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「相続させる」旨の遺言と代襲相続の可否

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(1)

「相続させる」旨の遺言と代襲相続の可否

著者 且井 佑佳

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 3

ページ 1667‑1692

発行年 2011‑09‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013826

(2)

同志社法学 六三巻三号二〇九(    

平成二三年二月二二日最高裁第三小法廷判決(平成二一年(受)第一二六〇号・土地建物共有持分権確認請求事件)家月六三巻七号八四頁・判タ一三四四号一一五頁・民集掲載予定

且    井    佑   

【事実の概要】(一)本件は、被相続人Aの子Xが、もう一人の子Bの相続人Yらに対し、Aが持分を有していた不動産につき法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。(二)B及びXは、いずれもAの子であり、Y1、Y2およびY3(以下、﹁Yら﹂という。)は、いずれもBの子である。(三)Aは、平成五年二月一七日、Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の二か条から成る公正証書遺言をした(以下、この遺言を﹁本件遺言﹂といい、本件遺言に係る公正証書を﹁本件遺言書﹂という。)。

一六六七

(3)

(    同志社法学 六三巻三号二一〇

(四)Bは、平成一八年六月二一日に死亡し、その後、Aが同年九月二三日に死亡した。(五)Aは、その死亡時において、不動産に持分を有していた。(六)Xは、Bの死亡により本件遺言書は効力を生じないとして、Aの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張し、上記確認の訴えを提起した。(七)第一審

)1

は、原則として代襲相続が生じる旨を判示し、Xの請求を棄却したため、Xが控訴した。控訴審

)2

は、まず、﹁遺言は遺言者の死亡時からその効力を生じる﹂から、遺言者の死亡時に遺言の名宛人が存在することが当然に必要であり、﹁相続分の指定をしたり、又は遺産分割方法の指定をしても、その対象となった相続人が遺言の効力発生時である遺言者の死亡以前に死亡していた場合には、同遺言は、その効力を生じないのが筋合いである﹂として、遺言の原則的無効を判示した。そのうえで、遺言の解釈として、名宛人先死時には遺言の効力をその代襲相続人に及ぼす趣旨である旨を定めていると読み得る場合もあり得るが、本件遺言にそのような趣旨を読み取ることはできず、そのような事情をうかがわせるに足りる証拠もないとして、第一審判決を取消した。これに対し、Yら上告受理申立て。

【争点】・財産全部を﹁相続させる﹂旨の遺言による受益相続人が遺言者より先に死亡した場合における代襲相続の可否。

【判旨】上告棄却﹁所論は、本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても、Bの代襲者であ 一六六八

(4)

同志社法学 六三巻三号二一一(     るYらが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり、本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは、遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し、当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する﹃相続させる﹄旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく、このような﹃相続させる﹄旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。 したがって、上記のような﹃相続させる﹄旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該﹃相続させる﹄旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。 ⋮事実関係によれば、BはAの死亡以前に死亡したものであり、本件遺言書には、Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか二か条しかなく、BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上、本件遺言書作成当時、Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから、上記特段の事

一六六九

(5)

(    同志社法学 六三巻三号二一二

情があるとはいえず、本件遺言は、その効力を生ずることはないというべきである。﹂

【検討】

1 本判決の意義

 本件は、被相続人が共同相続人の一人に財産全部を﹁相続させる﹂旨の遺言をしたところ、相続開始前にすでに遺言の名宛人たる受益相続人が死亡していた場合における当該遺言の効力が争われた事案である。ここで問題となるのは、受遺者の先死亡により遺贈の効力は生じない旨を定める民法九九四条および遺言者の別段の意思表示による処理を定める民法九九五条一項但書の適用ないし類推適用、あるいは、相続人の先死亡による代襲相続を定める民法八八七条二項の適用ないし準用の可否である。すなわち、﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質を遺贈と解せば、民法九九四条ないし民法九九五条の適用がある。しかし、遺産分割方法の指定と解する場合は、名宛人先死にかかる明文の規定はなく、理論上は、﹁相続させる﹂旨の遺言は失効するとも、代襲相続が生じるとも考えられる。 いわゆる﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質については遺贈説・遺産分割効果説・遺産分割必要説・特殊処分説(遺産分割処分説)など学説上対立が見られるが 3

、最高裁は、平成三年四月一九日判決(民集四五巻四号四七七頁、以下﹁香川判決﹂という。)において次のように述べている。すなわち、﹁﹃相続させる﹄趣旨の遺言⋮は、正に同条(民法九〇八条

力当に人続相該当が産生該に続ち直に)時たじ効の言の相遺にき割よ産遺、しと﹂るあで分べれす承継さりるものと解 し、何らの行為を要せず死て、被相続人の亡の時(遺り限いか相続人受諾の意思表示にかならせたなどの特段の事情のの -引用方あで言遺ため定を法のる割分の産遺ういに)者﹂と該て当を継承るよに続相いしおに言遺該当、﹁で上た 一六七〇

(6)

同志社法学 六三巻三号二一三(     効果説を採ることを示した。これにより﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質の問題は一応の決着をみたと言える 4

