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Academic year: 2021

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ユーザーによる市場支配とイノベーション・マネジ

メント

著者

田中 克昌

学位授与大学

東洋大学

取得学位

博士

学位の分野

経営学

報告番号

32663甲第431号

学位授与年月日

2018-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00010073/

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2017 年度

東 洋 大 学 審 査 学 位 論 文

ユ ー ザ ー に よ る 市 場 支 配 と

イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト

経 営 学 研 究 科

ビジネス・会計ファイナンス専攻

博 士 後 期 課 程

4320150001 田中克昌

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目 次

序 章 問 題 提 起 と 論 文 構 成 ... 1 第 1 節 問 題 提 起 2 第 2 節 研 究 目 的 と 研 究 方 法 3 1. 研 究 目 的 3 2. 研 究 方 法 4 第 3 節 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 前 提 5 第 4 節 論 文 構 成 と 概 要 8 第 Ⅰ 部 情 報 技 術 の 進 展 と ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ 第 1 章 ユ ー ザ ー 環 境 の 変 質 ... 15 第 1 節 情 報 技 術 の 進 展 に 伴 う ユ ー ザ ー 環 境 の 変 質 15 1. 情 報 技 術 の 進 展 と 活 用 方 法 の 変 化 15 2. 情 報 技 術 の 活 用 に よ っ て 市 場 を 変 革 す る 企 業 ユ ー ザ ー 20 第 2 節 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ 22 1. ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 定 義 と 類 型 22 2. ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 類 型 と イ ノ ベ ー シ ョ ン の プ ロ セ ス 27 第 3 節 考 察 32

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第 Ⅱ 部 ユ ー ザ ー に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 第 2 章 ユ ー ザ ー に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン 創 出 に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー ... 37 第 1 節 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 37 1. 先 行 研 究 の 抽 出 37 2. ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 37 3. 先 行 研 究 の 限 界 41 第 2 節 ユ ー ザ ー 価 値 の 共 創 に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 43 1. 先 行 研 究 の 抽 出 43 2. 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 44 3. 先 行 研 究 の 限 界 46 第 3 節 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 48 1. 先 行 研 究 の 抽 出 48 2. 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 51 3. 先 行 研 究 の 限 界 55 第 4 節 ユ ー ザ ー に よ る 共 創 及 び 独 立 57 第 5 節 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン 59 第 3 章 視 座 の 設 定 と パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ ... 63 第 1 節 研 究 方 法 63 1. 第 1 の 視 座 の 設 定 と 研 究 方 法 の 選 定 63 2. 研 究 対 象 の 抽 出 64 第 2 節 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ 66 1. 企 業 ユ ー ザ ー に 対 す る パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ 66 2. 個 人 ユ ー ザ ー に 対 す る パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ 90 第 3 節 考 察 94 1. フ レ ー ム ワ ー ク の 限 界 94 2 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の プ ロ セ ス 95

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第 Ⅲ 部 ユ ー ザ ー が も た ら す イ ノ ベ ー シ ョ ン 普 及 第 4 章 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 と 横 断 的 区 分 に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー ... 105 第 1 節 イ ノ ベ ー シ ョ ン 普 及 に 関 す る 先 行 研 究 105 1. 先 行 研 究 の 抽 出 105 2. イ ノ ベ ー タ 理 論 に 関 す る 先 行 研 究 106 3. キ ャ ズ ム 理 論 に 関 す る 先 行 研 究 110 4.イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 を 補 完 す る 先 行 研 究 112 第 2 節 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 横 断 的 区 分 に 関 す る 先 行 研 究 116 1. 先 行 研 究 の 抽 出 116 2. イ ノ ベ ー シ ョ ン の 横 断 的 区 分 に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー 117 3. 先 行 研 究 の 限 界 119 第 3 節 ユ ー ザ ー 主 導 型 の イ ノ ベ ー シ ョ ン 普 及 曲 線 121 第 4 節 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン 123 第 5 章 視 座 の 設 定 と パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ ... 125 第 1 節 研 究 方 法 125 1. 第 2 の 視 座 の 設 定 と 研 究 方 法 の 選 定 125 2. 研 究 対 象 の 抽 出 126 第 2 節 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ 127 1. 企 業 ユ ー ザ ー に 関 す る パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ 127 2. 個 人 ユ ー ザ ー に 関 す る パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ 134 第 3 節 考 察 139

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第 Ⅳ 部 競 争 関 係 の 変 質 と イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト 第 6 章 ユ ー ザ ー に よ る 市 場 支 配 ... 145 第 1 節 2 つ の 視 座 に 関 す る 考 察 145 1. 第 1 の 視 座 に 関 す る 考 察 145 2. 第 2 の 視 座 に 関 す る 考 察 147 3. ユ ー ザ ー に よ る 市 場 支 配 148 第 2 節 ユ ー ザ ー に よ る 市 場 支 配 と イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト 149 第 3 節 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン の 精 査 151 第 7 章 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト ... 153 第 1 節 研 究 方 法 153 1. 調 査 概 要 153 2. 研 究 対 象 の 抽 出 154 3. 調 査 手 順 157 第 2 節 事 例 研 究 159 1. 企 業 概 要 159 2. 業 績 拡 大 期 ( 2000 年 以 前 ) 160 3. 業 績 縮 小 期 ( 2000 年 以 降 ) 172 第 3 節 考 察 208 1. 第 1 の 視 座 に 対 す る 考 察 208 2. 第 2 の 視 座 に 対 す る 考 察 211 3. 時 系 列 で の 変 化 に 対 す る 考 察 214 4. 「 両 睨 み の マ ネ ジ メ ン ト 」 に 関 す る 考 察 219

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第 8 章 イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト の あ り 方 ... 225 第 1 節 イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 考 察 225 1. リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン に 対 す る 解 225 2. 市 場 及 び 当 事 者 と の つ な が り か ら 見 た イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト 227 3. 技 術 及 び 製 品 か ら 見 た イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト 229 第 2 節 ユ ー ザ ー に 対 抗 す る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト 235 1. ユ ー ザ ー 及 び 提 供 企 業 の イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ プ ロ セ ス 235 2. ユ ー ザ ー と の 差 別 化 を 実 現 す る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト 239 第 3 節 考 察 248 終 章 貢 献 と 課 題 ... 251 第 1 節 本 論 文 の 貢 献 252 1. 学 術 的 貢 献 252 2. 実 務 的 貢 献 254 第 2 節 今 後 の 研 究 課 題 257 参 考 文 献 ... 261

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序 章 問 題 提 起 と 論 文 構 成

1 節 問 題 提 起

本 研 究 は 、 日 本 に お け る 情 報 技 術 関 連 市 場 に あ ら わ れ た ユ ー ザ ー に よ る 情 報 化 投 資 額 と 情 報 技 術 の 提 供 を 本 業 と す る IT( Information Technology)ベ ン ダ の 業 績 と の ギ ャ ッ プ に 起 因 し て い る 。 ま ず 、 日 本 の 民 間 部 門 に お け る 情 報 化 投 資 額 は 、 世 界 金 融 危 機 の 影 響 を 受 け 減 少 し た 期 間 も あ る が 、2000 年 度 か ら 2013 年 度 に か け て 年 平 均 成 長 率 3.3% で 成 長 を 続 け て き た ( 図 序-1)。 出 所 : 総 務 省 (2014) を も と に 筆 者 作 成 図 序-1: 日 本 に お け る 情 報 化 投 資 額 の 推 移 一 方 、 こ の 情 報 化 投 資 を 支 え て き た 日 本 の 大 手 IT ベ ン ダ の 売 上 高 は 減 少 を 続 け て い る 。2000 年 度 の 売 上 高 を 100%と し た 場 合 、 2013 年 度 時 点 で 富 士 通 株 式 会 社( 以 下 、富 士 通 )が 87% 、日 本 電 気 株 式 会 社( 以 下 、日 本 電 気 )が 57%、 日 本 IBM 株 式 会 社( 以 下 、日 本 IBM)が 54%と 大 き く 減 少 し て い る( 図 序 -2)。 た と え ば 、 日 本 電 気 は 2000 年 度 か ら 2013 年 度 に か け て 年 平 均 4.3%で 減 少 し た 。 拡 大 傾 向 に あ る 情 報 化 投 資 に 対 し て 、 大 手 IT ベ ン ダ の 業 績 が 減 少 傾 向 に あ る と い う ギ ャ ッ プ は 、情 報 技 術 関 連 市 場 に お い て 、IT ベ ン ダ 及 び そ の 関 連

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企 業 以 外 の プ レ ー ヤ ー が 拡 大 傾 向 に あ る と い う 可 能 性 を 示 唆 し て い る 。 出 所 : 日 本 電 気 、 富 士 通 、 日 本 IBM の IR 資 料 を も と に 筆 者 作 成 図 序-2: 日 本 の 大 手 IT ベ ン ダ の 業 績 推 移 本 研 究 で は 、 ユ ー ザ ー が 情 報 技 術 を 活 用 し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 や 普 及 に 直 接 か か わ る と い う 取 り 組 み が 、 情 報 技 術 を 巡 る こ の ギ ャ ッ プ を 生 み 出 す 原 因 の 一 つ で あ る と 考 え る 。 ユ ー ザ ー が IT ベ ン ダ か ら 情 報 技 術 を 享 受 す る 立 場 か ら 、IT ベ ン ダ を 踏 み 越 え て 直 接 、自 ら 経 営 に 情 報 技 術 を 取 り 入 れ 、経 営 を 高 度 化 す る に と ど ま ら ず 、 情 報 技 術 関 連 市 場 自 体 に も 直 接 的 に 強 い 影 響 力 を も た ら す よ う に な っ た と 考 え る た め で あ る 。そ こ で 、本 研 究 で は 、情 報 技 術 の 進 展 と 、 こ れ を 活 用 し た ユ ー ザ ー に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 と 普 及 に も た ら す 影 響 に 着 目 す る こ と と し た 。

