【問題と目的】
特別支援教育がスタートして
10
年あまりの月日が経過した。インクルージョンされた児童生徒の 現状はどうであろうか。通常学級に6.5%(小学校 7.7%,中学校 4.0%)の割合で在籍している発達
障害の可能性がある児童生徒のうち,38.6%の児童生徒は,支援がされていない可能性があることが 指摘されており(文部科学省,2012),制度的な進展が認められる一方で,教室内での具体的な支援 に関しては必ずしも進展しているとは言えない状況があることが示唆されている。加えて「学習面又 は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒を取り出して支援するだけでなく,それらの児童生徒 を含めた学級全体に対する指導をどのように行うのかを考えていく必要がある」(文部科学省,2012)と指摘されており,教育的支援が必要な児童生徒の支援を考えるとき,個人への支援の充実を考えて いく一方で,学級集団についても考えていく必要性が示されている。
このような通常学級の特別支援教育の状況について,河村(2006)は,現代の子どもたちの特徴と して,対人関係をうまく形成できない,集団生活のルールに従って学級生活や授業に参加できないと いう傾向を持っていることや,さらに,そういう子どもたちが
30~40
人集まった教室で学級集団を 育成すること自体が非常に難しくなっていることを指摘している。この指摘は,学級経営の困難さの 要因に,発達障害の可能性のある児童生徒以外の,周囲の子どもたちの不適応状態があることを示唆 している。つまり,通常学級における特別支援教育の難しさの要因として,発達障害児の有無にかか わらず学級経営そのものが困難になっていること,発達障害児の在籍は周囲児の不適応につながりや すいこと(深沢・河村,2017a),環境である学級の状態が不安定な中では発達障害児は不適応に陥り やすいこと(深沢・河村,2017b)等が挙げられ,通常学級の特別支援教育は,個と環境の相互作用 による悪循環が生起しやすい状況があると考えられる。つまり,学級集団の状態が良好であれば,発 達障害等の困難を抱えた児童の適応もよいということであり,これはすでに実証的に明らかにされて いる(深沢ら,2017b;武蔵・河村,2017)。武蔵・河村(2018)は,学級集団が良好であることを学級内での児童間の建設的で良好な相互作用 があることと同義であるとし,特別支援対象の有無により,学級満足度の承認や被侵害に,学級集団
学級集団内の教育的相互作用が特別支援対象児の スクール・モラールに及ぼす影響の検討
―
周囲児との比較から
―深 沢 和 彦・河 村 茂 雄
の機能が影響を与えているか否かを検討している。その結果,承認に関しては,対象児は非対象児よ りも承認得点が低いが学級集団の相互作用が高い場合にはどちらも得点が高くなること,被侵害に関 しては相互作用が高い場合には対象児も非対象児も被侵害が低くなるが,対象児の下がり方は非対象 児よりも相対的に大きく,対象児と非対象児の差が少なくなることを明らかにし,すべての子どもに 良い効果をもたらすためには,学級集団の相互作用の高さが前提となると結論付けている。
一方,発達障害児には障害に基づく認知特性があり,それを考慮しないと,教育そのものが成立し ない(杉山,2014)とも言われる。そして,認知特性による影響は学習面だけでなく,仲間との相互 作用の場面にも影響すると考えられる。三橋・中村(2004)は,社会性の発達に気がかりな問題をか かえた発達障害児には,ある程度共通した他者認知の特性が認められ,彼らの多くは,比較的単純な 表情や感情の判断,字句通りの言語理解や表現は可能だが,その場の状況や文脈等の様々な情報を統 合して他者の感情状態を推測したり,相手の状況を推理しながら相互的コミュニケーションを図った りすることを苦手とすることや,自己の感情や思考に対する認識が弱く,過度に低い自己評価や高す ぎる自己評価をする等のメタ認知能力の弱さがあると指摘している。つまり,発達障害児の相互作用 の認知は,認知特性が影響しており,障害をもたない周囲児とは受け止め方が違う可能性が考えられ るのである。
