報告 下面増厚工法によって補強された大垣橋 RC 床版の 20 年経過後の補
強効果について
財津 公明*1・細井 正也*2・松井 繁之*3・三ツ井 達也*4 要旨:補強後20 年経過時点における下面増厚工法(PSR 工法)の補強効果の持続性を確認することを目的と して,基礎データ採取のために現場にて走行試験を実施した。なお,補強5 年後の平成 11 年,補強約 10 年 後の平成18 年にも補強効果について調査しており,今回はその継続調査である。 データをまとめた結果,補強後20 年経過時においても補強効果が持続されていることが判明し,下面増厚 工法が有効であることが確認できた。さらに今回,補強部下面から衝撃弾性波による補強部の剥離箇所の調 査を行った。剥離発生時期は特定できないが,今後の補強効果の持続確認に役立つことが期待される。 キーワード:大垣橋,RC 床版,下面増厚,PSR 工法,補強効果試験 1. はじめに 一般国道9 号大垣橋は兵庫県朝来市山東町大垣に位置 し,一級河川与布土川を渡河する橋長47.2m(鋼単純合 成鈑桁橋+PC桁橋)の跨川橋である。 本橋は昭和 35 年に竣工されたが,床版下面に交通荷 重の影響と思われる2 方向ひび割れ(一部は貫通ひび割 れ)が発生するなど疲労損傷が確認された。このため, 平成6 年に鋼単純合成鈑桁部分の床版下面を PAE 系ポリ マーセメントモルタル(PP モルタル)による下面増厚工 法(PCM 工法)により補強が行われた1)。 本調査は補強後 20 年経過時点における下面増厚の補 強効果の持続性を確認することを目的としており,トラ ックの走行試験を実施し,補強効果の評価を行った。補 強前後,補強5 年後の平成 11 年,補強約 11 年後の平成 18 年にも補強効果について調査しており2),3),4),今回の調 査はそれらの継続調査である。また今回は,補強部下面 から衝撃弾性波による補強部の剥離箇所の調査も行った。 本報告はこれらの調査結果を示し,下面増厚工法の効 果の持続性について報告するものである。 2. 走行試験の概要,測定結果及び考察 2.1 橋梁諸元 橋梁名:大垣橋(おおかいばし) 路線名:一般国道9 号 所在地:兵庫県朝来市山東町大垣地先 架橋位置:与布土川 上部工形式:鋼単純合成鈑桁橋(4 主桁) 竣工:昭和35 年(1960 年) 適用示方書:昭和31 年 一等橋 補強実施年月:平成6 年 10 月 補強工法:下面増厚(鉄筋D6×D10) 橋長:47.2m 支間割:14.1+15.9+15.9m 幅員:8.1m(有効幅員 7.0m) 図-1 一般図(側面) 図-2 一般図(平面) 2.2 補強工法概要 本橋は,平成6 年 10 月に橋軸方向が D6@50,橋軸直 角方向をD10@90 の補強鉄筋を,PP モルタルによって 既設床版下面に合成させる PSR 工法によって補強され ている。この工法は図-31) に示すように,吹付用(プラ *1 東亜コンサルタント(株) 専務取締役 (正会員) *2 国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所 副所長 *3 大阪大学名誉教授 工博 (正会員) *4 一社 PCM工法協会 コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.2,2016イマー)とコテ塗用(断面増厚)の仕様の異なる2 種類 のポリマーセメントモルタルを交互に施工することによ って,既設床版と補強部材の一体化を強固に図っている。 さらに施工を下面から行うため,交通に障害を与えず, 床版振動下にあっても既設床版と増厚部が一体化するも のである。 図-3 標準補強断面 2.3 試験項目 試験は,交通規制を必要としないことを前提として, 図-2 に示す荷重測定済みのダンプトラックの後輪を図 -5 の矢印に示す位置で走行させ,種々の測定を行った。 図-4 測定に使用したダンプトラックの諸元 2.4 測定項目 測定は補強効果の持続を検証する目的で,補強前,補 強直後,補強5 年後および補強 11 年後において共通で実 施した以下の項目について行った。なお,計測は図-1, 2 に示される P1-P2 間で実施した。