2 節 研 究 目 的 と 研 究 方 法

1. 研 究 目 的 本 研 究 の 目 的 は 、 ユ ー ザ ー が 、 自 ら イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 す る ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン を 通 じ て 、 ユ ー ザ ー 自 身 が 目 指 す 価 値 を 実 現 す る に と ど ま ら ず 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に も 多 大 な 影 響 力 を 及 ぼ し 、 市 場 を 支 配 す る と い う 競 争 関 係 の 変 質 の 一 つ の 形 態 を 示 す こ と で あ る 。

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そ の 上 で 、 ユ ー ザ ー が 市 場 を 支 配 す る と い う 状 況 の も と 、 従 来 、 製 品 ・ サ ー ビ ス を 提 供 し て き た 企 業 の 立 場 か ら 、 日 本 の 情 報 技 術 産 業 を 代 表 す る 企 業 を 対 象 と し た 詳 細 な 事 例 研 究 を 通 じ て 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト の あ り 方 に つ い て 考 察 す る 。 な お 、 本 研 究 に お い て 「 市 場 支 配 」 と は 、 特 定 の 企 業 や 団 体 が 対 象 市 場 に お い て 、 高 い 占 有 率 を 確 保 す る こ と に よ り 、 圧 倒 的 な 競 争 優 位 を 獲 得 し た 立 場 に あ る 状 況 を 指 す 。 ま た 、本 研 究 で は 、ユ ー ザ ー を「 企 業 ユ ー ザ ー 」「 個 人 ユ ー ザ ー 」と 区 分 す る と と も に 、 ユ ー ザ ー が 常 に 達 成 を 目 指 す 主 体 的 、 相 対 的 、 個 性 的 な 価 値 を 「 ユ ー ザ ー 価 値 」と 称 す る 。従 前 か ら 製 品・サ ー ビ ス を 提 供 す る 企 業 及 び 団 体 を「 提 供 企 業 」 と 称 し 、 企 業 ユ ー ザ ー と 区 分 し て 活 用 す る 。 さ ら に 、 ユ ー ザ ー が 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 を ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 す る た め に は 、 ユ ー ザ ー が 集 団 性 を 確 保 し 、 社 会 に 対 し て 影 響 力 を 持 っ た 状 態 が 必 要 で あ る こ と か ら 、こ れ を「 ユ ー ザ ー・コ ミ ュ ニ テ ィ 」と 称 す る 。 2. 研 究 方 法 研 究 方 法 と し て は 、 本 研 究 の 内 容 を 以 下 の 4 つ の フ ェ ー ズ に 分 け 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 担 い 手 が 、 製 品 ・ サ ー ビ ス を 提 供 す る 企 業 か ら ユ ー ザ ー へ と 移 行 す る ま で の 過 程 に つ い て 段 階 的 に 考 察 を 進 め る こ と と す る 。 ま ず 、1 つ 目 の フ ェ ー ズ( フ ェ ー ズ 1)で は 、ユ ー ザ ー や 提 供 企 業 が 置 か れ た 市 場 の 環 境 変 化 に つ い て 考 察 を 進 め る 。 情 報 技 術 が ユ ー ザ ー 企 業 の 経 営 に 浸 透 し て い る 状 況 や 、 ユ ー ザ ー が 情 報 技 術 を 自 ら 利 活 用 で き る 環 境 へ と 変 化 し て い る 状 況 に つ い て 確 認 す る 。 2 つ 目 の フ ェ ー ズ( フ ェ ー ズ 2)で は 、ユ ー ザ ー に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン に つ い て 、 創 出 面 及 び 普 及 面 へ の 影 響 力 に つ い て 考 察 す る 。 創 出 面 で は 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 及 び イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 に 関 す る 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー を 通 じ て 、 ユ ー ザ ー が イ ノ ベ ー シ ョ ン の 主 体 者 と し て ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン を 実 施 す る こ と で 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 提 供 企 業 か ら 独 立 し て い く こ と を 確 認 す る 。 そ の 上 で 、ユ ー ザ ー が ユ ー ザ ー・コ ミ ュ ニ テ ィ の 形 成 に よ っ て 、規 模 を 確 保 し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 す る ま で の プ ロ セ ス に つ い て 研 究 を 進 め る 。 普 及

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面 で は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 や こ れ に 影 響 を も た ら す イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 に 関 す る 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー に よ り 、 ユ ー ザ ー が 情 報 技 術 を 活 用 す る こ と に よ っ て 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に も た ら す 影 響 に つ い て 考 察 す る 。 さ ら に 、 フ ェ ー ズ 2 に お い て は 、ユ ー ザ ー に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 面 と 普 及 面 の そ れ ぞ れ に 対 し て 、 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン を 導 出 す る 。 3 つ 目 の フ ェ ー ズ( フ ェ ー ズ 3)で は 、本 研 究 の 視 座 を 設 定 し た 上 で 、ユ ー ザ ー が イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 や 創 出 に も た ら す 影 響 に つ い て 、 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 行 う 。フ ェ ー ズ 3 に お い て 企 業 及 び 個 人 ユ ー ザ ー に 関 す る 複 数 の パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 取 り 上 げ る こ と に よ っ て 、 本 研 究 の 視 座 が 企 業 ユ ー ザ ー あ る い は 個 人 ユ ー ザ ー に か か わ ら ず 成 り 立 つ こ と を 確 認 し 、 理 論 を 一 般 化 す る こ と を 狙 っ て い る 。 ま た 、 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 通 じ て 、 フ ェ ー ズ 2 で 提 示 し た 本 研 究 の リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン の 精 度 を 高 め る 。 4 つ 目 の フ ェ ー ズ ( フ ェ ー ズ 4) で は 、 フ ェ ー ズ 3 ま で の 研 究 に お い て 精 度 を 高 め た リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン に も と づ き 、 提 供 企 業 を 題 材 と し た 詳 細 な 事 例 研 究 を 行 う 。 事 例 研 究 を 通 じ て 、 ユ ー ザ ー が イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 及 び 普 及 に お い て 競 争 関 係 に 変 質 を も た ら す こ と を 前 提 に 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト の あ り 方 に つ い て 考 察 す る 。

3 節 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 前 提

ま ず 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 考 察 を 行 う に あ た っ て は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン に 関 す る そ れ ぞ れ の 先 行 研 究 に つ い て 関 連 性 を 整 理 し 類 型 化 を 行 っ た 上 で 、 本 研 究 を 貫 く イ ノ ベ ー シ ョ ン の 定 義 を 行 う 。 Schumpeter( 1926)は「 新 結 合 」と い う 言 葉 を 用 い て イ ノ ベ ー シ ョ ン を ① 新 し い 生 産 物 ま た は 生 産 物 の 新 し い 品 質 の 創 出 と 実 現 、② 新 し い 生 産 方 法 の 導 入 、 ③ 新 し い 販 売 市 場 の 創 出 、 ④ 新 し い 買 い 付 け 先 の 開 拓 、 ⑤ 産 業 の 新 し い 組 織 の 創 出 で あ る と 類 型 化 し た 。 Schumpeter( 1926)の「 新 結 合 」を 現 代 の 経 営 用 語 に 置 き 換 え た 井 上( 2014) の 5 つ の 類 型 「 プ ロ ダ ク ト ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 プ ロ セ ス ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 マ ー ケ テ ィ ン グ ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 サ プ ラ イ チ ェ ー ン ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 組 織 イ ノ ベ ー シ ョ ン 」(p.36)や 、OECD and Eurosat( 2005)に よ る 4 つ の 類 型「 プ

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ロ ダ ク ト ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 プ ロ セ ス ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 マ ー ケ テ ィ ン グ ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、組 織 イ ノ ベ ー シ ョ ン 」(pp.45-52)は 、イ ノ ベ ー シ ョ ン の 現 代 的 な 類 型 化 と し て と ら え る こ と が で き る 。

