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音節構造と國語史 笠間裕一郎 1. 上代 中古語の音節構造 國語史に於ける音節構造に關する議論はこれまでも爲されてきたところである 上代 語については ( 少なくとも和語については )(C)V を想定するのが一般的 1 である 筆者もその立場を取るが しかし 中古語になると 音便 の出現によつて 和

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

音節構造と國語史

笠間, 裕一郎

九州大学大学院人文科学府 : 修士課程

https://doi.org/10.15017/1518339

出版情報:文獻探究. 53, pp.1-14, 2015-03-31. 文献探究の会

バージョン:published

権利関係:

(2)

音節構造と國語史

笠 間 裕 一 郎

1. 上代・中古語の音節構造 國語史に於ける音節構造に關する議論はこれまでも爲されてきたところである。上代 語については、(少なくとも和語については)(C)V を想定するのが一般的 1である。 筆者もその立場を取るが、しかし、中古語になると、「音便」の出現によつて、和語 においても(C)V(V),(C)V(C)となつたと言はれるところである。 中古語に於ける音節構造、その内の後者、卽ち(C)V(C)は PRINCE and Smolensky(2004,深澤 譯 2008)では、頭子音に關 する制約とその階層が、

(3) a.PARSE,FILLONS≫O

NS 2 であり、末子音に關する制約とその階層が (3) b. PARSE,FILLNUC≫N OCODA 3 の時の音節構造であると言はれてゐる。 ところがこれを中古語に對して機械的に適應すると、動詞の派生に於て誤つた出力が 爲されてしまふことが明白である。一例を擧げると、「四段」(子音語幹)動詞「書 く」+「受け身の助動詞」(派生接辭)「らる」の場合、音韻レベルでは/kak-rare/4 あると考へられるが、これを(3)a,b の制約階層によつて評價すると、誤つた出力が得ら れる。 (4) a.誤つた出力が得られる 例 1(動詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS NOCODA /kak-rare5/ 其儘 ☞kak.ra.re * 削除 ☑ka.ka.re6 *! 插入 ka.ku.ra.re *! (4) b. 誤つた出力が得られる例 1(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS NOCODA /kanasi-si/7 其儘 ☞ka.nas.si8 * 削除 ☑ka.na.si *! 插入 ka.na.su.si *! (C)V(V)の場合でも、基本 は同じである。この場合、評價に關與する制約は NOCODA ではなく、 -96- (一)

(3)

*COMPLEXNUC;音節核節 點には V(owel)が二つ以上連續してはならない。

である。制約の階層は以下の通りになる。

(6) a. 誤つた出力が得られる 例 2(動詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXNUC /ki-i/ 其儘 ☞kii9 * * 削除 ☑ki *! 插入 ki.ri *! (6) b. 誤つた出力が得られる例 2(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXNUC /kura-iki/ 其儘 ☞ku.rai.ki/ * * 削除 ☑ku.ra.ki *! 插入 ku.ra.ri.ki *! 二重子音も同樣である。この場合關與する制約は、

(7) *COMPLEXONS;頭子音節 點には C(onsonant)が二つ以上連續してはならない。

となる。この場合の制約階層は上記の(C)V(V)の場合と同じで、關與する制約が

*COMPLEXNUCから *COMPLEXONSに變はるのみで ある。當然これも誤つた出力を導き

出す。

(8) a.誤つた出力が得られる 例 3(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXONS /kak-rare/ 其儘 ☞ka.kra.re10 * 削除 ka.ka.re *! 插入 ka.ku.ra.re *! (8) b.誤つた出力が得られる例 3(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXONS /kanas-si/ 其儘 ☞ka.na.ssi11 * 削除 ka.na.si *! 插入 ka.na.su.si *! ここまでで見てきた樣に、出力で見られる音節構造が假に(C)V(V),(C)V(C)及び (C)(C)V であつたとしても 、音節構造の評價に關與する制約の階層が、完全にそれ等の 音節構造を許してゐるとは言へないのである 12 實際中古語の和語で積極的に二重母音であると考へられるのは、謂はゆる「活用形」 間の音節數一致を目指す「音便」の場合 13だけであり、それは音節末子音でも同樣で ある。 -95- (二)

(4)

從つて、制約階層上の*COMPLEX14及び N OCODAの位 置は、中古語でも上代語同樣に 高いままであり 15、中古語では「音便」に關はる形態論上、或いは形態・音韻のイン ターフェイス制約 (9) a.MAX(root16;CLASS117);「 二段」活用動詞以外の動詞の語根に削除が生じて はならない。18 b.PU(σ;AFF,NonCONJ,NonRECOL;CVS1);「四段・ラ變」動詞「肯定・非推 量・非想起」形 19は音節數が同じでなければならない。 c.DEP(seg;CLASS1);「二 段」活用動詞以外の動詞に分節音挿入が生じてはな らない。 が上位に存在し、かつ、謂はゆる「助詞テ」が動詞内部に取り込まれることで、 (C)V(V)或いは(C)V(C)音節 がある種「臨時に」生じてゐると考へるべきである 20 (11) a.「音便」の出現( (C)V(V)の場合) M AX( ro o t; C L AS S 1 ) * C O M P L EX NO COD A PU (σ ;AF F, No nC ONJ , N onR E C O L ;C VS 1 ) DE P (s eg ;C L A S S 1 ) /CVC-te/ 變換 ☞CVV.te * 削除 CV.te *! 插入 CV.CV.te * *! (11) b.「音便」の出現((C)V(C)の場合) M AX( ro o t; C L AS S 1 ) * C O M P L EX NO COD A PU (σ ;AF F, No nC ONJ , N onR E C O L ;C VS 1 ) DE P (s eg ;C L A S S 1 ) /CVC-te/ 變換 ☞CVC.te * 削除 CV.te *! 插入 CV.CV.te * *! 結局、上代語にせよ、中古語にせよ、*COMPLEX 制約と NOCODA制約によ つて(中 古語の場合、基本的には)音節構造は(C)V であると考へられる 21 さて、*COMPLEX と NOCODAが上位階層に存在す ると言ふ事は、(「音便」の場合 を除いて)基底の音連續が VC の時、何らかの修復方略によつて*COMPLEX 及び

*COMPLEXNUC;音節核節 點には V(owel)が二つ以上連續してはならない。

である。制約の階層は以下の通りになる。

(6) a. 誤つた出力が得られる 例 2(動詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXNUC /ki-i/ 其儘 ☞kii9 * * 削除 ☑ki *! 插入 ki.ri *! (6) b. 誤つた出力が得られる例 2(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXNUC /kura-iki/ 其儘 ☞ku.rai.ki/ * * 削除 ☑ku.ra.ki *! 插入 ku.ra.ri.ki *! 二重子音も同樣である。この場合關與する制約は、

(7) *COMPLEXONS;頭子音節 點には C(onsonant)が二つ以上連續してはならない。

となる。この場合の制約階層は上記の(C)V(V)の場合と同じで、關與する制約が

*COMPLEXNUCから *COMPLEXONSに變はるのみで ある。當然これも誤つた出力を導き

出す。

(8) a.誤つた出力が得られる 例 3(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXONS /kak-rare/ 其儘 ☞ka.kra.re10 * 削除 ka.ka.re *! 插入 ka.ku.ra.re *! (8) b.誤つた出力が得られる例 3(形容詞の場合)

