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(1)

Transactions of the JSME (in Japanese)

日本機械学会論文集

自励振動型ヒートパイプの熱輸送特性におよぼす作動流体の影響

Effect of working fluid in heat transport characteristics of pulsating heat pipe

Koji FUMOTO

*1

, Takuya ISHIDA

*2

, Tsuyoshi KAWANAMI

*3

and Takao INAMURA

*1

*1 Department of Intelligent Machines and System Engineering, Hirosaki University

3 Bunkyo-cho, Hirosaki-shi, Aomori 036-8561, Japan

*2 Sunpot Co., Ltd.

2-1-26 Kitayuguchi, Hanamaki-shi, Iwate 025-0301, Japan

*3 Department of Mechanical Engineering, Kobe University

1-1 Rokkodai-cho, Nada- u, Kobe-shi, Hyogo 657-8501, Japan

Abstract

Recently, electronics thermal management faces problems in the wake of component miniaturization, which has led to higher demands on heat flux dissipation. Pulsating heat pipe (PHP) can be used for cooling devices of electronics because of its potential for removing high heat flux. It is well known that various parameters affect the performance of the pulsating heat pipe. Therefore, many researchers have done research on the improvement of performance. This paper presents heat transfer characteristics of the open-loop pulsating heat pipe (OLPHP) using a self-rewetting fluid as working fluids. The heat transfer characteristic results were obtained by PHP that was made of copper tubes of internal diameters 1.8 mm. On the other hand, flow visualization tests were conducted by the use of a PHP that was made of Pyrex-glass tubes with the dimension of the copper tubes PHP. The experimental results indicate that OLPHP using self-rewetting fluid as working fluids can be observed anomalous liquid film behavior in adiabatic section. Especially, it was found that the liquid film was strong wavy when liquid slug moved to cooling section from heating section. The findings showed that the wavy liquid films and liquid slug behavior contributed to the thermal performance improvement.

Key words : Pulsating heat pipe, Open loop, Self-rewetting fluid, Thermal resistance, Flow visialization, Liquid film

1. 緒 言

近年,電子デバイスの小型化・高集積化による発熱密度の増大に伴い,効率的な冷却システムの確立が求めら れている.これまで軽量小型,高効率,かつ低コストな熱輸送デバイスとしてヒートパイプが期待されており, 一部実用化もされている.様々な形式のヒートパイプが研究開発されている中で,封入媒体の自励振動効果によ り熱輸送を可能にする自励振動流型ヒートパイプ(Pulsating heat pipe:PHP)が注目されている.PHP は,非定常 効果による高い熱輸送効率を可能にし,さらに従来型ヒートパイプのように毛管力限界,フラッディング限界に よる液還流制限がないことから高い熱輸送特性を有していることが報告されている(長崎, 1999).しかしながら PHP の熱輸送現象は極めて複雑であり,熱輸送性能の把握および更なる高効率化を目指した基礎的研究の余地が

残されている.これまでPHP の熱輸送特性におよぼす様々なパラメータについて検討が行われおり,レビュー研

究も多数存在する(Taft et al., 2012, Tang et al., 2013).特に PHP の熱輸送特性におよぼす作動流体の影響については,

様々な媒体を用いた検討が行われている.具体的には,PHP の伝熱性能向上を目的として,作動流体に Al2O3や

SiO2などの微粒子を混入したナノ流体を用いる方法が注目されている(Qu et al., 2010).一方,これまで著者らは,

*1 正員,弘前大学大学院理工学研究科(〒036-8561 青森県弘前市文京町 3)

*2 サンポット(株)(〒025-0301 岩手県花巻市北湯口第 2 地割 1-26)

*3 正員,神戸大学大学院工学研究科(〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町 1-1)

E-mail of corresponding author: [email protected]

耕二

*1

, 石田 卓也

*2

, 川南 剛

*3

, 稲村 隆夫

*1

Received 28 September 2015

No.15-00529 [DOI:10.1299/transjsme.15-00529], J-STAGE Advance Publication date : 1 February, 2016

(2)