計測時のサンプリン グタイムは約10 秒とした。各測定センサーの種類と位置 を図-5 に示す。 (1) 主桁ひずみ 4 本の主桁のうち,上流側の 2 主桁(G1,G2)の支 間中央部の鋼桁のひずみ分布を測定した。測定箇所は 上フランジ,下フランジである。 (2) 床版たわみ 1 か所あたり 3 台の変位計を 2 か所,合計 6 台の変 位計を設置してたわみ量を測定した。1 か所あたりの 変位計は,図-5 に示す通り床版支間中央部1 か所, 1/4 支間点 2 か所である。 (3) ひび割れの動き量 写真-1 に示す3 方向の動きを測定する変位計を使 用して,過去の測定箇所を箱抜きにして存置している 2 箇所について,ひび割れの開閉(橋軸方向変位),横 ずれ(橋軸直角方向変位),段差(ひび割れ両面の上 下方向相対変位)を測定した。 図-5 測定機器位置図 写真-1 3 方向ひび割れ変位計 2.5 荷重試験車(ダンプトラック)荷重の補正 過去に実施した載荷試験の荷重試験車の重量は異な るため,全てのデータを25tf 換算に補正して比較を行っ た2),3),4)。
2.6 走行試験の測定結果および考察 (1) 主桁ひずみ 各測定時期の載荷実験時における G1 主桁および G2 主桁のひずみ分布を図-6,7 に示す。測定値は,計測さ れた数値の最大値である。 図-6 経年による G1 桁のひずみ分布2,3,4) 図-7 経年による G2 桁のひずみ分布2,3,4) 図-8 経年による床版たわみ量の変化2,3,4) 本結果より,G1 桁およびG2 桁とも中立軸の位置が 徐々に若干下方に移動してきている傾向がみられた。た だし下フランジの発生ひずみについては,G1 桁では小 さくなっていること,G2 桁においてもこれまでの測定 値とほぼ同様の数値を示していることから,大きな問題 は生じていないと考えられる。 (2) 床版たわみ 各時期の載荷実験時における床版たわみの分布を図 -8 に示す。床版のたわみについては,経年によるたわ み量の増大は見られず,既設床版と補強部の合成が弱ま ったことによる剛性の低下は見られない。 (3) ひび割れ変位 各時期の載荷実験時におけるひび割れの開閉,ずれお よび段差は,既設床版と補強部の合成による剛性の変化 に大きく影響を受ける。その値の変化を表-1,3 に示す。 表-1 ひび割れ変位(G1-G2 間)2),3),4) 表-2 補強前の測定値との比(G1-G2 間)2),3),4) 表-3 ひび割れ変位(G2-G3 間)2),3),4) 表-4 補強前の測定値との比(G2-G3 間)2),3),4) ウエ ブ高さ H = 997 ウエ ブ高さ H = 997
G1-G2 間においては,表-2 より,ずれ,開閉におい ては補強直後からの数値がほとんど変化していないこと が分かる。段差については,増加の傾向があるが,床版 たわみの増加がみられないことから局所的と考えられる。 よって,補強部と既設床版の合成による剛性の低下の現 象は顕著には見られておらず,補強効果は持続している と考えられる。 G2-G3 間は,表-4 からも分る通り,ひび割れの開 閉,ずれおよび段差について,その値は顕著な増加傾向 は見られず,補強効果は現時点でも持続しているものと 考えられる。 3. 衝撃弾性波試験の概要,測定結果および考察 補強後20 年経過した PCM による下面増厚工法の既設 床板との一体性の良否を推定する目的で,衝撃弾性波試 験を実施した。図-9 に,今回実施した試験個所の位置 および試験状況を写真-2,3,4 に示す。 また併せて,補強部の外観変状調査および衝撃弾性波 試験個所において検査ハンマーによる打音調査を実施し た。その結果,特に変状は見られなかった。 写真-2 測定箇所状況(P2 橋脚付近) 写真-3 測定箇所状況(P2-A2 間) 写真-4 衝撃弾性波試験:測定状況 図-9 衝撃弾性波試験個所 3.1 測定概要 本橋は平成6 年の補強工事後,これまで載荷試験によ る補強効果の持続性の確認を実施してきた。今回は,そ れに加え既設床版と補強部との間の剥離の有無を非破壊 試験(衝撃弾性波法:iTECS 法(アイテックス法))によ り測定した。 測定方法は下面に増厚したPP モルタルの表面を φ10mm の鋼球で打撃し,表面に発生する振動を測定した (写真-4)。 3.2 判定基準値 判定基準値は式(1)に示す振幅加算値 Ys の平均値 m と 標準偏差σ から設定する。その判定基準値の設定結果を 表-5 に示す。振幅加算値が56.6 以上となれば異常値で あり,PP モルタルと母材コンクリートとの間に剥離があ ると判断される5)。