PARSE FILLONS FILLNUC O

NS *COMPLEXONS /kanas-si/ 其儘 ☞ka.na.ssi11 * 削除 ka.na.si *! 插入 ka.na.su.si *! ここまでで見てきた樣に、出力で見られる音節構造が假に(C)V(V),(C)V(C)及び (C)(C)V であつたとしても 、音節構造の評價に關與する制約の階層が、完全にそれ等の 音節構造を許してゐるとは言へないのである 12 實際中古語の和語で積極的に二重母音であると考へられるのは、謂はゆる「活用形」 間の音節數一致を目指す「音便」の場合 13だけであり、それは音節末子音でも同樣で ある。 -94- (三)

(5)

NOCODA制約違反を囘避す ると言ふ事である。 以下では*COMPLEX 制約と NOCODA制約が制約階 層上上位にある事の效果として、 實際にその囘避が實行されてゐると考へられる、謂はゆる動詞「終止形」の場合につい て見ていく。そしてこれらの制約とその階層が中古語から鎌倉時代語において有効に機 能してゐることを示す。 2. 動詞「終止形」 2.1 所謂「動詞終止形」屈折接尾辭基底形 國語史上に於て「終止形」は、鎌倉時代語まで存續する動詞活用形の一つである。こ のうち、國文法で言ふところの所謂「動詞終止形」屈折接尾辭をどの樣に設定するかに ついては、これまでも NISHIYAMA(1996,1999)、大木一夫(2010)、黒木邦彦(2012)等に おいて考察されてきたところである。 上記の解釋は、「ラ變」活用動詞を除くと、所謂「動詞終止形」屈折接尾辭として は、 (12) a.//u//を 立てる。(NISHIYAMA(1996,1999)) b.//u//と//ru//を立て る。( 大木一夫(2010)、黒木邦彦 (2012)22 の二種類である 23 しかしながら、僻見では上代・中古語の所謂「動詞終止形」の屈折接尾辭は//ur//で あり、鎌倉時代語の所謂「動詞終止形」の屈折接尾辭は//uru//である。この後アクセン トも「連體形」と同じくなつたところで、「終止形」は消滅する。 さて、問題は謂はゆる「動詞終止形」の屈折接尾辭基底形である。そこでまづ、所謂 「動詞活用形」の中古から鎌倉時代までの表層形を見てみる。 まづ表 1 で中古語に就いてみてみる。 表 1 中古語の「動詞活用形」 活用種 四段 ラ 變 ナ變 上二段 下二段 上一 段 下一段 カ變 サ變

語根 kak ar sin kopi uke mi kʷe ko24

,k

se, s

連用形 kaki ari sini kopi uke mi kʷe ki si

テ形 kaite atte (kopite) (ukete) (mite) (kʷete) kite site

終止形 kaku ari sinu kopu uku miru kʷeru ku su

連體形 kaku aru sinuru kopuru ukuru miru kʷeru kuru suru

已然形 kake are sinure kopure ukure mire kʷere kure sure

命令形 kake are sine kopi uke mi kʷe ko se

(テ形の()内はその時代に動詞の一語形となつてゐるか不明な例であることを示す。以 下同じ。猶、全「活用形」の實例があるわけではない)

中古語では、「一段」活用動詞以外で//ur//の末子音が削除され、「一段」活用動詞

93- (四)

(6)

で音位轉換が生じてゐると考へる。「二段」活用動詞の語幹末母音は、一律 u で始まる 接辭(或いはその相當形式)の時に脱落し 25、更に音節末子音が脱落する。 これを簡單に規則で示すと次の樣になる 26 (13) a.語幹末母音削除 27 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u始 ま り の 屈 折 接 尾 辭 b.音位轉換 ur]自 他 交 替 に 關 は ら な い 接 辭→ru /「一段」活用動詞語幹_28 c.末子音削除 ur]σ→u/「一段」活用動詞以外の動詞語幹_ 規則の順序は(13)a→(13)b→(13)c となる 29。制約によつてこの規則を捉へ直してみる

と、(13)a は(8)a で述べた制約、(13)b,c は NOCODA制 約によるものとなる。

次に鎌倉時代語に就いて表 2 でみてみる。 表 2 鎌倉時代語の「動詞活用形」 活用種 四段 ラ 變 ナ變 上二段 下二段 上一 段 下一段 カ變 サ變

語根 kak ar sin kopi uke mi kʷe ko,

k

se, s

連用形 kaki ari sini kopi uke mi kʷe ki si

(テ形 ) kaite atte sinde (kopite) (ukete) (mite) (kʷete) kite site

終止形 kaku ari sinuru

30

kopuru ukuru miru kʷeru kuru suru

連體形 kaku aru sinuru kopuru ukuru miru kʷeru kuru suru

已然形 kake are sinure kopure ukure mire kʷere kure sure

命令形 kake are sine kopi uke mi kʷe ko se

この時代には「四段・ラ變・一段」動詞以外で「終止形」の語末が[uru]となつてゐ る事から、「終止形」屈折接尾辭は//uru//となつてゐると考へられる 31 規則は次の樣になる。 (15) a.語幹末母音削除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u 始 ま り の 屈 折 接 尾 辭 b.接辭左方切詰1 urV]屈 折 接 尾 辭→V/「四段・ラ變」活用動詞語幹_ c.接辭左方切詰2 urV]屈 折 接 尾 辭→rV/「一段」活用動詞語幹_ なほ、この時代には、分節音形上は所謂「動詞終止形」と「動詞連體形」の區別がな いが、超分節音形は異なつてゐることが既に指摘されてゐる(金田一春彦(1964))。從 つて、まだこの時代には「終止形」は存在してゐる。 「動詞終止形」屈折接尾辭の基底形を、中古語の場合//ur//とし、鎌倉時代語で//uru// NOCODA制約違反を囘避す ると言ふ事である。 以下では*COMPLEX 制約と NOCODA制約が制約階 層上上位にある事の效果として、 實際にその囘避が實行されてゐると考へられる、謂はゆる動詞「終止形」の場合につい て見ていく。そしてこれらの制約とその階層が中古語から鎌倉時代語において有効に機 能してゐることを示す。 2. 動詞「終止形」 2.1 所謂「動詞終止形」屈折接尾辭基底形 國語史上に於て「終止形」は、鎌倉時代語まで存續する動詞活用形の一つである。こ のうち、國文法で言ふところの所謂「動詞終止形」屈折接尾辭をどの樣に設定するかに ついては、これまでも NISHIYAMA(1996,1999)、大木一夫(2010)、黒木邦彦(2012)等に おいて考察されてきたところである。 上記の解釋は、「ラ變」活用動詞を除くと、所謂「動詞終止形」屈折接尾辭として は、 (12) a.//u//を 立てる。(NISHIYAMA(1996,1999)) b.//u//と//ru//を立て る。( 大木一夫(2010)、黒木邦彦 (2012)22 の二種類である 23 しかしながら、僻見では上代・中古語の所謂「動詞終止形」の屈折接尾辭は//ur//で あり、鎌倉時代語の所謂「動詞終止形」の屈折接尾辭は//uru//である。この後アクセン トも「連體形」と同じくなつたところで、「終止形」は消滅する。 さて、問題は謂はゆる「動詞終止形」の屈折接尾辭基底形である。そこでまづ、所謂 「動詞活用形」の中古から鎌倉時代までの表層形を見てみる。 まづ表 1 で中古語に就いてみてみる。 表 1 中古語の「動詞活用形」 活用種 四段 ラ 變 ナ變 上二段 下二段 上一 段 下一段 カ變 サ變