。 香川判決は、特定財産を特定相続人に﹁相続させる﹂旨の遺言を対象としていた。これとは異なり、本判決が対象としたのは、財産全部を特定相続人に﹁相続させる﹂旨の遺言である。しかし、本判決は、香川判決と同様にこれを遺産分割方法の指定であるとしている 5

。その意味で、本判決は、香川判決の考え方を財産全部を﹁相続させる﹂旨の遺言についても踏襲したうえで、そこから派生する問題の一つとして 6

、﹁相続させる﹂旨の遺言における代襲相続の可否に答えるものである。 この問題に関して判断された裁判例として、香川判決以前のものに札幌高裁昭和六一年三月一七日決定(家月三八巻八号六七頁、以下﹁札幌高裁昭和六一年決定﹂という。)、以降のものに東京家裁平成三年一一月五日審判(家月四四巻八号二三頁、以下﹁東京家裁平成三年審判﹂という。)、東京地裁平成六年七月一三日判決(金判九八三号四四頁、﹁以下、東京地裁平成六年判決﹂という。)、東京地裁平成一〇年七月一七日判決(金判一〇五六号二一頁、以下﹁東京地裁平成一〇年判決﹂という。)、同控訴審として東京高裁平成一一年五月一八日判決(金判一〇六八号三七頁)、東京高裁平成一八年六月二九日判決(判時一九四九号三四頁、以下﹁東京高裁平成一八年判決﹂という。)、東京地裁平成二一年一一月二六日判決(判時二〇六六号七四頁、以下﹁東京地裁平成二一年判決﹂という。)がある。 これらの裁判例のうち、まず札幌高裁昭和六一年決定が、受益相続人の先死により﹁相続させる﹂旨の遺言は失効する旨を判示し、これを嚆矢として、東京家裁平成三年審判、東京地裁平成六年判決、東京地裁平成一〇年判決、同控訴審判決および東京地裁平成二一年判決も同様に遺言の効力を否定した。このように受益相続人先死時の﹁相続させる﹂旨の遺言の効力について消極的な見解が趨勢を占めていたところ、東京高裁平成一八年判決が代襲相続規定(民法八八七条二項)の適用ないし準用を肯定したことから、最高裁による判断が注目されていた 7

一六七一

(7)

(    同志社法学 六三巻三号二一四

 そのようななか、本判決は、財産全部を単独相続人に﹁相続させる﹂旨の遺言がある場合において、遺言の名宛人たる受益相続人先死のときの当該遺言の効力を最高裁として初めて明らかにした点に意義が認められる。本判決は、この問題を遺言の意思解釈として検討し、通常想定される被相続人の意思は受益相続人に遺産を取得させるにとどまることから、特段の事情のないかぎり原則的に当該遺言は無効であるとした。登記実務ではすでに、遺言書中に﹁相続させる﹂旨の遺言による受益相続人が相続開始前に死亡した場合は当該受益相続人に代わってその直系卑属に相続させる旨の文言のないかぎり当該遺言部分は無効であり、したがって、当該遺言部分にかかる不動産につき法定相続人全員への相続を原因とする所有権移転登記を申請すべきであるとの先例があり

)8

、本判決はこうした実務に沿うものであるといえる。 もっとも、前述のように、﹁相続させる﹂旨の遺言による受益相続人が先死した場合の遺言の効力につき、下級審裁判例の判断は必ずしも一致しておらず、本件第一審および控訴審も判断が分かれている。また、学説においても争いがみられるところである。以下では、上記各裁判例および学説を概観ないし分析した上で本判決に対する若干の考察を加えたい。

2 裁判例

 2

1(1)消極的見解

①札幌高裁昭和六一年決定(遺産分割事件審判に対する即時抗告申立事件)

 Aは昭和五一年三月二九日に死亡し、生前四通の遺言を作成していた(第一遺言昭和三一年五月九日付・第二遺言昭和三二年六月二日付・第三遺言昭和三四年六月一日付・第四遺言昭和四四年五月一八日付)。遺言作成当時Aの推定相 一六七二

(8)

同志社法学 六三巻三号二一五(     続人は妻Bおよび子X・Y1・Y2であったが、Bが相続開始以前の昭和四五年一〇月二日に死亡したため、Aの法定相続人はX・Y1・Y2である。本件は、まず四通の遺言相互の関係が問題とされ(第一遺言・第二遺言はそれぞれ後の遺言により無効とされたため省略する。第三遺言・第四遺言は註一〇参照 (₀

)、次いで遺言中に﹁一切の財産はBに譲渡する﹂旨の文言があったため、本件遺言の法的性質と併せてその効力が争われた事案である。原審(札幌家裁昭和六〇年三月三〇日審判・家月三八巻八号八二頁)は、本件遺言の法的性質を遺贈と解し、民法九九四条一項および九九五条但書を適用して遺産を分割するものとした ((

