は じ め に ナミハダニTetranychus urticae は各種の植物に寄生 し,多くの農作物の重要害虫としてよく知られている。 リンゴにおいて,本種(雌成虫の体長は約 0.6 mm)は 主に葉の裏面に寄生して吸汁加害する。被害は季節的に リンゴ樹の内側から外側に広がり,被害葉は裏側が褐変 し,多発生の場合には早期落葉を引き起こすこともあ る。被害葉の同化機能が低下するため,一般にはリンゴ 果実の肥大や着色,翌年の花芽形成等に悪影響を及ぼ す。本種は雌成虫がリンゴ樹幹の粗皮下や地表の落葉等 にコロニーを作って越冬する。越冬成虫はリンゴの発芽 期ころから越冬場所を離脱し,始めは地表の下草やリン ゴ樹の徒長枝葉等に寄生する。リンゴ園における発生盛 期は 7 ∼ 8 月で,9 月中旬ころから淡橙色の越冬成虫(休 眠雌)が出現する。 リンゴ園におけるナミハダニの防除は殺ダニ剤散布に よっており,秋田県の平成 27 年度農作物病害虫防除基 準のリンゴの項には 11 種類の殺ダニ剤が採用されてい る。しかし,本県ではこれまでに各種の殺ダニ剤に対し て本種の低感受性個体群が出現し,使用開始の 2 ∼ 3 年 後に防除効果が認められなくなった薬剤も多く(舟山・ 高橋,1995;舟山,2000),現在はこれら殺ダニ剤の半 数以上で本種に対する防除効果の低下が確認されてい る。このため,新たな殺ダニ剤を使用するにも,本種に 対して高い防除効果を期待できる殺ダニ剤が非常に少な く,リンゴ生産者は防除対策に苦慮しており,殺ダニ剤 散布に替わる防除技術の確立が急務になっている。 このような状況の一方で,殺虫剤無散布のリンゴ園で はハダニ類の被害は問題となっていない(石川,2008)。 殺虫剤無散布のリンゴ園ではカブリダニ類,特にフツウ カブリダニTyphlodromus vulgaris(口絵①)やミチノク カブリダニAmblyseius tsugawai(口絵②)が多数観察さ
れている(KISHIMOTO, 2002 ; TOYOSHIMA, 2003 ; TOYOSHIMA et al., 2011)。カブリダニは多くの農作物においてハダニ類 の主要な天敵である。しかし,慣行防除を行っているリ ンゴ園でカブリダニはあまり観察されない。現在,リン ゴ園ではモモシンクイガCarposina sasakii,ハマキムシ 類,キンモンホソガPhyllonorycter ringoniella 等主要チ ョウ目害虫の防除を主体に様々な種類の殺虫剤が散布さ れている。有機合成殺虫剤は,神経系に作用する神経機 能 阻 害 剤 と 脱 皮・変 態 時 に 作 用 す る IGR 剤(Insect Growth Regulator:昆虫成長制御剤)に分類され,さら に神経機能阻害剤は化学構造から,有機リン剤,カーバ メート剤,合成ピレスロイド剤およびネオニコチノイド 剤等に分類される(浜,1996)。これら薬剤は種類によ って殺虫スペクトルが異なり,合成ピレスロイド剤や有 機 リ ン 剤 は 殺 虫 ス ペ ク ト ル が 広 い が,IGR 剤 や BT (Bacillus thuringiensis)剤はこれらの殺虫剤に比較して 殺虫スペクトルが狭い(浜,1996)。一般にカブリダニ など多くの天敵類は殺虫剤に対して感受性が高い(真 梶・足立,1978)ため,合成ピレスロイド剤や有機リン 剤はカブリダニに対する悪影響が強い。 リンゴ園でナミハダニは古くからの重要害虫ではな く,秋田県のリンゴ園では 1980 年代以降に多発生が問 題化している(成田・高橋,1981)。多くのリンゴ園で はこのころから非選択性殺虫剤の合成ピレスロイド剤が 広域で使用され始めており,過度の殺虫剤散布がナミハ ダニの発生増加を招いていることが指摘されている (TOYOSHIMA et al., 2011)。さらに,カンキツでは合成ピレ スロイド剤散布によって天敵類が減少し,ミカンハダニ Panonychus citri のリサージェンス(resurgence:誘導 多発生)が確認されている(FURUHASHI, 1990)。これらの 知見は,現在のリンゴ園におけるナミハダニの多発生も 同様の原因によって引き起こされている可能性を示唆す る。そこで,2012 ∼ 13 年に秋田県のリンゴ園で非選択 性殺虫剤散布の有無がナミハダニとカブリダニの発生に 及ぼす影響について調べた(FUNAYAMA, 2015)ので,そ の内容を紹介する。なお,本稿における「非選択性殺虫 剤」は合成ピレスロイド剤や有機リン剤等の殺虫スペク トルが広く,多くの天敵類に対して悪影響が認められて いる殺虫剤を示し,「選択性殺虫剤」は IGR 剤などの天
