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教師効力感と不安に関する研究

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No.55, pp. 31 - 38, 2005

教師効力感と不安に関する研究

西 松 秀 樹

An Investigation on Teacher's Sense of Efficacy and Anxiety

Hideki NISHIMATSU

問 題 今、学校教育では、子ども、学校、家庭をめ ぐる課題が山積している。子どもをめぐる課題 には、「学力低下」、「不登校」、「いじめ」、「非行」、 学校をめぐる課題には「学級崩壊」、「危機管理」 等がみられ、学校ではこれらの課題解決に向け て日々取り組みが行われている。さらに、家庭 では「児童虐待」、「家庭崩壊」といった課題が みられ、事態をさらに複雑化している。このよ うな課題を抱える中では、教員の「やる気」や「期 待」が、教育における大きな役割を果たすもの と考えられる。 Bandura(1977) によれば、自己効力感(self efficacy)は「自分は、一定の結果を生じる行 為を遂行できるという本人の信念あるいは期待 感」と定義され、社会的学習理論の中核となる 概念である。彼は社会的学習理論のなかで、人、 行動、環境の相互関係についてふれ、自己効力 感の概念を提唱した。 その概念によれば、自己効力感についての「認 知・判断」は次の 4 つの情報源から起こると 考えている。以前の課題遂行の成功といった「直 接経験」、課題遂行を試みているモデルを観察 する「代理的経験」、説得により自信を持たせ る「言語的説得」、くつろいだ状態で自信があ るときは成功を期待する「情緒的覚醒」が指摘 されている。 自己効力感という概念は、教師教育の分 野 に も 用 い ら れ る よ う に な り、「 教 師 効 力 感(teacher's sense of efficacy or teacher efficacy)」 と 呼 ば れ て い る。 教 師 効 力 感 は Gibson & Dembo(1984)が教師効力感尺度 を作成し、研究が盛んになり、Ashton(1985) は教師効力感を「こどもの学習に望ましい変化 を与える能力に関する信念」と定義している。 教師効力感尺度としては、Gibson & Dembo (1984)、Woolfolk & Hoy(1990)、Emmer

& Hickman(1991) の 研 究 が あ る。Gibson & Dembo(1984) は 小 学 校 教 師 を 対 象 に 30 項目の尺度を用いて、「個人的教授効力感 (personal teaching efficacy)」「一般的教育効 力感(teaching efficacy)」の 2 つの因子を抽 出 し て い る。Woolfolk & Hoy(1990) も 同 様 の 2 つ の 因 子 を 抽 出 し て い る。Emmer & Hickman(1991)は、2 つの因子に加え「学 級経営に関する教師効力感」の因子を抽出して いる。 また、日本では、桜井(1992)が Gibson & Dembo(1984)の尺度を翻訳し、2 因子を抽 出している。また、前原(1994)は Woolfolk & Hoy(1990)らの尺度を翻訳(20 項目)し、 2 因子を抽出している。 これらに関連して、大野木・宮川(1996) は教職志望大学生がもつ教育実習不安を調査 し、「授業実践力」、「児童・生徒関係」、「体調」、「身 だしなみ」からなる教育実習不安尺度を作成し