Fumoto, Ishida, Kawanami and Inamura, Transactions of the JSME (in Japanese), Vol.82, No.834 (2016) PHP の作動流体として Self-rewetting 溶液を用いることにより,水単体の場合に比べて最大熱輸送量が増加するこ と,ならびに熱抵抗が減少することを報告している(麓, 川路, 2011).Self-rewetting 溶液とは,炭素数が 4 以上の アルコールの希薄水溶液であり,これらの水溶液は一般的な純液体とは異なり,表面張力がある温度において下 に凸の極小値を有し,その極小値以降の温度域において表面張力が温度の増加とともに増大する特徴を有してい る(Savino et al., 2009).またこの特異な表面張力特性により,ヒートパイプにおける沸騰熱伝達率の向上およびド ライアウト抑制効果が期待されている.これまで各種熱輸送デバイスを対象として,作動流体にSelf-rewetting 溶

液を用いた場合の検討が行われている.Abe ら(Abe et al., 2006)は,従来型ヒートパイプに作動流体として Self-rewetting 溶液を用いることにより最大熱輸送量が水単体に比べ向上すること報告している.また田中ら(田中 他, 2012)は,ポリミド材料を用いて作製したウィックを有するフレキシブル構造ヒートパイプの熱輸送性能が上 昇することを報告している.しかしながら,PHP に Self-rewetting 溶液を用いた報告例は未だ少なく(Hu et al., 2014), さらに熱輸送性能の向上に関する現象論的な分析把握は行われていないのが現状である. 以上のような背景を踏まえて,本研究はPHP の作動流体として,特異な表面張力挙動による沸騰熱伝達率の向 上およびドライアウトの抑制が期待できるSelf-rewetting 溶液を用いて PHP の性能向上特性を定量的かつ現象論 的観点に基づき検討することを目的としている.実験では,銅細管を用いたPHP を作製し,熱輸送性能の定量的 評価を行った.一部,同形状を有するガラス製可視化実験装置による内部流動の観察を行い,液膜挙動を含む熱 輸送現象の把握を行った.さらにヒートパイプの熱抵抗に対して簡易手法による評価推定方法とその妥当性を示 した. 2. 主な記号 3. 実験装置および方法 3・1 実験装置 図1 に実験装置概略図を示す.装置は,自励振動型ヒートパイプ本体,カートリッジヒーターおよびスライダ ックを接続した加熱系統,冷却水循環装置を接続した冷却系統,デジタル真空計を含む真空ポンプ系統,および 熱電対を含む各種測定系統より構成されている.図2 に自励振動型ヒートパイプの詳細を示す.自励振動型ヒー トパイプは,熱伝導率の高い銅製細管(以下,細管という)を用いて作製している.細管は内径 1.8 mm,外径 3.2 mm の円形断面を有している.自励振動型ヒートパイプの蛇行形状は,片側10 ターン(平行 20 チャンネル)の非ルー A : 面積 Bo : Boiling 数 (=q/(GL) Co : Convection 数 (=(ρg/ρL)0.5[(1-x)/x]0.8) d : 直径 FFl : Fluid-surface パラメータ f : 摩擦因子 (=[1.58•ln(ReL) – 3.28]-2) FR : 封入率 G : 質量流量 h : 熱伝達率 Q : 熱量 q : 熱流束 L : 潜熱 R : 熱抵抗 ReL : レイノルズ数 (=GLd/µL) S : 断面積 T : 温度 ΔT : 温度差 Tsat : 飽和温度 t : 時間 x : クオリティ λe : 熱伝導率 µ : 粘度 ρ : 密度 添字 adi : 断熱部 eva : 蒸発部 cal : 計算値 con : 凝縮部 contact : 接触 exp : 実験値 g : 気体 L : 液体 L-V : 液体と蒸気

(3)