∑
= = ms t t y Y 0 . 3 0 S ()(1) ここで│y(t)│は,時間 t での測定波形の振幅値 y(t)の絶 対値である。
表-5 判定基準値の設定結果 全平均値m 標準偏差σ m+3σ 21.3 11.7 56.6 3.2 剥離試験測定結果(P2 付近) P2 橋脚付近の測定結果を図-10,11 に示す。この付 近は,P2 橋脚の伸縮装置の近傍であり,全体的に振幅加 算値が大きくなっている。この範囲内では,7点で振幅 加算値が判定基準値以上の異常値となった。また1 点の 大きさは5 ㎝×5cm 程度である。これらは測定範囲全体 の約4%にあたる。 図-10 振幅加算値測定結果 図-11 剥離箇所測定結果 3.3 剥離試験測定結果(P2-A2 間) 測定結果を図-12,13 に示す。測定箇所のうち5 点 で振幅加算値が判定基準値以上の異常値となった。範 囲は1 点あたり 5cm×5cm 程度であり,この領域でも 測定面積の約4%程度であり,かつ局所的であった。 50 100 150 200 250 300 1800 40.5 31.8 17.8 13.2 13.0 19.9 1750 48.0 34.9 25.2 14.2 12.5 8.1 1700 48.2 43.8 45.0 19.2 12.1 24.6 1650 47.2 74.8 40.8 18.1 9.5 10.1 1600 56.6 41.8 25.9 18.8 11.0 13.4 1550 46.7 41.7 65.4 33.0 35.8 12.9 1500 45.3 52.9 55.8 81.5 35.3 18.0 1450 59.1 48.5 34.2 22.1 17.3 22.5 1400 46.6 30.0 20.0 14.2 16.4 19.7 1350 87.1 40.6 25.4 14.5 17.7 17.7 1300 56.8 40.6 23.5 12.5 14.4 20.6 1250 56.3 24.8 22.7 19.5 20.9 11.7 1200 37.8 16.0 18.0 16.4 18.8 23.5 1150 37.3 17.6 16.1 11.6 15.2 15.1 1100 36.8 20.7 21.0 12.5 12.7 18.3 1050 29.5 31.4 20.2 22.1 28.5 13.8 1000 42.7 31.6 19.4 23.2 14.1 13.8 950 44.4 29.1 16.6 13.8 15.5 15.3 900 53.0 38.0 25.0 15.1 14.5 14.7 850 41.4 45.7 18.5 19.0 16.0 17.5 800 52.9 23.5 12.8 18.4 17.2 15.3 750 38.4 30.9 15.2 15.2 22.6 18.9 700 44.0 43.6 18.9 11.9 19.1 15.4 650 45.8 36.4 15.6 15.1 11.8 11.0 600 41.8 17.3 13.6 15.8 16.5 22.7 550 49.3 20.4 14.1 16.9 14.9 12.0 500 48.3 19.9 17.4 13.8 13.4 16.0 450 52.5 32.0 21.3 15.3 19.5 14.2 400 40.2 18.8 19.0 19.6 13.2 14.8 350 42.7 15.7 20.7 15.1 16.8 14.5 橋軸方向測定位置:目地部からの距離(mm) 横断方向測定位置: G2 からの距 離( mm ) 測定箇所: P2橋脚付近
