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南アジア研究 第27号 018学会近況・井坂 理穂, 岩谷 彩子, 國弘 暁子, 佐藤 裕「テーマ別セッションIV 都市の日常からみた「発展」―グジャラート州の事例より―」

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Academic year: 2021

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学・会・近・況

テーマ別セッション IV

Re-examining ‘Development’

in Urban Life:

The Case of Gujarat

都市の日常からみた「発展」―グジャラート州の事例より ―

井坂理穂、岩谷彩子、國弘暁子、佐藤 裕

本セッションでは、州政府によって「発展」の名のもとに様々な制度 改革や開発プロジェクトが進められてきたグジャラート州都市部におい て、人々の生活が具体的にどのように変化してきたのか、彼らにとって 「発展」とは何を意味したのかを、事例研究を通じて考察する。2001年 から14年まで州政権を率いてきたナレーンドラ・モーディーは、経済発 展、行政改革、テロ対策などを大々的に掲げ、効果的な宣伝文句ととも に、これらに関わる政策やプロジェクトを打ち出してきた。こうしたな かで、「発展」の言葉は、グジャラート州におけるモーディー政権の重 要な成果として繰り返し強調されてきた。さらに、「発展」のイメージは、 グローバル化と重ね合わせられると同時に、グジャラート州への誇りや 帰属意識を促すものとしても用いられ、州政権の基盤を強化してきた。 州政府が開催する投資促進のためのサミットの名称である「活気あるグ ジャラート(

Vibrant Gujarat

)」は、近年のグジャラートの状況を表す 言葉として州内外で広く知られている。 しかしながら、この「発展」が、実際にグジャラート社会に何をもた らしたのかについては、批判的な見解を示す論者もいる。彼らは、貧困 問題、カースト差別、教育、健康面での州政府の対策の遅れや、経済 的・社会的格差の拡大を指摘している。本セッションでは、こうした議 論を念頭におきながら、インドにおける「発展」の成功モデルとして語 られることの多いグジャラート州について、とりわけ都市部に焦点を当 てながら、そこで生活する人々が、政治家らが語る「発展」「開発」を どのように経験したのか、その過程で彼らの政治・社会意識にどのよう

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な変化がみられたのか、などの問いについて、事例研究を通じて検討し た。なお、本セッションは当初、海外からの参加者を含むかたちで予定 されていたため、報告・質疑応答はすべて英語で行われた。

Making ʻModi Storiesʼ:

The Publishing Industry in Contemporary Gujarat

「モーディー物語」の創造 ―近年のグジャラートにおける出版産業― 井坂理穂 本報告は、グジャラート州におけるナレーンドラ・モーディー政権 (2001

-

14年)のもとでの「発展」を掲げた政策が、同州の出版産業、出 版文化にどのような影響を与えたのかについて、アフマダーバード市の 複数の出版社や書店への聞き取り調査などをもとに検討したものであ る。まず報告者は、グジャラートにおける出版産業の歴史について、近 年の変化に焦点をあてて紹介した。識字率の上昇や消費文化の台頭を背 景に、インドの出版産業は1990年代以降目覚ましい成長を遂げており、 とりわけ流通・販売部門において、チェーン書店やネット販売の発達、電 子書籍の導入などの大きな変化がみられた。グジャラーティー語の大手 出版社も、こうした流れのなかで都市部での売り上げを大きく伸ばし、さ らに市場を開拓するために広報活動を活発化させたり、需要の高い英語 作品のグジャラーティー語訳の出版に力を入れるなどの戦略をとって いる。 こうしたなかで、モーディー州政権は発展を掲げた諸政策を通じて、 出版業界とのかかわりを深めていった。彼は発展における「知力(ギャー ン・シャクティ)」の重要性を強調し、新たな教育プログラムを次々に立 ち上げたが、そのなかには大規模な読書キャンペーンも含まれていた。 グジャラート州成立50周年記念にあわせて開始されたこのキャンペー ンでは、決められた日時に人々が集まって一斉に本を読む催しや、「私 の好きな本」について語り合う運動、「最もよい読者」を競わせる催し などが行われたほか、60か所以上でブック・フェアが開催された。政府 の強い介入により、これらの催しには、州内の多数の教育関係者や学生 が動員された。読書キャンペーンは、アフマダーバード市に拠点をもつ グジャラーティー語の大手出版社に大きな利益をもたらすと同時に、政 府と出版業界との結びつきを強めることにもなった。このほかに政府の