。なお、本件は受益相続人が被相続人の配偶者であったため、代襲相続は問題とされていない。 以上の事実関係のもと、札幌高裁昭和六一年決定は、まず本件遺言を﹁特定の財産を取得させる旨を内容とする遺言﹂であるとし、これを遺産分割方法の指定と解した。そのうえで、﹁Bは昭和四五年一〇月二日死亡したことが認められ、Bが被相続人より先に死亡したことにより、Bが被相続人を相続することはありえなくなった﹂ので、Bに対する遺産分割方法を指定した部分は当然に失効したものであるとした。また、当該遺言部分を﹁遺産分割方法の指定と解すべきである以上、遺贈が失効したときについての規定である民法九九四条一項及び同法九九五条ただし書の各規定は第三遺言の第二項ないし第四項の部分については適用の余地がない﹂とした。

②東京家裁平成三年審判(遺産分割申立事件) ((

 本件の事案は複雑であるが、大要次のようなものである。すなわち、被相続人Aは、昭和五五年一月一日に七人の相続人のうち四人に所有する株式六六六〇株を各一六六五株宛で相続させる旨の公正証書遺言をし、昭和五七年三月一七日死亡した。しかし、当該遺言による受益相続人の一人が既に昭和五六年一〇月二〇日に死亡していたため、当該遺言

一六七三

(9)

(    同志社法学 六三巻三号二一六

部分の効力が争われた。 東京家裁平成三年審判は、本件遺言が﹁特定財産を特定相続人に相続させる旨の遺言﹂であり、﹁当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、被相続人死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継するものと解すべき﹂とし、﹁被相続人死亡の時に名宛人とされた相続人が死亡しているときは、その相続人がこれを引き継ぐことはなく、分割の対象となる遺産になる﹂と判示したうえで、結局、本件で問題となった株式一六六五株(Aの亡き夫が経営していた会社の株式)を遺言で指定されていた会社経営を行っている他の受益相続人三名に分割取得させることとしている。

③東京地裁平成六年判決(預金返還請求・参加申立事件) 被相続人Aには推定相続人として子B・Cがいたところ、昭和五八年三月一七日にBに財産すべてを相続させる旨および遺言執行者として弁護士Xを指定する旨の公正証書遺言をし、平成四年八月九日に死亡した。Bは相続開始前の昭和六三年三月二〇日に死亡し、相続人として子D・E・Fがいる。Aは銀行Yに対し普通預金および定期預金を有していたため、XがA死亡後にYに対し預金の返還を求めた事案である。なお、Aは死亡直前に代襲相続人への相続を指定する旨の遺言を作成していたが、捺印されていない。 東京地裁平成六年判決は、本件遺言は推定相続人であるBに特定の遺産を相続させるとの遺産分割方法の指定であるとしたうえで、﹁本件では、BがA死亡前の昭和六三年三月二〇日に死亡したことにより、BがAを相続することはあり得なくなったのであるから、Bに対する遺産分割方法を指定した本件遺言⋮は当然に失効したものといわなければならない﹂とする。さらに、Aが死亡直前に作成したと見られる捺印を欠く遺言書につき、当該遺言書には﹁現金、普通 一六七四

(10)

同志社法学 六三巻三号二一七(     預金、定期預金、有価証券その他の動産の財産のすべてを﹃長女故Bの遺子、長男D、次男E、長女Fの三名に代襲相続させる﹄旨の記載がある﹂が、﹁仮に⋮遺言状がAの自筆によるものであるとしても、右遺言状は、Xが自認するように全く押印がされていないため、法定の方式を欠き、自筆証書遺言としての効力を生じるものではなく、これによって本件遺言を取消したとはいえない﹂として、﹁本件遺言⋮の文言から離れて、BがAより先に死亡した場合には、その代襲相続人に相続させるとの意思であったと解することは困難である﹂としている。

④東京地裁平成一〇年判決・同控訴審判決(預金返還請求事件) ((

 被相続人Aは、昭和五八年三月一七日にYに対する預金債権を含む一定の財産を子Bに相続させる旨および遺言執行者にLを指定する旨の自筆証書遺言をし(第一遺言)、次いで平成四年八月一〇日にYに対する預金債権を含む一定の財産の全てをBの子であるDらに代襲相続させ、子Cには一切相続させない旨および遺言執行者にLを指定する旨の自筆証書遺言を作成したが(第二遺言)、第二遺言は作成当初から印影が認識できないものであった。BはA死亡前の昭和六三年三月二〇日に死亡しており、相続人として子Dらがいる。Lは平成四年一一月二七日に第一遺言の遺言執行者としてYに対し上記預金債権全額の返還を請求し、同日返還を受けている。本件は、平成五年八月一九日に死亡したDの代襲相続人であるXらがCの先死亡により第一遺言は無効になったとして、Yに対し、Aの遺産に対する法定相続分の割合にしたがって預金の返還を求めた事案である。 以上の事実関係のもと、東京地裁平成一〇年判決は、まず、印影の認識できない第二遺言は無効であるとしたうえで、﹁第一遺言はBに特定の遺産を相続させる﹂との遺産分割方法の指定をした遺言であるとし、当該遺言の効力につき次のようにいう。

