• 検索結果がありません。

main.dvi

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "main.dvi"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

電子情報通信学会基礎・境界ソサイエティ,科研費特定領域研究「確率的情報処理への統計力学的アプローチ」共催企画 若手研究者・学生向けに最新技術をわかりやすく紹介する講演会「確率的情報処理としての移動体通信技術」

CDMA

受信器における並列干渉除去方式の性能評価

理化学研究所 脳科学総合研究センター 脳数理研究チーム

岡田 真人

1 本講演では田中氏の講演に続き,CDMA の復調アルゴリズムの一つであるマルチユーザー並列 干渉除去法 (マルチステージ復調器) について述べる.まず CDMA とニューラルネットワークモデ ル関係を述べる.つぎに,なぜ CDMA の復調の際にマルチユーザーを想定する方が望ましいかを 定性的に説明し,マルチステージ復調器を説明する.マルチステージ復調器は逐次的アルゴリズム であり,そのダイナミクスはニューラルネットワークモデルの同期型ダイナイクスと形式的に等価 である.CDMA をニューラルネットワークモデルの立場から見ると,パーセプトロンや連想記憶 モデルなどのニューラルネットワークモデルと類似している点が多い.そこで,連想記憶モデルの ダイナミクスの解析に用いられている統計神経力学を応用し,マルチステージ復調器を用いた際の 復調のダイナミクスを解析する.

1

はじめに

「確率的情報処理への統計力学的アプローチ」と聞いて,しっくりいかない方も多いのではない だろうか.統計力学は物理の理論で,情報関連技術ならデバイスの特性の解析には使えるだろう が,情報処理そのものとは直接関係ないと思われるのも自然である.また,確かに情報処理にベイ ズ理論を使うと,統計力学との形式的類似性はあるが,それは単なる統計力学の技術輸出に過ぎ ず,本当に情報科学に影響を与えてるようなパラダイムたり得るのだろうかと考える方もいるだろ う.さらに,たとえそれなりのインパクトがあるパラダイムであっても,統計力学から情報科学へ の一方向の相互作用にすぎず,双方向的な相互作用がなく,そのパラダイムは真に境界領域的なも のではないとの批判もあるかもしれない. 各論的に,これらの自然な疑問や建設的な批判に答えることも可能であるが,ここでは,なぜ統 計物理学者である我々がこのようなパラダイムに到達したかの歴史を手短に振り返ることで大局的 な観点から答えたいと思う.また,このことは物理学や確率的情報処理に携わるプロの技術者や研 究者だけでなく,この分野に興味を持ち,参入の機会をはかる,学生や異なる分野の技術者や研究 者の方にも示唆的であると考えられる.境界領域に必要な相互理解のためには,”相手の心 (気持 ち)”がわかることが最重要である.確率的情報処理に興味を持つ統計力学者の”気持ち”をまず書こ うというわけである.ただし,ここで書くのはあくまでも個人的な歴史感にもとづくものであるこ とをお断りしておきたい. 統計力学の情報処理の分野への応用でもっとも成功したものは,Hopfield による連想記憶モデ ルとスピン系の対応を議論した仕事である [1].Hopfield は,スピン系でのエネルギー関数の概念 1E-mail: okada@brain.riken.go.jp

(2)