語根 kak ar sin kopi uke mi kʷe ko24

,k

se, s

連用形 kaki ari sini kopi uke mi kʷe ki si

テ形 kaite atte (kopite) (ukete) (mite) (kʷete) kite site

終止形 kaku ari sinu kopu uku miru kʷeru ku su

連體形 kaku aru sinuru kopuru ukuru miru kʷeru kuru suru

已然形 kake are sinure kopure ukure mire kʷere kure sure

命令形 kake are sine kopi uke mi kʷe ko se

(テ形の()内はその時代に動詞の一語形となつてゐるか不明な例であることを示す。以 下同じ。猶、全「活用形」の實例があるわけではない)

中古語では、「一段」活用動詞以外で//ur//の末子音が削除され、「一段」活用動詞

92- (五)

(7)

とすると、接辭末に母音插入が鎌倉時代以前に生じたと考へることになる。 さて、問題は中古語の「終止形」屈折接尾辭の基底形として//ur//を立てることが本 當に妥當であるか、卽ち、他の//u//や//ru//、或いはその兩方、更に加へて「ゼロ形態 素」を立てる説よりも優れてゐるかである。 以下では、これらの問題について考察する。 猶、この問題を完全に最適性理論、卽ち制約とその階層に基づいて考察するのは、全 體の制約とその階層の考へなほしを含むので、難しいところである。そこで本稿では規 則とその妥當性によつて、(勿論處々制約も考察に含めて)檢討する。 2.2 他の考へ方の檢討 2.2.1 (12)a の檢討 (12)a の解釋は「終止形」 屈折接尾辭として//u//のみ を立てる解釋である。 この解釋では、「ラ變」活用動詞を考察對象外とすると、中古語では「一段」活用動 詞では接辭境界への插入子音[r]の插入を考へることとなり、鎌倉時代語では、語末に [ru]の插入が「四段・ラ變 」動詞以外で生じたと考へることになる。規則を示すと以下 の樣になる。 (16) a.語幹末母音削除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u 始 ま り の 屈 折 接 尾 辭 b.插入1 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→ru /「一段」活用動詞語幹_ c.插入2 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→uru /「ナ變」活用動詞語幹_32 (13)と比較してみると、規 則と形態素の數は同じである。ところが、これらの規則の 内、(16)a の方は特に問題無いが、(16)b の方は、(C)V と言ふ音節構造からすると問題 が存在する。この場合、V のみでも音節が成立するのであるから、[r]は必要無い 33 この場合の插入子音を制約によつて捉へ直してみると、それは母音連續の囘避方略であ ると考へられる。しかし、それは「動詞連體形」でも「動詞已然形」でも生じ、また、 「動詞連用形」でもその屈折接辭を「ゼロ形態素」としなければ生じるので、夫々 [CVruru]、[CVrure]、[CVri]の如く出力されてゐるはずである 34 插入子音自體、中古語では[j]であつたと考へられる。これは音節「え(ア行)」が、 「え(ヤ行)」に合流してゐるからである 35 (16)c も同じく、音節構造 上必要のない插入が爲されて居る點問題である。 鎌倉時代は如何であらうか。鎌倉時代語の規則は次の通りになる。 -91- (六)

(8)

(17) a.語幹末母音削除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u始 ま り の 屈 折 接 尾 辭 b.插入 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→ru /「一段」活用動詞語幹_ c.[ru]の插入 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→uru/「四段」活用動詞以外の語幹_ やはりこの解釋も、なぜ(17)b,c の規則が存在するのかも不明である。(17)b は勿論の こと、(17)c も制約によつて捉へ直すことが出來ない。 結局、(12)a の見解は取る事が出來ない。 2.2.2 //u//と//ru//を立てる解釋 この考へ方は、//u//が「一段」活用動詞以外で、//ru//が「一段」活用動詞の場合に現 はれるとする考へ方である。 出力までの規則は次の通り。 (18) a.語彙的規則1 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭/「一段」 活用動詞以外の語幹_ b.語彙的規則2 ru]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭/「一段」 活用動詞語幹_ c.語幹末母音削除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭 規則は 3 なので、規則數だけ見れば(13)と同じである。しかし形態素は二つなので、 規則と「終止形」屈折接尾辭數をまとめると 5 となり、優れてゐない。 また、「終止形」屈折接尾辭を//ur//とする解釋では、(C)V と言ふ音節構造と、「連 體形」や「已然形」から知られる「一段」活用動詞の「語幹の固さ」、卽ち、「一段」 活用動詞語幹の分節音の削除がないことからその存在が豫測され得る音位轉換規則が、 この解釋では存在しない事になり、その組合せを記憶してゐると言ふ事になる。 レキシコンの中に含まれてゐる形態素の數は少ない方が良く、また、文法によつて導 かれる情報は語彙情報として設定しないと言ふのは、形態論の「鐵則」である。 この解釋では、古代日本語における基本音節構造が(C)V であると言ふ文法情報から 導き出される規則を語彙的な情報として扱つてしまつてゐるので、やはり取る事は出來 ない 36 また、語彙的規則を除いても、「助動詞ベシ」「助動詞マジ」にも同樣の理由で「助 動詞ベシ」「助動詞マジ」にそれぞれ 2 形態素、合はせて 4 形態素設定しなければなら なくなる。これは表層形の表れ方が、「助動詞ベシ」「助動詞マジ」が派生接尾辭 とすると、接辭末に母音插入が鎌倉時代以前に生じたと考へることになる。 さて、問題は中古語の「終止形」屈折接尾辭の基底形として//ur//を立てることが本 當に妥當であるか、卽ち、他の//u//や//ru//、或いはその兩方、更に加へて「ゼロ形態 素」を立てる説よりも優れてゐるかである。 以下では、これらの問題について考察する。 猶、この問題を完全に最適性理論、卽ち制約とその階層に基づいて考察するのは、全 體の制約とその階層の考へなほしを含むので、難しいところである。そこで本稿では規 則とその妥當性によつて、(勿論處々制約も考察に含めて)檢討する。 2.2 他の考へ方の檢討 2.2.1 (12)a の檢討 (12)a の解釋は「終止形」 屈折接尾辭として//u//のみ を立てる解釋である。 この解釋では、「ラ變」活用動詞を考察對象外とすると、中古語では「一段」活用動 詞では接辭境界への插入子音[r]の插入を考へることとなり、鎌倉時代語では、語末に [ru]の插入が「四段・ラ變 」動詞以外で生じたと考へることになる。規則を示すと以下 の樣になる。 (16) a.語幹末母音削除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u 始 ま り の 屈 折 接 尾 辭 b.插入1 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→ru /「一段」活用動詞語幹_ c.插入2 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→uru /「ナ變」活用動詞語幹_32 (13)と比較してみると、規 則と形態素の數は同じである。ところが、これらの規則の 内、(16)a の方は特に問題無いが、(16)b の方は、(C)V と言ふ音節構造からすると問題 が存在する。この場合、V のみでも音節が成立するのであるから、[r]は必要無い 33 この場合の插入子音を制約によつて捉へ直してみると、それは母音連續の囘避方略であ ると考へられる。しかし、それは「動詞連體形」でも「動詞已然形」でも生じ、また、 「動詞連用形」でもその屈折接辭を「ゼロ形態素」としなければ生じるので、夫々 [CVruru]、[CVrure]、[CVri]の如く出力されてゐるはずである 34 插入子音自體、中古語では[j]であつたと考へられる。これは音節「え(ア行)」が、 「え(ヤ行)」に合流してゐるからである 35 (16)c も同じく、音節構造 上必要のない插入が爲されて居る點問題である。 鎌倉時代は如何であらうか。鎌倉時代語の規則は次の通りになる。 -90- (七)