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た。この教育実習不安尺度は一般性セルフ・エ フィカシー尺度の下位尺度と有意な相関関係が あることを示した。セルフ・エフィカシーと同 様、教師効力感を研究する上で、不安は重要な 要因と考えられる。 持留・有馬(1999)は、教育実習が「個人 的教授効力感」を高めることを示した。また、 教師志望学生、教師になることに迷っている学 生には教育実習が「個人的教授効力感」を高め ることを明らかにした。三木・桜井(1998)は、 保育専攻の短大生を対象に、教育実習が保育者 効力感を高めることを示した。 今林・川畑・白尾(2004)は、教育実習生 を対象に実習中の体験が教師効力感の変容に与 える影響を調査し、教育実習の体験(信頼関係・ 親和感)が教師効力感を高めるきっかけを提供 していると考察している。 小中学校といった教育の現場では、教師効力 感を保てずに、教師を続けることに負担を感じ ている教員も少なくない。八尾坂(1996)は、 教師の心の不健康の背景には生徒指導上の問 題、教科指導上の問題、学校教育への過度な期 待、特定教員への過重な負担があると指摘して いる。深谷(2001)の調査によれば、「中学教 師を辞めたいと考えたことがある」という質問 に、「数回あった」と「いつもそう思っている」 と答えた教師が 39.7% となっている。担任と しての悩みは、「問題を起こす生徒がいる」(「よ く」と「わりと」あるを加えて 53%)、「クラ ス経営がうまくいかない」(45.2%)等である。 朝日新聞教育取材班(2004)によれば、国 立教育政策研究所等が実施した調査で、「教員 をやめたくなるくらい忙しいと感じたことがあ る」と答えた小学校教員が 61%となっている。 生徒指導の困難さや多忙感の中で小学校と中 学校の教員の間には、教師効力感による差はみ られるのだろうか。女性の教員の不安や教師効 力感は、男性教員と違いが見られるのだろうか。 また、講師経験のある教員は、経験のない教員 に比べ、採用時の段階で高い教師効力感を維持 しているのだろうか。 今日の厳しい状況下でも新規採用教員が一定 の「教師効力感」を保ったまま、効果的な教育 活動を展開することが望まれている。教員養成 を担う大学においても教師効力感を高めた教員 を送り出すことが望まれる。 そこで本研究では、教師効力感の構造や特徴 を把握するため、新規採用教員を対象に教師効 力感、授業実践不安と児童・生徒関係不安を調 査し、校種、性別、講師経験による差がみられ るか、不安の高低により教師効力感にどのよう な違いが見られるかを検討する。 方 法 1.被調査者 平成 17 年度、滋賀県の小中学校に新規採用 された 174 名(男子 65 名、女子 109 名)で ある。このうち、小学校教員は 129 名、中学 校教員は 45 名であった。校種別、講師経験別 人数は Table 1 のとおりである。被調査者の 年齢は 22 歳から 33 歳であった。新規採用者 に対する被調査者の割合は、小学校で 92.8%、 中学校で 93.8%であった。 2.調査時期  調査は平成 17 年 5 月に実施された。 3.調査方法 無記名による質問紙法が用いられた。質問紙 は以下の 3 つの内容で構成された。 ①教員に関する質問 校種、学級担任をしているか、性別、年齢、 講師経験があるかが調査された。 ②教師効力感に関する調査

前 原(1994) の 翻 訳 し た Woolfolk & Hoy (1990)の尺度が用いられた。それらは、「自 分が本気になって当たれば、非常に難しいと思 われる児童・生徒でも指導できる」などの 20 項目で構成されている。 ③不安に関する調査 大野木・宮川(1996)が作成した教育実習 不安尺度のうちの「授業実践」と「児童・生徒 Table 1 校種別、講師経験別人数 校 種 講師経験 男 女 合計 小学校 なし 17 44 61 あり 28 40 68 中学校 なし 7 10 17 あり 13 15 28