非平衡過程 図 1: エネルギー関数 をニューラルネットワークモデルの一種である連想記憶モデルに導入した.これを簡単に説明し よう.図 1 にエネルギー関数の概形を示す.エネルギー関数の極小が記憶パターンに対応し,記憶 パターンは平衡状態として系に埋め込まれている.記憶の想起は,非平衡過程である平衡状態へ の緩和過程としてとらえられる.ニューラルネットワークモデルとスピン系のこの明解な対応づ けを契機に,多くの物理学者がニューラルネットワークモデルの分野に参入した.その結果,連想 記憶モデルだけではなく,汎化誤差や学習のダイナミクスなどが統計力学的に議論された [2].さ らに Hopfield の仕事はニューラルネットワークモデルだけでなく,その他の情報科学の分野まで 影響を与えた.Sourlas は Hopfield の仕事に影響を受け,誤り訂正符号のスピンモデルを提案した [3].Sourlas のモデルでも,符号の誤りを除いた状態がエネルギー関数の極小に対応している.こ れらの例からもわかるように,統計力学を情報処理に適用する方略は,情報処理課題に対し何らか のエネルギーを導入し,その系の平衡状態の熱力学的な振舞いを調べることにより,情報処理課題 の性質を議論することである. ここまで例からは,これらは単なる統計力学から情報科学への一方向的な技術輸出である印象を 持たれるかもしれない.ここで実際の物質と情報処理の違いを考えてみよう.一言でいうと「情報 処理は勝手に緩和しない」ということである.図 1 のエネルギーの極小への緩和過程は自然現象で はそれこそ”自然”に起こるが,情報処理では何らかのアルゴリズムで能動的に極小を探す必要があ る.別の言い方をすれば,系が平衡状態へ緩和していくこと,つまり非平衡過程である緩和のダイ ナミクスが情報処理のプロセスそのものに対応している.緩和のダイナミクスを議論することは, 理論的な興味はもとより,より優れた復号や復調アルゴリズムを提案する時の設計指針になるもで あり,工学的な立場からも大変重要である.私は,ダイナミクスの解析が統計力学と情報科学の双 方向的な相互作用のキーになると考えている.では,そのダイナミクスをキーにした研究の現状は どうなのであろうか? それに答えるために CDMA を例にとり具体的に解説していこう.

2

モデル

2.1

DS/BPSK 方式

ここでは前の田中氏と同様に,CDMA の基本的な実現方式の一つである直接拡散方式 (Direct Sequence; DS)のスペクトル拡散技術を利用した二値シフトキーイング (Binary Phase-Shift-Keying; BPSK)方式 [4, 5] の単純化したモデルを議論する.

(3)

のユーザは互いに完全に同期したタイミングで通信を行なっているものとする.任意の情報ビット 周期においてユーザi の情報ビット ηi =±1 を送信しようとしているものとする.ここでは情報

η

1

η

N

η

2

µ1

}

{y

µ

}

{n

µ

}

µ

}

µ

}

2 N

..

..

.  .  . 

...

...

図 2: DS/BPSK システムの構成 ビットは以下の確率で独立に生成されるものとする, Prob[ηi=±1] = 1 2 (i = 1, 2, · · ·, N). (1) 情報ビットひとつ当たりの符号チップ (クロック) 数をp とおき,情報ビットを送る時間をさらに p 分割する.本論文ではチップ数 p はユーザ数 N と同じオーダであると仮定し, α = Np ∼ O(1), (2) とおく.µ 番目のチップにおいて,拡散符号 ξiµを以下の確率で生成しユーザi に割り当てる, Prob[ξiµ=±1] = 1 2, (i = 1, 2, · · ·, N, µ = 1, 2, · · ·, p). (3) 図 2 に示すように,DS/BPSK 方式では,µ 番目のチップにおいて,i 番目のユーザは情報ビット ηiに拡散符号ξiµをかけたξµiηi を送信する.各ユーザからの信号が等しい重みで重畳され,そこ へさらに平均 0 で分散 10のガウスノイズ, ∼ N0, 1 β0  (4) が加わった信号, = 1 N N  i=1 ξµiηi+nµ, (5) が受信される.図 2 に示すようにユーザーの数が増えていくと,相対的にノイズの強度が低下 する.ここでは統計力学的な議論をするので,ユーザー数N について N → ∞ の極限を議論する. そこで,ユーザー数が大きくなっても,ノイズ強度が相対的に低下するのを避けるために,式 (5) の第一項は 1/√N でスケーリングする. 観測信号は平均値が式 (5) の第一項であり,分散が 1 β0 であるガウス分布に従うので,この システムは以下の条件付確率であらわすこともできる, P (yµ|{η i}) =  β0 2πexp  −β0 2  1 N N  i=1 ξiµηi 2  . (6)

(4)

受信側では受信信号{yµ} (µ = 1, 2, · · ·, p) と各ユーザの拡散符号 {ξiµ} (i = 1, 2, · · ·, N, µ = 1, 2, · · ·, p) から,送信されたビット {ηi} (i = 1, 2, · · ·, N) を推定しなければならない.情報ビット si=±1 の事前確率が一様である場合,情報ビットに対する事後確率は式 (6) から, p({si}|{yµ}) = Z(β1 0)exp(−β0H(s)) (7) H(s) = 1 2  i,j Jijsisj− N  i=1 h0 isi (8) Z(β0) =  s exp(−β0H(s)) (9) Jij = N1 p  µ=1 ξµiξjµ (10) h0 i = 1 N p  µ=1 ξiµyµ, = αηi+ 1 N p  µ=1 N  j=i ξiµξjµηj+1N p  µ=1 ξµi (11) となる.