(9)

//urbe//、 //urmazi//である と考へるのが妥當であるからである 37。參考としてそれらの 表層形を表 3、表 4 に擧げる。なほ、いづれも「終止形」で代表させる。 ついでながら、非「一段」活用動詞に對して//u//が後接、「一段」活用動詞の場合に は//ru//が後接と、表層形式に基づいて想定するのであるから、「連體形」及び「已然 表 3 中古語の「助動詞ベシ」の出力 活用 種 四段 ラ變 ナ變 上二段 下二 段 上一段 下一段 カ變 サ變

語根 kak ar sin kopi uke mi kʷe k s

終止 形 kakube si arubes i sinube si kopube si ukube si mirube si ksiʷerube kubes i subes i 表 4 中古語の「助動詞マジ」による出力 活 用 種 四段 ラ變 ナ變 上二段 下二 段 上一段 下一段 カ變 サ變 語 根

kak ar sin kopi uke mi kʷe k s

終 止 形 kakuma zi aruma zi sinuma zi kopuma zi ukuma zi miruma zi kziʷeruma kuma zi suma zi 形」に對して、屈折接尾辭として中古語では//u//と//uru//および//e//と//ure//(いづれ も前者が「四段・ラ變」活用動詞の場合、後者がそれ以外の場合)を設定しなければな らない 38 結局、動詞語形變化に關はる屈折接尾辭と(文法的)規則の數が、「助動詞ベシ」 「助動詞マジ」のみ考へても 7 でこの解釋は相對的に多くなる。從つてこの解釋は取り 得ない。 また、この考へ方では、鎌倉時代語には(17)c もしくは (20) 母音插入 ru]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→uru/「二段」活用動詞語幹_ の規則が存在してゐたと考へざるを得ない。これもまた、この考へ方を取る事が出來な い理由である。 2.3 他の可能性の檢討 ここまでは、(12)に擧げた見解について検討を加へてきたが、他に可能性は無いだら うか。ここでは、それ等について検討を加へてゆく。 2.3.1 //∅//と//u//を立てる解釋 この見解では//∅//が「二段動詞」に、//u//がそれ以外に現れるとする解釋である。 この場合、中古語の規則は -89- (八)

(10)

(21) 子音插入 u]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→ru/「一段」活用動詞語幹_ のみとなり、「終止形」屈折接尾辭は増えるが、(文法的)規則は少なくなる。規則と 「終止形」屈折接尾辭數をまとめると 3 となり、「終止形」屈折接尾辭を//ur//とする 解釋に競べて、經濟的で優れてゐる樣に思はれる。 しかしながら、實際にはこの解釋も「二段動詞」に於ける語幹の交替を必要としてを り、結局「形態素の爆發」が生じるので、取る事が出來ない。 猶、鎌倉時代語もこの問題と、(17)c の規則が必要になる問題が存在し、取る事が出 來ない。 2.3.2 //ru//のみを立てる解釋 この解釋は、「終止形」屈折接辭として//ru//を立てる解釋である。中古語の場合は 次の樣な規則が存在したと考へることになる。 (22) a.子音削除 ru]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→u/「一段」動詞以外の動詞語幹_ b.語幹末母音削除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u始 ま り の 屈 折 接 尾 辭 規則の順序は(22)a→(22)b となる。 この見解も(21)同樣、(13)よりも規則が少ないので取りたくなる見解である。しかし ながら、(22)a の規則が、子音語幹動詞の場合は音節構造(C)V 違反の囘避方略として 「動機付けられてゐる」が、「二段」活用動詞の場合にはさうはなつてゐない。實際、 //ru//をとるならば、例へ ば「受く」の「終止形」の出力は、「連體形」「已然形」が さうである樣に、音節數制約の問題もないので[u.ke.ru]でも良いはずである。しかしな がら實際にはさうなつてゐない。また、派生接辭//rare//はなぜ/r/の脱落が生じないのか 不明である。 この問題を根本的に解決するには、「二段」活用動詞の語幹に交替を認めざるを得な いが、それは大量の形態素を生み出す、言はば「形態素の爆發」が生じることを意味す る。結局、(22)a はアドホックな規則であり、取る事が出來ない。 また、鎌倉時代では(22)a の規則の上に (23) 母音插入 ru]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→uru/「二段」活用動詞語幹_ が存在しなければならない。 この(23)の規則自體がアドホックな規則であるので、この見解も取り得ない。 //urbe//、 //urmazi//である と考へるのが妥當であるからである 37。參考としてそれらの 表層形を表 3、表 4 に擧げる。なほ、いづれも「終止形」で代表させる。 ついでながら、非「一段」活用動詞に對して//u//が後接、「一段」活用動詞の場合に は//ru//が後接と、表層形式に基づいて想定するのであるから、「連體形」及び「已然 表 3 中古語の「助動詞ベシ」の出力 活用 種 四段 ラ變 ナ變 上二段 下二 段 上一段 下一段 カ變 サ變

語根 kak ar sin kopi uke mi kʷe k s

終止 形 kakube si arubes i sinube si kopube si ukube si mirube si ksiʷerube kubes i subes i 表 4 中古語の「助動詞マジ」による出力 活 用 種 四段 ラ變 ナ變 上二段 下二 段 上一段 下一段 カ變 サ變 語 根

kak ar sin kopi uke mi kʷe k s

終 止 形 kakuma zi aruma zi sinuma zi kopuma zi ukuma zi miruma zi kziʷeruma kuma zi suma zi 形」に對して、屈折接尾辭として中古語では//u//と//uru//および//e//と//ure//(いづれ も前者が「四段・ラ變」活用動詞の場合、後者がそれ以外の場合)を設定しなければな らない 38 結局、動詞語形變化に關はる屈折接尾辭と(文法的)規則の數が、「助動詞ベシ」 「助動詞マジ」のみ考へても 7 でこの解釋は相對的に多くなる。從つてこの解釋は取り 得ない。 また、この考へ方では、鎌倉時代語には(17)c もしくは (20) 母音插入 ru]「 終 止 形 」 屈 折 接 尾 辭→uru/「二段」活用動詞語幹_ の規則が存在してゐたと考へざるを得ない。これもまた、この考へ方を取る事が出來な い理由である。 2.3 他の可能性の檢討 ここまでは、(12)に擧げた見解について検討を加へてきたが、他に可能性は無いだら うか。ここでは、それ等について検討を加へてゆく。 2.3.1 //∅//と//u//を立てる解釋 この見解では//∅//が「二段動詞」に、//u//がそれ以外に現れるとする解釋である。 この場合、中古語の規則は -88- (九)