一六七五

(11)

(    同志社法学 六三巻三号二一八

 ﹁特定相続人が被相続人より先に死亡した場合の相続の遺言の効力については、遺言書中に、右特定相続人が先に死亡した場合には、その代襲相続人に当該特定財産を代襲相続させる旨の記載があれば格別、そうでない限りは、右特定相続人が被相続人を相続することがあり得なくなった以上、当然、効力を生じなくなったものというべきである。  なぜなら、被相続人は、一般に、被相続人と特定相続人の関係、特定相続人の財産状況、被相続人と他の相続人との関係など個別具体的な事情に照らして、特定相続人に特定財産を相続させる旨の遺言をするのであって、代襲相続人と被相続人の関係等を考慮して、遺言をするものではない。そうすると、特定相続人が先に死亡した場合には、当然に遺言を失効させることが、被相続人の遺言意思に合致するからである。 したがって、本件において、第一遺言は、当然に失効したと認められる。﹂ 以上に続けて、第二遺言の記載から、第一遺言の作成時にもDらへの代襲相続意思を有していたとのYの主張に対し、﹁第一遺言には、Bの家族関係に関する記載やそれに配慮を示したような記載は全くなく、しかも、第二遺言は、第一遺言よりも五年後の作成日をもって作成されたもので、第一遺言の作成時点のAの遺志を表すものとはいえないのであるから、Xの主張(原文ママ)を認めることはできない﹂とした。同控訴審判決も東京地裁平成一〇年判決を支持し、同様の判断をしている。 なお本件では、第一遺言が失効したことにより、XらはYに対しDの法定相続分の預金返還請求権を有するが、YのLに対する預金返還につき過失が認められず、債権の準占有者に対する弁済(民法四七八条)であると認められたため、Xらの請求は退けられている。 一六七六

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同志社法学 六三巻三号二一九(     ⑤東京地裁平成二一年判決(建物共有持分確認請求事件) ((

 被相続人Aには推定相続人として子BおよびYらがいたところ、平成九年四月一日に﹁一切の財産をBに相続させる﹂旨の公正証書遺言をし、平成一六年一一月一三日に死亡した。Bは相続開始以前の平成一六年三月一九日に死亡し、法定相続人には子であるXらがいる。本件は、Xらが本件遺言によりAの遺産に属する建物の共有持分を代襲相続により取得したとし、当該建物の共有持分権を有することの確認を求めた事案である。 東京地裁平成二一年判決は、本件財産全てを﹁相続させる﹂旨の遺言は、遺産分割の指定と同時に相続分の指定がなされたものであるとしたうえで、次のようにいう。 ﹁遺言者は、﹃相続させる﹄旨の遺言をするに当たって、一般に、各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況や資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人の関わり合いの関係等諸般の個別具体的な事情を考慮して遺言をするものであって、必ずしも代襲相続人と遺言者との関係を考慮して遺言をするものとはいえない。 したがって、特定の相続人に﹃相続させる﹄旨の遺言は、通常、名宛人とされた特定の相続人に向けられた趣旨と解すべきであって、名宛人とされていた特定の相続人が、遺言者より先に死亡した場合には、遺言書中に当該相続人が先に死亡した場合には代襲相続人に当該遺産を代襲相続させる旨の記載があれば格別、そうでない限り、原則として遺言は失効すると解することが遺言者の通常の意思に合致すると解される。そして、本件遺言の記載には、Bの子であるXらの代襲相続について言及があるとは認められないから、本件遺言は原則として失効すると解すべきである。 しかしながら、﹃相続させる﹄旨の遺言においても、当該遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者のおかれていた状況等を考慮して遺言を合理的に意思解釈した上、遺言者の意思が、当該相続人が先に死亡した場合

一六七七

(13)

(    同志社法学 六三巻三号二二〇

には、当該財産を代襲相続人に相続させるというものであったと認められるような特段の事情がある場合には、﹃相続させる﹄旨の遺言においても代襲相続が認められるというべきである。﹂ 以上のような判示につづき、本件遺言作成当時の事情およびAのおかれていた状況を詳細に検討したうえで、本件において特段の事情は認められないとして本件遺言は無効である旨述べている。それにより、本件ではXらはBを代襲して法定相続分に従いAの遺産を取得するとした。

(2)積極的見解

東京高裁平成一八年判決(相続分確認請求控訴事件) ((

 被相続人Aは推定相続人として子B・Y1・Y2・Y3・Y4および平成一五年四月二一日に養子縁組をしたY5がいる。Aは昭和六二年一二月八日に公正証書遺言(第一遺言)を作成し、平成一六年四月二〇日に死亡した。Bには子Xがいたが、平成三年一〇月一四日に死亡した。なお、AはB死亡後にXに代襲相続させる旨の遺言(第二遺言)を作成しているが、捺印はない。Xは、本件第一遺言(註一六参照 (₆