そこで,本研究では,学級集団の教育的相互作用が特別支援対象児のスクール・モラールにどのよ うに影響を及ぼしているのかを周囲児との比較を通して検討することを目的とする。影響の及ぼし方 に違いがみられたならば,その特徴に合わせた指導を工夫することも考えられ,意義ある研究となり 得る。
【方法】
1.調査対象
関東圏
A
県,B県の公立小学校の4~6
年生児童2523
人が本調査に協力した。また,調査時の欠 席による無回答,または特定の尺度の全項目に記入漏れがあったもの,項目のすべてに同じ数字が記 入してあったものは無効として除外し,2467名(4年886
人,男子451
人,女子435
人;5年897
人,男子
447
人,女子450
人;6年684
人,男子360
人,女子324
人,有効回答率97.8%)を分析対象と
した。なお,学級担任教師には,校内支援リストに掲載された特別支援対象児の出席番号とイニシャTable 1 各学年の分析対象児童数
4
年生5
年生6
年生 合 計児童性別 男子
451(64) 447(68) 360(67) 1258(199)
女子
435(21) 450(25) 324(16) 1209( 62)
合計
886(85) 897(93) 684(83) 2467(261)
( )内は,特別支援対象児数
ルおよび困難の概要の回答を求めた。
2.質問紙調査時期
調査は,2018年
2
月に実施された。3.調査手続き
各学校長に調査依頼をし,調査協力の得られた学校に調査を実施した。依頼後一か月以内の実施を 期限として回収した。実施にあたっては,本研究者が調査用紙を協力校に持参し,担任教師に対して 実施上の留意点等の説明を行った。質問紙調査の実施の際には,調査がテストではないこと,学校の 成績とは関係がないこと,個人の調査結果の秘密が守られること,調査結果を研究目的以外で公表し ないこと,が表紙に明記されている注意事項を読み上げてもらい,すべての質問項目への回答をもっ て同意取得とみなすと説明するよう依頼した。さらに,担任教師には実施手順・注意事項の記載され たシートの通り実施することを依頼し,児童生徒の回答用紙は渡した封筒に入れ,その場で密封して もらった。回答後は,研究者が調査協力校に出向き直接回収した。
4.質問紙構成
調査対象の児童に
2
つの尺度を実施した。(1)学級内教育的相互作用測定(短縮版)
学級集団の状態が児童に与える教育的相互作用を測定するために,河村・武蔵(2012)の学級集団 教育的相互作用測定尺度(小学生版)の各下位因子
5
項目の中から,因子負荷量の高かった上位3
項 目を抽出した短縮版尺度を実施した。評定は,「4:とてもそう思う」から「 1:まったくそう思わな
い」までの4
件法である。尺度の信頼性を検討するために,尺度全体と下位尺度でCronbach
のα
係 数を算出した結果,全体はα=.950
であった。下位尺度ごとでみると,第1
因子α=.826,第 2
因子α=.811,第 3
因子α=.816,第 4
因子α=.824,第 5 因子 α=.795,第 6
因子α=.866,第 7
因子α=.825
と,十分な信頼性が確認された。次に,短縮版尺度の確認的因子分析行った結果,河村ら(2012)と同様に
7
因子構造(各下位因子3
項目ずつ)が確認された。適合度指標は,GFI=.974,AGFI=.963,CFI=.983,RMSEA=.039 の 値を示し,適合度は満足できるものであった(Appendix 1)。(2)学校生活意欲尺度(スクール・モラールテスト)4 〜 6 年生用(河村,1999)
「友達関係」「学習意欲」「学級雰囲気」の
3
つの下位尺度から構成され,児童の学級や学校場面に おける意欲について測定する。評定は,「4:とてもそう思う」から「1:まったくそう思わない」ま
での4
件法である。単純加算により各因子の得点を算出する。5.統計解析
本研究の分析は,統計パッケージの
SPSS25.0(IBM)および Amos26.0(IBM)を使用した。欠損
値については,完全情報最尤推定法を利用して処理を行った。【結果】
1. 学級集団教育的相互作用と学校生活意欲尺度(スクール・モラールテスト)および学級満足度と の関連
学級集団教育的相互作用測定尺度(短縮版)の下位因子と児童のスクール・モラールおよび学級満 足度との関連を明らかにするために相関係数を求めた(Table 2)。