(11)

2.3.3 その他の解釋の検討 その他の解釋には中古語で//u//,//∅//(若しくは//nothing//。以下特に言及することはし ない。),//ru//を立てる考へ方がある。これは規則による基底形から表層形を導く過程 を想定せずに、形態素とそれが現れる條件のみで記述する考へ方である。 形態素が 3 つ(//nothing//ならば 2 つ)設定され、規則がないのであるから(13)(15)よ りも優れてゐさうだが、//∅//の現れる條件が「二段」活用動詞であるので、結局「二 段」活用動詞語幹に對して語幹の交代を設定せざるをえず、「形態素の爆發」が生じ る。 結局この解釋も取ることは出來ない。 3 結論 本稿では上代から中古の音節構造と、その構造から見える「終止形」屈折接尾辭の基 底形とその變化について論じた。 以上の樣に、上代から 中古の日本語の基本音節構造について(C)V であると考へ、「終 止形」屈折接尾辭の基底形について考察を深めることは、單に當該形態素の基底形につ いての知見をもたらすだけでなく、それと關連する他の形態素に關する知見も深めてく れる。 これまでの國語學においては、「形態変化のあり方,とりわけ形態変化の規則性は明 確に記述されているとは言えな」かつた(ハイコ,ナロック(2005))。しかし、形態分 析を正確に行ふ事により、ハイコ,ナロック(2005)のいふ通り、共時的に正確な記述が 出來るのみならず、通時的變化に對しても妥當な理由を示すことが出來る樣になるだら う。 -87- (十)

(12)

註 1上 代 語で も中 古語 でも 、假 名( 上 代な らば 音假 名) は( 二合 假 名を 除い て) モー ラに 對し て 振ら れた も の と考 へる べき であ る。 例へ ば (有 名な 例で ある が) 次の 樣 な例 が存 在す る。 (1) a. 蚊 蟻 上 可下 音疑 訓安 利乃古 ( 『新 譯華 嚴經 音 義 私記 』) ( 下 線は 私に 付し た。 以下 同じ 。) b. 蚊 [蟲 偏に 罔 ]虻 [蟲 偏に 兒 ](中 略 )上 二字 加安 下 二 字 阿 牟( 『 新譯 華 嚴 經音 義 私 記 』 ) ( [蟲偏に罔]に對する付箋「蚋」あり。) c. 加 阿( 聲點 注 記上 上) (『金 光 明最 勝 王 經 音 義』 ) ( 略 記號 の説 明。 上= 上聲 點。 上 聲點 とは 、『 金光 明最 勝王 經 音義 』で は高 いピ ッチ [H]を表したとさ れ る 記號 であ る( 金田 一春 彦 (1947))。) (1)a、(1)b は奈良時代寫の音義の一つである。上代語の言語資料として名高い(岡田希雄(1941))。 (1)c は 平 安 時 代 後期 寫と され るが 、 一部 に上 代特 殊假 名 遣 を 殘 し て居 る と さ れ る資 料 。 こ の例 は少 なく とも 表層 にお け る音 節の 長短 を表 す表 記方 法 がな かつ たと する 假説 の反 證 であ る。 假 に 表層 にお いて 二重 母音 が存 在 した が、 表記 方法 がな かつ た ので それ が表 され なか つた の であ れ ば 、 上記 の樣 な例 は存 在し ない は ずで ある 。『 新譯 華嚴 經音 義 私記 』は 、そ の和 訓の 背景 に 原典 『華 嚴 經 』の 文脈 があ るの で、 何ら か の條 件に よつ て、 (1)a に見られる表記と(1)b に見られる表記が使ひ 分 け られ て居 た可 能性 がな いこ と はな い。 その 場合 、制 約 FTBIN(PRINCE and Smolensky(2004,深 澤譯

2008))を 形 態素 //ka//若 し くは //kaa//「 蚊」 が滿 たす た め に [kaa]と して 出 力 され たと 考 へ るの が 、 最 も 穩 當 な 考へ 方で あら う( 語彙 最小 性 ( Word Minimality)によつて 2 モーラで出力される)。しかし、次 の 樣 な用 例が 存在 する 。 (2) ( 前 略) 今年 某月 某日 諸參 來弖皇 神 前爾宇事 物頸 根築 拔弖(後略 ) 今 年 の其 れの 月の 其れ の日 、諸 參 り來 て、 皇神 の前 にう じ物 頸 根築 き抜 きて ( 『 延喜 式祝 詞』 廣瀨 大忌 祭。 下 線は 筆者 によ る。 訓讀 は沖 森 卓也 編 (1995)による。) 從 つ て、 少な くと も上 に述 べた 樣 な制 約 FTBINを 滿 た す ために 長 くな つて 居る とは 言へ ない 。 他の 解 釋 とし ては 、出 力は [ka.ʔa]であるといふのがあり得る。だがこの解釋は //ka//「蚊」にいづれかのレ ベ ル で子 音插 入が 生じ たと 考へ る こと にな る。 しか し、 この 上 代語 の用 言の 活用 を分 析す る に、 その 様 な 事實 は存 在し ない (變 換は あ り得 ただ らう )。 結 局、 上代 語の 「蚊 」に つい て は、 現狀 では //ka//[ka]と//kaa//[kaa]の 2 形態素を立てるのが、文法に よ つ て予 測さ れな いの で最 も合 理 的な 解釋 であ らう 。當 然こ の 言語 の一 音節 語は それ ぞれ 2 形態素存 在 す るこ とが 予測 され るが 、ど こ まで 一般 化で きる 物で ある か は現 狀不 明で ある 。 一 方 で二 重子 音は [kj]ならば(一應)存在した可能性はある。他は(2)a で見る樣にない。 な ほ 、上 代語 の「 アク セン ト」 に つい ては 金田 一春 彦 (1983)のコメントがある。そこでは中古語と 上 代 語に 大差 はな かつ たで あら う こと が述 べら れて 居る 。 ま た、 笠間 裕一 郞 (2014b)では、『日本書紀』聲點本と『琴歌譜』における「助詞テ」に對する差聲 と 注 記の 有り 様か ら、 前者 の聲 點 が反 映す る「 アク セン ト」 が 、貞 觀年 間以 前で ある 可能 性 があ るこ と を 示し た。

2 制 約の 定義 は以 下の 通り (PRINCE and Smolensky(2004,深澤譯 2008)を參照)。

PARSE; 基 底 の分 節音 は、 音節 構 造の 中に 解析 され な け れば な ら な い 。 FILLONS; 頭 子 音 は基 底の 分節音 で 充塡 され なけ れば なら ない 。

ONS; 音 節 は頭 子音 をも たね ばな ら ない 。

PARSE 制約と FILL 制約については McCarthy and Prince(1995)で、MAX 制約と DEP 制約として一般 化 さ れて 居る が、 本稿 では 、原 典 の用 語と 定義 を蹈 襲し て、 音 節構 造に 關す る場 合 は PARSE 制約、 FILL 制 約 と す る 。以 下同 樣 。