。)においてBに指定されたAの遺産を代襲相続により取得したと主張し、相続分の確認を求める事案である。 東京高裁平成一八年判決は、本件﹁相続させる﹂旨の遺言が遺産分割方法を指定するものであるとしたうえで、次のようにいう。 ﹁相続人に対し遺産分割方法の指定がされることによって、当該相続人は、相続の内容として、特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり、その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして、当該相続人が相続開始時に死亡していた時は、その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきで 一六七八

(14)

同志社法学 六三巻三号二二一(     ある。 すなわち、代襲相続は、被相続人が死亡する前に相続人に死亡や廃除・欠格といった代襲原因が発生した場合、相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり、代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく、直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。そうすると、相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても、この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず、その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく、代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である。 これと異なり、被相続人が遺贈をした時は、受遺者の死亡により遺贈の効力が失われるが(民法九九四条一項)、遺贈は、相続人のみならず第三者に対しても行うことができる財産処分であって、その性質から見て、とりわけ受遺者が相続人でない場合は、類型的に被相続人と受遺者との間の特別な関係を基礎とするものと解され、受遺者が被相続人よりも先に死亡したからといって、被相続人がその子に対しても遺贈する趣旨と解することができないものであるから、遺贈が効力を失うのであり、このようにすることが、被相続人の意思に合致するというべきであるし、相続における衡平を害することもないのである。他方、遺産分割方法の指定は相続であり、相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが、代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり、相続人間の衡平を損なうことなく、被相続人の意思にも合致することは、法定相続において代襲相続が行われることからして当然というべきである。遺産分割方法の指定がされた場合を遺贈に準じて扱うべきものではない。﹂ 以上のように判示したうえで、このような解釈が﹁Bの遺言時の意思に反するものでないかを念のために検討する﹂として、本件遺言において、AがBを他の相続人より優遇ないし冷遇するものではないこと、AとB・Xは良好な親子

一六七九

(15)

(    同志社法学 六三巻三号二二二

関係・祖母と孫の関係にあったこと、捺印のない第二遺言の記載からXを相続から除外するものとは解せないことを挙げ、﹁Xが代襲相続することがAの意思に合致するもの﹂とした。

 2

2 分析 以上概観した裁判例は、各事案において特段の事情が認められないため、特定財産を﹁相続させる﹂ないし遺産の一切を﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質を、遺産分割方法の指定ないし相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定と理解した上で判断しており、いずれも香川判決の示した﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質に従うものである。 こうした理解を前提として、裁判例の多くは受益相続人の先死により﹁相続させる﹂旨の遺言のうち受益相続人への指定にかかる部分は当然に(または原則的に)失効するとし、当該遺言部分にかかる遺産は遺産分割の対象となるとしている。このうち、東京家裁平成三年審判および東京地裁平成六年判決は、受益相続人の先死により受益相続人が被相続人を相続することはありえないために当然に失効する旨を示すのみであるが、東京地裁平成一〇年判決、同控訴審判決および東京地裁平成二一年判決は、一般に﹁相続させる﹂旨の遺言は特定相続人との関係等個別具体的な事情に照らして﹁相続させる﹂旨の遺言をなすのであって、代襲相続人と被相続人との関係等を考慮して遺言をするのではないとの遺言解釈を展開し、東京高裁平成二一年判決ではそれに加え補充的な解釈として特段の事情につき検討した上で、当該遺言部分を原則的に無効とする旨を判示する (₇

。なお、これらの裁判例は、民法九九四条ないし民法九九五条には言及していないのに対し、札幌高裁昭和六一年決定は、民法九九四条および九九五条を挙げたうえでその適用を明確に否定する。しかし、同決定は、東京地裁平成一〇年判決、同控訴審判決および東京地裁平成二一年判決と同様に、被相続人の別段の意思表示等がある場合には代襲相続人への相続を肯定するものと解される(なお、東京地裁平成六年判決にお 一六八〇

(16)

同志社法学 六三巻三号二二三(     いても﹁代襲相続人に相続させるとの意思であったと解することは困難である﹂と判示されていることから、被相続人の別段の意思表示等につき考慮されていたものと思われる。) (₈

。 他方で、東京高裁平成一八年判決は、﹁相続させる﹂旨の遺言において代襲相続が認められる旨を示した。同判決は、まず﹁相続させる﹂旨の遺言による遺産承継につき、受益相続人は遺産分割方法の指定により定められた相続の内容で特定財産を取得する地位を得、受益相続人先死のときはその子が当該地位を代襲相続により取得する旨を示し、代襲相続は相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分を代襲相続人に取得させるのであり、代襲相続人は被相続人から直接相続を受けることを示す。続いて、遺産分割方法の指定がされているときでも、法定相続の場合と性質を異にするものではなく代襲相続規定が適用ないし準用されることを説示し、その上で、第三者にも遺産承継させうる遺贈との差異を強調し、代襲相続を肯定することが、法の趣旨、相続における衡平の観点および被相続人の意思に合致するとする。この点、東京高裁平成一八年判決においても﹁相続させる﹂旨の遺言における代襲相続規定の適用ないし準用の肯定が被相続人の意思に反するものではないかにつき検討を加えていることから、被相続人による別段の意思表示等が認められる場合には、代襲相続を否定する趣旨であるものと考えられる。 過去の裁判例は、いずれの見解も﹁被相続人の意思﹂に着目するが (₉