3

ニューラルネットワークモデルとの対応

前節で導入した CDMA はニューラルネットワークモデルと形式的な対応があり,これをもとに ニューラルネットワークモデルの解析のために提案された理論的手法を CDMA に適用することが できる.ここでは CDMA とニューラルネットワークモデルの関係を述べる.

3.1

パーセプトロン

η

1

η

N

η

2

ξ

µ 1

y

µ

n

µ

ξ

µ

ξ

µ 2 N

..

..

..

..

図 3: 線形 Ising パーセプトロン まずパーセプトロンとの関係を述べる.パーセプトロンは図 3 に示されるようなフィードフォ ワード型のニューラルネットワークモデルである [6].図の左側が入力層であり,入力の次元はN である.µ 番目の入力パターン ξµの各成分は,式 (3) と同様に±1 の値をもつように以下の確率 で独立に生成されるとしよう, Prob[ξµi =±1] = 1 2 (12)

(5)

図のηiは結合荷重である.入力パターンξµの各成分は結合荷重倍され (ηiξiµ),図のように足し あわされる.さらにその和に式 (4) の平均 0 で分散 1/β0のガウスノイズが加えられるものとする. その結果得られる図の右側の出力は式 (5) と全く同様に与えられる, = 1 N N  i=1 ξµiηi+nµ. (13) これは図中央のニューロンの出力特性が線形である場合に対応するので,線形パーセプトロンと呼 ばれている.入力パターンがp 個あたえられているとしよう.このパーセプトロンを学習させると いうことは,p 個の入出力パターンの組 (ξµ, yµ)から結合荷重η を決めることである. ここで発想をかえて結合荷重η を情報として送りたいとしよう.ただし,直接 η を送るのはやめ る.p 個の入出力パターンの組 (ξµ, yµ)を送って,受け手側でこれら入出力の組を使って線形パー セプトロンを学習させて,結合荷重η 学習から求める.この手続きでも,受け手側には結合荷重 η を送ったことになる.一見この方法はアドホックな印象を与えるが,結合荷重ηi±1 の値しか とらないようにすると,これは先ほど説明した DS/BPSK 方式の CDMA は全く等価である [7].

3.2

Hopfield モデル

CDMAは Hopfield モデル [1] とも関係している.Hopfield モデルを紹介しよう.Hopfield モデ ルは図 4 のような相互結合型のニューラルネットワークモデルである.i 番目のニューロン si が 図 4: Hopfield モデル 発火している状態をsi = 1に対応させ,発火していない状態をsi=−1 に対応させる.j 番目の ニューロンからi 番目のニューロンへの結合荷重を Jijで表す.結合荷重Jijは式 (10) と形式的に 全く同じ形で与えれる.Hopfield モデルの状態更新規則は,まずN 個のニューロンからランダムに ニューロンを一つ選ぶ.たとえばi 番目のニューロンが選ばれたとしよう.つぎに i 番目のニュー ロンへの入力信号の総和hihi= N  j=i Jijsj+h0i, (14) を計算する.ただし,h0ii 番目のニューロンへの入力である.形式的な温度 T により表される 確率的なパラメーター β = T1, (15)

(6)

を導入することにより以下の Glauber ダイナミクスを導入する.si=±1 となる確率は, Prob[si=±1] = 1± tanh(βhi) 2 , (16) であたられる. 一方,CDMA に関する式 (7) から (11) の事後分布は以下の温度 1/β0の非同期ダイナミクスの 平衡状態であたえれれる, Prob[si =±1] = 1± tanh(β0hi) 2 , (17) hi =  j=i Jijsj+h0i, (18) ここで式 (18) のJijh0i はそれぞれ式 (10) と (11) で与えられる.式 (14) から (16) と式 (17) か ら (18) を比較すると,この系の結合荷重Jijは連想記憶モデルの Hopfield モデルの結合荷重の符 号を丁度反転したものになっていることがわかる.これはニューラルネットワークモデルではアン チヘブ型と呼ばれている学習則に対応する.Hopfield モデルでは入力h0i は単なる定数であるが, DS/BPSK方式の CDMA では拡散符号ξµと通信路のノイズに依存するランダムな入力h0i に なっている.