ま た 、Abernathy and Clark( 1985) は 、「 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 変 革 力 マ ッ プ (Trancilience Map)」に お い て 、イ ノ ベ ー シ ョ ン を 技 術 的 な 革 新 性 に よ る 進 展 ( 技 術 及 び 製 品 の 軸 ) と 、 市 場 性 の 革 新 性 に よ る 進 展 ( 市 場 及 び 当 事 者 と の つ な が り の 軸 ) に よ っ て イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 化 を 行 っ た 。 井 上 や OECD and Eurosat の イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 に 重 ね 合 わ せ る と 、 プ ロ ダ ク ト ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 及 び プ ロ セ ス ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン が 「 技 術 及 び 製 品 の 軸 」 に あ た り 、 マ ー ケ テ ィ ン グ ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 、 サ プ ラ イ チ ェ ー ン ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン 及 び 組 織 イ ノ ベ ー シ ョ ン は 「 市 場 及 び 当 事 者 と の つ な が り の 軸 」 に あ た る こ と が わ か る 。 さ ら に 、Christensen( 1997)は 、Schumpeter の 新 結 合 に も と づ く イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 と は 別 の 区 分 で イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 化 を 行 っ た 。 従 前 の イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 を 横 断 す る 形 で 持 続 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン 及 び 破 壊 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン を 提 示 し た 。 本 研 究 で は 、 持 続 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン 及 び 破 壊 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン を イ ノ ベ ー シ ョ ン の 横 断 的 区 分 と し て 示 す ( 表 序-1)。 以 上 に よ り 、 本 研 究 に お け る イ ノ ベ ー シ ョ ン は 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 創 出 及 び 変 革 と 、 こ れ に 関 連 す る 当 事 者 間 で の 変 革 が 、 市 場 か ら の 支 持 を 獲 得 し 、 ネ ッ ト ワ ー ク 効 果 を も た ら す 規 模 を 確 保 す る こ と に よ っ て 社 会 化 さ れ た も の で あ る と 定 義 す る 。 ま た 、本 研 究 の イ ノ ベ ー シ ョ ン の 定 義 に お い て は 、能 動 的 な 主 体 者 に よ っ て 、 市 場 に 既 に 存 在 す る か 、 新 規 で あ る か を 問 わ ず 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 創 出 及 び 変 革 が 行 わ れ る こ と を 前 提 と す る 。 そ の 上 で 、 対 象 と な る 製 品 ・ サ ー ビ ス に 関 連 す る 自 組 織 や 取 引 先 、 顧 客 等 の 当 事 者 が 製 品 ・ サ ー ビ ス 自 体 の 創 出 及 び 変 革 の 実 現 に 向 け て 、 生 産 シ ス テ ム や マ ー ケ テ ィ ン グ 、 サ プ ラ イ チ ェ ー ン 等 の 多 様 な 領 域 に お い て 変 革 を 行 う こ と も イ ノ ベ ー シ ョ ン に 含 ま れ る 。 た だ し 、 本 研 究 で は 、 能 動 的 な 主 体 者 が 製 品 ・ サ ー ビ ス の 創 出 及 び 変 革 を 実 現 し た だ け で は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と は み な さ な い 。 製 品 ・ サ ー ビ ス の 創 出 及 び 変 革 が 、 市 場 か ら 支 持 を 獲 得 し 、 ネ ッ ト ワ ー ク 効 果 を も た ら す た め に 十 分 な 規

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模 を 確 保 し 、 市 場 に 普 及 さ せ る こ と が 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と な る た め に 必 要 と 考 え る た め で あ る 。

表 序-1: 新 結 合 と 現 代 の 経 営 用 語 に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型

出 所:Schumpeter( 1926)、井 上( 2014)、OECD and Eurostat( 2005)、Abernathy and Clark( 1985)、 Christensen( 1997) を も と に 筆 者 作 成

本 研 究 で は 、 前 述 し た イ ノ ベ ー シ ョ ン の 定 義 に も と づ き 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に 関 し て 主 に 2 つ の 視 点 か ら 考 察 す る 。 1 つ 目 は 、 ユ ー ザ ー が 、 ユ ー ザ ー 価 値 を 実 現 す る た め 、 自 ら 製 品 ・ サ ー ビ ス を 創 出 及 び 変 革 し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 を 果 た す と い う イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 の 視 点 で あ る 。 2 つ 目 は 、 ユ ー ザ ー が 能 動 的 に イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 対 し て 影 響 力 を も た ら す と い う イ ノ ベ ー シ ョ ン 普 及 の 変 質 に 関 す る 視 点 で あ る 。 こ の 2 つ の 視 点 に よ っ て 、 ユ ー ザ ー が 自 ら イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 対 し て も 能 動 的 に 影 響 力 を も た ら す こ と が で き れ ば 、 ユ ー ザ ー が 競 争 関 係 に 変 質 を も た ら し 、 市 場 支 配 す る こ と が 可 能 に な る た め で あ る 。 ま た 、 本 研 究 で は 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に つ い て 、 ユ ー ザ ー が 自 ら 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 を 実 現 す る に と ど ま ら ず 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 と 併 せ て

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集 団 性 を 確 保 し ネ ッ ト ワ ー ク 外 部 性 を 確 保 す る こ と に よ っ て 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 す る こ と が 必 要 で あ る と 考 え る 。

4 節 論 文 構 成 と 概 要

本 論 文 は 、 序 章 及 び 終 章 を 含 め 9 章 で 構 成 さ れ て い る 。 本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め 設 定 し た リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン 及 び 視 座 に 対 し て 、4 つ の フ ェ ー ズ を 通 じ て 段 階 的 に 考 察 を 進 め る ( 図 序-3)。 出 所 : 筆 者 作 成 図 序 -3: 本 論 文 の 全 体 構 成 序 章 の 第 1 節 で は 、本 論 文 の 研 究 背 景 で あ る ユ ー ザ ー が 競 争 関 係 に 変 質 を も た ら す と い う 市 場 環 境 の 変 化 に つ い て 考 察 す る 。第 2 節 で は 本 論 文 の 問 題 意 識 と 研 究 目 的 及 び 研 究 方 法 を 、 第 3 節 で は 本 論 文 の 構 成 と 概 要 を 提 示 す る 。 第 Ⅰ 部 は 、 フ ェ ー ズ 1( 研 究 前 提 ) に あ た り 、 本 論 文 の 全 体 に 関 わ る 環 境 認 識 を 提 示 し 、 問 題 提 起 を 行 う 段 階 で あ る 。 第 1 章 で は 、 ユ ー ザ ー 環 境 の 進 展 と し て 、第 1 節 に お い て 情 報 技 術 の 進 展 と こ れ を 活 用 す る ユ ー ザ ー に つ い て 取 り

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上 げ る 。 第 2 節 で は 、 ユ ー ザ ー が ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ を 形 成 す る こ と に よ っ て 市 場 に お け る 影 響 力 を 高 め て い る 点 に つ い て 考 察 す る 。 第 Ⅱ 部 は 、 本 論 文 の フ ェ ー ズ 2、 フ ェ ー ズ 3 に あ た る 。 第 2 章 は フ ェ ー ズ 2 ( 先 行 研 究 レ ビ ュ ー と リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン 設 定 ) で あ り 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン を 中 心 に 理 論 考 察 を 行 う 。 第 1 節 で は ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 に つ い て 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 い 、 続 い て 、 第 2 節 で は ユ ー ザ ー 価 値 の 共 創 に つ い て サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク の 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 う 。 第 3 節 で は イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型 に つ い て イ ノ ベ ー シ ョ ン の 変 革 力 マ ッ プ の 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 う 。 第 4 節 で は 、 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 踏 ま え 、 ユ ー ザ ー が 提 供 企 業 等 と の ユ ー ザ ー 価 値 の 共 創 を 経 て 、 独 立 を 果 た す ま で の プ ロ セ ス に つ い て 考 察 す る 。 第 5 節 で は 、 第 Ⅱ 部 に お け る リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン を 提 示 す る 。 第 3 章 は フ ェ ー ズ 3( 視 座 の 設 定 と パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ ) に あ た り 、 第 Ⅱ 部 に お け る 視 座 の 設 定 と 検 証 を 行 う 。 検 証 で は 詳 細 な 事 例 研 究 に 先 立 ち 、 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン を 精 査 す る た め に パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 行 っ て い る 。 第 1 節 で は 、 本 論 文 に お け る 視 座 と し て 第 1 の 視 座 を 設 定 し 、 こ の 視 座 を 検 証 す る 研 究 方 法 と し て パ イ ロ ッ ト・ス タ デ ィ の 検 討 フ レ ー ム ワ ー ク の 設 定 と と も に 、 対 象 市 場 と 対 象 ユ ー ザ ー を 設 定 す る 。 第 2 節 は 、 企 業 ユ ー ザ ー 向 け 市 場 で は 法 人 向 け ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 市 場 を 取 り 上 げ 、 ま た 、 個 人 ユ ー ザ ー 向 け 市 場 で は 電 子 書 籍 市 場 に お け る セ ル フ パ ブ リ ッ シ ン グ 領 域 を 取 り 上 げ て 、 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 実 施 す る 。 第 3 節 で は 、 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ か ら の 発 見 事 実 と 評 価 に も と づ き 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の プ ロ セ ス に つ い て 考 察 す る 。 続 く 第 Ⅲ 部 は 、 第 Ⅱ 部 と 同 様 、 本 研 究 の フ ェ ー ズ 2( 先 行 研 究 レ ビ ュ ー と リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン の 設 定 )、フ ェ ー ズ 3( 視 座 の 設 定 と パ イ ロ ッ ト・ス タ デ ィ ) に あ た る 。 第 4 章 は フ ェ ー ズ 2 と し て 、理 論 考 察 を 行 っ た 上 で 、リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン を 設 定 す る 。第 1 節 で は イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 関 し て イ ノ ベ ー タ 理 論 や キ ャ ズ ム 理 論 等 を 対 象 に 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 う 。 続 い て 、 第 2 節 で は 破 壊 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン や 持 続 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン 等 の イ ノ ベ ー シ ョ ン の 横 断 的 区 分 に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 う 。 第 3 節 で は 、 ユ ー ザ ー 主 導 に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 曲 線 に つ い て 考 察 す る 。 第 4 節 で は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 及 び 類 型 の