、消極的見解では﹁相続させる﹂旨の遺言を作成した被相続人の目的(遺産承継の効果)がもっぱら受益相続人個人に向けられたに過ぎないとするのに対して、積極的見解は﹁相続させる﹂旨の遺言が遺贈と異なりあくまで相続の枠内における遺産承継にかかわるものであることを強調する。もっとも、消極的立場を採る裁判例のほとんどは﹁一切の財産を相続させる﹂など受益相続人を他の相続人より明らかに優遇していると評価できるものが多いのに対し、積極的立場を採る東京高裁平成一八年判決では遺言作成時における全ての相続人に遺産を割り付けている点に特徴がある (₀

。裁判実務が、財産分配の内実における遺贈的な要素の有

一六八一

(17)

(    同志社法学 六三巻三号二二四

無を重視して結論を導いているとすれば、実質的に両者の見解は対立するものではないと見ることも可能であるように思われる。 また、﹁相続させる﹂旨の遺言における代襲相続の可否につき立場は異なるとはいえ、既に述べたように、どちらの立場によっても被相続人が明示した別段の意思表示等があれば、それに従うものと考えられる。したがって、ここでの問題は、遺言の意思解釈としてそのような被相続人の別段の意思ないし特段の事情がどのように汲み取られるかである。この点につき、東京地裁平成六年判決、東京地裁平成一〇年判決および同控訴審判決は、それぞれ捺印ないし印影の認められない受益相続人死亡後に作成された遺言を無効として遺言の意思解釈に用いていないのに対し、東京高裁平成一八年判決は、同様の遺言を無効としつつも遺言の意思解釈に用いている点が特徴的である。遺言解釈にあたって、有効な遺言書以外の外部的資料を広く用いることの当否については、その評価が分かれるところであろう(もっとも、東京高裁平成一八年判決も、﹁念のため﹂被相続人の意思がこれと異ならないことを検討するとして、無効な遺言書を斟酌していることに留意すべきであろう。)。また、特段の事情の有無につき東京地裁平成二一年判決は、詳細な事実認定のもと検討を加えており、今後特段の事情の具体的態様を探る上で参考となり得る。

3 学説

 ﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質を遺贈と解する説に立てば、民法九九四条ないし民法九九五条の適用により、原則的に受益相続人先死の場合の当該遺言の効力を否定し、被相続人の別段の意思表示があるときにかぎり、その意思に従った処理がなされることになるのは明らかである。 一六八二

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同志社法学 六三巻三号二二五(      他方で、﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質を遺贈以外のものと理解する場合、その帰結は必ずしも一様ではないが、受益相続人先死の場合の当該遺言の効力は無効であるとする説が多数説とされる ((

。これら多数説によれば、﹁相続させる﹂旨の遺言は、当該遺言の名宛人である特定の相続人の利益のためにのみ指定したとみられることから、民法九九四条を類推適用し、受益相続人が遺言者より先に死亡する場合は、別段の意思表示のないかぎり、遺産分割方法の指定は効力を生じないと解されている ((

。実務家の間でも、﹁遺言者の意思が名宛人の死亡した場合にはその子に相続させるという意思であるかどうか必ずしも明確ではない。また、民法九九四条一項は、遺言者の通常の意思は特定の受遺者自身に向けられているということを根拠にしている⋮。そうすると、﹃相続させる﹄遺言の効力と遺贈の効力とに差を設ける合理的理由がないことになるから、⋮﹃相続させる﹄遺言の名宛人Aが遺言者甲より先に死亡した場合は、別段の意思表示のない限り、﹃相続させる﹄遺言の遺産分割方法の指定は効力を失い、当該遺産は、遺産分割の対象となると解するのが相当であろう。﹂とされる等 ((

、当該遺言は無効であると解する説が支持されている。 これに対し、代襲相続を肯定する見解によれば、札幌高裁昭和六一年決定が﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質が遺産分割方法の指定と解する以上は遺贈に関する規定を適用する余地がなく、当該遺言部分は当然に失効する旨を判示した点をとらえ、﹁配偶者が先に死亡した場合はこのとおりであるが、被相続人の子どもが先に死亡した場合には代襲相続が行われると解すべきである﹂とされ ((

、あるいは、﹁遺言者が特定相続人の子に当該財産を承継させたいと言い切れるかは、疑問である﹂としつつも、﹁﹃相続させる﹄遺言の効力は、遺贈の効力とは異なるものであり、民法九九四条の適用を受けないとの見解も存在しうるであろう。この意味では、消極的に、代襲相続を認めた方がベターかもしれない。﹂とされる (₆

)(((

。このほか、実務家からの見解のなかに﹁相続させる遺言の法的性質を遺贈とはせず、相続分の指定を伴うものと解するにせよ、そうでないにせよ、﹃特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させる﹄⋮と解するので