3 制 約の 定義 は以 下の 通り (PRINCE and Smolensky(2004,深澤譯 2008)を參照)。

FILLNUC; 核 の 位 置 は基 底の 分節 音 で充 塡さ れな けれ ばな らな い 。

NOCODA; 音 節 は末 子音 をも つて は なら ない 。

猶 、 NOCODAは PRINCE and Smolensky(2004,深澤譯 2008)では-CODと 表 記 さ れて ゐる が、本 稿 では 上

記 の 樣に NOCODAと 表 記 す る。 4 中 古語 の形 態分 析の 詳細 は 別稿 で 詳し く論 ずる 。 5 こ れを //are//として母音語幹動詞で[r]の插入とすると、なぜ他の非 u 始まりの接辭で插入が生じない の か の説 明が 出來 ない 。 //rare//と//are//の 2 形態素を立てるのは、記述的に非經濟的である。 6 ☑ はそ の制 約階 層で は最 適 と評 價 され なか つた 、實 際の 出力 を 表す 。以 下同 じ。 2.3.3 その他の解釋の検討 その他の解釋には中古語で//u//,//∅//(若しくは//nothing//。以下特に言及することはし ない。),//ru//を立てる考へ方がある。これは規則による基底形から表層形を導く過程 を想定せずに、形態素とそれが現れる條件のみで記述する考へ方である。 形態素が 3 つ(//nothing//ならば 2 つ)設定され、規則がないのであるから(13)(15)よ りも優れてゐさうだが、//∅//の現れる條件が「二段」活用動詞であるので、結局「二 段」活用動詞語幹に對して語幹の交代を設定せざるをえず、「形態素の爆發」が生じ る。 結局この解釋も取ることは出來ない。 3 結論 本稿では上代から中古の音節構造と、その構造から見える「終止形」屈折接尾辭の基 底形とその變化について論じた。 以上の樣に、上代から 中古の日本語の基本音節構造について(C)V であると考へ、「終 止形」屈折接尾辭の基底形について考察を深めることは、單に當該形態素の基底形につ いての知見をもたらすだけでなく、それと關連する他の形態素に關する知見も深めてく れる。 これまでの國語學においては、「形態変化のあり方,とりわけ形態変化の規則性は明 確に記述されているとは言えな」かつた(ハイコ,ナロック(2005))。しかし、形態分 析を正確に行ふ事により、ハイコ,ナロック(2005)のいふ通り、共時的に正確な記述が 出來るのみならず、通時的變化に對しても妥當な理由を示すことが出來る樣になるだら う。 -86- (十一)

(13)

7 中 古語 形容 詞の 形態 素基 底 形は (5)の通り。清瀬義三郎則府(1989/2013)も參照。連結母音・連結子音

を 導 入し ない 點、 清瀬 義三 郎則 府 (1989/2013)と異なる。これは規則で處理される。派生接辭は省略。

(5) 形 容 詞の 形態 素基 底形 語根 非直 説法 直説 法 ク活用 連用 形 連體 形

taka iku iki 非節 末限 定形 シク活 用 ikere si 節末 限定 形 kanas 已然 形 終止 形 8 謂 はゆ る「 促音 」に 對す る 平安 時 代の 表記 は搖 れる とこ ろで あ るが 、築 島裕 (1969)では院政期ごろか ら 「 ツ」 によ る表 記が 登場 し、 そ れ以 前は 無表 記も しく は「 ム 」或 いは 平安 後期 ごろ から 「 ン」 によ る 表 記が 行は れて ゐる こと が述 べ られ てゐ る。 9 註 1 で述べた處から、假名數はモーラ數を參照してゐるので、この場合は「きい」と表記されるは ず で ある 。 10 [kr]の樣 な二 重 子音 を表 記する 方 策は サン スク リ ッ トの 音 譯 漢 字 に 存在 する ので 、も し 上 代 ・ 中 古 語 に 存在 した なら ば、 それ に基 づ いた 表記 がな され たで あら う 。 11 二 重頭 子音 をど の樣 に表 記 した か は實 際の 處不 明で ある 。和 語 にお いて 、二 重頭 子音 とし て 解析 さ れ る 可能 性が ある のは 、「 促音 便 」「 撥音 便」 の場 合で ある 。 前者 の場 合は 既に 述べ た樣 に 、「 ム」 「 ツ 」で 表記 、或 いは 表記 され な かつ たが 、こ れは 「促 音」 を 音節 末子 音と 解析 して ゐる と も考 へら れ る 。 後 者の 場合 はむ しろ 明確 に音 節 末子 音と して 解析 して ゐる や うで ある 。「 撥音 便」 は例 へ ば「 往 ぬ 」 であ れば [inde]と出力されるが、これは聞こえ度が[d]まで下降する。(勿論英語の三重子音[str]の 樣 に 「聞 こえ 度の 谷」 が出 來た 場 合で も、 同一 の節 點内 部に 解 析さ れる 例も 存在 する が、 ) これ は [in.de][ind.e]と 解析 され るこ とは あ つて も、 [i.nde]と 解 析さ れ る こ と は まづ な い と 言 ふこ とで あ る 。 つ まり 、少 なく とも 中古 語の 和 語に おい ては 二重 頭子 音が な いの で、 二重 頭子 音の 表記 は 問題 にな ら な いし 、ま た、 PARSE≫ FILLONS, FILLN UC≫ O

NS, *COMPLEXONSと 言 ふ 制 約 階層 を中 古語は も つて ゐ な かつ たと 考へ られ る。 12 勿 論、 (C)V(C)構造の場合、當該の言語がどの樣な周邊音、或いは(C 1)(C2)V の 場 合 、 當該の 言 語 が ど の 樣な 第二 子音 を許 すか と言 ふ 問題 につ いて 考へ る必 要が あ る。 例へ ば (C1)(C2)V の 場 合 、 C2は[j]し か 許 され ない かも 知れ ない 。 13 「 音便 」の 機能 が音 節數 を 一致 さ せる こと にあ ると する 見解 は 古く から のも ので ある 。た だ し動 詞 に 限 る。