友達関係との相関は,斉一性・自治体制のみ弱い正の相関であったが,他はすべて中程度以上の正 の相関が認められた。学習意欲との相関は,集団圧のみ中程度以上の正の相関が認められたが,他の 学級集団教育的相互作用下位因子とは弱い正の相関であった。学級雰囲気との相関は,学級集団教育 的相互作用のすべての下位因子との間に中程度以上の正の相関が認められた。
2.学級集団教育的相互作用がスクール・モラールに及ぼす影響
学級集団教育的相互作用が児童のスクール・モラールに及ぼす影響を検討するために,Amos
26.0
を用いて,共分散構造分析を行った。それぞれの教師タイプごとにパス解析を行った。なお,本文中 では,観測変数を「 」内に,潜在変数を『 』内に記して示すことにする。「集団凝集性」「P機能」「斉 一性・自治体制」「集団圧」「M機能」「愛他性」の7
因子から『学級集団教育的相互作用』の潜在変 数を,「友達関係」「学習意欲」「学級雰囲気」の3
因子から『スクール・モラール』の潜在変数を設 定した。河村ら(2012)は,学級集団の状態と教育的相互作用の関係を検討した研究において,学級の状態 を規定する要因として「学級集団教育的相互作用の高さ」と「集団同一視の高さ」があることを指摘 している。これに従えば,「学級内教育的相互作用は,学級集団の状態を測る指標ともなるスクール・
モラールに影響を及ぼしているのではないか」という仮説が設定できる。この仮説に沿って,パスモ
Table 2 学級集団教育的相互作用測定尺度(短縮版)とスクール・モラールの相関係数
集団凝集性
P
機能 集団士気 斉一性・自治体制
M
機能 愛他性 集団圧友達関係
.476 .422 .425 .389 .556 .528 .470
*** *** *** *** *** *** ***
学習意欲
.323 .364 .363 .328 .359 .343 .453
*** *** *** *** *** *** ***
学級雰囲気
.543 .491 .563 .526 .525 .591 .563
*** *** *** *** *** *** ***
***:p<.001
デルを作成し,分析を行った結果,『学級集団教育的相互作用』が及ぼす『スクール・モラール』へ の影響は,Figure 1に示す構造モデルとして示された。
この構造モデルは,『学級集団教育的相互作用』から『スクール・モラール』に
.88
(p<.001)の影 響を与えていた。説明率は,『スクール・モラール』77%であった。適合度指標は,χ2=5.883,df=2,
p=.063>.05,GFI=1.000,AGFI=.987,CFI=1.000,RMSEA=.028
であり,十分な適合性が確認さ れた。次に,観測変数である各因子がどのように関連しているかを検討するために,学級集団教育的相 互作用の下位因子を外生変数,スクール・モラールの各下位因子を内生変数としたパス解析を実施 した。なお,すべての誤差変数の係数は
1
に固定し,変数間および変数の誤差間に相関関係が認め られた箇所には共分散を仮定した。パス係数は標準化した値を用いた。全児童(n=2467)を対象に 分析した結果,作成されたモデルの適合度指標は,χ2=2.549,df=4,p=.636>.05,GFI=1.000,AGFI=.997,CFI=1.000,RMSEA=.000
であり,十分な適合性が確認され,観測変数間の影響を表す構造モデルが作成された(Figure 2)。
このモデルを基にして,学級集団教育的相互作用がスクール・モラールに及ぼす影響が,周囲児と 対象児の違いによって異なるか否かを検討するために,各群でパス配置不変の多母集団同時パス解析
Figure 1 学級内教育的相互作用とスクール・モラールとの共分散構造分析
χ2=5.833,df=2,p=.063>.05,GFI=1.000,AGFI=.987,CFI=1.000,RMSEA=.028
注1)
*:p<.05,**:p<.01,***:p<.001注
2)有意なパスのみパス係数を示し,数値は標準化係数を示す。
注
3)従属変数の誤差項は省略した。
を実施した。なお,いずれの群においても有意ではない「斉一性・自治体制」から「友達関係」への パスに