プ型自励振動型ヒートパイプとなっており,各ターン部の曲げ半径は 5mm である.加熱部,断熱部,および冷 却部の各長さは,それぞれ87.5mm,90mm,および 87.5 mm である.流路の両端は,それぞれコックによって密 閉できる構造となっており,一端は真空ポンプに接続されており,他端は作動流体封入用のシリンジに接続され ている.細管の加熱部および冷却部は,エンドミル加工によりU 字型の溝を彫った銅ブロックにはめ込まれてい る.なお細管とU 字型の溝の間には,接触熱抵抗の減少および細管固定のために半田(融点 218 ℃,熱伝導率 55 W/(m・K))を流し込んでいる(図 2).加熱部は細管用 U 字溝を加工した銅ブロックに,カートリッジヒーター(φ8 mm,長さ 60 mm×8 本)を挿入し,スライダックにより加熱量を調整できるようになっている.一方,冷却部は, 細管用U 字溝を加工した銅ブロックの裏面に別の U 字型の溝を加工し,半田付けした銅管(φ8 mm)に冷却水を循 環させることで冷却ブロックを均一に冷却できるようになっている.また装置全体は,熱損失を低減するためグ ラスウールとベークライト板を用いて断熱している.図中の黒丸印(●)は,細管表面および装置各点に取り付け たK 型熱電対(素線径 127μm)の設置位置を示している.温度測定点は,中心部に位置する隣り合った 2 本の チャンネルに対して,加熱部,断熱部,および冷却部に熱電対を設置し,さらに加熱部および冷却部における平 均温度を算出する目的で,それぞれに4 本の熱電対を設置している.

Fig. 1 Schematic diagram of experimental apparatus

(4)

Fumoto, Ishida, Kawanami and Inamura, Transactions of the JSME (in Japanese), Vol.82, No.834 (2016) 3・2 実験方法 以下に実験方法の概略を示す.作動流体は,流路内を回転式真空ポンプによって絶対圧力3 kPa まで減圧した 後,流路一端に接続されたシリンジより所定量の作動流体を封入する.本実験では作動流体封入量の指標に封入 率(Fill ratio:FR)を用いている.ここで封入率とは常温大気圧下における作動流体の封入体積を PHP の内容積で 除した値を意味する.作動流体封入後,スライダックを調節してカートリッジヒーターへの電力供給および冷却 部への冷却水の循環を開始する.その後,各部温度が定常状態になったのを確認した後,カートリッジヒーター への供給電力を増加させる手順を繰り返した.なお安全上の観点からヒーターへの供給熱量が所定の値(1400 W) に達するか,あるいは加熱部が110 ˚C を超えた場合に実験を終了した. 次に実験条件および実験の測定精度について示す.作動流体には,十分脱気した蒸留水(以下,水)および Self-rewetting 溶液として炭素数 4 の一価アルコールである 1-Butanol 水溶液を用いている.Self-rewetting 溶液の質 量濃度は0.5,1.0,および 3.0 wt%である.なお Self-rewetting 溶液は,十分脱気した蒸留水に所定量のアルコール を添加し,10 分間マグネティックスターラーにより撹拌した物を作動流体としている.作動流体の PHP への封 入率は40,50,および 60 vol%としている.冷却部へ供給する冷却水入口温度は 20 ˚C で一定としている.カー トリッジヒーターへの供給熱量は,100 W から 100 W 刻みで 1400 W まで変化させている.なお供給熱量の最大 値は,冷却に使用した冷却水循環装置の冷却能力により算出している.装置の設置姿勢は,垂直ボトムヒートモ ード(下部加熱,上部冷却)のみとしている.供給熱量は,使用した計測器の測定精度より,誤差が 5%以内に収ま ると見積もられる.さらに使用した全ての熱電対は,予め検定を行っており0 ˚C から 100 ˚C までの間で,各々の 相対温度差が0.5 K 以下であることを確認している. 4. 実験結果および考察 4・1 PHP の温度履歴

3 に封入率 50 vol%における PHP の加熱部(Teva),断熱部(Tadi),および冷却部(Tcon)の温度履歴を示す.グラフ の横軸は時間,縦軸は温度を表している.同様に,それぞれの上方にはヒーターへの供給熱量を同じ時系列で示 している.作動流体はそれぞれ,(a)水,(b)ブタノール水溶液(0.5 wt%)である.図より,両者ともに加熱部

(a) Water (b) Butanol aq. Sol. (0.5wt%) Fig. 3 Variation of PHP temperature for water and self-rewetting fluid

(5)