14 よ り嚴 密に は *COMPLEXONS≫ *COMPLEXNUC

15 こ れは 現代 語ま で續 いて ゐ ると 考 へる 。/kjou/→[kʲoː]は*COMPLEXONSが 上 位 に存 在す る ため 。 16 派 生動 詞に つい ては 、本 稿 では 問 題と しな い。 17 上 代語 から 中古 語、 そし て 鎌倉 時 代語 の動 詞( 及び その 語基 ) の CLASS は二つに分かれると考へ る 。 (10) a.CLASS1 所 謂 非「 二段 活用」 動 詞( 及 び その 語 基 ) b.CLASS2 所 謂 「 二段 活用 」動 詞 (及 びそ の 語 基) 特 徴的 な點 は、 所謂 「一 段」 動 詞( 及び その 語基 )が 所謂 子 音語 幹動 詞と 同樣 のク ラス に 屬す ると 考 へ る點 であ る。 CLASS1 動詞の特徴は、語基に削除が生じない點である。これが、後述する所謂 「 一 段」 動詞 に於 ける 「動 詞終 止 形」 屈折 接尾 辭の 音位 轉換 を 引き 起こ す( 自他 交替 に關 は る派 生接 尾 辭 には 音位 轉換 が生 じな い。 こ れは 屬す るカ テゴ リー が異 な るか らで ある )。 18 早 く語 根に 削除 が生 じた と 見ら れ る「 モテ 」が ある が、 これ は 助詞 とな つて 居る 。新 たな 語 が形 成 さ れ たと きに は、 この やう なこ と が生 じて 居る 樣で ある 。 19 「 未然 形」 を除 く所 謂「 動 詞活 用 形」 。 20 無 論、 實際 の出 力に 關は る 制約 は 更に 複雜 であ る。 「助 詞テ 」 によ る「 音便 」の 最適 性理 論 によ る 分 析 は、 佐々 木冠 (2005)等がある。出力の音節數に注目する點大變參考になつた。ただし、ここでの 分 析 で用 ゐた 制約 とは 異な る制 約 とそ の階 層に よる 分析 がな さ れて ゐる 。 21 上 代語 につ いて 、笠 間裕 一 郞 (2014a)では(O NS制 約 を 用 ゐず、 ) この 前提 に基 づい て、 動詞 活 用の 分 析 を行 つた 。 22 正 確に は //(u)∅//と//ru//とするが、本稿との議論では ∅を含めるか否かは無關係であるので、この樣に 纏 め てお く。 -85- (十二)

(14)

23 「 ラ變 動詞 」語 幹が 先行 す ると き 、「 肯定 ・非 推量 ・非 想起 」 形の 「連 用形 」と 「終 止形 」 は -i を 屈 折 接尾 辭と して 取り 、中 和す る (上 代語 では 「見 」で もそ の 樣で ある )。 從つ て、 所謂 「 終止 形」 に 屈 折接 辭は 二つ いら ない 。以 降 の議 論も 、 -i については「終止形」屈折接尾辭としては立てないと し て 、議 論を 進め てい く。 24 「 カ變 」「 サ變 」動 詞に は 語根 を 二つ 設定 する ( VOVIN(2003)に同じ)。この理由と詳細はまた別 稿 で 述べ る。 //ko//、//se//は、所謂「動詞活用形」では「命令形」に表れる。 25 こ れは *VV(GR-Wd)と「二段」動詞の語幹に對する削除を禁止する制約と u で始まる接辭の相互作 用 に よつ て生 じる と考 へて ゐる 。 「植 う」 のや うな 「ワ 行下 二 段動 詞」 や「 悔ゆ 」の 樣な 「 ヤ行 上二 段 動 詞」 の場 合は 、更 に他 の制 約 が關 與し てゐ ると 考へ られ 、 これ らの 出力 につ いて は、 別 の機 會に 論 ず る。 猶、 *VV は CASALI(1998)參照。 ま た、 この やう に言 及す るの は 、こ の規 則が 擴張 でき るか ら であ る。 但し 、以 下で は「 終 止形 」屈 折 接 尾辭 を對 象と する ので 、特 に 言及 しな い限 り、 對象 は「 終 止形 」屈 折接 尾辭 とす る。 26 こ の規 則は より 一般 化す るこ と がで きる 。そ れに つい ては ま た別 の機 會に 述べ る。 27 實 際に は語 基が 對象 とな る 。註 25 と同じ理由で、特に言及しない限り問題としない。 28 「 一段 」活 用動 詞を 派生 す る派 生 接辭 はな いの で、 語根 が對 象 とな る。 29 な ほ、 その 他條 件に つい て は、 比 較檢 證に 直接 關は らな いの で 、言 及し ない 。 30 例 は以 下の 通り 。 (14) 景 時 ここ にあ り。 いか に源 太、 死 ぬる とも 敵に うし ろ を 見す な (『 平 家 物語 』 卷 第 九 二 度 之 懸 ) た だ し、 この 例は 梶原 景時 の發 言 であ るの で、 東國 方言 であ る 可能 性も なく はな い。 31 「 四段 ・ラ 變」 活用 動詞 で は接 辭 //uru//及び//ure//の左側からの切り詰めが生じてゐる。これは PU(σ;AFF,NonCONJ,NonRECOL;CSV1)による。此の點は中古語でも同じ。 32 「 一段 」活 用動 詞同 樣「 ナ 變」 活 用動 詞を 派生 する 派生 接辭 は ない ので 、こ の場 合も 語根 が 對象 。 33 音 節構 造 が CV ならば抑も V のみからなる音節が存在しない。ア列音が一律軟口蓋よりも奥よりの 調 音 點を もつ 頭子 音を もつ てゐ た と考 へて も、 「母 音語 幹動 詞 」の 時に なぜ 語幹 末或 いは 接 辭初 頭の 母 音 の削 除が 生じ るの か不 明で あ る。 この 問題 を囘 避し よう と する と、 大量 の「 ゼロ 形態 素 」を 生み 出 す こと にな る。 34 勿 論「 終止 形の みで ……」と言ふ條件をつければ、この問題は囘避される。 35 j が 插 入子 音と なる のは 語頭だ け かも 知れ ない 。 和 語に は強 い 制 約 とし て、 * Gr -Wd[r( 文 法 語 初頭 の r の 禁 止) が存 在す る。 語中 では r、語頭では j であつてもをかしくない。

36 此 の點 につ いて は PRINCE and Smolensky(2004,深澤譯 2008)でも、マオリ語の受動態の分析を例に取

り 、 最適 性理 論に おい て、 この 問 題が どの 樣に 處理 され るか が 述べ られ てゐ る。

結 論と して は、 形態 素が 多い が 、表 層と 一致 する 解釋 、卽 ち 、制 約違 反が 生じ ない 解釋 と 、形 態素 は 少 ない が、 表層 と一 致し ない 解 釋で は、 恐ら くは 學習 のた や すさ と言 ふ點 で優 位な 後者 の 方が 優れ て ゐ るだ らう と言 ふも ので ある 。

こ れを 、 PRINCE and Smolensky(2004,深澤譯 2008)では、最小語彙餘剩性の原理と述べてゐる。「こ の 原 理は ,文 法的 な制 約か ら予 測 可能 な情 報は ,最 大限 可能 な 限り ,語 彙か ら除 外さ れる べ きで ある と い うも ので ある .」 ( PRINCE and Smolensky(2004,深澤譯 2008)參照)