図-12 振幅加算値測定結果 図-13 剥離箇所測定結果 4. まとめ 以下に,今回実施した調査結果を取りまとめる。 (1) 主桁のひずみ分布においては,G1 桁,G2 桁とも に中立軸が下方に若干移動する結果となったが,下 フランジの応力はG1 桁,G2 桁ともその値は同等 もしくは小さくなる傾向にあり,応力の増加は認め られない。 (2) 床版たわみについては,補強直後からほとんど変化 していない。 (3) ひび割れ変位は,開き,ずれ,段差の 3 成分ともに 顕著な変化は見られない。 (4) 外観的に異常な箇所はほとんどない。 (5) 衝撃弾性波法による剥離調査結果では,測定範囲の 約4%に剥離箇所がみられたが,その1 か所の大き さは5cm×5cm 程度の範囲であり,非常に小さいこ とからこの剥離は施工時から発生していた可能性 が高いと考えられる。ただし今回の測定が初めてで あることから,剥離の進行は今後の測定結果を待つ 必要がある。 (6) 剥離調査個所における検査ハンマーによる打音検 査では浮き箇所は判明しなかった。 以上より,本橋においては,補強後 20 年が経過した 時点においても,PSR 工法の補強効果が持続しており, 床版の疲労損傷の防止に十分寄与していることが判明し た。その結果,交通量が多く,常に振動下にある過酷な 状況にある床版補強において,施工に際し交通規制を伴 わない下面増厚工法による補強が有効であることの確認 ができた。 また,下面増厚工法の補強効果について,20 年にわた って継続調査を行っている事例はなく,補強工法の持続 的な耐久性の検証のためにも,大垣橋の調査は今後も引 き続き行う必要があると考えている。 最後に,本調査結果は,一社)災害科学研究所社会基 盤維持管理研究会,一社)PCM 工法協会,ならびにリッ ク(株)の多大なご協力を得て,とりまとめたものであ る。ここに記して謝意を表します。 参考文献 1) 財団法人道路保全技術センター:大垣橋設計報告書, 1994 2) 軽尾助夫,末田彰助,松井繁之:PP モルタルを用い た下面増厚工法の床版補強効果確認実験,橋梁と基 礎,Vol.31,No.5,1997 3) 伊藤利和,松井繁之,牧添幸徳,財津公明:下面増 厚工法によって補強されたRC 床版の経年調査結果, 床版シンポジウム講演論文集,第2 回, 2000 4) 海洋架橋・橋梁調査会:平成 17 年度 9 号大垣橋床 版補強効果事後調査業務報告書,2005 5) 岩野聡史,内田明,多田大史,岡田慎哉:衝撃弾性 波を用いた接着工法における接合面の剥離判定方 法への一考察;コンクリート工学年次論文集,Vol.35, No.1,2013 1450 1400 1350 1300 1250 1200 1150 1100 1050 1000 950 900 250 18.9 18.9 16.8 20.3 20.2 9.5 13.1 11.5 17.4 17.7 19.1 18.6 300 16.2 17.4 23.2 20.3 17.4 13.3 22.3 14.8 11.5 17.0 14.1 13.4 350 22.6 61.9 81.6 26.8 26.3 24.9 19.8 15.9 18.3 25.8 15.3 13.1 400 19.3 42.4 51.4 36.4 22.9 28.7 20.3 15.9 15.0 14.8 21.0 18.3 450 37.8 13.7 11.7 13.7 20.4 14.3 15.6 24.7 16.1 24.4 26.1 18.1 500 17.6 15.7 15.2 22.1 16.6 12.6 17.4 19.1 21.5 20.1 17.5 20.5 550 20.7 29.9 17.0 21.6 24.2 19.6 26.2 21.3 19.0 31.5 38.5 23.5 600 16.0 59.0 42.1 75.6 38.7 25.2 20.2 15.2 18.0 20.8 16.0 19.6 650 14.1 23.6 48.8 89.7 26.7 36.3 18.7 23.2 18.9 12.3 19.7 16.1 700 14.5 23.9 23.3 29.8 23.8 17.9 17.3 26.2 24.6 21.7 17.4 20.6 横断方向測 定位置: G1 からの距離 ( mm ) 橋軸方向測定位置:横桁からの距離(mm) 測定箇所: P2橋脚-A2橋台 間