温度が50 ˚C 近傍で自励振動が発生し,その後も供給熱量の増加に伴い自励振動が継続していることが分かる. 作動流体が水の場合(図(a)),供給熱量の増加とともに各温度は単調に増加し,供給熱量 1400 W において,加熱部 温度が約100 ˚C に達しているのが分かる.一方,ブタノール水溶液の場合,水に比べて動作開始温度が若干高い 値を示す.さらに供給熱量が低い領域において断熱部温度および加熱部温度は,水のそれに比べて高い値を示す ことが分かる.これはブタノールに比べて沸点の低い水が優先的に蒸発し,加熱部が一時的にブタノールリッチ の状態となり,液スラグを駆動するのに必要な蒸気圧が得られず,自励振動が抑制されているためだと考えられ る.さらに供給熱量の増加に対して加熱部温度の上昇割合は水に比べて小さく,特に供給熱量の高い領域では, 水に比べて加熱部温度が抑制されているのが分かる.また断熱部温度は,加熱量の増加に対してほぼ一定の値を 示していることが分かる.この現象は,他の封入率およびブタノール水溶液濃度においても見られた現象である. また供給熱量1400W における温度履歴の振動状況から,作動流体の違いに関わらず液スラグの振動周期は 1.3Hz 程度であることが分かった.著者らは,この断熱部において温度上昇が抑制される,特異な温度履歴の理由を明 らかにするため,ガラス細管を用いた可視化実験用PHP 装置を作製した.蛇行管流路形状および細管寸法は,銅 製細管を用いた本実験装置と同じとしている.なおガラス細管と銅製細管では,熱伝導率および表面濡れ性状が 異なるため,細管内において両者が全く同一の熱輸送現象を呈するとは考えにくい.しかしながらガラス製PHP にブタノール水溶液を作動流体として行った予備的試験の結果より,供給熱量が高い領域において,銅製細管を 用いた場合と同様(図 3(b))に断熱部温度が供給熱量の増加に対してほぼ一定となる現象が確認されており,両者 の熱輸送現象は定性的に良く一致することが分かっている(Fumoto et al., 2015).図 4 にガラス製 PHP を利用し, (a)水,(b)エタノール,および(c)ブタノール水溶液(3 wt%)を作動流体に用いた時の断熱部における高速度撮影 0ms 23ms 0ms 13ms 0ms 16ms 33ms (a) Water (b) Ethanol (c) Butanol aqueous solution 3 wt%

FR=50 vol%, Q=80 W

Fig. 4 Flow visualization of adiabatic section of the PHP

(6)

Fumoto, Ishida, Kawanami and Inamura, Transactions of the JSME (in Japanese), Vol.82, No.834 (2016) 画像を示す.供給熱量は80 W,封入率は 50 vol%である.図より,(a)水と(b)エタノールの場合,時間の経過とと もに液スラグと蒸気プラグの境界面が上方(冷却部)へ向けて移動し,同時に蒸気プラグとガラス内壁面の間には, 極薄く滑らかな液膜層が形成されているのが分かる.一方,ブタノール水溶液の場合,蒸気プラグの上昇に伴い, 液面近傍に残留した液膜が波立つ現象が観察された.なおガラス細管の曲率形状に起因するレンズ効果によって, 液膜厚さ等の定量的な評価は困難であるが,水およびエンタノールに比べて液膜厚さが増大していることが分か る.ここで水,エンタノール,およびブタノール水溶液の表面張力と温度の相対的な関係は,図5 に示す通りで あり,図 4(c)で見られた特異な液膜挙動の要因は,表面張力の絶対値の大小関係による濡れ性の差異に起因する ものだとは考えにくい.現時点において,ブタノール水溶液の場合のみ観察された液膜の波立ち現象は,水―ブ タノール混合蒸気の凝縮に伴う液膜表面のブタノール濃度分布に起因する表面張力の不均一性によって生じる現 象だと考えている.一方,類似した現象としてChen ら (Chen and Utaka , 2011)によるマランゴニ凝縮の研究報告