4

復調器

ここでは,受信信号{yµ} およびユーザの拡散符号 {ξµi} から,送信された情報ビット {ηi} を推 定する問題を議論する.この節が本解説の主要部分である.情報ビットの推定は復調器によってな される.どのような復調器を使うかで,情報ビットの推定精度が変わってくる.

4.1

シングルユーザ復調器 – 整合フィルタ –

シングルユーザ復調器は,各ユーザに対して個別に復調を行なうものであり,ここではシングル ユーザ復調器である簡易復調器について説明する.簡易復調器での情報ビットの推定は, ˆ ηCD i = sgn(h0i) (19) によってなされる.ここでh0i は式 (11) であたえられ, h0 i =αηi+N1 p  µ=1 N  j=i ξµiξµjηj+1 N p  µ=1 ξiµnµ (20) である.整合フィルタ出力と呼ばれている [8].式 (20) の第一項は情報ビットのシグナル成分,第 二項はユーザ間の干渉成分,第三項は通信路ノイズ成分をそれぞれあらしている.もしユーザの数 が少なく,通信路のノイズのそれぞれの影響が無視できるほど小さければ第二項と第三項は無視で きて,式 (19) から ˆηCD i =ηiとなり,所望ユーザの情報ビットを正しく推定できる.これが式 (20) の第一項は情報ビットのシグナル成分である理由である.

(7)

4.2

マルチユーザ復調器

ここではユーザの拡散符号iµ} が既知であるとしているので,ユーザ間の干渉の成分はランダ ムなノイズではなく,拡散符号によって変調された情報ビットととして取り扱うことができる.こ のため,すべてのユーザをの情報ビットを同時に推定することで推定精度を向上させることが可能 である.このような発想にもとづく復調器はマルチユーザ復調器と呼ばれいている.まず,なぜマ ルチユーザ復調が推定精度を向上させるかを説明しよう. マルチユーザ復調を行なう一つの方法は MAP(最大事後確率) 復調であり,これは式 (7) から (11) の事後確率p({si}|{yµ}) を最大にするような {si} の値の組を真の情報ビット {ηi} に対する推定結 果とするものである.MAP 復調の問題は最小化問題, ˆ

ηMAP= arg min

s H(s), (21) に帰着する.前の講演で述べられたように,Tanaka は MAP 復調器などのマルチユーザ復調器を レプリカ法をもちいて解析的に評価した [9]. では,式 (21) の解をどのように求めるのであろうか? 一つの方法は前節の式 (17) と (18) の非 同期ダイナミクスを温度 1/β0= 0で行なうことである.これはマルコフチェーンモンテカルロ法 (MCMC法) に対応する.その場合のダイナミクスのリアプノフ関数は,H(s) になっている.そ のため,温度 0 でのダイナミクスはH(s) の極小解で停止する.式 (18) の素子への入力 hiは, hi=αηi+1 N p  µ=1 ξiµnµ+ 1 N p  µ=1 N  j=i ξµiξjµηj−N1 p  µ=1 N  j=i ξiµξjµsj (22) となる.もし情報ビットi} に対する推定結果 {si} が {ηi} と等しければ,式 (22) の右辺の第 3 項と第 4 項はキャンセルし,情報ビットηiの復調を邪魔するのは右辺の第 2 項だけになる.右辺 の第 2 項は通信路のノイズのみの寄与を表すので,有効的には通信路を一人だけで占有しているこ とになる.これがマルチユーザで復調が良い復調結果を与える定性的な理由である.

4.3

並列干渉除去法 (マルチステージ復調器)

s

t

a

g

e

L

s

t

a

g

e

2

..

..

..

s

t

a

g

e

3

η21 M.F M.F M.F M.F M.F: matched filter η11 η31 ηN1 η22 η21 η32 ηN2

y

µ η2 η1 η3 ηN

..