リンゴ園における非選択性殺虫剤散布が
ナミハダニの発生に及ぼす影響
舟 山 健
秋田県果樹試験場Infl uence of Broad-Spectrum Insecticides Spraying to Occurrence of the Two-Spotted Spider Mite in Apple Orchards. By Ken FUNAYAMA
(キーワード:ナミハダニ,カブリダニ,非選択性殺虫剤,リサ ージェンス,リンゴ)
敵類への悪影響が少ない殺虫剤を示す。 I 非選択性殺虫剤散布でナミハダニは 多発生するか 本実験の前年にリンゴ圃場の土着カブリダニの発生密 度を高める管理を行った。天敵類の生存や繁殖,行動等 を高める「生息環境管理」は,農耕地における土着天敵 の 保 護 と 利 用 の 根 幹 を な す 技 術 で あ る(LANDIS et al., 2000)。リンゴ園における具体的な方法としては,「天敵 に影響の少ない殺虫剤の使用」や「草生栽培による下草 環境の保全」が代表としてあげられる(FUNAYAMA et al., 2015)。前者について,IGR 剤などの選択性殺虫剤は IPM(総合的害虫管理)でも使用されている(AMALIN et al., 2000 ; MARKÓ et al., 2009 ; SONODA et al., 2011 ; FUNAYAMA, 2014)。IOBC toxicity categories(HASSAN, 1994)では天 敵に対する各種殺虫剤の死虫率に基づいて,殺虫剤の影 響をクラス 1(影響がない,< 30%),クラス 2(軽度 の影響がある,30 ∼ 79%),クラス 3(中程度の影響が あ る,80 ∼ 99%)お よ び ク ラ ス 4(影 響 が あ る,> 99%)の 4 段階で評価している。例えば,ケナガカブリ ダニNeoseiulus womersleyi(口絵③)雌成虫に対して, ビフェントリンやフェンプロパトリン等の合成ピレスロ イ ド 剤 は ク ラ ス 4 の 影 響 が 認 め ら れ る(AMANO et al., 2004)が,フルフェノクスロンやテフルベンズロン等の IGR 剤はクラス 1 で影響が認められない(浜村・篠田, 2003)。また,フツウカブリダニに対してもジフルベン ズロン,テフルベンズロン,ブブロフェジン等の IGR 剤とフロニカミドは影響が認められない(FUNAYAMA et al., 2015)。 天敵保護方法の後者については,リンゴ園の下草には 天敵類を含む様々な生物が生息しており,下草の管理は 天敵類の発生に影響する。慣行管理の多くのリンゴ園で は草刈機による除草が 5 ∼ 9 月ころまで 3 ∼ 4 週間の間 隔で行われ,天敵類の下草内の生息環境は頻繁にかく乱 表−1 2012 年と 2013 年に実験圃場 A,B に散布した農薬(FUNAYAMA, 2015) 散布時期 殺菌剤 殺虫剤 2012 年と 2013 年の圃場 A 2012 年の圃場 B 2013 年の圃場 B 5 月上旬 ジチアノン(40, 200, SC) ヘキサコナゾール(2, 20, SC) 5 月下旬 ジチアノン(40, 200, SC) フルフェノクスロン(10, 2.5, EC) ビフェントリン(2%, 20, WP) ヘキサコナゾール(2, 20, SC) 6 月上旬 ジチアノン(40, 200, SC) トラロメトリン(1.4%, 7, SC) 6 月中旬 キャプタン(40, 500, WP) ジフルベンズロン(1, 5, WP) フルバリネート(20%, 100, WP) ホセチル(40, 500, WP) フロニカミド(20, 200, WP) 6 月下旬 クレソキシムメチル(47, 235, WP) ジフルベンズロン(1, 5, WP) フェンプロパトリン(10%, 100, WP) ブプロフェジン(10, 25, WP) 7 月上旬 クレソキシムメチル(47, 235, WP) ジフルベンズロン(1, 5, WP) シハロトリン(5%, 25, WP) 7 月下旬 キャプタン(20, 333, WP), テフルベンズロン(5, 25, EC) ペルメトリン(20%, 