一六八三

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(    同志社法学 六三巻三号二二六

あれば、民法八八七条二項の適用を認めることになると考えられる。代襲相続は、被代襲者が相続していれば、代襲者は後の相続で承継し得たはずだという衡平の観念にその基礎があるから⋮、相続させる遺言についても代襲相続を認めることが衡平にかなうものと思われる﹂としたうえで、遺贈は遺言者の意思が特定の受遺者に向けられているが、﹁受遺者は相続人に限られないのに対し、相続させる遺言は相続人に対するものであるから、代襲相続を代襲受遺と同様に解することはできない﹂とするものも見られる (₇

。 以上のようにこの問題に関する見解は分かれているが、いずれの見解によっても被相続人の別段の意思表示を排除するものではないと解される。そうすると、被相続人が、相続人を名宛人とした﹁相続させる﹂旨の遺言の効力を当該相続人先死の場合には代襲相続人に及ぼすこと、もしくは及ぼさないことを遺言書中で明記し、または後の遺言でその旨を追加することは可能であろう (₈

。判例の立場からすれば、この場合にも代襲相続人に対する遺産分割方法の指定として処理されることになると思われる (₉

。 他方で、このような補充的な規定がない場合には遺言の欠缺における処理をどのようになすべきであろうか。この点につき、東京家裁平成三年審判(﹁相続させる﹂旨の遺言の対象とされたのが経営する会社の株式であったことから当該遺言部分を無効と解した上で会社経営にあたる他の相続人に分割取得させるとの処理をした。)は正当であるとしつつ、﹁名宛人が死亡したときの当該財産は遺産分割の対象であるという本件審判の法的判断をあまり形式的に理解することは適当でない。遺言者の家族環境、財産・権利の相互関係など被相続人から相続人への遺産が移転する前後の状況を、遺言者の真意を念頭に置きながら、実質的に見定めたうえで判断することになろう﹂との指摘がみられる (₀

。これと同様に、東京高裁平成一八年判決の評論において、﹁相続させる旨の効力は遺言者の意思を根拠にするが、特定の相続人を意識して遺産の分割方法を指定するものであるとすれば、遺言者が代襲相続をも意識して遺産分割方法の指定をし 一六八四

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同志社法学 六三巻三号二二七(     たかによって異なりうる。これは被相続人と相続人(被代襲者)、代襲相続人の関係がどうであったか、相続させる遺産の内容、遺産と特定相続人との関係にも関わる﹂としたうえで、より具体的に、特に農地では通常相続人とその後継者家族に割り付ける意思であること、東京家裁平成三年審判におけるように個人企業の株式(実質的経営権)の場合は割り付けた相続人に代わってその子らに経営させる意思があったかどうかはどちらかといえば消極的に解されること、預金債権や現金等価額で判断されるものが対象であるときは法定相続分を基準とした増減が遺言者の意思の判断材料となることが指摘されている ((

。また、﹁例えば、遺言の中で、ある特定相続人に特別多く財産を分け与えているのか否か、というような客観的に認識可能な事実も、﹃相続させる旨の遺言をした被相続人が、代襲相続をも認める趣旨であったのか、そうではなく、あくまでその人との関係のみに着目していたのか﹄という真意の探求の作業で判断要素になり得る﹂とされる ((

。 遺言の意思解釈においては、契約の意思解釈と異なり相手方がいないことから、﹁相手方の信頼を保護し、取引の安全を図るというような考慮が全く不要であり、解釈は常に、遺言者の真意探求にある。従ってどこまでも意思主義的であって、表示主義的ではありえない﹂ ((

とされ、遺言書以外の事情を広く考慮にいれることは一般的に認められているといえる。しかし、一方で学説の多くは遺言書から離れた外部的資料から遺言を解釈することには慎重な態度を示しており ((

、たとえば、遺言の解釈基準として、﹁解釈の作業はあくまでも文面を補足するものである。⋮解釈の対象は、もはや法主体ではない死者の意思なのであり、厳密には、民法に定める方式に即して表示された確定可能な意思のみが生者の世界で尊重されるに値する。そうでないものは、生者の世界をいたずらに乱さないように、死者とともに埋められても仕方がない。法の解釈・適用にはこういう割り切りも必要なのである﹂とされる ((

。また、補充的遺言解釈についても、﹁補充的遺言解釈は、遺言の欠缺を遺言者の死後において補充するものであるため、遺言外の資料の考慮は不可欠であ

一六八五

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(    同志社法学 六三巻三号二二八

るが、そこに何らの限界も設けなければ、遺言意思改変の危険を孕み、不当な遺言修正となりかねない。⋮遺言の要式性は、遺言者の意に反する遺言の修正・変造を防止して積極・消極の遺言の自由を保障する砦であると同時に、解釈を限界づけ、解釈の結果に正当性を付与する本質的な要素なのである﹂とされる (₆

。外部的資料を用いる点につき、東京高裁平成一八年判決が無効な第二遺言を遺言の意思解釈に用いたことに対し、﹁無効な遺言の内容を別途存在する遺言の意思解釈に用いることは適切ではない﹂ (₇