がある.ここでマランゴニ凝縮とは,非共沸2 成分混合蒸気の表面凝縮において,低沸点成分液に比べて高沸点 成分液の表面張力が高い場合(例:水―エタノール混合蒸気)に生起すると定義されている.一方,本研究で使 用した水―ブタノール混合溶液は,高沸点成分液であるブタノールの表面張力の方が低沸点成分液である水の表 面張力よりも低いため,マランゴニ凝縮と同一の議論ができるか否かについては,現時点において不明である. 以上の結果より,ガラス製PHP を用いた可視化実験の結果に基づき,図 3 に示したブタノール水溶液を作動流体 とするPHP の断熱部温度が,供給熱量の増加に対して,ほぼ一定の温度を維持する要因は,断熱部に形成される 液膜の波立ち効果によって,フラットな気液境界面を有する水単体およびエタノール単体の場合に比べて熱伝達 が促進され,液膜と壁面との間でより多くの顕熱輸送が行われるためだと考えられる.なお著者らは,現在,液 膜の波立ち現象に着目した実験的研究に取り組んでおり,今後の研究進捗にて波立ち現象のメカニズム及びそれ に伴う熱伝達特性等を明らかにする予定である. 4・2 熱輸送特性 図6 に作動流体として水とブタノール水溶液を用いた場合の自励振動型ヒートパイプの実効熱伝導率を示す. 封入率は40 vol%である.グラフの横軸は供給熱量(Q),縦軸は実効熱伝導率(λe)を表している.なお実効熱伝導率 は以下の式(1)で定義される. (1) ここで,L は加熱部と冷却部に設置した熱電対の軸方向の距離であり,S は銅管を中実の丸棒とみなした時

Fig. 6 Variation of effective thermal conductivity with heater power at different working fluid

λ

e

=

L

S

Q

ΔT

(7)

の管断面積,ΔT は加熱部および冷却部に設置した各熱電対の平均温度の差,Q は供給熱量を意味している. 図より,実効熱伝導率は,いずれの条件においても供給熱量の増加と共に単調に増加することが分かる.ま た供給熱量の低い領域では水の実効熱伝導率が大きいが,800 W 以上において,その増加傾向は緩やかとな る.そのため高い供給熱量域では,ブタノール水溶液の実効熱伝導率が高い値を示すことが分かる.さらに供給 熱量が800 W 近傍において,ブタノール水溶液の実効熱伝導率が水と比較して単調に増加し続ける理由としては, 以下のようなことが考えられる.加熱部温度が上昇することにより,ブタノール水溶液の特異な表面張力特 性,すなわち温度の増加に対して表面張力が正の勾配を有する領域となり,その結果,加熱部において沸騰 気泡の微細化あるいは表面濡れ性の改善により,沸騰熱伝達率が増大し,自励振動が促進したためだと考え られる.なお文献より,ブタノール水溶液の表面張力が温度の増加に対して正の勾配を有するのは70˚C 以 上と報告されており,先の図3(b)の 800 W における加熱部温度が約 70˚C となっていることからも場の温度 と表面張力の関係が自励振動に影響を与え,実効熱伝導率に有意な差を生じさせたと考えられる. 次にヒートパイプの熱輸送性能を評価する上で最も代表的な熱抵抗を用いて性能を評価する.熱抵抗は,以下 の式(2)で定義される. (2) 図7 に水とブタノール水溶液を用いた場合の熱抵抗と供給熱量の関係を示す.作動流体の封入率は 40 vol%で ある.図より供給熱量の低い領域では水の熱抵抗が小さく,供給熱量の増加にともない徐々にブタノール水溶液 の熱抵抗が小さくなり,800 W を境に両者の大小関係は逆転する.これは,先の温度履歴(図 3)からも明らかなよ うに,ブタノール水溶液の場合,動作開始温度は高いが,供給熱量の増加に伴い加熱部温度が水に比べて低く押 さえられ,その結果として温度差が小さくなるためである.なお他の封入率においても同様に供給熱量の高い領 域において,ブタノール水溶液の熱抵抗は,水に比べて低い値を示すことが分かった.熱抵抗および実効熱伝導 率の結果より,PHP の作動流体としてブタノール水溶液を用いることにより,高い熱輸送効率を得られることが 明らかになった.