100, WP) イミノクタジンアルベシル酸塩(20, 200, WP), ベノミル(50, 167, WP) 8 月上旬 キャプタン(20, 333, WP), テフルベンズロン(5, 25, EC) シフルトリン(5%, 25, EC) イミノクタジンアルベシル酸塩(20, 200, WP) 8 月下旬 キャプタン(40, 500, WP), ホセチル(40, 500, WP) 9 月上旬 フルオルイミド(75, 500, WP) 9 月中旬 フルオルイミド(75, 500, WP) カッコ( )内は成分量%,希釈濃度 ppm,剤型をそれぞれ示す.EC:乳剤;SC:フロアブル;WP:水和剤.
されている。しかし,例えばリンゴ園でもチョウ目害虫 を捕食するオオアトボシアオゴミムシChlaenius micans 成虫は無除草によって個体数が増加することが報告され ている(FUNAYAMA, 2014)。一般に,下草が天敵を誘引す るメカニズムについては,代替 の提供場所や植生が温 湿度の安定した生息環境を形成していること等が考えら れる(山下, 2009)。 こ れ ら の 知 見 を も と に 実 験 の 前 年(2012 年)は, 2011 年まで慣行防除で管理していた二つのリンゴ圃場 (約 10 a)(圃場 A と圃場 B で約 20 m 離れて隣接)を, カブリダニに影響が少なく,主要チョウ目害虫に農薬登 録のある選択性殺虫剤の散布(表―1,フロニカミド以外 は IGR 剤)と無除草で管理して土着カブリダニを保護 した。なお,散布した殺菌剤(表―1)もフツウカブリダ ニに影響が認められない薬剤(舟山,2010 a)を散布した。 同年の両圃場のリンゴ葉におけるナミハダニとカブリダ ニ類の発生消長(図―1)は類似し,7 月下旬からナミハ ダニは増加して 8 月中∼下旬にピークに達したが,ケナ ガカブリダニの捕食によって急減し,9 月中旬以降は観 察されなくなった。フツウカブリダニは 6 ∼ 9 月まで継 続して観察された。また,両圃場の下草におけるナミハ ダニとカブリダニ類の発生消長(図―2)も類似し,ナミ ハダニはリンゴ葉上での発生がピークになったころに観 察された。この観察はリンゴ葉で高密度になったナミハ ダニが下草に移動した可能性を示している。8 月以降は ケナガカブリダニが増加し,ミチノクカブリダニも 7 月 と 9 月下旬に観察された。 土着カブリダニの発生密度を高めた両圃場で,翌年 (2013 年)に次の方法で非選択性殺虫剤散布がナミハダ ニの発生に及ぼす影響を調べた。圃場 A は前年と同様 に 選 択 性 殺 虫 剤 散 布 と 無 除 草 で 管 理 し た が,圃 場 B (2013 年も無除草で管理)には合成ピレスロイド剤(表 ―1)を 5 月下旬∼ 8 月上旬まで約 2 週間間隔で散布して 天敵を除去した。その結果(図―1),圃場 A では前年よ りも多くフツウカブリダニが継続して観察され,8 月以 降はケナガカブリダニも観察され,ナミハダニは 8 月中 旬から 9 月に確認されたものの,発生数は非常に少なか った。一方,圃場 B ではカブリダニがほとんど観察さ れず,ナミハダニは 8 月に急増し,8 月下旬に殺ダニ剤 (スピロメシフェン)を散布して発生を抑制した。また, 両圃場の下草におけるカブリダニの発生も大きく異な り,圃場 A ではミチノクカブリダニが継続して観察さ れたが,圃場 B でカブリダニは観察されなかった(図― 2)。以上の両圃場の比較から,リンゴ園でも非選択性殺 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 ナミハダニ フツウカブリダニ ケナガカブリダニ 圃場 A 圃場 B 5 月 6月 7月 8月 9 2012 年 2013 年 ナミハダニ雌成虫数 20 5 月 6月 7月 8月 月 9月 / 葉 カブリダニ類雌成虫数 20 / 葉 図−1 2012 ∼ 13 年のリンゴ圃場 A と圃場 B のリンゴ葉におけるナミハダニとカブリダニ類の発生消長 (FUNAYAMA, 2015) 圃場 A は 2012 年,2013 年ともに選択性殺虫剤を散布. 圃場 B は 2012 年には選択性殺虫剤散布,2013 年には合成ピレスロイド剤散布(黒矢印). 1 週間ごとにそれぞれの圃場のリンゴ 6 樹から 20 葉ずつ採取し,寄生個体数を調べた. 白矢印は殺ダニ剤散布を示す.