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理 論 考 察 の 結 果 を 受 け て 、 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン を 設 定 す る 。 第 5 章 は 本 研 究 に お け る フ ェ ー ズ 3 と し て 、第 Ⅲ 部 に お け る 視 座 を 設 定 し た 上 で 、 詳 細 な 事 例 研 究 に 先 立 ち 、 リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン を 精 査 す る た め の パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 行 う 。第 1 節 に お い て 本 論 文 に お け る 第 2 の 視 座 を 設 定 し 、 こ の 視 座 を 検 証 す る た め の 研 究 方 法 と し て パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ の 対 象 市 場 と 対 象 ユ ー ザ ー を 設 定 す る 。 第 2 節 は 、 企 業 ユ ー ザ ー 向 け 市 場 で は 法 人 向 け ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 市 場 を 取 り 上 げ 、 ま た 、 個 人 ユ ー ザ ー 向 け 市 場 で は 電 子 書 籍 市 場 を 取 り 上 げ て 、 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 実 施 す る 。 第 3 節 に お い て 、 本 研 究 の フ ェ ー ズ 2 と フ ェ ー ズ 3 に 関 す る 考 察 を 行 い 小 括 す る 。 第 Ⅳ 部 は フ ェ ー ズ 4( 事 例 研 究 に よ る 検 証 と 考 察 ) に あ た り 、 詳 細 な 事 例 研 究 に よ っ て 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 考 察 す る 。 第 6 章 で は 、ユ ー ザ ー が イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 面 及 び 普 及 面 に お い て 市 場 に 強 い 影 響 力 を も た ら し 市 場 を 支 配 す る 環 境 に お い て 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 考 察 す る 。 第 1 節 で は 、 第 Ⅱ 部 及 び 第 Ⅲ 部 に お い て 提 示 し た 第 1 の 視 座 及 び 第 2 の 視 座 に つ い て 検 証 し 、ユ ー ザ ー が 自 ら イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 す る と と も に 、 競 争 関 係 に 変 質 を も た ら し 、 市 場 を 支 配 す る 市 場 環 境 に つ い て 考 察 す る 。 第 2 節 で は 、 ユ ー ザ ー が 市 場 を 支 配 す る 状 況 に お い て 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 考 察 す る 。 第 3 節 で は 、 第 Ⅱ 部 及 び 第 Ⅲ 部 で 提 示 し た リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン に つ い て 、 パ イ ロ ッ ト ・ ス タ デ ィ を 通 じ て 精 査 し た 結 果 及 び 2 つ の 視 座 に 対 す る 考 察 を 踏 ま え 、 精 査 す る こ と に よ っ て 、 再 提 示 す る 。 第 7 章 で は 、 提 供 企 業 を 対 象 に 詳 細 な 事 例 研 究 を 実 施 す る 。 事 例 研 究 の 対 象 は 、 日 本 電 気 で あ る 。 第 1 節 で は 、 事 例 研 究 に 対 す る 調 査 概 要 や 調 査 手 順 等 の 研 究 方 法 を 提 示 す る 。 第 2 節 で は 、 日 本 電 気 を 対 象 と し た 事 例 研 究 を 行 う 。 事 例 研 究 で は 、日 本 電 気 の 事 業 活 動 に つ い て 、売 上 高 の 成 長 が 続 い て い た 2000 年 以 前 と 、売 上 高 の 縮 小 が 続 く 2000 年 以 降 に 分 け て 考 察 を 進 め る 。第 3 節 で は 、 事 例 研 究 を 通 じ た 考 察 を 行 い 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト の あ り 方 を 示 す 。 第 8 章 で は 、 本 研 究 の リ サ ー チ ・ ク エ ス チ ョ ン に 対 す る 解 を 明 ら か に す る 。

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第 1 節 で は 、 提 供 企 業 に 求 め ら れ る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に つ い て ま と め る 。 第 2 節 で は 、 提 供 企 業 の イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ プ ロ セ ス と 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の プ ロ セ ス を 比 較 し 重 ね 合 わ せ 、 ユ ー ザ ー に 対 抗 す る 状 況 で の 提 供 企 業 の イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト に つ い て ま と め る 。

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第 Ⅰ 部

情 報 技 術 の 進 展 と ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ

第 1 部 で は 、 本 研 究 の 全 体 に 関 わ る 問 題 提 起 を 行 う 。 情 報 技 術 の 進 展 は 、 市 場 に お け る ユ ー ザ ー の 影 響 力 を 高 め て い る 。 ユ ー ザ ー が 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ を 形 成 し 、 規 模 を 確 保 す る こ と に よ っ て 、 ネ ッ ト ワ ー ク 外 部 性 を 発 揮 し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 面 及 び 創 出 面 に 変 質 を も た ら す と い う 環 境 の 変 化 に つ い て 考 察 す る 。 第 Ⅰ 部 の 位 置 付 け 出 所 : 筆 者 作 成

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1 章 ユ ー ザ ー 環 境 の 変 質

1 節 情 報 技 術 の 進 展 に 伴 う ユ ー ザ ー 環 境 の 変 質

1. 情 報 技 術 の 進 展 と 活 用 方 法 の 変 化 (1) 人 手 の 代 用 と し て の 情 報 技 術 1980 年 代 か ら 1990 年 代 に か け て 情 報 技 術 は 、人 手 の 代 用 と し て 業 務 効 率 化 や 省 力 化 に 活 用 す る 意 図 で 進 化 し た 。 ユ ー ザ ー に よ る 情 報 技 術 の 活 用 領 域 と し て は 、 フ ロ ン ト オ フ ィ ス 領 域 で は PC( Personal Computer)、 バ ッ ク オ フ ィ ス 領 域 で は 業 務 シ ス テ ム を 支 え る PC サ ー バ 、 ネ ッ ト ワ ー ク 領 域 で は 、 大 容 量 光 ネ ッ ト ワ ー ク や イ ン タ ー ネ ッ ト が 浸 透 し た 時 期 で あ る 。 こ の 時 代 の 情 報 技 術 関 連 市 場 に お い て 市 場 を 支 配 し て い た の は 、 当 時 、 複 雑 か つ ブ ラ ッ ク ボ ッ ク ス 化 さ れ て い た 情 報 技 術 を 研 究 ・ 開 発 ・ 販 売 し て い た 情 報 技 術 の 提 供 企 業 と し て の IT ベ ン ダ で あ っ た 。 こ の 当 時 の IT ベ ン ダ の 収 益 源 は 、 ブ ラ ッ ク ボ ッ ク ス 化 し た 機 器 の 中 枢 に 搭 載 さ れ 、 小 型 化 や 高 性 能 化 が 進 展 し て い た 半 導 体 や デ ィ ス プ レ イ デ バ イ ス 、 ハ ー ド デ ィ ス ク ド ラ イ ブ な ど の 電 子 デ バ イ ス 系 製 品 に あ っ た 。 電 子 デ バ イ ス 系 製 品 は 、 当 時 、 発 展 途 上 で あ っ た た め 、 当 該 市 場 に お け る 競 争 優 位 は 、 研 究 開 発 や 、 生 産 設 備 に 対 す る 投 資 ス ピ ー ド と 投 資 額 の 大 き さ に 依 存 し て い た 。 1990 年 代 後 半 ま で は 、日 本 企 業 が 研 究 開 発 や 積 極 的 な 設 備 投 資 に よ っ て 電 子 デ バ イ ス 関 連 市 場 で 優 位 性 を 発 揮 し て い た 。し か し 、2000 年 代 前 半 に は 、韓 国 企 業 が 国 を あ げ て 巨 額 の 生 産 設 備 投 資 を 行 う と と も に 、 韓 国 政 府 が 輸 出 関 税 に 対 し て 税 制 優 遇 策 を と る こ と に よ っ て 、 当 該 市 場 を 支 配 す る と い う 地 位 を 獲 得 し た 。 (2) 経 営 と 一 体 化 し た 情 報 技 術 2000 年 前 後 の 時 期 に お け る 情 報 技 術 は 、人 事 給 与 や 財 務 会 計 な ど の 企 業 と っ て 基 幹 と な る 業 務 領 域 へ の 活 用 が 進 み 、 経 営 と 情 報 技 術 の 一 体 化 が 進 展 し た 。 企 業 ユ ー ザ ー に お け る 情 報 技 術 の 活 用 領 域 は 、 フ ロ ン ト オ フ ィ ス 領 域 で は 携 帯 電 話 や PDA( Portable Digital Assistance)、 バ ッ ク オ フ ィ ス 領 域 で は IT ベ ン