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関する調査」の 20 項目、「不安に関する調査」 の 10 項目は、「非常にあてはまる」から「ま ったくあてはまらない」の 7 段階で評定され、 「非常にあてはまる」の回答から順に 7 ~ 1 点 と得点化された。 結果 1.因子分析による得点化 教師効力感尺度 20 項目について主因子法に よる因子分析が実施された。各因子の固有値間 のギャップが第 2 因子と第 3 因子の間で大き 関係」の 2 つの下位尺度が用いられた。 「授業実践不安」は「子どもにわかりやすい授 業ができるか不安だ」などの5項目、「児童・ 生徒関係不安」は「子どもたちとうまくやって いけるか不安だ」などの 5 項目で構成されて いる。 4.手続き  初任者研修の会場で集団による調査が実施さ れた。回答項目に欠損データのない被調査者が 分析の対象とされた。質問紙の「教師効力感に Table 2 教育効力感尺度の因子分析結果 【第 1 因子:個人的教授効力感】  (α= 0.80)  寄与率= 20.3% 1.児童・生徒が学習課題を解くことができないとき,自分はその課題のレベル が彼らに合っているかどうか的確に判断できる 2.授業中に,児童・生徒が騒いだり,授業の妨害をしたりしたとき、自分は素 早く効果的に対応ができる 3.自分が一生懸命やれば,非常に難しい児童・生徒でも,あるいは「やる気」 のない者でも指導できる 4.前の授業で教えたことを児童・生徒が覚えていないとき,次からはちゃんと 覚えられるように自分は指導できる 5.自分が本気になって当たれば,非常に難しいと思われる児童・生徒でも指導 できる 6.自分は,児童・生徒の学業に関するいかなる問題にも対処できるような研修, 訓練,経験等を積んでいる 7.学習課題が児童・生徒にとって難しいと思われたとき,常に自分はかれらの レベルに合った課題に切り替えている 8.児童・生徒が普段より良くなっているとき,それは自分がそれなりに努力し たからだ  【第2因子:一般的教育効力感】  (α= 0.77)  寄与率= 16.9% 1.児童・生徒の学業は大部分家庭環境に左右されるので教師にできることはか なり限られている 2.家庭で「しつけ」られていない児童・生徒は,学校での「しつけ」もほとん ど効き目がない 3.児童・生徒の学業に影響を及ぼしている要素すべてを考えた場合,教師の力 はそれほど大きいものではない 4.児童・生徒の「やる気」と学業成績は,家庭環境に左右されるものだから, そのような問題に触れざるを得なくなったとき,教師にはほとんど「打つ手」 がない 5.学級や授業等で児童・生徒に与える影響は,家庭における影響に比べると微々 たるものである 6.児童・生徒が授業で身につける量は,各々の家庭環境による 因子負荷量 0.71 0.70 0.67 0.61 0.58 0.54 0.48 0.33 因子負荷量 0.70 0.63 0.63 0.61 0.54 0.51

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いので 2 因子解がとられた。各因子に 0.45 以 上の因子負荷量を示した項目で下位尺度を構成 した。第1因子 8 項目、第 2 因子 6 項目の計 14 項目で再度、因子分析が実施された。その 結果が Table 2 に示されている。 第 1 因子は、寄与率は 20.3%で「児童・生 徒が学習課題を解くことができないとき,自分 はその課題のレベルが彼らに合っているかどう か的確に判断できる」、「授業中に,児童・生徒 が騒いだり,授業の妨害をしたりしたとき,自 分は素早く効果的に対応ができる」などの項目 が高い因子負荷量を示しているので、Gibson & Dembo(1984) に 従 っ て、「 個 人 的 教 授 効力感」と命名された。第 2 因子の寄与率は 16.9%で「児童・生徒の学業は大部分家庭環境 に左右されるので教師にできることはかなり限 られている」、「家庭でしつけられていない児童・ 生徒は,学校でのしつけもほとんど効き目がな い」などの項目に高い因子負荷量が示されてい るので、Gibson & Dembo(1984)に従って、「一 般的教育効力感」と命名された。また、下位尺 度の信頼性をみるため、クロンバックのα係数 を算出した。「個人的教授効力感」は 0.80、「一 般的教育効力感」は 0.77 で高い信頼性が確認 された。 次に、「授業実践」と「児童・生徒関係」の 2 つの不安尺度の 10 項目について主因子法に よる因子分析が実施され、各因子の固有値間の ギャップが第 2 因子と第 3 因子の間で大きい ので 2 因子解がとられた。各因子に 0.56 以上 の因子負荷量を示した項目で下位尺度を構成し た。第 1 因子 4 項目、第 2 因子 4 項目の計 8 項目で再度、因子分析を行った。その結果が、 Table 3 に示されている。 第 1 因子は、寄与率が 34.8%で「手際よく 授業ができないのではないかと不安だ」、「子 どもにわかりやすい授業ができるか不安だ」な どの項目で高い因子負荷量を示しているので、 大野木・宮川(1996)に従って「授業実践不安」 と命名された。第 2 因子は、寄与率が 27.7% で「子どもたちとうまくやってゆけるか不安 だ」、「人前で話すこと自体が不安だ」などの項 目で高い因子負荷量を示しているので、同様に 「児童・生徒関係不安」と命名された。 また、 下位尺度の信頼性をみるため、クロンバックの α係数を算出した。「授業実践不安」は 0.90、「児 童・生徒関係不安」は 0.81 で高い信頼性が確 認された。 教育効力感尺度で「個人的教授効力感」と命 名された 8 項目の平均値を個人効力得点とし、 「一般的教育効力感」と命名された 6 項目の平 均値を一般効力得点とする。また、教育実習不 安尺度で「授業実践不安」と命名された 4 項 目の平均値を授業実践不安得点とし、「児童・ 生徒関係不安」と命名した 4 項目の平均を児童・ 生徒不安得点とすることにした。 2.教師効力感に関する得点について Table 4 は、校種別の個人効力得点と一般効 力得点の平均値と標準偏差を示したものであ る。t検定の結果、個人効力得点において小学 校、中学校の校種間の差は有意でなかった。同  【第 1 因子:授業実践不安】   (α= 0.90)  寄与率= 34.8% 1.手際よく授業ができないのではないかと不安だ 2.子どもにわかりやすい授業ができるか不安だ 3.教え方が未熟で、授業を聞いてもらえないのではないかと不安だ 4.子どもの雑談が多くなり、収拾がつかなくなりそうだと不安だ  【第 2 因子:児童生徒関係不安】 (α= 0.81)  寄与率= 27.7% 1.子どもたちとうまくやってゆけるか不安だ 2.失敗をして、子どもに馬鹿にされるのではないかと不安だ 3.人前で話すこと自体が不安だ 4.学校側とうまくやってゆけないのではないかと不安だ 因子負荷量 0.89 0.88 0.82 0.61 因子負荷量 0.75 0.74 0.68 0.58 Table 3 不安尺度の因子分析結果

