのハマウツボ科寄生植物は自然界で多様性を担う 一員として生存し,幾つかは絶滅危惧種に指定されている. 病害雑草種と,他の種を比較しながら研究を進めることに よって,寄生植物が農業上の脅威となった理由を知ること ができると考えている.次世代シーケンス技術の発展によ り,手軽に非モデル植物の遺伝子レベルの解析が可能に なってきたが,膨大なデータの中からどうやって有用遺伝 子を見つけるかが今後の課題となるであろう. 謝辞 本稿の執筆の機会を与えていただきました宇都宮大 学の米山弘一先生に感謝します.ストライガ種子を供与頂 きましたスーダン大学の Abdel Babiker 先生,バージニア 大学の Michael Timko 先生,合成ストリゴールを供与頂き ました東京大学名誉教授・森謙治先生に感謝いたします. コシオガマ顕微鏡写真は Juliane K. Ishida 博士に提供いた だきました.本研究の一部は文部科学省・科学研究費補助 金(no. 25128716, 25114521, 25711019)の補助を得ておこ ないました. 引 用 文 献 謝 肖男・来生貴也(2013) ストリゴラクトンの多様な化学構造と 植物界における分布.植物の生長調節 48 : 154-157. 杉本幸裕(2009) 値寄生植物と宿主植物の相互作用に関する生物有 機化学的研究.植物の生長調節 44 : 2-9. 山田雄介・梅原三貴久・瀬戸義也(2013) ストリゴラクトンの多様 な生理作用と生合成 . 植物の生長調節 48 : 148-153. 図 4 コシオガマ形質転換系を用いた細胞分裂の可視化 M期特的に発現を示す CYCB1 プロモーター下流に核局在シグナルを導入した YFP 蛍光タンパク質をつなげたコン ストラクトをコシオガマ根に導入した.DMBQ 処理後 24 時間の画像.緑のシグナルが細胞分裂中の細胞を示す.
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