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ダ の デ ー タ セ ン タ ー を 通 じ た サ ー ビ ス が 始 ま っ た こ と か ら ブ レ ー ド サ ー バ 、 ネ ッ ト ワ ー ク 領 域 で は デ ジ タ ル 情 報 に 対 応 し た IP( Internet Protocol)ネ ッ ト ワ ー ク が 普 及 し た 時 期 で も あ る 。 こ の 時 期 に お い て 市 場 を 支 配 し て い た の は 、 引 き 続 き 、 シ ス テ ム イ ン テ グ レ ー タ ー と な っ た IT ベ ン ダ で あ っ た 。 1990 年 代 、 IT ベ ン ダ は ハ ー ド ウ ェ ア の 付 属 品 と し て 無 償 で 提 供 さ れ る こ と も あ っ た ソ フ ト ウ ェ ア に 対 し 、 情 報 技 術 業 界 を あ げ た 活 動 を 通 じ て 、 ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 の 有 償 化 に 取 り 組 み 、ソ フ ト ウ ェ ア を 収 益 源 に 加 え る こ と に 成 功 し た 。 ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 の 有 償 化 に よ り 、 電 子 デ バ イ ス 系 製 品 で 必 要 と さ れ た 巨 額 の 研 究 開 発 費 や 生 産 設 備 投 資 を 行 わ な く と も 、 情 報 技 術 業 界 に 参 入 す る こ と が 可 能 に な っ た 。 こ う し て 、1990 年 代 後 半 に は 、 IT ベ ン チ ャ ー 企 業 の 起 業 が 集 中 的 に 発 生 し た 。 し か し 、2000 年 か ら 2001 年 に か け て IT ベ ン チ ャ ー 企 業 が 乱 立 す る こ と に よ っ て 、 市 場 の 需 要 と ソ フ ト ウ ェ ア の 供 給 に 大 き く 乖 離 が 生 じ た た め 、IT バ ブ ル の 崩 壊 と い う 事 態 に つ な が っ た 。 大 手 IT ベ ン ダ は 、 2000 年 代 前 半 に お い て 、 情 報 技 術 関 連 の 製 品 ・ サ ー ビ ス を 統 合 し 、IT シ ス テ ム の 企 画 提 案 、全 体 及 び 詳 細 設 計 、開 発 、構 築 、 導 入 、ユ ー ザ ー の ト レ ー ニ ン グ 、 保 守 、 運 用 な ど を 一 貫 し て 提 供 す る シ ス テ ム イ ン テ グ レ ー シ ョ ン 事 業 を 中 核 と し た 。IT ベ ン ダ は 、官 公 庁・自 治 体 や 大 手 企 業 な ど の 大 口 顧 客 と の 商 談 を 継 続 的 か つ 大 型 化 す る こ と に よ っ て 、 シ ス テ ム イ ン テ グ レ ー シ ョ ン 事 業 を 収 益 源 と し て 、市 場 支 配 を 継 続 す る こ と と な っ た 。一 方 、IT ベ ン チ ャ ー 企 業 も 、IT バ ブ ル 崩 壊 を 乗 り 越 え 、生 き 残 っ た グ ー グ ル な ど の ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 を 中 心 と す る 企 業 が 急 激 に 成 長 を 遂 げ た 。 (3) ク ラ ウ ド サ ー ビ ス の 登 場 と 競 争 関 係 の 変 質 2005 年 か ら 2010 年 に か け て 情 報 技 術 に 関 す る 市 場 の 支 配 者 は 引 き 続 き IT ベ ン ダ で あ っ た 。IT ベ ン ダ は 、シ ス テ ム イ ン テ グ レ ー シ ョ ン 事 業 を 通 じ て 、商 談 規 模 の 拡 大 を 図 り 続 け た 。た と え ば 、IT ベ ン ダ は 、災 害 時 に 向 け た 事 業 継 続 計 画(BCP, Business Continuity Plan)を 啓 蒙 す る こ と に よ っ て 、企 業 ユ ー ザ ー の デ ー タ セ ン タ ー の 利 用 拡 大 や 設 備 の 二 重 化 な ど 企 業 ユ ー ザ ー の IT 投 資 額 の 拡 大 へ と 誘 導 す る 施 策 を 展 開 し た 。

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(Cloud Computing) の 登 場 と と も に 大 き く 変 質 し た 。 企 業 ユ ー ザ ー は 、 ク ラ ウ ド コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ の 普 及 に よ り 自 ら 設 備 を 持 つ こ と な く 、 企 業 規 模 の 大 小 の 差 を 超 え て 多 様 な サ ー ビ ス が 安 く 、 早 く 利 用 で き る よ う に な っ た 。 ま た 、 ユ ー ザ ー の 端 末 も 携 帯 電 話 か ら ク ラ ウ ド サ ー ビ ス に つ な が る ス マ ー ト フ ォ ン へ と 進 化 及 び 普 及 す る こ と で 、PC と 同 等 以 上 の モ バ イ ル コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ 環 境 を 持 つ よ う に な っ た 。 シ ス テ ム イ ン テ グ レ ー シ ョ ン 事 業 が 中 心 で あ っ た IT ベ ン ダ か ら も ク ラ ウ ド サ ー ビ ス (Cloud Services) を 販 売 す る が 、 商 談 の 大 型 化 つ ま り 高 額 化 を 狙 っ て き た 戦 略 の 方 向 性 に 対 し て 正 反 対 に 位 置 し 、 価 格 破 壊 を 招 く と い う 利 益 相 反 の 関 係 に あ る た め 、IT ベ ン ダ は 戦 略 上 、ク ラ ウ ド サ ー ビ ス に 集 中 し 切 る こ と が で き な か っ た 。 結 果 と し て 、 ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 市 場 で 市 場 を 支 配 し た の は 、 流 通 業 が 本 業 で あ る 企 業 ユ ー ザ ー の Amazon. Inc.( 以 下 、 ア マ ゾ ン ) で あ っ た 。 ア マ ゾ ン は 、 情 報 技 術 に 対 し て ユ ー ザ ー の 立 場 で あ り な が ら 、EC( Electric Commerce) 事 業 の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と し て 構 築 し た コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ ・ リ ソ ー ス の 余 剰 分 を ク ラ ウ ド サ ー ビ ス と し て 提 供 し た 。 ア マ ゾ ン は 、 そ れ ま で IT ベ ン ダ が な し 得 な か っ た 世 界 最 大 級 の 世 界 共 通 ク ラ ウ ド サ ー ビ ス の 提 供 企 業 と な り 、 法 人 向 け ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 市 場 の グ ロ ー バ ル リ ー ダ ー と な っ た 。 2013 年 10 月 ~ 12 月 時 点 の 世 界 に お け る 法 人 向 け ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 市 場 は 、 市 場 全 体 が 前 年 比 45%で 急 成 長 す る 中 で 、ア マ ゾ ン が 世 界 シ ェ ア 28%を 獲 得 し 、 シ ェ ア 2 位 の IBM( 7%)以 下 の IT ベ ン ダ に 大 差 を つ け た 。こ れ は 、企 業 ユ ー ザ ー ( ア マ ゾ ン ) と 提 供 企 業 で あ る IT ベ ン ダ ( IBM や マ イ ク ロ ソ フ ト な ど ) と の 立 場 の 逆 転 を 意 味 し て お り 、IT ベ ン ダ を 踏 み 越 え て 市 場 を 支 配 す る 立 場 に な っ た こ と を あ ら わ し て い る1 ク ラ ウ ド サ ー ビ ス に お い て 実 現 し た IT ベ ン ダ か ら ユ ー ザ ー へ の 市 場 支 配 者 の 移 行 と い う 変 質 は 、 情 報 技 術 関 連 市 場 に と っ て 大 き な 分 岐 点 と な っ た 。 (4) ユ ー ザ ー が 主 導 権 を 持 つ ビ ッ グ デ ー タ 市 場 2010 年 以 降 に 情 報 技 術 市 場 の 中 心 と な っ た ビ ッ グ デ ー タ( Big Data)は 、市 場 に 張 り 巡 ら し た ネ ッ ト ワ ー ク 、セ ン サ ー や カ メ ラ か ら 生 み 出 さ れ る デ ー タ や 、

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企 業 や 団 体 の 活 動 か ら 生 み 出 さ れ る 大 量 の 定 型 及 び 非 定 型 の 大 量 デ ー タ を 収 集 、 処 理 、 分 析 し 、 最 適 な ア ク シ ョ ン へ と つ な げ る 取 り 組 み の 総 称 で あ る 。 ビ ッ グ デ ー タ 関 連 市 場 の 特 徴 は 、 デ ー タ の 所 有 権 を 持 つ 主 体 者 が デ ー タ の 発 生 元 で あ る 企 業 や 団 体 の 経 営 者 や 資 産 の 所 有 者 で あ る と い う こ と で あ り 、IT ベ ン ダ で は な い こ と に あ る 。IT ベ ン ダ は 、デ ー タ を 所 有 す る 企 業 や 団 体 に 対 し て 単 に ビ ッ グ デ ー タ を 解 析 す る た め の ソ フ ト ウ ェ ア 等 を 提 供 す る 企 業 と い う 立 場 に な っ て し ま っ た 。 つ ま り 、 ビ ッ グ デ ー タ か ら 生 み 出 さ れ る 付 加 価 値 と そ こ か ら 生 み 出 さ れ る 収 益 は 、 本 質 的 に デ ー タ の 所 有 権 を 持 つ ユ ー ザ ー に も た ら さ れ る 。 よ っ て 、 ビ ッ グ デ ー タ 関 連 市 場 に お い て も 、市 場 を 支 配 す る 主 体 者 は ユ ー ザ ー と な る( 図 1-1)。

略 語 説 明 :PDA( Personal Digital Assistant )、 IP( Internet Protocol)、 SNS( Social Networking Service)、 SDN( Software-Defined Networking)、 M2M( Machine to Machine )、 IoT( Internet of Things) 出 所 : 先 行 研 究 を も と に 筆 者 作 成 図 1-1: 情 報 技 術 の 進 展 (5) 社 会 イ ン フ ラ 全 体 に 浸 透 す る 情 報 技 術 2015 年 以 降 、情 報 技 術 は 、全 て の モ ノ が イ ン タ ー ネ ッ ト に つ な が る Internet of Things2( 以 下 、IoT)へ と 進 化 す る こ と で 、社 会 イ ン フ ラ 全 体 に 浸 透 し 続 け