虫剤散布によって天敵(カブリダニ類)が減少し,ナミ ハダニの発生が増加することを確認した。 II リンゴ園における土着カブリダニ保護による ナミハダニの発生抑制機構 筆者は天敵保護管理(選択性農薬散布と無除草)のリ ンゴ圃場(圃場 A)における土着カブリダニによるナミ ハダニの発生抑制機構を次のようにイメージしている。 カブリダニの生活様式は食性によって四つのタイプ (TypeI ∼ IV)に分類される(MCMUR TR Y and CROFT, 1997
; MCMUR TR Y et al., 2013)。リンゴ圃場で観察されたフツ ウカブリダニとミチノクカブリダニは TypeIII に属し, 広範な属のハダニやフシダニ,花粉等を とするジェネ ラリストである。一方,ケナガカブリダニは TypeII に 属し,Tetranychus 属または巣網を形成するハダニを好 むスペシャリストである。 リンゴ圃場におけるジェネラリストカブリダニ 2 種の 生息場所は大きく異なり,フツウカブリダニの多くはリ ンゴ樹上で,ミチノクカブリダニの多くは下草で見いだ された(図―1, 2)。一般に果樹園でナミハダニは夏場に 下 草 か ら 樹 上 に 移 動 す る(GOTO, 1997 ; KIM and LEE, 2003)ことから,まずは下草内でミチノクカブリダニが ナミハダニの発生抑制に貢献していると推測される。リ ンゴ園には各種の下草が植生しており,下草はカブリダ ニの隠れ場所としてだけでなく,例えばオオバコの花粉 は ミ チ ノ ク カ ブ リ ダ ニ の 繁 殖 の 好 適 な と な る (FUNAYAMA and SONODA, 2014)。無除草によって下草が保 護され,カブリダニの 資源(花粉)量の増加などでミ チノクカブリダニの生息数が増加すれば,ハダニ発生抑 制効果も高まると推測される。また,リンゴ葉における フツウカブリダニの生息もハダニ発生に依存せず(舟山, 2010 a),ハダニの発生前から通年で観察される(図―1)。 本種も各種の花粉を として繁殖する(KISHIMOTO, 2005) ことから,天敵保護管理によってリンゴ樹上での生息密 度が高まれば,下草からリンゴ葉に侵入したナミハダニ を捕食する機会も増え,リンゴ樹上における初期のハダ ニの発生増加を抑制している可能性が考えられる。 ケナガカブリダニについて,秋田県のリンゴ園では合 成ピレスロイド剤などの非選択性殺虫剤に対して低感受 性個体群の発生が確認されており(舟山,2010 b),慣 行防除園でもナミハダニの発生密度が高いリンゴ樹では 本種の発生が観察される。しかし,一般に果樹園におけ 0 1 2 3 0 1 2 3 4 0 1 2 3 0 1 2 3 4 ナミハダニ ミチノクカブリダニ ケナガカブリダニ A B 2012 年 2013 年 5 月 6月 7月 8月 9月 5 月 6月 7月 8月 9月 カブリダニ類雌成虫数 ナミハダニ雌成虫数 1 / 区画 1 / 区画 圃場 圃場 図−2 2012 ∼ 13 年のリンゴ圃場 A と圃場 B の下草におけるナミハダニとカブリダニ類の発生消長 (FUNAYAMA, 2015) 圃場 A は 2012 年,2013 年ともに選択性殺虫剤を散布. 圃場 B は 2012 年には選択性殺虫剤散布,2013 年には合成ピレスロイド剤散布(黒矢印). 1 週間ごとにそれぞれの圃場のリンゴ葉を採取した 6 樹幹下の下草(1 区画:1 × 1 m)をクリーナーで吸引し, 捕獲された個体数を調べた. 白矢印は殺ダニ剤散布を示す.