0
値の等値制約をかけた。モデルの適合度指標は,χ2=5.058,df=8,p=.751,GFI=1.000,AGFI=.994,CFI=1.000,RMSEA=.000
となり,十分な適合性が確認された(Figure 3)。以下,多母集団同時パス解析の結果を述べる。
(1)学級集団相互作用が周囲児のスクール・モラールに及ぼす影響
まず,周囲児(n=2206)を対象とする群について述べる。「友達関係」にプラスの影響を与えて いたのは,「集団凝集性」
. 17
(p<.001),「P機能」.08
(p<.001),「集団圧」.13
(p<.001),「M機能」.32
(p<.001),「愛他性」.15 (p<.001),の
5
因子で,「集団士気」は-.09 (p<.001)とマイナスの影響 を及ぼしていた。「斉一性・自治体制」は影響を及ぼしていなかった。「学習意欲」にプラスの影響を与えていたのは,「P機能」
.12
(p<.001),「集団圧」.41
(p<.001),「M 機能」.12 (p<.001)の5
因子で,「愛他性」-.11 (p<.001)はマイナスの影響を及ぼしていた。「集 団凝集性」「斉一性・自治体制」「集団士気」は影響を及ぼしていなかった。「学級雰囲気」にプラスの影響を与えていたのは,「集団凝集性」.22 (p<.001),「P機能」.09 (p
<.001),「斉一性・自治体制」.13 (p<.001),「集団圧」.13 (p<.001),「M機能」.06 (p<.05),「愛 他性」.14 (p<.001),「集団士気」.12 (p<.001)の
7
因子すべてであった。注
1)共分散係数及び従属変数の誤差項は省略した。正のパスは実線で,負のパスは破線で示した。
注
2)数値は標準化係数を示す。有意なパスのみ示し,
*:p<.05,**:p<.01,***:p<.001を付した。Figure 2 学級集団教育的相互作用とスクール・モラールのパス解析(全児童)
(2)学級集団相互作用が対象児のスクール・モラールに及ぼす影響
次に,対象児(n=261)を対象とする群について述べる。「友達関係」にプラスの影響を与えてい たのは,「M機能」.48 (p<.001)のみであった。
「学習意欲」にプラスの影響を与えていたのは,「集団圧」.44 (p<.001)のみであった。
「学級雰囲気」にプラスの影響を与えていたのは,「集団凝集性」.19 (p<.01),「集団圧」.33 (p
<.001),「M機能」.15 (p<.05),「愛他性」.17 (p<.05)の
4
因子であった。(3)パラメータの差の検定結果
周囲児,対象児ともに有意なパスについて差の検定を行ったところ,「M機能」から「友達関係」
へのパス間で有意な差が認められた(周囲児<対象児,
p<.05)。また,「集団圧」から「学級雰囲気」
のパス間で有意な差が認められた(周囲児<対象児,p<.001)。
【考察】
1. 学級集団教育的相互作用と学校生活意欲尺度(スクール・モラールテスト)および学級満足度と の関連
学級集団教育的相互作用とスクール・モラールとの関連がすべての下位因子において認められた。
注
1)共分散係数及び従属変数の誤差項は省略した。正のパスは実線で,負のパスは破線で示した。
注
2) 数値は標準化係数を示す。有意なパスには,
*:p<.05,**:p<.01,***:p<.001を付した。注
3)( )内の p
値は,周囲児と対象児のパラメータ差の検定結果を示す。Figure 3 学級集団教育的相互作用とスクール・モラールの多母集団同時パス解析
7
つの下位因子のうち,集団圧を除く6
つの因子と学習意欲との関連が比較的弱いことが示された。その中にあって,学習意欲と比較的関連が強い教育的相互作用は集団圧であり,被侵害感と比較的関 連が強いのは
M
機能と愛他性である。すなわち,学習意欲を高めるには,「みんなが頑張っているか ら私も頑張る(集団圧)」という相互作用を生起させることが有効であり,被侵害感を低めるには学 級内の優しさと思いやりの相互作用を生起させることが有効であると考えられる。2.学級集団教育的相互作用がスクール・モラールに及ぼす影響
学級集団教育的相互作用が児童のスクール・モラールに及ぼす影響を検討した結果,学級集団教育 的相互作用からスクール・モラールへのパスの値が