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て い る 。IoT 関 連 市 場 に お い て も 、 ユ ー ザ ー が 市 場 を 支 配 す る と 考 え ら れ る 。 ユ ー ザ ー に と っ て IoT と は 、ユ ー ザ ー 自 身 の 本 業 で 取 り 扱 う 資 産 と 情 報 技 術 を 組 み 合 わ せ 、 本 業 の 収 益 に 追 加 す る 形 で 新 た な 収 益 の 獲 得 を 狙 う 活 動 で あ る 。 た と え ば 、従 前 、IT ベ ン ダ の 顧 客 で あ り 企 業 ユ ー ザ ー で あ っ た 重 電 メ ー カ ー は 、 産 業 機 械 や 発 電 設 備 を 顧 客 に 納 入 す る 際 、 設 備 の 設 置 領 域 に IoT と し て セ ン サ ー や ネ ッ ト ワ ー ク を 張 り 巡 ら せ る 。 こ こ か ら 生 ま れ る ビ ッ グ デ ー タ の 所 有 権 者 は 設 備 を 購 入 し た 製 造 業 者 や 発 電 所 で あ り 、 デ ー タ を 活 用 す る の は 設 備 の 設 置 者 で あ る 重 電 メ ー カ ー で あ る 。IT ベ ン ダ は 、セ ン サ ー と ネ ッ ト ワ ー ク 、デ ー タ 分 析 用 ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 納 入 す る 立 場 に と ど ま り 、 デ ー タ に 直 接 関 わ る こ と が で き な い 。 重 電 メ ー カ ー は 、 あ く ま で も 本 業 で あ る 産 業 機 械 や 発 電 設 備 か ら の 収 益 を 中 心 に 考 え て お り 、IoT に 関 連 す る 領 域 は 製 品 の 納 入 に 対 す る 付 随 サ ー ビ ス の 一 部 に す ぎ な い 。 し か し 、 重 電 メ ー カ ー は 、IoT 関 連 市 場 に お い て 、 遠 隔 予 防 保 守 や 顧 客 の 使 用 状 況 の 確 認 の た め に ビ ッ グ デ ー タ を 活 用 す る こ と で 、 社 会 イ ン フ ラ 全 般 へ と サ ー ビ ス の 対 象 領 域 を 拡 げ 、 市 場 に お け る 圧 倒 的 な 競 争 優 位 の 獲 得 に よ り 収 益 の 大 幅 な 拡 大 を 目 指 す 。

た と え ば 、ド イ ツ のSIEMENS AG( 以 下 、シ ー メ ン ス )に よ る common Remote Service Platform( 以 下 、cRSP)と い う 遠 隔 保 守 の た め の 共 通 遠 隔 サ ー ビ ス プ ラ ッ ト フ ォ ー ム が 挙 げ ら れ る 。cRSP は 同 社 が こ れ ま で に 顧 客 に 納 入 し た 約 25 万 か 所 の 設 備 や シ ス テ ム ( 大 型 産 業 用 モ ー タ ー 、 大 都 市 向 け 交 通 制 御 コ ン ピ ュ ー タ 、 ビ ル 監 視 シ ス テ ム 等 ) に 対 し て 、 遠 隔 保 守 サ ー ビ ス を 提 供 し て い る 。 さ ら に 、 シ ー メ ン ス は 、cRSP に 接 続 さ れ る シ ス テ ム 数 を 2020 年 ま で に 倍 増 し 、 デ ー タ 量 は 指 数 関 数 的 に 増 加 す る と し た3 重 電 メ ー カ ー で あ る シ ー メ ン ス の 狙 い は 、 産 業 機 器 や 発 電 設 備 等 の 製 造 と 販 売 力 の 強 化 で あ り 、 こ れ に 付 加 価 値 と し て 遠 隔 保 守 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 附 属 し 展 開 す る こ と で 、 顧 客 と IoT の ネ ッ ト ワ ー ク で つ な が り 、つ な が る 先 が 顧 客 及 び 納 入 機 器 へ と 収 益 源 が 拡 張 さ れ る こ と に な る 。 以 上 の 通 り 、 本 研 究 の 背 景 と な る 情 報 技 術 関 連 市 場 で は 、1990 年 代 、 2000 年 代 に は IT ベ ン ダ が 市 場 を 牽 引 し て い た 。 し か し 、 2010 年 代 以 降 は 、 ク ラ ウ ド サ ー ビ ス 、 ビ ッ グ デ ー タ 、IoT と い う 市 場 変 化 の 中 で 、 ユ ー ザ ー が 自 ら イ ノ

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ベ ー シ ョ ン を 創 出 す る と と も に 、 市 場 を 牽 引 す る 主 体 者 と し て 強 い 影 響 力 を 持 つ よ う に な っ て い る と 考 え ら れ る 。 2. 情 報 技 術 の 活 用 に よ っ て 市 場 を 変 革 す る 企 業 ユ ー ザ ー (1) IT 技 術 者 を 自 ら 抱 え る 企 業 ユ ー ザ ー 情 報 技 術 を 活 用 す る こ と に よ っ て 、ユ ー ザ ー が 自 ら イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 し 、 市 場 を 支 配 す る 主 体 者 と な る と い う 傾 向 に つ い て は 、 国 に よ っ て も そ の 傾 向 が 異 な る 。情 報 技 術 に 対 し て 技 術 力 を 持 つ 人 材( 以 下 、IT 技 術 者 )の 偏 在 す る 組 織 が 、 国 に よ っ て 異 な る た め で あ る 。 各 国 の IT ベ ン ダ と 企 業 ユ ー ザ ー 技 術 者 の 所 属 に 関 す る 国 別 比 較 の デ ー タ( 図 1-2) に よ る と 、 国 別 に 見 た IT 技 術 者 数 の 総 数 で は 、 米 国 が 圧 倒 的 に 多 い 。 米 国 に は 、中 国 や イ ン ド の 1.6~ 1.8 倍 、日 本 の ほ ぼ 3 倍 の IT 技 術 者 が 存 在 す る 。 各 国 の 情 報 技 術 者 数 日 米 の 情 報 技 術 者 の 分 布 状 況 出 所 : 経 済 産 業 省 、 厚 生 労 働 省 、 文 部 科 学 省 (2015) p.158 の 図 131-5 及 び 図 131-6 を も と に 筆 者 作 成 図 1-2: IT 技 術 者 の 所 属 に 関 す る 国 別 比 較 そ の 米 国 に お い て IT 技 術 者 は 7 割 強( 71.5% )の 割 合 で 企 業 ユ ー ザ ー 側 に 存 在 す る 。こ の 数 は 、日 本 に 存 在 す る IT 技 術 者 の 総 数 を も 上 回 る 。日 本 の 企 業 ユ ー ザ ー に 存 在 す る IT 技 術 者 の 割 合 は 、 4 分 の 1 程 度 ( 24.8%) で あ る 。 中 国 、 イ ン ド も 日 本 と 同 様 に IT 技 術 者 は IT ベ ン ダ 側 に 多 く 存 在 す る が 、日 本 よ り も

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企 業 ユ ー ザ ー 側 に 占 め る IT 技 術 者 の 割 合 は 多 い 傾 向 に あ る 。 こ こ か ら 、 企 業 ユ ー ザ ー が 情 報 技 術 関 連 市 場 の 動 向 を リ ー ド す る 米 国 市 場 と 、IT ベ ン ダ が リ ー ド す る 日 本 市 場 と い う 異 な る 構 図 が 見 え る 。 日 本 の 情 報 技 術 関 連 市 場 に お け る 特 有 の 事 情 と し て 、 経 営 者 が 情 報 技 術 に 関 連 す る 部 門 及 び 人 材 を コ ス ト セ ン タ ー と み な す 傾 向 が あ る 。こ う し た 経 営 者 は 、 コ ス ト の 効 率 化 を 図 る た め 、IT 関 連 組 織 を 本 社 機 能 か ら 切 り 離 し 情 報 技 術 関 連 子 会 社 を 設 置 し て IT 技 術 者 を 移 管 す る 対 応 や 、 情 報 技 術 に 関 連 す る 多 く の 機 能 を IT ベ ン ダ に ア ウ ト ソ ー シ ン グ( Outsourcing)す る と い う 対 応 を 行 う 志 向 が 強 い 。 情 報 関 連 子 会 社 の 機 能 は 、 人 事 シ ス テ ム や 会 計 シ ス テ ム 等 の 構 築 及 び 運 用 な ど の バ ッ ク オ フ ィ ス 領 域 の 業 務 効 率 化 が 中 心 と さ れ 、 経 営 の 中 心 と な る 領 域 と は 切 り 離 さ れ た 領 域 に 存 在 し て い る 。 こ の よ う に 日 本 の 多 く の 企 業 ユ ー ザ ー は 、 経 営 と 情 報 技 術 と の 間 に 距 離 が あ り 、 情 報 技 術 を 活 用 し た イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 や イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 対 す る 影 響 力 を 発 揮 し 難 い 環 境 に あ っ た と 考 え ら れ る 。 一 方 、米 国 側 は 、企 業 ユ ー ザ ー が 主 体 的 に IT 技 術 者 を 雇 用 し 、情 報 技 術 が 経 営 と 一 体 と な る こ と で 、 企 業 ユ ー ザ ー 内 の IT 技 術 者 が 常 に 最 新 の 情 報 技 術 を 取 り 入 れ る 。一 般 的 な 情 報 シ ス テ ム に つ い て は 標 準 品 を 採 用 し 、コ ス ト を 抑 え 、 ビ ジ ネ ス プ ロ セ ス を グ ロ ー バ ル 標 準 の 情 報 シ ス テ ム の プ ロ セ ス に 合 わ せ 効 率 化 を 図 る 。一 方 で 、企 業 ユ ー ザ ー 内 の IT 技 術 者 は 、経 営 者 と 一 体 と な っ て 収 益 拡 大 を 志 向 し 、 情 報 技 術 を 活 用 し た 新 た な 事 業 の 創 出 と 成 長 を 実 現 す る た め 、 能 動 的 に イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 す る 。 以 上 に よ り 、 米 国 市 場 が 日 本 市 場 等 の 他 の 市 場 と 比 較 し 、 企 業 ユ ー ザ ー か ら イ ノ ベ ー シ ョ ン が 創 出 さ れ や す い 環 境 に あ る と 考 え ら れ る 。 そ の 点 か ら 、 企 業 ユ ー ザ ー が ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン を も た ら し 、 競 争 関 係 を 変 質 す る と い う 動 向 を 確 認 す る こ と に 適 し た 市 場 で あ る と も 考 察 で き る 。 ま た 、 米 国 市 場 の IT 技 術 者 の 所 属 先 に 関 す る 動 向 は 、 将 来 の 日 本 の 姿 で あ る と 推 察 す る こ と も で き る 。 な ぜ な ら 、 日 本 市 場 に お い て も 経 営 と 情 報 技 術 の 一 体 化 が 進 展 し て お り 、 社 会 イ ン フ ラ 全 体 へ と 情 報 技 術 が 浸 透 し て い る 。 こ う し た 動 向 か ら 日 本 で も 、 今 後 は 企 業 ユ ー ザ ー 内 の IT 技 術 者 が 増 加 し 、 企 業 ユ ー ザ ー が 能 動 的 に イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 す る 段 階 へ と 移 行 す る と 考 え ら れ る た