Fig. 7 Variation of thermal resistance with heater power at different working fluid

4・3 熱収支による熱輸送特性の推定 ここでは図7 で示した熱抵抗に着目し,PHP の各熱抵抗を合算して得られる総括熱抵抗を細管内強制対流およ び沸騰熱伝達率を基に解析的かつ簡易的に予測する.まず PHP の総括熱抵抗を構成する各熱抵抗要素は,PHP の加熱部および冷却部における管肉厚による伝導熱抵抗Rwall,加熱部での蒸発に伴う熱抵抗Revap,凝縮部での凝

R =

ΔT

Q

(8)

Fumoto, Ishida, Kawanami and Inamura, Transactions of the JSME (in Japanese), Vol.82, No.834 (2016)

縮に伴う熱抵抗Rcond,ヒートパイプの長さに沿っての熱抵抗RL-V(管壁に沿っての伝導熱抵抗および流体の熱輸

送能力を含む),および各部における接触熱抵抗Rcontactとする.以上を考慮すると熱輸送量Q は,次式によって

見積ることができる(Karimi and Culham, 2004).

(3) 次に熱抵抗の各要素について検討する.まず適切に取り付けられたPHP の接触熱抵抗(Rcontact)および管肉厚によ る伝導熱抵抗(Rwall)は,他の熱抵抗値に比べて十分小さく,無視できるとする.具体的には,本実験で使用した銅 管の寸法を基に算出すると細管半径方向の伝導熱抵抗は2.31×10-6/A [K/W]となり,極めて小さいことが分かる. ここでA は加熱部の表面積である.したがって PHP の熱抵抗は,加熱部での蒸発による熱抵抗 Revap,ヒートパ イプに沿って生じる気液二相流の熱抵抗RL-V,および冷却部での凝縮による熱抵抗Rcondに大きく影響を受けるこ とになる.さらにPHP の長さ方向に対して気液二相流の熱抵抗 RL-Vは,加熱部から冷却部までの圧力/温度降下 の関数と考えられ,ウィック式ヒートパイプを用いた既存の研究(Xie et al., 1995)では,RL-Vはヒートパイプの長さ, ターン数および流路断面積に大きく影響を受けるが,RL-Vによる全熱抵抗への寄与は5%程度と報告されているた め,無視することとした.次に,PHP が通常の動作状態ならば,加熱部において急激な気泡成長を含む連続的な 強制対流沸騰が発生し,冷却部において潜熱の放出を伴う凝縮が連続的に生じる.以上のことから,PHP の加熱 部および冷却部における各部の熱抵抗は,細管内強制対流沸騰現象および凝縮現象による各熱伝達率が支配的で あると考えられる.近年,ミニチャンネルを用いた広範囲な条件下における強制対流沸騰に関する研究が数多く 行われており(Wambsganss et al., 1993, Yan and Lin, 1998),細管内強制対流流動沸騰の熱伝達率は 1000~6500 [W/(m2 •K)]まで変化すると報告されている(Kandlikar and Steinke, 2002).既存の研究結果を踏まえると,PHP の加熱部に おける熱抵抗は0.001/A 〜1.54×10-4/A [K/W]の間と推定される. 以上のことを考慮すると,PHP の熱抵抗は,加熱部における蒸発による熱抵抗 Revap,および冷却部における凝 縮の熱抵抗Rcondを用いて簡易的に計算できる.ここでPHP が定常状態で正常に動作する条件を考えた場合,蒸 発部における蒸発熱量と凝縮部における凝縮熱量は等しくなければならない.これに対して各部における熱伝達 率,すなわち沸騰熱伝達率と凝縮熱伝達率は,必ずしも等しくなるとは限らない.また前述の通り,これまで細 管内強制対流流動沸騰時の熱伝達特性に関しては様々な検討が行われているが,細管内における凝縮熱伝達特性 に関する報告は少なく,両者の値を単純に比較検討することは困難な状況にある.そこで本論文では,沸騰熱伝 達率と凝縮熱伝達率が同値であると仮定し,簡易的な総括熱抵抗R の導出を試みた.式(3)より,上記仮定を導入 すると総括熱抵抗R は次式で表わすことができる. (4) 式(4)中の hevapは,強制対流流動沸騰の熱伝達率であり,Kandlikar ら(Kandlikar and Balasubramanian, 2004)によって,

与えられた次式を用いる.