.88
を示し,説明率は77%であったことから,学
級内に生起する教育的相互作用が児童のスクール・モラールに大きく影響を及ぼしていることが明ら かとなった。また,スクール・モラールの
3
つの下位因子のうち,「学級雰囲気」への影響が最も大きく,次い で「友達関係」,「学習意欲」の順であった。「学習意欲」への影響は,「友達関係」や「学級雰囲気」と比べると大きくはなかったものの,アクティブ・ラーニングが提唱され,協働的な学びによる授業 改善が求められている中で,学級内の相互作用が「学級雰囲気」や「友達関係」だけでなく「学習意 欲」を高めることが実証的に確認された。
次に,対象を周囲児と対象児に分け,「友達関係」「学習意欲」「学級雰囲気」に影響を及ぼす相互 作用の違いについて考察する。
周囲児の「友達関係」は,「集団凝集性」「P機能」「集団圧」「M機能」「愛他性」からプラスの影 響を受けるが,「斉一性・自治体制」からは影響を受けず,「集団士気」からはマイナスの影響を受け ていた。「友人関係」は,友達との良好な関係性を基にした士気(モラール)の高まりである。「教師 が居なくても自分たちでできる(斉一性・自治体制)」という認知は,友達との良好な関係性を高め ることにはつながらず,「学級全体がより高い目標に向かって取り組んでいる(集団士気)」という認 知は,統制的な雰囲気につながり,それが友達との良好な関係にマイナスに働いている可能性が考え られる。一方,対象児の「友達関係」を高めるのは,「M機能」だけであった。この影響は,周囲児 と比べても有意に大きく,対象児は,孤立しがちな自分に対して「励ましや誘いの言葉をかけてくれ る(M機能)」ことに対して,良好な友達との関係を感じ,それが対象児の前向きな学校生活に寄与 しているものと考えられる。すなわち,対象児に対して,直接,思いやり気持ちを伴う言葉がけをす る児童が増え,「M機能」の相互作用が促進されることにより,対象児の「友達関係」のモラールを 高めることができるのではないかと考えられた。
周囲児の「学習意欲」は,「P機能」「集団圧」「M機能」からプラスの影響を受けるが,「集団凝集性」
「斉一性・自治体制」「集団士気」からは影響を受けず,「愛他性」からはマイナスの影響を受けていた。
「学習意欲」は,学習に対する積極性や努力を基にした士気の高まりである。「しっかりやろうと声を かけてくれる人の多さ(P機能)」,「みんなが頑張っているから私も頑張る(集団圧)」という気持ち
の高まり,「思いやりの声をかけてくれる(M機能)」友達の存在などが学習意欲を高めることが明 らかとなった。しかし,「このクラスでよかった,ずっとこのクラスでいたい(集団凝集性)」と思う くらい仲間との関係ができ,また「教師が居なくても自分たちでできる(斉一性・自治体制)」よう になり,「学級全体がより高い目標に向かって取り組む(集団士気)」ようになってきても,学習意欲 を高めてはいなかった。加えて,「助けてくれたり,励ましてくれたりする親切な人の多さ(愛他性)」
は,むしろ,学習と向き合って頑張る意欲を低める可能性が示唆された。一方,対象児の「学習意欲」
を高めるのは,「集団圧」だけであった。周囲の児童が学習に熱心に取り組むことで,それを見た対 象児が「みんなが頑張っているから,私も頑張らなければ(集団圧)」と感じ,それが対象児の「学 習意欲」につながるものと考えられる。
周囲児の「学級雰囲気」は,7因子すべてからプラスの影響を受けていた。「学級雰囲気」は明る く前向きな学級の雰囲気を基にした士気の高まりである。学級集団教育的相互作用のすべてが,学級 の雰囲気を高めていることが明らかとなった。一方,対象児の「学級雰囲気」を高めるのは,「集団 凝集性」「集団圧」「M機能」「愛他性」であった。その中でも「集団圧」が及ぼす影響は大きく周囲 児と比較して有意な差が認められた。「学習意欲」と同様に,対象児にとっては,周囲の友達みんな が頑張っているという状態からの影響が大きいと考えられる。また「P機能」「斉一性・自治体制」「集 団士気」は影響を及ぼさなかった。「しっかりやろうと声かけをする人の多さ(P機能)」「先生が居 なくても自分たちですることができる(斉一性・自治体制)」「学級全体がより高い目標に向かって取 り組む(集団士気)」の