、あるいは、﹁遺言の解釈ということからは、やや行き過ぎの感がないではない﹂との批判がみられるが (₈

、それらの見解も、同判決における当該部分は補足的な検討であることを指摘したうえで、同判決の事案においてその結論を支持している。 以上に対し、﹁特段の事情﹂の考慮に消極的な見解もみられる。すなわち、代襲相続を主張する当事者は﹁特段の事情﹂の認定を裁判所に求めることになるが、﹁特段の事情﹂は個別具体的であるために一般的基準を設けることが困難であり、かつ、裁判所の価値観による判断であるために結果の予測をすることができないとし、﹁予防法務にも役立たないし、相続制度の安定的な運営にも反する﹂と指摘されている (₉

4 若干の考察

 本判決はまず、遺言者は﹁一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言するものである﹂とし、これは﹁相続させる﹂旨の遺言においても異なるものではないから、当該遺言を作成した遺言者の一般的な意思解釈として﹁通常、遺言時におけ 一六八六

(22)

同志社法学 六三巻三号二二九(     る特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまる﹂旨を説示し、遺言作成後の事情変更時には、﹁当該﹃相続させる﹄旨の遺言にかかる条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が⋮、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である﹂とした。その上で、本件における特段の事情の有無につき、Aの遺言の条項はBに遺産全部を相続させる旨および遺言執行者の指定にかかる二か条しか存在しない等、Bの先死時にB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上、遺言作成当時にAがB先死時の遺産承継者を考慮していなかったことをYらも前提としているとし、特段の事情はないものと判断されている。 本判決は、財産全部につき﹁相続させる﹂旨の遺言を扱っているが、香川判決以来維持されている考え方を踏襲し、当該遺言の法的性質が遺産分割方法の指定であり、特段の事情のないかぎり相続開始とともに直ちに特定された相続人に承継されると理解したうえで、当該相続人が先死した場合には、原則的に当該遺言を無効と解しており、下級審裁判例の趨勢および多数説に従ったものであるといえる。 したがって、当該遺言を原則的に有効であると解する東京高裁平成一八年判決および本件第一審の立場は、本判決により明確に否定されたものと思われる。さらに進んで、本判決の判断枠組みからすれば、およそ財産処分に関する遺言全般に本判決の射程が及ぶ可能性がある。すなわち、遺言者はもっぱら遺言の名宛人との関係を考慮して遺言をするものと説示されていること、および、遺贈に関する民法九九四条ないし民法九九五条の準用等が明言されていないことから、純粋な遺産分割方法の指定や相続分指定がなされる場合も、名宛人先死のときには当該遺言は原則的に無効となり得る (₀

。 学説から指摘される遺産配分の内実・対象となる遺産の性質などは、﹁特段の事情﹂として考慮されるものと思われる。

一六八七

(23)

(    同志社法学 六三巻三号二三〇

この点、本事案における遺言の内容は極めて簡潔であり、被相続人の置かれていた状況等は事案からは明らかではなく、本判決においても﹁特段の事情﹂として考慮されるべき具体的態様は示されていない。そのため、遺言作成後の事情変更における補充的遺言解釈を行うにあたり、どのような遺言書の記載や作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況が﹁特段の事情﹂と評価され得るのか等につき、今後の裁判例の集積が待たれるところである。 なお、本判決によると﹁当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき﹂場合は遺言の効力が維持されることになるが、被相続人の意思が﹁推定相続人の代襲者﹂に相続させる意思であると評価される場合は代襲者に対する遺産分割方法の指定として処理されると思われる。これに対し、﹁その他の者﹂に遺産を相続させる旨の意思であると評価される場合、その者が被相続人の相続人であれば当該相続人に対する遺産分割方法の指定として、相続人以外の者であれば遺贈として処理されることになる。 本判決が結論として名宛人たる受益相続人の先死時に﹁相続させる﹂旨の遺言を無効とすることに異論はない。しかし、既に指摘されているように(註一九参照。)、遺言を作成した被相続人の意思は裁判所の評価に左右されるところ、本件のように推定相続人二名のうち、敢えて一方の推定相続人にのみ財産の全てを﹁相続させる﹂旨の遺言を作成したことは、他方の推定相続人に遺産を承継させるつもりはなく、一方の推定相続人側に遺産を承継させていくことを意図していたとも解し得る。すなわち、そのような遺言は、原則的に代襲相続させる趣旨であったとも考えられ、この点で本判決は、事案の画一的処理を指向するものではない。また、本判決の説示が﹁相続させる﹂旨の遺言に限らず、相続による財産承継を定めた一般を対象とするものであれば、遺言の名宛人先死のときの代襲相続は原則として不可能となるが、こうした解釈の当否については、改めて、代襲相続の意義や相続分の指定ないし遺産分割方法の指定の理解等を含めた検討を要する。反対に、﹁相続させる﹂旨の遺言以外では代襲相続を認めるとすれば、本判決は、﹁相続させる﹂ 一六八八

参照

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