..

..

..

..

..

.  .  .  .  .

L L L L ^ ^ ^ ^ ^ ^ ^ ^ ^ ^ ^ ^ 図 5: 多段マルチユーザ復調器の簡略図

(8)

しかしながら,MAP 復調などの問題は NP 完全であることが知られている [10].最適な CDMA マルチユーザー復調の問題は実用的には準最適な復調法を考える必要がある.図 5 に示される多 段マルチユーザ復調器は現実的な時間で解を求められる準最適な手法の一つである [11, 12].図 5 はL 段のマルチステージ復調器 (並列干渉除去法) である.1 ステージに相当する初期ステージで の情報ビットの推定には§4.1 で述べた整合フィルタ出力をもちいる, ˆ η1 i = sgn(h0i). (23) とする.2 ステージ以降の推定値の更新アルゴリズムは, ˆ ηt+1 i = sgn(uti) (24) ut i = h0i N  j=i Jijˆηtj (25) = αηi+N1 p  µ=1 N  j=i ξµ iξjµηj−N1 p  µ=1 N  j=i ξµ iξµjηˆjt+1 N p  µ=1 ξµ inµ (26) であらわされる.このアルゴリズムを定性的に説明する.式 (26) の第二項はユーザ間の干渉成分 である.t ステージでの推定値 ˆηt iが情報ビットηiに等しければ,このユーザ間の干渉成分を完全 に除去できる.この干渉成分の除去の機構は,前節で MCMC 法と同じ機構である.たとえ,推定 値 ˆηtiが情報ビットηiに完全に一致していなくても,このアルゴリズムを反復して行ない,推定精 度が向上していけば,ビット誤り率を段階的に低減できる.これがマルチステージ復調の原理であ る.また,マルチステージ復調は離散時間同期型ダイナミクスを持つ神経回路モデルとも対応がつ く.式 (17) と (18) の有限温度非同期ダイナミクスを持つモデルを温度 0 の離散時間同期型ダイナ ミクスを持つモデルに変更すると,式 (24) から (26) の多段マルチユーザ復調器がえられる.t ス テージでの復調結果がどの程度の質を持つかは,t ステージでの復調結果 ˆηtと元の情報ビットη とのオーバラップ (方向余弦), Mt = N1 N  i=1 ηiηˆit, (27) で評価する.またt ステージでの復調結果の 1 ビットあたりの誤り率 Pbtは,以下のように与えら れる. Pt b = 1− Mt 2 . (28)

5

並列干渉除去法

(マルチステージ復調)

のダイナミクス

5.1

計算機シミュレーション

まず最初にマルチステージ復調のダイナミクスについて計算機シミュレーションの結果を比較 する.計算機シミュレーションではN = 4000 をもちいた.図 6 に α = 2 の場合,ステージごと にビット誤り率Pbがどのように減少していくかを示す.ここで信号対雑音比に対する指標である Eb/N0を定義する.ここでEbは情報ビット 1 ビットあたりのエネルギーをあらわし,N0はノイ ズの片側電力密度をそれぞれあらわし, Eb N0 = αβ0 2 , (29)

(9)

1e-05 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 0 2 4 6 8 10 Pb t 図 6: α = 2 でのマルチステージ復調のダイナミクス.(上から,Eb/N0 = 4, 5, 6, 7, 8, 9[dB]) 破線 は計算機シミュレーションの結果をあらわし,実線は理論の結果をあらわす. が成り立つ [9].破線は計算機シミュレーションの結果をあらわす.ステージが進むにつれて,情 報ビットの推定の精度が上がるため,ユーザー間の干渉が減少し,さらに推定精度が上がっている ことがわかる.これが解を求めるプロセスであり,定性的には図 1 の緩和過程に対応する.このダ イナミクスを理論的に議論できれば,新たな復調器の設計に役立つことは明らかである.