37 上 代語 の場 合、 必ず しも こ のや う に設 定で きる とは 限ら ない の で、 これ 等は 現状 では 檢討 對 象と は し 難 い。 なほ 、こ れら を派 生接 尾 辭と する 説は 清瀬 義三 郎則 府 (1989/2013)に見えてゐる。實はこの他 に も 所謂 「動 詞終 止形 」を //ur//と設定すべき根拠となる形態素として所謂「助動詞らむ」が存在す る 。 この 詳細 は別 稿で 述べ る。 な ほ、 秋永 一枝 (1991)や屋名池誠(2004)を參照するに、上代・中古の動詞屈折接尾辭のうち、所謂 「 打 消の 助動 詞ジ 」は 「終 止形 」 と「 已然 形」 が、 「否 定の 助 動詞 ズ」 は「 連用 形」 と「 終 止形 」が 中 和 する 。「 ラ變 動詞 」に つい て は、 註 23 で述べた通り。「助動詞ラム」は「終止形」と「連體形」 が 中 和し て居 ると 考へ て良 いだ ら う。 ま た、 中古 語で は「 助動 詞ラ シ 」は 屈折 接辭 であ るが 、こ れ は「 終止 形」 「連 體形 」「 已 然形 」が 中 和 して 居る だら う( ただ し「 已 然形 」の みは 異な る可 能性 が ある )。 ただ 、「 助動 詞ラ シ 」は 中古 以 降 、歌 謠に しか 表れ ない 「歌 語 」で ある ので 、中 古語 の共 時 的體 系か らは はず して 良い 。 38 な ほ、 この 規則 は次 に樣 に なる 。 (19) 語 幹 末母 音削 除 V]「 二 段 」 活 用 動 詞 語 幹→∅ /_[u始 ま り 屈 折 接 尾 辭 7 中 古語 形容 詞の 形態 素基 底 形は (5)の通り。清瀬義三郎則府(1989/2013)も參照。連結母音・連結子音 を 導 入し ない 點、 清瀬 義三 郎則 府 (1989/2013)と異なる。これは規則で處理される。派生接辭は省略。 (5) 形 容 詞の 形態 素基 底形 語根 非直 説法 直説 法 ク活用 連用 形 連體 形

taka iku iki 非節 末限 定形 シク活 用 ikere si 節末 限定 形 kanas 已然 形 終止 形 8 謂 はゆ る「 促音 」に 對す る 平安 時 代の 表記 は搖 れる とこ ろで あ るが 、築 島裕 (1969)では院政期ごろか ら 「 ツ」 によ る表 記が 登場 し、 そ れ以 前は 無表 記も しく は「 ム 」或 いは 平安 後期 ごろ から 「 ン」 によ る 表 記が 行は れて ゐる こと が述 べ られ てゐ る。 9 註 1 で述べた處から、假名數はモーラ數を參照してゐるので、この場合は「きい」と表記されるは ず で ある 。 10 [kr]の樣 な 二 重 子音 を 表 記 する 方 策 は サ ン スク リ ッ トの 音譯 漢 字に 存在 する ので 、も し上 代 ・ 中 古 語 に 存在 した なら ば、 それ に基 づ いた 表記 がな され たで あら う 。 11 二 重頭 子音 をど の樣 に表 記 した か は實 際の 處不 明で ある 。和 語 にお いて 、二 重頭 子音 とし て 解析 さ れ る 可能 性が ある のは 、「 促音 便 」「 撥音 便」 の場 合で ある 。 前者 の場 合は 既に 述べ た樣 に 、「 ム」 「 ツ 」で 表記 、或 いは 表記 され な かつ たが 、こ れは 「促 音」 を 音節 末子 音と 解析 して ゐる と も考 へら れ る 。 後 者の 場合 はむ しろ 明確 に音 節 末子 音と して 解析 して ゐる や うで ある 。「 撥音 便」 は例 へ ば「 往 ぬ 」 であ れば [inde]と出力されるが、これは聞こえ度が[d]まで下降する。(勿論英語の三重子音[str]の 樣 に 「聞 こえ 度の 谷」 が出 來た 場 合で も、 同一 の節 點内 部に 解 析さ れる 例も 存在 する が、 ) これ は [in.de][ind.e]と 解析 さ れ るこ と は あ つ て も、 [i.nde]と 解 析さ れる こ とは まづ ない と言 ふこ とで あ る。 つ まり 、少 なく とも 中古 語の 和 語に おい ては 二重 頭子 音が な いの で、 二重 頭子 音の 表記 は 問題 にな ら な いし 、ま た、 PARSE≫ FILLONS, FILLN UC≫ O

NS, *COMPLEXONSと 言 ふ 制 約 階層 を中 古語は も つて ゐ な かつ たと 考へ られ る。 12 勿 論、 (C)V(C)構造の場合、當該の言語がどの樣な周邊音、或いは(C 1)(C2)V の 場 合 、 當該の 言 語が ど の 樣な 第二 子音 を許 すか と言 ふ 問題 につ いて 考へ る必 要が あ る。 例へ ば (C1)(C2)V の 場 合 、 C2は[j]し か 許 され ない かも 知れ ない 。 13 「 音便 」の 機能 が音 節數 を 一致 さ せる こと にあ ると する 見解 は 古く から のも ので ある 。た だ し動 詞 に 限 る。

14 よ り嚴 密に は *COMPLEXONS≫ *COMPLEXNUC

15 こ れは 現代 語ま で續 いて ゐ ると 考 へる 。/kjou/→[kʲoː]は*COMPLEXONSが 上 位 に存 在す る ため 。 16 派 生動 詞に つい ては 、本 稿 では 問 題と しな い。 17 上 代語 から 中古 語、 そし て 鎌倉 時 代語 の動 詞( 及び その 語基 ) の CLASS は二つに分かれると考へ る 。 (10) a.CLASS1 所 謂 非「 二 段 活 用 」 動 詞 ( 及び その 語 基 ) b.CLASS2 所 謂 「 二段 活用 」 動 詞 ( 及 びそ の語 基) 特 徴的 な點 は、 所謂 「一 段」 動 詞( 及び その 語基 )が 所謂 子 音語 幹動 詞と 同樣 のク ラス に 屬す ると 考 へ る點 であ る。 CLASS1 動詞の特徴は、語基に削除が生じない點である。これが、後述する所謂 「 一 段」 動詞 に於 ける 「動 詞終 止 形」 屈折 接尾 辭の 音位 轉換 を 引き 起こ す( 自他 交替 に關 は る派 生接 尾 辭 には 音位 轉換 が生 じな い。 こ れは 屬す るカ テゴ リー が異 な るか らで ある )。 18 早 く語 根に 削除 が生 じた と 見ら れ る「 モテ 」が ある が、 これ は 助詞 とな つて 居る 。新 たな 語 が形 成 さ れ たと きに は、 この やう なこ と が生 じて 居る 樣で ある 。 19 「 未然 形」 を除 く所 謂「 動 詞活 用 形」 。 20 無 論、 實際 の出 力に 關は る 制約 は 更に 複雜 であ る。 「助 詞テ 」 によ る「 音便 」の 最適 性理 論 によ る 分 析 は、 佐々 木冠 (2005)等がある。出力の音節數に注目する點大變參考になつた。ただし、ここでの 分 析 で用 ゐた 制約 とは 異な る制 約 とそ の階 層に よる 分析 がな さ れて ゐる 。 21 上 代語 につ いて 、笠 間裕 一 郞 (2014a)では(O NS制 約 を 用 ゐず、 ) この 前提 に基 づい て、 動詞 活 用の 分 析 を行 つた 。 22 正 確に は //(u)∅//と//ru//とするが、本稿との議論では ∅を含めるか否かは無關係であるので、この樣に 纏 め てお く。 -84- (十三)

(15)

参 考 文 献

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McCARTHY, John J.and Alan Prince(1995)”Faithfulness and Reduplicative Identity” Papers in Optimality

Theory University of Massachusetts Occasional Papers 18 Jill N. Beckman, Laura Walsh Dickey &

Suzanne Urbanczyk(eds.) 3r d ed. Massachusetts Amherst: Graduate Linguistic Student Association

NISHIYAMA, Kunio(1996)”Historical Change of Japanese Verbs and Is Implications for Optimality Theory”

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参照

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