るスペシャリストカブリダニの発生密度はハダニ類の密 度が被害発生レベルに達した後に上昇する(KISHIMOTO, 2002)ため,このタイムラグによって多くのリンゴ生産 者は殺ダニ剤散布を削減できず,本種の有効性を十分に 実感できていない。しかし,天敵保護管理のリンゴ圃場 ではリンゴ葉におけるケナガカブリダニとナミハダニの 発生にタイムラグが少なく(図―1 の 2013 年データ), ナミハダニの発生は密度が低いレベルで抑制された。ケ ナガカブリダニはリンゴ園の下草でも観察されており (図―2),カキ圃場では除草区よりも草生区で本種の捕獲 数が多いことが報告されている(國本ら,2009)。これ らの観察は,天敵保護管理のリンゴ圃場の下草では慣行 管理よりも本種の生息密度が高く,リンゴ樹上に発生し たナミハダニが早期に発見され捕食されている可能性を 示唆する。このように,天敵保護管理のリンゴ圃場では 食性タイプと生息場所の異なる複数種の土着カブリダニ の働きが統合することにより,ナミハダニの発生抑制効 果が発揮されていると考えている。 お わ り に 例年,慣行防除のリンゴ園ではほぼ確実にナミハダニ が増加する。多くのリンゴ生産者にとって,夏場のナミ ハダニの発生はごく普通のことであり,多発生しても特 にその原因について疑問を持たないだろう。しかし,本 実験ではこの現象が非選択性殺虫剤散布によるリサージ ェンスである可能性が高いことを確認した。リンゴ園に おける非選択性殺虫剤散布のうち,特に天敵に悪影響が 強いと考えられる合成ピレスロイド剤は重要害虫のモモ シンクイガの防除に使用され,秋田県の多くのリンゴ園 では 1 年間に 1 ∼ 2 回散布されている。しかし,本実験 の IGR 剤散布を主体とした選択性農薬散布のリンゴ圃 場では,モモシンクイガだけでなく,リンゴコカクモン ハマキAdoxophyes orana fasciata やキンモンホソガ等主 要なチョウ目害虫の被害はほとんど観察されなかった。 このことは,リンゴ園における主要チョウ目害虫の防除 に必ずしも非選択性殺虫剤が必要ではないことを示して いる。非選択性殺虫剤は多くの害虫の同時防除が可能で あり,合成ピレスロイド剤は残効性も高い(成田・大隅, 1985)ことから,リンゴ生産者が重宝するのは当然であ る。しかし,ナミハダニの防除対策に苦慮したくなけれ ば,今後は非選択性殺虫剤散布の必要性について真剣に 考えるべきである。 土着天敵を活用した害虫管理は,環境負荷を低減し, 周辺植生を含めた農業生態系の機能を活用するという意 味で,持続的農業の確立のための重要な戦略の一つであ る(大野, 2009)。リンゴは永年性作物であり,樹木が長 期間に渡り維持管理されるため,生物環境への人為的か く乱が少なく,また樹木の複雑な立体的構造は土着天敵 の生息に好適である。非選択性殺虫剤散布などの天敵の 生息環境をかく乱する栽培管理を改善できれば,リンゴ 園では土着カブリダニを主体とした天敵類の発生密度が 高まり,生態系サービスによって現在のようなナミハダ ニの多発生は起こらなくなるだろう。 引 用 文 献
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