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様に一般効力得点においても小学校と中学校の 校種間の差は有意でなかった。 Table 5 は、男女別の個人効力得点と一般効 力得点の平均値と標準偏差を示したものであ る。t検定の結果、個人効力得点において男女 間の差は有意でなかった。同様に一般効力得点 においても男女間の差は有意でなかった。 Table 6 は、講師経験の有無別の個人効力得 点と一般効力得点の平均値と標準偏差を示した ものである。t検定の結果、個人効力得点にお いて講師経験別の平均値の差が有意でなかっ た。同様に一般効力得点においても、講師経験 の有無の差は有意でなかった。 3.不安に関する得点について Table 7 は、校種別の授業実践不安得点と児 童・生徒不安得点の平均値と標準偏差を示した ものである。t検定の結果、授業実践不安得点 において小学校、中学校の校種間の差が有意で なかった。一方、児童・生徒不安得点において は小学校、中学校の校種間の差は有意な傾向が みられた(t(172)=1.70,p< .10)。中学校の 児童・生徒不安得点が小学校の児童・生徒不安 得点より高い傾向にあるといえる。 Table 8 には、男女別の授業実践不安得点と 児童・生徒不安得点の平均値と標準偏差が示さ れている。t検定の結果、授業実践不安得点に おいて男女間の差は有意でなかった。一方、児 童・生徒不安得点においては男女間の差には有 意な傾向であった(t(172)=1.66,p< .10)。 女性の児童・生徒不安得点が男性の得点より高 い傾向があるといえる。 Table 9 は、講師経験の有無別の授業実践不 安得点と児童・生徒不安得点の平均値と標準偏 差を示したものである。t検定の結果、授業実 践不安得点において講師経験の有無の差は有意 であった(t(172)=4.92,p< .01)。また、児童・ 生徒不安得点においては男女間の差には有意な 傾向であった(t(172)=1.77,p< .10)。した がって、講師経験のない教員の授業実践不安得 点は講師経験のある教員の得点より高いといえ る。また、講師経験のない教員の児童・生徒不 安得点は講師経験のある教員の得点より高い傾 向があるといえる。 Table 4 校種別の個人効力得点、      一般効力得点の平均値と標準偏差 小学校 中学校 t 個人効力得点 データ数 平 均 値 標準偏差 129 3.65 0.80 45 3.82 0.86 1.19 一般効力得点 データ数 平 均 値 標準偏差 129 4.94 0.95 45 4.89 0.81 0.35 Table 5 性別の個人効力得点、      一般効力得点の平均値と標準偏差 男性 女性 t 個人効力得点 データ数 平 均 値 標準偏差 65 3.68 0.89 109 3.71 0.78 0.23 一般効力得点 データ数 平 均 値 標準偏差 65 5.03 0.86 109 4.86 0.95 1.11 Table 6 講師経験の有無別の個人効力得点、      一般効力得点の平均値と標準偏差 講師経験 t なし あり 個人効力得点 データ数 平 均 値 標準偏差 78 3.66 0.80 96 3.73 0.84 0.61 一般効力得点 データ数 平 均 値 標準偏差 78 5.02 0.83 96 4.85 0.98 1.18