5.2

理論的取り扱い

ここではユーザ数N が無限大の極限を議論する.チップ数 p は N に比例するとし,その比 α = p/N は N に対して O(1) であるとする.これは前の田中氏の講演で紹介されたレプリカ法と 同じ定式化である [9].ここでの目的は式 (27) と (28) のt ステージでのオーバラップ Mtとビット 誤り率Pbtの時間発展方程式を求めることである.CDMA は Hopfield モデルなどの連想記憶モデ ルと形式的に似ているので,CDMA の復調ダイナミクスの解析に連想記憶モデルのダイナミクス の理論である統計神経力学を適用することができる [13, 14, 15].情報理論の分野での密度発展法 [16]は,統計神経力学と形式的によくにている. 統計神経力学では,情報ビットの復調を邪魔する式 (26) の第 2 項以降をガウス分布と近似して, ステージt でのオーバーラップ Mtがどのように変化するかを議論する. マルチステージ復調器の初期ステージである 0 ステージでの推定には式 (23) に示すように整合 フィルタの出力を用いる.初期ステージのオーバラップM0は, M1 = 1 N N  i=1 ηiηˆi= 1 N N  i=1 ηisgn(h0i) (30) h0 i = αηi+zi0 (31) z0 i = 1 N p  µ=1 N  j=i ξiµξµjηj+1 N N  i=1 ξiµnµ (32) となる.式 (32) のz0ii に関して独立で,平均 0 分散 α(1 + 1/β0)のガウス分布に従うので,

(10)

N → ∞ の極限で, M1= erf α 2(1 + 10)  , (33) となる. 次にt > 1 ステージでの復調について議論する.式 (24) から (26) までの復調のダイナミクスは, ˆ ηt+1 i = F (h0i−  j=i Jijηˆtj) = sgn(αηi+zi0− zit) t ≥ 1 (34) zt i = 1 N p  µ=1 N  j=i ξiµξjµηˆtj (35) となる.式 (35) の ˆηtjは拡散符号ξiµに依存している.そのためノイズ項zitの分布を求めるのは非常 に難しい.この困難は連想記憶モデルの想起のダイナミクスの理論的な取り扱いと同じである.そ こで連想記憶モデルの想起のダイナミクスの理論である統計神経力学を問題に応用する [13, 14, 15]. 統計神経力学ではノイズ項をガウス分布に従うと仮定し,その平均値と分散が従う漸化式を導出す る.ここではもっとも簡単な Amari-Maginu 理論を適用する [13].Amari-Maginu 理論ではノイズ zt i を評価する前に 1 ステップ前までの拡散符号{ξiµ} 依存性を考慮し,それ以上の過去に関しては 独立であると仮定する.以上のように仮定すると,オーバーラップMtに関する漸化式を導出する ことができる.導出の詳細は [17] を参考にされたい. 図 6 の実線は理論の結果をあらわす.計算機シミュレーションと理論の結果は平衡状態に関して 良く一致している.しかしながら,理論からえられる収束は計算機シミュレーションの収束よりも 速く,過渡的な特性に違いが存在する.これは,Amari-Maginu 理論では状態 ˆηitの時間相関が無 視されているので,ノイズ成分が正しく評価されないことが原因であると考えられる [14, 15].自 己相関型連想記憶モデルにおいては,この問題点の解決として,今回用いた 1 ステップ前の状態の みを考慮するのではなく,よりも以前の状態までを考慮に入れ時間相関を評価し,分散の時間発展 を導出する高次理論が提案されている [14, 15].この理論を密度発展法に適用することにより,過 渡的特性を含めて定量的な一致をえられる可能性がある.

6

まとめと今後の発展

本講演では,CDMA のマルチユーザー復調器の復調のダイナミクスを統計神経力学的な理論で ある Amari-Magninu 理論 [13] で解析した結果を述べた.CDMA の例からもわかるように,ダイ ナミクスの理論は,レプリカ法などの平衡状態の理論に比べて,まだまだ発展途上にある.平衡状 態だけを取り扱うのに比べて,それへの緩和を議論するダイナミクスの理論的取り扱いが困難なの は当然のことである.しかし,統計力学を情報科学に適用する場合,ダイナミクスの理論を避けて 通るわけにはいかない.本講演により,ダイナミクスの理論的な取り扱いに興味を持たれた方がお られるなら,それは講演者にとって望外の喜びである.

(11)

謝辞

本講演で述べた CDMA マルチステージ復調器の統計神経力学による解析は,田中利幸と水谷智 との共同研究によるものである.両氏に深く感謝する.