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出版助成のあり方も、大手出版社の活動に対する政府の介入の機会と なっている。 こうしたモーディー州政権と大手出版社との結びつきは、これらの出 版社がモーディーの伝記や彼に関するエッセー集など、モーディー関連 の書籍を次々と出版するようになったことからもうかがえる。これらの 書籍の出版は、モーディーや彼の掲げる発展モデルへの人々の関心の高 まりを利用しようとする出版社の戦略でもあったが、その宣伝にあたっ てしばしばモーディー自身も協力していたことは、両者の関係の緊密さ を感じさせる。これらの書籍では、モーディーは明確なヴィジョンと強 力なリーダーシップのもとに、グジャラートに「発展」と「よき統治」を もたらした政治家として肯定的に描かれることが多く、2002年の大規模 なムスリム虐殺に関する彼の責任を含め、モーディーに批判的な声はか き消され、あるいは反論を加えられている。最後に報告者は、こうした 政府と大手出版社との結びつきについて、小規模出版社や読者の側から どのような声が出されているのかに触れ、この点をさらに検討すること を今後の課題として挙げた。

Consuming Gentrified Locality:

Urban Planning of Ahmedabad and the Future of Street Vendors

ジェントリファイされたローカルなものを消費するということ ―アフマダーバード市の都市計画と露天商の未来― 岩谷彩子 ナレーンドラ・モーディーが幼い頃、彼の父親が営むチャーイ屋を手 伝っていたことはよく知られている。「チャーイを飲みながら議論(

Chai

Pe Charcha

)」キャンペーンに見られるように、彼を首相に押し上げた 下院選挙でも彼の出自は利用された。本報告は、モーディーがグジャ ラート州首相時代に進められた大規模な都市開発を例に、モーディーの 社会変革が異なる社会階層にある人々をどこまで包摂するものであっ たのか検討することを目的としている。 グジャラート州最大の都市アフマダ―バードは、1411年アフマド・ シャー 1世によって建設され、インドでも5番目の規模を誇る都市であ る。アフマダーバードは、サーバルマティー川によって新旧二つのエリ アに分けられる。現在進行しているのが、歴史的な建造物やモスクが残 る古いエリアをジェントリファイ(高級化)し、観光客を呼び込もうと

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する都市開発計画である。本報告では、モーディー政権下に進められた 「バドラ遊歩道プロジェクト(

the Bhadra Maidan-e-Shahi project

)」と 「サーバルマティー・リバーフロント・プロジェクト(

the Sabarmati River

Front project

)というふたつの旧市街の開発計画について、同地域で 人々に物資を供給し、流通にたずさわってきた露天商の視点から対比さ せることで検討した。 アフマダーバード市の露天商の人口は、80

,

000人以上にのぼるとされ ている。彼らの多くは、近年のインドの政治経済環境の変化によって生 まれた露天商である。1975年以前には、頻発するコミュニティ対立のた め現在ほど露天商はいなかったというが、1985年の政府による繊維産業 政策の変化により、それまでアフマダーバードの綿織物工場で働いてい た人々の多くが、露天商などのインフォーマル・セクターに流入するこ とになった。1990年代以降の経済の自由化は、多様な人々のニーズと商 品のグローバルなフローを増大させ、露天商のビジネスチャンスを拡大 することになった。つまり露天商ビジネスは、常に社会的変化のただな かで人々の需要に応える形で存在し、非熟練労働者に職業機会をもたら してきたのである。 しかしながら、そうした露天商ビジネスの柔軟性は一方でかなりの不 安定さをともなうものである。路上という流動的な場所で行われる生業 は、これまでも路上を管理しようと試みる自治体や警察と衝突を繰り返 してきた。本報告では、バドラ市場とサーバルマティー河岸で開かれる グジリー市場に集う露天商と顧客、周辺店舗を対象に、報告者が2010 年から2012年の計5か月間行った現地調査より、それぞれの開発計画に おける露天商の位置づけと、露天商の営みが異なる階層を媒介し市場が その結節点となってきた実態を明らかにした。国家単位でみると、2014 年の「露天商の生活保護と規制法(