(5)

ここでhTP,NBDhTP,CBDは,それぞれ核沸騰または強制対流流動沸騰が支配的な気液二相流の熱伝達係数を表して

いる.なお式(5)の熱伝達係数は,両式を計算し,より大きい値を示す方を採用することとされている.ここで,

Co = (ρgL)0.5[(1-x)/ x ]0.8はConvection 数,Bo = q/(GL)は Boiling 数である.x はクオリティであり,全流量に対す る蒸気流量の比を意味する.またFFlfluid-surface パラメータであり,水の場合は 1.0 である.関数 f(FrL)は液単 相とした場合のフルード数であり,主に層状流に対するパラメータとして用いられる.ここで,ミニチャンネル

では層状流は発生しないため,このパラメータは常に1.0 とする.hLは液単相の熱伝達係数を意味しており,

Gnielinski の相関式(Gnielinski, 1976)および Petukhov and Popov の相関式(Petukhov and Popov, 1963)より,次式(6)で 表わされる.

Q =

ΔT

2R

wall

+ R

evap

+ R

cond

+ R

L −V

+ 2R

contact

R ≈

1

h

evap

⋅ A

evap

+

1

h

cond

⋅ A

cond

≈ 2

1

h

evap

⋅ A

evap

h

evap

=

h

TP ,NBD

= 0.6683Co

−0.2

⋅ (1 − x)

0.8

⋅ f (Fr

L

)⋅ h

L

+1058.0Bo

0.7

(1 − x)

0.8

⋅ F

Fl

⋅ h

L

h

TP ,CBD

= 1.136Co

−0.9

⋅ (1 − x)

0.8

⋅ f (Fr

L

)⋅ h

L

+ 667.2Bo

0.7

(1 − x)

0.8

⋅ F

Fl

⋅ h

L

(9)

(6) ここで,f = [1.58ln(ReL) – 3.28]-2であり,摩擦因子を意味する.またReLは液相単体の流動を想定したレイノルズ 数を意味する.以上の関係式より,気液二相流の熱伝達係数hevapを算出し,最終的に式(4)に代入することで簡易 的にPHP の総括熱抵抗 R を求める. まず熱抵抗推定方法の妥当性を確認するため,作動流体に水を用いた場合について検討する.ここで,各物性 値は大気圧下の飽和状態の値を用いた(熱物性ハンドブック, 2008).また質量流束 G およびレイノルズ数 ReLに関 しては,以下のような仮定を用いた.銅管を用いたPHP の実験結果より,Q = 300 W 以降の領域において温度変 動の周期が,大きく変化しないことから,供給熱量が高い領域では,液スラグの振動速度は一定と仮定した.さ らに液スラグの振動速度には,ガラス製PHP を用いた可視化実験より得られた最も供給熱量の高い領域における スラグ移動速度をハイスピードカメラで撮影した動画から算出した.なお動画から算出した液スラグの移動速度 は,水の場合には0.4 m/s (Q=300 W),エタノールの場合には 0.75 m/s (Q=270 W)であった.ここで得られた液ス ラグの移動速度から質量流束G およびレイノルズ数 Re を仮定した.表 1 に各パラメータの値を示す.

Table 1 Specific value for prediction of the thermal resistance Water Ethanol Fill ratio, FR [-] 0.4, 0.5, 0.6 0.5 Vapor mass quality, x [-] 4.19〜9.44×10-4 2.145×10-3