3
つの相互作用は,集団についていくことが難しい児童らにとっては,周囲 と同じようにすることを要求された場合には統制的な雰囲気を感じるのではないかと推察され,それ ゆえ,「学級雰囲気」に影響を及ぼさなかったと考えられるのである。3.研究のまとめと今後の課題
学級集団内に生起する教育的相互作用を認知するのは児童である。そのため,同じ学級で過ごして いても児童によって,どの相互作用を,どの程度認知しているかには違いがある。また,認知した相 互作用がスクール・モラールにどのように影響するかについても,児童それぞれで違うであろうと考 えられた。そこで,共分散構造分析を用いて分析した結果,教育的相互作用のすべてが,児童のスクー ル・モラールにプラスの影響を及ぼすわけではないことが明らかとなった。「集団士気」は「学級雰 囲気」にはプラスの影響を及ぼす一方で「友達関係」にはマイナスの影響を及ぼしていた。「愛他性」
は「友達関係」「学級雰囲気」にはプラスの影響を及ぼす一方で「学習意欲」にはマイナスの影響を 与えていた。指導の際もその点に配慮する必要があると考えられる。
さらに,周囲児と対象児のスクール・モラールに影響を及ぼす教育的相互作用の違いを明らかにす ることを目的として研究を進めたところ,対象児のスクール・モラールは,その高まりとともに集団 統制的な雰囲気を帯びる可能性のある「P機能」「斉一性・自治体制」「集団士気」からは影響を受け ないことが確認された。対象児のスクール・モラールが影響を受ける相互作用は限定されたもので,
「M機能」が「友達関係」に,「集団圧」が「学習意欲」と「学級雰囲気」に大きな影響を及ぼすこ とが明らかとなった。これにより,対象児のスクール・モラールを高めるときには,「M機能」と「集 団圧」の相互作用が重要であることが示唆され,どのような相互作用を多く生起させるように働きか けるのか,また,どの相互作用に意識を向けさせるのかというような対象児への指導の指針が得ら れた。
以上から,周囲児のスクール・モラールと対象児のスクール・モラールは,影響を受ける相互作用 に違いがあることが示された。河村(2013)は,学級集団の教育的相互作用の機能とそれに対応する 特徴的な教師の指導行動を整理している。しかし,示された教師の指導行動が対応する教育的相互作 用を高めているかどうかについては,実証的に明らかにされていない。今後,教育的相互作用の特定 の機能をピンポイントに高めることができる教師の指導行動を明らかにすることができれば,より効 果的な指導が可能になるであろう。また,特定の相互作用を高めるための指導行動を教師が意図的に 発揮し,特定の相互作用を高めることができるか実証的な研究が必要だと思われる。今後の課題とし たい。
引用文献
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Q-U(小学校高学年用) 図書文化社
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Appendix 1 学級内教育的相互作用尺度測定尺度短縮版の因子分析結果(n=2467)(尺度全体 α=.950)
項 目 F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7 共通性 F1:集団凝集性 3項目(α=.846)
1.できればずっとこのクラスでいたい,と思う人が多い,と思いますか。 .847 -.019 -.016 .066 .035 -.044 -.011 .614 2.このクラスになってよかった,と思っている人が多い,と思いますか。 .728 .038 -.017 -.071 -.009 .034 .094 .725 3.このクラスは,楽しいと思っている人が多い,と思いますか。 .589 .005 .237 .019 .087 .037 -.104 .653 F2:P 機能 3項目(α=.811)
1.クラスがだらけたとき,しっかりやろう,と声をかけてくれる人がいる,
と思いますか。 .023 .799 -.077 .016 -.047 .067 .036 .645 2.このクラスでは,さぼっている子に,しっかりやろうと,声をかけてく