The Protection of Livelihood and

Regulation of Street Vending Act

)」により、自治体には行商ゾーンの 設営と、それにともなう露天商の参加が求められている。しかし、ふた つの都市開発計画のなかで露天商が果たしてきた役割は顧みられず、彼 らの商業スペースは大きく縮小している。露天商や彼らの周辺のムスリ ム商人の間でもモーディー政権下にもたらされた経済的繁栄を評価す る声は高いが、現在進行中の都市開発は、これまで露天商が結びつけて きた異なるコミュニティや社会階層を分断させるものである。モー

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ディーの社会変革が都市のジェントリフィケーションを促進するだけに 終わるのか、あるいはインドの都市が露天商を通じて包摂してきた多様 性を保持できるのか、今後も注視していく必要がある。

Begging and Blessing at the Sacred Place under the Influence of Development Policies of Gujarat

女神の帰依者と物乞いとの乖離について ―巡礼地の開発がもたらした一事例― 國弘暁子 本報告は、過去10年以上にわたって調査をしてきた巡礼地において、 州政府が推し進める巨大な開発の力によって一掃された者と、己の居座 る権利を確保し続けた者との差異を生じさせた要因を明らかにするこ とを目的とする。 調査地の巡礼地は、グジャラート州の都市アフマダーバードから 88

km

ほど北に位置するバフチャラー女神寺院である。この10年で主要 都市をつなぐ高速道路が開通するなど道路整備が進み、困難であった寺 院へのアクセスは改善された。それによって、寺院周辺に暮らす人々に も恩恵がもたらされ、この点に関してはナレーンドラ・モーディーの政 権を讃える人も少なくない。しかし、女神寺院そのものを開発の対象と した施策に対しては、地元の人間は不満を持つ。寺院での任務を世襲し た人の中には、巡礼地の開発事業によって生活を一変させられてしまっ た者もいる。 18世紀にガーエクワード藩王国によって建立された色鮮やかな神殿 は、今では真っ白な神殿へと様変わりし、境内の周囲に建てられたス タッフ用の居住部屋は、境内の拡張工事のためにすべて取り壊された。 外に追いやられた者たちは仕事のために寺院に通ったが、州政府によっ て地元以外から雇用された者に仕事を奪われるようになり、居住地だけ でなく職場までも変えざるを得なくなった。寺院の司祭職を担ってきた 者たちも同様で、転職を余儀なくされた。 その一方で、開発という強力な波に追いやられることなく、己の居場 所を確保し続ける者がいる。それはバフチャラー女神の帰依者として巡 礼者に女神の恩寵を与えるヒジュラーである。ヒジュラーとは、男児と しての親族に対する義務役割を捨て、女神の衣装を纏い生きる者、ある いはその者たち全体を指す。女神寺院では西門近くスペースを常に陣