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め で あ る 。 (2) ユ ー ザ ー が 市 場 に 対 し て 影 響 力 を 発 揮 す る た め の 課 題 ユ ー ザ ー が 市 場 に 対 し て 影 響 力 を 発 揮 す る た め の 課 題 と し て 規 模 の 確 保 が あ る 。 個 人 や 企 業 を 問 わ ず 、 ユ ー ザ ー 単 独 で は 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 利 活 用 者 と い う 立 場 に す ぎ ず 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 社 会 化 や そ の 普 及 へ の 影 響 力 が 限 定 的 に な る た め で あ る 。 そ こ で 、 ユ ー ザ ー は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 し た 後 、 こ れ を 社 会 化 し 、 普 及 さ せ 、 そ の 結 果 、 ユ ー ザ ー 価 値 を 実 現 す る た め に は 、 規 模 を 確 保 す る 必 要 性 が 生 じ る と 考 え ら れ る 。 ユ ー ザ ー は 、 規 模 の 確 保 と い う 課 題 を 解 決 す る た め 、 ス テ ー ク ホ ル ダ ー 間 で 連 携 し 、 最 適 な エ コ シ ス テ ム を 形 成 す る こ と で 、 規 模 を 確 保 す る 取 り 組 み を 進 め る 。 そ の た め 、 ユ ー ザ ー は 、 直 接 、 個 々 の ユ ー ザ ー 間 で コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 取 り 合 う が 、 直 接 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン だ け で は エ コ シ ス テ ム の 形 成 に 長 い 期 間 を 要 し て し ま い 短 期 間 で の 規 模 の 確 保 は 困 難 で あ る 。 こ れ に 対 し て 情 報 技 術 は 、 ユ ー ザ ー が イ ノ ベ ー シ ョ ン の 社 会 化 や そ の 普 及 に 影 響 力 を も た ら し 得 る 規 模 を 確 保 す る た め に 、 大 き な 役 割 を 果 た し て い る 。 た と え ば 、ユ ー ザ ー は 、SNS( Social Networking Services)を 活 用 す る こ と に よ り 、 短 期 間 で 大 規 模 な エ コ シ ス テ ム を 形 成 し 、 仮 想 的 な ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ を 形 成 す る こ と が で き る よ う に な っ た 。 こ の よ う に ユ ー ザ ー が 、 規 模 の 確 保 を 実 現 す る と い い 志 向 と 情 報 技 術 の 利 活 用 と の 組 み 合 わ せ は 、 ユ ー ザ ー が イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 影 響 力 を 持 つ と と も に 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン に 変 質 を も た ら す た め の 重 要 な 要 素 と な る 。

2 節 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ

1. ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 定 義 と 類 型 (1) ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ と イ ノ ベ ー シ ョ ン の 社 会 化 本 研 究 に お い て は 、 提 供 企 業 や ユ ー ザ ー が 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 を 行 っ た だ け で は イ ノ ベ ー シ ョ ン と は み な さ な い 。 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 が 社 会 に 対 し て 影 響 力 を 発 揮 し た 状 態 、 つ ま り 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 さ れ る こ と が 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 に 至 っ た 状 態 で あ る と 考 え る 。 特 に 個 人 ユ ー ザ ー 主 導 で

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行 っ た 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 は 、 単 独 で は 社 会 に 対 す る 影 響 力 が 乏 し く 、 変 革 が 行 わ れ た と 認 知 さ れ て も 、 社 会 に 影 響 を も た ら す こ と は 困 難 で あ る 。 一 方 で 個 人 ユ ー ザ ー で あ っ て も 、 何 ら か の 形 で ま と ま っ た 勢 力 を 保 有 す る こ と が で き れ ば 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 が イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て の 社 会 化 に つ な が る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で は 、 ユ ー ザ ー に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て の 社 会 化 に 向 け て 、 ユ ー ザ ー が 規 模 を 確 保 す る 手 段 と し て 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ と い う 集 団 性 を 確 保 す る 状 態 に 注 目 す る 。 な お 、「 集 団 性 」と 類 似 す る 用 語 と し て「 集 合 性 」も あ る が 、本 研 究 で は「 集 団 性 」を 選 択 す る 。集 団 性 と 集 合 性 は と も に「Collectivity」と 表 現 で き る 一 方 、 集 団 性 は「Sociality」と も 表 現 で き 、集 合 性 は「 Assembly property」と も 表 現 で き る 。 本 研 究 で は 、 提 供 企 業 や ユ ー ザ ー が 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 を イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て の 社 会 化 に 向 か う た め の 活 動 と し て 表 現 す る た め 、「Sociality ( 集 団 性 、あ る い は 社 会 性 )」で あ る「 集 団 性 」を 採 用 す る 。そ の 上 で 、本 研 究 で は 、ユ ー ザ ー が「 集 団 性(Sociality)」を 確 保 し 、社 会 に 対 し て 影 響 力 を 持 っ た 状 態 を 「 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ 」 と 称 す る 。 本 節 で は 、 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 が 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 さ れ 、 普 及 す る た め に 、ユ ー ザ ー・コ ミ ュ ニ テ ィ が 果 た す 役 割 や 類 型 に つ い て 考 察 す る 。 特 に 、 情 報 技 術 が 進 展 す る こ と で 、 ユ ー ザ ー が 柔 軟 で 大 規 模 な ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ を 生 成 で き る よ う に な っ た 点 に 注 目 し て 論 じ る 。 von Hippel( 2005)は 、「 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 民 主 化 」を 実 現 す る ユ ー ザ ー・イ ノ ベ ー シ ョ ン に つ い て 、 メ ー カ ー に 不 完 全 な 代 理 人 と し て 行 動 し て も ら わ な く と も 、 ユ ー ザ ー 自 身 が 望 む も の を 正 確 に 作 る こ と が で き る と い う メ リ ッ ト が あ る こ と を 示 し た 。 ま た 、 個 々 の ユ ー ザ ー は 他 人 が 開 発 し た も の を 互 い に 共 有 し 合 い 、 自 由 に 使 う こ と が で き る と し た 。 な お 、 ユ ー ザ ー と は 、 個 人 か 企 業 で あ る か を 問 わ な い と し た (pp.14-18)。 た だ し 、von Hippel( 2005)は 、ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に 対 し て 、ユ ー ザ ー が メ ー カ ー の よ う に 製 品 ・ サ ー ビ ス の 開 発 や 販 売 を 行 え る 主 体 で あ る こ と が で き る と い う レ ベ ル に と ど め て い る 。そ の た め 、ユ ー ザ ー が 生 み 出 し た 製 品・ サ ー ビ ス の 変 革 が 社 会 に も た ら す 影 響 力 は 限 定 的 で あ り 、 あ く ま で も 既 存 の 製 品 ・ サ ー ビ ス 領 域 に お い て ユ ー ザ ー が 変 革 す る 活 動 を 行 っ た 領 域 に 集 中 し た 議