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Table 7 校種別の授業実践不安得点、   児童・生徒不安得点の平均値と標準偏差 小学校 中学校 t 授業実践不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 129 5.00 1.49 45 4.57 1.58 1.63 児童・生徒不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 129 2.73 1.20 45 3.08 1.09   + 1.70       + p< .10 4.不安の高低からみた教師効力感に関する得 点について 授業実践不安得点の高低により、2群に分け て分析された。Table 10 は、授業実践不安の 高低による個人効力得点と一般効力得点の平均 値と標準偏差を示したものである。t検定の結 果、個人効力得点において授業実践の不安の高 低の差は有意であった ( t(172)=3.62,p< .01)。一般効力得点においては、高低の差は有 意でなかった。したがって、授業実践不安の低 い教員の個人効力得点は、授業実践不安の高い 教員の得点に比べて高いといえる。 児童・生徒不安得点の高低により、2群に 分けて分析された。Table 11 は、児童・生徒 関係不安の高低による個人効力得点と一般効 力得点の平均値と標準偏差を示したものであ る。t検定の結果、個人効力得点において児 童・生徒不安得点の高低の差が有意であった (t(172)=3.52,p< .01)。一般効力得点にお いても、高低の差が有意であった(t(172)=3.89, p< .01)。したがって、児童・生徒関係不安 の低い教員の個人効力得点は、児童・生徒人関 係不安の高い教員の得点より高いといえる。同 様に、児童・生徒関係不安の低い教員の一般効 力得点は児童・生徒関係不安の高い教員の得点 より高いといえる。 Table 8 性別の授業実践不安得点、    児童・生徒不安得点の平均値と標準偏差 男性 女性 t 授業実践不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 65 4.67 1.48 109 5.02 1.53 1.51 児童・生徒不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 65 2.63 1.21 109 2.94 1.15   + 1.66        + p< .10 Table 9 講師経験別の授業実践不安得点、    児童・生徒不安得点の平均値と標準偏差 講師経験 t なし あり 授業実践不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 78 5.48 1.28 96 4.41 1.54  ** 4.92 児童・生徒不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 78 3.00 1.20 96 2.68 1.14   + 1.77        + p< .10   ** p< .01 Table 10 授業実践不安の高低による個人効力   得点、 一般効力得点の平均値と標準偏差 授業実践 不安低群 授業実践 不安高群 t 個人効力得点  データ数  平 均 値  標準偏差 87 3.92 0.74 87 3.48 0.84  ** 3.62 一般効力得点  データ数  平 均 値  標準偏差 87 4.98 0.94 87 4.87 0.89 0.81        ** p< .01

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Table 11 児童・生徒不安の高低による個人  効力得点、一般効力得点の平均値と標準偏差 児童・生徒 不安低群 児童・生徒 不安高群 t 個人効力得点  データ数  平 均 値  標準偏差 87 3.91 0.76 87 3.49 0.83 ** 3.52 一般効力得点  データ数  平 均 値  標準偏差 87 5.19 0.92 87 4.67 0.84 ** 3.89        ** p< .01 考 察 1.教師効力感の構造 本研究は、新規採用教員を対象に教師効力感、 不安を調査し、校種、性別、講師経験による差 がみられるか、不安の高低により教師効力感に どのような違いがみられるかを検討した。