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取っており、そのポイントにおいて、巡礼者はヒジュラーと不可避的な 遭遇をする。そして彼らの多くが、見ず知らずのヒジュラーとの間に贈 与を通じた一時的な良好関係を取り持とうとする。 女神寺院の長い歴史の中で、ヒジュラーが寺院の公的役割を担う者と して記録されたことはないが、寺院管理人のカマーリヤ・カーストに従 属する者としての記述は残っている。カマーリヤとは、半身女性そして 半身男性の衣装を身に纏う行為を通じて、女神の世話係であることを自 ら主張した現世放棄者であり、女神寺院を建立したガーエクワード藩王 国から寺院の管理運営を任されていた。今日寺院で見かけるカマーリヤ たちは、女神の世話人を意味する衣装を纏うことなく、ヒジュラーの後 ろを付いて回り、女神の恩寵を人々に授けながら贈与を受ける機会を 狙っている。つまりカマーリヤとヒジュラーの立場は今では逆転してお り、女神の世話人の印を纏わないために、カマーリヤは単なる物乞いと しか巡礼者には認識されないのである。巡礼地の開発を進める州政府の 役人も、カマーリヤの行為は巡礼者に対する嫌がらせだと認識し、境内 立ち入りを禁止することもあった。 かつてのヒジュラーはカマーリヤの下働きをする存在であったが、そ のカマーリヤが抜けた後も、女神寺院に己の居場所を確保し、女神に帰 依する者として巡礼者から贈与を受けとっている。州政府の役人から境 内立ち退きを命じられることがないが、そもそも、ヒジュラーには正式 なポジションが与えられたことはなく、よって、失うこともない。ヒジュ ラーが女神寺院に存在する権利あるいは正当性は、これまで居続けてい きたという過去の歴史と女神との結びつきにしかない。そして、女神を 信仰する人々にとっては、女神の衣装を纏うという行為が語りとなって、 ヒジュラーの正当性を伝えられているのである。

Seeing ʻVibrant Gujaratʼ from Below:

The Cultural Politics of Development in the Slums of Ahmedabad

下層からみた「活気あるグジャラート」

―アフマダーバード市のスラムにおける開発をめぐる文化政治―

佐藤 裕

本報告は、グジャラート州で進められてきた都市再開発がスラム住民 のあいだにもたらした内部格差と、それによる政治意識の差異を検証す

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ることを目的とした。事例となるアフマダーバード市は2002年にコミュ ナル暴動を経験したが、インド人民党(

BJP

)の強硬派として知られる ナレーンドラ・モーディー前州首相がムスリム住民の大量虐殺を黙殺し たことは、同州政権の正当性を低下させるものであった。その後、モー ディー前州政権は都市部を中心としたインフラ建設事業を推進し、過去 10余年間で高い経済成長率を達成した。本報告では、スラム住民による モーディー氏ならびに

BJP

の支持・不支持の背景を、生活改善や将来展 望の多寡、そして各居住地区の過去の開発経験をてがかりに検討した。 都市論を中心とした先行研究は、モーディー氏率いる前州政権や自治 体による都市再開発によって、スラム住民が社会的にも空間的にも排除 される過程を描いてきた。しかしながら、スラム住民を「都市貧困層」 と一括りにし、彼/彼女らの排除を強調するあまり、スラム住民の多層 性、とくに

BJP

による開発政策を支持する住民が一定層存在する点が看 過されてきたことは否めない。 報告者はスラム住民の貧困の深度や将来展望のいかんにより、モー ディー氏ならびに与党の政策に対する評価が異なるという仮定のもと、 2011

-

12年に質問紙調査と当事者参加型調査をおこなった。その知見は 以下のとおりである。 ひとつは、社会的上昇を経験した層とそうでない層とのあいだで、

BJP

が州ならびに市レベルで進めてきた都市再開発やインフラ建設、貧困対 策事業に対する評価が大きく異なっていた点である。とりわけ、前者の なかには過去に

NGO

によるコミュニティ開発において、地域住民組織の 中核を担った女性たちが少なからず含まれる。これら世帯のなかには子 どもを私立学校に送るなど、次世代への投資がみられる一方で、生活状 況に改善がみられない過半数のスラム住民のあいだでは、アパシーの蔓 延が確認できた。こうした層においては、国民会議派を支持する者や、 いずれの政党も支持しない者が等しく確認できた。 いまひとつは、暴動以降に進められた開発は、一部スラム住民のあい だで個人化された利益の追求とそれを担保する世帯内での将来への投 資を促した。調査地にて少なからず確認された

BJP

の人気は、同党が属 性にもとづいたアイデンティティの政治によってではなく、開発によっ てもたらされるであろう生活改善と階層上昇への期待によって支えら れているのである。そのうえで、本報告は一部住民のこうした将来への

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期待感が、居住区における住民との差異化を通じて強化されていると結 論づけた。 いさか りほ ●東京大学 いわたに あやこ ●京都大学 くにひろ あきこ ●群馬県立女子大学 さとう ゆたか ●都留文科大学

参照

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