Inner diameter, d [mm] 1.8

Saturated temperature, Tsat [K] 373.15 351.52

Mass velocity, G [kg/m2s] 383.23 553.2 Latent heat, L [kJ/kg] 2257 854.8 Reynolds number, ReL [-] 2429 2317 Density ratio, ρg/ρL [-] 6.3×10-4 2.15×10-3 Fluid-surface parameter, F 1.0 Heat input, Q [W] 100 ~ 1500 図8 に作動流体に水を用いた場合の熱抵抗と供給熱量の関係を示す.図中の各プロットは実験値,各線は推定 値を表している.なお推定値の点線部分は,温度履歴より自励振動が不規則に発生し,PHP が定常状態になって いないと考えられるため,参考値として表示している.封入率は40 ,50,および 60 vol%である.図より推定 値は,供給熱量が低い領域では,実験値と大きな差異が見られるが,供給熱量の高い領域(Q=1000 W 以上)におい て比較的良く一致しているのが分かる.また全体的に実験値は予測値に比べて高い値を示していることが分かる. 供給熱量の低い領域において差が生じた理由としては,推定計算に使用した液スラグ移動速度に,同形状を有す るガラス製PHP を用いた実験結果より得られた最大値を用いていること,さらに質量流束 G や ReL数を一定と仮 定していることが要因として考えられる. 図9 に作動流体がエタノールおよびブタノール水溶液(1.0wt%)の場合の熱抵抗の実験値と推定値の比較を示す. 各試験液体の封入率は共に50 vol%である.なおブタノール水溶液の物性値は,未だ詳細が明らかになっていな いため,ここでは水の物性値を用いた推定値と比較検討する事とした.ここでブタノール水溶液の実験値を水の 推定値を比較した理由としては,水に1.0 wt%の質量割合でブタノールを添加した希釈水溶液は,表面張力以外 の物性値が,ほぼ水単体に等しいと考えられるためである.図より,エタノールの場合においても,供給熱量の 高い領域において実験値と推定値は良く一致するのが分かる.一方,ブタノール水溶液の実験値と水の推定値を

h

L

=

(Re

L

−1000)⋅ Pr

L

( f /2)(

λ

L

/d)

1+12.7(Pr

L 2 3

−1)( f /2)

0.5

for 2300 ≤ Re

L

≤ 10

4

h

L

=

Re

L

⋅ Pr

L

( f /2)(

λ

L

/d)

1+12.7(Pr

L 2 3

−1)( f /2)

0.5

for 10

4

≤ Re

L

≤ 5 × 10

6

(10)

Fumoto, Ishida, Kawanami and Inamura, Transactions of the JSME (in Japanese), Vol.82, No.834 (2016) 比較した場合,供給熱量の高い領域において,概ね良い一致を示している.さらに供給熱量の増加に対して,予 測値に漸近するような下降傾向を示しているのが分かる.これはPHP の総括熱抵抗に占める沸騰・蒸発による熱 抵抗が支配的であり,かつブタノール水溶液では特異な表面張力による気泡の微細化等によって沸騰熱伝達率が 向上したため,供給熱量の高い領域において水の推定値と同等の熱抵抗を示したと考えられる.以上,水および エタノールの実験値と推定値の比較から,今回提案したPHP の簡易的な熱抵抗の予測モデルは,供給熱量の低い 場合を除き,実験値と良い一致を示しており,適切な供給熱量域において液スラグ振動速度を与えることにより, 十分にPHP の熱抵抗が予測可能であると考えられる.

Fig. 8 Comparison between numerical predictions and experimental results for thermal resistance

Fig. 9 Comparison between numerical predictions and experimental results for thermal resistance at different working fluid

(11)

自励振動型ヒートパイプの作動流体として,特異な表面張力挙動による熱輸送特性の向上およびドライアウ ト抑制が期待できるSelf-rewetting 溶液を用いて,PHP の性能向上特性を定量的かつ現象論的観点に基づき検討す ることを目的として実験的および解析的検討を行った結果,本実験範囲内において以下の結論を得る事ができた. (1) 供給熱量が高い領域においては,ブタノール水溶液が水に比べて高い熱輸送性能を示すことが分かった.特 にブタノール水溶液の表面張力が温度上昇に対して正の傾きを示す温度域において,その優位性は顕著で ある. (2) ブタノール水溶液を用いた場合のみ見られる断熱部温度が,ほぼ一定となる現象は,断熱部の細管壁面にお ける特異な液膜挙動に起因することが示唆された. (3) PHP の熱抵抗を細管内強制対流沸騰の熱伝達係数から簡易的に予測し,実験値との比較を行い,その妥当 性を明らかにした. (4) ブタノール水溶液では高い供給熱量域において,その熱抵抗は水を用いた場合の推定値に漸近することが分 かった.これはブタノール水溶液の特異な表面張力挙動により,水の場合に比べて沸騰気泡の微細化なら びに沸騰熱伝達率の向上によって加熱部の熱抵抗が減少したためだと考えられる. 最後に本研究を遂行するにあたり,弘前大学大学院理工学研究科 博士前期課程 1 年 山上廣城君に多大な る協力を得た.ここに記して謝意を表する. 文 献

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