参考文献

[1] J. J. Hopfield, “Neural networks and physical systems with emergent collective computa-tional abilities,” Proceeding Nacomputa-tional Academy of Sciences,79, pp.2554-2558, 1982.

[2] 西森秀稔,「スピングラス理論と情報統計力学」,岩波書店,1999.

[3] N. Sourlas, “Spin-glass models as error-correcting codes,” Nature,339, pp. 693-695, 1989. [4] 丸林 元,中川正雄,河野隆二,「スペクトル拡散技術とその応用」,コロナ社,1998. [5] M. K. Simon, J. K. Omura, R. A. Scholtz, and B. K. Levitt, Spread Spectrum

Communica-tions Handbook, Revised Ed., McGraw-Hill, Inc., 1994.

[6] H. S. Seung, H. Sompolinsky and N. Tishby, “Statistical-mechanics of learning from exam-ples,” Phy. Rev. A, vol.45, no.8, April 1992.

[7] 樺島祥介,私信,2000.

[8] S. Verd´u, Multiuser detection, Cambridge university press, 1998.

[9] T. Tanaka, “Statistical mechanics of CDMA multiuser demodulation,” Europhys. Lett., vol.54, no.4, pp.540-546, May 2001

T. Tanaka, “A statistical-mechanical approach to large-system analysis of CDMA multiuser detectors,” IEEE Trans. Inform. Theory,46, pp. 171-188, 2002.

[10] S. Verd´u, “Computational complexity of optimum multiuser detection,” Algorithmica, vol.4, pp.303-312, 1989.

[11] M. K. Varanasi and B. Aazhang, “Multistage detection in asynchronous code-division multiple-acess communications,” IEEE Trans. Commun., vol.38, no.4, pp.509-519, Apr, 1990.

[12] M. K. Varanasi and B. Aazhang, “Near-optimum detection in synchronous code-division multiple-access systems,” IEEE Trans. Commun., vol.39, no.5, pp.725-736, May, 1991. [13] S. Amari and K. Maginu, “Statistical neurodynamics of associative memory,” Neural

Net-works, vol.1, no.1, pp.63-73, 1988.

[14] M. Okada, “A hierarchy of macrodynamical equations for associative memory,” Neural Net-works, vol.8, no.5, pp. 833-838, 1995.

(12)

[15] M. Okada, “Notions of associative memory and sparse coding,” Neural Networks, vol.9, no.9, pp. 1429-1458 1996.

[16] T. J. Richardson and R. L. Urbanke “The capacity of low-density parity-check codes un-der message-passing decoding,” IEEE Trans.Inform. Theory, vol.47, no.2, pp.599-618, Feb. 2001.

[17] 田中利幸,水谷智,岡田真人,“多段 CDMA マルチユーザー復調器に対する密度発展法,” 信 学技法,NC2001-174, 2002.

T. Tanaka, “Density evolution for multistage CDMA multiuser detector,” Proc. 2002 Int. Symp. Inform. Theory, Lausanne, Switzerland, pp. 23, 2002.

参照

関連したドキュメント

In this paper we develop the semifilter approach to the classical Menger and Hurewicz properties and show that the small cardinal g is a lower bound of the additivity number of

In what follows, we will combine the Hardy-Littlewood k-tuple conjecture with extreme value statistics to better predict the sizes of maximal gaps between prime k-tuples of any

In the language of category theory, Stone’s representation theorem means that there is a duality between the category of Boolean algebras (with homomorphisms) and the category of

These healthy states are characterized by the absence of inflammatory markers, which in the context of the model described above, correspond to equilibrium states in which

We introduce a new general iterative scheme for finding a common element of the set of solutions of variational inequality problem for an inverse-strongly monotone mapping and the

TOPSØE, Some Inequalities for Information Divergence and Related Measures of Discrimination, IEEE Trans. TOUSSAINT, Sharper lower bounds for discrimination information in terms

In order to be able to apply the Cartan–K¨ ahler theorem to prove existence of solutions in the real-analytic category, one needs a stronger result than Proposition 2.3; one needs

This paper presents an investigation into the mechanics of this specific problem and develops an analytical approach that accounts for the effects of geometrical and material data on