Gibson & Dembo(1984)、Emmer & Hickman(1991)、桜井(1992)、前原(1994) と同様に教師効力感尺度から「個人的教授効力 感」、「一般的教育効力感」の2つの因子を抽出 した。 「個人的教授効力感」、「一般的教育効力感」 の2つの教師効力感を校種別(小学校・中学校)、 性別、講師経験別に分析したが有意差はみられ なかった。この結果は、前原 (1994) による小 中学校の間に有意差がみられなかった結果と一 致している。 2.授業実践と児童・生徒関係の不安の特徴 不安尺度から「授業実践不安」、「児童・生徒 関係不安」の2つの因子を抽出した。大野木・ 宮川(1996)の下位尺度と同様な因子が得ら れた。 「授業実践不安」については、講師経験のな い教員の得点は、講師経験のある教員の得点よ り高かった。このことは、経験のない新規採 用教員が授業実践の場面で高い不安を持ちなが ら、授業をしていることが明らかになった。こ のことをふまえ、早い段階から新規採用教員へ 支援をしていかなければならない。 「児童・生徒関係不安」については、中学校 の得点が小学校の得点より高い傾向にあり、生 徒と教師の人間関係に苦労する中学校教員の実 態がみえる。また、女性の得点が男性の得点よ り高い傾向にあり、女性教員が児童・生徒との 人間関係に高い不安をもっている傾向が明らか になった。同様に、講師経験のない教員の得点 は講師経験のある教員の得点より高い傾向がみ られた。このことは、経験が増える中で不安が 減少することが期待できる。 3.不安による教師効力感の特徴 本研究の目的である不安の高低による教師効 力感の特徴は以下の通りであった。 授業実践について不安が高い教員では個人的 教授効力感のみが低くなることがわかった。 児童・生徒との人間関係に不安が高い教員で は個人的教授効力感、一般的教育効力感の両方 が低くなることが明らかになった。 授業実践の不安は、個人的教授効力感にダメ ージを与えることが考えられる。人間関係の不 安は、相手に原因を求めることができるが、授 業実践での不安は自分に原因を求め、個人的教 授効力感のみに差がみられるのかもしれない。 今後、ますます社会の変化や課題に対応でき る教員の育成が求められる。新規採用教員には、 授業実践の経験を増やし、不安をなくし、教師 効力感の高い状態を維持できる支援が必要であ る。具体的には、採用後も教員の専門性を高 め、新しい手法を獲得し、自信を持って授業実 践できる研修が必要である。そうすることで、 Bandura(1977)のいう成功という「直接経験」 が教師効力感を高めることが期待できる。実践 を振り返り、周りから認めてもらうという「言 語的説得」も教師効力感をあげることが期待で きる。 また、児童・生徒との人間関係においても、 よりよい対人関係を育むスキルを獲得し、行き 詰まったときには、悩みを気軽に相談できるシ ステムづくりが重要である。生徒との人間関係 を良好にし、リラックスした状態で教師効力を 高め、実践できることが教員にも児童・生徒に もとても重要でありこの「情緒的覚醒」が教師

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効力感を高める結果になるのであろう。 最後に、教師効力感についての研究は、淵上 (2005)が指摘しているとおり、学校組織の改 善を視野に入れ、教員との人間関係が教師効力 に及ぼす影響を検討し、教師効力の構造や機能 を明らかにしていくことが今後の課題である。 引用文献 朝日新聞教育取材班 2004 教育力 , 61 , 朝日新聞社 Ashton,P.T. 1985 Motivation and the teacher's sense

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化科学社

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Table 7 校種別の授業実践不安得点、   児童・生徒不安得点の平均値と標準偏差 小学校 中学校 t 授業実践不安得点   データ数  平 均 値  標準偏差 129 5.001.49 45 4.571.58 1.63 児童・生徒不安得点  データ数  平 均 値  標準偏差 129 2.731.20 45 3.081.09   +1.70               + p< .10 4.不安の高低からみた教師効力感に関する得 点について 授業実践不安得点の高低により、2群に分け て分析された。Tab
Table 11 児童・生徒不安の高低による個人  効力得点、一般効力得点の平均値と標準偏差 児童・生徒 不安低群 児童・生徒不安高群 t 個人効力得点  データ数  平 均 値  標準偏差 87 3.91 0.76  87 3.490.83 ** 3.52 一般効力得点  データ数  平 均 値  標準偏差 87 5.19 0.92 87 4.670.84 ** 3.89                ** p< .01  考 察 1.教師効力感の構造 本研究は、新規採用教員を対象に教師効力感、 不安を調

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