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論 と な っ て い る 。 つ ま り 、von Hippel( 2005)は 、個 々 の ユ ー ザ ー に よ る 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 で あ っ て も 、 こ れ を ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン で あ る と み な し 、 社 会 に も た ら す 影 響 力 は 限 定 的 で は あ る が 、 こ れ が 活 発 に 行 わ れ る よ う に な れ ば 社 会 福 祉 が 全 般 的 に 向 上 す る と 訴 え る こ と に よ っ て 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 社 会 的 意 義 を 説 い た (pp.26-29)。 一 方 、 本 論 文 で は 、 個 々 の ユ ー ザ ー に よ る 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 と い う レ ベ ル で は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と み な さ な い 。 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 が 、 社 会 に 影 響 力 を も た ら し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 さ れ た 時 点 で 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と な る と す る 。 そ の た め 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に お い て は 、 社 会 に 影 響 力 を も た ら す 前 提 と な る 集 団 性 の 確 保 が 大 変 重 要 な 条 件 と な る と 考 え る 。 (2) ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 定 義 本 研 究 で は 、企 業 ユ ー ザ ー や 個 人 ユ ー ザ ー が 新 た な 製 品・サ ー ビ ス を 変 革 し 、 こ れ を イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 す る と い う ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン を 肯 定 す る 。 そ の た め 、 ユ ー ザ ー に よ る 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 が 、 単 発 的 で 社 会 に 対 し て 影 響 力 の 弱 い レ ベ ル に と ど ま っ て い て は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 さ れ ず 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 や 普 及 と い う 段 階 に 至 ら な い 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン に 対 し て 、 単 発 的 な 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 と い う レ ベ ル で は な く 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 さ れ る レ ベ ル の 影 響 力 ま で 要 求 す る 。ユ ー ザ ー が 、社 会 に 対 す る 影 響 力 を 持 つ た め に は 、 ユ ー ザ ー が 何 ら か の 形 で 集 団 性 を 持 ち 、 一 団 と な っ て 同 時 期 に 社 会 に 対 し て 影 響 力 を 発 揮 す る 必 要 が あ る 。 よ っ て 、 本 研 究 で は 、 ユ ー ザ ー が 一 定 の 集 団 と な り 規 模 を 確 保 す る こ と に よ り 、 社 会 に 対 し て 影 響 力 を 持 っ た 状 態 と し て ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ を 定 義 し 、 着 目 す る 。 von Hippel( 2005)や 小 川( 2013)も 、ユ ー ザ ー・イ ノ ベ ー シ ョ ン の 実 現 に お い て 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 重 要 性 に 着 目 し て い る 。 た だ し 、 彼 ら は 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ を 、 あ く ま で も 個 々 の 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 を イ ノ ベ ー シ ョ ン と 読 み 替 え た 上 で 、 コ ミ ュ ニ テ ィ を イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 に 向 け た 協 力 関 係 と し て の み と ら え た (von Hippel, 2005, pp.26-27)( 小 川 , 2013,

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pp.86-87)。そ の た め 、コ ミ ュ ニ テ ィ と い う 用 語 は 使 用 し て い る が 、von Hippel( 2005) や 小 川(2013)の コ ミ ュ ニ テ ィ の 概 念 に は 、社 会 に 影 響 を も た ら す ほ ど の 集 団 性 が 必 要 で あ る こ と に つ い て は 含 意 さ れ て い な か っ た と 考 え ら れ る 。 一 方 、 本 研 究 に お け る ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 役 割 は 、 個 々 の ユ ー ザ ー に よ る 製 品・サ ー ビ ス の 変 革 を イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 す る に と ど ま ら な い 。 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 最 も 重 要 な 役 割 と は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 さ れ 、 さ ら に 、 普 及 す る ま で の 段 階 に お い て 、 ユ ー ザ ー が 連 携 し 集 団 化 を 実 現 し 、 ネ ッ ト ワ ー ク 外 部 性 を 発 揮 す る こ と に よ っ て 、 ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン を 創 出 す る こ と で あ る 。 本 研 究 で は 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ に 対 し て 、 コ ミ ュ ニ テ ィ 内 に お け る 構 成 員 の 互 い の 面 識 や 直 接 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 有 無 や 、 正 式 な 団 体 や 組 織 体 で あ る こ と を 問 わ な い 。 本 研 究 に お け る ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ と は 、 ユ ー ザ ー を 中 心 に 構 成 さ れ る コ ミ ュ ニ テ ィ の 構 成 員 が 情 報 技 術 等 を 活 用 し て 同 時 期 に 情 報 連 携 し 、 集 団 的 な 意 思 表 示 あ る い は 意 思 決 定 を 行 う こ と で ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 や そ の 普 及 に 影 響 力 を も た ら す 共 同 体 で あ る と 定 義 す る 。 ま た 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 構 成 要 素 は 、 個 人 ユ ー ザ ー 、 企 業 ユ ー ザ ー 群 及 び 団 体 、 そ の 融 合 で あ り 、 社 会 に 対 す る 影 響 力 を 持 つ 共 同 体 と す る 。 特 に 情 報 技 術 の 進 展 は 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 形 成 を 促 し 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 創 出 や 普 及 を 促 進 す る 役 割 を 果 た し て い る 。 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 形 成 に お け る 情 報 技 術 の 役 割 と は 、 ユ ー ザ ー 同 士 を つ な げ エ コ シ ス テ ム 化 す る た め の 情 報 連 携 を 可 能 に す る こ と で あ る と と も に 、 互 い に 情 報 提 供 を し 合 う 環 境 を 提 供 す る こ と で も あ る 。 情 報 技 術 を 活 用 し た ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ と し て 代 表 的 な 存 在 に は SNS が あ る 。 SNS は イ ン タ ー ネ ッ ト で の 交 流 を 目 的 と し た 情 報 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム で あ り 、こ の SNS 上 で ユ ー ザ ー・コ ミ ュ ニ テ ィ が 形 成 さ れ 、 実 名 や 匿 名 の 個 人 及 び 企 業 ユ ー ザ ー が 柔 軟 に 結 び 付 き 合 い 、 テ キ ス ト 及 び 写 真 、 あ る い は 動 画 な ど の マ ル チ コ ン テ ン ツ の デ ー タ を 介 し て 情 報 連 携 や 情 報 提 供 を 繰 り 返 す 。 た と え ば 、市 場 か ら の 刺 激 を 受 け 、SNS 上 の 個 々 の ユ ー ザ ー の 意 思 決 定 が 一 致 し た と き 、 仮 想 的 な ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ と し て の 集 団 的 な 意 思 決 定 が 行 わ れ 、 自 ら の 製 品 ・ サ ー ビ ス の 変 革 を イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て 社 会 化 し 、 そ れ を

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普 及 さ せ る 強 い 影 響 力 を 発 揮 す る 。な お 、SNS 等 で 発 生 し た 仮 想 的 な ユ ー ザ ー・ コ ミ ュ ニ テ ィ は 、 提 供 企 業 の 研 究 ・ 技 術 開 発 や 、 新 製 品 開 発 に お け る イ ノ ベ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト か ら は 外 れ て い る た め 、 提 供 企 業 側 か ら の マ ネ ジ メ ン ト が 困 難 な 領 域 で も あ る 。 (3) ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 類 型 本 研 究 で は 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 影 響 を も た ら す レ ベ ル に 達 す る ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 類 型 を 2 つ に 大 別 す る 。 1 つ 目 は 、 小 規 模 で は あ る が 、 多 大 な る 影 響 力 を 持 つ こ と で 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 対 す る 推 進 力 と な る ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ で あ る 。 こ の ケ ー ス の ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で は 、 構 成 員 同 士 に 面 識 が あ り 、 明 確 な ビ ジ ョ ン や 活 動 目 的 を 掲 げ 、 共 有 し た 上 で 、 密 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 取 ら れ 、 構 成 員 の 特 性 に 応 じ た 役 割 付 け な ど も 行 わ れ て い る 。 た と え ば 、 自 治 体 の 施 策 決 定 や 施 策 実 行 の 局 面 を 支 え る 地 元 住 民 ( 自 治 体 に と っ て の ユ ー ザ ー 的 立 場 ) で 構 成 さ れ る NPO( Non-Profit Organization) 法 人 な ど が 挙 げ ら れ る 。

2 つ 目 は 、 物 理 的 な 空 間 に お け る 対 面 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 困 難 な 規 模 の 大 量 の ユ ー ザ ー で が 、情 報 技 術 等 を 活 用 し 大 量 の 人 々 が 緩 や か に つ な が る こ と で 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 影 響 力 を も た ら す ほ ど の 集 団 性 を 獲 得 し た ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ で あ る 。 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で は 、 構 成 員 間 で 互 い に 面 識 は な く と も 、 同 時 期 に 同 じ 評 価 や 意 思 表 示 を 行 う こ と で 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 対 し て 、大 き な 影 響 を も た ら す 。た と え ば SNS に よ り 仮 想 的 に 形 成 さ れ た 大 規 模 な ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ が 製 品 ・ サ ー ビ ス に 対 す る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 に 影 響 を 及 ぼ す ケ ー ス が 想 定 で き る 。 な お 、 ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 2 つ の 類 型 は 、 ど ち ら か の み で 構 成 さ れ る と い う こ と で は な く 、 複 合 的 に 発 生 す る 場 合 も あ る 。 た と え ば 、 小 規 模 か つ 影 響 力 の 大 き い ユ ー ザ ー ・ コ ミ ュ ニ テ ィ の 取 り 組 み が 、 マ ス コ ミ な ど に 取 り 上 げ ら れ 、SNS な ど で 大 量 の 人 々 が 仮 想 的 に つ な が っ た ユ ー ザ ー・コ ミ ュ ニ テ ィ 側 も こ の 取 り 組 み に 賛 同 す る こ と で 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 普 及 が 加 速 す る と い う ケ ー ス も 想 定 さ れ る 。

表 序 -1: 新 結 合 と 現 代 の 経 営 用 語 に よ る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 類 型
図 2-1: von Hippel, et al.( 2011 ) に よ る ユ ー ザ ー ・ イ ノ ベ ー シ ョ ン の プ ロ セ ス von Hippel ( 2005)は 、イ ノ ベ ー シ ョ ン・コ ミ ュ ニ テ ィ と い う 用 語 を 用 い て 、 リ ー ド ー ザ ー か ら 始 ま っ た イ ノ ベ ー シ ョ ン が 広 く 拡 散 し 、 ユ ー ザ ー 同 士 が 自 分 た ち の 活 動 を 組 み 合 せ 、 レ バ レ ッ ジ を 効 か せ る た め
図 2-2 : イ ノ ベ ー シ ョ ン の 変 革 力 13 マ ッ プ
図 3-3 : イ ル ミ ナ の 「 BaseSpace Informatics Suite 」
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