れる人がいる,と思いますか。 .003 .646 .115 -.009 .079 -.031 .005 .593 3.このクラスでは,「時間を守ろうよ」,「責任を持って仕事をしよう」など
を,みんなに声をかけてくれる人がいる,と思いますか。 -.018 .468 .172 .122 .137 -.061 .012 .578 F3:集団士気 3項目(α=.816)
1.このクラスは,いろいろな活動で,より高い目標を目指している,と思
いますか。 .006 .132 .694 .029 -.069 -.034 .021 .583 2.このクラスは,授業やいろいろな活動に,熱心に取り組んでいる,と思
いますか。 .055 -.014 .661 .093 -.006 -.008 .065 .656 3.このクラスは,運動会などの学校行事に,学級全体で協力して取り組ん
でいる,と思いますか。 .086 .000 .514 .037 -.003 .144 -.001 .516 F4:斉一性・自治体制 3項目(α=.824)
1.このクラスは,先生がいなくても学級のルールを守っている,と思いま
すか。 -.035 .022 -.076 .872 .045 .007 -.011 .561 2.このクラスは,学級全体で活動するとき,先生がいなくても自分たちだ
けでやれることが多い,と思いますか。 .065 .048 .009 .742 -.073 .011 -.045 .695 3.このクラスは,先生がいてもいなくても,同じように行動する人が多い,
と思いますか。 -.038 -.079 .187 .533 .050 .007 .183 .639 F5:M 機能 3項目(α=.795)
1.このクラスでは,元気がないとき,「どうしたの」と声をかけてくれる人
がいる,と思いますか。 -.043 .055 -.054 -.001 .884 .049 -.080 .525 2.このクラスでは,「いっしょに遊ぼう」と声をかけてくれる人がいる,と
思いますか。 .197 -009 -.145 -.009 .666 -.019 .055 .690 3.このクラスでは,「~さん,すごいね」など,お互いに認め合う雰囲気が
ある方だ,と思いますか。 .025 -.036 .231 .055 .524 -.027 .033 .567 F6:愛他性 3項目(α=.866)
1.このクラスは,困っているとき,助けてくれる・はげましてくれる人が
多い,と思いますか。 -.062 .012 .138 -.051 .280 .525 -.032 .665 2.このクラスは,親切な人が多い,と思いますか。 .148 .039 -.161 .032 .217 .482 .154 .708 3.このクラスは,みんなで助け合うことが多い,と思いますか。 .052 .018 .288 .089 .076 .477 -.063 .759 F7:集団圧 3項目(α=.825)
1.このクラスにいると,クラスのきまりや目標を守ろう,という気になり
ますか。 .050 .075 -.034 .112 -.081 .010 .687 .612 2.このクラスにいると,勉強や運動を,自分なりにがんばろう,という気
になりますか。 .063 .006 .123 .023 .096 .011 .504 .581 3.このクラスにいると,きちんと係活動などをやろう,という気になりま
すか。 .000 -.009 .281 .013 .099 .004 .488 .674 因子寄与率(%) 51.16 4.21 2.52 1.91 1.40 1.01 .82 累積因子寄与率(%) 51.16 55.38 57.90 59.81 61.21 62.23 63.04 因子間相関 F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7
F1 ― ― ― ― ― ―
F2 .716 ― ― ― ― ―
F3 .709 .724 ― ― ― ―
F4 .578 .661 .661 ― ―
F5 .716 .680 .755 .612 ― ―
F6 .683 .610 .727 .571 .732 ―
F7 .710 .673 .822 .736 .725 .681